生没年月日【注】 | 昭和51年/1976年9月23日~ | |
在任期間 | 第163回~(通算4.5年・9回) | |
在任年齢 | 43歳9ヶ月~ | |
経歴 | 東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。古本屋でのアルバイト後、インターネット上で読書エッセイの連載を始める。平成12年/2000年に『格闘する者に○』で作家デビュー。 | |
受賞歴・候補歴 |
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直木賞候補歴 | 第133回候補 『むかしのはなし』(平成17年/2005年2月・幻冬舎刊) 第135回受賞 『まほろ駅前多田便利軒』(平成18年/2006年3月・文藝春秋刊) |
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サイト内リンク | ▼小研究-記録(年少受賞) |
下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。
選考委員 三浦しをん 43歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
伊吹有喜 | 51歳 |
◎ | 22 | 「(引用者注:「じんかん」とともに)推した。」「視点の交代に当初は若干の違和感を覚えたが、美緒の父方と母方、双方の三世代の物語なのだと徐々にわかってきて、納得した。ホームスパンに触れてみたいなと、興味と関心をかきたてられるのも、本作が魅力的だからだろう。」 |
今村翔吾 | 36歳 |
◎ | 25 | 「(引用者注:「雲を紡ぐ」とともに)推した。」「時代小説の形を採りながら、真の民主主義とはなんなのかを問いかける試みも、敗れていったひと、弱い立場のひとにひたすら寄り添い、かれらの声なき声をよみがえらせようという作者の気概と気迫も、素晴らしかった。少々気になるのは、日夏が「幻想の運動部マネージャー(=男性を励ますことしか言わない)」みたいで、やや類型的すぎるかなという点だ。」 |
55歳 |
□ | 24 | 「受賞にもちろん異論はない。「犬とは卑怯な……!」と思うも、登場人物全員に絶妙な体臭と存在感があり、随所でまんまと涙した。」「最終話で示唆されるとおり、未だ語られぬ多聞の冒険が本作の背後にひそんでいるはずで、やはり豊饒の小説だと感じた。」 | |
選評出典:『オール讀物』令和2年/2020年9・10月合併号 |
選考委員 三浦しをん 44歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
伊与原新 | 48歳 |
◎ | 24 | 「推した。」「社会問題もさりげなく射程に収めつつ、詩情にあふれた端正な文章で紡ぎだされる、うつくしいイメージの数々が本当に素晴らしい。」「生きづらいひと、さびしいひとにそっと寄り添い、美とユーモアで未知の世界、新しい世界へと想像力を羽ばたかせる力に満ちた、科学と創作物の最良かつ最高の融合の形が本作にはあると確信する。」 |
56歳 |
□ | 20 | 「一番には推さなかったのは、手堅いつくりであるがゆえにやや地味で、時代小説としての新味に欠けるかなと思ったためだ。」「新味の点でも「閨仏」のおかしさ、切なさは斬新以外のなにものでもないと言え、すべての話が収斂していく「灰の男」とともに極上の短編であるのはまちがいなく、決選投票の結果に心から賛同した。」 | |
選評出典:『オール讀物』令和3年/2021年3・4月合併号 |
選考委員 三浦しをん 44歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
43歳 |
◎ | 46 | 「(引用者注:「スモールワールズ」と共に)推した。」「圧倒的な傑作だ。」「私は小説に絶対に「希望」が必要だとは微塵も思わない。しかし世界に満ちる暴力性の問題を徹底追求する本作は、暴力と理不尽を越える希望をも、ちゃんと提示してくれているのだ。硬質な美を湛える文章が紡ぎだす静謐な多摩川の情景を、コシモが選び取った道を、よく見てほしい。これがまっとうな倫理と希望でないなら、なんなのだ。」 | |
一穂ミチ | 43歳 |
