月村了衛（つきむらりょうえ）-直木賞候補作家

第169回

＝受賞者＝
垣根涼介
永井紗耶子

＝候補者＝
冲方　丁
高野和明
月村了衛

Last Update●[R6]2024/1/13

	Tsukimura Ryoe
	生没年月日【注】	昭和38年/1963年～
	経歴	大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部文芸学科卒。予備校講師を経て、昭和63年/1988年にテレビアニメ『ミスター味っ子』で脚本家デビュー。平成22年/2010年に『機龍警察』で作家デビュー。
	受賞歴・候補歴	第33回日本ＳＦ大賞（平成24年/2012年）『機龍警察　自爆条項』第34回吉川英治文学新人賞（平成24年/2012年度）『機龍警察　暗黒市場』第17回大藪春彦賞（平成26年/2014年度）『コルトM1851残月』 \|第5位\| 第12回2015年本屋大賞（平成27年/2015年）『土漠の花』第68回日本推理作家協会賞［長編及び連作短編集部門］（平成27年/2015年）『土漠の花』 \|候補\| 第31回山本周五郎賞（平成29年/2017年度）『機龍警察　狼眼殺手』第10回山田風太郎賞（令和1年/2019年）『欺す衆生』 \|候補\| 第169回直木賞（令和5年/2023年上期）『香港警察東京分室』 \|候補\| 第12回日本歴史時代作家協会賞［作品賞］（令和5年/2023年）『十三夜の焔』
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『機龍警察(きりゅうけいさつ)　暗黒市場(あんこくしじょう)』
（平成24年/2012年9月・早川書房／ハヤカワ・ミステリワールド）

書誌

令和2年/2020年12月・早川書房／ハヤカワ文庫JA『機龍警察　暗黒市場』(上)(下)

吉川英治文学新人賞 第34回受賞

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　月村了衛　49歳
選考委員		評価	行数	評言
浅田次郎	61歳	○	14	「これだけ話を拡げてしまって、はたしてうまく畳めるかどうかはいささか不安であったが、緊張感を長く維持したまま大団円を迎えた。実にタフな作家である。この人間描写と強靭さを、限定されたシリーズの中に閉じこめてほしくはない。」
伊集院静	63歳	△	12	「最初読んでいてよくわからなかった。シリーズ物のひとつとわかり、四苦八苦していた時間に舌打ちした。それでも知らぬ間にこの世界に引き込まれたのは“幻想はリアリティである”という言葉のとおりだと認識させられたのだからたいした才能と実力なのだ。」
大沢在昌	56歳	◎	18	「これは近未来ＳＦの鎧をまとった冒険小説の傑作である。『機龍警察』シリーズの評価が高いのも納得した。作者の月村さんは、真に好きな世界、好きな人物を描いて、縦横に筆をふるっている。ときにご都合主義的な展開もあるが、物語にからめとられている間は、それすらが心地よかった。」
恩田陸	48歳	◎	16	「何より素晴らしいと思ったのは、やりたいことがはっきりしていて、それをやり遂げる強い意志があるのと同時に、それを徹底したエンターテインメントとして読者に提供する覚悟が明確であるところだ。これを同時になし遂げるのはエンターテインメント作家の理想だが、非常にむずかしいことなのに、見事にやり遂げている。」
京極夏彦	49歳	○	45	「（引用者注：「国を蹴った男」とともに）一見「読者を選ぶ」と思われがちな作風であるにも拘らず、両作共にその壁は破られている。」「ＳＦや警察小説に魅力を感じない読者や作中リアリティを保証するために敢えて明文化されない設定に付いて行けない読者までもを小説に引き込んでしまうドライブ感と物語性がある。」「特殊な方向性に特化する形で一般性を獲得するというのは、生半な技量では成し遂げられないことである。」
高橋克彦	65歳	□	7	「私は伊東さんの『国を蹴った男』に票を投じたが、月村さんの圧倒的な筆力にも驚いていて、この結果（引用者注：二作授賞）にもちろん異存はない。」
選評出典：『小説現代』平成25年/2013年5月号

『機龍警察(きりゅうけいさつ)　狼眼殺手(ろうがんさっしゅ)』
（平成29年/2017年9月・早川書房／ハヤカワ・ミステリワールド）

山本周五郎賞 第31回候補

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　月村了衛　55歳
選考委員		評価	行数	評言
石田衣良	58歳	■	39	「たいへんな熱量で、複雑なプロットを描き切った実力は賞賛されるべきだね。今回多くの選考委員が過去のシリーズを未読で、よくわからない細部があるといっていた。やはりシリーズ五作目のノミネートが不利だったということかな。」「ジブリアニメ以来、女性に過剰なアクションを無理やり背負わせるという形が多いけれど、ぼくはその手には賛同できないね。」
荻原浩	61歳	●	34	「シリーズの肝であるらしい機甲兵装「龍機兵」があまり登場しない一冊だったのが、賞の候補という意味では痛かったのではなかろうか。」「銃器や車種の名称をこと細かに書きこむのは、察するにこのシリーズの読みどころなのだろうし、シリーズの間に群像がふくらんでいったに違いないから、主要メンバーの数が多いのは、いたしかたないにしても、ほとんど登場しない人間のフルネームや、本筋にあまり関係のない組織名、地名などなどが、話の運びの邪魔になってはいないだろうか。」
角田光代	51歳	■	21	「殺し屋ライザと研究者緑の因縁と、その独特の感情の交流には深く心を揺さぶられた。ただ私には作中に登場する「龍機兵」がうまくイメージできなかった。」「この「狼眼殺手」では、その龍機兵の秘密に迫る量子情報通信ネットワークを扱うクイアコンという一大プロジェクトが鍵となっている。となると、この一冊を俎上に載せた評価は難しいのではないかと思う。」
佐々木譲	68歳	△	42	「とくに前半の、警察機構とそこに所属する公務員たちの働きぶりの描写には、感嘆するばかりであった。」「そして後半のアクションの連続するシークエンスの疾走感と眩暈感が素晴らしい。」「わたしはしばしば選考委員であることを忘れてストーリーに没入した。」「惜しむらくは、その丁寧すぎる描写と情報の過剰であり、もっと刈り込めたのではないかとは読後の正直な思いである。」
唯川恵	63歳	■	49	「入り組んだ迷路を疾走するように読んだ。」「そもそも機龍警察とは何なのか。突入班龍機兵搭乗要員が搭乗する新型機甲兵装とはどういうものなのか。これらの根本的な設定を頭に描くのが難しい。また、登場人物が多く、視点があちこちに移るので、どの立場に立って成り行きを捉えればいいのか戸惑う。」「私が受け入れがたいと感じる部分は、すべてこのシリーズ五作目という理由に因る。（引用者中略）シリーズ小説の中の一作をどう評価すればいいのか。この辺りが、選考会でも議論となった。」
選評出典：『小説新潮』平成30年/2018年7月号

