第167回

第166回第168回

令和4年/2022年上半期 令和4年/2022年7月20日決定発表／『オール讀物』令和4年/2022年9・10月合併号選評掲載

選考委員　 浅田次郎 70歳 北方謙三 74歳 宮部みゆき 61歳 三浦しをん 45歳 高村薫 69歳 林真理子 68歳 角田光代 55歳 伊集院静 72歳 桐野夏生 70歳 選評総行数　 98 134 135 166 104 102 155 94 125 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 窪美澄　『夜に星を放つ』 329枚 56歳 評 ○ 18 ○ 25 ◎ 28 □ 42 △ 12 ◎ 37 ○ 25 □ 47 △ 14 河﨑秋子　『絞め殺しの樹』 836枚 42歳 評 ■ 17 ● 21 ● 8 ■ 28 ○ 26 ● 12 ● 20 ― 0 ● 21 呉勝浩　『爆弾』 780枚 40歳 評 ● 23 ● 32 ■ 20 ◎ 26 ● 19 ■ 12 ○ 48 ■ 16 ■ 20 永井紗耶子　『女人入眼』 534枚 45歳 評 ● 24 ■ 17 ◎ 69 ◎ 34 ■ 21 △ 23 ■ 20 ◎ 30 ○ 27 深緑野分　『スタッフロール』 891枚 38歳 評 ■ 16 ■ 27 △ 10 ■ 40 ■ 14 ■ 18 ■ 42 ― 0 ■ 30 欠席 書面回答                 年齢/枚数の説明   見方・注意点

浅田次郎70歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題不幸と苦悩と　総行数98　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 窪美澄 56歳 全 ○ 18 「どの短篇も一人称一視点でありながら、それぞれの苦悩が書き分けられ、いわば宇宙に生きる人々の不幸の諸相を、的確にドラマチックに、たとえばめくるめく星座のように描き上げた。過剰な小説ばかりの昨今、豊かな文学性を感じた作品は久しぶりである。」 河﨑秋子 42歳 全 ■ 17 「すでに固有の文体が確立されており、かつ真摯な推敲がなされていた。ただし、真面目な作者ならではの実話取材なのであろうか、取捨を潔しとせぬ苦労譚の詳述がフィクション性を殆くした。」 呉勝浩 40歳 全 ● 23 「犯罪小説においてはけっしてなおざりにしてはならぬ「命の軽重」についても、配慮不足であると思えた。善良な市民が死ねば大騒ぎなのに、ホームレスの犠牲者は一顧だにされず、犯人の疎外者としての論理性は貧弱で苦悩もついぞ語られることなく、最後までゴミ扱いされてしまったのは、少くとも小説的ではなかった。」 永井紗耶子 45歳 全 ● 24 「読者に相応の事前知識がなければ理解できぬ小説なのではあるまいか。文学の独立性を信ずるのであれば、時代背景といい繁雑な人間関係といい、一般読者に対しては不親切に過ぎると思えた。」「さらに言えば、本作は周子が襲撃されるくだりから始まって、大姫入水で終わる短篇小説の素材であるように思えた。」 深緑野分 38歳 全 ■ 16 「深緑野分氏は、誰にも真似のできぬ、また誰にも似ていない小説をめざしている志の高い人であろう。しかし本作はその志に反して、なぜかこのごろの小説の典型と思えた。長篇全体を俯瞰する構成力を欠き、不要部分を削らずにむしろ重ねる気味があって紙数を費した。」

他の選考委員 北方謙三 宮部みゆき 三浦しをん 高村薫 林真理子 角田光代 伊集院静 桐野夏生

北方謙三74歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題小説の醍醐味　総行数134　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 窪美澄 56歳 全 ○ 25 「緊密な世界を構築しているが、どこか夢の物語のようでもある。触れてくる事象をさりげなく書いているように思えるが、絶妙な選択はなされていると感じた。」「高校生が夏休みに祖母の家へ行く。（引用者中略）思春期のむさくるしい性の匂いは、注意深く排除されている。それによって、澄んだ感傷を描出することに成功した。」「こういうものが、短篇の醍醐味だと思った。」 河﨑秋子 42歳 全 ● 21 「タイトルからして考えすぎだと感じた。主人公が、（引用者中略）結婚してから、物語は不意に色褪せ、輝きが失せてきたと感じた。人の描写が、一面的だったのかもしれない。苦労というものがただの苦労にすぎなかったら、暗さが覆い被さってきて、読む側に救いがないのだ。」 呉勝浩 40歳 全 ● 32 「刑事とのやり取りは、緊迫感があり、引きこまれるが、取調室の外になると、散漫だと感じる部分も少なくなかった。結局、緊迫感に急き立てられながら、読了していた。」「テーマ性も強いのだろうが、私はそれを読みとることができない。面白いだけのエンターテインメントだと、微妙に私の小説観とずれ、そういう私が選考委員をしているのは申し訳なく、この作者の不運なのかもしれない。」 永井紗耶子 45歳 全 ■ 17 「まとまりのいい小説であった。しかし、あまり人が躍らないので、物語も躍動しないという印象を持った。」「強烈な女性像がありはしたのだが、男の、しかも暴力の時代でもあったのだ。それが強く背景に感じられることがなかったのが、私にはもの足りなかった。」 深緑野分 38歳 全 ■ 27 「映画の現場や特殊造型などについて、私はかなり関心を持った時期があって、描かれている細部が無理なく入ってきた。しかし部分によっては、専門的すぎるかもしれない、とも思った。」「スタッフロールとは、エンドロールのスタッフの部分なのだろうが、（引用者中略）そこに載るか載らないかが、人生の問題になるというのは、平凡な映画ファンにとってはどこかリアリティを欠いてもいる。」   「世に疫病が蔓延してから、どれほどの歳月が過ぎたのか。その中で、小説はいくらかの力を持つことができたのだろうか。自分を顧みて、あるいは周囲を眺めて、そう考え続けてきた。結論は出ないし、出すようなものでもないかもしれない。」

