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平成28年/2016年度
(平成29年/2017年5月16日決定発表/『小説新潮』平成29年/2017年7月号選評掲載)
選考委員  石田衣良
男57歳
荻原浩
男60歳
角田光代
女50歳
佐々木譲
男67歳
唯川恵
女62歳
選評総行数  229 232 189 202 202
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
佐藤多佳子 『明るい夜に出かけて』
女54歳
67 29 55 42 51
澤村伊智 『ずうのめ人形』
男37歳
32 36 28 32 37
朝倉かすみ 『満潮』
女56歳
29 39 31 54 28
相場英雄 『不発弾』
男49歳
37 37 40 52 42
木下昌輝 『敵の名は、宮本武蔵』
男42歳
22 41 35 38 31
         
年齢の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『小説新潮』平成29年/2017年7月号
1行当たりの文字数:18字


選考委員
石田衣良男57歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
揺らがず軽やか誠実に 総行数229 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
佐藤多佳子
女54歳
67 「今回の選考会では一次投票からトップを譲らないぶっちぎりの受賞だった。」「番組内容やアルピーのトークなんかはすべて実在のままで、その分量が多すぎるのが気になったな。あれが創作だったらよかったのに。」「ドラマのない日常系アニメの世界を、作家のセンスとテクニックで緻密につくりあげた。技術点では間違いなく候補作中一番だ。」「リラックスしてたのしみながら書かれた佳作で、山本賞みたいな文学の重力から完全に自由になった軽々としたふくらみのある青春小説だ。」
澤村伊智
男37歳
32 「ぼくは推したんだけど、支持は広がらなかった。残念だよ。」「これまでホラー小説でつかわれたあらゆる手を総動員してつくりあげた佳作だと思うよ。よくこんなに複雑な構成を書きあげたものだ。」「惜しいのは、あまりに手記の登場人物と実際の人間がつながりすぎてるところだね。偶然でも多すぎる。」
朝倉かすみ
女56歳
29 「ぼくは小道具やネーミングの選択にイマイチ乗れなかったな。そこは作家の腕の見せどころだよね。」「まあ、いつの時代の話かわからない感はあったね。バブル期なのかなと錯覚した。」「それとこのふたりのあいだに肉体関係があったのか、ラストに殺人があったのかも、ぼかして書かれていて、よくわからない。だいたいヒロインが空っぽすぎるよ。」
相場英雄
男49歳
37 「前作よりもぐっと腕をあげた印象だ。」「魅力的なのは高卒から叩きあげた金融屋のほうで、ページ数のバランスも8対2くらいになっている。この作品は金融界のライバル同士の知力を尽くした凌ぎあいにしたほうがよかったな。」
木下昌輝
男42歳
22 「アイディアは素晴らしいよ。けれど果たして武蔵はそのだまし絵から生きた人間として、飛びだしてきたかな。武蔵より父の無二や吉岡憲法のほうがずっといきいきしていた。」「このところ時代小説は藤沢=池波ラインが主流で、そこにあらわれた五味=柴田ラインのハードボイルド無頼派路線として、ぼくはすごく気にいったよ。」
  「このところブームといえるほど、おおきな動きがないのはそのとおりかな。ライトノベルも、書き下ろし時代小説も、イヤミスも、ブームが落ち着いてひとつのジャンルとして成熟してきた。」「なにか小説の世界全体に元気がない気がして、すこし淋しいよ。」
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他の選考委員
荻原浩
角田光代
佐々木譲
唯川恵
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選考委員
荻原浩男60歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
初めての選考会 総行数232 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
佐藤多佳子
女54歳
