芥川賞のすべて・のようなもの
第155回
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平成28年/2016年上半期
(平成28年/2016年7月19日決定発表/『文藝春秋』平成28年/2016年9月号選評掲載)
選考委員  山田詠美
女57歳
奥泉光
男60歳
村上龍
男64歳
島田雅彦
男55歳
堀江敏幸
男52歳
小川洋子
女54歳
高樹のぶ子
女70歳
宮本輝
男69歳
川上弘美
女58歳
選評総行数  86 93 87 85 85 82 78 97 96
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
村田沙耶香 「コンビニ人間」
205
女36歳
12 27 87 25 22 26 0 20 11
今村夏子 「あひる」
57
女36歳
10 10 0 9 16 29 0 15 10
高橋弘希 「短冊流し」
49
男36歳
20 24 0 11 16 10 0 19 10
崔実 「ジニのパズル」
214
女30歳
21 19 0 28 17 9 78 15 25
山崎ナオコーラ 「美しい距離」
227
女37歳
23 13 0 12 14 8 0 25 18
                 
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『文藝春秋』平成28年/2016年9月号
1行当たりの文字数:13字


選考委員
山田詠美女57歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「選評」 総行数86 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
村田沙耶香
女36歳
12 「コンビニという小さな箱とその周辺。そんなタイニーワールドを描いただけなのに、この作品には小説のおもしろさのすべてが、ぎゅっと凝縮されて詰まっている。十数年選考委員をやって来たが、候補作を読んで笑ったのは初めて。」
今村夏子
女36歳
10 「淡々とした描写の中に、そこはかとない恐ろしさがある。あひるが弟の赤ちゃんのメタファー? と思ってしまうのは深読み? そんなふうに勝手に結末以降を想像してみると……怖いです。」
高橋弘希
男36歳
20 「瀕死の状態の幼ない娘に寄り添い続ける父親の傍観ぶりが、どうにも物足りない。」「高いハードルをはなから見放すことと、跳んで倒しながらも前に向かうことの、どちらが小説にとって大切なのかを、もう一度考える必要があるだろう。」
崔実
女30歳
21 「文章が荒過ぎる。特に比喩。どうして、こんなにも大仰な擬人化?」「欠点は山程あるのだ。しかし、パワーもすごくある。書かざるを得ない作者の熱が伝わって来る。」
山崎ナオコーラ
女37歳
23 「「穏やかな尊厳ある死」のような〈ステレオタイプの言葉に洗脳されてたまるもんか〉と主人公は思う。に、しては(引用者中略)ステレオタイプの文があちこちに登場する。〈感受性の問題〉と何度か主人公はとらえる。そっか、じゃあ、こちらとしては口出し出来ないね、と読み手は、すごすごと引き下がるしかない。」
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他の選考委員
奥泉光
村上龍
島田雅彦
堀江敏幸
小川洋子
高樹のぶ子
宮本輝
川上弘美
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選考委員
奥泉光男60歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
人間世界の実相 総行数93 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
村田沙耶香
女36歳
27 「「コンビニ人間」を推そうと考えて臨んだ」「人は誰しも自分の言葉を喋り、自らの欲望に従って行動しているように見えて、じつはほかの誰かの言葉や欲望を模倣しているにすぎない――と、このあたりの事情は数多の思索者によって論究されてきたわけだけれど、本作はこの人間世界の実相を、世間の常識から外れた怪物的人物を主人公に据えることで、鮮やかに、分かりやすく、かつ可笑しく描き出した。」「傑作と呼んでよいと思います。」
今村夏子
女36歳
10 「短編として過不足ないが、自分は小説に「過」を求めがちなので、どうしても不足を覚えてしまったわけで、そこは気にせず、我が路を進んで欲しいと思います。」
高橋弘希
男36歳
