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平成5年/1993年上半期
(平成5年/1993年7月15日決定発表/『オール讀物』平成5年/1993年9月号選評掲載)
選考委員  田辺聖子
女65歳
黒岩重吾
男69歳
井上ひさし
男58歳
陳舜臣
男69歳
藤沢周平
男65歳
五木寛之
男60歳
山口瞳
男66歳
渡辺淳一
男59歳
平岩弓枝
女61歳
選評総行数  90 86 101 84 115 92 99 96 73
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
高村薫 『マークスの山』
1144
女40歳
60 39 24 31 45 19 45 43 20
北原亞以子 『恋忘れ草』
383
女55歳
27 18 16 16 18 24 29 30 20
今井泉 『ガラスの墓標』
446
男58歳
0 30 24 7 16 10 0 11 11
本岡類 『真冬の誘拐者』
623
男42歳
0 0 19 16 14 7 0 10 13
中島らも 『ガダラの豚』
1470
男41歳
4 0 18 12 22 32 20 5 9
                 
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『オール讀物』平成5年/1993年9月号
1行当たりの文字数:13字


選考委員
田辺聖子女65歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
感動と情緒の女流の二作 総行数90 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
高村薫
女40歳
60 「私はこの作品を二度読み、二度とも感動したばかりでなく、再度、尽きせぬ興趣と魅力をおぼえ、それは二度めのほうが強かった。」「何よりこの作品の強い魅力は、刑事群像の躍動感、存在感であろう。」「構成が巧みなので、真相が追い追い露わになってゆく緊迫感がひときわ強い。」「文章も硬質、簡潔でいいが、一つ気になったのは、「見れる」「省みれなかった」「降りれる」などの「ら」抜きの用法。」
北原亞以子
女55歳
27 「哀も歓も双方、描きおおせて、しかも文学的品位を保ち、しっとりした情緒をたたえているところがいい。」「現代に通ずる〈江戸の女たち〉をいきいきと情をこめて送り出して下さった。」
今井泉
男58歳
0  
本岡類
男42歳
0  
中島らも
男41歳
4 「興趣横溢という点では、受賞作二作に決して劣らない。次作に期待。」
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他の選考委員
黒岩重吾
井上ひさし
陳舜臣
藤沢周平
五木寛之
山口瞳
渡辺淳一
平岩弓枝
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選考委員
黒岩重吾男69歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
毒に痺れる 総行数86 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
高村薫
女40歳
39 「突出しており、」「(引用者注:殺人犯と看護婦の)二人の関係には呻きがあり毒が滲み出ている。」「心象風景の中の山が迫って来るせいかもしれないが、生臭く俗な人間に対する小説の勝利といって良いであろう。」「これを推理小説として読むと欠点は多い。(引用者中略)それにも拘らず私が本小説に魅了されたのは、毒気が欠点を麻痺させたからである。」
北原亞以子
女55歳
18 「総ての短篇が旨く纏められていて愉しみながら読むことが出来た。ただ、登場人物が作者の設定通りに動いているような気がする。その中でも余り作為を感じなかったのは「恋忘れ草」である。」「男性を視る女主人公の眼に、ベテランホステスに似たしたたかさを感じた。」
今井泉
男58歳
30 「表題作が優れている。」「(引用者注:樺太から北海道に向かう)その間の人間と海との闘いには、息を呑むほどの迫真力がある。」「「道連れ」「島模様」も佳作だが、票が集まらなかったのは、人間でいえば臍が隠れていたせいかもしれない。受賞に価する作品だったが残念である。」
本岡類
男42歳
0  
中島らも
男41歳
0  
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他の選考委員
田辺聖子
井上ひさし
陳舜臣
藤沢周平
五木寛之
山口瞳
渡辺淳一
平岩弓枝
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選考委員
井上ひさし男58歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
