呉勝浩（ごかつひろ）-直木賞候補作家

第162回

＝受賞者＝
川越宗一

＝候補者＝
小川　哲
呉　勝浩
誉田哲也
湊かなえ

Last Update●[R6]2024/9/8

	Go Katsuhiro
	生没年月日【注】	昭和56年/1981年☆月☆日～
	経歴	青森県八戸市生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。平成27年/2015年に「道徳の時間」で江戸川乱歩賞を受賞して作家デビュー。
	受賞歴・候補歴	\|候補\| 第60回江戸川乱歩賞（平成26年/2014年）「極星クラブ」檎克比朗名義第61回江戸川乱歩賞（平成27年/2015年）「道徳の時間」 \|候補\| 第19回大藪春彦賞（平成28年/2016年度）『ロスト』第20回大藪春彦賞（平成29年/2017年度）『白い衝動』 \|候補\| 第39回吉川英治文学新人賞（平成29年/2017年度）『白い衝動』 \|候補\| 第31回山本周五郎賞（平成29年/2017年度）『ライオン・ブルー』 \|候補\| 第40回吉川英治文学新人賞（平成30年/2018年度）『マトリョーシカ・ブラッド』 \|候補\| 第72回日本推理作家協会賞［長編及び連作短編集部門］（平成31年/2019年）『雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール』 \|候補\| 第162回直木賞（令和1年/2019年下期）『スワン』第41回吉川英治文学新人賞（令和1年/2019年度）『スワン』第73回日本推理作家協会賞［長編及び連作短編集部門］（令和2年/2020年）『スワン』 \|候補\| 第165回直木賞（令和3年/2021年上期）『おれたちの歌をうたえ』第39回咲くやこの花賞［文芸その他部門・小説］（令和3年/2021年度） \|候補\| 第167回直木賞（令和4年/2022年上期）『爆弾』 \|第4位\| 第20回2023年本屋大賞（令和5年/2023年）『爆弾』
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『白(しろ)い衝動(しょうどう)』（平成29年/2017年1月・講談社刊）

書誌

令和1年/2019年8月・講談社／講談社文庫『白い衝動』

吉川英治文学新人賞 第39回候補

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　呉勝浩　36歳
選考委員		評価	行数	評言
伊集院静	68歳	△	8	「（引用者注：「ゲームの王国」と共に）惜しい状況で受賞を逃した。」「小説として十分な出来栄えで、文学賞の選考会というものが、時として奇妙な流れや、他作品との並びの加減で、風に乗れないことがあり、それに関わった委員として容赦を願いたい。」
大沢在昌	61歳	◎	10	「人物の配置がよく考えられており、端役に至るまで、それぞれのエゴイズムを描き分けたという点で、私は高く評価した。主人公の造形には賛否両論あるだろうが、彼女を含め、登場人物を投げださない作者の姿勢には心を打たれた。」
恩田陸	53歳	△	10	「この難しいテーマにきちんと正面から向き合い、人間のグレーゾーンを描いているところに感心した。」「ただ、この作品も『彼方の友へ』と同じく、作者の顔、息遣いがあまり感じられない。個性という言葉を使うのは好きではないが、この人ならではという個性がまだ見えていないように感じたので、強くは推さなかった。」
京極夏彦	54歳	■	21	「極めて今日的かつデリケートなテーマに正面から向き合った作品ではあるし、社会批判となる部分も含めて破綻なく纏められた良作ではあるだろう。但しそうした在り方と、鏤められたミステリ的な企みが無理なく添い遂げているかというと、やや疑問が残る。」「ミステリとして読み進めた場合、反社会的人格の登場人物やその内面描写が単なるガジェットとして「使い捨て」られているようにも読めてしまう。」
重松清	54歳	△	15	「作中にある〈誰かとわかり合うということは、こんなにも難しいことなのか〉の一言は、頁を繰りつつ漏らした評者自身のつぶやきでもある。作家はその難しさから逃げなかった。」「難しさを引き受けたうえで光を見せ、しかも苦みと重みもきちんと残して閉じられる掉尾の数行の余韻は、選評を記すいまもまだ胸に残っている。」
選評出典：『小説現代』平成30年/2018年5月号

