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第28回
山本周五郎賞
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平成26年/2014年度
(平成27年/2015年5月14日決定発表/『小説新潮』平成27年/2015年7月号選評掲載)
選考委員  石田衣良
男55歳
角田光代
女48歳
佐々木譲
男65歳
白石一文
男56歳
唯川恵
女60歳
選評総行数  297 180 240 179 216
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
柚木麻子 『ナイルパーチの女子会』
女33歳
49 50 56 55 42
真梨幸子 『人生相談。』
女51歳
42 24 17 20 37
早見和真 『イノセント・デイズ』
男37歳
43 30 64 13 52
湊かなえ 『絶唱』
女42歳
62 27 36 85 29
西川美和 『永い言い訳』
女40歳
47 44 35 11 45
         
年齢の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『小説新潮』平成27年/2015年7月号
1行当たりの文字数:18字


選考委員
石田衣良男55歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
さらばクラシカル、或いは作家の目 総行数297 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
柚木麻子
女33歳
49 「細部の書きこみ、会話の密度、感情の激しさ、すべての点でスケールのおおきな翻訳小説を読んでいるようだ。持って生まれた圧倒的な筆力があるよ。ジャンボ鶴田を思いだした。」「後半の暴走はラテンアメリカ小説のようなリアリズムからの幻想的な逸脱として評価したい。ジュノ・ディアスの『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』みたいなね。そろそろ文学賞もリアリズム一辺倒から脱却するときだ。」
真梨幸子
女51歳
42 「善人の愚かさを探し、悪人の気高さを描くというのが、クラシカルな小説の造りかただよね。この作品の登場人物は作者の掌のうえで踊るグロテスクな人形のようだった。ほんとうの驚きからは遠いんじゃないかな。」「ぼくはこの本、予選委員からの警告と受けとった。(引用者中略)経済文化双方の大格差社会のなかで、これまで出版界が無視していた新しい読者が多数生まれているんだぞ、とね。」
早見和真
男37歳
43 「無実の女性が死刑になるのが最大の衝撃だから、そこに向かって都合のいい悲劇を積みあげていく構造だ。」「筆力は十分だしすごく力がこもった勝負作だよ。読者の心を掴む力はあるんじゃないかな。」「実はぼくも△をつけて選考会に臨んだ。でも中絶に関する意見の古さ、クラスのいじめと性虐待の描きかたのアンバランスさはさすがに気になったかな。」
湊かなえ
女42歳
62 「これだけの力作を毎年発表した湊さんの力量と思いの強さには感服するよ。」「厳しいことをいうなら、ぼくは題材に対する甘さがあったと思うね。震災をテーマにしたら、そこは素直に読んでくれるだろう。きっと共感が得られるはずだ。無意識のうちに題材の強さに寄りかかっていたんじゃないかな。不満なのは四人の主人公がみな善意の被害者だったという点だ。」
西川美和
女40歳
47 「厳しいのは啓の人物造形だね。ふわふわしていて掴みどころがない。単発のエピソードが重なるだけで、人間の厚みが感じられない。脚本を書く人によくあるんだけど、役者の肉体がないと説得力のある人物像にならないんだよ。」「文章のセンスは、候補作中西川さんが一番優れているように思うよ。(引用者中略)ひと言でいえば知的おしゃれ度が高い。」
  「文学賞の選考基準も、編集者の仕事も、時代に応じて変わらなければならない。進化論じゃないけど、変わらぬ者はいつか滅びの道をゆく。それが今回の山本賞の教訓かな。」
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他の選考委員
角田光代
佐々木譲
白石一文
唯川恵
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選考委員
角田光代女48歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
得体の知れないエネルギー 総行数180 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
柚木麻子
女33歳
50 「とにもかくにも異様な熱に満ちた小説である。」「読みながら感じる違和感も、謎も、疑問も、たいしたことではないのかもしれないと思わせるような迫力がある。いってみれば、作者の作り上げた「設定」に、読み手をも引き入れようとしているのだ。説得力も現実味も、すべてその迫力と熱量で凌駕している。」
