芥川賞のすべて・のようなもの
第152回
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平成26年/2014年下半期
(平成27年/2015年1月15日決定発表/『文藝春秋』平成27年/2015年3月号選評掲載)
選考委員  小川洋子
女52歳
奥泉光
男58歳
高樹のぶ子
女68歳
山田詠美
女55歳
宮本輝
男67歳
堀江敏幸
男51歳
島田雅彦
男53歳
村上龍
男62歳
川上弘美
女56歳
選評総行数  87 110 79 84 99 88 90 90 86
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
小野正嗣 「九年前の祈り」
161
男44歳
37 10 11 22 20 23 13 39 38
上田岳弘 「惑星」
197
男35歳
7 12 29 21 16 16 27 0 11
小谷野敦 「ヌエのいた家」
181
男52歳
19 11 9 13 20 15 12 0 11
高尾長良 「影媛」
156
女22歳
11 12 12 13 15 14 14 0 6
高橋弘希 「指の骨」
154
男35歳
13 67 18 16 28 20 16 0 15
                 
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『文藝春秋』平成27年/2015年3月号
1行当たりの文字数:13字


選考委員
小川洋子女52歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
大地からの声 総行数87 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
小野正嗣
男44歳
37 「たった一度のカナダ旅行の記憶が取り込まれることにより、物語にいっそうの奥行きが生まれた。旅の思い出としては何の魅力もないはずの一瞬が、小さな光となって希敏とさなえに少しずつ射し込んでくる。」「何ものかの計らいにより、九年前の祈りがさなえの背後に立つ悲しみと響き合う時、彼らが立つ地面の温もりが伝わってくるようだった。」
上田岳弘
男35歳
7 「最強人間、最高製品、という無機質な言葉から私はどうしても魅力的なイメージの広がりを感じ取れなかった。」
小谷野敦
男52歳
19 「主人公がいくら父を嫌悪しようと、二人は決して断ち切れない一本の根でつながっているのではないか。そう思いはじめると、たまらない恐怖に取りつかれる。」「ただし書き手自身はその恐ろしさに無自覚である。あと半歩、書き手の位置をずらすことにより、もっとおぞましい世界が浮き彫りになったのでは、とつい考えてしまう。」
高尾長良
女22歳
11 「息苦しいまでに手の込んだ文体により、『影媛』の世界は独特の色彩とにおいを帯びた。しかし、カワセミになって自在に飛翔すべき影媛の視点が、文体に閉じ込められ、かえって窮屈になっている印象を受けた。」
高橋弘希
男35歳
13 「思い浮かぶイメージのどこに焦点を絞るか、高橋さんは的確に判断し、簡潔な言葉でそれをすくい上げている。ただ、既にある圧倒的な現実を題材に選ぶ以上、小説の形でしか表せない何かが必要になってくると思う。その何かが見え辛かったのが残念でならない。」
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他の選考委員
奥泉光
高樹のぶ子
山田詠美
宮本輝
堀江敏幸
島田雅彦
村上龍
川上弘美
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選考委員
奥泉光男58歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
選評 総行数110 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
小野正嗣
男44歳
10 「やや捉えにくいところがあるけれど、レトリックを巧みにちりばめ、音楽性のある散文を作らんとする作者の狙いは実現して、捉えにくさも、むしろそれが魅力であるとの読みができると思え、当選作と推したいという意見に積極的に賛成した。」
上田岳弘
男35歳
12 「興味をもって楽しく読んだ。その興味と楽しさはSF小説を読むスリルで、だからたとえば、大勢の人間たちが繋がってできあがった「肉の海」が、どんな仕組みで栄養を得ているのかといった、疑似科学的解説が欲しいと感じた。」
