澤田瞳子（さわだとうこ）-直木賞受賞作家

第165回

＝受賞者＝
佐藤　究
澤田瞳子

Last Update●[R6]2024/9/8

	Sawada Toko
	生没年月日【注】	昭和52年/1977年☆月☆日～
	経歴	京都府京都市生まれ。同志社大学文学部卒、同大学院文学研究科博士課程前期修了。
	受賞歴・候補歴	第17回中山義秀文学賞（平成23年/2011年）『孤鷹の天』第2回本屋が選ぶ時代小説大賞（平成24年/2012年）『満つる月の如し――仏師・定朝』第32回新田次郎文学賞（平成25年/2013年）『満つる月の如し――仏師・定朝』 \|候補\| 第3回歴史時代作家クラブ賞［作品賞］（平成26年/2014年）『日輪の賦』 \|候補\| 第153回直木賞（平成27年/2015年上期）『若冲』第5回歴史時代作家クラブ賞［作品賞］（平成28年/2016年）『若冲』第9回親鸞賞（平成28年/2016年）『若冲』 \|候補\| 第8回山田風太郎賞（平成29年/2017年）『腐れ梅』 \|候補\| 第158回直木賞（平成29年/2017年下期）『火定』 \|候補\| 第39回吉川英治文学新人賞（平成29年/2017年度）『火定』 \|候補\| 第32回山本周五郎賞（平成30年/2018年度）『落花』 \|候補\| 第161回直木賞（平成31年・令和1年/2019年上期）『落花』 \|候補\| 第163回直木賞（令和2年/2020年上期）『能楽ものがたり　稚児桜』第14回舟橋聖一文学賞（令和2年/2020年）『駆け入りの寺』第165回直木賞（令和3年/2021年上期）『星落ちて、なお』
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第153回候補

『若冲(じゃくちゅう)』（平成27年/2015年4月・文藝春秋刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	表紙・背「Jakuchu」併記　奥付ルビ有り「じゃくちゅう」
印刷/発行年月日	発行平成27年/2015年4月25日（第1刷）
測定媒体発行年月日	発行平成27年/2015年6月1日（第5刷）
発行者等	発行者吉安章　印刷所凸版印刷　製本所大口製本
発行所	株式会社文藝春秋（東京都）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	装画「紫陽花双鶏図」（伊藤若冲筆） Etsuko & Joe Price Collection　装丁野中深雪
総ページ数	358	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	42字 ×18行 ×1段
本文ページ	5～358 （計354頁）	測定枚数	589枚