29 「文章が素晴らしい。一行一行、一字一句を磨きこんで、適切な場所に配していることが、同じプロとしてわかる。」「登場人物も魅力的だ。女子高生の“虹色ギャランドゥ”こと佐古田には、完全にやられた。」「僕は何十年も前の自分の深夜放送体験と重ね合わせて面白がれた。青春小説はみんなのもの。ある意味、全世代のファンタジーなのだから、問題ないと思う。」「僕のいち押しです。」
澤村伊智
男37歳
36 「リーダビリティという点ではいちばんだった。」「登場人物も、数が多いのに一人一人キャラクターが立っている。あちこちに仕掛けられたサプライズにも本当に驚かされた。」「小説の中の奇蹟は一度だけにすべきだと思う。映像作品などでさくっと観せられれば気にならなくても、小説は頭がいちいち立ち止まるから。」「とはいえ、読んでるあいだは本当に楽しかった。僕の中では、次点です。」
朝倉かすみ
女56歳
39 「繊細な文章が眉子さんの「痛さ」をうまく強調しているし、次々と変わる語り手が、眉子さんの歪んでいく過程をさりげなく明かしていく構成も面白いと思った、のだが。」「全編、ただ「痛い」のだ。痛すぎる。」「小説家としての能力が高い人だというのは読めばわかるけれど、この作品に関しては、いい素材を使い技巧も凝らした創作料理を立て続けに出されて、お茶漬けも食わせてくれ、と音をあげた、そんな感じだ。」
相場英雄
男49歳
37 「実在のモデルがうじゃうじゃいる。ここに書かれているのは、かつて日本で実際に起きていたこと、その裏であったかもしれないこと、なのだ。」「作者がリスクを背負ってきちんと矢面に立っていることを評価したい、というか見習いたい。」「ただし、小説として読むと、アラが目立つように思えた。」「登場人物一人一人の顔が見えない。単に容貌の描写が少ないというだけでなく「ああ、この人はこういう人ね」という人間としての特徴や心の動きが見えてこないのだ。」
木下昌輝
男42歳
41 「各篇の主人公は武蔵に敗れた者たちで、彼らの視点で物語が綴られる。まず、その発想に目からウロコが落ちた。」「楽しく読んでいたのだが、篇が進むにつれて、同じものを繰り返し読んでいる気分になってしまった。」「一篇だけでも身も蓋もない奴を主人公にしたり、全体のトーンをあえて壊すような話を加えてみたり、少し変化球を織り混ぜるだけで、もっと凄みのある本になると思うのだが。」
  「今年から中途採用で選考委員になりました。」「まず考えたのが、自分を棚に上げる、ということだ。(引用者中略)資格がなくても裁く。その姿勢でいくことにした。」「もうひとつ、何度も賞に落ちてきた人間として、自分がやられたくない選考はしない、と決めた。候補作を考えうるかぎりフェアに扱おうと思った。」
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他の選考委員
石田衣良
角田光代
佐々木譲
唯川恵
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選考委員
角田光代女50歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
肉声というリアリティ 総行数189 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
佐藤多佳子
女54歳
55 「私はラジオ自体に馴染みがなく、この小説で描かれる深夜ラジオの世界もまったく知らない。じつはこの小説に描かれる深夜ラジオというものの魅力があまりわからなかったのだが、それはこの小説においてマイナスではなくプラスだと思った。そうした世界があって(それはむしろマイノリティのもので)、そこに住むことで救われる人、すがることで呼吸する人の姿が、やはりリアリティを持って正しく伝わってきたからだ。」「ほとんど満場一致で『明るい夜に出かけて』の受賞となった。」
澤村伊智
男37歳
28 「ホラー・怪奇小説というものへの愛と尊敬が、端々からにじみ出ている小説だ。」「なぜ呪いの力を持った原稿が出まわったのかという点においてはミステリー小説としてたのしめるのだが、その「なぜ」が弱いように思う。自身の過去を、世の中を憎む人間が、その強烈な憎しみによって、現実に複数の人の死を引き起こすという説得力に欠ける気がした。」
朝倉かすみ
女56歳
