永井紗耶子（ながいさやこ）-直木賞受賞作家｜直木賞のすべて

直木賞のすべて

第169回

＝受賞者＝
垣根涼介
永井紗耶子

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Last Update●[R6]2024/8/11

	Nagai Sayako
	生没年月日【注】	昭和52年/1977年☆月☆日～
	経歴	神奈川県生まれ。慶應義塾大学文学部卒。新聞記者、フリーライターを経て、平成22年/2010年に「絡繰り心中」で小学館文庫小説賞を受賞して作家デビュー。
	受賞歴・候補歴	第11回小学館文庫小説賞（平成22年/2010年）「絡繰り心中」（刊行時「恋の手本となりにけり」に改題）第10回本屋が選ぶ時代小説大賞（令和2年/2020年）『商う狼　江戸商人杉本茂十郎』第40回新田次郎文学賞（令和3年/2021年）『商う狼　江戸商人杉本茂十郎』 \|候補\| 第27回中山義秀文学賞（令和3年/2021年）『商う狼　江戸商人杉本茂十郎』 \|候補\| 第167回直木賞（令和4年/2022年上期）『女人入眼』第36回山本周五郎賞（令和4年/2022年度）『木挽町のあだ討ち』第169回直木賞（令和5年/2023年上期）『木挽町のあだ討ち』 \|候補\| 第30回中山義秀文学賞（令和5年/2023年）『きらん風月』
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第167回候補

『女人入眼(にょにんじゅげん)』（令和4年/2022年4月・中央公論新社刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	カバー「にょにんじゅげん」併記　奥付ルビ有り「にょにんじゅげん」
印刷/発行年月日	発行令和4年/2022年4月10日（初版）
発行者等	発行者松田陽三　ＤＴＰハンズ・ミケ　印刷大日本印刷　製本小泉製本
発行所	中央公論新社（東京都）			形態	四六判　並製
装幀/装画等	装画三田尚弘「色許　獅子を統べる者」　装幀 bookwall
総ページ数	307	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	43字 ×18行 ×1段
本文ページ	3～307 （計305頁）	測定枚数	534枚

書誌

書下ろし

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　永井紗耶子　45歳
選考委員		評価	行数	評言
浅田次郎	70歳	●	24	「読者に相応の事前知識がなければ理解できぬ小説なのではあるまいか。文学の独立性を信ずるのであれば、時代背景といい繁雑な人間関係といい、一般読者に対しては不親切に過ぎると思えた。」「さらに言えば、本作は周子が襲撃されるくだりから始まって、大姫入水で終わる短篇小説の素材であるように思えた。」
北方謙三	74歳	■	17	「まとまりのいい小説であった。しかし、あまり人が躍らないので、物語も躍動しないという印象を持った。」「強烈な女性像がありはしたのだが、男の、しかも暴力の時代でもあったのだ。それが強く背景に感じられることがなかったのが、私にはもの足りなかった。」
宮部みゆき	61歳	◎	69	「（引用者注：「夜に星を放つ」と共に）○をつけまして、決選投票でも支持したのですが、今一歩及ばず次点になってしまいました。」「勃興から衰退滅亡まで山のように書く材料がある鎌倉幕府と北条氏の歴史のなかで、大姫入内という（頼朝の鎌倉政権にとっては手痛いターニングポイントではありますが）地味な出来事をテーマに、終始声を張り上げず、演説もせず、穏やかに淡々と、主な登場人物みんなの心模様を丁寧にすくい取り、ひとつづりの長編小説に仕立て上げたこの腕前！　ほれぼれしました。」
三浦しをん	45歳	◎	34	「（引用者注：「爆弾」と共に）推した。」「北条政子と大姫の関係など、いつの時代にもこういう母娘の葛藤はあるだろうなと思ったし、作者は、「時代小説のなかで、いかにさりげなく現代社会にも通じる問題に触れるか」に非常に自覚的なかたなのだろうと感嘆した。登場人物全員が魅力的に躍動しており、読後に忘れがたい余韻が残る。」
高村薫	69歳	■	21	「北条政子を筆頭に、登場する女性たちがそれぞれに共感を呼ぶのは、頼朝の娘大姫の入内をめぐる顛末が女性の視点で巧みに整理され、非常に分かりやすい物語になっているからだろう。しかしその反面、慈円が『愚管抄』に「武者の世」になったと記した、その武者の姿がない本作は、評者には平板な恋物語以上の世界ではなかった。」
林真理子	68歳	△	23	「非常に面白く読んだ。しかし歴史小説はここがつらいところであるが、入内をめぐっての画策の中心にいる大姫が、若くして亡くなることを読者は知っている。結末がわかっているゆえに、さまざまな論議が次第に空しく思えてくる時があった。」「二十歳の主人公が、時代を考慮してもあまりにも中年女くさくないだろうか。大姫の心にもっと寄り添ってもいいはずだ。」
角田光代	55歳	■	20	「第四章以後にぐっと話がおもしろくなる。」「大姫の自死について、希望を垣間見た故の絶望としたところなども強い説得力がある。おそらくそこに焦点をあてたからだと思うけれど、大姫以外の女性たちのままならなさをもっと書いてもよかったのではないか。」
伊集院静	72歳	◎	30	「推した」「文体に安定味があり、何より弓のようなしなやかさが感じられた。主人公の周子の視線が、冷静に見えて実は熱気を含んでいた。この両刃で人、物事を捉える視点はこの作家の資質であろう。」
桐野夏生	70歳	○	27	「主人公・周子と、北条政子の人物造型が鮮やかだった。」「女には女の政治があるという京の女の論理と、己の情そのままに振る舞う政子とソリが合うはずがない。」「かように女性作家が描く、鎌倉武士の女性の世界は滅法面白い。欲を言えば、周子の視点で物語が進んでゆくため、海野幸氏の人となりなど、もう少し知りたくもあった。」
選評出典：『オール讀物』令和4年/2022年9・10月合併号