圧倒的な膂力 総行数101 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
高村薫
女40歳
24 「圧倒的な膂力の持主である。それ以外に評言の用意がない。」「この作品で作者は、真知子という善悪をはるかに超えた「人生の泥と涙にまみれて人を愛する女」を創造し、読者との関係をしっかりと付けた。彼女の愛は、推理小説だの警察小説だのといった狭い枠を越えて、はるか普遍の愛にまで達している。」
北原亞以子
女55歳
16 「彼女たち(引用者注:登場人物たち)の自立が、常に自分より劣った男性を踏み台にして成し遂げられるところに軽い不満を抱いていたが、選考者の皆さんの熱い支持の言葉に耳を傾けているうちに、その不満はきれいに消えた。読み直せば、爽やかさがゆっくりと立ち上ってくるような佳品揃い、結末も定型を外していて気品がある。」
今井泉
男58歳
24 「候補対象となった三編のうちの白眉は「道連れ」であると思うが、これもまた荒れ狂う海を主役にした物語で、作者の本領が充分に発揮された一編。だが、作者にはうっとうしい、ないものねだりの言い方になるかもしれないが、作者の常識が話の結末に窮屈な枠を強いているような気がしてならない。」
本岡類
男42歳
19 「新手のアイデアをいくつも工夫している。」「がしかし、これらの新工夫を紡ぎ出す肝心な文章にやや魅力を欠き、それが捜査側の人間造型によくない影響を与えている。」
中島らも
男41歳
18 「作者の才筆は今回も読者を堪能させてくれる。」「その手腕に喝采を惜しむものではないが、今回は物語の勘どころに破綻があったようだ。」「それでもこの作品に合格点をつけたのはおもしろさでは際立っていたからであるが、やはり支持する声は少なかった。」
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他の選考委員
田辺聖子
黒岩重吾
陳舜臣
藤沢周平
五木寛之
山口瞳
渡辺淳一
平岩弓枝
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選考委員
陳舜臣男69歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
減点・加点 総行数84 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
高村薫
女40歳
31 「減点法で品評すれば、多くの点を失うであろう。」「動機についてかなりマイナス点をつけねばならない。」「だが、加点式で得た点は、減点数をはるかに越える。犯人の異常性がみごとにえがかれ、これが動機の弱さを補ってあまりあるものがあった。難をいえば、会話が概して長すぎる。」
北原亞以子
女55歳
16 「減点のすくない堅実な作品である。ただし、加点法で行けば、それほど得点がなかったであろう。なによりもこの作品群は文章がすぐれていた。それぞれ仕事をもつ江戸の女性をえがき、その哀歓が、過不足なくにじみ出ている。」
今井泉
男58歳
7 「樺太脱出のあたり、海を熟知する人でなければ書けない強味があった。海洋文学不振の日本にあって、今井氏は得難い才能であり、将来を期待したい。」
本岡類
男42歳
16 「私はわりあい面白く読んだ。ただこの小説は、殺人事件がなくても成立するので、無理にこしらえないほうがよいという気がした。」「医療技術の進歩によってうまれる問題に着眼したことに敬意を表したい。もっとも渡辺医学博士によれば、確率はもっと低いということで、それならこの作品は根底から成立しないことになる。」
中島らも
男41歳
12 「冒頭が面白く、期待して読み進んだが、やがてそれは裏切られた。このような反現実世界をえがくには、現実世界と薄い膜ひとつはなれたところに構築し、そこから逆に現実世界を照らし出さねばならない。なによりも長すぎる。よけいなだじゃれは省略して、もっと緊迫した世界をえがき出してほしい。」
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他の選考委員
田辺聖子
黒岩重吾
井上ひさし
藤沢周平
五木寛之
山口瞳
渡辺淳一
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選考委員
藤沢周平男65歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「マークスの山」を推す 総行数115 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
高村薫
女40歳
45 「選考委員が異口同音に言ったように、欠点の多い作品だった。それにもかかわらずこの小説を推理小説史上に残る傑作と断定したくなるのは、話のおもしろさに加えて人間が書けているからである。」「物語に厚みがあり、描かれている警察機構と刑事たちに迫真のリアリティがあった。」「これほど欠点が目立ちながらこれほどためらいなく推せた受賞作もめずらしいと言わねばならない。」