書誌

平成29年/2017年4月・文藝春秋／文春文庫『若冲』

収録作品の書誌

鳴鶴

初出『オール讀物』平成25年/2013年6月号

芭蕉の夢

初出『オール讀物』平成25年/2013年8月号

栗ふたつ

初出『オール讀物』平成25年/2013年12月号

つくも神

初出『オール讀物』平成26年/2014年3月号

雨月

初出『オール讀物』平成26年/2014年6月号

まだら蓮

初出『オール讀物』平成26年/2014年9月号

鳥獣楽土

初出『オール讀物』平成26年/2014年12月号

日隠れ

初出『オール讀物』平成27年/2015年3月号

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　澤田瞳子　37歳
選考委員		評価	行数	評言
林真理子	61歳	●	13	「どうも小説の世界にのめり込めない。若冲があまりにも普通の人過ぎる。」「最後まで主人公に魅力や共感を持てなかったのである。」
伊集院静	65歳	■	16	「亡妻への想いが若冲の創造力の源なら、その想いの根底にあったものを描いて欲しかった。妻の弟の弁蔵が贋作絵師に至る歳月、描写ももう少し納得させてもらいたい。」
高村薫	62歳	■	14	「そばにいた女性の眼は若冲の人生を捉えることはできても、肝心の画業自体に迫るには限界がある。」
東野圭吾	57歳	□	27	「今回、私の△」「読んでみると思いの外地味で、しかも主人公に華がないので驚いた。その点に難色を示した意見が多かったが、私は渋味を買った。」「妻の弟が復讐のために贋作師になったという設定も悪くない。ただ彼が絵の技術を習得していく様子が描かれていないので、その執念が今ひとつ伝わってこない。」
北方謙三	67歳	△	13	「相当引きこまれながら私は読んだ。」「ただ、表現者を表現するのは、実に難しいとも感じた。創造する人間の姿は、言葉では表現しきれないのではないのか、ということまで思った。」
桐野夏生	63歳	●	21	「無理に話を作ろうとして、それがあまりうまくいっていない。一番問題に感じたのは、若冲に魅力がないことだろう。」「また、姉を自殺させられたことを恨んだ男が、君圭という贋作者になるという設定も安易に感じられる。」
宮城谷昌光	70歳	○	29	「この作家は上達したというしかない。節度のある比喩を用いていることにも感心した。」「この作品を読んで、いやな感じをうける人はほとんどいないであろう。そこに作者の風致をみたとおもうのだが、称めすぎであろうか。」
浅田次郎	63歳	■	13	「そもそも若冲という素材を用いたこと自体が、すでにひとつの才能であると言える。しかし学術的な教養に小説の結構が負けている。」「物語に必須の美醜と聖俗の選択を、作者はさほど意識していないように思えた。」
宮部みゆき	54歳	△	35	「完成度の点では『流』に並ぶ秀作でした。」「若冲の絵を観てあれこれ感じることは万人に可能で、現に私もその一人として、あの愉快な野菜の釈迦涅槃図や、色彩豊かな可愛い小鳥たちを鑑賞すると、これを描いた絵師は、この小説のなかの罪悪感に苦しみ贋作者の脅威に怯える絵師よりも、もう少し幸せな人だったのではないか――と感じてしまいました。」
選評出典：『オール讀物』平成27年/2015年9月号

文量
連作短篇集〔8篇〕
時代設定	場所設定
江戸中期	京～伏見
登場人物
●伊藤若冲（四代目枡屋源左衛門→茂右衛門、青物問屋「枡源」の主から隠居、絵師） ●お志乃（若冲の末妹） ●お三輪（若冲の自害した亡妻） ●弁蔵（お三輪の弟、のち市川君圭と名乗る絵師）

鳴鶴

章立て

「一」～「四」

芭蕉の夢

章立て

「一」～「四」

登場人物

●池大雅（若冲の朋友、文人画を得意とする絵師）
●裏松光世（元左少弁、蟄居中）

栗ふたつ

章立て

「一」～「四」

登場人物

●明石屋半次郎（五条問屋町の町年寄）
●円山左源太（蓮池院尼公に仕える絵師）

つくも神

章立て

「一」～「四」

登場人物

●中井清太夫（江戸の勘定役）
●若演（若冲の弟子）

雨月

章立て

「一」～「四」

登場人物

●お滝（御幸町松原に暮らす女、追善画の依頼者）
●与謝蕪村（絵師、大坂毛馬の水呑み百姓の出）

まだら蓮

章立て

「一」～「四」

鳥獣楽土

章立て

「一」～「四」

登場人物

●晋蔵（弁蔵の子）
●谷文五郎（松平越中守の近習）
●円山応瑞（一大画派を築いた円山応挙の息子）

日隠れ

章立て

「一」～「四」

第158回候補

『火定(かじょう)』（平成29年/2017年11月・ＰＨＰ研究所刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	表紙・背「かじょう」併記　目次・奥付ルビ有り「かじょう」
印刷/発行年月日	発行平成29年/2017年11月24日（第1版第1刷）
発行者等	発行者後藤淳一　組版朝日メディアインターナショナル株式会社　印刷所・製本所共同印刷株式会社
発行所	株式会社ＰＨＰ研究所（東京都・京都市）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	装丁芦澤泰偉　装画影山徹
総ページ数	413	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	38字 ×17行 ×1段
本文ページ	2～413 （計412頁）	測定枚数	618枚