文量
長篇
章立て
「序」「一　都の風」「二　波の音」「三　露の跡」「四　花の香」「五　海の底」「終」
時代設定	場所設定
鎌倉［建久年間～承久年間］	京～鎌倉
登場人物
●周子（女房名「衛門」、京六条殿の女房） ●丹後局（後白河院の寵姫、六条殿の主・宣陽門院の生母） ●源頼朝（鎌倉幕府の長） ●北条政子（御台所） ●大姫（頼朝と政子の娘） ●海野幸氏（鎌倉武士、弓の名手） ●大江広元（鎌倉幕府政所別当、周子の実父） ●桂（大姫に仕える古参侍女）

第169回受賞

『木挽町(こびきちょう)のあだ討(う)ち』（令和5年/2023年1月・新潮社刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	カバールビ有り「こびきちょう」　奥付ルビ有り「こびきちょう」「う」
印刷/発行年月日	発行令和5年/2023年1月20日
発行者等	発行者佐藤隆信　印刷所株式会社光邦　製本所加藤製本株式会社
発行所	株式会社新潮社（東京都）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	装画村田涼平　装幀新潮社装幀室
総ページ数	267	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	41字 ×20行 ×1段
本文ページ	5～267 （計263頁）	測定枚数	483枚

書誌

初出『小説新潮』令和1年/2019年10月号、令和2年/2020年4月号、7月号、10月号、令和3年/2021年4月号、7月号

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　永井紗耶子　46歳
選考委員		評価	行数	評言
京極夏彦	60歳	○	19	「一人称の“自分語り”だけで短編を成立させる場合、その饒舌さが仇となるケースが多いが、本作はその点を見事に逆手に取っている。」「構造を見る際、一部整合性が保てていない部分はあるものの、それを退けるだけの感興を齎してくれる小説に仕上がっている。」
浅田次郎	71歳	□	20	「精緻なアラベスクを見るような小説であった。」「江戸時代の話とはいえ「おいしい不幸」をかくも惜し気なく盛りこんだ作者は、よほどの才能の持ち主であろう。それにしてもこのところ、時代物といえば歌舞伎と絵師が多すぎる。」
伊集院静	73歳	◎	44	「小説には、読む愉しみがある。」「（引用者注：「木挽町のあだ討ち」は）その愉しみを見事に教えてくれる。」「それぞれの目撃談は歌舞伎を模してあるので、余計に華やかになり、同時に虚実が裏に隠れていることを示唆しやすかった。その上、虚実は重ねるごとに、作者の決め事への読者の許容をうながす。」
角田光代	56歳	○	24	「設定、構成がみごとである。」「黒かった駒がみごとに白くなっていくようなこの終幕を読むと、ままならない人生への強くうつくしい肯定を感じる。芝居、ひいてはフィクションが、重苦しい現実から私たちを解き放つ瞬間がある。それがあざやかに描けている。」
林真理子	69歳	◎	25	「私は途中までこの仕掛けにまるで気づかなかった。」「奇想天外なアイデアを、手の込んだ文章が支えている。芝居者は芝居者らしく、元さむらいはそれらしく、語り口調を成立させているのがすごい。父親が死んだ経過がややちゃちな印象を受けたが、それ以外は精巧にきっちりと組み立てられた作品である。」
宮部みゆき	62歳	○	58	「私だけでなく、すれっからしのミステリー・ファンなら、この「あだ討ち」の仕掛けと真相はすぐ見当がつきますが、それで全然かまわない。なぜなら、この作品の読みどころは、事件のからくりと真の動機と真相を「どのように、どんなキャラクターを持つ誰の語りによって、どの順番で明かしてゆくか」というプロセスのなかにこそあるからです。」「「江戸市井ものにミステリーの技法を持ち込む」ことで、江戸人情小説の新たな可能性を示しました。」
桐野夏生	71歳	○	20	「凝りに凝ったロンド形式で、作者の才気が伝わってくる。」「しかしながら、喋る人間がいれば、聞き手もいるわけで、その聞き手が他の人物たちに比べて弱く感じられる。そして、もっとも話を聞きたい人物の「場」がないのは、謎の存在を知られたくないからだろう。それが一点の曇りのように感じられた。」
高村薫	70歳	△	24	「饒舌な語りは十分に芝居がかっていて読者を酔わせるが、肝心のあだ討ちの仔細が故意にぼかされていることの不全感は如何ともしがたい。」「あだ討ち譚に伴う残酷な人間模様を平板な人情噺にした軽さは、生身の人間臭がないという意味で、エンターテインメントの極致なのかもしれない。」
三浦しをん	46歳	◎	29	「（引用者注：「踏切の幽霊」と共に）推した。」「女性や弱い立場に置かれた人々への眼差しも公正で、江戸の香りを湛えつつ、「いま」時代小説を楽しむ読者にも誠実に向きあった作品だ。芝居をはじめとする創作物が、どれだけ私たちの心を支え、励まし、苦しいなかにあっても希望の光をもたらしてくれるものなのかを、押しつけがましくない形で、本作自体が証明していると思う。」
選評出典：『オール讀物』令和5年/2023年9・10月合併号