真梨幸子
女51歳
24 「あまりにも多くの人、関係、できごとが登場しすぎて、細かいつじつまが合わないのではないか、と引っかかってしまう。そして、どのようなちいさな事件であれ、起こるには、だれかしらの感情が大きくうねるはずなのだが、登場人物たちの心理がそのように書かれていないのではないかとも思った。」
早見和真
男37歳
30 「序盤から読み手を小説世界に引きずり込む力を持っている。(引用者中略)けれども読み進むにつれて現実味が薄れていくように感じた。」「そうしてやっぱりラストに納得がいかないのである。いや、この小説はこの小説で完結しているので、ラストに異を唱えるのは間違っているとわかるのだが、死を望み、このようにすんなりと受け入れるほどの強いものが、幸乃にあるようには私には思えなかった。」
湊かなえ
女42歳
27 「読み終えてみるとバランスの悪さが印象として残る。あまりにもフィクション的な作品と、あまりにも生々しい声に満ちた作品とが、無理矢理いっしょに綴じられているように思えてしまうのだ。」「この作者は非常にデリケートに慎重に、二十年前の災害について書こうとしたはずだ。四作の連作ではなく、表題作を軸にしたひとつの流れにしたほうが、その意図が伝わったのではないか……とどうしても思ってしまう。」
西川美和
女40歳
44 「今回もっとも心に残った」「作者は、大切なものを失った人を書くのではなく、大切にしなかったものを失った人をこそ、書こうとしたのだと思った。」「読み応えのある小説だった。けれども、夫の、作家という職業についての疑問、あるいは、終盤、陽一が起こす事件が唐突すぎるという意見なども多かった。そうした意見を覆してプラスにすることが私にはできなかった。」
  「今回はすべての小説がそれぞれみごとで、すばらしかった。どれも読んでいるときはしあわせだった。読むのがたのしいと、後の選考会がこんなにもつらいのだとはじめて知った。」
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他の選考委員
石田衣良
佐々木譲
白石一文
唯川恵
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選考委員
佐々木譲男65歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
実作者を泣かせる選考会 総行数240 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
柚木麻子
女33歳
56 「当然ながら事前の情報もないままに読み出して、「読者としても」没入できたのがこの作品だった。」「エピソードのひとつひとつは極端なものではないし、主人公にけっして狂気や人格の破壊を感じさせない叙述でありながら、予感される関係の破綻と日常性の崩壊のそのありさまが気になって、読書を中断することができなかった。」「激論の後の最終投票でも、受賞作に推した」
真梨幸子
女51歳
17 「わたしは面白く読んだ。言葉によるスラップスティック作品とも言える小説であるが、叙述トリックのミステリ風味もある。」「全体の構成はきわめて技巧的で、騙されるものかとメモを取りながら読んでいたはずなのに、たしかに帯にあるように、何度かページを戻して読み直してしまった。」
早見和真
男37歳
64 「思い切り好意的に解釈すれば、テーマは薄幸の女性に降りかかった不条理そのものであり、作者は主人公の深すぎる悲惨を描きたかったということなのかもしれない。しかし、だとしたら、作品のトーンの軽薄さと、そのテーマに対する作者の考察の浅さが気になる。」「臆測だが、たぶん作者は現実の刑事事件裁判を知らない。とくに関心もなく、資質にも合わない無理な題材を(モデルになった事件を読者はすぐに想起できるが)選んでしまったのではないか。本作が最初に議論の対象からはずれたのは当然だった。」
湊かなえ
女42歳
36 「ストーリー・テリングの「巧さ」という点で、柚木さんの『ナイルパーチの女子会』の「迫力」と対をなすような作品だった。」「巧さが際立つだけではなく、最後の一篇では作者自身を思わせる女性の生々しい震災体験が、取材や勉強ではけっして描けないだけのディテールの物語として昇華されている。」「湊さんほどの実力でコンスタントに傑作を出し続ける作家に対して、この山本周五郎賞がいま「お預け」をした状態であることを申し訳なくも思う。」
西川美和
女40歳
35 「西川さんは文芸や出版の業界にも詳しいだろうに、この主人公の作家の設定には最後まで納得がいかなかった。」「いないとは言わないが、昭和四十年代ぐらいの、業界外のひとが想像する流行作家、のイメージである。(引用者中略)別の見方で言うと、この作品は新派のお芝居そのままのような「髪結いの亭主」である小説家の話の語り直しだとも言える。」