31 「(引用者注:登場人物の眉子、茶谷、真壁直人)彼ら三者三様の過剰と欠損の入り交じる異様さが、この小説独特の牽引力となっている。」「引きずられていくのはじつに快感なのだが、しかし、三人は、本当には関わりを持たないまま終わってしまったような不思議な印象を抱いた。強力に引っ張られて連れてきてもらった場所がどこなのか、わからないのである。」
相場英雄
男49歳
40 「現実に大手企業による粉飾決算の問題が明るみとなった後では、なぜドキュメンタリーではなく小説なのだろう? と思ってしまう。」「たとえば、杉本が古賀に仕組債やオプション取引について説明するときに、どうしても小説としてのスピードが減速してしまうように思う。」「そして最後の最後で古賀がこのような勝ち方をしてしまうことで、私はもっと混乱してしまった。現実の社会がこうなのだとしても、だ。「小説」がどこを目指したのかがわからなくなってしまった。」
木下昌輝
男42歳
35 「疑問と不満が残った。疑問は、後半になると幾箇所か出てくる、「信頼できる資料」における註釈だ。」「この小説は私にとって圧倒的に読ませる作品だったので、信頼できる資料があろうかなかろうと、この小説自体が有無を言わさず信頼させてくれればそれでいいのではないか、参考資料を巻末に書き留めるだけではいけないのだろうか、と疑問を持った。不満は、登場人物のありようの方向性が一種類であること。」
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他の選考委員
石田衣良
荻原浩
佐々木譲
唯川恵
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選考委員
佐々木譲男67歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
すんなりと気持ちよく 総行数202 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
佐藤多佳子
女54歳
42 「ラジオの深夜放送という、まったく知らない風俗と文化が題材なのに、「自分は場違いな世界にいる」という居心地の悪さをいっさい感じることなく読み進めていくことができた。ラストでは、読み出したときには想像もつかなかったような幸福感に包まれる。」「題材の新鮮さとストーリーテリングの滑らかさ、読後感の心地よさで、本作を受賞作と推した次第である。けっきょくのところ、一度の投票ですんなりと本作が受賞と決まって、こういう選考会もあっていいなと、あらためて感じた次第。」
澤村伊智
男37歳
32 「登場人物たちの多くが、オカルト雑誌の編集者やオカルトもののライターであるという設定なので、彼らには超常現象や、関係者の異様な自殺さえ解釈可能な現実であるらしい。この部分が、まずすんなりと受け入れられないのだ。」「ただ、本作品からホラーとしての意匠の部分を除いた物語の核の部分は、印象深い。」
朝倉かすみ
女56歳
54 「いったい具体的には何があったのか、それを知ろうと読者はページをめくることになる。それをさせる朝倉さんの技量は大変なものだが、ただ、けっきょく、何が、というか、なぜストーリーがそこに至ったのか、確信はできなままに物語は終わってしまった。」「物語の解釈を読者に委ねる終わり方は特別稀な手法ではないが、やはりやや手がかりが不足していたと感じる。」
相場英雄
男49歳
52 「相場英雄さんの作品を本賞の候補作として読むのはこれが三作目だと思うが、この作品がもっとも読み進めにくかった。基本的な「劇的対立」の構図に乗ることができず、結末には途方に暮れたというのが正直なところだ。」「そもそも東芝の粉飾決算を題材とし、片側に警視庁捜査員の主人公をおいて、警察捜査小説の様式を使ってこのストーリーを語るならば、その主人公が摘発の対象とする相手は、粉飾決算の実行犯というか主犯たち、つまりその大企業の役員たちであるべきだろう。」
木下昌輝
男42歳
38 「宮本武蔵を、彼の敵だった男たちの視点から描くという珍しい試みの連作集で、わたしは面白く読んだ。かなりの宮本武蔵好きにも、既視感なく読める作品集なのではないか。」「ただ、全体には、気になる点が散見されないでもない。とくに、観念性の強い記述、台詞がわかりにくい。」「また、何カ所か台詞が説明的過ぎると感じられる部分があり、テンポを壊す。」
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他の選考委員
石田衣良
荻原浩
角田光代
唯川恵
