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平成8年/1996年上半期
(平成8年/1996年7月17日決定発表/『オール讀物』平成8年/1996年9月号選評掲載)
選考委員  黒岩重吾
男72歳
津本陽
男67歳
田辺聖子
女68歳
渡辺淳一
男62歳
阿刀田高
男61歳
平岩弓枝
女64歳
五木寛之
男63歳
井上ひさし
男61歳
選評総行数  96 85 143 88 92 86 92 98
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
乃南アサ 『凍える牙』
791
女35歳
66 13 56 20 16 35 13 64
鈴木光司 『仄暗い水の底から』
414
男39歳
9 13 22 7 22 0 17 8
篠田節子 『カノン』
665
女40歳
0 8 21 18 28 0 27 9
浅田次郎 『蒼穹の昴』
1980
男44歳
16 41 21 7 11 17 26 56
宮部みゆき 『人質カノン』
444
女35歳
5 10 23 6 15 27 12 7
               
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『オール讀物』平成8年/1996年9月号
1行当たりの文字数:13字


選考委員
黒岩重吾男72歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「凍える牙」の魅力 総行数96 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
乃南アサ
女35歳
66 「食事や風呂、また睡眠時間を惜しんで読んだ」「エンターテインメント小説の醍醐味を満喫出来た。」「その面白さの核は、見事に光る女性刑事の存在感にある。」「これまで、警察と刑事を描いた小説の中で、このように女性臭くて、しかも任務に対して筋を通す女性刑事を主人公にした作品はなかったような気がする。そういう意味では、画期的な小説ともいえよう。」
鈴木光司
男39歳
9 「それぞれ趣向をこらしているが、読者に恐怖を抱かせようとする意図が強く、底が見え過ぎた。筆力はあるので、今少し肩の力を抜いた方が、佳い小説が書けそうな気がする。」
篠田節子
女40歳
0  
浅田次郎
男44歳
16 「作者の熱意が感じられる。」「この作者に才能があるのは間違いないが、まだ読者を小説世界に引きずり込み、最後まで酔わし続ける技を掌中にしていないような気がする。」
宮部みゆき
女35歳
5 「表題の作品を除くと、小器用に纏められてはいるが平板で感動を伴わない。」
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他の選考委員
津本陽
田辺聖子
渡辺淳一
阿刀田高
平岩弓枝
五木寛之
井上ひさし
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選考委員
津本陽男67歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
手堅い構築 総行数85 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
乃南アサ
女35歳
13 「手堅い作品である。力を溜めている緊張感が持続されており、稀薄な部分がすくない。」「主人公の男女の刑事の人間関係にも、味わいがある。」「どんな小説でも、人間の本質に触れておれば、情緒がにじみ出るように読者に伝わってくるものである。」
鈴木光司
男39歳
13 「現代の無機質のような人間の一面をとらえた短篇集である。」「恐怖小説はあまり読んだことがなかったが、たしかな描写力が作品のつよみとなっている。」「作者は今後、さまざまの方向に発展してゆく可能性を持っているようである。」
篠田節子
女40歳
8 「好感を持った。密度の高い出来ばえである。音楽の知識がないままに、納得させられた。」「人の感情をひたすら探ってゆく、このような緻密な作風にひきこまれる。」
浅田次郎
男44歳
41 「膂力がつよいとしかいいようのない、エネルギッシュな書きだしである。」「作品の各部分が重層して響きあう効果が出てくれば、大成功であったが、盛りあがらなかった。読者を引く見せ場が多くなるばかりで、きわだった人格が浮きあがってこなかったためである。」
宮部みゆき
女35歳
10 「巧みな技巧において、手にいったものである。」「ただ人間の諸相を読者にうなずかせる、シンバルのひと打ちといえるような鋭い切りこみがほしいものである。」
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他の選考委員
黒岩重吾
田辺聖子
渡辺淳一
阿刀田高
平岩弓枝
五木寛之
井上ひさし
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選考委員
田辺聖子女68歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