24 「「どうしてこの話なのだろう?」との疑念が浮かぶのをどうしても避けられない。」「物語はどちらにしても陳腐なものなのであるが、陳腐な物語から出発しながら、文章が物語から小説世界を逸脱させ、物語を変容させていくところに小説の魅力は立ち現れるのではないか。」
崔実
女30歳
19 「構成、文章ともにやや稚拙なところがあって、題材の持つインパクトを別にすると、小説としての魅力や奥行きはいまひとつかと思ったのだけれど、なにか不思議な熱、文章の向こうにいる作者の身体が放つエネルギーの波動のごときものが強く感じられて、本作が受賞作となるなら賛成してもよいと考え、(引用者後略)」
山崎ナオコーラ
女37歳
13 「死に向かい合う夫婦の「個別性」が、いまひとつ「普遍性」にまで至り得ていないとの印象を持った。とはいえ、ここには大切なことが書かれているとの感覚は読後に残った。」
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他の選考委員
山田詠美
村上龍
島田雅彦
堀江敏幸
小川洋子
高樹のぶ子
宮本輝
川上弘美
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選考委員
村上龍男64歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
選評 総行数87 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
村田沙耶香
女36歳
87 「「現実を描き出す」それは小説が持つ特質であり、力だ。」「今に限らず、現実は、常に、見えにくい。複雑に絡み合っているが、それはバラバラになったジグソーパズルのように脈絡がなく、本質的なものを抽出するのは、どんな時代でも至難の業だ。作者は、「コンビニ」という、どこにでも存在して、誰もが知っている場所で生きる人々を厳密に描写することに挑戦し、勝利した。」
今村夏子
女36歳
0  
高橋弘希
男36歳
0  
崔実
女30歳
0  
山崎ナオコーラ
女37歳
0  
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他の選考委員
山田詠美
奥泉光
島田雅彦
堀江敏幸
小川洋子
高樹のぶ子
宮本輝
川上弘美
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選考委員
島田雅彦男55歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
不本意な結果 総行数85 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
村田沙耶香
女36歳
25 「セックス忌避、婚姻拒否というこの作者にはおなじみのテーマを『コンビニ人間』というコンセプトに落とし込み、奇天烈な男女のキャラを交差させれば、緩い文章もご都合主義的展開も大目に見てもらえる。巷には思考停止状態のマニュアル人間が自民党の支持者くらいたくさんいるので、風俗小説としてのリアリティはあるが、主人公はいずれサイコパスになり、まともな人間を洗脳してゆくだろう。」
今村夏子
女36歳
9 「寓意的な身辺雑記として、体裁よく仕上がっているが、低いハードルは上手に飛べる。」「乱暴者の弟の代わりにあひるを家族にする話だと考えると、にわかに笑いがこみ上げてくる。」
高橋弘希
男36歳
11 「本編を第一章とする三章構成の中編であれば、家族小説の傑作が誕生していたかもしれない。」
崔実
女30歳
28 「完全アウェイの環境下で、自分にふさわしい文化を獲得しようと、試行錯誤のパズルを繰り返すジニの姿こそが世界標準の青春なのかもしれない。」「受賞は逃したが、『ジニのパズル』はマイナー文学の傑作であることは否定できない。」
山崎ナオコーラ
女37歳
12 「夫婦の距離感を宇宙の膨張による星間距離が遠のくイメージで描いている。いっそファンタジー仕立てで夫婦愛を謳い上げれば、芥川賞などに頼らなくても、ベストセラーを狙えるはず。」
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他の選考委員
山田詠美
奥泉光
村上龍
堀江敏幸
小川洋子
高樹のぶ子
宮本輝
川上弘美
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選考委員
堀江敏幸男52歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