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選考委員
唯川恵女62歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
それぞれの世界観 総行数202 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
佐藤多佳子
女54歳
51 「何より登場人物たちの、いや作者というべきか、ラジオへの愛の深さが感じられた。」「しかし、同時にそこが難しいところでもあって、ラジオの世界をあまり知らない人は、小説に乗り切れないところがあるかもしれない。私がそのひとりで、登場人物たちがパーソナリティを大変に面白がっているのはわかるが、その面白さを、彼らの「面白い」というフィルターを通してしかわからないので、どうにももどかしい。」「安定した筆力、独特の世界観、巧みなストーリー展開、魅力ある登場人物、すべてにおいて佐藤さんの実力が発揮された作品だった。」
澤村伊智
男37歳
37 「序盤のスローな展開に、少々焦れったさを感じたが、徐々に迫力を増し、読者の気持ちをコントロールしつつ作者の世界に引きずり込んでゆく展開は、澤村さん独自の持ち味だと思う。」「ただ読み進めてゆくうちに、いくつか納得できない点が出て来た。里穂の強い憎しみが、ずうのめ人形となって人を殺すのはわかる。けれども、狂気が生み出される過程に説得力が足りず、そうまでなってしまう現象を受け入れることができない。」
朝倉かすみ
女56歳
28 「この文章は個人的にはとても好きで、はまると中毒になるような個性があった。」「他者の証言によって、ふたりの輪郭が少しずつ鮮明になってきたところで、当の本人たちが登場する。すると、逆に存在がぼやけてしまう。」「そして結末は、こうあって欲しくないと思うところに辿り着いてしまい、正直なところ、衝撃的というより残念感の方が強かった。」
相場英雄
男49歳
42 「企業の粉飾決算、不適切な会計処理、ファンド取引など、実在と推測できる企業や人物を登場させ、フィクションとノンフィクションのぎりぎりのラインで書き切った熱意に敬服する。」「ただ、専門用語と共に複雑なシステムが説明されるに従って、その分野に詳しい方なら一気に読み進められるだろうが、疎い私は徐々に置いてきぼりにされてしまった。」「今回の作品は、小説として膨らませるべきところを膨らませていないように思えた。」
木下昌輝
男42歳
31 「エンターテインメント小説の基本をきちんと押さえ、かつ既定路線の範疇に留まらず、作者の個性を打ち出しているところを評価したい。他の選考委員から、どの短編もパターンが同じ、という意見も出たが、私は気にならなかった。むしろ、剣術を極めた末に辿り着く場所は、結局、ひとつところではないのかと思えた。」「読み終わった後、素直に「面白かった」という感慨に浸り、私は「○」を付けた。」
  「選考会は、一回目の投票で佐藤さんの作品(引用者注:『明るい夜に出かけて』)が大きくリードした。最後までそれが揺らがなかったことを先に記しておきたい。」
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他の選考委員
石田衣良
荻原浩
角田光代
佐々木譲
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受賞者・作品
佐藤多佳子女54歳×各選考委員 
『明るい夜に出かけて』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男57歳
67 「今回の選考会では一次投票からトップを譲らないぶっちぎりの受賞だった。」「番組内容やアルピーのトークなんかはすべて実在のままで、その分量が多すぎるのが気になったな。あれが創作だったらよかったのに。」「ドラマのない日常系アニメの世界を、作家のセンスとテクニックで緻密につくりあげた。技術点では間違いなく候補作中一番だ。」「リラックスしてたのしみながら書かれた佳作で、山本賞みたいな文学の重力から完全に自由になった軽々としたふくらみのある青春小説だ。」
荻原浩
男60歳
29 「文章が素晴らしい。一行一行、一字一句を磨きこんで、適切な場所に配していることが、同じプロとしてわかる。」「登場人物も魅力的だ。女子高生の“虹色ギャランドゥ”こと佐古田には、完全にやられた。」「僕は何十年も前の自分の深夜放送体験と重ね合わせて面白がれた。青春小説はみんなのもの。ある意味、全世代のファンタジーなのだから、問題ないと思う。」「僕のいち押しです。」