小谷野敦
男52歳
11 「安定した筆の運びは、落ち着いた読書の時間を与えてくれた。が、語り手とヌエと呼ばれる「父親」の関係がいまひとつ明瞭な像を結ばず、その捉えにくさを魅力と感じる読み方は残念ながらできなかった。」
高尾長良
女22歳
12 「新たな日本語を構築していこうとの意欲を感じ、その方向性には拍手を送りたい。ただし、読むことの快楽をもたらすところまでは至っておらず、本作はいまだ道半ばの印象を受けた。」
高橋弘希
男35歳
67 「力作であり、作者の力量は十分に感じられた。しかし、であるがゆえに、この作品を推すことは躊躇われた。」「あの戦争の体験が十分に経験化されていない現在、正しい手続き(が確定されているわけではないが)に則った歴史叙述が強く望まれるところだが、もちろん虚構として小説を編むこともできる。だが、その場合には、作家の「いま」への問いがなければならないだろう。」
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他の選考委員
小川洋子
高樹のぶ子
山田詠美
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村上龍
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選考委員
高樹のぶ子女68歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
フィクションの力を 総行数79 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
小野正嗣
男44歳
11 「前作までの「浦」に立ちこめていた陰湿な臭いが消えた分、明るく軽く立ち入りやすくなったが、物足りなさも感じた。こだわりの勝利か。」
上田岳弘
男35歳
29 「万物万象、時間も含めて相対的だとするテーマを、映像ではなく文学にするとこうなるだろう。人間についてではなく人類について考えている。」「作品中で言及されている映画「惑星ソラリス」の影響は否定出来ないが、随所に鋭く射し込まれた批評精神が、荒唐無稽なSFと割り切ることの出来ない光り方をしていた。」
小谷野敦
男52歳
9 「父親をもっと魅力的に創ることが出来れば、血縁のおかしみや哀しみ、馬鹿馬鹿しさが伝わってきたのではないだろうか。」
高尾長良
女22歳
12 「地の文と会話文を意識的に違えていて、それが上手く行っているかと言えば、影媛のあわれを伝えるには会話文が障壁になっている。日本語の冒険が目的なのだろうか。古代特有な獣と血の臭いが濃く漂ってくるだけに、惜しかった。」
高橋弘希
男35歳
18 「若い世代の作者が、資料や伝聞を素に戦争を追体験している。そしてそのこと自体、十分に胸を打つ。ただ、世間一般に浸透している戦争の悲劇を、個の内面が破壊してこそ文学ではないのか。客観的な悲惨さと個の内面がほぼ一致している本作では、フィクションの特権が十分に生かされていない気がした。」
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小川洋子
奥泉光
山田詠美
宮本輝
堀江敏幸
島田雅彦
村上龍
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選考委員
山田詠美女55歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
選評 総行数84 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
小野正嗣
男44歳
22 「主人公と関わり合うすべての男たちが、「男目線からのステレオタイプ」のように私には思える。その分、女たちの存在感はすごいが、その存在感が私には「作者のひいき目」のように感じられてしまうの。」「この作者は、あくまで女の味方のように、彼女を生まれ変わらせる。その静かな再生の気配に寄り添えるか、否か。私は残念ながら後者だった。」
上田岳弘
男35歳
21 「〈だが進歩させるほどに、逃げ場は塞がれていき、出口であると思っていたものが、憧憬を持ち続けられるかもしれないと思っていたものが、既存のものと同じだけ味気ない、何らの外部性も持たない、ただの現実の付属物にすぎないと思うに至る〉……(引用者中略)これ、何言いたいのかさっぱり解んない。……ねえ、もっと簡単に書けないの? そんなにもったいぶるほど、アイディア満載の作品とはとても思えないけど?」
