芥川賞のすべて・のようなもの
第111回
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平成6年/1994年上半期
(平成6年/1994年7月13日決定発表/『文藝春秋』平成6年/1994年9月号選評掲載)
選考委員  大江健三郎
男59歳
古井由吉
男56歳
河野多恵子
女68歳
日野啓三
男65歳
丸谷才一
男68歳
大庭みな子
女63歳
田久保英夫
男66歳
黒井千次
男62歳
三浦哲郎
男63歳
吉行淳之介
男70歳
選評総行数  34 33 34 33 35 30 40 35 31  
選評なし
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
笙野頼子 「タイムスリップ・コンビナート」
93
女38歳
16 33 12 10 17 6 18 12 16    
室井光広 「おどるでく」
119
男39歳
25 33 7 7 8 18 22 19 9    
阿部和重 「アメリカの夜」
240
男25歳
0 0 0 7 0 0 0 3 0    
小浜清志 「後生橋」
160
男43歳
0 0 10 9 10 0 0 2 0    
中原文夫 「不幸の探究」
84
男44歳
0 0 0 0 0 2 0 0 0    
塩野米松 「空っぽの巣」
142
男47歳
0 0 0 0 0 0 0 0 3    
三浦俊彦 「これは餡パンではない」
122
男34歳
0 0 5 0 0 4 0 0 0    
                  欠席
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『芥川賞全集 第十七巻』平成14年/2002年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成6年/1994年9月号)
1行当たりの文字数:24字


選考委員
大江健三郎男59歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
思考と夢見 総行数34 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
笙野頼子
女38歳
16 「夢に呼びさまされた言葉を、できるかぎりその風味をそこなわずに輸送する、その技術をみがきあげて、しかもこの小説は(引用者中略)、はっきり眼ざめている観察に実力が見える。両者を結ぶ独特なユーモアもある仕事。」
室井光広
男39歳
25 「意味と言葉を切りはなし、その言葉をさらにバラバラにする作業と、意味を思いがけない光で照らしてみる作業は、しばしばひとつのものである。その手法で新鮮になった眼で、地方の民俗を見なおし、そこから根こそぎ引っこぬかれて異国におかれた人間のトマドイやら歓喜やらをよみがえらせる。」「思考と文体とが明確なので、抽象的なものも具体的な手ざわりにおいて読み手に受けとめられる。」
阿部和重
男25歳
0  
小浜清志
男43歳
0  
中原文夫
男44歳
0  
塩野米松
男47歳
0  
三浦俊彦
男34歳
0  
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他の選考委員
古井由吉
河野多恵子
日野啓三
丸谷才一
大庭みな子
田久保英夫
黒井千次
三浦哲郎
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選考委員
古井由吉男56歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
難所にかかる 総行数33 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
笙野頼子
女38歳
33 「このたびの受賞の両作を見ると、むやみに強調することは控えたいが、若い世代の文学がある段階に差しかかってきたことは否定しがたい。新しいとは敢えて言わず、むしろ難儀な段階と呼んだほうがふさわしいだろう。」「どちらの作品も小説になる以前の境を、いきなり小説の瀬戸際としてひきうけているように見られる。」「もうひとつ、両作品に共通のものとして、成熟不全の問題がある。(引用者中略)これは時代の自己認識に入りつつあると言ってもよいのだろう。」
室井光広
男39歳