伸縮するもの、しないもの。 総行数85 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
村田沙耶香
女36歳
22 「指のささくれを一本ずつ抜いていくような心理の詰め方が逆にユーモアを生み、異物を排除する正常さの暴力をあぶり出す。読後に差し込む不思議な明るさに、強く引き寄せられた。」
今村夏子
女36歳
16 「結婚八年目で子に恵まれた弟夫婦が、鳥のケージさながら増築した実家に移り住む直前で閉じられる結末の不気味さ。生まれてくる子もまた掛け替え可能なのか。だとしたら、田舎の宇宙はどう変化するのか。それも読みたい。」
高橋弘希
男36歳
16 「言葉の体温を可能なかぎり低く保って、世界が機能不全に陥るのを防ぐ。高橋弘希さんの文章には、そのような働きがある。」「彼女(引用者注:重篤の娘)の命は、もはや語りの素材にすぎない。完成されたこの酷薄な眼を、愛するか否か。」
崔実
女30歳
17 「日本語しか話せないまま朝鮮人学校に入る決断、以後の彼女を揺さぶる言葉の壁、異物を排除する闇との戦いが胸を打つ。」「パズルの動かし方が冒頭で示されていなければ、勢いはもっと増していただろう。」
山崎ナオコーラ
女37歳
14 「死に向かう妻、彼女の属する社会、彼女の両親と夫の距離の伸び縮み。それが、発話者を明示しない書法で的確かつ丁寧に捉えられる。ただ、測定の事例に、どこかサンプリングに似た危うさも漂う。」
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他の選考委員
山田詠美
奥泉光
村上龍
島田雅彦
小川洋子
高樹のぶ子
宮本輝
川上弘美
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選考委員
小川洋子女54歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
ただそれだけのこと 総行数82 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
村田沙耶香
女36歳
26 「社会的異物である主人公を、人工的に正常化したコンビニの箱の中に立たせた時、外の世界にいる人々の怪しさが生々しく見えてくる。あるいは、明らかな奇人、白羽が主人公の部屋で一緒に暮らすうち、思いがけず凡庸な正体を露呈してしまう。あやふやな境界を自在に伸び縮みさせる、このあたりの展開を面白く読んだ。」
今村夏子
女36歳
29 「増殖してゆく子供たちの気色悪さ、誕生日会に誰もやって来ない奇妙な欠落、あひると赤ん坊がすり替わるのではないかという予感。どれも書き手の意図から生まれたのではない。言葉が隠し持つ暗闇から、いつの間にかあぶり出されてきたのだ。そう思わせる底知れない恐ろしさが、この小説にはある。」「受賞に至らなかったのは残念だ。」
高橋弘希
男36歳
10 「“私”の目に映ったこと、“私”がしたことを、余計な飾りを付け加えず、そのままに書く(引用者中略)この信念に最も相応しい題材と出会う時が、いつか必ず訪れるのではないかと思う。」
崔実
女30歳
9 「『ジニのパズル』の迫力は、飛び抜けた存在感を持っていた。だからこそ、なぜもっと文章に丁寧な神経を遣わないのか、歯がゆかった。」
山崎ナオコーラ
女37歳
8 「山崎さんは、平凡を描く難しさに、誠実に向き合った。ただ、作者の視点も、結局、男の価値観の枠内に収まったままでいるのではないか。そういう気がした。」
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他の選考委員
山田詠美
奥泉光
村上龍
島田雅彦
堀江敏幸
高樹のぶ子
宮本輝
川上弘美
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選考委員
高樹のぶ子女70歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
胸を打つ、という一点 総行数78 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
村田沙耶香
女36歳
0  
今村夏子
女36歳
0  
高橋弘希
男36歳
0  
崔実
女30歳
78 「弾ける怒りと哀しみと焦慮を抱えて彷徨する一個の魂を描いた傑作だ。」「胸を打つ、という一点ですべての欠点に目をつむらせる作品こそ、真に優れた作品ではないのか。かつて輝かしい才能が、マイノリティパワーとして飛び出して来たことを思い出す。今回奇跡的に芥川賞までやって来たのに、掴むことが出来なかった。」
山崎ナオコーラ
女37歳