小谷野敦
男52歳
13 「これは、前に候補となった母親の死を描いた作品と合わせて読まれるべきだろう。」「と、言うことは、この作品は、不完全であると思わざるを得ない。それにしても、妻の苦労が滲み出ていて痛々しい。」
高尾長良
女22歳
13 「あー、もう、こんなしち面倒臭いアプローチして……とうんざりしかけたが、どんどんおもしろくなって、止められなかったくらい。」「同時に、いくつかの場面がとてもセクシーだ。滝で放られた桃を齧るところとか。」
高橋弘希
男35歳
16 「戦争をこれっぽっちも讃美することなく、そこに広がる情景を言葉の力だけで哀しく美しく描いた。うかつな箇所や欠点も多々あれど、久々に才能というものを感じて、この作品を推した。水木しげる氏へのオマージュめいた部分は気になったが。」
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小川洋子
奥泉光
高樹のぶ子
宮本輝
堀江敏幸
島田雅彦
村上龍
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選考委員
宮本輝男67歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
全体のなかのパーツ 総行数99 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
小野正嗣
男44歳
20 「最初の投票で過半数を得ていた。」「ひとつの小説のなかのパーツであって、これ一作で完成品として評価するわけにはいかないと思い、積極的には推せなかった」「しかし、ふるさとの持つ力、そのふるさとの人々の包容力が、主人公の置かれた厳しい境遇に一種楽観的な光明を与える結末は、小野氏の真の持ち味がやっと具象化されてきた証だと思う。」
上田岳弘
男35歳
16 「作者の企みが先走って、途中から観念的な文明論に捕まってしまっている。」「最大の難点は長すぎるということだ。半分の枚数で書けていたら、観念の要点もおのずと収斂されたであろうと思う。」
小谷野敦
男52歳
20 「私小説ではなく個人的手記の域から出ていない。」「主人公が「ヌエ」と表現する父親には、そう罵倒される理由が、この小説のなかでは見いだせない。」「私小説の名作がなべて隠し持つ精髄の根源について、小谷野氏はあらためて考えてみるべきではないだろうか。」
高尾長良
女22歳
15 「日本書紀を下敷きにしてはいるが、そのパロディでもないし、作者独自の展開とも思えない。なにを読み手に与えようとしたのかが、まったく不明なのだ。」「人名などはすべてにルビを付けてもらわなくては読めないというようなものはすでにそれだけで一篇の小説としては失敗作だと思う。」
高橋弘希
男35歳
28 「とりわけ最後の数行が、私をこの主人公の心情に同化させた。文章の力だと思う。その描写力や構造には非凡なものを感じ、高橋氏に才能を認めて受賞作に推したが、過半数に達する賛同を得られなかった。」
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小川洋子
奥泉光
高樹のぶ子
山田詠美
堀江敏幸
島田雅彦
村上龍
川上弘美
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選考委員
堀江敏幸男51歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
小指の先にあるもの 総行数88 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
小野正嗣
男44歳
23 「収束を目指さないためには、不協和音が必要だ。」「「九年前の祈り」にはそれがある。」「悲しみを悲しみと名指さなくとも、つながれた二人の手だけで祈りは成立している。最後の和音は、書き手ではなく物語が要請したものだろうと私は読んだ。」
上田岳弘
男35歳
16 「言葉の受け取り手が消えた地平から言葉を起こしているかぎり世界は揺れないだろう。この物語の「私」が目指しているのは、むしろ揺れの収束を拒むことなのに。」
小谷野敦
男52歳