33 「このたびの受賞の両作を見ると、むやみに強調することは控えたいが、若い世代の文学がある段階に差しかかってきたことは否定しがたい。新しいとは敢えて言わず、むしろ難儀な段階と呼んだほうがふさわしいだろう。」「どちらの作品も小説になる以前の境を、いきなり小説の瀬戸際としてひきうけているように見られる。」「もうひとつ、両作品に共通のものとして、成熟不全の問題がある。(引用者中略)これは時代の自己認識に入りつつあると言ってもよいのだろう。」
阿部和重
男25歳
0  
小浜清志
男43歳
0  
中原文夫
男44歳
0  
塩野米松
男47歳
0  
三浦俊彦
男34歳
0  
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他の選考委員
大江健三郎
河野多恵子
日野啓三
丸谷才一
大庭みな子
田久保英夫
黒井千次
三浦哲郎
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選考委員
河野多恵子女68歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
四作について 総行数34 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
笙野頼子
女38歳
12 「名作である。」「まさにリアリズムでは捉え得ない、その微妙で深く有機的な首都と郷里の主人公における関係を、作者は実に巧妙な抽象性を用いて表現している。文章の鮮やかさに支えられた一行一行の転換の妙味は、快感を与えるほどである。」
室井光広
男39歳
7 「一部によさは見られるので、最初から退けることはしなかったが、受賞には反対した。書きたい気持の沸っていることは分るけれども、まだ無闇に書きたいだけで、創作衝動以前のものにしか感じられなかった。」
阿部和重
男25歳
0  
小浜清志
男43歳
10 「以前の候補作よりも、進歩を見せていた。この作品には、沖縄(と一応しておく)の作者たちの沖縄を扱った作品の傾向を感じた。一つは、女の人の存在が濃いことで、私は興味をもっている。もう一つは、土地に対する作者の優しみであって、その優しみが、一体に少々手放しになりがちではあるまいか。」
中原文夫
男44歳
0  
塩野米松
男47歳
0  
三浦俊彦
男34歳
5 「なかなかよい抽象性を示していた。しかし、前衛美術に拠っていて、方法と内容がつきすぎているために、成功するには余儀ない限界が生じている。」
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他の選考委員
大江健三郎
古井由吉
日野啓三
丸谷才一
大庭みな子
田久保英夫
黒井千次
三浦哲郎
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選考委員
日野啓三男65歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
感想 総行数33 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
笙野頼子
女38歳
10 「前回の「二百回忌」よりすぐれているか劣るか、という点で評価が分かれた。」「私は「二百回忌」の方が印象強かったが、地方都市で十何歳かまで育ってから、いきなり東京に住むと、東京はこんな風に見えるものだ、という河野多惠子さんの意見にはそうかもしれない、と思った。」
室井光広
男39歳
7 「どうしてもごてごてして読みにくかった。旧来の保証ずみでない新しい小説の作り方、書き方に、私は無理解ではないつもりだが、もう一段、小説的抽象性への想像力の集中が必要なように思われる。」
阿部和重
男25歳
7 「P・K・ディックの代表作「ヴァリス」における分身的主人公の作り方から示唆のひとつを得ているようだが、(引用者中略)その自然な必要性が感じとれなかった。」
小浜清志
男43歳
9 「私は最も興味深く読んだのだが、小説の構造と文章が余りに古風なことは否めない。このような、現在のわれわれからは遠い採集狩猟時代的な女シャーマンの超現実的なような話が、実はかえっていまとても新鮮」
中原文夫
男44歳
0  
塩野米松
男47歳
0  
三浦俊彦
男34歳
0  
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他の選考委員
大江健三郎
古井由吉
河野多恵子
丸谷才一
大庭みな子
田久保英夫
黒井千次
三浦哲郎
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選考委員
丸谷才一男68歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