0  
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他の選考委員
山田詠美
奥泉光
村上龍
島田雅彦
堀江敏幸
小川洋子
宮本輝
川上弘美
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選考委員
宮本輝男69歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
佳品揃い 総行数97 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
村田沙耶香
女36歳
20 「職場というものが、その仕事への好悪とはべつに、そこで働く人間の意識下に与える何物かを形づくっていくさまを、村田さんは肩肘張らずに小説化してみせた。」「その手腕は見事であって、わたしは芥川賞にふさわしいと思った。」
今村夏子
女36歳
15 「わたしは読み終わって、なんだか手品を見せられたような心持になった。優れた短篇の良さだが、芥川賞としてはいささか小品過ぎて強く推せないという思いが大半の委員の感想だった。」
高橋弘希
男36歳
19 「あまりに淡彩、かつ頑固過ぎて、靄か霞を見せられたようだった。」「なにもかも曖昧模糊にして小説を閉じたが、それならそれで閉じたあとに始まるものを読み手に差し出さなければならない。」「しかしこれも粒揃いの候補作のひとつという前提における感想である。」
崔実
女30歳
15 「前の三分の一と後の三分の二とで文体が変わってしまうのが気にいらなかった。変わるというよりも不揃いといったほうがいいかもしれない。」「書き手が変わったのかと思うほどの変化を感じて、わたしは推せなかった。」
山崎ナオコーラ
女37歳
25 「これまでの山崎さんの候補作品のなかでは最も優れていると思う。」「けれども、このような小説はこれまでに幾つも読んだという気がするのだ。」「賞に推せない脆弱さが読後に浮き上がってくる。夫婦が生身の人間としての匂いを持っていないからかもしれない。」
  「今回の候補作五篇、印象に残るいい作品揃いでどれも捨てがたく、わたしとしては難しい選考会だった。」
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他の選考委員
山田詠美
奥泉光
村上龍
島田雅彦
堀江敏幸
小川洋子
高樹のぶ子
川上弘美
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選考委員
川上弘美女58歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
名前を与える 総行数96 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
村田沙耶香
女36歳
11 「おそろしくて、可笑しくて、可愛くて(選評で「可愛い」という言葉を初めて使いました)、大胆で、緻密。圧倒的でした。」「(引用者注:「美しい距離」と共に)強く推しました。」
今村夏子
女36歳
10 「ごく優しい言葉を使って、見も知らぬ恐ろしい「何か」にたくさん名前をつけてくれました。「またさわがしくなるだろう。そしてわたしはますます勉強に身が入らなくなる…」という、最後の方の二行が、この小説を理に引き寄せてしまったのが、惜しかった。」
高橋弘希
男36歳
10 「「短冊流し」の中には、洗練がありました。」「どうぞその先を、見せて下さい。この作品の中にある美しさの、その先の美しさを。」
崔実
女30歳
25 「いくつものエピソードや主人公の心の内を描いた言葉に対しては、わたしはさまざまな海外文学の中に描かれているものからの呼び声のようなものを感じてしまいました。」「この小説の中にある過剰さには、惹かれました。作者は、まだその過剰さに自分で名前をつけることができていない。」
山崎ナオコーラ
女37歳
18 「一見巷にあふれているものの名前を使った小説に見えて、実は多くの新しい名づけがなされている小説なのだと、わたしは読みました。」「それから、作中の人たちのことを思って、すこし泣きました。」「(引用者注:「コンビニ人間」と共に)強く推しました。」
  「何年か選考をしてきて、少しわかったことがあります。いい小説は、今まで誰も気づかなかった何かに、名前を与えてくれている、ということです。」
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他の選考委員
山田詠美
奥泉光
村上龍
島田雅彦
堀江敏幸
小川洋子
高樹のぶ子
宮本輝