他の選考委員 浅田次郎 宮部みゆき 三浦しをん 高村薫 林真理子 角田光代 伊集院静 桐野夏生

宮部みゆき61歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題幸せな読み心地　総行数135　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 窪美澄 56歳 全 ◎ 28 「新型コロナウイルスの世界的なパンデミックを、物語のなかでどのように描くか。様々なアプローチがあると思いますが、窪美澄さんの『夜に星を放つ』は、そのなかで最も自然体の優しいスタイルを選んで書かれた小説だと思います。ここで肝心なのは、「優しい」と「ぬるい」は決定的に違うということ。困難なことも辛いことも嫌なことも細かくちくちくと待ち受けている現実から目をそらさず、でも一人一人が個々の状況下で望める限りの幸せを得てほしい――。そんな作者の願いが伝わってくる読み心地でした。」 河﨑秋子 42歳 全 ● 8 「北の大地に生きる女の辛苦の一代記という点で、どうしても桜木紫乃さんの傑作『ラブレス』と重なってしまい、別のアプローチがなかったかなあと、もどかしく思いました。」 呉勝浩 40歳 全 ■ 20 「このページ数だったら、容疑者スズキタゴサクと、彼と対決する刑事一、二名で、取調室から出ない密室ドラマにする手もあったのではないでしょうか。逆に、全ての爆発による被害を克明に描き、大群衆劇に仕立てて、このページ数の上下二巻を読ませてほしかったという気もします。」 永井紗耶子 45歳 全 ◎ 69 「（引用者注：「夜に星を放つ」と共に）○をつけまして、決選投票でも支持したのですが、今一歩及ばず次点になってしまいました。」「勃興から衰退滅亡まで山のように書く材料がある鎌倉幕府と北条氏の歴史のなかで、大姫入内という（頼朝の鎌倉政権にとっては手痛いターニングポイントではありますが）地味な出来事をテーマに、終始声を張り上げず、演説もせず、穏やかに淡々と、主な登場人物みんなの心模様を丁寧にすくい取り、ひとつづりの長編小説に仕立て上げたこの腕前！　ほれぼれしました。」 深緑野分 38歳 全 △ 10 「いつもながらの誠実で精力的な取材ぶりに頭が下がりました。ヴィヴが日本人の若い女性だったら、もっと肩入れして読んじゃったのになあ……というのは欲張りすぎる注文でしょうか。」

他の選考委員 浅田次郎 北方謙三 三浦しをん 高村薫 林真理子 角田光代 伊集院静 桐野夏生

三浦しをん45歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数166　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 窪美澄 56歳 全 □ 42 「受賞に異論はない。」「なぜ一番には推さなかったかといえば、各編ごとになにが書かれているかが明確で（丁寧さゆえだが）、「これはいったいなんの話だったんだろう」と読者が想像する余地が少ない＝短編としてはややキレに欠けるかなと思ったためだ。また、「真珠星スピカ」の幽霊を、どこまで「（作中において）リアルなもの」と受け取っていいのか、少々判断に迷った。」 河﨑秋子 42歳 全 ■ 28 「次第に、「手に職もあるのに、どうしてこの環境から逃げようとしないんだろう」とイライラし、生まれた息子を意地悪な吉岡家へ養子に出すに至って、もはや主人公の忍耐強さと断れなさは害悪の域に突入しているのではと天を仰いだ。たぶん情報提示のタイミングが早すぎるのが、イライラを生ぜしめる一因だ。」「「この道を選択する以外に手段がなかったのだ」と読者が納得できるよう、周到に主人公を追いこんでほしかった。」 呉勝浩 40歳 全 ◎ 26 「（引用者注：「女人入眼」と共に）推した。」「取調室で展開される青臭い会話劇を楽しめるかどうかが読者の評価の分かれ目かなと感じたが、私はこういう青臭さがきらいではないので、ぐいぐい拝読した。」「どんでん返しや、タゴサクが出す爆弾にまつわるヒントと解答も、すごくよく練られていて、一級のエンタメ小説として堪能できる。」 永井紗耶子 45歳 全 ◎ 34 「（引用者注：「爆弾」と共に）推した。」「北条政子と大姫の関係など、いつの時代にもこういう母娘の葛藤はあるだろうなと思ったし、作者は、「時代小説のなかで、いかにさりげなく現代社会にも通じる問題に触れるか」に非常に自覚的なかたなのだろうと感嘆した。登場人物全員が魅力的に躍動しており、読後に忘れがたい余韻が残る。」 深緑野分 38歳 全 ■ 40 「作者の映画への愛とリスペクト、取材力のすごさも伝わってきて、敬服した。ただ、ちょっとドラマが盛りあがりきらない感があって、惜しいと思った。」「主人公が葛藤するポイントをどこに置くかが、やや弱いというか不鮮明なため、「特殊造形からＣＧへの変化」というストーリー展開と、登場人物の心情のうねりとが、微妙に合致していないように感じられたのかもしれない。」