結末が惜しかつた 総行数35 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
笙野頼子
女38歳
17 「じつに惜しいところで佳作になりそこねてゐる短篇小説です。もちろん前作よりずつといい。」「むきだしな感覚の氾濫を、分別と才覚によつて口当りよく水わりにして、ただしちつとも水つぽくしなかつたところがすばらしい。」「しかしかういふ具合に、横へ横へと感覚をずるずるつないでゆく作風は(文章の藝のかずかずはじつに見事なのですが)、おしまひにうんと花やかな業を一つ決めてくれなければ見物衆が困ります。」
室井光広
男39歳
8 「作品の世界へはいつてゆけなくて困りました。評論体の小説といふのはわたしの縄張りのはずなのだが、読んでゐてどうも力がこもらないのですね。いろんな本の話もピンと来なかつたし、登場人物たちも印象が淡かつた。」
阿部和重
男25歳
0  
小浜清志
男43歳
10 「前近代と近代とがいりまじつてゐる生き方をとらへようとしたもので、着眼点がよく、野心が大きい。」「物語の展開に無理な部分もあるが、それでも共同体と個人の関係、習俗と生活とのかかはりあひをうまく写してゐて、わたしには興味深かつた。」
中原文夫
男44歳
0  
塩野米松
男47歳
0  
三浦俊彦
男34歳
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他の選考委員
大江健三郎
古井由吉
河野多恵子
日野啓三
大庭みな子
田久保英夫
黒井千次
三浦哲郎
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選考委員
大庭みな子女63歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
よい気分 総行数30 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
笙野頼子
女38歳
6 「自然に流れ出る生得の力で余裕をもって書いている。現代日本の風景をこれほど鮮やかに描く笙野頼子の存在が、行き止まりの海とどう対決するかを見守ろう。」
室井光広
男39歳
18 「ユーモラスなメタファーにあふれた場面が一種抽象的な図柄で絵巻物ふうにページを追うごとに読者をひきつける。知的な刺戟にあふれているが、イマジナティヴな面白さがある。」「文学の愉しさと、新しい世代の感性の手ごたえがあっていい気分だった。」
阿部和重
男25歳
0  
小浜清志
男43歳
0  
中原文夫
男44歳
2 「へんな味があり、心に残った。」
塩野米松
男47歳
0  
三浦俊彦
男34歳
4 「気の利いた言葉遊びと悪ふざけを超えて、表現者の哀切なまでの滑稽な喘ぎが伝わって来た。」
  「全体として、今回残っていた候補作は、それぞれにある水準に達していると思った。」
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他の選考委員
大江健三郎
古井由吉
河野多恵子
日野啓三
丸谷才一
田久保英夫
黒井千次
三浦哲郎
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選考委員
田久保英夫男66歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
二つの作品 総行数40 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
笙野頼子
女38歳
18 「語り口に、とぼけた味のあるユーモアが漂い、虚と実のあわいのような世界に、自然に誘いこまれる。」「過去、現在、未来がぬるりと浸し合う存在の描出は、巧みだが、作品の力は前回の「二百回忌」の方がつよいと思う。この夢と現実を支える主体の意識が、根底で曖昧なのだ。」「私はつくづく考えた結果、(引用者中略)次作を待とう、と判断した。」
室井光広
男39歳
22 「魅力的な主題である。」「ことに面白いのは、「コリャード懺悔録」と啄木の「ローマ字日記」の性的叙述を対照し、告解をうける神父と、男の体に馴れきった娼婦を重ねるところだろう。」「しかし反面で、こうした文献的な道具立てが多すぎる。」「私はつくづく考えた結果、(引用者中略)次作を待とう、と判断した。」
阿部和重
男25歳
0  
小浜清志
男43歳
0  
中原文夫
男44歳
0  
塩野米松
男47歳
0  
三浦俊彦
男34歳
0  