角田光代
女50歳
55 「私はラジオ自体に馴染みがなく、この小説で描かれる深夜ラジオの世界もまったく知らない。じつはこの小説に描かれる深夜ラジオというものの魅力があまりわからなかったのだが、それはこの小説においてマイナスではなくプラスだと思った。そうした世界があって(それはむしろマイノリティのもので)、そこに住むことで救われる人、すがることで呼吸する人の姿が、やはりリアリティを持って正しく伝わってきたからだ。」「ほとんど満場一致で『明るい夜に出かけて』の受賞となった。」
佐々木譲
男67歳
42 「ラジオの深夜放送という、まったく知らない風俗と文化が題材なのに、「自分は場違いな世界にいる」という居心地の悪さをいっさい感じることなく読み進めていくことができた。ラストでは、読み出したときには想像もつかなかったような幸福感に包まれる。」「題材の新鮮さとストーリーテリングの滑らかさ、読後感の心地よさで、本作を受賞作と推した次第である。けっきょくのところ、一度の投票ですんなりと本作が受賞と決まって、こういう選考会もあっていいなと、あらためて感じた次第。」
唯川恵
女62歳
51 「何より登場人物たちの、いや作者というべきか、ラジオへの愛の深さが感じられた。」「しかし、同時にそこが難しいところでもあって、ラジオの世界をあまり知らない人は、小説に乗り切れないところがあるかもしれない。私がそのひとりで、登場人物たちがパーソナリティを大変に面白がっているのはわかるが、その面白さを、彼らの「面白い」というフィルターを通してしかわからないので、どうにももどかしい。」「安定した筆力、独特の世界観、巧みなストーリー展開、魅力ある登場人物、すべてにおいて佐藤さんの実力が発揮された作品だった。」
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他の候補作
澤村伊智
『ずうのめ人形』
朝倉かすみ
『満潮』
相場英雄
『不発弾』
木下昌輝
『敵の名は、宮本武蔵』
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候補者・作品
澤村伊智男37歳×各選考委員 
『ずうのめ人形』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男57歳
32 「ぼくは推したんだけど、支持は広がらなかった。残念だよ。」「これまでホラー小説でつかわれたあらゆる手を総動員してつくりあげた佳作だと思うよ。よくこんなに複雑な構成を書きあげたものだ。」「惜しいのは、あまりに手記の登場人物と実際の人間がつながりすぎてるところだね。偶然でも多すぎる。」
荻原浩
男60歳
36 「リーダビリティという点ではいちばんだった。」「登場人物も、数が多いのに一人一人キャラクターが立っている。あちこちに仕掛けられたサプライズにも本当に驚かされた。」「小説の中の奇蹟は一度だけにすべきだと思う。映像作品などでさくっと観せられれば気にならなくても、小説は頭がいちいち立ち止まるから。」「とはいえ、読んでるあいだは本当に楽しかった。僕の中では、次点です。」
角田光代
女50歳
28 「ホラー・怪奇小説というものへの愛と尊敬が、端々からにじみ出ている小説だ。」「なぜ呪いの力を持った原稿が出まわったのかという点においてはミステリー小説としてたのしめるのだが、その「なぜ」が弱いように思う。自身の過去を、世の中を憎む人間が、その強烈な憎しみによって、現実に複数の人の死を引き起こすという説得力に欠ける気がした。」
佐々木譲
男67歳
32 「登場人物たちの多くが、オカルト雑誌の編集者やオカルトもののライターであるという設定なので、彼らには超常現象や、関係者の異様な自殺さえ解釈可能な現実であるらしい。この部分が、まずすんなりと受け入れられないのだ。」「ただ、本作品からホラーとしての意匠の部分を除いた物語の核の部分は、印象深い。」
唯川恵
女62歳
37 「序盤のスローな展開に、少々焦れったさを感じたが、徐々に迫力を増し、読者の気持ちをコントロールしつつ作者の世界に引きずり込んでゆく展開は、澤村さん独自の持ち味だと思う。」「ただ読み進めてゆくうちに、いくつか納得できない点が出て来た。里穂の強い憎しみが、ずうのめ人形となって人を殺すのはわかる。けれども、狂気が生み出される過程に説得力が足りず、そうまでなってしまう現象を受け入れることができない。」