  「今年は激論だった。」「今年はたとえば「視点の混乱」などというレベルで編集者の目を疑わねばならない作品はなかった。激論にもなるわけである。」
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他の選考委員
石田衣良
角田光代
白石一文
唯川恵
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選考委員
白石一文男56歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
『絶唱』を推す 総行数179 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
柚木麻子
女33歳
55 「柚木さんは、従来通りの自らのテーマを一気に凝縮し、これまでの遠慮や衒い、計算をかなぐり捨てて、まさしく体当たりで本作を書き上げている。」「彼女は目下作家として一番の成長期を迎えているようだ。その証明とも言える作品に賞を与えるのは当然でもあるし、光栄なことでもある。」「柚木さんの受賞については、何一つ異論はない。」
真梨幸子
女51歳
20 「候補作中で一番楽しめたのはこの作品だったかもしれない。」「余計なひと言として加えれば、真梨さんには、今まで使っていた筋肉と別種の筋肉を使った作品を一度書いてみることを勧めたい。もっとも、これは、あくまで文学賞に照準を合わせるならばの話で、「そんなもの、私はどうでもいいわ」というのであれば、今まで通りでまったく構わないと思う。」
早見和真
男37歳
13 「重い球を投げる投手のような筆力の持ち主だ。今作はテーマもまた重いものだっただけに、その筆が逆に活かしきれなかったような印象がある。」「もっと楽しんで小説を書いて欲しいと思いながら読んだ。この人の場合、楽しんで楽しんで、楽しみ切れないほどに楽しんで一作を書き上げたとき、自分でもびっくりするようなものが生まれる気がする。」
湊かなえ
女42歳
85 「議論の過程で、私は『絶唱』も何とか受賞作とできないかと相当に粘った。」「『絶唱』や前々回の候補作となった『母性』には、従来の得意な領域からはみ出ようという強い意欲を感じる。湊さんという作家はいま、変異期ないし羽化の途上にあると私は見る。」「この人は、目の前の殻を打ち破れば、さらに大きな作家に成長していくに違いないという確かな予感がある。」
西川美和
女40歳
11 「愛していない人を失ったからこそ、残された者はその罪の深さにおののき、永遠の言い訳を積み重ねていく――この小説の主題に、私はいまひとつ乗り切れなかった。角田委員や唯川委員に本作で描き出されたものの貴重さを説かれ、ただただ「女性にとっての愛」の深淵に男としての引け目を痛感するほかなかった。」
  「今回は、湊かなえ氏の『絶唱』と柚木麻子氏の『ナイルパーチの女子会』の二作を推す肚づもりで選考会に臨んだが、西川美和氏の『永い言い訳』も充分に授賞圏内にあると考えていた。」「かつて編集者だったこともあり、私は、選考委員としてだけでなく事務方としても数多くの文学賞に関わってきた。そして私の見るところ、「上手さ」と「凄さ」でいえば、文学賞においてはやはり「凄さ」の方が有利に働く。」
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他の選考委員
石田衣良
角田光代
佐々木譲
唯川恵
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選考委員
唯川恵女60歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
圧倒的熱量 総行数216 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
柚木麻子
女33歳
42 「小説が放つ熱量が、読み手を力技でねじ伏せる強さを持っていた。」「女友達と理想の関係を作りたいがために、相手を追い詰め、自分も壊れてゆく。その様は常軌を逸しながらも、痛いくらいにリアルに伝わって来た。」「このまま本書に翻弄され続けたい、と思った時点で、作者の勝ちと言えるだろう。」
真梨幸子
女51歳
37 「私には登場人物が多過ぎた。(引用者中略)物語そのものになかなか没頭できなかった。」「登場人物全てでなくていい、重要な人物が確固たる存在感を持っていてくれたら、付随する人間も個性を持って記憶に刻まれる。そこから頭の中で相関図が自然と組み立てられて、更に研ぎ澄まされた作品になったように思う。」
早見和真
男37歳
52 「最初の違和感は、幸乃がストーカーになった時だった。幸乃がどうしてそこまで男に執着するのか、理由はあったが、私は納得できなかった。」「幸乃と関わった周りの人間が、彼女の人生を浮かび上がらせてゆく、という手法は、新鮮味はなくとも、説得力があった。だからこそ逆に、幸乃自身に語らせる必要はなかったようにも感じた。」
湊かなえ
女42歳