北原亞以子
女55歳
18 「登場する男女のことも、それぞれの一篇の結末も淡白に過ぎ、小説としてはやや燃焼不足のように思われた。そういうことで私は積極的に推しかねたが、この短篇集にはたしかな江戸の手ざわりがあり、また作者の個性も明瞭で、誰かが推してくれればいいと思っていた」
今井泉
男58歳
16 「男くさい魅力を持つ短篇集だった。中でも「道連れ」の一篇が、若い暴走族の男たちと船乗りの犯罪と冒険を描いて気持のいい小説である。」「個性的で実力のある作家だと思う。」
本岡類
男42歳
14 「謎の組立ても謎解きの過程もおもしろかった。」「しかし刑事の描き方などはやや類型的で、総じて優等生の書いた推理小説の範囲を出ないという印象が残る。よく出来ているがやや魅力に欠ける作品というべきか。」
中島らも
男41歳
22 「おもしろい小説だった。」「らもさんの小説のおもしろさは、真の呪術はわれわれの日常と不即不離の関係で現在も存在するという事実を大テーマに据え、文明の暗黒面に触手をのばしている点にある。ただらもさんは頭脳明晰に過ぎるのか、不思議を不思議としておけずにただちに解説を加えるので興ざめするところがあった。」
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他の選考委員
田辺聖子
黒岩重吾
井上ひさし
陳舜臣
五木寛之
山口瞳
渡辺淳一
平岩弓枝
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選考委員
五木寛之男60歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
北原さんを推す 総行数92 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
高村薫
女40歳
19 「今回の候補作家のなかでもっとも筆力のあるのが高村さんだろう。私が〈マークスの山〉を受賞作として一本で推さなかったのは、犯罪の動機に納得がいかなかったのと、警察内部の人間関係にあまり興味がなかったせいである。事件の背後にある人間の意識の深淵への関心が、この作家の本領なのかもしれない。」
北原亞以子
女55歳
24 「この題名がいかにも古い、という意見も出たが、私は逆に北原亞以子の世界にふさわしい題だと思った。」「川口松太郎さんの初期の名作を思わせる芸道小説の新しい展開がここにあると思った。」「〈まんがら茂平次〉で一家を成した作家だが、まだまだ大きく化ける可能性を秘めた才能である。」
今井泉
男58歳
10 「一点どうしても引っかかるところがあった。作者と作中人物の距離の問題である。フィクションとしての自立性がとぼしいと感じられるのは、作者が作中人物につき(原文傍点)すぎているせいなのだろうか。」
本岡類
男42歳
7 「品のいい作品だが、いまひとつ読者を惹きつけて離さない膂力に欠けるような気がした。推理小説としてでなく書いたほうが、いい作品になったのではあるまいか。」
中島らも
男41歳
32 「読みはじめてしばらくは、こいつは凄い小説になりそうだぞ、と、ぞくぞくしながらページをめくったのだが、後がいけない。」「肩すかしをくらったような気分だった。」「また、これだけの小説を書くためには、参考文献の読みかたが足りないような気もしないではない。」「どう考えても、この三分の一の長さで十分な題材である。」
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他の選考委員
田辺聖子
黒岩重吾
井上ひさし
陳舜臣
藤沢周平
山口瞳
渡辺淳一
平岩弓枝
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選考委員
山口瞳男66歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
高村さんは凄い人だ 総行数99 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
高村薫
女40歳
45 「雄渾で迫力があり、一人一人の警察官に人間臭がある。」「ところが最終章の《収穫》に至ってメチャクチャになる。」「著者の略歴を見ると、本名林みどり、果たして歴とした女性だった。(引用者中略)作者を警察関係の人だと思った不明を恥じた。いや、あらためて作者の腕力に敬服したと言ったほうがいい。」「私はこの作品ではなく高村さんの才能に惚れた。」
北原亞以子
女55歳
29 「全体として立ち姿が綺麗過ぎる(原文傍点)んじゃないかと思った。作者は主人公の恰好よさに惚れこみすぎている。」「状況が叮嚀に書きこまれているのに、肝腎な男女のことになると意外に情感に乏しい。」「私の意見なんか無視してこのまま押してゆけば、もっと明るいところへ出られるはずだという思いもあったので受賞に賛成することにした。」
今井泉
男58歳
0  
本岡類