15 「父親をヌエと呼んで徹底的に忌避する意図が、みずから選びとった小説形式と語りに少しずつ裏切られ、所々で愛すべき滑稽さを生んでいることに「私」は気づこうとしない。そのかたくなさに善し悪しはあるけれど、あちこちに走る小さな亀裂には不思議な魅力がある。」
高尾長良
女22歳
14 「古代文学によりかかった地の文と会話文の硬軟の配合に雲母のきらめきと冒険が認められる一方、集めた言葉と言葉のつなぎが堅すぎて、翡翠色の羽を持つ鳥の嘴がそこに入っていかない。」
高橋弘希
男35歳
20 「体験していない時空を描くために資料をいくら読み込んでも、再構築の言葉の接着に既製の糊を使ったらすべて台なしになる。」「「指の骨」には、幸い自分の手で溶かした膠が塗られていた。」「ただ、外層とのつなぎに用いる膠は不足していたかもしれない。」
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他の選考委員
小川洋子
奥泉光
高樹のぶ子
山田詠美
宮本輝
島田雅彦
村上龍
川上弘美
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選考委員
島田雅彦男53歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
文学が流れてゆく先 総行数90 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
小野正嗣
男44歳
13 「女たちの存在感が強い母権的土地柄の人間関係を、カナダ人の流れ者と結婚したヒロインの里帰りとカナダ旅行の顛末を通じて、描いているが、コトバを持たない幼い息子「希敏」の反応がその土地との確執を感じさせる巧みな構成になっている。」
上田岳弘
男35歳
27 「今後、従来型の小説には見られなかった形式を積極的に導入する若い作家が増えてゆくだろうが、読者の共感をあてにできないハンディを背負う以上、背景や細部の作り込みを徹底しないと、せっかくの新奇な形式も見劣りしてしまうので注意が必要である。」
小谷野敦
男52歳
12 「人は往々にして、自分が嫌う相手に似てしまうもので、それこそが近親憎悪の最もおぞましい部分なのだが、自分と父はあくまで違うという思い込みに対する批評が欠落している。個人的には歩んできた時代背景が同じなので、懐かしい匂いがした。」
高尾長良
女22歳
14 「擬古典スタイルの文章コスプレはかなりサマになっているものの、万葉仮名の原典を現代語訳する以上の飛躍があったかと聞かれれば、もう少し大胆なアレンジを加えたり、伝奇的に料理してもよかったのではないかと思われる。」
高橋弘希
男35歳
16 「戦争経験のない者は他者の戦争経験に学ぶしかないのだが、「戦場にいる自分」の想像の仕方は見事である。しかし、誰がこれを書いているのかというスタンスが明確ではないと、水木しげるや大岡昇平を含む他者の戦争経験の巧みなサンプリングとしたことが評価されるにとどまる。」
  「古くからの形式で私的素材を生かす二編、換骨奪胎の妙味と模造の精度で勝負する三編が土俵に上がり、新旧世代のコントラストをなしている印象を受けた。若い世代の文学的志向が明瞭に出た回だった。」
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他の選考委員
小川洋子
奥泉光
高樹のぶ子
山田詠美
宮本輝
堀江敏幸
村上龍
川上弘美
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選考委員
村上龍男62歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
選評 総行数90 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
小野正嗣
男44歳
39 「以前この作者に関して、「『正統な音楽教育を受けた歌手がなぜかあえて演歌を歌う』というような作品ではなく、演歌が成立するような地平から堂々とアリアを聞かせる、というような作品を読みたいと思う」と書いて、例としてル・クレジオの名前を挙げた。」「作者は、母親の普遍的な愛情をあえて愚直に示すことで、堂々とアリアを歌ってみせたのではないか、そういうことを思った。」
上田岳弘
男35歳
0  
小谷野敦
男52歳
0  
高尾長良
女22歳
0  
高橋弘希
男35歳
0  