29 「表題にもなっている最後の「絶唱」だが、これは四編の中で異彩を放っている。主人公が作者本人と重なってしまうせいもあるだろう。もちろん、ご自身もそれを覚悟で書かれたはずだ。緊迫感に満ちた素晴らしい一編には違いないが、それだけに、他の短編とのバランスが悪くなってしまった。」「自伝的小説を書く難しさを改めて考えさせられた。」「自伝的であるからこそ、常に冷静な視線を失わず、物語を展開してゆくテクニックが必要なのだろう。」
西川美和
女40歳
45 「唸らされた。」「小説としての佇まいに心地よさを感じた。」「私は密かに『ナイルパーチの女子会』と二作受賞を目論んだのだが、残念ながら叶えられることはなかった。」「思いの外、男性選考委員たちから厳しい意見が出たからだ。作者の主人公に対する目線が気になったという。考えてみれば、私自身、男性作家が描く女性に違和感を持つことがある。それと似たような感覚があったのかもしれない。」
  「毎回のことだが、小説とは読み手によって解釈がこんなにも違うものかと驚かされるばかりだ。今回も、各々の小説観を信じて、熱い論議が闘わされたことを最初に記しておきたい。」
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他の選考委員
石田衣良
角田光代
佐々木譲
白石一文
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受賞者・作品
柚木麻子女33歳×各選考委員 
『ナイルパーチの女子会』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男55歳
49 「細部の書きこみ、会話の密度、感情の激しさ、すべての点でスケールのおおきな翻訳小説を読んでいるようだ。持って生まれた圧倒的な筆力があるよ。ジャンボ鶴田を思いだした。」「後半の暴走はラテンアメリカ小説のようなリアリズムからの幻想的な逸脱として評価したい。ジュノ・ディアスの『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』みたいなね。そろそろ文学賞もリアリズム一辺倒から脱却するときだ。」
角田光代
女48歳
50 「とにもかくにも異様な熱に満ちた小説である。」「読みながら感じる違和感も、謎も、疑問も、たいしたことではないのかもしれないと思わせるような迫力がある。いってみれば、作者の作り上げた「設定」に、読み手をも引き入れようとしているのだ。説得力も現実味も、すべてその迫力と熱量で凌駕している。」
佐々木譲
男65歳
56 「当然ながら事前の情報もないままに読み出して、「読者としても」没入できたのがこの作品だった。」「エピソードのひとつひとつは極端なものではないし、主人公にけっして狂気や人格の破壊を感じさせない叙述でありながら、予感される関係の破綻と日常性の崩壊のそのありさまが気になって、読書を中断することができなかった。」「激論の後の最終投票でも、受賞作に推した」
白石一文
男56歳
55 「柚木さんは、従来通りの自らのテーマを一気に凝縮し、これまでの遠慮や衒い、計算をかなぐり捨てて、まさしく体当たりで本作を書き上げている。」「彼女は目下作家として一番の成長期を迎えているようだ。その証明とも言える作品に賞を与えるのは当然でもあるし、光栄なことでもある。」「柚木さんの受賞については、何一つ異論はない。」
唯川恵
女60歳
42 「小説が放つ熱量が、読み手を力技でねじ伏せる強さを持っていた。」「女友達と理想の関係を作りたいがために、相手を追い詰め、自分も壊れてゆく。その様は常軌を逸しながらも、痛いくらいにリアルに伝わって来た。」「このまま本書に翻弄され続けたい、と思った時点で、作者の勝ちと言えるだろう。」
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他の候補作
真梨幸子
『人生相談。』
早見和真
『イノセント・デイズ』
湊かなえ
『絶唱』
西川美和
『永い言い訳』
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候補者・作品
真梨幸子女51歳×各選考委員 
『人生相談。』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男55歳
42 「善人の愚かさを探し、悪人の気高さを描くというのが、クラシカルな小説の造りかただよね。この作品の登場人物は作者の掌のうえで踊るグロテスクな人形のようだった。ほんとうの驚きからは遠いんじゃないかな。」「ぼくはこの本、予選委員からの警告と受けとった。(引用者中略)経済文化双方の大格差社会のなかで、これまで出版界が無視していた新しい読者が多数生まれているんだぞ、とね。」
角田光代
女48歳
24 「あまりにも多くの人、関係、できごとが登場しすぎて、細かいつじつまが合わないのではないか、と引っかかってしまう。そして、どのようなちいさな事件であれ、起こるには、だれかしらの感情が大きくうねるはずなのだが、登場人物たちの心理がそのように書かれていないのではないかとも思った。」