他の選考委員 浅田次郎 北方謙三 宮部みゆき 高村薫 林真理子 角田光代 伊集院静 桐野夏生

高村薫69歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数104　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 窪美澄 56歳 全 △ 12 「作者はすでに十分な手練れであり、これまでの作品と比べて本作で特段何かが進化したというのではないが、描かれる日常はどれも粒がそろっており、そのぬるい毒と醒めた停滞は、現代を生きる大人の鑑賞に耐える。」 河﨑秋子 42歳 全 ○ 26 「評者以外のほぼ全員が女主人公の意志の弱い生き方についていけない、という意見だった。しかしながら、戦前戦後の北海道には厳しい自然と生活に翻弄された弱い人びとが山ほどいただろうし、その一人一人のささやかな感情の歴史を掬い取るのが小説だとしたら、本作の主人公のような女性の造形も十分ありうるだろう。」「一部の登場人物の造形の不自然さや、物語の過剰さが後味の悪さとなっている点を除けば、評者は本作を存分に堪能した。」 呉勝浩 40歳 全 ● 19 「小説全体があまりに未整理で、最初から最後までスズキタゴサクの冗長なお喋り以外に立ち上がってくる世界がないのは、落丁かと思ったほどだった。ひょっとしたら作者は、タゴサクの造形でエネルギーの八割を使い果たしたか。」 永井紗耶子 45歳 全 ■ 21 「北条政子を筆頭に、登場する女性たちがそれぞれに共感を呼ぶのは、頼朝の娘大姫の入内をめぐる顛末が女性の視点で巧みに整理され、非常に分かりやすい物語になっているからだろう。しかしその反面、慈円が『愚管抄』に「武者の世」になったと記した、その武者の姿がない本作は、評者には平板な恋物語以上の世界ではなかった。」 深緑野分 38歳 全 ■ 14 「誰よりも作者自身がハリウッドに耽溺しているのが、いつもながら微笑ましいような、白けるような、だった。マニアックもここまで来ると脱帽だが、興味のない世界に共感するのはやはり難しい。」   「本賞にふさわしい小説の姿をどこに求めるかで選考委員の意見は分かれるのが常である。今回はとくに小説観の違いがはっきり出て、個人的には戸惑いも覚えることとなった。」

他の選考委員 浅田次郎 北方謙三 宮部みゆき 三浦しをん 林真理子 角田光代 伊集院静 桐野夏生

林真理子68歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数102　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 窪美澄 56歳 全 ◎ 37 「強く推そうと選考会に臨んだ。」「どの短篇もひとつひとつが、非常にゆきとどいていて後味がよい。」「若い女性、少年、少女、離婚した男性と主人公らはすべて違うが、誰もが他者との関係に悩むのは共通している。が、それによって悲劇が起こるわけではなく、最後にかすかな希望が生まれるのだ。これがこの作品を非凡なものにしている。」 河﨑秋子 42歳 全 ● 12 「私はもともとこういう女性の一代記が大好物だ。が、今回は苛立ちと疑問だらけであった。」「（引用者注：主人公の）価値観や人生観がころころと変わり、とても共感出来なかった。」 呉勝浩 40歳 全 ■ 12 「ひと息に読んだが、最後に徒労感がわいた。タゴサクが真犯人でなかったことがわかってからだ。彼はあきらかに主犯としての威厳と貫禄と魅力を持って登場していたからだ。それが裏切られ残念である。」 永井紗耶子 45歳 全 △ 23 「非常に面白く読んだ。しかし歴史小説はここがつらいところであるが、入内をめぐっての画策の中心にいる大姫が、若くして亡くなることを読者は知っている。結末がわかっているゆえに、さまざまな論議が次第に空しく思えてくる時があった。」「二十歳の主人公が、時代を考慮してもあまりにも中年女くさくないだろうか。大姫の心にもっと寄り添ってもいいはずだ。」 深緑野分 38歳 全 ■ 18 「前作、前々作のように、「どうして日本人が、外国人になって小説を描かなくてはいけないのか」という疑問が今回は全くわかなかった。が、前半に比べて、後半はやや退屈である。ＣＧ用語や最新のテクノロジーがよく咀嚼されていない気がした。」