書誌

初出『文蔵』平成27年/2015年10月号～平成28年/2016年10月号/単行本化にあたり加筆修正

令和2年/2020年11月・ＰＨＰ研究所／ＰＨＰ文芸文庫『火定』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　澤田瞳子　40歳
選考委員		評価	行数	評言
桐野夏生	66歳	■	21	「近代的な価値観を持った人間が、当時（引用者注：八世紀頃）の衣を着て動き回っているような違和感があった。」「作者は、この時代と、作者の考える人間の普遍性について、もう少し説明すべきではないだろうか。」
北方謙三	70歳	△	24	「扱われている題材そのものに、現実の力があった。題材に負けまいと、懸命に闘っている姿も、よく見えてくる。」「全体にはメリハリが欠け、やりきれない気分が積み重なってくる。」「私は、この世界に馴染めなかった、と言っていいであろう。」
林真理子	63歳	■	12	「天平の時代、天然痘の大流行というテーマは大きく重たいが、飽きることなく最後まで読ませる。しかしインチキ宗教者と、それに呼応する人々の描き方が近作の「腐れ梅」とよく似ているのが残念だ。」
東野圭吾	59歳	□	23	「状況は深刻かつ壮絶に描かれているのだが、登場人物たちの行動や心情に共感しにくい。」「情景を思い浮かべにくい部分が時折ある。暴動が起きる経緯も安易な印象。とはいえ、私は二番目の△とした。傷が目立つのは、創作しているからだと思う。」
伊集院静	67歳	■	15	「構成、語り口、文章もすぐれていて感心しました。」「天平の日本人がこれほど闊達で雄弁であったか、この時代の死生観を含めて疑問を抱きました。」
宮部みゆき	57歳	○	31	「私は（引用者注：「銀河鉄道の父」と友に）『火定』も推しました。」「私は『火定』がそうしているように、基本的には現代人の読者が理解しやすいように書いていいと思うのですが、タイトルの由来であり、この作品のテーマを象徴する〈火定入滅〉の思想は大乗仏教のもので、この時代にはまだふさわしくないのではないかという（引用者注：他の委員からの）指摘には「う～ん」と唸ってしまいました。」
浅田次郎	66歳	●	16	「書くことに苦しんでしまったようである。むろん題材が題材であるだけに、楽しい話になりようはないが、それでも小説という形にするためには、まず作者が楽しまねばなるまい。」
高村薫	64歳	●	24	「千三百年前を小説の舞台にすることの基本的な難しさの認識が欠けているのが大問題である。それゆえにこの作者も、題材の理解の不備をプロットとキャラクターと文章力で押し切っているのだが、そうした力技は、小説が小説になる秘密とは相容れない。小説の破れ目は、破れ目として巧みに活かすか、細心の手つきで繕うべきものであって、強引にねじ伏せるものではないからである。」
宮城谷昌光	72歳	■	20	「いまの日本人にとって、天平という古い時代は、関心をもつのがむずかしい時代であり、そこに斬り込んでいった作者の勇気には敬服する。」「少々抽象的ないいかたになるが、支点は的確にすえられたのに、力点がずれたので、作用点もちがってしまった。」
選評出典：『オール讀物』平成30年/2018年3月号

吉川英治文学新人賞 第39回候補

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　澤田瞳子　40歳
選考委員		評価	行数	評言
伊集院静	68歳	―	0
大沢在昌	61歳	■	11	「過剰な説明が、本来ダイナミックである筈の、病と人間、死と生の対峙といったテーマをおおい隠してしまっている。感動的な物語を書こうという作者の力こぶが、むしろ感動を遠ざけている印象がある。」
恩田陸	53歳	■	8	「たいへんパワフルな小説であるが、とにかく説明しすぎる。」「とても力のある作者だと思うが、読者の読むリズムをもう少し考えてほしい。タイトルも今ひとつ腑に落ちなかった。」
京極夏彦	54歳	■	17	「時代考証上の齟齬などを指摘する向きもあるようだが、そうした瑕瑾は殆どない。」「残念なのは、正確な情報を物語化するために用意されたプロットが物語そのものに貢献していないという点ではなかろうか。」
重松清	54歳	■	10	「評者にとって縁遠い天平の奈良の都を舞台にしていながら、ぐいぐいと読ませてくれた。それは作品をかたちづくる器がじつにアクチュアルだったからだろう。」「残念ながら、その魅力的な器に盛られた料理、すなわち個々の人物のドラマが薄味に過ぎただろうか。」
選評出典：『小説現代』平成30年/2018年5月号

