佐藤究（さとうきわむ）-直木賞受賞作家

第165回

＝受賞者＝
佐藤　究
澤田瞳子

Last Update●[R6]2024/10/7

	Sato Kiwamu
	生没年月日【注】	昭和52年/1977年～
	経歴	福岡県福岡市生まれ。福岡大学附属大濠高等学校卒。平成16年/2004年に「サージウスの死神」で群像新人文学賞（小説部門）の優秀作（佐藤憲胤名義）、平成28年/2016年に「ＱＪＫＪＱ」で江戸川乱歩賞を受賞。
	受賞歴・候補歴	第47回群像新人文学賞［小説部門・優秀作］（平成16年/2004年）「サージウスの死神」佐藤憲胤名義第62回江戸川乱歩賞（平成28年/2016年）「ＱＪＫＪＱ」第20回大藪春彦賞（平成29年/2017年度）『Ank: a mirroring ape』第39回吉川英治文学新人賞（平成29年/2017年度）『Ank: a mirroring ape』 \|候補\| 第71回日本推理作家協会賞［長編及び連作短編集部門］（平成30年/2018年）『Ank : a mirroring ape』 \|候補\| 第72回日本推理作家協会賞［短編部門］（平成31年/2019年）「くぎ」第34回山本周五郎賞（令和2年/2020年度）『テスカトリポカ』第165回直木賞（令和3年/2021年上期）『テスカトリポカ』第37回柴田錬三郎賞（令和6年/2024年）『幽玄Ｆ』
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『Ank:(アンク)　a(ア　)　mirroring(ミラーリング　)　ape(エイプ)』
（平成29年/2017年8月・講談社刊）

書誌

令和1年/2019年9月・講談社／講談社文庫『Ank: a mirroring ape』

吉川英治文学新人賞 第39回受賞

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　佐藤究　40歳
選考委員		評価	行数	評言
伊集院静	68歳	○	43	「佐藤氏の文章力は、その簡潔さゆえの才能とも言えよう。」「私は本作の評価のひとつとして、小説のテーマが常に感じられた点に感心した。人類とは、私たちはいったい何者であるのかを一頭のチンパンジー、アンクを通して見つめ直したからである。面白ければ、それでいいというだけなら小説、文学とは言えない。テーマは文章に宿り、文章はテーマを語る。」
大沢在昌	61歳	□	18	「私にとっては未完の大作に思える。ノンフィクション的な手法と無駄のない文章に、前半は一気に引き込まれるが、いざ何が起こったのかが明かされると、物語は勢いを失う。」「狂わない人間はもっといたであろうし、「警報」と人類の戦いを描いた第二部を読ませてもらいたいと思った。」「が、これが吉川英治文学新人賞にふさわしくないかといえば、決してそうではない。私も含め、授賞に反対する選考委員はひとりもいなかった。」
恩田陸	53歳	○	11	「肝心の暴動シーンがやや退屈なのではあるが、そこに至るまでのワクワク感が素晴らしい。この著者ならではの小説の色気がもう確立されていて、これからも「何かやってくれそう」と思わせてくれるところを評価した。」
京極夏彦	54歳	△	26	「時系列を分断しシーンを並べ替えることで物語を編集するというスタイルは、新しいものでこそないのだが、テクニカルなセンスが強く要求される作業ではある。しかし作者はそれを難なくこなしている。惜しむらくは、ＡＩから類人猿研究、そしてミラーリングとその意味の解明へと続く知的興奮の積み重ねが、クライマックスを前に収束してしまうということだろうか。」
重松清	54歳	○	18	「圧倒された。いや、スピード感を称揚するには、心地よく翻弄されたと言い換えたほうがいいだろうか。」「そのみごとな筆力に、霊長類からゲノム、鏡像認識といった最新の研究の果実が加わって、興奮とともに読書の時間が過ぎていった。」
選評出典：『小説現代』平成30年/2018年5月号

第165回受賞

『テスカトリポカ』（令和3年/2021年2月・KADOKAWA刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	カバー「TEZCATLIPOCA」併記
印刷/発行年月日	発行令和3年/2021年2月19日（初版）
測定媒体発行年月日	発行令和3年/2021年6月10日（4版）
発行者等	発行者堀内大示　印刷所旭印刷株式会社　製本所本間製本株式会社
発行所	株式会社KADOKAWA（東京都）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	装丁川名潤
総ページ数	553	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	44字 ×21行 ×1段
本文ページ	5～553 （計549頁）	測定枚数	1122枚

