第40回

第39回第41回

平成30年/2018年度 平成31年/2019年3月4日決定発表

選考委員　 伊集院静 69歳 大沢在昌 62歳 恩田陸 54歳 京極夏彦 55歳 重松清 55歳 選評総行数　 54 39 53 72 59 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 塩田武士　『歪んだ波紋』 39歳 評 ○ 9 △ 7 □ 13 □ 15 △ 9 藤井太洋　『ハロー・ワールド』 47歳 評 □ 10 △ 7 □ 12 □ 14 △ 13 呉勝浩　『マトリョーシカ・ブラッド』 37歳 評 ■ 16 ■ 9 ■ 11 ■ 14 ■ 8 武田綾乃　『その日、朱音は空を飛んだ』 (27歳) 評 ■ 12 ● 5 ■ 11 △ 17 ■ 13 三秋縋　『君の話』 (29歳) 評 ● 7 ● 8 ■ 8 △ 14 ○ 11           年齢の説明   見方・注意点

伊集院静69歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

題真摯な目　総行数54　（1行=29字） 候補 評価 行数 評言 塩田武士 39歳 全 ○ 9 「安定した文章と抒情のある描写力が、今回の候補作中で抜きん出ていた。」「テーマ、題材が相変らずという意見があったが、私には着実に小説の力量を高めている氏の精進が読みとれた。私は氏の人間を描く時の真摯な目に敬意を抱いている。」 藤井太洋 47歳 全 □ 10 「まず文章が良かった。」「次にインターネットを含めて、大半の人々が仕事、生活の中で関わらざるを得ない世界をこの作家は実に解り易く描いてみせてくれる才能があるのに感心した。丁寧なのである。丁寧とは独善（ひとりよがり）にならないことである。」「最後にこの作家の描く人物には、その表情と内面が伝わって来ることが頼もしかった。」 呉勝浩 37歳 全 ■ 16 「事件の真相に近づこうとしたヤマ場を迎えた時にそれまで登場しなかった人物、出来事があらわれ、読み手と作者がむかおうとする場所から離れてしまう状況をたびたび読まされることになった。戸惑いも感じたが、それ以上にエンターテイメント小説に欠かせない“一気に突き抜ける小説の醍醐味”が失せてしまった。」 武田綾乃 (27歳) 全 ■ 12 「私が特に感心したのは、この作家が持つ独自の目、視点であった。弁当箱の中身を描写する一文などは大変なセンスである。ただ私が危惧したのは、これで小説が成立するのか、という点だった。」「この完結では、若い人の自殺の肯定としか受け取られないものがあるように思えた。」 三秋縋 (29歳) 全 ● 7 「小説の最初に完璧なオリジナリティーはない。模倣とまでは言わぬが、新人作家が傾倒する世界から出発するこは実は大切なことだ。しかしやがてオリジナリティーは否応なしにあらわれざるを得ない。本作にはこの作家にしか描けないものが私には見えなかった。」