『ライオン・ブルー』（平成29年/2017年4月・KADOKAWA刊）

書誌

令和1年/2019年12月・KADOKAWA／角川文庫『ライオン・ブルー』

山本周五郎賞 第31回候補

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　呉勝浩　36歳
選考委員		評価	行数	評言
石田衣良	58歳	□	36	「最終投票の二作に残り、一票差で惜しくも受賞を逃した快作だったね。」「獅子追という街の匂いや、いき場のない切なさがきちんと伝わってくる描写だったよ。」「作者本人も気づいていないかもしれないけど、都市偏重の現代小説にはない、閉塞し切った地方の人と空気を描くという誰もやっていない手法で、呉さんは新たな小説の鉱脈を見つけたのかもしれない。」
荻原浩	61歳	□	33	「田舎の閉塞感と不気味さがじわじわと濁り水みたいに湧き出てくる感じがいい。」「犯行の動機については、ミステリーの場合、死体がころがらなくては読者が納得しないわけだから、よほど不自然でないかぎり言いっこなしだと思う。その点も気になるというほどではなかった。むしろ、きちんと伏線を張りつつ、人間や地域社会のありようもしっかり描いている手腕は素晴らしいと思った。」
角田光代	51歳	■	42	「私がこの小説でもっとも魅力を感じ、この小説でしかその魅力は描けない、と思ったのは、隣接する下鴨町、猪又町という町を含む獅子追郡、そして獅子追町というさびれた町である。ヤクザも警察も地主も役場も建設業者も一町民も、みながごたまぜになって深く重い影を作っている、その薄気味の悪さだ。」「そんななか、毛利や金居のいのちだけが軽く感じられてしまった。それはつまり、それだけのことで殺人を犯すだろうかという点で、私は納得できなかったのだと思う。」
佐々木譲	68歳	◎	45	「主要登場人物の大半を、地方県警の地域課の交番勤務警察官とするという、ある意味でかなり冒険的な試みの警察小説であり、ひとつの交番をここまで徹底的に舞台とした小説もあまりなかったろうと感じさせる野心作だ。」「同時に、この作品はきわめて精緻に組み立てられたミステリーである。とりわけとあるものの行方のトリックは、地域課警察官という登場人物の設定と不可分の仕掛けで、唸るしかなかった。」「選考会では、作品としての完成度は最も高いと本作の受賞を強く推したが、過半数の選考委員の賛同を得られなかった。」
唯川恵	63歳	○	51	「獅子追というさびれた田舎町に泥濘のような気配が淀んでいて、閉塞感に満ちている。主役は町そのものではないかと思えるほど、舞台設定は秀逸だ。」「犯人がわかるクライマックスシーンでは、思わず声を上げてしまった。同時に、果たしてこれで通るのだろうか、と首を傾げてしまった。」「それが引っかかって、本作品を推すことに躊躇いがあった。ところが、他委員の熱い支持を聞いているうちに気持ちは変わっていった。」「ミステリーの約束事を取っ払った意欲作。最終的にはその結論に達して「○」を付けた。」
選評出典：『小説新潮』平成30年/2018年7月号

『マトリョーシカ・ブラッド』（平成30年/2018年7月・徳間書店刊）

書誌

令和4年/2022年5月・徳間書店／徳間文庫『マトリョーシカ・ブラッド』

吉川英治文学新人賞 第40回候補

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　呉勝浩　37歳
選考委員		評価	行数	評言
伊集院静	69歳	■	16	「事件の真相に近づこうとしたヤマ場を迎えた時にそれまで登場しなかった人物、出来事があらわれ、読み手と作者がむかおうとする場所から離れてしまう状況をたびたび読まされることになった。戸惑いも感じたが、それ以上にエンターテイメント小説に欠かせない“一気に突き抜ける小説の醍醐味”が失せてしまった。」
大沢在昌	62歳	■	9	「意欲作だが素材を詰めこみ過ぎたようだ。不可解な動きをする登場人物の女性二人の動機を「愛情」で説明してしまうのにも違和感をもった。」「文句は付けたが、序盤での風呂敷の広げかた、終盤に向けたたみ込む文章など、作者は腕を上げている。」
恩田陸	54歳	■	11	「面白いのだけれど話を詰め込みすぎたと思われる。」「伏線を回収して大きな絵のピースを埋めようとしているのは分かるのだけれど、ピースのサイズがバラバラで今ひとつぴしっと嵌まらないのも居心地が悪い。メインの捜査官三人のキャラクターがそれぞれ面白いだけに、もっと彼らの背景と活躍を突っ込んで読みたかった。」
京極夏彦	55歳	■	14	「二つのパートが交互に語られるというスタイルを採る。所謂ミステリとしての趣向も十分であるが、それぞれのパートでの視点人物の葛藤や成長も丹念に描かれており、キャラクターの造形も魅力的である。惜しむらくは二つのパートが交差した後の処理がもたついてしまったことか。」
重松清	55歳	■	8	「『白い衝動』から評者が強く感じた「人が人を『わかる』ことはできるのか」という問いかけは、本作でも、よりスケールの大きな形で提示される。その真摯さに拍手を贈ったうえで、しかし、本作はやや盛り込みすぎ・急ぎすぎの憾みがあった。また、とりわけ六條クンのパート、時に文章が幼く流れてしまうことがあるのが、評者には気にかかった。」
選評出典：『小説現代特別編集2019年5月号　吉川賞特集』