書誌

初出第一部『カドブンノベル』令和2年/2020年12月号＋第二部以降は書き下ろし

令和6年/2024年6月・KADOKAWA／角川文庫『テスカトリポカ』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　佐藤究　43歳
選考委員		評価	行数	評言
林真理子	67歳	○	31	「この方の並はずれた筆力にまず圧倒された。」「そしてこの作者の偏執的な知識と書き方にも驚いた。」「この作家は手間を惜しまない、どころではない。（引用者中略）調べていくことに快楽を感じているはずだ。そしてこの快楽は読み手にも伝わっていくのである。」
北方謙三	73歳	■	28	「斬新な部分は、暴力の描き方だったと思う。小説の結構そのものは、よくあるアクション小説の域を出ていない。非人間的にさえ見える暴力が、なぜか読む側の痛みを誘発してこないと感じた。」「（引用者注：「星落ちて、なお」と）結果は同じ点数での同時受賞であった。」
角田光代	54歳	○	36	「私にとってまったくはじめて読む小説だった。」「何より膨大な資料を作者がかみ砕いて血肉として小説に与えている。」「いっさいの感情描写のなされないコシモという青年の、この魅力はなんだろう。この凄惨な小説にちりばめられたうつくしさも、私には見たことのない、触れたことのない種類のものだった。」
高村薫	68歳	△	20	「事前の予想以上に絶賛の嵐で、評者は大いに困惑した。今回の候補作のなかでもっとも筆力があるのは明らかな一方、これはほんとうに物語の力と言えるのか、血まみれの臓器や肉片が飛び交う残虐なイメージの力ではないかのか、ふと分からなくなったからである。」
三浦しをん	44歳	◎	46	「（引用者注：「スモールワールズ」と共に）推した。」「圧倒的な傑作だ。」「私は小説に絶対に「希望」が必要だとは微塵も思わない。しかし世界に満ちる暴力性の問題を徹底追求する本作は、暴力と理不尽を越える希望をも、ちゃんと提示してくれているのだ。硬質な美を湛える文章が紡ぎだす静謐な多摩川の情景を、コシモが選び取った道を、よく見てほしい。これがまっとうな倫理と希望でないなら、なんなのだ。」
浅田次郎	69歳	■	29	「（引用者注：選考会で）最も議論がかわされた作品」「これほど壮大で精密な虚構は、小説という表現方法だからこそ可能と思える。だが、その壮大さ精密さを実現するために、視点者の情動が犠牲になった。登場人物のおのおのが、当たり前の人間感情を欠くのである。」「死は文学の欠くべからざるテーマにはちがいないが、死をかくも丹念に描くことはむしろ、人間不在の反文学としか思えなかった。」
桐野夏生	69歳	○	64	「この小説を遥かに上回る残虐な出来事は、世界のあちこちで起きている。現実を直視すれば、この作品はその意味で「清い」のである。」「言葉にもディテールにも揺るぎはなく、文体は簡潔で力強い。満足のゆく質と量である。」「ただ、日本編は、メキシコの乾いた土くれに血が吸い込まれるような凄絶さが消えて、少々湿気を帯びたきらいがある。」
伊集院静	71歳	●	10	「最後まで小説として認められなかった」「小児の扱いがこれほど安易になされて、文学の品格は問われないのか、と今も思っている」
宮部みゆき	60歳	○	91	「この作品は、直木賞の長い歴史のなかに燦然と輝く黒い太陽なのです」「昨今稀な――現代を舞台にしては書きにくくなる一方の、きわめてまっとうな勧善懲悪の物語です。」「主人公の青年コシモは、現代国際社会の地獄巡りを経て成長し、己の生きるべき道を見出す。ヒューマニズムを信じている小説なのです。敵役が邪悪だからといって、作品そのものが邪悪なわけではありません。」「暴力を、「心の闇」などという言葉で水割りにしない。私は読後、「参りました」と感嘆することしかできませんでした。傑作です。」
選評出典：『オール讀物』令和3年/2021年9・10月合併号