他の選考委員 大沢在昌 恩田陸 京極夏彦 重松清

大沢在昌62歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

題個性豊かな候補作　総行数39　（1行=29字） 候補 評価 行数 評言 塩田武士 39歳 全 △ 7 「現代的なテーマながら、実に手がたく、ある意味古臭い手法で書かれていて、その愚直ともいえる作者の姿勢に好感をもった。」「一方で作者には「新聞記者」を卒業してもらいたいという願いをもった。記者を主人公にすえる限り、その導入部には既視感がつきまとう。」 藤井太洋 47歳 全 △ 7 「まさに今日的な題材で、ふだん使うことのない「才気」という言葉をこの作者にはさしあげたい。」「多くのプラットフォーマーが実名で登場し、中には現実と異なる動きをする場面もあるが、これとて作者の予知（原文傍点）なのかもしれない。」 呉勝浩 37歳 全 ■ 9 「意欲作だが素材を詰めこみ過ぎたようだ。不可解な動きをする登場人物の女性二人の動機を「愛情」で説明してしまうのにも違和感をもった。」「文句は付けたが、序盤での風呂敷の広げかた、終盤に向けたたみ込む文章など、作者は腕を上げている。」 武田綾乃 (27歳) 全 ● 5 「こういう高校生活は確かにあるのだろうと思いながらも、作者の意図が私には伝わらなかった。『籔の中』を狙ったのでは、とも思ったが、それにしては“真相”にインパクトがない。」 三秋縋 (29歳) 全 ● 8 「実に達者、ご都合主義といえばこれ以上のご都合主義はなく、作り物としては完成されている。」「結果、胸に残るものが、あるようで、ない。ああ、やはりこうなるのね、で終わる。」   「四十回という節目にあたる今回は、ＳＦ、ミステリ、青春小説とバラエティに富んだ候補作が並んだ。」

他の選考委員 伊集院静 恩田陸 京極夏彦 重松清

恩田陸54歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

総行数53　（1行=29字） 候補 評価 行数 評言 塩田武士 39歳 全 □ 13 「前々回の候補作品『罪の声』ではまだ小説になりきれていなかったが、今回はそれぞれの短編の完成度も高く、小説として面白く読んだ。」「問題なのは、「元新聞記者の書いた社会派小説」と言われて予想する小説のイメージから一歩も抜け出していないことだろう。そのせいで、扱っている題材が最先端な割にはやけに古めかしい印象を受けてしまうし、そのイメージ内でまとめようとするあまり、全体的にこぢんまりとしてしまった感は否めない。」「（引用者注：「ハロー・ワールド」との）二作受賞はベストだと思う。」 藤井太洋 47歳 全 □ 12 「まさに「今」の世界を描いた、勇気のある、志の高い小説である。」「仮想通貨の、ここで提示されたある解決策には、現実になればすごいブレイクスルーになりそうで、とても感心した。」「昨日よりも今日、今日よりも明日、少しでも社会をよくしていこうという気概が感じられる。」「（引用者注：「歪んだ波紋」との）二作受賞はベストだと思う。」 呉勝浩 37歳 全 ■ 11 「面白いのだけれど話を詰め込みすぎたと思われる。」「伏線を回収して大きな絵のピースを埋めようとしているのは分かるのだけれど、ピースのサイズがバラバラで今ひとつぴしっと嵌まらないのも居心地が悪い。メインの捜査官三人のキャラクターがそれぞれ面白いだけに、もっと彼らの背景と活躍を突っ込んで読みたかった。」 武田綾乃 (27歳) 全 ■ 11 「共感できる人物が一人も出てこないけれど、不穏な企みを感じてそれなりに面白く読んだ。」「早々に「これは伏線だな」「後で出てくるな」と読めてしまうので、本来ならばラストにガツンと来るはずの衝撃が弱く、それこそ読後感が「だから何？」という感じになってしまった。」 三秋縋 (29歳) 全 ■ 8 「話自体は古典的なストーリーで特に目新しいところはないけれど、精緻で端正な文章には好感が持てる。」「「よくできた話」のそれ以上でも以下でもないところが残念。やっぱり時代を超えてみんなこういう話が好きなんだなあ、と再確認した。」   「ないものねだりをすれば、（引用者注：受賞作の「歪んだ波紋」「ハロー・ワールド」）どちらも連作短編で手堅い印象だったので、もっと構えの大きな作品を読みたかったなあ、ということだろうか。」