第162回候補

『スワン』（令和1年/2019年10月・KADOKAWA刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	カバー・背「SWAN」併記
印刷/発行年月日	発行令和1年/2019年10月31日（初版）
発行者等	発行者郡司聡　印刷所旭印刷株式会社　製本所本間製本株式会社
発行所	株式会社KADOKAWA（東京都）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	装丁坂詰佳苗　カバー写真 Zhang Xun/Getty Images
総ページ数	380	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	43字 ×19行 ×1段
本文ページ	5～380 （計376頁）	測定枚数	697枚

書誌

初出『カドブンノベル』令和1年/2019年9月号

令和4年/2022年7月・KADOKAWA／角川文庫『スワン』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　呉勝浩　38歳
選考委員		評価	行数	評言
角田光代	52歳	■	14	「「お茶会」では明らかにされなかった事実が、後半に次々とあわただしく明かされていくとき、「お茶会」の必然性あるいは説得力が薄れ、ラストの銃弾二発の衝撃も、そのあわただしさにのまれてしまう気がして、それはそれでもったいないと思った。」
宮部みゆき	59歳	●	10	「題材・展開・主人公たちのキャラクター、オチのつけ方、全ての点で優等生的に上手なミステリーですが、私にはまったく共感できませんでした。単純に年代差と性差のせいなのかもしれませんが、少し考えてみたいと思います。」
桐野夏生	68歳	■	12	「あらゆる意味で、盛り込み過ぎと感じられた。誰もが追い詰められた状況で、少しずつ嘘を吐いているという設定ならば、登場人物が多過ぎる。」「ちなみに、二発しか発砲できない手製ガンを、どんどん棄てながら進むという発想は面白かった。」
浅田次郎	68歳	■	9	「候補作中、最もわかりやすかった」「ただし、これはわかりやすすぎた。面白くわかりやすいという、すぐれた小説の二大条件をクリアしているのだから、実は最も筋のよい作品と言えるのだが。」
林真理子	65歳	△	18	「のっけから緊迫感をたたえた文章が続く、すぐれた筆力だ。しかし長い時間をかけて解明したわりには、真実がたいしたことがなくかなり落胆してしまった。もうひとつ惜しいことは、ある男性の身元がわかるハイライトシーン。ここはざわざわとした恐怖と驚きが欲しいところであるが、成功しなかった。」
北方謙三	72歳	■	25	「緻密な描写に感心しながらも、撃った方のことがなにも描かれていないのが、とても気になった。」「大量殺人は、極限状況に追いつめられた人間の、行動と心理分析のための道具立てにすぎないのであれば、私の小説観とは合わないのだ。」「作りものという印象が拭いきれず、茶会と称する集まりの人間描写が、強いものを伝えてこないのである。」
高村薫	66歳	●	34	「（引用者注：「落日」と共に）何よりもまず「謎」のつくり方に問題があることを指摘しておきたいと思う。」「最後に明かされる事件の真相は、冒頭の襲撃シーンであえていくつかの主語が隠され、誰が誰か分からない描き方をされたために生じた不明と混乱が、最終的に整理されただけに過ぎない。」
宮城谷昌光	74歳	●	12	「「湖名川シティガーデン・スワン」でおこなわれた無差別殺人を底辺に置いて、被害者、目撃者、関係者などの話を組み立ててゆくという趣向は、いかにも作為的で、作者の計算からはみだしてくるものがないだけに、おもしろみがすくない。」
選評出典：『オール讀物』令和2年/2020年3・4月合併号