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受賞者・作品
村田沙耶香女36歳×各選考委員 
「コンビニ人間」
中篇 205
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
山田詠美
女57歳
12 「コンビニという小さな箱とその周辺。そんなタイニーワールドを描いただけなのに、この作品には小説のおもしろさのすべてが、ぎゅっと凝縮されて詰まっている。十数年選考委員をやって来たが、候補作を読んで笑ったのは初めて。」
奥泉光
男60歳
27 「「コンビニ人間」を推そうと考えて臨んだ」「人は誰しも自分の言葉を喋り、自らの欲望に従って行動しているように見えて、じつはほかの誰かの言葉や欲望を模倣しているにすぎない――と、このあたりの事情は数多の思索者によって論究されてきたわけだけれど、本作はこの人間世界の実相を、世間の常識から外れた怪物的人物を主人公に据えることで、鮮やかに、分かりやすく、かつ可笑しく描き出した。」「傑作と呼んでよいと思います。」
村上龍
男64歳
87 「「現実を描き出す」それは小説が持つ特質であり、力だ。」「今に限らず、現実は、常に、見えにくい。複雑に絡み合っているが、それはバラバラになったジグソーパズルのように脈絡がなく、本質的なものを抽出するのは、どんな時代でも至難の業だ。作者は、「コンビニ」という、どこにでも存在して、誰もが知っている場所で生きる人々を厳密に描写することに挑戦し、勝利した。」
島田雅彦
男55歳
25 「セックス忌避、婚姻拒否というこの作者にはおなじみのテーマを『コンビニ人間』というコンセプトに落とし込み、奇天烈な男女のキャラを交差させれば、緩い文章もご都合主義的展開も大目に見てもらえる。巷には思考停止状態のマニュアル人間が自民党の支持者くらいたくさんいるので、風俗小説としてのリアリティはあるが、主人公はいずれサイコパスになり、まともな人間を洗脳してゆくだろう。」
堀江敏幸
男52歳
22 「指のささくれを一本ずつ抜いていくような心理の詰め方が逆にユーモアを生み、異物を排除する正常さの暴力をあぶり出す。読後に差し込む不思議な明るさに、強く引き寄せられた。」
小川洋子
女54歳
26 「社会的異物である主人公を、人工的に正常化したコンビニの箱の中に立たせた時、外の世界にいる人々の怪しさが生々しく見えてくる。あるいは、明らかな奇人、白羽が主人公の部屋で一緒に暮らすうち、思いがけず凡庸な正体を露呈してしまう。あやふやな境界を自在に伸び縮みさせる、このあたりの展開を面白く読んだ。」
高樹のぶ子
女70歳
0  
宮本輝
男69歳
20 「職場というものが、その仕事への好悪とはべつに、そこで働く人間の意識下に与える何物かを形づくっていくさまを、村田さんは肩肘張らずに小説化してみせた。」「その手腕は見事であって、わたしは芥川賞にふさわしいと思った。」
川上弘美
女58歳
11 「おそろしくて、可笑しくて、可愛くて(選評で「可愛い」という言葉を初めて使いました)、大胆で、緻密。圧倒的でした。」「(引用者注:「美しい距離」と共に)強く推しました。」
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他の候補作
今村夏子
「あひる」
高橋弘希
「短冊流し」
崔実
「ジニのパズル」
山崎ナオコーラ
「美しい距離」
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候補者・作品
今村夏子女36歳×各選考委員 
「あひる」
短篇 57
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
山田詠美
女57歳
10 「淡々とした描写の中に、そこはかとない恐ろしさがある。あひるが弟の赤ちゃんのメタファー? と思ってしまうのは深読み? そんなふうに勝手に結末以降を想像してみると……怖いです。」
奥泉光
男60歳
10 「短編として過不足ないが、自分は小説に「過」を求めがちなので、どうしても不足を覚えてしまったわけで、そこは気にせず、我が路を進んで欲しいと思います。」
村上龍
男64歳
0  
島田雅彦
男55歳
9 「寓意的な身辺雑記として、体裁よく仕上がっているが、低いハードルは上手に飛べる。」「乱暴者の弟の代わりにあひるを家族にする話だと考えると、にわかに笑いがこみ上げてくる。」
堀江敏幸
男52歳
16 「結婚八年目で子に恵まれた弟夫婦が、鳥のケージさながら増築した実家に移り住む直前で閉じられる結末の不気味さ。生まれてくる子もまた掛け替え可能なのか。だとしたら、田舎の宇宙はどう変化するのか。それも読みたい。」