男42歳
0  
中島らも
男41歳
20 「票が集まらなかったのには驚いた。とにかく読ませる。特に前半のインチキ新興宗教を暴くあたりの調子がいい。しかし、三部にわかれている第二部のアフリカに到着する頃からダレてくる。何といっても長すぎる。」「中島さんはキチンと枠組を組んでから書いたほうがいいように思う。」
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他の選考委員
田辺聖子
黒岩重吾
井上ひさし
陳舜臣
藤沢周平
五木寛之
渡辺淳一
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選考委員
渡辺淳一男59歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
二人の作家 総行数96 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
高村薫
女40歳
43 「いくつかの疑問と無理があり、この点だけを問題にすれば、かなりの減点はまぬがれない。だがそれにもかかわらず受賞作となりえた理由のひとつは、圧倒的な文章の強さにあった。」「いまひとつ惹かれたのは、表面は推理小説の形をとりながら、その底に、人間を描こうとする真摯な目が光っていることである。」
北原亞以子
女55歳
30 「いかにもこの作者らしい丁寧な仕上りで、読むうちに、その時代と人物がふっくらと浮き出てくる。」「この作品によって、男の従属物のように書かれていた江戸の女が、ようやく正当に評価されたというべきだろう。」「巧みさはいうまでもないが、さらにまろやかさと初々しさが加味されて、爽やかで引締った好短篇集となっている。」
今井泉
男58歳
11 「前半の推理的な部分と、後半の樺太引揚げの部分とが割れていて、全体の印象としては、腰砕けとなってしまった。」「三本の短篇のなかでは「島模様」の素直な書き方に惹かれた。」
本岡類
男42歳
10 「わかり易く、アイデアもよく、現代的な問題も巧みに挿入されているが、読後、心に沁みてくるものは薄い。これはおそらく著者が話をつくることだけに熱心で、小説に心を入れることを忘れていたからであろう。」
中島らも
男41歳
5 「知識やお喋りは相当なものだが、本当の実はあまり入っていないようである。」
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他の選考委員
田辺聖子
黒岩重吾
井上ひさし
陳舜臣
藤沢周平
五木寛之
山口瞳
平岩弓枝
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選考委員
平岩弓枝女61歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
北原さんの丁寧な仕事ぶり 総行数73 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
高村薫
女40歳
20 「文字の間からすさまじいばかりの熱気が立ち上って来るようで、そのねばり強さと迫力には、脱帽する思いであった。ただ、ミステリーとして、この作品を取りあげた場合、あまりに偶然の積み重ねの多いのが気になった。」
北原亞以子
女55歳
20 「長いキャリアからいっても、最近の丁寧な仕事ぶりを拝見しても、直木賞を受賞するにふさわしいと感じていた」「江戸時代のキャリアウーマンを書くということだったそうだが、その発想が各々の短篇に生きている。」
今井泉
男58歳
11 「心に残った作品であった。」「作者の優しさを感じさせるのが「島模様」であり、怖さが底にあるのが「ガラスの墓標」だろうか。ただ、後者の場合、女主人公が長いこと夫にまでかくしていたせいゆうに関する秘密が、それほどのことだったのかという気持がした。」
本岡類
男42歳
13 「意図は面白いのだが、登場人物が表面的にしか浮んで来ないために、作りものめいた印象が強くなった。一人一人の人間をもっと突っ込んで丁寧に書いて行ったら、作者の試みは成功したと思う。」
中島らも
男41歳
9 「作者の大智識はともかく、肝腎の呪術に対して、作者は信じるのか、否定するのか、腹がきまっていないのがいけない。読者の判断にまかせるといっても、作者はどう考えているのかと訊かれて返事が出来なくては無責任であろう。」
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他の選考委員
田辺聖子
黒岩重吾
井上ひさし
陳舜臣
藤沢周平
五木寛之
山口瞳
渡辺淳一
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受賞者・作品
高村薫女40歳×各選考委員 
『マークスの山』
長篇 1144
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子
女65歳