  「今回は私にとって、二作(引用者注:「タイムスリップ・コンビナート」と「おどるでく」)に絞るのは比較的容易だった。しかし、それから先が難渋し、何度も読み返した。」
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他の選考委員
大江健三郎
古井由吉
河野多恵子
日野啓三
丸谷才一
大庭みな子
黒井千次
三浦哲郎
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選考委員
黒井千次男62歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
言葉と夢 総行数35 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
笙野頼子
女38歳
12 「二作受賞という結果に異論はない。」「浮遊する感覚にリアリティーがあり、実在する固有名詞に幻想性が宿り、東京という土地のイメージが奇妙な風景画のように浮かび上ってくる。」「ただ、前回候補作「二百回忌」の泥絵具を塗りたくったようなエネルギーが影をひそめた点に、いささかの物足りなさも覚えた。」
室井光広
男39歳
19 「二作受賞という結果に異論はない。」「小説より評論に近い性格を備えてもいるが、両者の境界線ギリギリを辿る書き方がスリリングで面白かった。」「「おどるでく」という一種の「霊的存在」を手掛りにしてすくい取られようとした「表層」自体が小説として出現するあたりに、今日の小説の置かれた立場が示されているようにも感じられた。」
阿部和重
男25歳
3 「後半腰が砕けたが、今後を期待したいと思わせる若い力が感じられた。」
小浜清志
男43歳
2 「時代との関りがもう少し描かれる必要があったろう。」
中原文夫
男44歳
0  
塩野米松
男47歳
0  
三浦俊彦
男34歳
0  
  「候補作のレベルが低いとは思わないのに、どうしてもこの一作を、と絞って推す気持ちに今回はなりにくかった。」
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他の選考委員
大江健三郎
古井由吉
河野多恵子
日野啓三
丸谷才一
大庭みな子
田久保英夫
三浦哲郎
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選考委員
三浦哲郎男63歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
感想 総行数31 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
笙野頼子
女38歳
16 「氏の作風が、私のようなリアリズムの作家には容易に納得できないものを持っている、ということは前にも書いたような気がするが、今回の作品は、これまでになく淡泊な印象で、(引用者中略)しみじみとした味わいさえ感じられ、意外であった。けれども、だからといって、この作品が、前のたとえば「二百回忌」よりも優れているかどうかの判断は、やはり私にはできなかった。」
室井光広
男39歳
9 「面白く読んだが、これはエッセーであろう。作者が相当な知識人であり、従来の小説の枠を打ち破ろうといろいろ工夫を凝らしていることはわかるが、私はこの作品を小説と認めることができなかった。」「もし純粋なエッセーとして書いていたら定めし稀有な作品が生まれていただろうにと、惜しまれる。」
阿部和重
男25歳
0  
小浜清志
男43歳
0  
中原文夫
男44歳
0  
塩野米松
男47歳
3 「今度の「空っぽの巣」はもうひと息だったが、一作ごとに力をつけてくるのが感じられて、心強かった。」
三浦俊彦
男34歳
0  
  「今回は、該当作なしのつもりで選考会に出た。結果は二人も受賞者を出すことになったが、私はいまでも今回はなし(原文傍点)が妥当だったと思っている。」
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他の選考委員
大江健三郎
古井由吉
河野多恵子
日野啓三
丸谷才一
大庭みな子
田久保英夫
黒井千次
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受賞者・作品
笙野頼子女38歳×各選考委員 
「タイムスリップ・コンビナート」
短篇 93
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男59歳
16 「夢に呼びさまされた言葉を、できるかぎりその風味をそこなわずに輸送する、その技術をみがきあげて、しかもこの小説は(引用者中略)、はっきり眼ざめている観察に実力が見える。両者を結ぶ独特なユーモアもある仕事。」