乗せられる心地よさ 総行数143 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
乃南アサ
女35歳
56 「女刑事が男刑事とペアで任務を遂行するという小説のシチュエーションは、ほかにもあるかもしれないが、それが小説の骨格としてこんなに成功している作品は珍しい。」「何より中年の男刑事の描写がいい。」「ラストの犯人の謎ときはややあわただしく、それを失点にかぞえられる委員もあったが、私自身はこの小説のキズにはならないと考えている。」
鈴木光司
男39歳
22 「私は「穴ぐら」が作品の完成度がもっともたかいと思ったが、「浮遊する水」の怖さも相当なものだった。奇妙な味の小説というものは、〈怖さ〉の快感を与えられるものだが、この一冊は読後、なんとなく、うちひしがれた精神状態に陥ってしまった。ただそんなショックを与える作者の才能は珍重すべきである。」
篠田節子
女40歳
21 「音楽を文字に定着するのは難事だが、この作品の透徹した硬質の文体はよくそれに堪えたと思う。」「登場人物が作者の操り人形になってしまったからだろうか、みな、その場その場でソツなく動きすぎて、人物に共感や愛着をもちにくい。」
浅田次郎
男44歳
21 「エンターテインメントとしては抜群の面白さを持った作品、」「近来の快作だった。小説の醍醐味は〈面白くて巻を措く能わず〉というところにもあるから、受賞圏内、と私は思ったが、いまひといき、票を集めることができなかったのは残念。」「欲をいえば中国風土の匂いが(芳香・悪臭をとわず)も少しほしいところ。」
宮部みゆき
女35歳
23 「小説のうまい作者でねえ……とまず最初にいいたくなるような作家である。」「ことに氏は子供を描かれると生彩がある。」「ただ、凹凸なく、もいいけれど、望蜀の嘆をいうなら、これらの諸作のうえに一篇、突出したショッキングな作品があれば、と思った。」
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他の選考委員
黒岩重吾
津本陽
渡辺淳一
阿刀田高
平岩弓枝
五木寛之
井上ひさし
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選考委員
渡辺淳一男62歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
推理ばやり 総行数88 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
乃南アサ
女35歳
20 「たしかに女刑事とオジさん刑事のユニークな関係は、それなりによく書けてはいるが、これが推理小説だといわれると、おおいに疑問が生じてくる。結局、人間関係さえ書けていれば、いいではないかという意見が大勢を占めて受賞となったが、「新潮ミステリー倶楽部特別書き下ろし」と、堂々と書いてあるのだから、表示に難あり、ということになりかねない。」
鈴木光司
男39歳
7 「この人はなかなか描写力があるが、推理的恐怖にとらわれすぎて、仕上がりは、作者が訴えるほど怖くはない。」
篠田節子
女40歳
18 「この人は前に、科学恐怖小説とでもいうべきものを書いていたが、それよりはるかに、今回の作品のほうが内的必然性があり、ようやく本来の鉱脈を見つけたような気がする。部分的欠点はいくつかあるが、今度の候補作のなかでは、最も人間を直視し、文学的感興を感じることができた。」
浅田次郎
男44歳
7 「長くて波乱に富んで、楽しく読ませるが、なにかが欠けている。それがなくても、面白ければいいという意見もあるだろうが、わたしはその考えには反対である。」
宮部みゆき
女35歳
6 「小説の上がりがいささか淡いというか、浅すぎる。才のある人だが、推理に気をとられて、本体が呆けたとでもいうべきか。」
  「(引用者注:最近の候補作は)いずれも立派な単行本で、しかも一流出版社から出されたものばかりである。」「それだけ野に遺賢がなくなったのか、それとも出版社が容易に本を出すようになったのか。」「それにしても、いまは推理小説全盛。(引用者中略)このあたりは、書くほうの問題というより、書かせるほうの問題で、推理小説にさえすれば、単行本にしてもらい易い、という思惑があるのかもしれない。」
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他の選考委員
黒岩重吾
津本陽
田辺聖子
阿刀田高
平岩弓枝
五木寛之
井上ひさし
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選考委員
阿刀田高男61歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
恐怖小説の弊 総行数92 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
乃南アサ
女35歳
16 「見どころのある作品だ。しかし、推理小説として眺めれば弱点も大きい。他の委員からそれを指摘され、狼狽を覚えたが、欠点は欠点として人間を描く力量のほうを採った。これでよかったのだろうか、の思いはないでもない。」
