第169回

第168回第170回

令和5年/2023年上半期 令和5年/2023年7月19日決定発表／『オール讀物』令和5年/2023年9・10月合併号選評掲載

選考委員　 京極夏彦 60歳 浅田次郎 71歳 伊集院静 73歳 角田光代 56歳 林真理子 69歳 宮部みゆき 62歳 桐野夏生 71歳 高村薫 70歳 三浦しをん 46歳 選評総行数　 89 97 131 99 104 155 99 104 131 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 垣根涼介　『極楽征夷大将軍』 1448枚 57歳 評 ○ 15 □ 24 ◎ 39 △ 27 □ 17 △ 22 ○ 32 ○ 17 △ 30 永井紗耶子　『木挽町のあだ討ち』 483枚 46歳 評 ○ 19 □ 20 ◎ 44 ○ 24 ◎ 25 ○ 58 ○ 20 △ 24 ◎ 29 冲方丁　『骨灰』 845枚 46歳 評 ■ 15 ■ 15 ■ 19 ■ 15 ■ 35 ■ 30 ■ 16 ■ 17 ■ 22 高野和明　『踏切の幽霊』 515枚 58歳 評 ■ 16 ■ 12 △ 7 ● 17 ● 25 ■ 30 ■ 15 ● 17 ◎ 34 月村了衛　『香港警察東京分室』 565枚 60歳 評 △ 22 ● 13 ● 20 ■ 22 ● 28 △ 37 ● 16 ■ 19 △ 18                   年齢/枚数の説明   見方・注意点

京極夏彦60歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数89 候補 評価 行数 評言 垣根涼介 57歳 全 ○ 15 「尊氏の人物像の新解釈という側面ばかりが強調されがちではあるが、これは寧ろ尊氏という人物をひとつの装置として設定し、それと向き合う側近二人の差異を利用することで「太平記」を“読み替える”作業なのではないだろうか。大部ではあるが読み足りない気にさせてくれる。」 永井紗耶子 46歳 全 ○ 19 「一人称の“自分語り”だけで短編を成立させる場合、その饒舌さが仇となるケースが多いが、本作はその点を見事に逆手に取っている。」「構造を見る際、一部整合性が保てていない部分はあるものの、それを退けるだけの感興を齎してくれる小説に仕上がっている。」 冲方丁 46歳 全 ■ 15 「所謂ホラー小説として提供されるものと諒解した。」「盛られた料理の美味しさと、用意された器のサイズや意匠が見合っていないように感じられた。極めて残念である。」 高野和明 58歳 全 ■ 16 「丹念に綴られる失われた“生”を辿るジャーナリストの軌跡は、ゴーストストーリーでこそあれホラーに位置づけられるものではないだろう。しかし、そうだとすると、作中で起きる超自然的な現象の幾つかは些か余計に感じられる。」 月村了衛 60歳 全 △ 22 「複数の視点人物がスイッチしていくという手法は時に混乱を招くものだが、著者の筆致はその難を退けている。」「このスタイルを採用したことで作中の時間／空間編集が自在になり、結果、重くなりがちな主題を軽快に提示することに成功している。一方この手法では“小説的”展開は単層化に向かうし、可読性を優先するならキャラクターの心情の掘り下げもし難くなる。」

他の選考委員 浅田次郎 伊集院静 角田光代 林真理子 宮部みゆき 桐野夏生 高村薫 三浦しをん

浅田次郎71歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題好対照の二作　総行数97 候補 評価 行数 評言 垣根涼介 57歳 全 □ 24 「作者は勤勉である。難解な資料を時間をかけてよく読みこんでいる。しかし一方では勤勉に過ぎて、フィクションとしての部分が不足していた。登場人物のみで言うなら、足利尊氏の極楽ぶりこそ新鮮だが、楠木正成と新田義貞の英雄像も、ややデモーニッシュな後醍醐天皇も太平記のままで、小説としての面白味を欠く。」 永井紗耶子 46歳 全 □ 20 「精緻なアラベスクを見るような小説であった。」「江戸時代の話とはいえ「おいしい不幸」をかくも惜し気なく盛りこんだ作者は、よほどの才能の持ち主であろう。それにしてもこのところ、時代物といえば歌舞伎と絵師が多すぎる。」 冲方丁 46歳 全 ■ 15 「大手ゼネコンと土俗的な秘儀。このストーリーにテーマを与え、ていねいに書いたのならどんな傑作になっただろうと悔やまれる。」「おそらくは、（引用者注：作者は）手に入れた宝石の輝きに魅せられて、ストーリーもテーマも不鮮明なまま書き始めてしまうのではあるまいか。」 高野和明 58歳 全 ■ 12 「スマホ、グーグル、監視カメラ、といった無粋な利器がないだけで、これほどストーリーに立体感が生まれる。ただし惜しむらくは、いかにもテレビドラマふうの登場人物が小説を殺していた。」 月村了衛 60歳 全 ● 13 「あらゆる表現方法の中で、動的表現に最も適さないものは「文章」なのだから、私たちはなるべくアクションシーンを回避して物語をなさねばならぬ。むろんそうした場面を待望する読者もいるであろうが、それとて映像の代替物を要求しているに過ぎない。」   「今回の選考会をつきつめれば、外見はまるで異なっても周到に筋立てをなした二作が受賞し、内容の固まらぬまま書き始めてしまった三作が逸したようにも思える。」