吉川英治文学新人賞 第41回受賞

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　呉勝浩　38歳
選考委員		評価	行数	評言
伊集院静	70歳	●	13	「なぜ、これほどの大量殺人をしなくてはならないのかが、前半部でまったくわからないし、その理由が作中に影を感じさせない。それが現代の大量殺人の大半のはじまりと言うのなら、この殺人に窺われる周到さの理由がわからない。」「最終段階で、大量殺戮の理由、登場人物たちの過去があかされるのも、小説の構成としていかがなものかと思った。」
大沢在昌	63歳	○	17	「ミステリとして読むと、破綻しているとまではいわないが苦しい部分が多多ある。」「それでもページを繰る手が止まらなかったという点では候補作中随一であった。謎を追う一方で、イジめた者に対するイジめられた者による赦しというテーマが、ラストの踊りのシーンで浮かびあがる。ごつごつとした、だがはっきり意志を感じさせる作者の挑戦に敬意を表したいと思った。」
恩田陸	55歳	◎	18	「（引用者注：「流浪の月」と共に）推すつもりで選考会に臨んだ。」「あとになってみるといろいろなジャンルがモザイクになっていて、そのつなぎが決してうまくいっているとは言いがたい」「それなのに、それがあまり欠点に感じられないのが、この作者の不思議なところだ。」「一作ごとにチャレンジをして果敢に攻める勇気と、この先も面白いことをやってくれそうだという期待を込めて、受賞作に推した。」
京極夏彦	56歳	□	22	「バランスを欠いた小説である。」「ミステリ的な結構よりそうでない“読まれ方”のほうが優先されてしまう。その場合、往々にして構造そのものが欠陥として機能してしまうケースは多い。本作にもそうした指摘は多々あったが、同時にそれを退けるだけの強引な魅力を備えていたことも疑いようがない。受賞に到った理由を挙げるなら、それはそのバランスを欠いた力なのだろう。」
重松清	56歳	△	22	「ルポルタージュやドキュメンタリーで犯罪被害者の遺族や災害の被災者への取材を重ねてきた立場からすると、惨劇からわずか半年後に開かれた〈お茶会〉への違和感がどうしても拭い去れなかった」「力作であることは間違いないし、選考会でも授賞に反対はしなかった。しかし、「こういう立場からはこう見える」一言だけは申し上げたく、せっかくの受賞作にケチをつけるようなことをあえて書いた。」
選評出典：『小説現代』令和2年/2020年5月号

文量
長篇
章立て
「四月八日　日曜日」「十月」
時代設定	場所設定
2018年	埼玉県湖名川市［架空の町］～松戸
登場人物
●片岡いずみ（バレエ教室に通う女子高生） ●古館小梢（いずみの同級生） ●丹羽佑月（個人投資家、〈湖名川シティガーデン・スワン〉で起きた無差別殺人事件の犯人） ●大竹安和（佑月とSNSで知り合った仲間） ●吉村菊乃（78歳、事業家の未亡人） ●双海幸雄（無差別殺人事件で被害に遭った少年） ●徳下宗平（弁護士） ●波多野晋也（徳下が招集した〈会合〉の参加者） ●鮎川快（高校の教師）

第165回候補

『おれたちの歌(うた)をうたえ』（令和3年/2021年2月・文藝春秋刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	奥付ルビ有り「うた」
印刷/発行年月日	発行令和3年/2021年2月10日（第1刷）
発行者等	発行者大川繁樹　印刷所光邦印刷　製本所大口製本　組版言語社
発行所	株式会社文藝春秋（東京都）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	装丁大久保明子　カバー撮影山元茂樹　カバーモデル富山健　長野県略図上楽藍
総ページ数	598	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	43字 ×20行 ×1段
本文ページ	5～598 （計594頁）	測定枚数	1147枚