  「候補作を読むのが以前に増して苦痛になってきた。わたしは個人的に、小説とは切実なものだと考えている。」「わたしは小説を読むとき、その作品がどのような動機と経緯と方法で、無意識の領域を探って「言葉の連なり」を獲得したのかを知ることで、「切実さ」を実感する。」
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他の選考委員
小川洋子
奥泉光
高樹のぶ子
山田詠美
宮本輝
堀江敏幸
島田雅彦
川上弘美
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選考委員
川上弘美女56歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
怖い 総行数86 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
小野正嗣
男44歳
38 「作者には、書きたいことがある。そしてきっと、伝えたい相手もいる。その切実さを感じました。」「小説というかたちで差し出したからこそ、作者の書いたことは伝わったのだと思います。それでこそ、小説を書く甲斐があるというものではないでしょうか。」「第一に推し(引用者中略)ました。」
上田岳弘
男35歳
11 「細部は、とても面白かった。生き生きしていた。ただ、「最終結論」という状態が、今まで見知っている「SFっぽい未来」のようにしか想像できなかったのです。」
小谷野敦
男52歳
11 「率直さには、うたれました。」「ただ、なぜこれだけ語り手が父親を嫌うのかは、前作「母子寮前」を読んでいない人間にはわかりにくいという意見が選考会の中で出され、私もそれに賛成でした。」
高尾長良
女22歳
6 「こころみは、とても面白かった。少しだけ、こころみにおぼれてしまったかもしれません。でも、こういうこころみを行う心意気は、大いに評価したいです。」
高橋弘希
男35歳
15 「読みながら、うまいなあ、と思いました。」「戦争のことを書いているのに、戦争のことを書いてあることが、読んでいる途中から意識されなくなったからです。でも、そこにこそ、危うさがあるようにも思うのです。この作品にある「かなしみ」を表現するにあたって、「戦争」は本当に必要だったのか。」「次点に(引用者中略)推しました。」
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高樹のぶ子
山田詠美
宮本輝
堀江敏幸
島田雅彦
村上龍
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受賞者・作品
小野正嗣男44歳×各選考委員 
「九年前の祈り」
中篇 161
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
小川洋子
女52歳
37 「たった一度のカナダ旅行の記憶が取り込まれることにより、物語にいっそうの奥行きが生まれた。旅の思い出としては何の魅力もないはずの一瞬が、小さな光となって希敏とさなえに少しずつ射し込んでくる。」「何ものかの計らいにより、九年前の祈りがさなえの背後に立つ悲しみと響き合う時、彼らが立つ地面の温もりが伝わってくるようだった。」
奥泉光
男58歳
10 「やや捉えにくいところがあるけれど、レトリックを巧みにちりばめ、音楽性のある散文を作らんとする作者の狙いは実現して、捉えにくさも、むしろそれが魅力であるとの読みができると思え、当選作と推したいという意見に積極的に賛成した。」
高樹のぶ子
女68歳
11 「前作までの「浦」に立ちこめていた陰湿な臭いが消えた分、明るく軽く立ち入りやすくなったが、物足りなさも感じた。こだわりの勝利か。」
山田詠美
女55歳
22 「主人公と関わり合うすべての男たちが、「男目線からのステレオタイプ」のように私には思える。その分、女たちの存在感はすごいが、その存在感が私には「作者のひいき目」のように感じられてしまうの。」「この作者は、あくまで女の味方のように、彼女を生まれ変わらせる。その静かな再生の気配に寄り添えるか、否か。私は残念ながら後者だった。」
宮本輝
男67歳
20 「最初の投票で過半数を得ていた。」「ひとつの小説のなかのパーツであって、これ一作で完成品として評価するわけにはいかないと思い、積極的には推せなかった」「しかし、ふるさとの持つ力、そのふるさとの人々の包容力が、主人公の置かれた厳しい境遇に一種楽観的な光明を与える結末は、小野氏の真の持ち味がやっと具象化されてきた証だと思う。」
堀江敏幸
男51歳