他の選考委員 京極夏彦 伊集院静 角田光代 林真理子 宮部みゆき 桐野夏生 高村薫 三浦しをん

伊集院静73歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題時代の象徴　総行数131 候補 評価 行数 評言 垣根涼介 57歳 全 ◎ 39 「垣根氏の作品を読むと、足利尊氏・直義兄弟の姿は、現代に生きる我々に何かを教えてくれる。何を教えているのかと言うと、人間にとって大切なものは、その人の生まれ、素性、才能に左右されないということである。同時に、周囲の差しのべてくれる手がなくては、何事も成し遂げられないということである。これを作品から感じとれるのは、小説の力量そのものであろう。」 永井紗耶子 46歳 全 ◎ 44 「小説には、読む愉しみがある。」「（引用者注：「木挽町のあだ討ち」は）その愉しみを見事に教えてくれる。」「それぞれの目撃談は歌舞伎を模してあるので、余計に華やかになり、同時に虚実が裏に隠れていることを示唆しやすかった。その上、虚実は重ねるごとに、作者の決め事への読者の許容をうながす。」 冲方丁 46歳 全 ■ 19 「全体の構成もストーリーも安易に感じた。この人は小説の価値観を私とはまったく違う世界に置いておられるように思えた。そのことが悪いとも弱点だとも私は一度も思わなかった。ただストーリーとして少し都合が良過ぎるのではと思った。」 高野和明 58歳 全 △ 7 「私が幽霊やオカルトを好まないところがあり、作者の意図の及ぶことが到底できなかったので、作品の佳し悪しの言及は避けたい。」 月村了衛 60歳 全 ● 20 「最初、タイトルを見て、これが小説の題名でいいのか？　と疑問を抱いた。」「どこにも、復帰以前の香港の良さ、羨むほどのゆたかなものを持つ都市の魅力が描かれていなかった。香港の抒情が一行も語られていないのは、テーマとする場所への作者の情熱の欠落である。」   「今回の候補作五作品を読んで、作家はさまざまに手をつくして作品を仕上げて行くものなのだ、とあらためて小説の難しさを感じた。」「今回最終候補に残った作品の中で、二篇の時代小説が私には印象に残った。――現代社会が時代小説を必要としているのではなかろうか？　と思った。」

他の選考委員 京極夏彦 浅田次郎 角田光代 林真理子 宮部みゆき 桐野夏生 高村薫 三浦しをん

角田光代56歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数99 候補 評価 行数 評言 垣根涼介 57歳 全 △ 27 「大長編であるがメリハリが少なく、高国は兄の考えのなさに驚きあきれ続けるそのくり返しに、読むのにはずいぶん難儀した。しかし「世間そのもの」を無力な高氏（尊氏）に背負わせ、この動乱の時代を世間こそが作っている、と解釈させる点は新鮮に思えた。」 永井紗耶子 46歳 全 ○ 24 「設定、構成がみごとである。」「黒かった駒がみごとに白くなっていくようなこの終幕を読むと、ままならない人生への強くうつくしい肯定を感じる。芝居、ひいてはフィクションが、重苦しい現実から私たちを解き放つ瞬間がある。それがあざやかに描けている。」 冲方丁 46歳 全 ■ 15 「ことごとくこちらの予想を裏切ってくる第一章の不気味さ、おそろしさに惹かれたのだが、祟られた松永がホームレスに声を掛けていく第三章から単調になり、説得力が欠けてしまったように思う。」 高野和明 58歳 全 ● 17 「時代設定が、なぜ一九九四年なのかが私にはわからず、政治家野口進はなぜ幽霊となった女を殺さねばならなかったのかもうまく理解できなかった。」 月村了衛 60歳 全 ■ 22 「作者ともかくアクションシーンを描くのがうまく、読みながら「見て」いるような興奮も覚えた。しかしながら二〇二〇年に国家安全維持法が施行され、二〇四七年問題を抱えた香港について、あるいは中国について、日本警察側は他人ごとにすぎないのか、また香港警察側はどのように向き合っているのかがわからず、だとすると、なぜそもそも「香港」なのか、という根本的なことがわからなくなってくる。」