他の選考委員 浅田次郎 北方謙三 宮部みゆき 三浦しをん 高村薫 角田光代 伊集院静 桐野夏生

角田光代55歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題書かないことで描く　総行数155　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 窪美澄 56歳 全 ○ 25 「多くを書かず、登場人物たちの断片を切り取って提示し、より深くを読ませる。その手つきは繊細で、かなしみを背負うものへのエンパシーに満ちている。」「『真珠星スピカ』のこっくりさんのくだりは、私には安易に思えたのだけれど、この短編こそすばしいという声も多かった。」 河﨑秋子 42歳 全 ● 20 「出てくる人々が、一貫してかわらない。性悪な人たちは性悪なまま、不幸な人は不幸なまま、弱い（とされる）人間は弱いまま。だれと出会っても何が起きてもかわることがない、その人物のありようの単純さが、壮大になるはずの物語をちいさなものにしてしまったように思う。」 呉勝浩 40歳 全 ○ 48 「すぐれた小説だと思った」「終盤では、悪に引きずられながらも踏みとどまるぎりぎりの善が描かれている。それは悪の対極にある善ではない。悪にかぎりなく近いところで踏みとどまる善だ。その点がすごい作品だと思ったが、犯人と対峙する刑事が大勢登場し、彼らの内面が描かれることで、緊迫を欠いたという声もあり、残念なことに受賞には至らなかった。」 永井紗耶子 45歳 全 ■ 20 「第四章以後にぐっと話がおもしろくなる。」「大姫の自死について、希望を垣間見た故の絶望としたところなども強い説得力がある。おそらくそこに焦点をあてたからだと思うけれど、大姫以外の女性たちのままならなさをもっと書いてもよかったのではないか。」 深緑野分 38歳 全 ■ 42 「登場人物たちは魅力的だし、マチルダとヴィヴィアンの対比もきいていると思う。しかしマチルダが「何に」絶望して映画制作の現場を去ったのか、第二部を読み進むうちわからなくなってくる。」「登場人物たちが求める幸福とはなんなのだろう。ストーリーと、登場人物たちの内面や感情が、途中から乖離してしまったように思う。」

他の選考委員 浅田次郎 北方謙三 宮部みゆき 三浦しをん 高村薫 林真理子 伊集院静 桐野夏生

伊集院静72歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題同時代と取組む　総行数94　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 窪美澄 56歳 全 □ 47 「作品中に、感染症、新型コロナが扱われている。この二年余り、世界の人々に多大な影響を与えているコロナ禍を明確に扱っている点は評価されるべきことだ。」「私が最後に支持票を入れたのは、この作家の根にある辺りに強靭な小説家の覚悟が見えるように思えたからだ。」「今日のテーマに果敢に取組んだ点で、頭ひとつ抜けていた印象だった。」 河﨑秋子 42歳 全 ― 0   呉勝浩 40歳 全 ■ 16 「これまで氏が描いて来られた作品とはガラリと様相が変わっていることがよくわかる意欲作であった。」「この作品には、人間の中に宿る悪を捉えようとする作家の覚悟が感じられた。作品の後半で、作家のその意欲がカラ回りをしたのではと思った。」 永井紗耶子 45歳 全 ◎ 30 「推した」「文体に安定味があり、何より弓のようなしなやかさが感じられた。主人公の周子の視線が、冷静に見えて実は熱気を含んでいた。この両刃で人、物事を捉える視点はこの作家の資質であろう。」 深緑野分 38歳 全 ― 0