佐々木譲
男65歳
17 「わたしは面白く読んだ。言葉によるスラップスティック作品とも言える小説であるが、叙述トリックのミステリ風味もある。」「全体の構成はきわめて技巧的で、騙されるものかとメモを取りながら読んでいたはずなのに、たしかに帯にあるように、何度かページを戻して読み直してしまった。」
白石一文
男56歳
20 「候補作中で一番楽しめたのはこの作品だったかもしれない。」「余計なひと言として加えれば、真梨さんには、今まで使っていた筋肉と別種の筋肉を使った作品を一度書いてみることを勧めたい。もっとも、これは、あくまで文学賞に照準を合わせるならばの話で、「そんなもの、私はどうでもいいわ」というのであれば、今まで通りでまったく構わないと思う。」
唯川恵
女60歳
37 「私には登場人物が多過ぎた。(引用者中略)物語そのものになかなか没頭できなかった。」「登場人物全てでなくていい、重要な人物が確固たる存在感を持っていてくれたら、付随する人間も個性を持って記憶に刻まれる。そこから頭の中で相関図が自然と組み立てられて、更に研ぎ澄まされた作品になったように思う。」
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他の候補作
柚木麻子
『ナイルパーチの女子会』
早見和真
『イノセント・デイズ』
湊かなえ
『絶唱』
西川美和
『永い言い訳』
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候補者・作品
早見和真男37歳×各選考委員 
『イノセント・デイズ』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男55歳
43 「無実の女性が死刑になるのが最大の衝撃だから、そこに向かって都合のいい悲劇を積みあげていく構造だ。」「筆力は十分だしすごく力がこもった勝負作だよ。読者の心を掴む力はあるんじゃないかな。」「実はぼくも△をつけて選考会に臨んだ。でも中絶に関する意見の古さ、クラスのいじめと性虐待の描きかたのアンバランスさはさすがに気になったかな。」
角田光代
女48歳
30 「序盤から読み手を小説世界に引きずり込む力を持っている。(引用者中略)けれども読み進むにつれて現実味が薄れていくように感じた。」「そうしてやっぱりラストに納得がいかないのである。いや、この小説はこの小説で完結しているので、ラストに異を唱えるのは間違っているとわかるのだが、死を望み、このようにすんなりと受け入れるほどの強いものが、幸乃にあるようには私には思えなかった。」
佐々木譲
男65歳
64 「思い切り好意的に解釈すれば、テーマは薄幸の女性に降りかかった不条理そのものであり、作者は主人公の深すぎる悲惨を描きたかったということなのかもしれない。しかし、だとしたら、作品のトーンの軽薄さと、そのテーマに対する作者の考察の浅さが気になる。」「臆測だが、たぶん作者は現実の刑事事件裁判を知らない。とくに関心もなく、資質にも合わない無理な題材を(モデルになった事件を読者はすぐに想起できるが)選んでしまったのではないか。本作が最初に議論の対象からはずれたのは当然だった。」
白石一文
男56歳
13 「重い球を投げる投手のような筆力の持ち主だ。今作はテーマもまた重いものだっただけに、その筆が逆に活かしきれなかったような印象がある。」「もっと楽しんで小説を書いて欲しいと思いながら読んだ。この人の場合、楽しんで楽しんで、楽しみ切れないほどに楽しんで一作を書き上げたとき、自分でもびっくりするようなものが生まれる気がする。」
唯川恵
女60歳
52 「最初の違和感は、幸乃がストーカーになった時だった。幸乃がどうしてそこまで男に執着するのか、理由はあったが、私は納得できなかった。」「幸乃と関わった周りの人間が、彼女の人生を浮かび上がらせてゆく、という手法は、新鮮味はなくとも、説得力があった。だからこそ逆に、幸乃自身に語らせる必要はなかったようにも感じた。」
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他の候補作
柚木麻子
『ナイルパーチの女子会』
真梨幸子
『人生相談。』
湊かなえ
『絶唱』
西川美和
『永い言い訳』
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候補者・作品
湊かなえ女42歳×各選考委員 
『絶唱』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男55歳
62 「これだけの力作を毎年発表した湊さんの力量と思いの強さには感服するよ。」「厳しいことをいうなら、ぼくは題材に対する甘さがあったと思うね。震災をテーマにしたら、そこは素直に読んでくれるだろう。きっと共感が得られるはずだ。無意識のうちに題材の強さに寄りかかっていたんじゃないかな。不満なのは四人の主人公がみな善意の被害者だったという点だ。」