小川洋子
女54歳
29 「増殖してゆく子供たちの気色悪さ、誕生日会に誰もやって来ない奇妙な欠落、あひると赤ん坊がすり替わるのではないかという予感。どれも書き手の意図から生まれたのではない。言葉が隠し持つ暗闇から、いつの間にかあぶり出されてきたのだ。そう思わせる底知れない恐ろしさが、この小説にはある。」「受賞に至らなかったのは残念だ。」
高樹のぶ子
女70歳
0  
宮本輝
男69歳
15 「わたしは読み終わって、なんだか手品を見せられたような心持になった。優れた短篇の良さだが、芥川賞としてはいささか小品過ぎて強く推せないという思いが大半の委員の感想だった。」
川上弘美
女58歳
10 「ごく優しい言葉を使って、見も知らぬ恐ろしい「何か」にたくさん名前をつけてくれました。「またさわがしくなるだろう。そしてわたしはますます勉強に身が入らなくなる…」という、最後の方の二行が、この小説を理に引き寄せてしまったのが、惜しかった。」
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他の候補作
村田沙耶香
「コンビニ人間」
高橋弘希
「短冊流し」
崔実
「ジニのパズル」
山崎ナオコーラ
「美しい距離」
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候補者・作品
高橋弘希男36歳×各選考委員 
「短冊流し」
短篇 49
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
山田詠美
女57歳
20 「瀕死の状態の幼ない娘に寄り添い続ける父親の傍観ぶりが、どうにも物足りない。」「高いハードルをはなから見放すことと、跳んで倒しながらも前に向かうことの、どちらが小説にとって大切なのかを、もう一度考える必要があるだろう。」
奥泉光
男60歳
24 「「どうしてこの話なのだろう?」との疑念が浮かぶのをどうしても避けられない。」「物語はどちらにしても陳腐なものなのであるが、陳腐な物語から出発しながら、文章が物語から小説世界を逸脱させ、物語を変容させていくところに小説の魅力は立ち現れるのではないか。」
村上龍
男64歳
0  
島田雅彦
男55歳
11 「本編を第一章とする三章構成の中編であれば、家族小説の傑作が誕生していたかもしれない。」
堀江敏幸
男52歳
16 「言葉の体温を可能なかぎり低く保って、世界が機能不全に陥るのを防ぐ。高橋弘希さんの文章には、そのような働きがある。」「彼女(引用者注:重篤の娘)の命は、もはや語りの素材にすぎない。完成されたこの酷薄な眼を、愛するか否か。」
小川洋子
女54歳
10 「“私”の目に映ったこと、“私”がしたことを、余計な飾りを付け加えず、そのままに書く(引用者中略)この信念に最も相応しい題材と出会う時が、いつか必ず訪れるのではないかと思う。」
高樹のぶ子
女70歳
0  
宮本輝
男69歳
19 「あまりに淡彩、かつ頑固過ぎて、靄か霞を見せられたようだった。」「なにもかも曖昧模糊にして小説を閉じたが、それならそれで閉じたあとに始まるものを読み手に差し出さなければならない。」「しかしこれも粒揃いの候補作のひとつという前提における感想である。」
川上弘美
女58歳
10 「「短冊流し」の中には、洗練がありました。」「どうぞその先を、見せて下さい。この作品の中にある美しさの、その先の美しさを。」
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他の候補作
村田沙耶香
「コンビニ人間」
今村夏子
「あひる」
崔実
「ジニのパズル」
山崎ナオコーラ
「美しい距離」
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候補者・作品
崔実女30歳×各選考委員 
「ジニのパズル」
中篇 214
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
山田詠美
女57歳
21 「文章が荒過ぎる。特に比喩。どうして、こんなにも大仰な擬人化?」「欠点は山程あるのだ。しかし、パワーもすごくある。書かざるを得ない作者の熱が伝わって来る。」
奥泉光
男60歳
19 「構成、文章ともにやや稚拙なところがあって、題材の持つインパクトを別にすると、小説としての魅力や奥行きはいまひとつかと思ったのだけれど、なにか不思議な熱、文章の向こうにいる作者の身体が放つエネルギーの波動のごときものが強く感じられて、本作が受賞作となるなら賛成してもよいと考え、(引用者後略)」
村上龍
男64歳
0  
