直木賞のすべて

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Last Update●[R4]2022/8/30

木皿泉 Kizara Izumi

生没年月日	昭和27年/1952年～、昭和32年/1957年～
経歴	本名＝和泉務、妻鹿年季子。夫婦の脚本家。
受賞歴・候補歴	第3回NHK名古屋放送局創作ラジオドラマ脚本募集［入選］（昭和62年/1987年）第9回NHK大阪放送局 BKラジオドラマ脚本賞［入選］（昭和63年/1988年）「ぼくのスカート」（妻鹿年季子）第22回向田邦子賞（平成15年/2003年）『すいか』《ドラマ脚本》ブランチブックアワード2013［大賞］（平成25年/2013年）『昨夜のカレー、明日のパン』 \|第2位\| 第11回2014年本屋大賞（平成26年/2014年）『昨夜のカレー、明日のパン』 \|候補\| 第27回山本周五郎賞（平成25年/2013年度）『昨夜のカレー、明日のパン』 \|第6位\| 第16回2019年本屋大賞（平成31年/2019年）『さざなみのよる』 \|候補\| 第32回山本周五郎賞（平成30年/2018年度）『カゲロボ』
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『昨夜(ゆうべ)のカレー、明日(あした)のパン』（平成25年/2013年4月・河出書房新社刊）

書誌

平成28年/2016年1月・河出書房新社／河出文庫『昨夜のカレー、明日のパン』所収

山本周五郎賞 第27回候補

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　木皿泉　(62歳)(57歳)
選考委員		評価	行数	評言
石田衣良	54歳	△	28	「人生の機微がほのかに香る塩味の卵ボーロって感じだ。洗練度では候補作中随一じゃないかな。」「でも、義父とヒロインのテツコの同居生活は、消臭剤を撒きまくったみたいに性の匂いがかき消されていて、逆に気味悪いよ。」「奇妙でしゃれているだけでなく、もうすこし人物の厚みがあるとさらによかった。ぼくの好きなタイプの作品で、応援したけど今回は残念でした。」
角田光代	47歳	■	25	「独特の軽妙さが魅力の小説である。」「しかし一方で、その軽やかさと妙味が、作者の都合ととらえることもできてしまう。また、人生は悪くない、世界は思っていたほどこわくない、というようなせりふが幾度か出てくるけれど、この小説のなかではやけに強く響くその言葉をくり返してしまうことで、語り口の軽妙さが徒になって、登場人物たちの人生も軽く思えてきてしまうのが残念に思った。」
佐々木譲	64歳	■	34	「残念ながら本作は、各篇ごとの主人公は設定されるものの、とくに前半四作では視点がしばしば混乱する。前半四作については、かなり辛い点をつけつつ読み進めてしまった。」「一作目とラストとが、とくに響き合うようには対応していない。せっかくの面白い連作となっていながら、このエピソードで終わったことが、ちょっと不思議である。」
白石一文	55歳	■	84	「（引用者注：「わたしをみつけて」「村上海賊の娘」「ミッドナイト・バス」と共に）まだまだ小説の手ごわさ、困難さには手が届いていないという印象が強かった。」「こう書いたら、きっとこう伝わる――という言葉選びだけで何かを書こうとしているのではないかという不安がどの作品からも抜けなかった。」「本来、表現不可能と思われるものを無理にでも表現しようと努力し、そうやって努力して紡ぎ出されたあくまで不全な文章をどうにかして読者の側が読み取ろうと努力する――そうした作家と読者の交渉事を省いてしまうと、小説はどこまでもありきたりで通俗的な読み物に落ちていく。」
唯川恵	59歳	△	43	「一章の語り手であるテツコは二十八歳で、七年前に夫を亡くしてからも、気象予報士の義父と暮らしている。ふたりは同居人とし快適な関係を築いていて、そこに性の匂いはまったくない。」「このふたりの関係性は、他の登場人物すべてに重なる。」「この小説はこれでよいのだと思う。」「そうは言うものの、胸に残るもどかしさは何なのか、改めて考えてみた。もしかしたら、この小説が極めて映像的であったからかもしれない。」
選評出典：『小説新潮』平成26年/2014年7月号

『カゲロボ』（平成31年/2019年3月・新潮社刊）

書誌

令和4年/2022年6月・新潮社／新潮文庫『カゲロボ』

山本周五郎賞 第32回候補

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　木皿泉　(67歳)(62歳)
選考委員		評価	行数	評言
石田衣良	59歳	■	24	「ＳＦというより、ファンタジーやすこし怖い寓話といった雰囲気がある。よかった点はやはりこの空気感だね。」「ぼくはそれがすこしゆるく読めてしまった。カゲロボという素晴らしいアイディアがまったく展開しないんだよ。」
荻原浩	62歳	●	33	「どの短篇も最後の最後にこじんまりしたいい話にまとめてしまうのはなぜだろう。」「人を殺すこと、人に殺されそうになること、病で死ぬこと、それらを文章上だからと、さらりと書きすぎじゃないだろうか。」「人をいっときいい気分にさせるだけの物語は、違うジャンルに任せておけばいい。」「万人受けはしなくても、実売部数は悪くても、世の中に引っ掻き傷を残したり、汚いものの蓋を開けたりするのが、小説を書く意味だと思うのだ。」
角田光代	52歳	■	39	「カゲロボ、という監視ロボットがいるらしい、という都市伝説が九編に共通するキーワードになっている、ということはわかるのだけれど、カゲロボって、じゃあなんなんだろう？　ということが、最後までよくわからない。（引用者中略）そこがわからないので、小説の芯をつかみ損ねた印象が残ってしまった。」「この小説の持つ軽やかさ、着地への跳躍、カゲロボは「何か」と結論を下さないところに、文字通り救われる読者は大勢いると思う。もしかしたら、いじめの現場にいる人たちはとくに。」
佐々木譲	69歳	●	14	「このようなノンセンス作品で、しかも短いものであればあるほど、書き出す前の主題と語りかたの吟味が重要になる。残念ながら本作は、その詰めが不徹底だったように感じられる。また、どの作品にも末尾に登場人物のいわばまとめの述懐、認識があり、いかにも文学作品ふうの言葉で締められているが、それぞれ中身と対応しているとは読めなかった。」
唯川恵	64歳	■	32	「死と無縁の存在を関わらせることで、生を浮かび上がらせる手法も効果的だった。」「けれどもその一方、あまりに巧みに話が展開してゆくので、肝心の登場人物の存在が薄れてしまったように感じた。」「そして小説にとって、特に短編にとってオチはとても重要な要素だが、心温まる話にしようという意識が働き過ぎたのか、これだけ凝った作品なのに、いささか単調な印象が残った。」
選評出典：『小説新潮』令和1年/2019年7月号

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