他の選考委員 京極夏彦 浅田次郎 伊集院静 林真理子 宮部みゆき 桐野夏生 高村薫 三浦しをん

林真理子69歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数104 候補 評価 行数 評言 垣根涼介 57歳 全 □ 17 「歴史上、最も人気がない（と私は考える）南北朝を、よくもまあ飽きさせずに読ませるものだと感嘆した。」「しかし何かことが起こるたびに、弟や側近が呆れ感心するパターンがややしつこいのと、天下をとった後がかなり退屈するという点において、私の中では（引用者注：「木挽町のあだ討ち」に次いで）次点となった。」 永井紗耶子 46歳 全 ◎ 25 「私は途中までこの仕掛けにまるで気づかなかった。」「奇想天外なアイデアを、手の込んだ文章が支えている。芝居者は芝居者らしく、元さむらいはそれらしく、語り口調を成立させているのがすごい。父親が死んだ経過がややちゃちな印象を受けたが、それ以外は精巧にきっちりと組み立てられた作品である。」 冲方丁 46歳 全 ■ 35 「じわりじわりと恐怖を引きたてていく筆力はさすがで、主人公が次第に狂気に染められていく過程も面白い。しかし最後が、ややドタバタに終わってしまい残念だ。」「他の委員から、「彼に誘い出された人たちが、何人も地下に眠っているようだが、それは殺人に関係しないのか」という指摘があったが私も同感である。」 高野和明 58歳 全 ● 25 「推理とホラーがうまく噛み合わなかったような気がする。登場人物たちの描き方もややステレオタイプである。」「が、冒頭の電車が走る描写は魅力的でついひきこまれてしまう。」 月村了衛 60歳 全 ● 28 「アクションシーンが多過ぎ、やや荒っぽい印象を受けた。この小説の肝心なところは、香港と日本の警察官が入り乱れる中、民主活動家の女性をどう探し出すのか、見つかった場合、どういう処遇にするのか、である。」「このラストでは中途半端になってしまう。」   「直木賞はエンターテイメントの小説に贈られるものであるから、アクション・ホラーでも全く問題ないのであるが、それにどれだけの魅力があるか、ということが討議される。」

他の選考委員 京極夏彦 浅田次郎 伊集院静 角田光代 宮部みゆき 桐野夏生 高村薫 三浦しをん

宮部みゆき62歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題経緯(ルビ：ゆくたて)の楽しみ　総行数155 候補 評価 行数 評言 垣根涼介 57歳 全 △ 22 「お勉強本なので、私は読み進むのにかなり苦労してしまいましたが、たいへんな力作であることに間違いはありません。垣根さんの誠実なお仕事ぶりが、行間から伝わってくる大著でした。」「ちょっとだけ欲を言うならば、（引用者中略）尊氏が、高師直も直義も没してしまったあと、一人になってどんな生き方をしたのか。「それからの尊氏」も、私は読みたいと思いました。」 永井紗耶子 46歳 全 ○ 58 「私だけでなく、すれっからしのミステリー・ファンなら、この「あだ討ち」の仕掛けと真相はすぐ見当がつきますが、それで全然かまわない。なぜなら、この作品の読みどころは、事件のからくりと真の動機と真相を「どのように、どんなキャラクターを持つ誰の語りによって、どの順番で明かしてゆくか」というプロセスのなかにこそあるからです。」「「江戸市井ものにミステリーの技法を持ち込む」ことで、江戸人情小説の新たな可能性を示しました。」 冲方丁 46歳 全 ■ 30 「（引用者注：「踏切の幽霊」と共に）直球のホラー小説です。（引用者中略）読んでいるあいだはストーリーに引っ張られ、完全に没入していられますが、読後に現実に返ったとき、自分の生活感に引きつけて考えると、腑に落ちないところが出てきました。」 高野和明 58歳 全 ■ 30 「（引用者注：「骨灰」と共に）直球のホラー小説です。（引用者中略）読んでいるあいだはストーリーに引っ張られ、完全に没入していられますが、読後に現実に返ったとき、自分の生活感に引きつけて考えると、腑に落ちないところが出てきました。」 月村了衛 60歳 全 △ 37 「今回の候補作のなかでは唯一、今、私たちが生きている現代社会の問題とリアルに繋がっている作品でした。月村さんがこういうライトな警察ものを書くのかと、個人的には楽しい驚きを味わいましたし、毎度のことながらアクションシーンの描写が素晴らしい。」   「ここ数年、二作同時受賞は珍しくなくなりましたが、その二作が一次投票でも決選投票でもまったく同点だったというケースは、初めて経験しました。」