鈴木光司
男39歳
22 「才筆であり、多彩であったが、恐怖を通して人間を描くという視点で眺めれば不足があった。作者の目的もそれではなかったろう。べつべつに書いて発表したものにプロローグをつけエピローグをそえ連作短篇集とした構成にも無理があった。」
篠田節子
女40歳
28 「音楽でしか語れない異能者を登場させ、そのコミュニケーションを通じて愛と人生とを描こうとする狙いは、なかば成功し、なかば不足のものとなった、と私には思えた。」「亡霊的なものを登場させたために狙いが散漫となり、主題が曖昧になってしまった。」
浅田次郎
男44歳
11 「よい意味で講談風のおもしろさに溢れている。だが、人物の造形も、筋の運びも、文章も、すべて粗っぽい。そこに腕力を感じ、魅力かなとも考えたが、工匠としての小説家を思うとき、わずかに逸脱するものが感じられた。」
宮部みゆき
女35歳
15 「どの作品も楽しく読めるのだが、訴えてくるものが乏しい。」「この作家の実力はこんなものではないはずだ。これが候補作となったのは(これも酷な言い方だが、ありていに言えば)まことに不運であった、と私は思う。」
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他の選考委員
黒岩重吾
津本陽
田辺聖子
渡辺淳一
平岩弓枝
五木寛之
井上ひさし
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選考委員
平岩弓枝女64歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
難しかった選考 総行数86 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
乃南アサ
女35歳
35 「推理小説としては欠点の多い作品で、一番気になるのはオオカミ犬を使って人殺しをする人物に必然性がないことだろう。」「それでも、この作品がえらばれたのは主人公の女刑事が実に熱っぽく描かれていてそれが全体の迫力になったせいだと思う。」「ただ、私としては、(引用者中略)ミステリーとして書かれたものなのにミステリーの部分が不確かというのも気になっている。」
鈴木光司
男39歳
0  
篠田節子
女40歳
0  
浅田次郎
男44歳
17 「何故、宦官の目からみた清朝末期、西太后を書くという素晴しい着想一筋に突き進めなかったのか口惜しい気持になった。こう人物が多すぎて、話があっちへとび、こっちへとびしては、書き手のいいたいことが読者に伝わりにくい。」
宮部みゆき
女35歳
27 「実績もあり、面白い作品を読ませてもらっていたので推したい気持は充分にあったのだが、この短篇集が候補作になったのは宮部さんのために不運としかいいようがない。」「いじめという重いテーマを才気にまかせて手軽くまとめてしまったり、「八月の雪」の二・二六事件の扱いなど、どうも小手先の芸のようで感動が薄かった。」「本当に残念でたまらない。」
  「候補作五篇を読み終えて正直のところ、当惑した。」「各々に魅力もあるが、マイナス面もないわけではない。」
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他の選考委員
黒岩重吾
津本陽
田辺聖子
渡辺淳一
阿刀田高
五木寛之
井上ひさし
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選考委員
五木寛之男63歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
『蒼穹の昴』を推す 総行数92 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
乃南アサ
女35歳
13 「推理小説として読めば、いささかの難はあるが、サスペンス小説と受けとめれば納得もいく。ただ私には、バイクで狼犬を追走する場面の描写などひどく物足りなく感じられる部分もあって、『蒼穹の昴』の八方破れのおもしろさに一票を投じることになった。」
鈴木光司
男39歳
17 「連作として一冊にまとめるために、前後に新たな枠が書き加えられているが、私にはその構成がかえって個々の作品の感興をそいでいるように思われた。この作家も、もっと本領を発揮できる作品で対面したいものだ。」
篠田節子
女40歳
27 「期待して読み、いささかがっかりした」「『カノン』のテーマは内向的にすぎる。人間の内側を描くためにこそ外部にこだわる、といった視線もあるのではないか。クラシック音楽に対する視点にも十九世紀的ロマンティシズムの残影が色濃く漂っていて、この作者の乾いた資質が生かされていないと感じた。」
浅田次郎
男44歳
26 「もっとも印象に残った。」「たしかに欠点は多い。」「しかし、それでもなお私は、この浅田氏の野心的な仕事に一票を投じたことを後悔してはいない。いかにエネルギッシュな作家でも、これだけの力作をたて続けに世に問うことは難しいだろうと思えば、「長蛇ヲ逸ス」の感をおさえることができなかった。」
宮部みゆき
女35歳