60 「私はこの作品を二度読み、二度とも感動したばかりでなく、再度、尽きせぬ興趣と魅力をおぼえ、それは二度めのほうが強かった。」「何よりこの作品の強い魅力は、刑事群像の躍動感、存在感であろう。」「構成が巧みなので、真相が追い追い露わになってゆく緊迫感がひときわ強い。」「文章も硬質、簡潔でいいが、一つ気になったのは、「見れる」「省みれなかった」「降りれる」などの「ら」抜きの用法。」
黒岩重吾
男69歳
39 「突出しており、」「(引用者注:殺人犯と看護婦の)二人の関係には呻きがあり毒が滲み出ている。」「心象風景の中の山が迫って来るせいかもしれないが、生臭く俗な人間に対する小説の勝利といって良いであろう。」「これを推理小説として読むと欠点は多い。(引用者中略)それにも拘らず私が本小説に魅了されたのは、毒気が欠点を麻痺させたからである。」
井上ひさし
男58歳
24 「圧倒的な膂力の持主である。それ以外に評言の用意がない。」「この作品で作者は、真知子という善悪をはるかに超えた「人生の泥と涙にまみれて人を愛する女」を創造し、読者との関係をしっかりと付けた。彼女の愛は、推理小説だの警察小説だのといった狭い枠を越えて、はるか普遍の愛にまで達している。」
陳舜臣
男69歳
31 「減点法で品評すれば、多くの点を失うであろう。」「動機についてかなりマイナス点をつけねばならない。」「だが、加点式で得た点は、減点数をはるかに越える。犯人の異常性がみごとにえがかれ、これが動機の弱さを補ってあまりあるものがあった。難をいえば、会話が概して長すぎる。」
藤沢周平
男65歳
45 「選考委員が異口同音に言ったように、欠点の多い作品だった。それにもかかわらずこの小説を推理小説史上に残る傑作と断定したくなるのは、話のおもしろさに加えて人間が書けているからである。」「物語に厚みがあり、描かれている警察機構と刑事たちに迫真のリアリティがあった。」「これほど欠点が目立ちながらこれほどためらいなく推せた受賞作もめずらしいと言わねばならない。」
五木寛之
男60歳
19 「今回の候補作家のなかでもっとも筆力のあるのが高村さんだろう。私が〈マークスの山〉を受賞作として一本で推さなかったのは、犯罪の動機に納得がいかなかったのと、警察内部の人間関係にあまり興味がなかったせいである。事件の背後にある人間の意識の深淵への関心が、この作家の本領なのかもしれない。」
山口瞳
男66歳
45 「雄渾で迫力があり、一人一人の警察官に人間臭がある。」「ところが最終章の《収穫》に至ってメチャクチャになる。」「著者の略歴を見ると、本名林みどり、果たして歴とした女性だった。(引用者中略)作者を警察関係の人だと思った不明を恥じた。いや、あらためて作者の腕力に敬服したと言ったほうがいい。」「私はこの作品ではなく高村さんの才能に惚れた。」
渡辺淳一
男59歳
43 「いくつかの疑問と無理があり、この点だけを問題にすれば、かなりの減点はまぬがれない。だがそれにもかかわらず受賞作となりえた理由のひとつは、圧倒的な文章の強さにあった。」「いまひとつ惹かれたのは、表面は推理小説の形をとりながら、その底に、人間を描こうとする真摯な目が光っていることである。」
平岩弓枝
女61歳
20 「文字の間からすさまじいばかりの熱気が立ち上って来るようで、そのねばり強さと迫力には、脱帽する思いであった。ただ、ミステリーとして、この作品を取りあげた場合、あまりに偶然の積み重ねの多いのが気になった。」
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他の候補作
北原亞以子
『恋忘れ草』
今井泉
『ガラスの墓標』
本岡類
『真冬の誘拐者』
中島らも
『ガダラの豚』
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受賞者・作品
北原亞以子女55歳×各選考委員 
『恋忘れ草』
連作6篇 383
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子
女65歳
27 「哀も歓も双方、描きおおせて、しかも文学的品位を保ち、しっとりした情緒をたたえているところがいい。」「現代に通ずる〈江戸の女たち〉をいきいきと情をこめて送り出して下さった。」
黒岩重吾
男69歳
18 「総ての短篇が旨く纏められていて愉しみながら読むことが出来た。ただ、登場人物が作者の設定通りに動いているような気がする。その中でも余り作為を感じなかったのは「恋忘れ草」である。」「男性を視る女主人公の眼に、ベテランホステスに似たしたたかさを感じた。」
井上ひさし
男58歳
16 「彼女たち(引用者注:登場人物たち)の自立が、常に自分より劣った男性を踏み台にして成し遂げられるところに軽い不満を抱いていたが、選考者の皆さんの熱い支持の言葉に耳を傾けているうちに、その不満はきれいに消えた。読み直せば、爽やかさがゆっくりと立ち上ってくるような佳品揃い、結末も定型を外していて気品がある。」
陳舜臣
男69歳