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他の候補作
佐藤多佳子
『明るい夜に出かけて』
朝倉かすみ
『満潮』
相場英雄
『不発弾』
木下昌輝
『敵の名は、宮本武蔵』
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候補者・作品
朝倉かすみ女56歳×各選考委員 
『満潮』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男57歳
29 「ぼくは小道具やネーミングの選択にイマイチ乗れなかったな。そこは作家の腕の見せどころだよね。」「まあ、いつの時代の話かわからない感はあったね。バブル期なのかなと錯覚した。」「それとこのふたりのあいだに肉体関係があったのか、ラストに殺人があったのかも、ぼかして書かれていて、よくわからない。だいたいヒロインが空っぽすぎるよ。」
荻原浩
男60歳
39 「繊細な文章が眉子さんの「痛さ」をうまく強調しているし、次々と変わる語り手が、眉子さんの歪んでいく過程をさりげなく明かしていく構成も面白いと思った、のだが。」「全編、ただ「痛い」のだ。痛すぎる。」「小説家としての能力が高い人だというのは読めばわかるけれど、この作品に関しては、いい素材を使い技巧も凝らした創作料理を立て続けに出されて、お茶漬けも食わせてくれ、と音をあげた、そんな感じだ。」
角田光代
女50歳
31 「(引用者注:登場人物の眉子、茶谷、真壁直人)彼ら三者三様の過剰と欠損の入り交じる異様さが、この小説独特の牽引力となっている。」「引きずられていくのはじつに快感なのだが、しかし、三人は、本当には関わりを持たないまま終わってしまったような不思議な印象を抱いた。強力に引っ張られて連れてきてもらった場所がどこなのか、わからないのである。」
佐々木譲
男67歳
54 「いったい具体的には何があったのか、それを知ろうと読者はページをめくることになる。それをさせる朝倉さんの技量は大変なものだが、ただ、けっきょく、何が、というか、なぜストーリーがそこに至ったのか、確信はできなままに物語は終わってしまった。」「物語の解釈を読者に委ねる終わり方は特別稀な手法ではないが、やはりやや手がかりが不足していたと感じる。」
唯川恵
女62歳
28 「この文章は個人的にはとても好きで、はまると中毒になるような個性があった。」「他者の証言によって、ふたりの輪郭が少しずつ鮮明になってきたところで、当の本人たちが登場する。すると、逆に存在がぼやけてしまう。」「そして結末は、こうあって欲しくないと思うところに辿り着いてしまい、正直なところ、衝撃的というより残念感の方が強かった。」
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他の候補作
佐藤多佳子
『明るい夜に出かけて』
澤村伊智
『ずうのめ人形』
相場英雄
『不発弾』
木下昌輝
『敵の名は、宮本武蔵』
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候補者・作品
相場英雄男49歳×各選考委員 
『不発弾』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男57歳
37 「前作よりもぐっと腕をあげた印象だ。」「魅力的なのは高卒から叩きあげた金融屋のほうで、ページ数のバランスも8対2くらいになっている。この作品は金融界のライバル同士の知力を尽くした凌ぎあいにしたほうがよかったな。」
荻原浩
男60歳
37 「実在のモデルがうじゃうじゃいる。ここに書かれているのは、かつて日本で実際に起きていたこと、その裏であったかもしれないこと、なのだ。」「作者がリスクを背負ってきちんと矢面に立っていることを評価したい、というか見習いたい。」「ただし、小説として読むと、アラが目立つように思えた。」「登場人物一人一人の顔が見えない。単に容貌の描写が少ないというだけでなく「ああ、この人はこういう人ね」という人間としての特徴や心の動きが見えてこないのだ。」
角田光代
女50歳
40 「現実に大手企業による粉飾決算の問題が明るみとなった後では、なぜドキュメンタリーではなく小説なのだろう? と思ってしまう。」「たとえば、杉本が古賀に仕組債やオプション取引について説明するときに、どうしても小説としてのスピードが減速してしまうように思う。」「そして最後の最後で古賀がこのような勝ち方をしてしまうことで、私はもっと混乱してしまった。現実の社会がこうなのだとしても、だ。「小説」がどこを目指したのかがわからなくなってしまった。」