文量
長篇
章立て
「第一章　疫神　えきじん」「第二章　獄囚　ごくしゅう」「第三章　野火　のび」「第四章　奔流　ほんりゅう」「第五章　犠牲　ぎせい」「第六章　慈雨　じう」
時代設定	場所設定
奈良時代［天平年間］	寧楽(なら)
登場人物
●蜂田名代（施薬院に配属されたばかりの官人） ●猪名部諸男（藤原房前卿の家令、元・内薬司の侍医） ●綱手（施薬院の診察を引き受けている里中医） ●高志史広道（施薬院庶務担当） ●宇須（諸男の獄囚時代の同房） ●絹代（薬司に勤める采女、諸男の恋人） ●倭池守（内薬司の侍医） ●久米比羅夫（薬商人、元・典薬寮の下官） ●大伴三中（遣新羅使の副使）

第161回候補

『落花(らっか)』（平成31年/2019年3月・中央公論新社刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	奥付ルビ有り「らっか」
印刷/発行年月日	発行平成31年/2019年3月25日
発行者等	発行者松田陽三　ＤＴＰ平面惑星　印刷大日本印刷　製本大口製本印刷
発行所	中央公論新社（東京都）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	装画村田涼平　装幀大武尚貴　地図製作平面惑星
総ページ数	410	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	43字 ×18行 ×1段
本文ページ	7～405 （計399頁）	測定枚数	690枚

書誌

初出『読売新聞』夕刊平成29年/2017年2月3日～11月18日/単行本化にあたり加筆

令和3年/2021年12月・中央公論新社／中公文庫『落花』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　澤田瞳子　41歳
選考委員		評価	行数	評言
高村薫	66歳	●	13	「千年以上昔の平将門の騒乱を、またしても現代の筆致で血沸き肉躍る劇画に仕立てようとして破綻している。」
桐野夏生	67歳	■	14	「香取の海に浮かぶ傀儡女船などディテールも面白かった。だが、琵琶を求める千歳は、物語の展開に真に必要な人物だっただろうか。むしろ、平将門という魅力的な人物を、もっと読みたかったように思う。」
宮城谷昌光	74歳	△	18	「氏の知識欲の旺盛さには感心させられるが、それが小説世界を濁らせる場合もあるので、秘すれば花、という書きかたも考えてもらいたい。が、歴史小説作家は死ぬまで学びつづけるものであり、それについてあえていう必要のない作家である、と私はみている。」
林真理子	65歳	■	7	「のびのびとした達者な筆致である。この時代の小説は珍しくひと息に読んだが、何かあるとその当事者が現れるという、都合のよさが気にかかる。」
浅田次郎	67歳	△	12	「壮大な小説を最後までぬかりなく書き切った。」「もっとも、新聞連載小説が直木賞の候補に上ることは稀で、作者はそれだけの力量を認められているのだが、一方では単行本化されてもその発表媒体が見えてしまっていた。」
伊集院静	69歳	―	0
北方謙三	71歳	●	12	「主人公の造形に首を傾げた。寛朝の情念が、坂東の大地に食い入ることがない。ひたすら音を求め、それは言葉で説明されていくだけなのである。」
宮部みゆき	58歳	△	20	「『落花』は確実に点数を得るだろう――と確信して選考会に臨みました。時代精神というものは、それを実現させようと立ち上がる「少しだけ早く目覚めてしまった個人」に対して、おそろしく非情であること。しかし夢破れた敗者にも、芸術だけは寄り添ってくれること。この二つのテーマに感動したからです。」
東野圭吾	61歳	■	18	「主人公としてこの人物を選んだことに同意できない。常に安全地帯に身を置き、誰からも攻撃されず、特に乗り越えるべき具体的な苦難もないとなれば、感情移入して緊迫感を味わうのは難しい。如意という女性や千歳の生き様のほうが、はるかにドラマチックではないか。」
選評出典：『オール讀物』令和1年/2019年9・10月合併号