23 「収束を目指さないためには、不協和音が必要だ。」「「九年前の祈り」にはそれがある。」「悲しみを悲しみと名指さなくとも、つながれた二人の手だけで祈りは成立している。最後の和音は、書き手ではなく物語が要請したものだろうと私は読んだ。」
島田雅彦
男53歳
13 「女たちの存在感が強い母権的土地柄の人間関係を、カナダ人の流れ者と結婚したヒロインの里帰りとカナダ旅行の顛末を通じて、描いているが、コトバを持たない幼い息子「希敏」の反応がその土地との確執を感じさせる巧みな構成になっている。」
村上龍
男62歳
39 「以前この作者に関して、「『正統な音楽教育を受けた歌手がなぜかあえて演歌を歌う』というような作品ではなく、演歌が成立するような地平から堂々とアリアを聞かせる、というような作品を読みたいと思う」と書いて、例としてル・クレジオの名前を挙げた。」「作者は、母親の普遍的な愛情をあえて愚直に示すことで、堂々とアリアを歌ってみせたのではないか、そういうことを思った。」
川上弘美
女56歳
38 「作者には、書きたいことがある。そしてきっと、伝えたい相手もいる。その切実さを感じました。」「小説というかたちで差し出したからこそ、作者の書いたことは伝わったのだと思います。それでこそ、小説を書く甲斐があるというものではないでしょうか。」「第一に推し(引用者中略)ました。」
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他の候補作
上田岳弘
「惑星」
小谷野敦
「ヌエのいた家」
高尾長良
「影媛」
高橋弘希
「指の骨」
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候補者・作品
上田岳弘男35歳×各選考委員 
「惑星」
中篇 197
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
小川洋子
女52歳
7 「最強人間、最高製品、という無機質な言葉から私はどうしても魅力的なイメージの広がりを感じ取れなかった。」
奥泉光
男58歳
12 「興味をもって楽しく読んだ。その興味と楽しさはSF小説を読むスリルで、だからたとえば、大勢の人間たちが繋がってできあがった「肉の海」が、どんな仕組みで栄養を得ているのかといった、疑似科学的解説が欲しいと感じた。」
高樹のぶ子
女68歳
29 「万物万象、時間も含めて相対的だとするテーマを、映像ではなく文学にするとこうなるだろう。人間についてではなく人類について考えている。」「作品中で言及されている映画「惑星ソラリス」の影響は否定出来ないが、随所に鋭く射し込まれた批評精神が、荒唐無稽なSFと割り切ることの出来ない光り方をしていた。」
山田詠美
女55歳
21 「〈だが進歩させるほどに、逃げ場は塞がれていき、出口であると思っていたものが、憧憬を持ち続けられるかもしれないと思っていたものが、既存のものと同じだけ味気ない、何らの外部性も持たない、ただの現実の付属物にすぎないと思うに至る〉……(引用者中略)これ、何言いたいのかさっぱり解んない。……ねえ、もっと簡単に書けないの? そんなにもったいぶるほど、アイディア満載の作品とはとても思えないけど?」
宮本輝
男67歳
16 「作者の企みが先走って、途中から観念的な文明論に捕まってしまっている。」「最大の難点は長すぎるということだ。半分の枚数で書けていたら、観念の要点もおのずと収斂されたであろうと思う。」
堀江敏幸
男51歳
16 「言葉の受け取り手が消えた地平から言葉を起こしているかぎり世界は揺れないだろう。この物語の「私」が目指しているのは、むしろ揺れの収束を拒むことなのに。」
島田雅彦
男53歳
27 「今後、従来型の小説には見られなかった形式を積極的に導入する若い作家が増えてゆくだろうが、読者の共感をあてにできないハンディを背負う以上、背景や細部の作り込みを徹底しないと、せっかくの新奇な形式も見劣りしてしまうので注意が必要である。」
村上龍
男62歳
0  
川上弘美
女56歳
11 「細部は、とても面白かった。生き生きしていた。ただ、「最終結論」という状態が、今まで見知っている「SFっぽい未来」のようにしか想像できなかったのです。」
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他の候補作
小野正嗣
「九年前の祈り」
小谷野敦
「ヌエのいた家」
高尾長良
「影媛」
高橋弘希
「指の骨」