古井由吉
男56歳
33 「このたびの受賞の両作を見ると、むやみに強調することは控えたいが、若い世代の文学がある段階に差しかかってきたことは否定しがたい。新しいとは敢えて言わず、むしろ難儀な段階と呼んだほうがふさわしいだろう。」「どちらの作品も小説になる以前の境を、いきなり小説の瀬戸際としてひきうけているように見られる。」「もうひとつ、両作品に共通のものとして、成熟不全の問題がある。(引用者中略)これは時代の自己認識に入りつつあると言ってもよいのだろう。」
河野多恵子
女68歳
12 「名作である。」「まさにリアリズムでは捉え得ない、その微妙で深く有機的な首都と郷里の主人公における関係を、作者は実に巧妙な抽象性を用いて表現している。文章の鮮やかさに支えられた一行一行の転換の妙味は、快感を与えるほどである。」
日野啓三
男65歳
10 「前回の「二百回忌」よりすぐれているか劣るか、という点で評価が分かれた。」「私は「二百回忌」の方が印象強かったが、地方都市で十何歳かまで育ってから、いきなり東京に住むと、東京はこんな風に見えるものだ、という河野多惠子さんの意見にはそうかもしれない、と思った。」
丸谷才一
男68歳
17 「じつに惜しいところで佳作になりそこねてゐる短篇小説です。もちろん前作よりずつといい。」「むきだしな感覚の氾濫を、分別と才覚によつて口当りよく水わりにして、ただしちつとも水つぽくしなかつたところがすばらしい。」「しかしかういふ具合に、横へ横へと感覚をずるずるつないでゆく作風は(文章の藝のかずかずはじつに見事なのですが)、おしまひにうんと花やかな業を一つ決めてくれなければ見物衆が困ります。」
大庭みな子
女63歳
6 「自然に流れ出る生得の力で余裕をもって書いている。現代日本の風景をこれほど鮮やかに描く笙野頼子の存在が、行き止まりの海とどう対決するかを見守ろう。」
田久保英夫
男66歳
18 「語り口に、とぼけた味のあるユーモアが漂い、虚と実のあわいのような世界に、自然に誘いこまれる。」「過去、現在、未来がぬるりと浸し合う存在の描出は、巧みだが、作品の力は前回の「二百回忌」の方がつよいと思う。この夢と現実を支える主体の意識が、根底で曖昧なのだ。」「私はつくづく考えた結果、(引用者中略)次作を待とう、と判断した。」
黒井千次
男62歳
12 「二作受賞という結果に異論はない。」「浮遊する感覚にリアリティーがあり、実在する固有名詞に幻想性が宿り、東京という土地のイメージが奇妙な風景画のように浮かび上ってくる。」「ただ、前回候補作「二百回忌」の泥絵具を塗りたくったようなエネルギーが影をひそめた点に、いささかの物足りなさも覚えた。」
三浦哲郎
男63歳
16 「氏の作風が、私のようなリアリズムの作家には容易に納得できないものを持っている、ということは前にも書いたような気がするが、今回の作品は、これまでになく淡泊な印象で、(引用者中略)しみじみとした味わいさえ感じられ、意外であった。けれども、だからといって、この作品が、前のたとえば「二百回忌」よりも優れているかどうかの判断は、やはり私にはできなかった。」
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他の候補作
室井光広
「おどるでく」
阿部和重
「アメリカの夜」
小浜清志
「後生橋」
中原文夫
「不幸の探究」
塩野米松
「空っぽの巣」
三浦俊彦
「これは餡パンではない」
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受賞者・作品
室井光広男39歳×各選考委員 
「おどるでく」
短篇 119
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男59歳
25 「意味と言葉を切りはなし、その言葉をさらにバラバラにする作業と、意味を思いがけない光で照らしてみる作業は、しばしばひとつのものである。その手法で新鮮になった眼で、地方の民俗を見なおし、そこから根こそぎ引っこぬかれて異国におかれた人間のトマドイやら歓喜やらをよみがえらせる。」「思考と文体とが明確なので、抽象的なものも具体的な手ざわりにおいて読み手に受けとめられる。」
古井由吉
男56歳
33 「このたびの受賞の両作を見ると、むやみに強調することは控えたいが、若い世代の文学がある段階に差しかかってきたことは否定しがたい。新しいとは敢えて言わず、むしろ難儀な段階と呼んだほうがふさわしいだろう。」「どちらの作品も小説になる以前の境を、いきなり小説の瀬戸際としてひきうけているように見られる。」「もうひとつ、両作品に共通のものとして、成熟不全の問題がある。(引用者中略)これは時代の自己認識に入りつつあると言ってもよいのだろう。」
