第42回

第41回第43回

令和2年/2020年度 令和3年/2021年3月2日決定発表

選考委員　 伊集院静 71歳 大沢在昌 64歳 恩田陸 56歳 京極夏彦 57歳 重松清 57歳 選評総行数　 50 71 86 139 80 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 加藤シゲアキ　『オルタネート』 33歳 評 ◎ 23 ■ 11 ◎ 10 □ 44 □ 23 武田綾乃　『愛されなくても別に』 (29歳) 評 △ 18 △ 17 □ 16 ○ 16 ◎ 14 芦沢央　『汚れた手をそこで拭かない』 37歳 評 ― 0 ● 6 ■ 8 ■ 18 ■ 11 辻堂ゆめ　『十の輪をくぐる』 28歳 評 ― 0 ■ 13 ■ 15 ■ 18 ■ 8 寺地はるな　『水を縫う』 43歳 評 ― 0 ■ 14 ■ 16 □ 40 ■ 15 野﨑まど　『タイタン』 41歳 評 △ 9 ◎ 12 ◎ 18 ■ 18 △ 12           年齢の説明   見方・注意点

伊集院静71歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

題光彩のある作品　総行数50　（1行=20字） 候補 評価 行数 評言 加藤シゲアキ 33歳 全 ◎ 23 「文章の抑制もきいていて新人らしからぬバランスの良さがあった。そして何より私が、この作家の資質のひとつと思ったのは各章のそこかしこに光彩を感じることだった。光を感じる小説をひさしぶりに読ませてもらった。そのようなストーリーテールとは別の、何か（原文傍点）を感じ取れる小説、作家にはおそらく天賦のものがあるのだろう。」 武田綾乃 (29歳) 全 △ 18 「一行目から作者の才気で読者を摑んでしまうユニークな文体と物語の展開だった。このやり方で作品を進めて行くと、いずれどこかで息切れをしてしまうのが新人であるが、それがないのはランナーで言うと、走行フォームに気負いや無理、無駄がないように仕立て上げられる才能を持ち合わせているからであろう。」 芦沢央 37歳 全 ― 0   辻堂ゆめ 28歳 全 ― 0   寺地はるな 43歳 全 ― 0   野﨑まど 41歳 全 △ 9 「候補作中、もっとも大きな飛躍の可能性を持った作家に思えた。そのスケールは小説がむいているのかどうか、私は少し心配になるほどだった。」

他の選考委員 大沢在昌 恩田陸 京極夏彦 重松清

大沢在昌64歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

題対称的な二作　総行数71　（1行=20字） 候補 評価 行数 評言 加藤シゲアキ 33歳 全 ■ 11 「音楽や自然を形容する表現力は秀逸で、プロ作家としても抜きんでたものをもっている。」「一方で、料理と音楽と恋愛という詰めこみすぎの幕の内弁当のような構造に窮屈さを感じた。」「そして健全な人間であることと健全な物語を書くことはちがう。枠をはみだし暴れる作品を期待している。」 武田綾乃 (29歳) 全 △ 17 「不健全をつき抜けた爽々しさのようなものがあった。ここまでいけば、文句をつけようがないところまで作者は腹をくくっている。」「「私」と江永の二人は共依存を武器に世間と渡り合う。が、この共依存はいずれ壊れる。そのときの阿鼻叫喚を予感させる義務は作者にないのだろうか。」「いや、ないのだろう。小説はどんなに不健全であってもかまわないのだから。」 芦沢央 37歳 全 ● 6 「作者の意図が透けすぎている作品が目立った。」「文体がかもしだす雰囲気を除くと、物語に驚きがあるとは思えない。」 辻堂ゆめ 28歳 全 ■ 13 「（引用者注：「水を縫う」と共に）ここまでの長さが必要だったろうかと感じた。」「家族が絆をとり戻す話は読後感がよい。ただ気になったのは、この物語のひとつのテーマである泰介のＡＤＨＤが、投薬であまりにも早く好転する点だ。」 寺地はるな 43歳 全 ■ 14 「（引用者注：「十の輪をくぐる」と共に）ここまでの長さが必要だったろうかと感じた。」「全という人物の実体がつかめない。こういうフワフワとした人間がいて家族を作り家族と別れるということが現実にはあるかもしれないが、小説中ではもう少し詳しく書かれるべきだというのが、私の考えだ。」 野﨑まど 41歳 全 ◎ 12 「受賞作二作（引用者注：「オルタネート」と「愛されなくても別に」）と最後まで争い、私は強く推した」「どこかに物語が連れていってくれるのかを予測させないおもしろさがあり、候補作中、最もわくわくさせられた。」   「今年は六作の候補があったが、早い段階で受賞作を含む三作に議論が絞られた。」