他の選考委員 伊集院静 大沢在昌 京極夏彦 重松清

京極夏彦55歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

総行数72　（1行=29字） 候補 評価 行数 評言 塩田武士 39歳 全 □ 15 「モチーフは作者の自家薬籠中の素材ばかりであり、描写や設定にも説得力があり、筆致も安定している。但し、小説の造り方自体はオーソドックスなものであり、決して新しくはない（新しくなければいけないということは全くないのだが）。例えば虚実のバランスなども極めて教科書的であるだろう。」「連作として通読した際に立ち上がる主題は、今の時代・社会をしっかりと見据えた、シビアなものである。」 藤井太洋 47歳 全 □ 14 「ＳＦと見紛うばかりの設定や技術もすべて現実のものであるし、登場する企業名なども実名である。そうしたスタイルに疑義を呈する向きは当然あるのだろうが、示された予見の成否に拘らず、作者に相応の覚悟と、今書けることは今書かなくてはならないという気概があったことは間違いないだろう。」 呉勝浩 37歳 全 ■ 14 「二つのパートが交互に語られるというスタイルを採る。所謂ミステリとしての趣向も十分であるが、それぞれのパートでの視点人物の葛藤や成長も丹念に描かれており、キャラクターの造形も魅力的である。惜しむらくは二つのパートが交差した後の処理がもたついてしまったことか。」 武田綾乃 (27歳) 全 △ 17 「ひとつの“事件”に関わる複数の人物を視点に据えた短編の集積として構成されている。」「ラストの一行を衝撃と取るか、リアリティの放棄と取るかは、意見の分れるところだろう。エンターテインメントとしては申し分ない仕上がりなのだが、イントロダクションも含め、手法・構造の徹底が成されていたならば、さらに大きな作品になっていたという可能性を感じる。」 三秋縋 (29歳) 全 △ 14 「構造自体は複雑なものではないが、複層的にエピソード／時間を折り重ねるという手法が取られており、単純な視点のスイッチに止まらぬ奥行きが巧みに醸成されている。」「ただ、狙いであるところのはかなさ／軽さが、扱われているものごとの重さまでもを剥奪してしまっていることは確かであり、その点での評価は分れるところだと思う。」   「例年にもまして傾向も手法も異なる候補作が揃った。いずれもエンターテインメントとしては群を抜いており、愉しんで読んだ。」

他の選考委員 伊集院静 大沢在昌 恩田陸 重松清

重松清55歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

総行数59　（1行=29字） 候補 評価 行数 評言 塩田武士 39歳 全 △ 9 「オワコンである新聞を舞台に、「君たちは（フェイクニュースとマスゴミの時代に）どう生きるか」という、ある意味では青臭い問いかけを、まっすぐに、みごとなストーリーテリングで投げてくる。」「じつは塩田武士さんのまなざしの先にあるのは、現実にはいない「小説を書いた本田靖春」なのではあるまいか。」 藤井太洋 47歳 全 △ 13 「２０１９年や２０２０年という至近未来を、実在の企業やサービス名を出しながら描くというのは、とても勇気の要ることである。それに挑んだ本作の最大の魅力は、作者自身のビジョンの強さではないか。」「本作は、明日起こりうる／じつはすでに今日起きている物語を通して、国家と個人の関係や、自由や、フェアネスについて、さまざまなヒントを評者の胸に残してくれた。」 呉勝浩 37歳 全 ■ 8 「『白い衝動』から評者が強く感じた「人が人を『わかる』ことはできるのか」という問いかけは、本作でも、よりスケールの大きな形で提示される。その真摯さに拍手を贈ったうえで、しかし、本作はやや盛り込みすぎ・急ぎすぎの憾みがあった。また、とりわけ六條クンのパート、時に文章が幼く流れてしまうことがあるのが、評者には気にかかった。」 武田綾乃 (27歳) 全 ■ 13 「間違いなく、いまを生きる少女たちの（すべてとは言わないけれども）リアルを捉えている。」「ただし、小説として、いささか無理スジを抱えているのではないか。とりわけ校舎の屋上から「空を飛んだ」朱音が、刹那にこんなことを見て、あんなことまで思ったというのは、さすがに無理がありませんか？」 三秋縋 (29歳) 全 ○ 11 「村上春樹のある初期作品の本歌取りのような、しかし決して模倣ではない展開、原詩が旧友の再会の話である『蛍の光』を重要な小道具にしたセンス、なにより、人はなぜ「自分の物語」を求めるかという問い……いずれも評者はすこぶる好ましく思った」「むろん選考会で指摘されたとおり、甘さはある。作品の世界も、狭くて小さくて淡い。けれど、決して弱くはなかった。」   「最終候補の五作それぞれ、アプローチの個性豊かに「隠蔽」や「捏造」をモティーフとしていた。」