山本周五郎賞 第34回受賞

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　佐藤究　43歳
選考委員		評価	行数	評言
伊坂幸太郎	49歳	○	46	「自分なりに考えた結果、この小説はいわゆる「起承転結」の「起承」の部分がほとんどを占め、その「起承」の面白さが魅力なのだと気づきました」「「濃密な文体で、メインストーリー以上に、途中経過と細部をひたすら面白く描く」というこの小説は、「文学とエンターテインメントは両立するのか」「ストーリーが面白い文学は存在するのか」といった問いに対する一つの回答にも思いました。」
江國香織	57歳	◎	68	「圧倒的でした。」「熱量、発想の豊かさ、リサーチの堅牢さ、文体の緊密さ、詩的さ加減、スケールの大きさ、登場人物一人一人に血が通っていること（だからたくさんの血が流れるのだが……）、物語がきわめて複合的であること、その手腕――。見事としか言えない。」「なかでもいちばん驚いたのは、すべてを言葉で描写しようとするこの作家の意志と体力で、これはもうすさまじいものがあった。」「すみずみまで神経をいきわたらせて描写し、安易なことを絶対にしないところに私は胸を打たれた。」
荻原浩	64歳	□	39	「すげえな。読んでいる途中、何度も呟いてしまった。」「文章から、行間から、こめた思いが煙みたいに立ち上がってくるようだ。」「ただ日本が舞台になってからは、物語の迫力にブレーキがかかってしまった気がした。作者の責任というより、バルミロのいっそカラッとした圧倒的な暗黒ぶりや、アステカ古代文明の残酷さが、日本のじっとりした稲作的風土には合わないのかもしれない。」「それもあって、個人的には一推しに、とまでは考えられなかった。でも、佐藤さんの受賞に異存はありません。」
今野敏	65歳	◎	67	「衝撃だった。そのスケール感、発想、臨場感、密度、そして深み、いずれも群を抜いている。」「情報量も半端ではなく、まるで海外のノンフィクションを読んでいるようだ。この作品をものにするための取材のたいへんさは、想像を絶する。」「候補作に選ばれたと知ったときから、この作品を賞に推そうと考えていた。（引用者中略）蓋を開けると、何のことはない、他の選考委員の意見も同様で、ほぼ満票で受賞作に決まった。」「選考委員という立場を忘れ、一小説家として、この作品には脱帽だった。とても敵わないと思わされた。」
三浦しをん	44歳	◎	93	「（引用者注：「八月の銀の雪」と共に）推した。」「あまりにおもしろく、すさまじくて、私は途中から「選考」という目的を忘れて読みふけった。」「そもそも「あらすじ」を拒絶する蠢きに満ちているのが魅力なので、説明は放棄して話をさきに進めるが、ナワトル語（の存在すら私は知らずにいた）まで調べあげた著者のリサーチ能力にシャッポを脱いだ。」「なによりも震えたのは、文章の硬質な美だ。多摩川をこんなにも静謐でうつくしい場所として描きだした創作物がかつてあっただろうか。そして、アステカについての語りが生みだす神話的な輝きと躍動感といったら……！」
選評出典：『小説新潮』令和3年/2021年7月号

文量
長篇
章立て
「I　顔と心臓(イン・イシトリ,イン・ヨリョトル)」「II　麻薬密売人と医師(ナルコ・イ・メディコ)」「III　断頭台(エル・バティブロ)」「IV　夜と風(ヨワリ・エエカトル)」「暦のない日」
時代設定	場所設定
1996年～2021年	メキシコ～アカプルコ～東京～大阪～川崎～ジャカルタなど
登場人物
●土方コシモ（日本人父とメキシコ人母の子供） ●バルミロ・カサソラ（メキシコ北東部の麻薬密売組織〈ロス・カサソラス〉幹部） ●リベルタ（バルミロたちカサソラ四兄弟の祖母、先住民族の末裔） ●末永充嗣（臓器売買コーディネーター、心臓血管外科医） ●野村健二（闇医師、元・大学病院麻酔科の医師） ●宇野矢鈴（保育士） ●パブロ（ナイフ職人）