他の選考委員 伊集院静 恩田陸 京極夏彦 重松清

恩田陸56歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

題作家をやっていくということ　総行数86　（1行=20字） 候補 評価 行数 評言 加藤シゲアキ 33歳 全 ◎ 10 「（引用者注：「タイタン」と共に）推すつもりで選考会に臨んだ。」「清新な青春小説である。」「どこまでも端正な小説なのに、やはりよい青春小説特有のザワザワ感を覚えた。この人も自分の表現を持っていて、自分がどこに行きたいかにとても自覚的だと思った。」 武田綾乃 (29歳) 全 □ 16 「前々回候補になった時よりも著しい成長を感じたし、なにより自分がやりたいことが分かっていて、キラキラした表現がそこここに見られて面白く読んだ。」「長編のおはなしとしてはプロットがやや弱いかな、と感じたものの、非常に先が楽しみだと思った。」 芦沢央 37歳 全 ■ 8 「芦沢さんのように、平均点の高い、きちんとした商品としてのエンターテインメントを書ける人を推したい気持ちはずっと持っているのだが、今回の候補作が小粒な短編集だったことは、他がすべて長編だったこともあり、不利だったのではないかと思う。」 辻堂ゆめ 28歳 全 ■ 15 「昭和パートはひじょうに読み応えがあり、著者の力量を感じたものの、現代のパートがいかにも弱い。主人公がおとなの発達障害であったと気付き、診断を受けて気をつけたとたんに、仕事も家庭もたちまち円満に回りだすというのがあまりにも都合がよすぎる。」「やはり企画ありきで、オリンピック開催記念ドラマのノベライズを読んでいるような心地になった。」 寺地はるな 43歳 全 ■ 16 「それぞれのコンプレックスを抱えた家族が、姉の結婚式に弟がウェディングドレスを縫うことで少しずつ互いに理解を深めていく、という、心地のよい、誠実な雰囲気のある小説である。」「私が気になったのは、近年の小説でしばしば感じることなのだが、著者が小説を書いている際の気持ちよさと、読者へのサービスとを混同しているのではないかという点だ。」 野﨑まど 41歳 全 ◎ 18 「（引用者注：「オルタネート」と共に）推すつもりで選考会に臨んだ。」「『タイタン』を推したのは、『愛されなくても別に』は他の小説の賞でもいくらでも候補になりそうだが、『タイタン』を推せる賞は限られるだろうと思ったからだ。」「世界設定のアイデア、イメージ喚起力、ＡＩのカウンセリングという過程がすこぶる面白く、この大風呂敷の広げ方が素晴らしい。むろん、「ありえない」と言われればありえないし「このオチはどうなの？」と言われれば確かに「どうなのよ？」なのだが、確信犯的な「騙り」こそエンターテインメント、と思っているのでこれを推した。」   「日本の作家は沢山注文を受けないと食べていけないところがある。プロとなって、必死になって、注文を受けるままに書いているだけでは小説家に「なれ」ない。常に覚悟と戦略を持っていないと、書いたものは人の心を打たない。自戒も込めて、そんなことを強く感じた。」