第169回候補

『香港警察(ほんこんけいさつ)東京分室(とうきょうぶんしつ)』（令和5年/2023年4月・小学館刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	カバー「Hong Kong Police Force Tokyo Branch」併記
印刷/発行年月日	発行令和5年/2023年4月26日（初版第1刷）
発行者等	発行者石川和男　ＤＴＰ株式会社昭和ブライト　印刷所萩原印刷株式会社　製本所株式会社若林製本工場
発行所	株式会社小学館（東京都）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	写真 (c)Peter Treanor / Alamy / amanaimages Soloma / shutterstock　ブックデザイン鈴木成一デザイン室
総ページ数	315	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	43字 ×19行 ×1段
本文ページ	5～315 （計311頁）	測定枚数	565枚

書誌

初出『STORY BOX』令和4年/2022年6月号～令和5年/2023年1月号/単行本化にあたり加筆改稿

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　月村了衛　60歳
選考委員		評価	行数	評言
京極夏彦	60歳	△	22	「複数の視点人物がスイッチしていくという手法は時に混乱を招くものだが、著者の筆致はその難を退けている。」「このスタイルを採用したことで作中の時間／空間編集が自在になり、結果、重くなりがちな主題を軽快に提示することに成功している。一方この手法では“小説的”展開は単層化に向かうし、可読性を優先するならキャラクターの心情の掘り下げもし難くなる。」
浅田次郎	71歳	●	13	「あらゆる表現方法の中で、動的表現に最も適さないものは「文章」なのだから、私たちはなるべくアクションシーンを回避して物語をなさねばならぬ。むろんそうした場面を待望する読者もいるであろうが、それとて映像の代替物を要求しているに過ぎない。」
伊集院静	73歳	●	20	「最初、タイトルを見て、これが小説の題名でいいのか？　と疑問を抱いた。」「どこにも、復帰以前の香港の良さ、羨むほどのゆたかなものを持つ都市の魅力が描かれていなかった。香港の抒情が一行も語られていないのは、テーマとする場所への作者の情熱の欠落である。」
角田光代	56歳	■	22	「作者ともかくアクションシーンを描くのがうまく、読みながら「見て」いるような興奮も覚えた。しかしながら二〇二〇年に国家安全維持法が施行され、二〇四七年問題を抱えた香港について、あるいは中国について、日本警察側は他人ごとにすぎないのか、また香港警察側はどのように向き合っているのかがわからず、だとすると、なぜそもそも「香港」なのか、という根本的なことがわからなくなってくる。」
林真理子	69歳	●	28	「アクションシーンが多過ぎ、やや荒っぽい印象を受けた。この小説の肝心なところは、香港と日本の警察官が入り乱れる中、民主活動家の女性をどう探し出すのか、見つかった場合、どういう処遇にするのか、である。」「このラストでは中途半端になってしまう。」
宮部みゆき	62歳	△	37	「今回の候補作のなかでは唯一、今、私たちが生きている現代社会の問題とリアルに繋がっている作品でした。月村さんがこういうライトな警察ものを書くのかと、個人的には楽しい驚きを味わいましたし、毎度のことながらアクションシーンの描写が素晴らしい。」
桐野夏生	71歳	●	16	「シリーズ化を目指しているのだろうか。」「設定の説明だけでなく、人物の外見や服装などの描写がほとんどない。イキのいいところもあるが、あまりに唐突、また動画的で想像力が追いついていかない。」
高村薫	70歳	■	19	「近年の香港情勢を素材にしながらもその世界観はひと昔前の香港映画であり、銃器や戦闘のスタイルが今っぽいに過ぎない。映像作品と見紛うスピード感と場面展開はまさしくエンターテインメントではあるが、一方でこれは、従来型の小説が書き手にとっても魅力を失っていることの証左なのだろう。」
三浦しをん	46歳	△	18	「香港の現状や自由と民主主義への作者の熱い思いが迫ってきて、拝読しながらこちらの胸も熱くなった。」「本作はたぶんシリーズ化されるのだろうと推測され、特殊共助係メンバーの顔見世的側面があるため、一番には推さなかったが、今後の展開もものすごく楽しみだ。」
選評出典：『オール讀物』令和5年/2023年9・10月合併号

文量

長篇

章立て

「第一章　井水不犯河水」「第二章　香港冇民主、但有自由」「第三章　命運自主」