12 「作家自身にも不本意な候補推挙ではないかという声があった。なんといっても実力のある書き手である。受賞するならやはり自ら恃むところのある作品で受けたほうがいい。」「この作家の最良の部分が見えてこないうらみがあった。」
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他の選考委員
黒岩重吾
津本陽
田辺聖子
渡辺淳一
阿刀田高
平岩弓枝
井上ひさし
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選考委員
井上ひさし男61歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
二作受賞の夢 総行数98 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
乃南アサ
女35歳
64 「(引用者注:「蒼穹の昴」との)二作受賞を心から願っていた。」「たしかに話の作り方では成功したとは言いかねるが、主役と狂言回しとをかねた二人組の警官の人間創出に、高い水準でみごとに成功している。」
鈴木光司
男39歳
8 「「あまりにも軽い作品」が候補作になったのが不運だった。」
篠田節子
女40歳
9 「力感がみなぎっていたが、人物、筋立て、ともに理詰めで観念的、全体に冷えている。」
浅田次郎
男44歳
56 「(引用者注:「凍える牙」との)二作受賞を心から願っていた。」「李春雲と玲玲の兄妹がとくに生き生きと跳ねていて、たしかにここには「人間」がいた。」「ここで説かれている「浅田版清朝史」のおもしろさは格別であり、こんな大作を書き下ろしで書いてしまった作者の逞しい膂力にも脱帽した。」
宮部みゆき
女35歳
7 「「あまりにも軽い作品」が候補作になったのが不運だった。」
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他の選考委員
黒岩重吾
津本陽
田辺聖子
渡辺淳一
阿刀田高
平岩弓枝
五木寛之
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受賞者・作品
乃南アサ女35歳×各選考委員 
『凍える牙』
長篇 791
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒岩重吾
男72歳
66 「食事や風呂、また睡眠時間を惜しんで読んだ」「エンターテインメント小説の醍醐味を満喫出来た。」「その面白さの核は、見事に光る女性刑事の存在感にある。」「これまで、警察と刑事を描いた小説の中で、このように女性臭くて、しかも任務に対して筋を通す女性刑事を主人公にした作品はなかったような気がする。そういう意味では、画期的な小説ともいえよう。」
津本陽
男67歳
13 「手堅い作品である。力を溜めている緊張感が持続されており、稀薄な部分がすくない。」「主人公の男女の刑事の人間関係にも、味わいがある。」「どんな小説でも、人間の本質に触れておれば、情緒がにじみ出るように読者に伝わってくるものである。」
田辺聖子
女68歳
56 「女刑事が男刑事とペアで任務を遂行するという小説のシチュエーションは、ほかにもあるかもしれないが、それが小説の骨格としてこんなに成功している作品は珍しい。」「何より中年の男刑事の描写がいい。」「ラストの犯人の謎ときはややあわただしく、それを失点にかぞえられる委員もあったが、私自身はこの小説のキズにはならないと考えている。」
渡辺淳一
男62歳
20 「たしかに女刑事とオジさん刑事のユニークな関係は、それなりによく書けてはいるが、これが推理小説だといわれると、おおいに疑問が生じてくる。結局、人間関係さえ書けていれば、いいではないかという意見が大勢を占めて受賞となったが、「新潮ミステリー倶楽部特別書き下ろし」と、堂々と書いてあるのだから、表示に難あり、ということになりかねない。」
阿刀田高
男61歳
16 「見どころのある作品だ。しかし、推理小説として眺めれば弱点も大きい。他の委員からそれを指摘され、狼狽を覚えたが、欠点は欠点として人間を描く力量のほうを採った。これでよかったのだろうか、の思いはないでもない。」
平岩弓枝
女64歳
35 「推理小説としては欠点の多い作品で、一番気になるのはオオカミ犬を使って人殺しをする人物に必然性がないことだろう。」「それでも、この作品がえらばれたのは主人公の女刑事が実に熱っぽく描かれていてそれが全体の迫力になったせいだと思う。」「ただ、私としては、(引用者中略)ミステリーとして書かれたものなのにミステリーの部分が不確かというのも気になっている。」
五木寛之
男63歳
13 「推理小説として読めば、いささかの難はあるが、サスペンス小説と受けとめれば納得もいく。ただ私には、バイクで狼犬を追走する場面の描写などひどく物足りなく感じられる部分もあって、『蒼穹の昴』の八方破れのおもしろさに一票を投じることになった。」
井上ひさし
男61歳
64 「(引用者注:「蒼穹の昴」との)二作受賞を心から願っていた。」「たしかに話の作り方では成功したとは言いかねるが、主役と狂言回しとをかねた二人組の警官の人間創出に、高い水準でみごとに成功している。」