他の選考委員 伊集院静 大沢在昌 京極夏彦 重松清

京極夏彦57歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

題選評　総行数139　（1行=20字） 候補 評価 行数 評言 加藤シゲアキ 33歳 全 □ 44 「小説の構造そのものは必ずしも端正なものではないのだが、散見する瑞々しい表現や伸びやかな筆致は、その歪（ルビ：いび）つさを退けて余りあるものである。」「（引用者注：「水を縫う」と共に）読者が見たくない（原文傍点）だろうレイヤーを不可視にしている（引用者中略）これは技巧であり、決して欠点ではない。」「結果的に数多くの闇が棚上げされるのだが、それでも十分な感興を与えてくれるだけのクオリティは保たれていると考える。」 武田綾乃 (29歳) 全 ○ 16 「光に相当するレイヤーはほぼ排除されている。通常、こうした手法で紡がれる作品は後味の悪いものになることが多いのだけれど、本作は清々しささえ感じさせる書き振りに仕上がっている。“解決などない”ことを前提として塗り重ねられて行く闇の先に、読者が勝手に光明を幻視してしまうというテクニックは、巧緻なものといえるのではないだろうか。生半な技量でできることではないだろう。」 芦沢央 37歳 全 ■ 18 「ミステリ的な装いを捨て、エキセントリックな事件（ルビ：イベント）を廃し、それでいて“日常の謎”に落とし込むこともせずにミステリを構成する手腕は実に見事なものである。」「ただし、ミステリとしての精度を上げるために捨てられたレイヤーは多い。」「問題なのは捨てられたいくつかのレイヤーのアウトラインがミステリを構成するのに必要不可欠なパーツとして残ってしまっているところだろう。その結果、意図的に捨てられたはずのレイヤーが、単に欠けたレイヤーとして読み取れてしまう。」 辻堂ゆめ 28歳 全 ■ 18 「気になるのは過去パートが極めて誠実にレイヤーを重ねているのに対し、現代パートでは都合の悪いレイヤーが消されているという点だろう。大団円に向かう過程はいささか早急に過ぎる感がある。」「極めて残念である。」 寺地はるな 43歳 全 □ 40 「多様性の容認と幻想としての家族という今日的かつセンシティブな題材を平明な筆致で柔らかく描いた良作である。」「（引用者注：「オルタネート」と共に）読者が見たくない（原文傍点）だろうレイヤーを不可視にしている（引用者中略）これは技巧であり、決して欠点ではない。」「結果的に数多くの闇が棚上げされるのだが、それでも十分な感興を与えてくれるだけのクオリティは保たれていると考える。」 野﨑まど 41歳 全 ■ 18 「破天荒な展開を支えるガジェットは主にＳＦに用いられるそれであり、故に広義のＳＦとして理解されることが多いだろう。しかし、実のところ本作をＳＦとして成立させるレイヤーは、必要最小限に抑えられている。」「一方でその隠された“相”こそを作品の核とする読み方を退ける書き方がなされているわけではないから、読み手次第でそこは大きな弱点となり兼ねない。」   「個人的には全作僅差であったと諒解している。」

他の選考委員 伊集院静 大沢在昌 恩田陸 重松清

重松清57歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

題選評　総行数80　（1行=20字） 候補 評価 行数 評言 加藤シゲアキ 33歳 全 □ 23 「群像劇として一人ひとりの姿を立体的に描きだす筆力はみごとなものである。」「それでも一つだけ注文をつけるなら、オルタネートに対して、おとなの介入や警戒心がもうちょっとあってもよいのでは。オルタネートに闇の部分が加わると、さらに凄みは増したと思うのだ。」「おとなを作品世界から排除するのではなく、対峙し対決する物語を、次作以降にぜひ読んでみたいし、その期待を軽々と超えてくれるはずだと信じてもいる。」 武田綾乃 (29歳) 全 ◎ 14 「自己肯定感が最低ラインにあり、それでいてまわりを見下す主人公の造型に、たまらなく「いま」を感じた。毒親をめぐる挿話を重ねて「家族辞める」の覚悟と決意を描きつつ、しかしそこに解決は求めていない。むしろ放り出す。」「そのきっぱりとした潔さに作者自身の覚悟と決意を強く感じて、○をつけて選考会に臨んだ」 芦沢央 37歳 全 ■ 11 「評者は味わい方を間違えてしまったかもしれない。」「謎解きの魅力は認めつつも、「老いそのもの、孤独それじたいを、もっと深く掘っていただきたかった」という不満が生じてしまった」 辻堂ゆめ 28歳 全 ■ 8 「昭和パートと現在パートの読みごたえに差がつきすぎた。昭和パートの素晴らしい密度や熱度に、現在パートが追いついていない。」「また、主人公がＡＤＨＤの治療を受けはじめてから状況がどんどん好転していくのだが、その流れがやや性急すぎるようにも感じた。」 寺地はるな 43歳 全 ■ 15 「裁縫の譬えを援用するなら、物語の縦糸と横糸のバランスがいささか悪い。縦糸は姉のウェディングドレスを弟が縫うというワンイシューである。それに対して横糸、すなわち登場人物それぞれの話が長すぎはしないか。ゆえに、彼らの自己紹介が出そろったところで物語もぷつんと終わってしまった印象になったのだ（とりわけ高杉くるみは未消化では？）。」 野﨑まど 41歳 全 △ 12 「コイオスが立ち上がるまでの物語に強く惹かれたぶん、体長一千メートルの巨人が旅をする気宇壮大な後半のビジョンに乗り切れなかったのが正直なところである。選考会の席上では他の委員諸氏から後半の面白さを諄々と説いていただき、前半を堪能しつつもなお△までしか差し上げられなかったオノレの読みの狭量さを痛感した。」   「（引用者注：受賞した）武田作品と加藤作品、対照的な二作はともに「いま」を描いた青春小説として、長く読み継がれていくだろう。」