河野多恵子
女68歳
7 「一部によさは見られるので、最初から退けることはしなかったが、受賞には反対した。書きたい気持の沸っていることは分るけれども、まだ無闇に書きたいだけで、創作衝動以前のものにしか感じられなかった。」
日野啓三
男65歳
7 「どうしてもごてごてして読みにくかった。旧来の保証ずみでない新しい小説の作り方、書き方に、私は無理解ではないつもりだが、もう一段、小説的抽象性への想像力の集中が必要なように思われる。」
丸谷才一
男68歳
8 「作品の世界へはいつてゆけなくて困りました。評論体の小説といふのはわたしの縄張りのはずなのだが、読んでゐてどうも力がこもらないのですね。いろんな本の話もピンと来なかつたし、登場人物たちも印象が淡かつた。」
大庭みな子
女63歳
18 「ユーモラスなメタファーにあふれた場面が一種抽象的な図柄で絵巻物ふうにページを追うごとに読者をひきつける。知的な刺戟にあふれているが、イマジナティヴな面白さがある。」「文学の愉しさと、新しい世代の感性の手ごたえがあっていい気分だった。」
田久保英夫
男66歳
22 「魅力的な主題である。」「ことに面白いのは、「コリャード懺悔録」と啄木の「ローマ字日記」の性的叙述を対照し、告解をうける神父と、男の体に馴れきった娼婦を重ねるところだろう。」「しかし反面で、こうした文献的な道具立てが多すぎる。」「私はつくづく考えた結果、(引用者中略)次作を待とう、と判断した。」
黒井千次
男62歳
19 「二作受賞という結果に異論はない。」「小説より評論に近い性格を備えてもいるが、両者の境界線ギリギリを辿る書き方がスリリングで面白かった。」「「おどるでく」という一種の「霊的存在」を手掛りにしてすくい取られようとした「表層」自体が小説として出現するあたりに、今日の小説の置かれた立場が示されているようにも感じられた。」
三浦哲郎
男63歳
9 「面白く読んだが、これはエッセーであろう。作者が相当な知識人であり、従来の小説の枠を打ち破ろうといろいろ工夫を凝らしていることはわかるが、私はこの作品を小説と認めることができなかった。」「もし純粋なエッセーとして書いていたら定めし稀有な作品が生まれていただろうにと、惜しまれる。」
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他の候補作
笙野頼子
「タイムスリップ・コンビナート」
阿部和重
「アメリカの夜」
小浜清志
「後生橋」
中原文夫
「不幸の探究」
塩野米松
「空っぽの巣」
三浦俊彦
「これは餡パンではない」
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候補者・作品
阿部和重男25歳×各選考委員 
「アメリカの夜」
中篇 240
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男59歳
0  
古井由吉
男56歳
0  
河野多恵子
女68歳
0  
日野啓三
男65歳
7 「P・K・ディックの代表作「ヴァリス」における分身的主人公の作り方から示唆のひとつを得ているようだが、(引用者中略)その自然な必要性が感じとれなかった。」
丸谷才一
男68歳
0  
大庭みな子
女63歳
0  
田久保英夫
男66歳
0  
黒井千次
男62歳
3 「後半腰が砕けたが、今後を期待したいと思わせる若い力が感じられた。」
三浦哲郎
男63歳
0  
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他の候補作
笙野頼子
「タイムスリップ・コンビナート」
室井光広
「おどるでく」
小浜清志
「後生橋」
中原文夫
「不幸の探究」
塩野米松
「空っぽの巣」
三浦俊彦
「これは餡パンではない」
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候補者・作品
小浜清志男43歳×各選考委員 
「後生橋」
中篇 160
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男59歳
0  
古井由吉
男56歳
0  
河野多恵子
女68歳
10 「以前の候補作よりも、進歩を見せていた。この作品には、沖縄(と一応しておく)の作者たちの沖縄を扱った作品の傾向を感じた。一つは、女の人の存在が濃いことで、私は興味をもっている。もう一つは、土地に対する作者の優しみであって、その優しみが、一体に少々手放しになりがちではあるまいか。」