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他の候補作
鈴木光司
『仄暗い水の底から』
篠田節子
『カノン』
浅田次郎
『蒼穹の昴』
宮部みゆき
『人質カノン』
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候補者・作品
鈴木光司男39歳×各選考委員 
『仄暗い水の底から』
連作9篇 414
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒岩重吾
男72歳
9 「それぞれ趣向をこらしているが、読者に恐怖を抱かせようとする意図が強く、底が見え過ぎた。筆力はあるので、今少し肩の力を抜いた方が、佳い小説が書けそうな気がする。」
津本陽
男67歳
13 「現代の無機質のような人間の一面をとらえた短篇集である。」「恐怖小説はあまり読んだことがなかったが、たしかな描写力が作品のつよみとなっている。」「作者は今後、さまざまの方向に発展してゆく可能性を持っているようである。」
田辺聖子
女68歳
22 「私は「穴ぐら」が作品の完成度がもっともたかいと思ったが、「浮遊する水」の怖さも相当なものだった。奇妙な味の小説というものは、〈怖さ〉の快感を与えられるものだが、この一冊は読後、なんとなく、うちひしがれた精神状態に陥ってしまった。ただそんなショックを与える作者の才能は珍重すべきである。」
渡辺淳一
男62歳
7 「この人はなかなか描写力があるが、推理的恐怖にとらわれすぎて、仕上がりは、作者が訴えるほど怖くはない。」
阿刀田高
男61歳
22 「才筆であり、多彩であったが、恐怖を通して人間を描くという視点で眺めれば不足があった。作者の目的もそれではなかったろう。べつべつに書いて発表したものにプロローグをつけエピローグをそえ連作短篇集とした構成にも無理があった。」
平岩弓枝
女64歳
0  
五木寛之
男63歳
17 「連作として一冊にまとめるために、前後に新たな枠が書き加えられているが、私にはその構成がかえって個々の作品の感興をそいでいるように思われた。この作家も、もっと本領を発揮できる作品で対面したいものだ。」
井上ひさし
男61歳
8 「「あまりにも軽い作品」が候補作になったのが不運だった。」
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他の候補作
乃南アサ
『凍える牙』
篠田節子
『カノン』
浅田次郎
『蒼穹の昴』
宮部みゆき
『人質カノン』
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候補者・作品
篠田節子女40歳×各選考委員 
『カノン』
長篇 665
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒岩重吾
男72歳
0  
津本陽
男67歳
8 「好感を持った。密度の高い出来ばえである。音楽の知識がないままに、納得させられた。」「人の感情をひたすら探ってゆく、このような緻密な作風にひきこまれる。」
田辺聖子
女68歳
21 「音楽を文字に定着するのは難事だが、この作品の透徹した硬質の文体はよくそれに堪えたと思う。」「登場人物が作者の操り人形になってしまったからだろうか、みな、その場その場でソツなく動きすぎて、人物に共感や愛着をもちにくい。」
渡辺淳一
男62歳
18 「この人は前に、科学恐怖小説とでもいうべきものを書いていたが、それよりはるかに、今回の作品のほうが内的必然性があり、ようやく本来の鉱脈を見つけたような気がする。部分的欠点はいくつかあるが、今度の候補作のなかでは、最も人間を直視し、文学的感興を感じることができた。」
阿刀田高
男61歳
28 「音楽でしか語れない異能者を登場させ、そのコミュニケーションを通じて愛と人生とを描こうとする狙いは、なかば成功し、なかば不足のものとなった、と私には思えた。」「亡霊的なものを登場させたために狙いが散漫となり、主題が曖昧になってしまった。」
平岩弓枝
女64歳
0  
五木寛之
男63歳
27 「期待して読み、いささかがっかりした」「『カノン』のテーマは内向的にすぎる。人間の内側を描くためにこそ外部にこだわる、といった視線もあるのではないか。クラシック音楽に対する視点にも十九世紀的ロマンティシズムの残影が色濃く漂っていて、この作者の乾いた資質が生かされていないと感じた。」
井上ひさし
男61歳
9 「力感がみなぎっていたが、人物、筋立て、ともに理詰めで観念的、全体に冷えている。」
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他の候補作
乃南アサ
『凍える牙』
鈴木光司
『仄暗い水の底から』
浅田次郎
『蒼穹の昴』
宮部みゆき
『人質カノン』
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候補者・作品
浅田次郎男44歳×各選考委員 
『蒼穹の昴』
長篇 1980
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒岩重吾
男72歳