他の選考委員 伊集院静 大沢在昌 恩田陸 京極夏彦

加藤シゲアキ33歳×各選考委員　 『オルタネート』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 伊集院静 71歳 全 ◎ 23 「文章の抑制もきいていて新人らしからぬバランスの良さがあった。そして何より私が、この作家の資質のひとつと思ったのは各章のそこかしこに光彩を感じることだった。光を感じる小説をひさしぶりに読ませてもらった。そのようなストーリーテールとは別の、何か（原文傍点）を感じ取れる小説、作家にはおそらく天賦のものがあるのだろう。」 大沢在昌 64歳 全 ■ 11 「音楽や自然を形容する表現力は秀逸で、プロ作家としても抜きんでたものをもっている。」「一方で、料理と音楽と恋愛という詰めこみすぎの幕の内弁当のような構造に窮屈さを感じた。」「そして健全な人間であることと健全な物語を書くことはちがう。枠をはみだし暴れる作品を期待している。」 恩田陸 56歳 全 ◎ 10 「（引用者注：「タイタン」と共に）推すつもりで選考会に臨んだ。」「清新な青春小説である。」「どこまでも端正な小説なのに、やはりよい青春小説特有のザワザワ感を覚えた。この人も自分の表現を持っていて、自分がどこに行きたいかにとても自覚的だと思った。」 京極夏彦 57歳 全 □ 44 「小説の構造そのものは必ずしも端正なものではないのだが、散見する瑞々しい表現や伸びやかな筆致は、その歪（ルビ：いび）つさを退けて余りあるものである。」「（引用者注：「水を縫う」と共に）読者が見たくない（原文傍点）だろうレイヤーを不可視にしている（引用者中略）これは技巧であり、決して欠点ではない。」「結果的に数多くの闇が棚上げされるのだが、それでも十分な感興を与えてくれるだけのクオリティは保たれていると考える。」 重松清 57歳 全 □ 23 「群像劇として一人ひとりの姿を立体的に描きだす筆力はみごとなものである。」「それでも一つだけ注文をつけるなら、オルタネートに対して、おとなの介入や警戒心がもうちょっとあってもよいのでは。オルタネートに闇の部分が加わると、さらに凄みは増したと思うのだ。」「おとなを作品世界から排除するのではなく、対峙し対決する物語を、次作以降にぜひ読んでみたいし、その期待を軽々と超えてくれるはずだと信じてもいる。」

他の候補作 武田綾乃 『愛されなくても別に』 芦沢央 『汚れた手をそこで拭かない』 辻堂ゆめ 『十の輪をくぐる』 寺地はるな 『水を縫う』 野﨑まど 『タイタン』

武田綾乃(29歳)×各選考委員　 『愛されなくても別に』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 伊集院静 71歳 全 △ 18 「一行目から作者の才気で読者を摑んでしまうユニークな文体と物語の展開だった。このやり方で作品を進めて行くと、いずれどこかで息切れをしてしまうのが新人であるが、それがないのはランナーで言うと、走行フォームに気負いや無理、無駄がないように仕立て上げられる才能を持ち合わせているからであろう。」 大沢在昌 64歳 全 △ 17 「不健全をつき抜けた爽々しさのようなものがあった。ここまでいけば、文句をつけようがないところまで作者は腹をくくっている。」「「私」と江永の二人は共依存を武器に世間と渡り合う。が、この共依存はいずれ壊れる。そのときの阿鼻叫喚を予感させる義務は作者にないのだろうか。」「いや、ないのだろう。小説はどんなに不健全であってもかまわないのだから。」 恩田陸 56歳 全 □ 16 「前々回候補になった時よりも著しい成長を感じたし、なにより自分がやりたいことが分かっていて、キラキラした表現がそこここに見られて面白く読んだ。」「長編のおはなしとしてはプロットがやや弱いかな、と感じたものの、非常に先が楽しみだと思った。」 京極夏彦 57歳 全 ○ 16 「光に相当するレイヤーはほぼ排除されている。通常、こうした手法で紡がれる作品は後味の悪いものになることが多いのだけれど、本作は清々しささえ感じさせる書き振りに仕上がっている。“解決などない”ことを前提として塗り重ねられて行く闇の先に、読者が勝手に光明を幻視してしまうというテクニックは、巧緻なものといえるのではないだろうか。生半な技量でできることではないだろう。」 重松清 57歳 全 ◎ 14 「自己肯定感が最低ラインにあり、それでいてまわりを見下す主人公の造型に、たまらなく「いま」を感じた。毒親をめぐる挿話を重ねて「家族辞める」の覚悟と決意を描きつつ、しかしそこに解決は求めていない。むしろ放り出す。」「そのきっぱりとした潔さに作者自身の覚悟と決意を強く感じて、○をつけて選考会に臨んだ」