山本周五郎賞 第32回候補

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　澤田瞳子　41歳
選考委員		評価	行数	評言
石田衣良	59歳	■	22	「澤田さんは歴史的な知識が豊富だね。細かな書きこみはすごいもの。だけど登場人物の心の弾みを描く筆は、それにはすこし及ばなかった。将門がまったく魅力的じゃないんだ。」「武士が人を殺す場面を寛朝が目撃して、これが東国の音楽だと感動する場面は、どう読んでも納得いかなかった。このひ弱なお坊ちゃんが、そんなこと考えるはずがないよ。」
荻原浩	62歳	●	28	「はるか昔の関東の荒々しい風土の描写には迫力があり、香取の海に浮かぶ傀儡女（原文ルビ：くぐつめ）船の描写も美しい。当時の音楽の事情に関する説明は丁寧で、歴史に疎い当方には、初めて知ることも多かった。だが、肝心の音のほうは、こちらに予備知識がないせいもあるが、あまり聴こえてこなかった。」
角田光代	52歳	■	35	「ひとつ思うのは、ここで描いた平将門は、作者が本当に描きたかった人物に、今一歩届いていないのではないだろうか、ということだ。」「小説の重要なモチーフである梵唄、朗詠というものが、最後の最後まで私には聞こえなかった」「戦場の音も私には聞こえなかった。聞こえていたら、寛朝が音楽について悟る場面は、もっともっと心震えたはずだと思って、それがくやしい。」
佐々木譲	69歳	■	29	「この寛朝が坂東にいることの意味である「至誠の声」の獲得というテーマを、ついに理解できたと思えない。作品中、繰り返し「至誠の声」という言葉が出てくるのだが、その概念が十分説得力を持って語られたとは感じられなかった。」「テーマとストーリーがどうも釣り合わないと感じさせる、（引用者中略）物語叙述の微妙な不整合感が残念である。」
唯川恵	64歳	■	44	「気になるのは、音が聞こえて来ないという点だ。特に、一般的にあまり馴染みのない梵唄となると、ぜひ実感させて欲しい。」「読者を選ぶ小説だろう。興味のある方は心躍らせるだろうが、そうでない者はおいてきぼりをくらう。たとえ興味のない者が読んでも、夢中にさせるためのもうひと工夫が用意されていたら、と思う。」
選評出典：『小説新潮』令和1年/2019年7月号

第161回推薦候補

大衆選考会での推薦

推薦者	推薦日	推薦文
青ちゃん	令和1年/2019年6月11日	さらに、円熟度を高めた表現力によって、さらに楽しめる作品になった。

文量
長篇
章立て
「第一章　行旅」「第二章　管絃」「第三章　交友」「第四章　無常」「第五章　将軍」「終章　白」
時代設定	場所設定
平安中期	武蔵～下総～香取の海～常陸～上野
登場人物
●寛朝（京・仁和寺の僧、敦実親王の長男） ●千歳（寛朝の従者、敦実親王家の雑色） ●豊原是緒（常陸在の楽人） ●平将門（鎮守府将軍平良将の長男、下総の豪族） ●異羽丸（真敷津をねぐらとする盗賊） ●百舌（異羽丸の手下） ●あこや（傀儡女） ●如意（傀儡女） ●藤原秀郷（下野国庁の少掾）

第163回候補

『能楽(のうがく)ものがたり　稚児桜(ちござくら)』（令和1年/2019年12月・淡交社刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	カバー表紙ルビ有り「ちござくら」
副題等	能楽ものがたり
印刷/発行年月日	発行令和1年/2019年12月31日（初版）
発行者等	発行者納屋嘉人　印刷・製本シナノ書籍印刷株式会社
発行所	株式会社淡交社（京都市）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	装画山科理絵　装丁鈴木久美
総ページ数	250	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	41字 ×15行 ×1段
本文ページ	5～250 （計246頁）	測定枚数	317枚