16 「作者の熱意が感じられる。」「この作者に才能があるのは間違いないが、まだ読者を小説世界に引きずり込み、最後まで酔わし続ける技を掌中にしていないような気がする。」
津本陽
男67歳
41 「膂力がつよいとしかいいようのない、エネルギッシュな書きだしである。」「作品の各部分が重層して響きあう効果が出てくれば、大成功であったが、盛りあがらなかった。読者を引く見せ場が多くなるばかりで、きわだった人格が浮きあがってこなかったためである。」
田辺聖子
女68歳
21 「エンターテインメントとしては抜群の面白さを持った作品、」「近来の快作だった。小説の醍醐味は〈面白くて巻を措く能わず〉というところにもあるから、受賞圏内、と私は思ったが、いまひといき、票を集めることができなかったのは残念。」「欲をいえば中国風土の匂いが(芳香・悪臭をとわず)も少しほしいところ。」
渡辺淳一
男62歳
7 「長くて波乱に富んで、楽しく読ませるが、なにかが欠けている。それがなくても、面白ければいいという意見もあるだろうが、わたしはその考えには反対である。」
阿刀田高
男61歳
11 「よい意味で講談風のおもしろさに溢れている。だが、人物の造形も、筋の運びも、文章も、すべて粗っぽい。そこに腕力を感じ、魅力かなとも考えたが、工匠としての小説家を思うとき、わずかに逸脱するものが感じられた。」
平岩弓枝
女64歳
17 「何故、宦官の目からみた清朝末期、西太后を書くという素晴しい着想一筋に突き進めなかったのか口惜しい気持になった。こう人物が多すぎて、話があっちへとび、こっちへとびしては、書き手のいいたいことが読者に伝わりにくい。」
五木寛之
男63歳
26 「もっとも印象に残った。」「たしかに欠点は多い。」「しかし、それでもなお私は、この浅田氏の野心的な仕事に一票を投じたことを後悔してはいない。いかにエネルギッシュな作家でも、これだけの力作をたて続けに世に問うことは難しいだろうと思えば、「長蛇ヲ逸ス」の感をおさえることができなかった。」
井上ひさし
男61歳
56 「(引用者注:「凍える牙」との)二作受賞を心から願っていた。」「李春雲と玲玲の兄妹がとくに生き生きと跳ねていて、たしかにここには「人間」がいた。」「ここで説かれている「浅田版清朝史」のおもしろさは格別であり、こんな大作を書き下ろしで書いてしまった作者の逞しい膂力にも脱帽した。」
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他の候補作
乃南アサ
『凍える牙』
鈴木光司
『仄暗い水の底から』
篠田節子
『カノン』
宮部みゆき
『人質カノン』
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候補者・作品
宮部みゆき女35歳×各選考委員 
『人質カノン』
短篇集7篇 444
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒岩重吾
男72歳
5 「表題の作品を除くと、小器用に纏められてはいるが平板で感動を伴わない。」
津本陽
男67歳
10 「巧みな技巧において、手にいったものである。」「ただ人間の諸相を読者にうなずかせる、シンバルのひと打ちといえるような鋭い切りこみがほしいものである。」
田辺聖子
女68歳
23 「小説のうまい作者でねえ……とまず最初にいいたくなるような作家である。」「ことに氏は子供を描かれると生彩がある。」「ただ、凹凸なく、もいいけれど、望蜀の嘆をいうなら、これらの諸作のうえに一篇、突出したショッキングな作品があれば、と思った。」
渡辺淳一
男62歳
6 「小説の上がりがいささか淡いというか、浅すぎる。才のある人だが、推理に気をとられて、本体が呆けたとでもいうべきか。」
阿刀田高
男61歳
15 「どの作品も楽しく読めるのだが、訴えてくるものが乏しい。」「この作家の実力はこんなものではないはずだ。これが候補作となったのは(これも酷な言い方だが、ありていに言えば)まことに不運であった、と私は思う。」
平岩弓枝
女64歳
27 「実績もあり、面白い作品を読ませてもらっていたので推したい気持は充分にあったのだが、この短篇集が候補作になったのは宮部さんのために不運としかいいようがない。」「いじめという重いテーマを才気にまかせて手軽くまとめてしまったり、「八月の雪」の二・二六事件の扱いなど、どうも小手先の芸のようで感動が薄かった。」「本当に残念でたまらない。」
五木寛之
男63歳
12 「作家自身にも不本意な候補推挙ではないかという声があった。なんといっても実力のある書き手である。受賞するならやはり自ら恃むところのある作品で受けたほうがいい。」「この作家の最良の部分が見えてこないうらみがあった。」
井上ひさし
男61歳
7 「「あまりにも軽い作品」が候補作になったのが不運だった。」
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他の候補作
乃南アサ
『凍える牙』
鈴木光司
『仄暗い水の底から』
篠田節子
『カノン』
浅田次郎
『蒼穹の昴』
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