他の選考委員 京極夏彦 浅田次郎 伊集院静 角田光代 林真理子 桐野夏生 高村薫 三浦しをん

桐野夏生71歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数99 候補 評価 行数 評言 垣根涼介 57歳 全 ○ 32 「思った以上に時間がかかったが、大変面白く読ませて頂いた。」「愚直と言っては語弊がある。しかし、直義と高師直の二視点による構成は、歴史を丁寧になぞる分、山はなく平板にも感じられる。それでも書ききったのは、自身の「太平記」を書こうという作者の強い意志なのだろう。」 永井紗耶子 46歳 全 ○ 20 「凝りに凝ったロンド形式で、作者の才気が伝わってくる。」「しかしながら、喋る人間がいれば、聞き手もいるわけで、その聞き手が他の人物たちに比べて弱く感じられる。そして、もっとも話を聞きたい人物の「場」がないのは、謎の存在を知られたくないからだろう。それが一点の曇りのように感じられた。」 冲方丁 46歳 全 ■ 16 「サラリーマンの主人公が業務で、渋谷駅前の地下深く入ってゆく冒頭のシーンはとてもよい。」「骨灰という発想は怖いが、マンションにまで積もると、主人公の悪夢の中にいるような気になる。果たして現実なのか妄想なのか、不明瞭なまま終わっている。」 高野和明 58歳 全 ■ 15 「小田急線の踏切のシーンから始まる出だしに引き込まれた。また、松田という主人公の設定がいい。」「しかし、女性の霊に惹かれてゆく松田の、いつしか恐怖を忘れてゆく様への言及がもっとあってもいいのではと思えた。」 月村了衛 60歳 全 ● 16 「シリーズ化を目指しているのだろうか。」「設定の説明だけでなく、人物の外見や服装などの描写がほとんどない。イキのいいところもあるが、あまりに唐突、また動画的で想像力が追いついていかない。」

他の選考委員 京極夏彦 浅田次郎 伊集院静 角田光代 林真理子 宮部みゆき 高村薫 三浦しをん

高村薫70歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数104 候補 評価 行数 評言 垣根涼介 57歳 全 ○ 17 「垣根氏は不人気な足利尊氏・直義を軸にして太平記を読み替える。その成否は微妙だが、太平記という長大な軍記を凡百の時代小説を解体する代わりに「太平記読み」という伝統に新たに連なる選択をした作者の意欲と慧眼に、評者は喝采を送りたい。」 永井紗耶子 46歳 全 △ 24 「饒舌な語りは十分に芝居がかっていて読者を酔わせるが、肝心のあだ討ちの仔細が故意にぼかされていることの不全感は如何ともしがたい。」「あだ討ち譚に伴う残酷な人間模様を平板な人情噺にした軽さは、生身の人間臭がないという意味で、エンターテインメントの極致なのかもしれない。」 冲方丁 46歳 全 ■ 17 「主人公が地下に渦巻く怨霊に惹かれた末に起こる怪奇現象の数々も既視感が強い。ホラーに理屈は不要だが、怖がらせるための仕掛けが見えすぎて恐怖が後半息切れするのはいただけない。」 高野和明 58歳 全 ● 17 「幽霊の80年代ふうの湿っぽさには、場末の二番館で昔の映画を見ているような違和感を覚えた。しかも、幽霊となった女の謎をはじめ、売春組織と国会議員の汚職といったベタな社会派のネタ、それを追う新聞記者と刑事という人物設定もあまりに古い。」 月村了衛 60歳 全 ■ 19 「近年の香港情勢を素材にしながらもその世界観はひと昔前の香港映画であり、銃器や戦闘のスタイルが今っぽいに過ぎない。映像作品と見紛うスピード感と場面展開はまさしくエンターテインメントではあるが、一方でこれは、従来型の小説が書き手にとっても魅力を失っていることの証左なのだろう。」   「各々ジャンルは違っても、今期の候補作ではエンターテインメントにおける男性作家たちの保守性が目立ったが、それにしても候補五作のうち二作が幽霊と怪奇というのは、いまやエンターテインメント全般が書きにくい時代になったことの表れだろうか。」