書誌

令和5年/2023年3月・KADOKAWA／角川文庫『能楽ものがたり　稚児桜』

収録作品の書誌

やま巡り――山姥(やまんば)

初出『なごみ』平成30年/2018年1月号～3月号

小狐(こぎつね)の剣(つるぎ)――小鍛冶(こかじ)

初出『なごみ』平成31年/2019年1月号～3月号

稚児桜(ちござくら)――花月(かげつ)

初出『なごみ』平成30年/2018年4月号～6月号

鮎(あゆ)――国栖(くず)

初出『なごみ』平成31年/2019年4月号～令和1年/2019年6月号

猟師とその妻――善知鳥(うとう)

初出『なごみ』平成29年/2017年7月号～9月号

大臣(おとど)の娘――雲雀山(ひばりやま)

初出『なごみ』平成30年/2018年7月号～9月号

秋の扇――班女(はんじょ)

初出『なごみ』平成29年/2017年10月号～12月号

照日(てるひ)の鏡――葵上(あおいのうえ)

初出『なごみ』平成30年/2018年10月号～12月号

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　澤田瞳子　42歳
選考委員		評価	行数	評言
浅田次郎	68歳	■	15	「不学にして出典の謡をほとんど知らぬので、評価するすべを持たなかった。ただし長篇よりも短篇でこそ力を発揮するであろうという、勝手な持論に変わりはない。」
宮部みゆき	59歳	■	15	「これまで『火定』『落花』と澤田瞳子さんの作品を推して届かなかった者としては、今回の『稚児桜』で受賞を目指すのは、二重三重に厳しいものがありました。」「お能の演目を題材にしたいわば企画もののこの短編集は、文学賞云々の固いことは抜きにして、軽やかに楽しまれるべき作品だと思います。」
北方謙三	72歳	■	13	「能楽との結びつきが、作品の肝になっているのだろうが、そこのところは私の無知ゆえ、まったく理解できなかった。この作品集を読み終えた時、能の鑑賞に興味を持ったということにもならなかった。」
桐野夏生	68歳	●	8	「能については知識がないので、タイトルの下に書いてある能の演目を調べながら読んだ。残念ながら、長い時間をかけて練られ、殺ぎ落とされて残った能のストーリーの方が面白く感じられた。」
伊集院静	70歳	―	0
角田光代	53歳	■	14	「能楽について無知の私は、「稚児桜」のよい読者ではない。」「たんに短編小説集ととらえるともの足りなさを感じるが、一編一編に演目が明記されているので、能と切り離して読むことは作者の本意ではないのだろう。」
高村薫	67歳	●	14	「乙巳（ルビ：いつし）の変すら現代風の人間ドラマに作り変える作者のいつもの手法ゆえに、どの短編も、謡曲のパロディにもパスティーシュにもなれなかった。能の世界を往還する生者や死者は、そもそも小説の描く人間とは重なるところがないのではないだろうか。」
林真理子	66歳	●	17	「一篇一篇があまりにも短か過ぎる。短かいうえにすぐオチをつけなければならず、それが小説の品位をそぐことになった。」「今回は能をテーマにしたため、いささか無理があった。澤田さんのいいところが発揮されていない。」
三浦しをん	43歳	■	17	「各短編の読み心地が似ていて、一冊を通してのメリハリにやや欠けるかなと思う。」「本作は能特有のカタルシスが弱い感があり、では能の抹香臭さを皮肉る方向性かと考えるも、そうとも言いきれない気がして、本歌取りの必然性がもうちょっと欲しかった。」
選評出典：『オール讀物』令和2年/2020年9・10月合併号

文量

短篇集〔8篇〕

やま巡り――山姥(やまんば)
章立て
なし
時代設定	場所設定
ある昔	越中国
登場人物
●児鶴（東洞院七条の店で暮らす見習い遊女、12歳） ●百万（児鶴の姉遊女、曲舞の上手） ●老婆（越中の山間に住む老婆）