日野啓三
男65歳
9 「私は最も興味深く読んだのだが、小説の構造と文章が余りに古風なことは否めない。このような、現在のわれわれからは遠い採集狩猟時代的な女シャーマンの超現実的なような話が、実はかえっていまとても新鮮」
丸谷才一
男68歳
10 「前近代と近代とがいりまじつてゐる生き方をとらへようとしたもので、着眼点がよく、野心が大きい。」「物語の展開に無理な部分もあるが、それでも共同体と個人の関係、習俗と生活とのかかはりあひをうまく写してゐて、わたしには興味深かつた。」
大庭みな子
女63歳
0  
田久保英夫
男66歳
0  
黒井千次
男62歳
2 「時代との関りがもう少し描かれる必要があったろう。」
三浦哲郎
男63歳
0  
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他の候補作
笙野頼子
「タイムスリップ・コンビナート」
室井光広
「おどるでく」
阿部和重
「アメリカの夜」
中原文夫
「不幸の探究」
塩野米松
「空っぽの巣」
三浦俊彦
「これは餡パンではない」
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候補者・作品
中原文夫男44歳×各選考委員 
「不幸の探究」
短篇 84
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男59歳
0  
古井由吉
男56歳
0  
河野多恵子
女68歳
0  
日野啓三
男65歳
0  
丸谷才一
男68歳
0  
大庭みな子
女63歳
2 「へんな味があり、心に残った。」
田久保英夫
男66歳
0  
黒井千次
男62歳
0  
三浦哲郎
男63歳
0  
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他の候補作
笙野頼子
「タイムスリップ・コンビナート」
室井光広
「おどるでく」
阿部和重
「アメリカの夜」
小浜清志
「後生橋」
塩野米松
「空っぽの巣」
三浦俊彦
「これは餡パンではない」
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候補者・作品
塩野米松男47歳×各選考委員 
「空っぽの巣」
短篇 142
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男59歳
0  
古井由吉
男56歳
0  
河野多恵子
女68歳
0  
日野啓三
男65歳
0  
丸谷才一
男68歳
0  
大庭みな子
女63歳
0  
田久保英夫
男66歳
0  
黒井千次
男62歳
0  
三浦哲郎
男63歳
3 「今度の「空っぽの巣」はもうひと息だったが、一作ごとに力をつけてくるのが感じられて、心強かった。」
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他の候補作
笙野頼子
「タイムスリップ・コンビナート」
室井光広
「おどるでく」
阿部和重
「アメリカの夜」
小浜清志
「後生橋」
中原文夫
「不幸の探究」
三浦俊彦
「これは餡パンではない」
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候補者・作品
三浦俊彦男34歳×各選考委員 
「これは餡パンではない」
短篇 122
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男59歳
0  
古井由吉
男56歳
0  
河野多恵子
女68歳
5 「なかなかよい抽象性を示していた。しかし、前衛美術に拠っていて、方法と内容がつきすぎているために、成功するには余儀ない限界が生じている。」
日野啓三
男65歳
0  
丸谷才一
男68歳
0  
大庭みな子
女63歳
4 「気の利いた言葉遊びと悪ふざけを超えて、表現者の哀切なまでの滑稽な喘ぎが伝わって来た。」
田久保英夫
男66歳
0  
黒井千次
男62歳
0  
三浦哲郎
男63歳
0  
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他の候補作
笙野頼子
「タイムスリップ・コンビナート」
室井光広
「おどるでく」
阿部和重
「アメリカの夜」
小浜清志
「後生橋」
中原文夫
「不幸の探究」
塩野米松
「空っぽの巣」
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