◎ | 39 | 「(引用者注:「テスカトリポカ」と共に)推した。」「各話がさりげなくつながっている短編集で、そのさりげなさがうまいし、話ごとのテイストのちがいと完成度の高さが素晴らしいと感じた。」「タイトルどおり、小さくささやかかもしれないが、しかしいま、このときを、つらさや悲しみを抱えながらも笑ったり怒ったりして精一杯生きている「私たち」の姿が、こんなにも鮮やかに小説として刻印されるとはと、脱帽するほかなかった。」 |
43歳 |
△ | 19 | 「ドラマが盛りあがりそうなところ(たとえば主人公の離婚など)が具体的に描かれぬまま年代が変わってしまうので、ちょっと登場人物に思い入れを抱きにくく堅実すぎるかなと感じた。だが、明治の美人画と江戸の女性画のちがいや、女性絵師の扱いの不当さなど、はじめて知ることが多く、作者がなぜ河鍋暁翠(とよ)を主人公にしたのか、思いが十二分に伝わってきた。」 | |
選評出典:『オール讀物』令和3年/2021年9・10月合併号 |
選考委員 三浦しをん 45歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
逢坂冬馬 | 36歳 |
◎ | 56 | 「推した。」「戦争は女の顔はもちろんのこと、男を含めたあらゆる性別の顔もしておらず、つまり人間の顔をしていないのだという事実を物語ろうとする、その志の高さに感服したからだ。」「本作がなぜ独ソ戦を主題にしているのかといえば、女性がソ連軍兵士として実戦に参加した現実があるからで、彼女たちの姿を描くことを通し、現代の日本および世界に存在する社会の問題点をも「撃て」ると作者は確信したからだろう。」 |
37歳 |
□ | 48 | 「自分も籠城戦に参加しているかのように、手に汗握ってその時代の息吹を感じることができた。」「匡介と彦九郎が戦いを終えて到達する結論が(ネタバレなうえに要約です)、「楯と矛、どっちも必要」というのは、それはそうかもしれないが、「核の傘」理論への回答としては小説的ダイナミズムにやや欠けるかなと若干肩透かしだった。」「だが、作中に充満する情熱に比すれば、そんな細かいことはどうでもいいとも言える。」 | |
43歳 |
□ | 48 | 「降りかかる謎の設定も籠城戦の進展に合わせてさまざまに趣向が凝らされ、しかも謎解きが端正。」「すべてが静かに霧に沈んだ心象風景のなかに、本作の肝(だと私は思う)、「信仰とはなんなのか」という問いかけが黒々と蠢いている。」「ただ、登場人物のその後が羅列されるのが、少し無念だった。」 | |
選評出典:『オール讀物』令和4年/2022年3・4月合併号 |
選考委員 三浦しをん 45歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
呉勝浩 | 40歳 |
◎ | 26 | 「(引用者注:「女人入眼」と共に)推した。」「取調室で展開される青臭い会話劇を楽しめるかどうかが読者の評価の分かれ目かなと感じたが、私はこういう青臭さがきらいではないので、ぐいぐい拝読した。」「どんでん返しや、タゴサクが出す爆弾にまつわるヒントと解答も、すごくよく練られていて、一級のエンタメ小説として堪能できる。」 |
永井紗耶子 | 45歳 |
◎ | 34 | 「(引用者注:「爆弾」と共に)推した。」「北条政子と大姫の関係など、いつの時代にもこういう母娘の葛藤はあるだろうなと思ったし、作者は、「時代小説のなかで、いかにさりげなく現代社会にも通じる問題に触れるか」に非常に自覚的なかたなのだろうと感嘆した。登場人物全員が魅力的に躍動しており、読後に忘れがたい余韻が残る。」 |
56歳 |
□ | 42 | 「受賞に異論はない。」「なぜ一番には推さなかったかといえば、各編ごとになにが書かれているかが明確で(丁寧さゆえだが)、「これはいったいなんの話だったんだろう」と読者が想像する余地が少ない=短編としてはややキレに欠けるかなと思ったためだ。また、「真珠星スピカ」の幽霊を、どこまで「(作中において)リアルなもの」と受け取っていいのか、少々判断に迷った。」 | |
選評出典:『オール讀物』令和4年/2022年9・10月合併号 |
選考委員 三浦しをん 46歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
46歳 |
◎ | 29 | 「(引用者注:「踏切の幽霊」と共に)推した。」「女性や弱い立場に置かれた人々への眼差しも公正で、江戸の香りを湛えつつ、「いま」時代小説を楽しむ読者にも誠実に向きあった作品だ。芝居をはじめとする創作物が、どれだけ私たちの心を支え、励まし、苦しいなかにあっても希望の光をもたらしてくれるものなのかを、押しつけがましくない形で、本作自体が証明していると思う。」 | |