小狐(こぎつね)の剣(つるぎ)――小鍛冶(こかじ)
章立て
なし
時代設定	場所設定
ある昔	三条粟田口
登場人物
●葛女（刀鍛冶の娘） ●宗近（葛女の父親、名の通った老鍛冶） ●豊穂（宗近の弟子） ●黐麻呂（豊穂の相弟子で幼馴染）

稚児桜(ちござくら)――花月(かげつ)
章立て
なし
時代設定	場所設定
ある昔	清水寺
登場人物
●藤内（清水寺の寺男） ●花月（人気の稚児、14歳） ●百合若（新入りの稚児）

鮎(あゆ)――国栖(くず)
章立て
なし
時代設定	場所設定
ある昔	吉野宮～吾城野
登場人物
●蘇我菟野（19歳の女嬬、豪族・蘇我日向の娘） ●讃良女王（菟野の主） ●大海人王子（讃良女王の夫）

猟師とその妻――善知鳥(うとう)
章立て
なし
時代設定	場所設定
ある昔	越中国～陸奥国
登場人物
●有慶（仁和寺の僧） ●鳥麻呂（陸奥国から出奔した猟師） ●榎女（鳥麻呂の妻）

大臣(おとど)の娘――雲雀山(ひばりやま)
章立て
なし
時代設定	場所設定
ある昔	宇陀
登場人物
●綿売（姫の乳母） ●鴇女（綿売の娘、酒屋の嫁） ●姫（綿売の主、元右大臣・藤原豊成の末娘）

秋の扇――班女(はんじょ)
章立て
なし
時代設定	場所設定
ある昔	美濃国野上宿～江口・神崎
登場人物
●花子（野上宿で働いていた遊女） ●真貴女（花子と同じ宿で働いていた遊女の姉貴分） ●吉田の少将（花子の客）

照日(てるひ)の鏡――葵上(あおいのうえ)
章立て
なし
時代設定	場所設定
ある昔	近江国～京
登場人物
●わたくし（語り手、醜女） ●照日ノ前（巫女、わたくしの雇い主） ●葵上（左大臣の娘） ●源氏の君（葵上の婿）

第165回受賞

『星落(ほしお)ちて、なお』（令和3年/2021年5月・文藝春秋刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	奥付ルビ有り「ほしお」
印刷/発行年月日	発行令和3年/2021年5月15日（第1刷）
発行者等	発行者大川繫樹　印刷所凸版印刷　製本所大口製本　ＤＴＰトリロジカ
発行所	株式会社文藝春秋（東京都）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	装画河鍋暁翠「五節句之内　文月」　装丁野中深雪
総ページ数	321	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	43字 ×18行 ×1段
本文ページ	5～321 （計317頁）	測定枚数	556枚