他の選考委員 浅田次郎 北方謙三 宮部みゆき 三浦しをん 高村薫 林真理子 角田光代 桐野夏生

桐野夏生70歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数125　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 窪美澄 56歳 全 △ 14 「好感を持って読んだ。特に「星の随に」は、私好みだ。どれも上手く、文句のつけようがない。」「ただ、ギラリとしたものを求める人には、少しシンプルに過ぎるかもしれない。」 河﨑秋子 42歳 全 ● 21 「主人公の主体性という意味で（引用者中略）物足りなかった。第一部の主人公・ミサエの欲のなさはいったいどうしたことだろう。」「まさしく「絞め殺」される運命を描きたかったのかもしれないが、としたら、絞め殺す側の感情の方を読んでみたい。あまりに理不尽で暴力的な虐待がどうして生まれるのか、傲りの生理を知りたいからである。」 呉勝浩 40歳 全 ■ 20 「スズキタゴサクという人物の魅力に尽きる。」「しかし、尋問する刑事が交代したあたりから、トーンダウンする。」「主人公をうまく練り上げる相手が不在になると、主人公は途端に輝かなくなる。（引用者中略）前半部分と後半部分の落差が激しい。」 永井紗耶子 45歳 全 ○ 27 「主人公・周子と、北条政子の人物造型が鮮やかだった。」「女には女の政治があるという京の女の論理と、己の情そのままに振る舞う政子とソリが合うはずがない。」「かように女性作家が描く、鎌倉武士の女性の世界は滅法面白い。欲を言えば、周子の視点で物語が進んでゆくため、海野幸氏の人となりなど、もう少し知りたくもあった。」 深緑野分 38歳 全 ■ 30 「相変わらず資料の咀嚼ぶりがうまいと感心しながら読んだ。情景が目に浮かぶようである。しかし、不満もなくはない。」「マチルダがなぜ姿を消したのか、そして、その間何をしていたのか、明確な答えは出ていない。後半部分のＣＧの技術的なことは、よく調べておられると思うが、読み手には少々退屈である。」   「小説世界に没頭できるのは、主人公もしくは登場人物の主体性に負うところが大きい。共感できれば、するするとその世界に入り込めるし、反感を持てば、その人物と小説世界の調和について考え続けることになる。反感以前に納得できない場合は辛い。」

他の選考委員 浅田次郎 北方謙三 宮部みゆき 三浦しをん 高村薫 林真理子 角田光代 伊集院静

窪美澄56歳×各選考委員　 『夜に星を放つ』 短篇集5篇 329枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 浅田次郎 70歳 全 ○ 18 「どの短篇も一人称一視点でありながら、それぞれの苦悩が書き分けられ、いわば宇宙に生きる人々の不幸の諸相を、的確にドラマチックに、たとえばめくるめく星座のように描き上げた。過剰な小説ばかりの昨今、豊かな文学性を感じた作品は久しぶりである。」 北方謙三 74歳 全 ○ 25 「緊密な世界を構築しているが、どこか夢の物語のようでもある。触れてくる事象をさりげなく書いているように思えるが、絶妙な選択はなされていると感じた。」「高校生が夏休みに祖母の家へ行く。（引用者中略）思春期のむさくるしい性の匂いは、注意深く排除されている。それによって、澄んだ感傷を描出することに成功した。」「こういうものが、短篇の醍醐味だと思った。」 宮部みゆき 61歳 全 ◎ 28 「新型コロナウイルスの世界的なパンデミックを、物語のなかでどのように描くか。様々なアプローチがあると思いますが、窪美澄さんの『夜に星を放つ』は、そのなかで最も自然体の優しいスタイルを選んで書かれた小説だと思います。ここで肝心なのは、「優しい」と「ぬるい」は決定的に違うということ。困難なことも辛いことも嫌なことも細かくちくちくと待ち受けている現実から目をそらさず、でも一人一人が個々の状況下で望める限りの幸せを得てほしい――。そんな作者の願いが伝わってくる読み心地でした。」 三浦しをん 45歳 全 □ 42 「受賞に異論はない。」「なぜ一番には推さなかったかといえば、各編ごとになにが書かれているかが明確で（丁寧さゆえだが）、「これはいったいなんの話だったんだろう」と読者が想像する余地が少ない＝短編としてはややキレに欠けるかなと思ったためだ。また、「真珠星スピカ」の幽霊を、どこまで「（作中において）リアルなもの」と受け取っていいのか、少々判断に迷った。」 高村薫 69歳 全 △ 12 「作者はすでに十分な手練れであり、これまでの作品と比べて本作で特段何かが進化したというのではないが、描かれる日常はどれも粒がそろっており、そのぬるい毒と醒めた停滞は、現代を生きる大人の鑑賞に耐える。」 林真理子 68歳 全 ◎ 37 「強く推そうと選考会に臨んだ。」「どの短篇もひとつひとつが、非常にゆきとどいていて後味がよい。」「若い女性、少年、少女、離婚した男性と主人公らはすべて違うが、誰もが他者との関係に悩むのは共通している。が、それによって悲劇が起こるわけではなく、最後にかすかな希望が生まれるのだ。これがこの作品を非凡なものにしている。」 角田光代 55歳 全 ○ 25 「多くを書かず、登場人物たちの断片を切り取って提示し、より深くを読ませる。その手つきは繊細で、かなしみを背負うものへのエンパシーに満ちている。」「『真珠星スピカ』のこっくりさんのくだりは、私には安易に思えたのだけれど、この短編こそすばしいという声も多かった。」 伊集院静 72歳 全 □ 47 「作品中に、感染症、新型コロナが扱われている。この二年余り、世界の人々に多大な影響を与えているコロナ禍を明確に扱っている点は評価されるべきことだ。」「私が最後に支持票を入れたのは、この作家の根にある辺りに強靭な小説家の覚悟が見えるように思えたからだ。」「今日のテーマに果敢に取組んだ点で、頭ひとつ抜けていた印象だった。」 桐野夏生 70歳 全 △ 14 「好感を持って読んだ。特に「星の随に」は、私好みだ。どれも上手く、文句のつけようがない。」「ただ、ギラリとしたものを求める人には、少しシンプルに過ぎるかもしれない。」