他の選考委員 京極夏彦 浅田次郎 伊集院静 角田光代 林真理子 宮部みゆき 桐野夏生 三浦しをん

三浦しをん46歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数131 候補 評価 行数 評言 垣根涼介 57歳 全 △ 30 「高師直と足利直義が律儀にツッコミを入れつつ尊氏を支えずにはいられないさまもおかしくて、同情しながら随所で噴きだした。私がやや気になったのは、師直と直義以外が「さすが殿！」一辺倒で、同じタイミングで同じ反応しか示していないように感じられたことだ。」「史実にきちんと基づきながら、揺るぎなく「新たな尊氏」を創出した作者の手腕に最終的には圧倒された。」 永井紗耶子 46歳 全 ◎ 29 「（引用者注：「踏切の幽霊」と共に）推した。」「女性や弱い立場に置かれた人々への眼差しも公正で、江戸の香りを湛えつつ、「いま」時代小説を楽しむ読者にも誠実に向きあった作品だ。芝居をはじめとする創作物が、どれだけ私たちの心を支え、励まし、苦しいなかにあっても希望の光をもたらしてくれるものなのかを、押しつけがましくない形で、本作自体が証明していると思う。」 冲方丁 46歳 全 ■ 22 「繰りだされる怪異の数々も本当に怖くて、「もうやめてくれ」と内心で叫びながらぐいぐい拝読した。しかしどうしても引っかかったのが、いくら主人公が尋常ではない状態だったとはいえ、ホームレスのひとたちを十数人も「穴」に導いたことへのおとがめはなしなのか、ということだ。」 高野和明 58歳 全 ◎ 34 「（引用者注：「木挽町のあだ討ち」と共に）推した。」「生者と死者の境界、魂とはなんなのかを問う真摯な展開に、強く胸打たれた。」「生者と死者、他者と自己のどうしようもない断絶と、断絶を乗り越えてつながりたい、理解したいと希求する主人公の姿。その冷徹とロマンティシズムを、鉄絽に象徴させて描ききったのが本当に素晴らしいと感じた。」 月村了衛 60歳 全 △ 18 「香港の現状や自由と民主主義への作者の熱い思いが迫ってきて、拝読しながらこちらの胸も熱くなった。」「本作はたぶんシリーズ化されるのだろうと推測され、特殊共助係メンバーの顔見世的側面があるため、一番には推さなかったが、今後の展開もものすごく楽しみだ。」

他の選考委員 京極夏彦 浅田次郎 伊集院静 角田光代 林真理子 宮部みゆき 桐野夏生 高村薫

垣根涼介57歳×各選考委員　 『極楽征夷大将軍』 長篇 1448枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 京極夏彦 60歳 全 ○ 15 「尊氏の人物像の新解釈という側面ばかりが強調されがちではあるが、これは寧ろ尊氏という人物をひとつの装置として設定し、それと向き合う側近二人の差異を利用することで「太平記」を“読み替える”作業なのではないだろうか。大部ではあるが読み足りない気にさせてくれる。」 浅田次郎 71歳 全 □ 24 「作者は勤勉である。難解な資料を時間をかけてよく読みこんでいる。しかし一方では勤勉に過ぎて、フィクションとしての部分が不足していた。登場人物のみで言うなら、足利尊氏の極楽ぶりこそ新鮮だが、楠木正成と新田義貞の英雄像も、ややデモーニッシュな後醍醐天皇も太平記のままで、小説としての面白味を欠く。」 伊集院静 73歳 全 ◎ 39 「垣根氏の作品を読むと、足利尊氏・直義兄弟の姿は、現代に生きる我々に何かを教えてくれる。何を教えているのかと言うと、人間にとって大切なものは、その人の生まれ、素性、才能に左右されないということである。同時に、周囲の差しのべてくれる手がなくては、何事も成し遂げられないということである。これを作品から感じとれるのは、小説の力量そのものであろう。」 角田光代 56歳 全 △ 27 「大長編であるがメリハリが少なく、高国は兄の考えのなさに驚きあきれ続けるそのくり返しに、読むのにはずいぶん難儀した。しかし「世間そのもの」を無力な高氏（尊氏）に背負わせ、この動乱の時代を世間こそが作っている、と解釈させる点は新鮮に思えた。」 林真理子 69歳 全 □ 17 「歴史上、最も人気がない（と私は考える）南北朝を、よくもまあ飽きさせずに読ませるものだと感嘆した。」「しかし何かことが起こるたびに、弟や側近が呆れ感心するパターンがややしつこいのと、天下をとった後がかなり退屈するという点において、私の中では（引用者注：「木挽町のあだ討ち」に次いで）次点となった。」 宮部みゆき 62歳 全 △ 22 「お勉強本なので、私は読み進むのにかなり苦労してしまいましたが、たいへんな力作であることに間違いはありません。垣根さんの誠実なお仕事ぶりが、行間から伝わってくる大著でした。」「ちょっとだけ欲を言うならば、（引用者中略）尊氏が、高師直も直義も没してしまったあと、一人になってどんな生き方をしたのか。「それからの尊氏」も、私は読みたいと思いました。」 桐野夏生 71歳 全 ○ 32 「思った以上に時間がかかったが、大変面白く読ませて頂いた。」「愚直と言っては語弊がある。しかし、直義と高師直の二視点による構成は、歴史を丁寧になぞる分、山はなく平板にも感じられる。それでも書ききったのは、自身の「太平記」を書こうという作者の強い意志なのだろう。」 高村薫 70歳 全 ○ 17 「垣根氏は不人気な足利尊氏・直義を軸にして太平記を読み替える。その成否は微妙だが、太平記という長大な軍記を凡百の時代小説を解体する代わりに「太平記読み」という伝統に新たに連なる選択をした作者の意欲と慧眼に、評者は喝采を送りたい。」 三浦しをん 46歳 全 △ 30 「高師直と足利直義が律儀にツッコミを入れつつ尊氏を支えずにはいられないさまもおかしくて、同情しながら随所で噴きだした。私がやや気になったのは、師直と直義以外が「さすが殿！」一辺倒で、同じタイミングで同じ反応しか示していないように感じられたことだ。」「史実にきちんと基づきながら、揺るぎなく「新たな尊氏」を創出した作者の手腕に最終的には圧倒された。」