高野和明 | 58歳 |
◎ | 34 | 「(引用者注:「木挽町のあだ討ち」と共に)推した。」「生者と死者の境界、魂とはなんなのかを問う真摯な展開に、強く胸打たれた。」「生者と死者、他者と自己のどうしようもない断絶と、断絶を乗り越えてつながりたい、理解したいと希求する主人公の姿。その冷徹とロマンティシズムを、鉄絽に象徴させて描ききったのが本当に素晴らしいと感じた。」 |
57歳 |
△ | 30 | 「高師直と足利直義が律儀にツッコミを入れつつ尊氏を支えずにはいられないさまもおかしくて、同情しながら随所で噴きだした。私がやや気になったのは、師直と直義以外が「さすが殿!」一辺倒で、同じタイミングで同じ反応しか示していないように感じられたことだ。」「史実にきちんと基づきながら、揺るぎなく「新たな尊氏」を創出した作者の手腕に最終的には圧倒された。」 | |
選評出典:『オール讀物』令和5年/2023年9・10月合併号 |
選考委員 三浦しをん 47歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
47歳 |
◎ | 28 | 「(引用者注:「襷がけの二人」と共に)推した。」「自由すぎる小説だ。」「登場人物たちの眼差しが過去へと向けられる瞬間、小説の力によって、私も幽霊(らしき存在)の声と思いをまざまざと聞いた気がした。独特の飄々としたユーモアに満ちた本作だが、いまの時代について、実は極めて自覚的に、真剣に考え抜いて書かれた小説なのではないかと感じる。」 | |
嶋津輝 | 54歳 |
◎ | 24 | 「(引用者注:「八月の御所グラウンド」と共に)推した。」「市井に生きる女性の生活と人生に焦点を当てながら、説得力をもって時代のうねりを描くという試みが成功している。独特の肌ざわりと余韻が残るのは、この作者にしか書けない、ちょっと変わった着眼点が随所にあるからだろう。」 |
44歳 |
□ | 33 | 「(引用者注:「八月の御所グラウンド」「襷がけの二人」に次いで)次点としたのは、「良輔、ふじ乃、八郎の描かれかたが類型的すぎるのではないか」ということと、「陽子がなぜ熊爪を殺すのか、わけがわからない」ということが理由だ。」「だが選考会で、「熊爪も陽子も、熊なのだ」という解釈が提示され、自身の読みの至らなさを恥じた。」「本作の独自性、強靭な表現力には、全面的に感嘆しつつひれ伏すほかなく、受賞に心から賛同した。」 | |
選評出典:『オール讀物』令和6年/2024年3・4月合併号 |
選考委員 三浦しをん 47歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
46歳 |
◎ | 31 | 「『ツミデミック』を推し(引用者中略)た。」「コロナ禍を小説のネタなどとは決して思っていない、誠実で真摯な姿勢に心打たれた。」「一穂氏の小説はうますぎるがゆえに、よさを言葉で説明するのがむずかしく、ただ感じ、味わうほかないのだが、登場人物になりきり、自分とはまったく異なるひとの日常を生きたかのような、圧倒的な没入感を私は覚えた。ずるさもまぬけさも、断罪や価値判断されることなく、ただ「ある」。」 | |
青崎有吾 | 33歳 |
○ | 30 | 「(引用者注:「令和元年の人生ゲーム」と共に)丸をつけた。」「作中で繰り広げられるゲーム対決のおもしろさに加え、青春小説としても良質で胸躍る。」「少し惜しいと感じたのは、真兎と絵空の対比の効きがやや弱い気がした点だ。」「しかし、過度なドラマ性を排した、暑苦しくない筆致と展開が本作の美点でもあるので、もちろん瑕疵とは思わない。」 |
麻布競馬場 | 32歳 |
○ | 50 | 「(引用者注:「地雷グリコ」と共に)丸をつけた。」「なぜ、(引用者注:本作で描かれる)かれらがいままで、あまり小説に書かれてこなかったのかと考えるに、一見「陽キャ」だからではないか。」「これまで小説からすらも存在を無視(軽視)され、搾取に薄々勘づきながらももがくしかないかれらを描いた本作は、現代のプロレタリア文学なのだと思う。」「読んでいて胸が苦しくなりつつ、やっぱり爆笑してしまうシーンも多々あり、安易にだれかを英雄にしたり救いをもたらしたりしない展開といい、バランスが非常にすぐれている。」 |
選評出典:『オール讀物』令和6年/2024年9・10月合併号 |