山本周五郎賞 第36回受賞

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　永井紗耶子　45歳
選考委員		評価	行数	評言
伊坂幸太郎	51歳	□	34	「「仇討ちの真相」自体は読み始めてすぐに見当がついてしまい、どちらかと言えば、読みながら答え合わせをしていく感覚になったため、せっかくなのだから読者を驚かせるための工夫をしてもいいのではないか、ともどかしさはありましたが、それは僕がミステリーを好んで読む人間だからかもしれません。」「定型からはみ出していたり、歪んだ部分のある小説に惹かれる僕からすると、あまりに整いすぎている印象があり、選考会で強く推すことはなかったのですが、良い小説であるのは間違いありませんし、もっとも票を集めたこの作品が受賞することに異論はありませんでした。」
江國香織	59歳	○	27	「時代小説であるが故のさまざまな制約にもかかわらず、この自由闊達な書きぶりは見事。読んでいて、江戸の町の活気が肌で感じられました。」「最後だけはちょっとやりすぎというか、どたばた劇みたいになってしまっている印象を受けたのですが、江戸の人々は存外どたばた暮していたのかもしれず、言い方を変えれば、本からはみだすほどの生命力を持った一冊なのでした。」
荻原浩	66歳	◎	36	「（引用者注：選考委員たちの）全員の評価が高かった」「各章一人ずつ、すべて一人語りだけで物語が進行していく。これって大変なことだ。」「ほのぼのした人情物っぽい話に見えて、そのじつ、現代とは比べ物にならない生きていくことの過酷さや、人の死の軽さ、当たり前だった差別などが骨太に描かれている。」「ゴタクを抜きにしても、上手くて、楽しくて、心に染みる、良い小説でした。」
今野敏	67歳	◎	26	「すべての人物の口調を変え、江戸の情景や芝居小屋の有様、そして事件の経緯などを過不足なく説明している。この腕前は並大抵ではない。」「しかも、物語の展開は常にスピーディーでなおかつ味わいも深い。これはもう、受賞作として推さざるを得ない。」「ミステリとして見たら、仕掛けが早々にわかってしまうなど弱さもある。しかし、そのからくりがわかってもなお、興味深く楽しく読めるのも事実。」
三浦しをん	46歳	◎	44	「（引用者注：「ループ・オブ・ザ・コード」と共に）推した。」「文章がうまく、ユーモアもあって、随所で声を上げて笑う。身分制度やジェンダーへのさりげない目配りも忘れておらず、なぜ現代人が時代小説を書いたり読んだりするのかについて（もちろん、楽しいから書いたり読んだりするわけだが）、作者は極めて自覚的かつ誠実な姿勢なんだなと感じられた。」「芝居大好き人間であっても、それほどでもというひとであっても、ちゃんと楽しめるつくりになっている。創作物（本作の場合、芝居）が人々にどれだけ力と希望をもたらすものなのかが胸に迫ってきて、私は何度も涙した。」
選評出典：『小説新潮』令和5年/2023年7月号

文量

長篇

章立て

「第一幕　芝居茶屋の場」「第二幕　稽古場の場」「第三幕　衣装部屋の場」「第四幕　長屋の場」「第五幕　枡席の場」「終幕　国元屋敷の場」

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