他の候補作 永井紗耶子 『木挽町のあだ討ち』 冲方丁 『骨灰』 高野和明 『踏切の幽霊』 月村了衛 『香港警察東京分室』

永井紗耶子46歳×各選考委員　 『木挽町のあだ討ち』 長篇 483枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 京極夏彦 60歳 全 ○ 19 「一人称の“自分語り”だけで短編を成立させる場合、その饒舌さが仇となるケースが多いが、本作はその点を見事に逆手に取っている。」「構造を見る際、一部整合性が保てていない部分はあるものの、それを退けるだけの感興を齎してくれる小説に仕上がっている。」 浅田次郎 71歳 全 □ 20 「精緻なアラベスクを見るような小説であった。」「江戸時代の話とはいえ「おいしい不幸」をかくも惜し気なく盛りこんだ作者は、よほどの才能の持ち主であろう。それにしてもこのところ、時代物といえば歌舞伎と絵師が多すぎる。」 伊集院静 73歳 全 ◎ 44 「小説には、読む愉しみがある。」「（引用者注：「木挽町のあだ討ち」は）その愉しみを見事に教えてくれる。」「それぞれの目撃談は歌舞伎を模してあるので、余計に華やかになり、同時に虚実が裏に隠れていることを示唆しやすかった。その上、虚実は重ねるごとに、作者の決め事への読者の許容をうながす。」 角田光代 56歳 全 ○ 24 「設定、構成がみごとである。」「黒かった駒がみごとに白くなっていくようなこの終幕を読むと、ままならない人生への強くうつくしい肯定を感じる。芝居、ひいてはフィクションが、重苦しい現実から私たちを解き放つ瞬間がある。それがあざやかに描けている。」 林真理子 69歳 全 ◎ 25 「私は途中までこの仕掛けにまるで気づかなかった。」「奇想天外なアイデアを、手の込んだ文章が支えている。芝居者は芝居者らしく、元さむらいはそれらしく、語り口調を成立させているのがすごい。父親が死んだ経過がややちゃちな印象を受けたが、それ以外は精巧にきっちりと組み立てられた作品である。」 宮部みゆき 62歳 全 ○ 58 「私だけでなく、すれっからしのミステリー・ファンなら、この「あだ討ち」の仕掛けと真相はすぐ見当がつきますが、それで全然かまわない。なぜなら、この作品の読みどころは、事件のからくりと真の動機と真相を「どのように、どんなキャラクターを持つ誰の語りによって、どの順番で明かしてゆくか」というプロセスのなかにこそあるからです。」「「江戸市井ものにミステリーの技法を持ち込む」ことで、江戸人情小説の新たな可能性を示しました。」 桐野夏生 71歳 全 ○ 20 「凝りに凝ったロンド形式で、作者の才気が伝わってくる。」「しかしながら、喋る人間がいれば、聞き手もいるわけで、その聞き手が他の人物たちに比べて弱く感じられる。そして、もっとも話を聞きたい人物の「場」がないのは、謎の存在を知られたくないからだろう。それが一点の曇りのように感じられた。」 高村薫 70歳 全 △ 24 「饒舌な語りは十分に芝居がかっていて読者を酔わせるが、肝心のあだ討ちの仔細が故意にぼかされていることの不全感は如何ともしがたい。」「あだ討ち譚に伴う残酷な人間模様を平板な人情噺にした軽さは、生身の人間臭がないという意味で、エンターテインメントの極致なのかもしれない。」 三浦しをん 46歳 全 ◎ 29 「（引用者注：「踏切の幽霊」と共に）推した。」「女性や弱い立場に置かれた人々への眼差しも公正で、江戸の香りを湛えつつ、「いま」時代小説を楽しむ読者にも誠実に向きあった作品だ。芝居をはじめとする創作物が、どれだけ私たちの心を支え、励まし、苦しいなかにあっても希望の光をもたらしてくれるものなのかを、押しつけがましくない形で、本作自体が証明していると思う。」