他の候補作 河﨑秋子 『絞め殺しの樹』 呉勝浩 『爆弾』 永井紗耶子 『女人入眼』 深緑野分 『スタッフロール』

河﨑秋子42歳×各選考委員　 『絞め殺しの樹』 長篇 836枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 浅田次郎 70歳 全 ■ 17 「すでに固有の文体が確立されており、かつ真摯な推敲がなされていた。ただし、真面目な作者ならではの実話取材なのであろうか、取捨を潔しとせぬ苦労譚の詳述がフィクション性を殆くした。」 北方謙三 74歳 全 ● 21 「タイトルからして考えすぎだと感じた。主人公が、（引用者中略）結婚してから、物語は不意に色褪せ、輝きが失せてきたと感じた。人の描写が、一面的だったのかもしれない。苦労というものがただの苦労にすぎなかったら、暗さが覆い被さってきて、読む側に救いがないのだ。」 宮部みゆき 61歳 全 ● 8 「北の大地に生きる女の辛苦の一代記という点で、どうしても桜木紫乃さんの傑作『ラブレス』と重なってしまい、別のアプローチがなかったかなあと、もどかしく思いました。」 三浦しをん 45歳 全 ■ 28 「次第に、「手に職もあるのに、どうしてこの環境から逃げようとしないんだろう」とイライラし、生まれた息子を意地悪な吉岡家へ養子に出すに至って、もはや主人公の忍耐強さと断れなさは害悪の域に突入しているのではと天を仰いだ。たぶん情報提示のタイミングが早すぎるのが、イライラを生ぜしめる一因だ。」「「この道を選択する以外に手段がなかったのだ」と読者が納得できるよう、周到に主人公を追いこんでほしかった。」 高村薫 69歳 全 ○ 26 「評者以外のほぼ全員が女主人公の意志の弱い生き方についていけない、という意見だった。しかしながら、戦前戦後の北海道には厳しい自然と生活に翻弄された弱い人びとが山ほどいただろうし、その一人一人のささやかな感情の歴史を掬い取るのが小説だとしたら、本作の主人公のような女性の造形も十分ありうるだろう。」「一部の登場人物の造形の不自然さや、物語の過剰さが後味の悪さとなっている点を除けば、評者は本作を存分に堪能した。」 林真理子 68歳 全 ● 12 「私はもともとこういう女性の一代記が大好物だ。が、今回は苛立ちと疑問だらけであった。」「（引用者注：主人公の）価値観や人生観がころころと変わり、とても共感出来なかった。」 角田光代 55歳 全 ● 20 「出てくる人々が、一貫してかわらない。性悪な人たちは性悪なまま、不幸な人は不幸なまま、弱い（とされる）人間は弱いまま。だれと出会っても何が起きてもかわることがない、その人物のありようの単純さが、壮大になるはずの物語をちいさなものにしてしまったように思う。」 伊集院静 72歳 全 ― 0   桐野夏生 70歳 全 ● 21 「主人公の主体性という意味で（引用者中略）物足りなかった。第一部の主人公・ミサエの欲のなさはいったいどうしたことだろう。」「まさしく「絞め殺」される運命を描きたかったのかもしれないが、としたら、絞め殺す側の感情の方を読んでみたい。あまりに理不尽で暴力的な虐待がどうして生まれるのか、傲りの生理を知りたいからである。」