書誌

初出『別冊文藝春秋』令和1年/2019年7月号～令和3年/2021年1月号

令和6年/2024年4月・文藝春秋／文春文庫『星落ちて、なお』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　澤田瞳子　43歳
選考委員		評価	行数	評言
林真理子	67歳	□	17	「最初私は物足りなさを感じた。主人公の女性絵師に、芸術家としての昂ぶりや熱意をあまり感じなかったからだ。が、すぐに理解した。これは天才を父に持つ、普通に近い娘の生き方なのである。淡々とし過ぎているように感じたが、それは当然のことなのだ。」「読後感がよくさすがの筆さばきと感服した。」
北方謙三	73歳	○	29	「言葉をさまざまに費して評する必要はなく、描かれた人物がそこここに立ちあがり、時が流れる。新しくはなく、しかし連綿と続いてきた物語の、強さを持っている。だから、古くもならないだろう。この作者は、物語の端緒から、筆が躍る傾向があったが、今回は驚くほど抑制された筆だった。」「（引用者注：「テスカトリポカ」と）結果は同じ点数での同時受賞であった。」
角田光代	54歳	△	25	「絵を描かざるを得ないむしろ凡人としてのとよの苦悩に焦点をあてたのならばそれは成功していると思う。けれども暁斎や清兵衛の過剰さも、それに引きずられて減じられてしまったように思えて、それもやっぱり私にはちょっともの足りない。」
高村薫	68歳	●	24	「「画鬼」の父の具体的描写はなく、すべてが暁翠の独白で語られるだけなので、その葛藤は具体性を欠き、障子越しに他人の暮らしを垣間見るようなあいまいさである。有名な芸者ぽん太と清兵衛の愛も、まるで艶やかさが伝わらない。」
三浦しをん	44歳	△	19	「ドラマが盛りあがりそうなところ（たとえば主人公の離婚など）が具体的に描かれぬまま年代が変わってしまうので、ちょっと登場人物に思い入れを抱きにくく堅実すぎるかなと感じた。だが、明治の美人画と江戸の女性画のちがいや、女性絵師の扱いの不当さなど、はじめて知ることが多く、作者がなぜ河鍋暁翠（とよ）を主人公にしたのか、思いが十二分に伝わってきた。」
浅田次郎	69歳	□	15	「実直な作家である。」「「星落ちて、なお」は生真面目な作風に手が合っており、すぐれた評伝でも読むような気分で楽しめた。ぜひとも本作で受賞していただきたいと願って選考会に臨んだ。」
桐野夏生	69歳	■	23	「偉大な父の存在という重荷（引用者中略）西洋絵画が入ってきて、父から継いだ絵はすでに時代に遅れになっている、（引用者中略）このふたつの苦しみがいまひとつ伝わってこないのは、とよの人物造型がやや平板だからかもしれない。」「また、江戸から明治に移った混乱や、明治という時代の新鮮さは、あまり感じられなかった。」
伊集院静	71歳	◎	46	「安定味のある文体、そつのない構成で、候補作品で唯一人、プロの力量を感じられる作品だった。」「他の選考委員から、鬼才である絵師の父、その跡を受け継いだ主人公である娘の、絵を描くシーンが欲しいという意見があった。だが、三人の委員（偶然、皆男性であったのだが）は、その必要無しとの意見で一致した。珍しいことなのだが、ベテラン男性委員が澤田作品を推したことは、彼女の力量と、今後の作品への期待なのであろうと私も嬉しかった。」
宮部みゆき	60歳	○	65	「一見オーソドックスな歴史人物小説であるように見えて、実は掟破りの挑戦をしている果敢な小説です。」「何が掟破りなのか。それは、史実を題材にした歴史小説では、普通は主人公に取り立てられることのない人物を中心に据えていること。」「澤田さんは、その人生を長編小説一冊分かけて掘り下げました。」「そのおかげで、作品のしめくくり、亡き父についてインタビューを受ける最晩年のとよの静かなたたずまいに、私は気持ちよく泣かせていただきました。」
選評出典：『オール讀物』令和3年/2021年9・10月合併号

文量
長篇
章立て
「蛙鳴く　明治二十二年、春」「かざみ草　明治二十九年、冬」「老龍　明治三十九年、初夏」「砧　大正二年、春」「赤い月　大正十二年、初秋」「画鬼の家　大正十三年、冬」
時代設定	場所設定
明治～大正	東京
登場人物
●とよ（河鍋暁斎の娘、画号〈暁翠〉） ●河鍋暁斎（絵師） ●周三郎（暁斎の長男、画号〈暁雲〉） ●鹿島清兵衛（酒問屋〈鹿島屋〉八代目、暁斎の弟子） ●ぽん太（清兵衛の妾） ●高平常吉（機械商〈高田商会〉勤め、とよの結婚相手） ●真野八十五郎（暁斎の若い弟子） ●松司（八十五郎の息子）

『若冲(じゃくちゅう)』（平成27年/2015年4月・文藝春秋刊）

『火定(かじょう)』（平成29年/2017年11月・ＰＨＰ研究所刊）

『落花(らっか)』（平成31年/2019年3月・中央公論新社刊）

『能楽(のうがく)ものがたり 稚児桜(ちござくら)』（令和1年/2019年12月・淡交社刊）

『星落(ほしお)ちて、なお』（令和3年/2021年5月・文藝春秋刊）

『能楽(のうがく)ものがたり　稚児桜(ちござくら)』（令和1年/2019年12月・淡交社刊）