他の選考委員 伊集院静 大沢在昌 恩田陸 京極夏彦

塩田武士39歳×各選考委員　 『歪んだ波紋』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 伊集院静 69歳 全 ○ 9 「安定した文章と抒情のある描写力が、今回の候補作中で抜きん出ていた。」「テーマ、題材が相変らずという意見があったが、私には着実に小説の力量を高めている氏の精進が読みとれた。私は氏の人間を描く時の真摯な目に敬意を抱いている。」 大沢在昌 62歳 全 △ 7 「現代的なテーマながら、実に手がたく、ある意味古臭い手法で書かれていて、その愚直ともいえる作者の姿勢に好感をもった。」「一方で作者には「新聞記者」を卒業してもらいたいという願いをもった。記者を主人公にすえる限り、その導入部には既視感がつきまとう。」 恩田陸 54歳 全 □ 13 「前々回の候補作品『罪の声』ではまだ小説になりきれていなかったが、今回はそれぞれの短編の完成度も高く、小説として面白く読んだ。」「問題なのは、「元新聞記者の書いた社会派小説」と言われて予想する小説のイメージから一歩も抜け出していないことだろう。そのせいで、扱っている題材が最先端な割にはやけに古めかしい印象を受けてしまうし、そのイメージ内でまとめようとするあまり、全体的にこぢんまりとしてしまった感は否めない。」「（引用者注：「ハロー・ワールド」との）二作受賞はベストだと思う。」 京極夏彦 55歳 全 □ 15 「モチーフは作者の自家薬籠中の素材ばかりであり、描写や設定にも説得力があり、筆致も安定している。但し、小説の造り方自体はオーソドックスなものであり、決して新しくはない（新しくなければいけないということは全くないのだが）。例えば虚実のバランスなども極めて教科書的であるだろう。」「連作として通読した際に立ち上がる主題は、今の時代・社会をしっかりと見据えた、シビアなものである。」 重松清 55歳 全 △ 9 「オワコンである新聞を舞台に、「君たちは（フェイクニュースとマスゴミの時代に）どう生きるか」という、ある意味では青臭い問いかけを、まっすぐに、みごとなストーリーテリングで投げてくる。」「じつは塩田武士さんのまなざしの先にあるのは、現実にはいない「小説を書いた本田靖春」なのではあるまいか。」