他の候補作 窪美澄 『夜に星を放つ』 呉勝浩 『爆弾』 永井紗耶子 『女人入眼』 深緑野分 『スタッフロール』

呉勝浩40歳×各選考委員　 『爆弾』 長篇 780枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 浅田次郎 70歳 全 ● 23 「犯罪小説においてはけっしてなおざりにしてはならぬ「命の軽重」についても、配慮不足であると思えた。善良な市民が死ねば大騒ぎなのに、ホームレスの犠牲者は一顧だにされず、犯人の疎外者としての論理性は貧弱で苦悩もついぞ語られることなく、最後までゴミ扱いされてしまったのは、少くとも小説的ではなかった。」 北方謙三 74歳 全 ● 32 「刑事とのやり取りは、緊迫感があり、引きこまれるが、取調室の外になると、散漫だと感じる部分も少なくなかった。結局、緊迫感に急き立てられながら、読了していた。」「テーマ性も強いのだろうが、私はそれを読みとることができない。面白いだけのエンターテインメントだと、微妙に私の小説観とずれ、そういう私が選考委員をしているのは申し訳なく、この作者の不運なのかもしれない。」 宮部みゆき 61歳 全 ■ 20 「このページ数だったら、容疑者スズキタゴサクと、彼と対決する刑事一、二名で、取調室から出ない密室ドラマにする手もあったのではないでしょうか。逆に、全ての爆発による被害を克明に描き、大群衆劇に仕立てて、このページ数の上下二巻を読ませてほしかったという気もします。」 三浦しをん 45歳 全 ◎ 26 「（引用者注：「女人入眼」と共に）推した。」「取調室で展開される青臭い会話劇を楽しめるかどうかが読者の評価の分かれ目かなと感じたが、私はこういう青臭さがきらいではないので、ぐいぐい拝読した。」「どんでん返しや、タゴサクが出す爆弾にまつわるヒントと解答も、すごくよく練られていて、一級のエンタメ小説として堪能できる。」 高村薫 69歳 全 ● 19 「小説全体があまりに未整理で、最初から最後までスズキタゴサクの冗長なお喋り以外に立ち上がってくる世界がないのは、落丁かと思ったほどだった。ひょっとしたら作者は、タゴサクの造形でエネルギーの八割を使い果たしたか。」 林真理子 68歳 全 ■ 12 「ひと息に読んだが、最後に徒労感がわいた。タゴサクが真犯人でなかったことがわかってからだ。彼はあきらかに主犯としての威厳と貫禄と魅力を持って登場していたからだ。それが裏切られ残念である。」 角田光代 55歳 全 ○ 48 「すぐれた小説だと思った」「終盤では、悪に引きずられながらも踏みとどまるぎりぎりの善が描かれている。それは悪の対極にある善ではない。悪にかぎりなく近いところで踏みとどまる善だ。その点がすごい作品だと思ったが、犯人と対峙する刑事が大勢登場し、彼らの内面が描かれることで、緊迫を欠いたという声もあり、残念なことに受賞には至らなかった。」 伊集院静 72歳 全 ■ 16 「これまで氏が描いて来られた作品とはガラリと様相が変わっていることがよくわかる意欲作であった。」「この作品には、人間の中に宿る悪を捉えようとする作家の覚悟が感じられた。作品の後半で、作家のその意欲がカラ回りをしたのではと思った。」 桐野夏生 70歳 全 ■ 20 「スズキタゴサクという人物の魅力に尽きる。」「しかし、尋問する刑事が交代したあたりから、トーンダウンする。」「主人公をうまく練り上げる相手が不在になると、主人公は途端に輝かなくなる。（引用者中略）前半部分と後半部分の落差が激しい。」

他の候補作 窪美澄 『夜に星を放つ』 河﨑秋子 『絞め殺しの樹』 永井紗耶子 『女人入眼』 深緑野分 『スタッフロール』

永井紗耶子45歳×各選考委員　 『女人入眼』 長篇 534枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 浅田次郎 70歳 全 ● 24 「読者に相応の事前知識がなければ理解できぬ小説なのではあるまいか。文学の独立性を信ずるのであれば、時代背景といい繁雑な人間関係といい、一般読者に対しては不親切に過ぎると思えた。」「さらに言えば、本作は周子が襲撃されるくだりから始まって、大姫入水で終わる短篇小説の素材であるように思えた。」 北方謙三 74歳 全 ■ 17 「まとまりのいい小説であった。しかし、あまり人が躍らないので、物語も躍動しないという印象を持った。」「強烈な女性像がありはしたのだが、男の、しかも暴力の時代でもあったのだ。それが強く背景に感じられることがなかったのが、私にはもの足りなかった。」 宮部みゆき 61歳 全 ◎ 69 「（引用者注：「夜に星を放つ」と共に）○をつけまして、決選投票でも支持したのですが、今一歩及ばず次点になってしまいました。」「勃興から衰退滅亡まで山のように書く材料がある鎌倉幕府と北条氏の歴史のなかで、大姫入内という（頼朝の鎌倉政権にとっては手痛いターニングポイントではありますが）地味な出来事をテーマに、終始声を張り上げず、演説もせず、穏やかに淡々と、主な登場人物みんなの心模様を丁寧にすくい取り、ひとつづりの長編小説に仕立て上げたこの腕前！　ほれぼれしました。」 三浦しをん 45歳 全 ◎ 34 「（引用者注：「爆弾」と共に）推した。」「北条政子と大姫の関係など、いつの時代にもこういう母娘の葛藤はあるだろうなと思ったし、作者は、「時代小説のなかで、いかにさりげなく現代社会にも通じる問題に触れるか」に非常に自覚的なかたなのだろうと感嘆した。登場人物全員が魅力的に躍動しており、読後に忘れがたい余韻が残る。」 高村薫 69歳 全 ■ 21 「北条政子を筆頭に、登場する女性たちがそれぞれに共感を呼ぶのは、頼朝の娘大姫の入内をめぐる顛末が女性の視点で巧みに整理され、非常に分かりやすい物語になっているからだろう。しかしその反面、慈円が『愚管抄』に「武者の世」になったと記した、その武者の姿がない本作は、評者には平板な恋物語以上の世界ではなかった。」 林真理子 68歳 全 △ 23 「非常に面白く読んだ。しかし歴史小説はここがつらいところであるが、入内をめぐっての画策の中心にいる大姫が、若くして亡くなることを読者は知っている。結末がわかっているゆえに、さまざまな論議が次第に空しく思えてくる時があった。」「二十歳の主人公が、時代を考慮してもあまりにも中年女くさくないだろうか。大姫の心にもっと寄り添ってもいいはずだ。」 角田光代 55歳 全 ■ 20 「第四章以後にぐっと話がおもしろくなる。」「大姫の自死について、希望を垣間見た故の絶望としたところなども強い説得力がある。おそらくそこに焦点をあてたからだと思うけれど、大姫以外の女性たちのままならなさをもっと書いてもよかったのではないか。」 伊集院静 72歳 全 ◎ 30 「推した」「文体に安定味があり、何より弓のようなしなやかさが感じられた。主人公の周子の視線が、冷静に見えて実は熱気を含んでいた。この両刃で人、物事を捉える視点はこの作家の資質であろう。」 桐野夏生 70歳 全 ○ 27 「主人公・周子と、北条政子の人物造型が鮮やかだった。」「女には女の政治があるという京の女の論理と、己の情そのままに振る舞う政子とソリが合うはずがない。」「かように女性作家が描く、鎌倉武士の女性の世界は滅法面白い。欲を言えば、周子の視点で物語が進んでゆくため、海野幸氏の人となりなど、もう少し知りたくもあった。」