島田雅彦
男55歳
28 「完全アウェイの環境下で、自分にふさわしい文化を獲得しようと、試行錯誤のパズルを繰り返すジニの姿こそが世界標準の青春なのかもしれない。」「受賞は逃したが、『ジニのパズル』はマイナー文学の傑作であることは否定できない。」
堀江敏幸
男52歳
17 「日本語しか話せないまま朝鮮人学校に入る決断、以後の彼女を揺さぶる言葉の壁、異物を排除する闇との戦いが胸を打つ。」「パズルの動かし方が冒頭で示されていなければ、勢いはもっと増していただろう。」
小川洋子
女54歳
9 「『ジニのパズル』の迫力は、飛び抜けた存在感を持っていた。だからこそ、なぜもっと文章に丁寧な神経を遣わないのか、歯がゆかった。」
高樹のぶ子
女70歳
78 「弾ける怒りと哀しみと焦慮を抱えて彷徨する一個の魂を描いた傑作だ。」「胸を打つ、という一点ですべての欠点に目をつむらせる作品こそ、真に優れた作品ではないのか。かつて輝かしい才能が、マイノリティパワーとして飛び出して来たことを思い出す。今回奇跡的に芥川賞までやって来たのに、掴むことが出来なかった。」
宮本輝
男69歳
15 「前の三分の一と後の三分の二とで文体が変わってしまうのが気にいらなかった。変わるというよりも不揃いといったほうがいいかもしれない。」「書き手が変わったのかと思うほどの変化を感じて、わたしは推せなかった。」
川上弘美
女58歳
25 「いくつものエピソードや主人公の心の内を描いた言葉に対しては、わたしはさまざまな海外文学の中に描かれているものからの呼び声のようなものを感じてしまいました。」「この小説の中にある過剰さには、惹かれました。作者は、まだその過剰さに自分で名前をつけることができていない。」
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他の候補作
村田沙耶香
「コンビニ人間」
今村夏子
「あひる」
高橋弘希
「短冊流し」
山崎ナオコーラ
「美しい距離」
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候補者・作品
山崎ナオコーラ女37歳×各選考委員 
「美しい距離」
中篇 227
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
山田詠美
女57歳
23 「「穏やかな尊厳ある死」のような〈ステレオタイプの言葉に洗脳されてたまるもんか〉と主人公は思う。に、しては(引用者中略)ステレオタイプの文があちこちに登場する。〈感受性の問題〉と何度か主人公はとらえる。そっか、じゃあ、こちらとしては口出し出来ないね、と読み手は、すごすごと引き下がるしかない。」
奥泉光
男60歳
13 「死に向かい合う夫婦の「個別性」が、いまひとつ「普遍性」にまで至り得ていないとの印象を持った。とはいえ、ここには大切なことが書かれているとの感覚は読後に残った。」
村上龍
男64歳
0  
島田雅彦
男55歳
12 「夫婦の距離感を宇宙の膨張による星間距離が遠のくイメージで描いている。いっそファンタジー仕立てで夫婦愛を謳い上げれば、芥川賞などに頼らなくても、ベストセラーを狙えるはず。」
堀江敏幸
男52歳
14 「死に向かう妻、彼女の属する社会、彼女の両親と夫の距離の伸び縮み。それが、発話者を明示しない書法で的確かつ丁寧に捉えられる。ただ、測定の事例に、どこかサンプリングに似た危うさも漂う。」
小川洋子
女54歳
8 「山崎さんは、平凡を描く難しさに、誠実に向き合った。ただ、作者の視点も、結局、男の価値観の枠内に収まったままでいるのではないか。そういう気がした。」
高樹のぶ子
女70歳
0  
宮本輝
男69歳
25 「これまでの山崎さんの候補作品のなかでは最も優れていると思う。」「けれども、このような小説はこれまでに幾つも読んだという気がするのだ。」「賞に推せない脆弱さが読後に浮き上がってくる。夫婦が生身の人間としての匂いを持っていないからかもしれない。」
川上弘美
女58歳
18 「一見巷にあふれているものの名前を使った小説に見えて、実は多くの新しい名づけがなされている小説なのだと、わたしは読みました。」「それから、作中の人たちのことを思って、すこし泣きました。」「(引用者注:「コンビニ人間」と共に)強く推しました。」
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他の候補作
村田沙耶香
「コンビニ人間」
今村夏子
「あひる」
高橋弘希
「短冊流し」
崔実
「ジニのパズル」
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