他の候補作 加藤シゲアキ 『オルタネート』 芦沢央 『汚れた手をそこで拭かない』 辻堂ゆめ 『十の輪をくぐる』 寺地はるな 『水を縫う』 野﨑まど 『タイタン』

芦沢央37歳×各選考委員　 『汚れた手をそこで拭かない』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 伊集院静 71歳 全 ― 0   大沢在昌 64歳 全 ● 6 「作者の意図が透けすぎている作品が目立った。」「文体がかもしだす雰囲気を除くと、物語に驚きがあるとは思えない。」 恩田陸 56歳 全 ■ 8 「芦沢さんのように、平均点の高い、きちんとした商品としてのエンターテインメントを書ける人を推したい気持ちはずっと持っているのだが、今回の候補作が小粒な短編集だったことは、他がすべて長編だったこともあり、不利だったのではないかと思う。」 京極夏彦 57歳 全 ■ 18 「ミステリ的な装いを捨て、エキセントリックな事件（ルビ：イベント）を廃し、それでいて“日常の謎”に落とし込むこともせずにミステリを構成する手腕は実に見事なものである。」「ただし、ミステリとしての精度を上げるために捨てられたレイヤーは多い。」「問題なのは捨てられたいくつかのレイヤーのアウトラインがミステリを構成するのに必要不可欠なパーツとして残ってしまっているところだろう。その結果、意図的に捨てられたはずのレイヤーが、単に欠けたレイヤーとして読み取れてしまう。」 重松清 57歳 全 ■ 11 「評者は味わい方を間違えてしまったかもしれない。」「謎解きの魅力は認めつつも、「老いそのもの、孤独それじたいを、もっと深く掘っていただきたかった」という不満が生じてしまった」

他の候補作 加藤シゲアキ 『オルタネート』 武田綾乃 『愛されなくても別に』 辻堂ゆめ 『十の輪をくぐる』 寺地はるな 『水を縫う』 野﨑まど 『タイタン』

辻堂ゆめ28歳×各選考委員　 『十の輪をくぐる』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 伊集院静 71歳 全 ― 0   大沢在昌 64歳 全 ■ 13 「（引用者注：「水を縫う」と共に）ここまでの長さが必要だったろうかと感じた。」「家族が絆をとり戻す話は読後感がよい。ただ気になったのは、この物語のひとつのテーマである泰介のＡＤＨＤが、投薬であまりにも早く好転する点だ。」 恩田陸 56歳 全 ■ 15 「昭和パートはひじょうに読み応えがあり、著者の力量を感じたものの、現代のパートがいかにも弱い。主人公がおとなの発達障害であったと気付き、診断を受けて気をつけたとたんに、仕事も家庭もたちまち円満に回りだすというのがあまりにも都合がよすぎる。」「やはり企画ありきで、オリンピック開催記念ドラマのノベライズを読んでいるような心地になった。」 京極夏彦 57歳 全 ■ 18 「気になるのは過去パートが極めて誠実にレイヤーを重ねているのに対し、現代パートでは都合の悪いレイヤーが消されているという点だろう。大団円に向かう過程はいささか早急に過ぎる感がある。」「極めて残念である。」 重松清 57歳 全 ■ 8 「昭和パートと現在パートの読みごたえに差がつきすぎた。昭和パートの素晴らしい密度や熱度に、現在パートが追いついていない。」「また、主人公がＡＤＨＤの治療を受けはじめてから状況がどんどん好転していくのだが、その流れがやや性急すぎるようにも感じた。」

他の候補作 加藤シゲアキ 『オルタネート』 武田綾乃 『愛されなくても別に』 芦沢央 『汚れた手をそこで拭かない』 寺地はるな 『水を縫う』 野﨑まど 『タイタン』