他の候補作 藤井太洋 『ハロー・ワールド』 呉勝浩 『マトリョーシカ・ブラッド』 武田綾乃 『その日、朱音は空を飛んだ』 三秋縋 『君の話』

藤井太洋47歳×各選考委員　 『ハロー・ワールド』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 伊集院静 69歳 全 □ 10 「まず文章が良かった。」「次にインターネットを含めて、大半の人々が仕事、生活の中で関わらざるを得ない世界をこの作家は実に解り易く描いてみせてくれる才能があるのに感心した。丁寧なのである。丁寧とは独善（ひとりよがり）にならないことである。」「最後にこの作家の描く人物には、その表情と内面が伝わって来ることが頼もしかった。」 大沢在昌 62歳 全 △ 7 「まさに今日的な題材で、ふだん使うことのない「才気」という言葉をこの作者にはさしあげたい。」「多くのプラットフォーマーが実名で登場し、中には現実と異なる動きをする場面もあるが、これとて作者の予知（原文傍点）なのかもしれない。」 恩田陸 54歳 全 □ 12 「まさに「今」の世界を描いた、勇気のある、志の高い小説である。」「仮想通貨の、ここで提示されたある解決策には、現実になればすごいブレイクスルーになりそうで、とても感心した。」「昨日よりも今日、今日よりも明日、少しでも社会をよくしていこうという気概が感じられる。」「（引用者注：「歪んだ波紋」との）二作受賞はベストだと思う。」 京極夏彦 55歳 全 □ 14 「ＳＦと見紛うばかりの設定や技術もすべて現実のものであるし、登場する企業名なども実名である。そうしたスタイルに疑義を呈する向きは当然あるのだろうが、示された予見の成否に拘らず、作者に相応の覚悟と、今書けることは今書かなくてはならないという気概があったことは間違いないだろう。」 重松清 55歳 全 △ 13 「２０１９年や２０２０年という至近未来を、実在の企業やサービス名を出しながら描くというのは、とても勇気の要ることである。それに挑んだ本作の最大の魅力は、作者自身のビジョンの強さではないか。」「本作は、明日起こりうる／じつはすでに今日起きている物語を通して、国家と個人の関係や、自由や、フェアネスについて、さまざまなヒントを評者の胸に残してくれた。」

他の候補作 塩田武士 『歪んだ波紋』 呉勝浩 『マトリョーシカ・ブラッド』 武田綾乃 『その日、朱音は空を飛んだ』 三秋縋 『君の話』

呉勝浩37歳×各選考委員　 『マトリョーシカ・ブラッド』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 伊集院静 69歳 全 ■ 16 「事件の真相に近づこうとしたヤマ場を迎えた時にそれまで登場しなかった人物、出来事があらわれ、読み手と作者がむかおうとする場所から離れてしまう状況をたびたび読まされることになった。戸惑いも感じたが、それ以上にエンターテイメント小説に欠かせない“一気に突き抜ける小説の醍醐味”が失せてしまった。」 大沢在昌 62歳 全 ■ 9 「意欲作だが素材を詰めこみ過ぎたようだ。不可解な動きをする登場人物の女性二人の動機を「愛情」で説明してしまうのにも違和感をもった。」「文句は付けたが、序盤での風呂敷の広げかた、終盤に向けたたみ込む文章など、作者は腕を上げている。」 恩田陸 54歳 全 ■ 11 「面白いのだけれど話を詰め込みすぎたと思われる。」「伏線を回収して大きな絵のピースを埋めようとしているのは分かるのだけれど、ピースのサイズがバラバラで今ひとつぴしっと嵌まらないのも居心地が悪い。メインの捜査官三人のキャラクターがそれぞれ面白いだけに、もっと彼らの背景と活躍を突っ込んで読みたかった。」 京極夏彦 55歳 全 ■ 14 「二つのパートが交互に語られるというスタイルを採る。所謂ミステリとしての趣向も十分であるが、それぞれのパートでの視点人物の葛藤や成長も丹念に描かれており、キャラクターの造形も魅力的である。惜しむらくは二つのパートが交差した後の処理がもたついてしまったことか。」 重松清 55歳 全 ■ 8 「『白い衝動』から評者が強く感じた「人が人を『わかる』ことはできるのか」という問いかけは、本作でも、よりスケールの大きな形で提示される。その真摯さに拍手を贈ったうえで、しかし、本作はやや盛り込みすぎ・急ぎすぎの憾みがあった。また、とりわけ六條クンのパート、時に文章が幼く流れてしまうことがあるのが、評者には気にかかった。」