角田光代
女48歳
27 「読み終えてみるとバランスの悪さが印象として残る。あまりにもフィクション的な作品と、あまりにも生々しい声に満ちた作品とが、無理矢理いっしょに綴じられているように思えてしまうのだ。」「この作者は非常にデリケートに慎重に、二十年前の災害について書こうとしたはずだ。四作の連作ではなく、表題作を軸にしたひとつの流れにしたほうが、その意図が伝わったのではないか……とどうしても思ってしまう。」
佐々木譲
男65歳
36 「ストーリー・テリングの「巧さ」という点で、柚木さんの『ナイルパーチの女子会』の「迫力」と対をなすような作品だった。」「巧さが際立つだけではなく、最後の一篇では作者自身を思わせる女性の生々しい震災体験が、取材や勉強ではけっして描けないだけのディテールの物語として昇華されている。」「湊さんほどの実力でコンスタントに傑作を出し続ける作家に対して、この山本周五郎賞がいま「お預け」をした状態であることを申し訳なくも思う。」
白石一文
男56歳
85 「議論の過程で、私は『絶唱』も何とか受賞作とできないかと相当に粘った。」「『絶唱』や前々回の候補作となった『母性』には、従来の得意な領域からはみ出ようという強い意欲を感じる。湊さんという作家はいま、変異期ないし羽化の途上にあると私は見る。」「この人は、目の前の殻を打ち破れば、さらに大きな作家に成長していくに違いないという確かな予感がある。」
唯川恵
女60歳
29 「表題にもなっている最後の「絶唱」だが、これは四編の中で異彩を放っている。主人公が作者本人と重なってしまうせいもあるだろう。もちろん、ご自身もそれを覚悟で書かれたはずだ。緊迫感に満ちた素晴らしい一編には違いないが、それだけに、他の短編とのバランスが悪くなってしまった。」「自伝的小説を書く難しさを改めて考えさせられた。」「自伝的であるからこそ、常に冷静な視線を失わず、物語を展開してゆくテクニックが必要なのだろう。」
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他の候補作
柚木麻子
『ナイルパーチの女子会』
真梨幸子
『人生相談。』
早見和真
『イノセント・デイズ』
西川美和
『永い言い訳』
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候補者・作品
西川美和女40歳×各選考委員 
『永い言い訳』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男55歳
47 「厳しいのは啓の人物造形だね。ふわふわしていて掴みどころがない。単発のエピソードが重なるだけで、人間の厚みが感じられない。脚本を書く人によくあるんだけど、役者の肉体がないと説得力のある人物像にならないんだよ。」「文章のセンスは、候補作中西川さんが一番優れているように思うよ。(引用者中略)ひと言でいえば知的おしゃれ度が高い。」
角田光代
女48歳
44 「今回もっとも心に残った」「作者は、大切なものを失った人を書くのではなく、大切にしなかったものを失った人をこそ、書こうとしたのだと思った。」「読み応えのある小説だった。けれども、夫の、作家という職業についての疑問、あるいは、終盤、陽一が起こす事件が唐突すぎるという意見なども多かった。そうした意見を覆してプラスにすることが私にはできなかった。」
佐々木譲
男65歳
35 「西川さんは文芸や出版の業界にも詳しいだろうに、この主人公の作家の設定には最後まで納得がいかなかった。」「いないとは言わないが、昭和四十年代ぐらいの、業界外のひとが想像する流行作家、のイメージである。(引用者中略)別の見方で言うと、この作品は新派のお芝居そのままのような「髪結いの亭主」である小説家の話の語り直しだとも言える。」
白石一文
男56歳
11 「愛していない人を失ったからこそ、残された者はその罪の深さにおののき、永遠の言い訳を積み重ねていく――この小説の主題に、私はいまひとつ乗り切れなかった。角田委員や唯川委員に本作で描き出されたものの貴重さを説かれ、ただただ「女性にとっての愛」の深淵に男としての引け目を痛感するほかなかった。」
唯川恵
女60歳
45 「唸らされた。」「小説としての佇まいに心地よさを感じた。」「私は密かに『ナイルパーチの女子会』と二作受賞を目論んだのだが、残念ながら叶えられることはなかった。」「思いの外、男性選考委員たちから厳しい意見が出たからだ。作者の主人公に対する目線が気になったという。考えてみれば、私自身、男性作家が描く女性に違和感を持つことがある。それと似たような感覚があったのかもしれない。」
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他の候補作
柚木麻子
『ナイルパーチの女子会』
真梨幸子
『人生相談。』
早見和真
『イノセント・デイズ』
湊かなえ
『絶唱』
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