他の候補作 垣根涼介 『極楽征夷大将軍』 冲方丁 『骨灰』 高野和明 『踏切の幽霊』 月村了衛 『香港警察東京分室』

冲方丁46歳×各選考委員　 『骨灰』 長篇 845枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 京極夏彦 60歳 全 ■ 15 「所謂ホラー小説として提供されるものと諒解した。」「盛られた料理の美味しさと、用意された器のサイズや意匠が見合っていないように感じられた。極めて残念である。」 浅田次郎 71歳 全 ■ 15 「大手ゼネコンと土俗的な秘儀。このストーリーにテーマを与え、ていねいに書いたのならどんな傑作になっただろうと悔やまれる。」「おそらくは、（引用者注：作者は）手に入れた宝石の輝きに魅せられて、ストーリーもテーマも不鮮明なまま書き始めてしまうのではあるまいか。」 伊集院静 73歳 全 ■ 19 「全体の構成もストーリーも安易に感じた。この人は小説の価値観を私とはまったく違う世界に置いておられるように思えた。そのことが悪いとも弱点だとも私は一度も思わなかった。ただストーリーとして少し都合が良過ぎるのではと思った。」 角田光代 56歳 全 ■ 15 「ことごとくこちらの予想を裏切ってくる第一章の不気味さ、おそろしさに惹かれたのだが、祟られた松永がホームレスに声を掛けていく第三章から単調になり、説得力が欠けてしまったように思う。」 林真理子 69歳 全 ■ 35 「じわりじわりと恐怖を引きたてていく筆力はさすがで、主人公が次第に狂気に染められていく過程も面白い。しかし最後が、ややドタバタに終わってしまい残念だ。」「他の委員から、「彼に誘い出された人たちが、何人も地下に眠っているようだが、それは殺人に関係しないのか」という指摘があったが私も同感である。」 宮部みゆき 62歳 全 ■ 30 「（引用者注：「踏切の幽霊」と共に）直球のホラー小説です。（引用者中略）読んでいるあいだはストーリーに引っ張られ、完全に没入していられますが、読後に現実に返ったとき、自分の生活感に引きつけて考えると、腑に落ちないところが出てきました。」 桐野夏生 71歳 全 ■ 16 「サラリーマンの主人公が業務で、渋谷駅前の地下深く入ってゆく冒頭のシーンはとてもよい。」「骨灰という発想は怖いが、マンションにまで積もると、主人公の悪夢の中にいるような気になる。果たして現実なのか妄想なのか、不明瞭なまま終わっている。」 高村薫 70歳 全 ■ 17 「主人公が地下に渦巻く怨霊に惹かれた末に起こる怪奇現象の数々も既視感が強い。ホラーに理屈は不要だが、怖がらせるための仕掛けが見えすぎて恐怖が後半息切れするのはいただけない。」 三浦しをん 46歳 全 ■ 22 「繰りだされる怪異の数々も本当に怖くて、「もうやめてくれ」と内心で叫びながらぐいぐい拝読した。しかしどうしても引っかかったのが、いくら主人公が尋常ではない状態だったとはいえ、ホームレスのひとたちを十数人も「穴」に導いたことへのおとがめはなしなのか、ということだ。」

他の候補作 垣根涼介 『極楽征夷大将軍』 永井紗耶子 『木挽町のあだ討ち』 高野和明 『踏切の幽霊』 月村了衛 『香港警察東京分室』

高野和明58歳×各選考委員　 『踏切の幽霊』 長篇 515枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 京極夏彦 60歳 全 ■ 16 「丹念に綴られる失われた“生”を辿るジャーナリストの軌跡は、ゴーストストーリーでこそあれホラーに位置づけられるものではないだろう。しかし、そうだとすると、作中で起きる超自然的な現象の幾つかは些か余計に感じられる。」 浅田次郎 71歳 全 ■ 12 「スマホ、グーグル、監視カメラ、といった無粋な利器がないだけで、これほどストーリーに立体感が生まれる。ただし惜しむらくは、いかにもテレビドラマふうの登場人物が小説を殺していた。」 伊集院静 73歳 全 △ 7 「私が幽霊やオカルトを好まないところがあり、作者の意図の及ぶことが到底できなかったので、作品の佳し悪しの言及は避けたい。」 角田光代 56歳 全 ● 17 「時代設定が、なぜ一九九四年なのかが私にはわからず、政治家野口進はなぜ幽霊となった女を殺さねばならなかったのかもうまく理解できなかった。」 林真理子 69歳 全 ● 25 「推理とホラーがうまく噛み合わなかったような気がする。登場人物たちの描き方もややステレオタイプである。」「が、冒頭の電車が走る描写は魅力的でついひきこまれてしまう。」 宮部みゆき 62歳 全 ■ 30 「（引用者注：「骨灰」と共に）直球のホラー小説です。（引用者中略）読んでいるあいだはストーリーに引っ張られ、完全に没入していられますが、読後に現実に返ったとき、自分の生活感に引きつけて考えると、腑に落ちないところが出てきました。」 桐野夏生 71歳 全 ■ 15 「小田急線の踏切のシーンから始まる出だしに引き込まれた。また、松田という主人公の設定がいい。」「しかし、女性の霊に惹かれてゆく松田の、いつしか恐怖を忘れてゆく様への言及がもっとあってもいいのではと思えた。」 高村薫 70歳 全 ● 17 「幽霊の80年代ふうの湿っぽさには、場末の二番館で昔の映画を見ているような違和感を覚えた。しかも、幽霊となった女の謎をはじめ、売春組織と国会議員の汚職といったベタな社会派のネタ、それを追う新聞記者と刑事という人物設定もあまりに古い。」 三浦しをん 46歳 全 ◎ 34 「（引用者注：「木挽町のあだ討ち」と共に）推した。」「生者と死者の境界、魂とはなんなのかを問う真摯な展開に、強く胸打たれた。」「生者と死者、他者と自己のどうしようもない断絶と、断絶を乗り越えてつながりたい、理解したいと希求する主人公の姿。その冷徹とロマンティシズムを、鉄絽に象徴させて描ききったのが本当に素晴らしいと感じた。」