他の候補作 窪美澄 『夜に星を放つ』 河﨑秋子 『絞め殺しの樹』 呉勝浩 『爆弾』 深緑野分 『スタッフロール』

深緑野分38歳×各選考委員　 『スタッフロール』 長篇 891枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 浅田次郎 70歳 全 ■ 16 「深緑野分氏は、誰にも真似のできぬ、また誰にも似ていない小説をめざしている志の高い人であろう。しかし本作はその志に反して、なぜかこのごろの小説の典型と思えた。長篇全体を俯瞰する構成力を欠き、不要部分を削らずにむしろ重ねる気味があって紙数を費した。」 北方謙三 74歳 全 ■ 27 「映画の現場や特殊造型などについて、私はかなり関心を持った時期があって、描かれている細部が無理なく入ってきた。しかし部分によっては、専門的すぎるかもしれない、とも思った。」「スタッフロールとは、エンドロールのスタッフの部分なのだろうが、（引用者中略）そこに載るか載らないかが、人生の問題になるというのは、平凡な映画ファンにとってはどこかリアリティを欠いてもいる。」 宮部みゆき 61歳 全 △ 10 「いつもながらの誠実で精力的な取材ぶりに頭が下がりました。ヴィヴが日本人の若い女性だったら、もっと肩入れして読んじゃったのになあ……というのは欲張りすぎる注文でしょうか。」 三浦しをん 45歳 全 ■ 40 「作者の映画への愛とリスペクト、取材力のすごさも伝わってきて、敬服した。ただ、ちょっとドラマが盛りあがりきらない感があって、惜しいと思った。」「主人公が葛藤するポイントをどこに置くかが、やや弱いというか不鮮明なため、「特殊造形からＣＧへの変化」というストーリー展開と、登場人物の心情のうねりとが、微妙に合致していないように感じられたのかもしれない。」 高村薫 69歳 全 ■ 14 「誰よりも作者自身がハリウッドに耽溺しているのが、いつもながら微笑ましいような、白けるような、だった。マニアックもここまで来ると脱帽だが、興味のない世界に共感するのはやはり難しい。」 林真理子 68歳 全 ■ 18 「前作、前々作のように、「どうして日本人が、外国人になって小説を描かなくてはいけないのか」という疑問が今回は全くわかなかった。が、前半に比べて、後半はやや退屈である。ＣＧ用語や最新のテクノロジーがよく咀嚼されていない気がした。」 角田光代 55歳 全 ■ 42 「登場人物たちは魅力的だし、マチルダとヴィヴィアンの対比もきいていると思う。しかしマチルダが「何に」絶望して映画制作の現場を去ったのか、第二部を読み進むうちわからなくなってくる。」「登場人物たちが求める幸福とはなんなのだろう。ストーリーと、登場人物たちの内面や感情が、途中から乖離してしまったように思う。」 伊集院静 72歳 全 ― 0   桐野夏生 70歳 全 ■ 30 「相変わらず資料の咀嚼ぶりがうまいと感心しながら読んだ。情景が目に浮かぶようである。しかし、不満もなくはない。」「マチルダがなぜ姿を消したのか、そして、その間何をしていたのか、明確な答えは出ていない。後半部分のＣＧの技術的なことは、よく調べておられると思うが、読み手には少々退屈である。」

他の候補作 窪美澄 『夜に星を放つ』 河﨑秋子 『絞め殺しの樹』 呉勝浩 『爆弾』 永井紗耶子 『女人入眼』