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候補者・作品
小谷野敦男52歳×各選考委員 
「ヌエのいた家」
中篇 181
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
小川洋子
女52歳
19 「主人公がいくら父を嫌悪しようと、二人は決して断ち切れない一本の根でつながっているのではないか。そう思いはじめると、たまらない恐怖に取りつかれる。」「ただし書き手自身はその恐ろしさに無自覚である。あと半歩、書き手の位置をずらすことにより、もっとおぞましい世界が浮き彫りになったのでは、とつい考えてしまう。」
奥泉光
男58歳
11 「安定した筆の運びは、落ち着いた読書の時間を与えてくれた。が、語り手とヌエと呼ばれる「父親」の関係がいまひとつ明瞭な像を結ばず、その捉えにくさを魅力と感じる読み方は残念ながらできなかった。」
高樹のぶ子
女68歳
9 「父親をもっと魅力的に創ることが出来れば、血縁のおかしみや哀しみ、馬鹿馬鹿しさが伝わってきたのではないだろうか。」
山田詠美
女55歳
13 「これは、前に候補となった母親の死を描いた作品と合わせて読まれるべきだろう。」「と、言うことは、この作品は、不完全であると思わざるを得ない。それにしても、妻の苦労が滲み出ていて痛々しい。」
宮本輝
男67歳
20 「私小説ではなく個人的手記の域から出ていない。」「主人公が「ヌエ」と表現する父親には、そう罵倒される理由が、この小説のなかでは見いだせない。」「私小説の名作がなべて隠し持つ精髄の根源について、小谷野氏はあらためて考えてみるべきではないだろうか。」
堀江敏幸
男51歳
15 「父親をヌエと呼んで徹底的に忌避する意図が、みずから選びとった小説形式と語りに少しずつ裏切られ、所々で愛すべき滑稽さを生んでいることに「私」は気づこうとしない。そのかたくなさに善し悪しはあるけれど、あちこちに走る小さな亀裂には不思議な魅力がある。」
島田雅彦
男53歳
12 「人は往々にして、自分が嫌う相手に似てしまうもので、それこそが近親憎悪の最もおぞましい部分なのだが、自分と父はあくまで違うという思い込みに対する批評が欠落している。個人的には歩んできた時代背景が同じなので、懐かしい匂いがした。」
村上龍
男62歳
0  
川上弘美
女56歳
11 「率直さには、うたれました。」「ただ、なぜこれだけ語り手が父親を嫌うのかは、前作「母子寮前」を読んでいない人間にはわかりにくいという意見が選考会の中で出され、私もそれに賛成でした。」
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他の候補作
小野正嗣
「九年前の祈り」
上田岳弘
「惑星」
高尾長良
「影媛」
高橋弘希
「指の骨」
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候補者・作品
高尾長良女22歳×各選考委員 
「影媛」
中篇 156
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
小川洋子
女52歳
11 「息苦しいまでに手の込んだ文体により、『影媛』の世界は独特の色彩とにおいを帯びた。しかし、カワセミになって自在に飛翔すべき影媛の視点が、文体に閉じ込められ、かえって窮屈になっている印象を受けた。」
奥泉光
男58歳
12 「新たな日本語を構築していこうとの意欲を感じ、その方向性には拍手を送りたい。ただし、読むことの快楽をもたらすところまでは至っておらず、本作はいまだ道半ばの印象を受けた。」
高樹のぶ子
女68歳
12 「地の文と会話文を意識的に違えていて、それが上手く行っているかと言えば、影媛のあわれを伝えるには会話文が障壁になっている。日本語の冒険が目的なのだろうか。古代特有な獣と血の臭いが濃く漂ってくるだけに、惜しかった。」
山田詠美
女55歳
13 「あー、もう、こんなしち面倒臭いアプローチして……とうんざりしかけたが、どんどんおもしろくなって、止められなかったくらい。」「同時に、いくつかの場面がとてもセクシーだ。滝で放られた桃を齧るところとか。」
宮本輝
男67歳
15 「日本書紀を下敷きにしてはいるが、そのパロディでもないし、作者独自の展開とも思えない。なにを読み手に与えようとしたのかが、まったく不明なのだ。」「人名などはすべてにルビを付けてもらわなくては読めないというようなものはすでにそれだけで一篇の小説としては失敗作だと思う。」