他の候補作 垣根涼介 『極楽征夷大将軍』 永井紗耶子 『木挽町のあだ討ち』 冲方丁 『骨灰』 月村了衛 『香港警察東京分室』

月村了衛60歳×各選考委員　 『香港警察東京分室』 長篇 565枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 京極夏彦 60歳 全 △ 22 「複数の視点人物がスイッチしていくという手法は時に混乱を招くものだが、著者の筆致はその難を退けている。」「このスタイルを採用したことで作中の時間／空間編集が自在になり、結果、重くなりがちな主題を軽快に提示することに成功している。一方この手法では“小説的”展開は単層化に向かうし、可読性を優先するならキャラクターの心情の掘り下げもし難くなる。」 浅田次郎 71歳 全 ● 13 「あらゆる表現方法の中で、動的表現に最も適さないものは「文章」なのだから、私たちはなるべくアクションシーンを回避して物語をなさねばならぬ。むろんそうした場面を待望する読者もいるであろうが、それとて映像の代替物を要求しているに過ぎない。」 伊集院静 73歳 全 ● 20 「最初、タイトルを見て、これが小説の題名でいいのか？　と疑問を抱いた。」「どこにも、復帰以前の香港の良さ、羨むほどのゆたかなものを持つ都市の魅力が描かれていなかった。香港の抒情が一行も語られていないのは、テーマとする場所への作者の情熱の欠落である。」 角田光代 56歳 全 ■ 22 「作者ともかくアクションシーンを描くのがうまく、読みながら「見て」いるような興奮も覚えた。しかしながら二〇二〇年に国家安全維持法が施行され、二〇四七年問題を抱えた香港について、あるいは中国について、日本警察側は他人ごとにすぎないのか、また香港警察側はどのように向き合っているのかがわからず、だとすると、なぜそもそも「香港」なのか、という根本的なことがわからなくなってくる。」 林真理子 69歳 全 ● 28 「アクションシーンが多過ぎ、やや荒っぽい印象を受けた。この小説の肝心なところは、香港と日本の警察官が入り乱れる中、民主活動家の女性をどう探し出すのか、見つかった場合、どういう処遇にするのか、である。」「このラストでは中途半端になってしまう。」 宮部みゆき 62歳 全 △ 37 「今回の候補作のなかでは唯一、今、私たちが生きている現代社会の問題とリアルに繋がっている作品でした。月村さんがこういうライトな警察ものを書くのかと、個人的には楽しい驚きを味わいましたし、毎度のことながらアクションシーンの描写が素晴らしい。」 桐野夏生 71歳 全 ● 16 「シリーズ化を目指しているのだろうか。」「設定の説明だけでなく、人物の外見や服装などの描写がほとんどない。イキのいいところもあるが、あまりに唐突、また動画的で想像力が追いついていかない。」 高村薫 70歳 全 ■ 19 「近年の香港情勢を素材にしながらもその世界観はひと昔前の香港映画であり、銃器や戦闘のスタイルが今っぽいに過ぎない。映像作品と見紛うスピード感と場面展開はまさしくエンターテインメントではあるが、一方でこれは、従来型の小説が書き手にとっても魅力を失っていることの証左なのだろう。」 三浦しをん 46歳 全 △ 18 「香港の現状や自由と民主主義への作者の熱い思いが迫ってきて、拝読しながらこちらの胸も熱くなった。」「本作はたぶんシリーズ化されるのだろうと推測され、特殊共助係メンバーの顔見世的側面があるため、一番には推さなかったが、今後の展開もものすごく楽しみだ。」

他の候補作 垣根涼介 『極楽征夷大将軍』 永井紗耶子 『木挽町のあだ討ち』 冲方丁 『骨灰』 高野和明 『踏切の幽霊』