寺地はるな43歳×各選考委員　 『水を縫う』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 伊集院静 71歳 全 ― 0   大沢在昌 64歳 全 ■ 14 「（引用者注：「十の輪をくぐる」と共に）ここまでの長さが必要だったろうかと感じた。」「全という人物の実体がつかめない。こういうフワフワとした人間がいて家族を作り家族と別れるということが現実にはあるかもしれないが、小説中ではもう少し詳しく書かれるべきだというのが、私の考えだ。」 恩田陸 56歳 全 ■ 16 「それぞれのコンプレックスを抱えた家族が、姉の結婚式に弟がウェディングドレスを縫うことで少しずつ互いに理解を深めていく、という、心地のよい、誠実な雰囲気のある小説である。」「私が気になったのは、近年の小説でしばしば感じることなのだが、著者が小説を書いている際の気持ちよさと、読者へのサービスとを混同しているのではないかという点だ。」 京極夏彦 57歳 全 □ 40 「多様性の容認と幻想としての家族という今日的かつセンシティブな題材を平明な筆致で柔らかく描いた良作である。」「（引用者注：「オルタネート」と共に）読者が見たくない（原文傍点）だろうレイヤーを不可視にしている（引用者中略）これは技巧であり、決して欠点ではない。」「結果的に数多くの闇が棚上げされるのだが、それでも十分な感興を与えてくれるだけのクオリティは保たれていると考える。」 重松清 57歳 全 ■ 15 「裁縫の譬えを援用するなら、物語の縦糸と横糸のバランスがいささか悪い。縦糸は姉のウェディングドレスを弟が縫うというワンイシューである。それに対して横糸、すなわち登場人物それぞれの話が長すぎはしないか。ゆえに、彼らの自己紹介が出そろったところで物語もぷつんと終わってしまった印象になったのだ（とりわけ高杉くるみは未消化では？）。」

他の候補作 加藤シゲアキ 『オルタネート』 武田綾乃 『愛されなくても別に』 芦沢央 『汚れた手をそこで拭かない』 辻堂ゆめ 『十の輪をくぐる』 野﨑まど 『タイタン』

野﨑まど41歳×各選考委員　 『タイタン』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 伊集院静 71歳 全 △ 9 「候補作中、もっとも大きな飛躍の可能性を持った作家に思えた。そのスケールは小説がむいているのかどうか、私は少し心配になるほどだった。」 大沢在昌 64歳 全 ◎ 12 「受賞作二作（引用者注：「オルタネート」と「愛されなくても別に」）と最後まで争い、私は強く推した」「どこかに物語が連れていってくれるのかを予測させないおもしろさがあり、候補作中、最もわくわくさせられた。」 恩田陸 56歳 全 ◎ 18 「（引用者注：「オルタネート」と共に）推すつもりで選考会に臨んだ。」「『タイタン』を推したのは、『愛されなくても別に』は他の小説の賞でもいくらでも候補になりそうだが、『タイタン』を推せる賞は限られるだろうと思ったからだ。」「世界設定のアイデア、イメージ喚起力、ＡＩのカウンセリングという過程がすこぶる面白く、この大風呂敷の広げ方が素晴らしい。むろん、「ありえない」と言われればありえないし「このオチはどうなの？」と言われれば確かに「どうなのよ？」なのだが、確信犯的な「騙り」こそエンターテインメント、と思っているのでこれを推した。」 京極夏彦 57歳 全 ■ 18 「破天荒な展開を支えるガジェットは主にＳＦに用いられるそれであり、故に広義のＳＦとして理解されることが多いだろう。しかし、実のところ本作をＳＦとして成立させるレイヤーは、必要最小限に抑えられている。」「一方でその隠された“相”こそを作品の核とする読み方を退ける書き方がなされているわけではないから、読み手次第でそこは大きな弱点となり兼ねない。」 重松清 57歳 全 △ 12 「コイオスが立ち上がるまでの物語に強く惹かれたぶん、体長一千メートルの巨人が旅をする気宇壮大な後半のビジョンに乗り切れなかったのが正直なところである。選考会の席上では他の委員諸氏から後半の面白さを諄々と説いていただき、前半を堪能しつつもなお△までしか差し上げられなかったオノレの読みの狭量さを痛感した。」

他の候補作 加藤シゲアキ 『オルタネート』 武田綾乃 『愛されなくても別に』 芦沢央 『汚れた手をそこで拭かない』 辻堂ゆめ 『十の輪をくぐる』 寺地はるな 『水を縫う』