佐々木譲
男67歳
52 「相場英雄さんの作品を本賞の候補作として読むのはこれが三作目だと思うが、この作品がもっとも読み進めにくかった。基本的な「劇的対立」の構図に乗ることができず、結末には途方に暮れたというのが正直なところだ。」「そもそも東芝の粉飾決算を題材とし、片側に警視庁捜査員の主人公をおいて、警察捜査小説の様式を使ってこのストーリーを語るならば、その主人公が摘発の対象とする相手は、粉飾決算の実行犯というか主犯たち、つまりその大企業の役員たちであるべきだろう。」
唯川恵
女62歳
42 「企業の粉飾決算、不適切な会計処理、ファンド取引など、実在と推測できる企業や人物を登場させ、フィクションとノンフィクションのぎりぎりのラインで書き切った熱意に敬服する。」「ただ、専門用語と共に複雑なシステムが説明されるに従って、その分野に詳しい方なら一気に読み進められるだろうが、疎い私は徐々に置いてきぼりにされてしまった。」「今回の作品は、小説として膨らませるべきところを膨らませていないように思えた。」
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他の候補作
佐藤多佳子
『明るい夜に出かけて』
澤村伊智
『ずうのめ人形』
朝倉かすみ
『満潮』
木下昌輝
『敵の名は、宮本武蔵』
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候補者・作品
木下昌輝男42歳×各選考委員 
『敵の名は、宮本武蔵』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男57歳
22 「アイディアは素晴らしいよ。けれど果たして武蔵はそのだまし絵から生きた人間として、飛びだしてきたかな。武蔵より父の無二や吉岡憲法のほうがずっといきいきしていた。」「このところ時代小説は藤沢=池波ラインが主流で、そこにあらわれた五味=柴田ラインのハードボイルド無頼派路線として、ぼくはすごく気にいったよ。」
荻原浩
男60歳
41 「各篇の主人公は武蔵に敗れた者たちで、彼らの視点で物語が綴られる。まず、その発想に目からウロコが落ちた。」「楽しく読んでいたのだが、篇が進むにつれて、同じものを繰り返し読んでいる気分になってしまった。」「一篇だけでも身も蓋もない奴を主人公にしたり、全体のトーンをあえて壊すような話を加えてみたり、少し変化球を織り混ぜるだけで、もっと凄みのある本になると思うのだが。」
角田光代
女50歳
35 「疑問と不満が残った。疑問は、後半になると幾箇所か出てくる、「信頼できる資料」における註釈だ。」「この小説は私にとって圧倒的に読ませる作品だったので、信頼できる資料があろうかなかろうと、この小説自体が有無を言わさず信頼させてくれればそれでいいのではないか、参考資料を巻末に書き留めるだけではいけないのだろうか、と疑問を持った。不満は、登場人物のありようの方向性が一種類であること。」
佐々木譲
男67歳
38 「宮本武蔵を、彼の敵だった男たちの視点から描くという珍しい試みの連作集で、わたしは面白く読んだ。かなりの宮本武蔵好きにも、既視感なく読める作品集なのではないか。」「ただ、全体には、気になる点が散見されないでもない。とくに、観念性の強い記述、台詞がわかりにくい。」「また、何カ所か台詞が説明的過ぎると感じられる部分があり、テンポを壊す。」
唯川恵
女62歳
31 「エンターテインメント小説の基本をきちんと押さえ、かつ既定路線の範疇に留まらず、作者の個性を打ち出しているところを評価したい。他の選考委員から、どの短編もパターンが同じ、という意見も出たが、私は気にならなかった。むしろ、剣術を極めた末に辿り着く場所は、結局、ひとつところではないのかと思えた。」「読み終わった後、素直に「面白かった」という感慨に浸り、私は「○」を付けた。」
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『明るい夜に出かけて』
澤村伊智
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朝倉かすみ
『満潮』
相場英雄
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