他の候補作 塩田武士 『歪んだ波紋』 藤井太洋 『ハロー・ワールド』 武田綾乃 『その日、朱音は空を飛んだ』 三秋縋 『君の話』

武田綾乃(27歳)×各選考委員　 『その日、朱音は空を飛んだ』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 伊集院静 69歳 全 ■ 12 「私が特に感心したのは、この作家が持つ独自の目、視点であった。弁当箱の中身を描写する一文などは大変なセンスである。ただ私が危惧したのは、これで小説が成立するのか、という点だった。」「この完結では、若い人の自殺の肯定としか受け取られないものがあるように思えた。」 大沢在昌 62歳 全 ● 5 「こういう高校生活は確かにあるのだろうと思いながらも、作者の意図が私には伝わらなかった。『籔の中』を狙ったのでは、とも思ったが、それにしては“真相”にインパクトがない。」 恩田陸 54歳 全 ■ 11 「共感できる人物が一人も出てこないけれど、不穏な企みを感じてそれなりに面白く読んだ。」「早々に「これは伏線だな」「後で出てくるな」と読めてしまうので、本来ならばラストにガツンと来るはずの衝撃が弱く、それこそ読後感が「だから何？」という感じになってしまった。」 京極夏彦 55歳 全 △ 17 「ひとつの“事件”に関わる複数の人物を視点に据えた短編の集積として構成されている。」「ラストの一行を衝撃と取るか、リアリティの放棄と取るかは、意見の分れるところだろう。エンターテインメントとしては申し分ない仕上がりなのだが、イントロダクションも含め、手法・構造の徹底が成されていたならば、さらに大きな作品になっていたという可能性を感じる。」 重松清 55歳 全 ■ 13 「間違いなく、いまを生きる少女たちの（すべてとは言わないけれども）リアルを捉えている。」「ただし、小説として、いささか無理スジを抱えているのではないか。とりわけ校舎の屋上から「空を飛んだ」朱音が、刹那にこんなことを見て、あんなことまで思ったというのは、さすがに無理がありませんか？」

他の候補作 塩田武士 『歪んだ波紋』 藤井太洋 『ハロー・ワールド』 呉勝浩 『マトリョーシカ・ブラッド』 三秋縋 『君の話』

三秋縋(29歳)×各選考委員　 『君の話』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 伊集院静 69歳 全 ● 7 「小説の最初に完璧なオリジナリティーはない。模倣とまでは言わぬが、新人作家が傾倒する世界から出発するこは実は大切なことだ。しかしやがてオリジナリティーは否応なしにあらわれざるを得ない。本作にはこの作家にしか描けないものが私には見えなかった。」 大沢在昌 62歳 全 ● 8 「実に達者、ご都合主義といえばこれ以上のご都合主義はなく、作り物としては完成されている。」「結果、胸に残るものが、あるようで、ない。ああ、やはりこうなるのね、で終わる。」 恩田陸 54歳 全 ■ 8 「話自体は古典的なストーリーで特に目新しいところはないけれど、精緻で端正な文章には好感が持てる。」「「よくできた話」のそれ以上でも以下でもないところが残念。やっぱり時代を超えてみんなこういう話が好きなんだなあ、と再確認した。」 京極夏彦 55歳 全 △ 14 「構造自体は複雑なものではないが、複層的にエピソード／時間を折り重ねるという手法が取られており、単純な視点のスイッチに止まらぬ奥行きが巧みに醸成されている。」「ただ、狙いであるところのはかなさ／軽さが、扱われているものごとの重さまでもを剥奪してしまっていることは確かであり、その点での評価は分れるところだと思う。」 重松清 55歳 全 ○ 11 「村上春樹のある初期作品の本歌取りのような、しかし決して模倣ではない展開、原詩が旧友の再会の話である『蛍の光』を重要な小道具にしたセンス、なにより、人はなぜ「自分の物語」を求めるかという問い……いずれも評者はすこぶる好ましく思った」「むろん選考会で指摘されたとおり、甘さはある。作品の世界も、狭くて小さくて淡い。けれど、決して弱くはなかった。」

他の候補作 塩田武士 『歪んだ波紋』 藤井太洋 『ハロー・ワールド』 呉勝浩 『マトリョーシカ・ブラッド』 武田綾乃 『その日、朱音は空を飛んだ』