16 「減点のすくない堅実な作品である。ただし、加点法で行けば、それほど得点がなかったであろう。なによりもこの作品群は文章がすぐれていた。それぞれ仕事をもつ江戸の女性をえがき、その哀歓が、過不足なくにじみ出ている。」
藤沢周平
男65歳
18 「登場する男女のことも、それぞれの一篇の結末も淡白に過ぎ、小説としてはやや燃焼不足のように思われた。そういうことで私は積極的に推しかねたが、この短篇集にはたしかな江戸の手ざわりがあり、また作者の個性も明瞭で、誰かが推してくれればいいと思っていた」
五木寛之
男60歳
24 「この題名がいかにも古い、という意見も出たが、私は逆に北原亞以子の世界にふさわしい題だと思った。」「川口松太郎さんの初期の名作を思わせる芸道小説の新しい展開がここにあると思った。」「〈まんがら茂平次〉で一家を成した作家だが、まだまだ大きく化ける可能性を秘めた才能である。」
山口瞳
男66歳
29 「全体として立ち姿が綺麗過ぎる(原文傍点)んじゃないかと思った。作者は主人公の恰好よさに惚れこみすぎている。」「状況が叮嚀に書きこまれているのに、肝腎な男女のことになると意外に情感に乏しい。」「私の意見なんか無視してこのまま押してゆけば、もっと明るいところへ出られるはずだという思いもあったので受賞に賛成することにした。」
渡辺淳一
男59歳
30 「いかにもこの作者らしい丁寧な仕上りで、読むうちに、その時代と人物がふっくらと浮き出てくる。」「この作品によって、男の従属物のように書かれていた江戸の女が、ようやく正当に評価されたというべきだろう。」「巧みさはいうまでもないが、さらにまろやかさと初々しさが加味されて、爽やかで引締った好短篇集となっている。」
平岩弓枝
女61歳
20 「長いキャリアからいっても、最近の丁寧な仕事ぶりを拝見しても、直木賞を受賞するにふさわしいと感じていた」「江戸時代のキャリアウーマンを書くということだったそうだが、その発想が各々の短篇に生きている。」
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他の候補作
高村薫
『マークスの山』
今井泉
『ガラスの墓標』
本岡類
『真冬の誘拐者』
中島らも
『ガダラの豚』
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候補者・作品
今井泉男58歳×各選考委員 
『ガラスの墓標』
短篇集4篇 446
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子
女65歳
0  
黒岩重吾
男69歳
30 「表題作が優れている。」「(引用者注:樺太から北海道に向かう)その間の人間と海との闘いには、息を呑むほどの迫真力がある。」「「道連れ」「島模様」も佳作だが、票が集まらなかったのは、人間でいえば臍が隠れていたせいかもしれない。受賞に価する作品だったが残念である。」
井上ひさし
男58歳
24 「候補対象となった三編のうちの白眉は「道連れ」であると思うが、これもまた荒れ狂う海を主役にした物語で、作者の本領が充分に発揮された一編。だが、作者にはうっとうしい、ないものねだりの言い方になるかもしれないが、作者の常識が話の結末に窮屈な枠を強いているような気がしてならない。」
陳舜臣
男69歳
7 「樺太脱出のあたり、海を熟知する人でなければ書けない強味があった。海洋文学不振の日本にあって、今井氏は得難い才能であり、将来を期待したい。」
藤沢周平
男65歳
16 「男くさい魅力を持つ短篇集だった。中でも「道連れ」の一篇が、若い暴走族の男たちと船乗りの犯罪と冒険を描いて気持のいい小説である。」「個性的で実力のある作家だと思う。」
五木寛之
男60歳
10 「一点どうしても引っかかるところがあった。作者と作中人物の距離の問題である。フィクションとしての自立性がとぼしいと感じられるのは、作者が作中人物につき(原文傍点)すぎているせいなのだろうか。」
山口瞳
男66歳
0  
渡辺淳一
男59歳
11 「前半の推理的な部分と、後半の樺太引揚げの部分とが割れていて、全体の印象としては、腰砕けとなってしまった。」「三本の短篇のなかでは「島模様」の素直な書き方に惹かれた。」
平岩弓枝
女61歳
11 「心に残った作品であった。」「作者の優しさを感じさせるのが「島模様」であり、怖さが底にあるのが「ガラスの墓標」だろうか。ただ、後者の場合、女主人公が長いこと夫にまでかくしていたせいゆうに関する秘密が、それほどのことだったのかという気持がした。」
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他の候補作
高村薫
『マークスの山』
北原亞以子
『恋忘れ草』
本岡類
『真冬の誘拐者』
中島らも
『ガダラの豚』
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候補者・作品
本岡類男42歳×各選考委員 
『真冬の誘拐者』
長篇 623