堀江敏幸
男51歳
14 「古代文学によりかかった地の文と会話文の硬軟の配合に雲母のきらめきと冒険が認められる一方、集めた言葉と言葉のつなぎが堅すぎて、翡翠色の羽を持つ鳥の嘴がそこに入っていかない。」
島田雅彦
男53歳
14 「擬古典スタイルの文章コスプレはかなりサマになっているものの、万葉仮名の原典を現代語訳する以上の飛躍があったかと聞かれれば、もう少し大胆なアレンジを加えたり、伝奇的に料理してもよかったのではないかと思われる。」
村上龍
男62歳
0  
川上弘美
女56歳
6 「こころみは、とても面白かった。少しだけ、こころみにおぼれてしまったかもしれません。でも、こういうこころみを行う心意気は、大いに評価したいです。」
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他の候補作
小野正嗣
「九年前の祈り」
上田岳弘
「惑星」
小谷野敦
「ヌエのいた家」
高橋弘希
「指の骨」
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候補者・作品
高橋弘希男35歳×各選考委員 
「指の骨」
中篇 154
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
小川洋子
女52歳
13 「思い浮かぶイメージのどこに焦点を絞るか、高橋さんは的確に判断し、簡潔な言葉でそれをすくい上げている。ただ、既にある圧倒的な現実を題材に選ぶ以上、小説の形でしか表せない何かが必要になってくると思う。その何かが見え辛かったのが残念でならない。」
奥泉光
男58歳
67 「力作であり、作者の力量は十分に感じられた。しかし、であるがゆえに、この作品を推すことは躊躇われた。」「あの戦争の体験が十分に経験化されていない現在、正しい手続き(が確定されているわけではないが)に則った歴史叙述が強く望まれるところだが、もちろん虚構として小説を編むこともできる。だが、その場合には、作家の「いま」への問いがなければならないだろう。」
高樹のぶ子
女68歳
18 「若い世代の作者が、資料や伝聞を素に戦争を追体験している。そしてそのこと自体、十分に胸を打つ。ただ、世間一般に浸透している戦争の悲劇を、個の内面が破壊してこそ文学ではないのか。客観的な悲惨さと個の内面がほぼ一致している本作では、フィクションの特権が十分に生かされていない気がした。」
山田詠美
女55歳
16 「戦争をこれっぽっちも讃美することなく、そこに広がる情景を言葉の力だけで哀しく美しく描いた。うかつな箇所や欠点も多々あれど、久々に才能というものを感じて、この作品を推した。水木しげる氏へのオマージュめいた部分は気になったが。」
宮本輝
男67歳
28 「とりわけ最後の数行が、私をこの主人公の心情に同化させた。文章の力だと思う。その描写力や構造には非凡なものを感じ、高橋氏に才能を認めて受賞作に推したが、過半数に達する賛同を得られなかった。」
堀江敏幸
男51歳
20 「体験していない時空を描くために資料をいくら読み込んでも、再構築の言葉の接着に既製の糊を使ったらすべて台なしになる。」「「指の骨」には、幸い自分の手で溶かした膠が塗られていた。」「ただ、外層とのつなぎに用いる膠は不足していたかもしれない。」
島田雅彦
男53歳
16 「戦争経験のない者は他者の戦争経験に学ぶしかないのだが、「戦場にいる自分」の想像の仕方は見事である。しかし、誰がこれを書いているのかというスタンスが明確ではないと、水木しげるや大岡昇平を含む他者の戦争経験の巧みなサンプリングとしたことが評価されるにとどまる。」
村上龍
男62歳
0  
川上弘美
女56歳
15 「読みながら、うまいなあ、と思いました。」「戦争のことを書いているのに、戦争のことを書いてあることが、読んでいる途中から意識されなくなったからです。でも、そこにこそ、危うさがあるようにも思うのです。この作品にある「かなしみ」を表現するにあたって、「戦争」は本当に必要だったのか。」「次点に(引用者中略)推しました。」
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他の候補作
小野正嗣
「九年前の祈り」
上田岳弘
「惑星」
小谷野敦
「ヌエのいた家」
高尾長良
「影媛」
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