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子
女65歳
0  
黒岩重吾
男69歳
0  
井上ひさし
男58歳
19 「新手のアイデアをいくつも工夫している。」「がしかし、これらの新工夫を紡ぎ出す肝心な文章にやや魅力を欠き、それが捜査側の人間造型によくない影響を与えている。」
陳舜臣
男69歳
16 「私はわりあい面白く読んだ。ただこの小説は、殺人事件がなくても成立するので、無理にこしらえないほうがよいという気がした。」「医療技術の進歩によってうまれる問題に着眼したことに敬意を表したい。もっとも渡辺医学博士によれば、確率はもっと低いということで、それならこの作品は根底から成立しないことになる。」
藤沢周平
男65歳
14 「謎の組立ても謎解きの過程もおもしろかった。」「しかし刑事の描き方などはやや類型的で、総じて優等生の書いた推理小説の範囲を出ないという印象が残る。よく出来ているがやや魅力に欠ける作品というべきか。」
五木寛之
男60歳
7 「品のいい作品だが、いまひとつ読者を惹きつけて離さない膂力に欠けるような気がした。推理小説としてでなく書いたほうが、いい作品になったのではあるまいか。」
山口瞳
男66歳
0  
渡辺淳一
男59歳
10 「わかり易く、アイデアもよく、現代的な問題も巧みに挿入されているが、読後、心に沁みてくるものは薄い。これはおそらく著者が話をつくることだけに熱心で、小説に心を入れることを忘れていたからであろう。」
平岩弓枝
女61歳
13 「意図は面白いのだが、登場人物が表面的にしか浮んで来ないために、作りものめいた印象が強くなった。一人一人の人間をもっと突っ込んで丁寧に書いて行ったら、作者の試みは成功したと思う。」
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他の候補作
高村薫
『マークスの山』
北原亞以子
『恋忘れ草』
今井泉
『ガラスの墓標』
中島らも
『ガダラの豚』
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候補者・作品
中島らも男41歳×各選考委員 
『ガダラの豚』
長篇 1470
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子
女65歳
4 「興趣横溢という点では、受賞作二作に決して劣らない。次作に期待。」
黒岩重吾
男69歳
0  
井上ひさし
男58歳
18 「作者の才筆は今回も読者を堪能させてくれる。」「その手腕に喝采を惜しむものではないが、今回は物語の勘どころに破綻があったようだ。」「それでもこの作品に合格点をつけたのはおもしろさでは際立っていたからであるが、やはり支持する声は少なかった。」
陳舜臣
男69歳
12 「冒頭が面白く、期待して読み進んだが、やがてそれは裏切られた。このような反現実世界をえがくには、現実世界と薄い膜ひとつはなれたところに構築し、そこから逆に現実世界を照らし出さねばならない。なによりも長すぎる。よけいなだじゃれは省略して、もっと緊迫した世界をえがき出してほしい。」
藤沢周平
男65歳
22 「おもしろい小説だった。」「らもさんの小説のおもしろさは、真の呪術はわれわれの日常と不即不離の関係で現在も存在するという事実を大テーマに据え、文明の暗黒面に触手をのばしている点にある。ただらもさんは頭脳明晰に過ぎるのか、不思議を不思議としておけずにただちに解説を加えるので興ざめするところがあった。」
五木寛之
男60歳
32 「読みはじめてしばらくは、こいつは凄い小説になりそうだぞ、と、ぞくぞくしながらページをめくったのだが、後がいけない。」「肩すかしをくらったような気分だった。」「また、これだけの小説を書くためには、参考文献の読みかたが足りないような気もしないではない。」「どう考えても、この三分の一の長さで十分な題材である。」
山口瞳
男66歳
20 「票が集まらなかったのには驚いた。とにかく読ませる。特に前半のインチキ新興宗教を暴くあたりの調子がいい。しかし、三部にわかれている第二部のアフリカに到着する頃からダレてくる。何といっても長すぎる。」「中島さんはキチンと枠組を組んでから書いたほうがいいように思う。」
渡辺淳一
男59歳
5 「知識やお喋りは相当なものだが、本当の実はあまり入っていないようである。」
平岩弓枝
女61歳
9 「作者の大智識はともかく、肝腎の呪術に対して、作者は信じるのか、否定するのか、腹がきまっていないのがいけない。読者の判断にまかせるといっても、作者はどう考えているのかと訊かれて返事が出来なくては無責任であろう。」
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他の候補作
高村薫
『マークスの山』
北原亞以子
『恋忘れ草』
今井泉
『ガラスの墓標』
本岡類
『真冬の誘拐者』
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