書誌

書下ろし

令和5年/2023年8月・文藝春秋／文春文庫『おれたちの歌をうたえ』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　呉勝浩　39歳
選考委員		評価	行数	評言
林真理子	67歳	●	13	「長い物語を読み終えてふと思う。「この人たちはいったい何が目的だったのか」」「元刑事とヤンキーとのわくわくする旅が始まる。いったいどんなことが起きるのかと思ったとたん、急に牧歌的になっていくのもテンションが下がった。」
北方謙三	73歳	●	21	「冗漫とか難解とかいうのではなく、小説の発想そのものが、文学と乖離しているのではないか、と思った。人間の物語のようであって、そうなっていない。」「文学作品を遣った謎解きにも違和感があり、作者がひとりで愉しみすぎているのではないか、と途中で感じたりした。」
角田光代	54歳	■	25	「作者が力を出し切った力作だと思う。」「ただ過去の殺人事件において、千百合が革命グループに心酔していたことがこれほど重要ならば、その革命グループの思想を、既存の知識や印象に頼らずもっと書いたほうが説得力が増すし、なぜ千百合がそこまで熱狂したのかがほんの数行でも書かれていれば、千百合もセイさんも、小説内には姿をあらわさない近藤柾人も、人物が生きたのではないか。」
高村薫	68歳	●	15	「これでもかと詰め込まれた題材・登場人物・エピソード・仕掛けのすべてが未整理で、中心がどんどんずれていってしまう。」「本作はあれもこれもと欲張りすぎて、少々作者の手に余ったか。」
三浦しをん	44歳	■	35	「ぐいぐい拝読した。ただ個人的には、暗号を解けば金塊を手に入れられると思って読み進めたのに、まったく異なる結論に至ったのがやや不満というか、ちょっと「芯がブレている」感じを受けた。当初の目的とちがうものを手に入れてももちろんいいのだが、暗号解読の結論がロマンチックかつスイートすぎるせいかもしれない。」
浅田次郎	69歳	●	6	「多くの場面において小説的ではない映像的な既視感をおぼえた。」
桐野夏生	69歳	■	30	「文章のテンポは悪くないだけに、どんどん景色が変わるように文章だけが先に進み、想像力が追いつかない。つまり、作者が意図的に隠したり、違う方向に誘おうとしているきらいがある。例えば、春子のための復讐でした喧嘩が、案外深刻なものだったという事実は、かなり後で明かされるが、その場面をきちんと書かないのはアンフェアである。千百合の事件も、後から連合赤軍事件と思しき事件が当てはめられるけれど、当時、その事件の中で生きた人間の内面に迫っていない。」
伊集院静	71歳	■	21	「日本列島を震撼させた若者と社会体制の衝突がいまだに小説として描かれうることを示している。」「ただ、この作品が物語として成立するのか？　と私は疑問を感じるし、検証するにたる文章をまだ確立されていないのではという思いを持たざるを得ないことも事実である。」
宮部みゆき	60歳	―	0
選評出典：『オール讀物』令和3年/2021年9・10月合併号

文量
長篇
章立て
「序　昭和四十七年」「第一章　さよならの今日に　令和元年」「第二章　すべての若き野郎ども　昭和五十一年」「第三章　追憶のハイウェイ　令和元年」「第四章　強く儚い者たち　平成十一年」「第五章　巨人　令和元年」「第六章　誰ぞこの子に愛の手を　令和二年」
時代設定	場所設定
昭和47年～令和2年	長野～東京など
登場人物
●河辺久則（デリヘルの雇われ運転手） ●五味佐登志（河辺の幼馴染） ●外山高翔（同） ●石塚欣太（同） ●竹内風花（同） ●竹内三起彦（風花の父） ●竹内千百合（風花の姉） ●岩村清隆（河辺が子供のころの兄貴分） ●茂田斗夢（松本市のチンピラ）

第167回候補

『爆弾(ばくだん)』（令和4年/2022年4月・講談社刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	奥付ルビ有り「ばくだん」
印刷/発行年月日	発行令和4年/2022年4月18日（第1刷）
発行者等	発行者鈴木章一　本文データ制作講談社デジタル製作　印刷所株式会社ＫＰＳプロダクツ　製本所株式会社若林製本工場
発行所	株式会社講談社（東京都）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	装幀高柳雅人　写真 Getty Images
総ページ数	425	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	43字 ×19行 ×1段
本文ページ	3～425 （計423頁）	測定枚数	780枚

書誌

初出『小説現代』令和4年/2022年3月号

令和6年/2024年7月・講談社／講談社文庫『爆弾』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　呉勝浩　40歳
選考委員		評価	行数	評言
浅田次郎	70歳	●	23	「犯罪小説においてはけっしてなおざりにしてはならぬ「命の軽重」についても、配慮不足であると思えた。善良な市民が死ねば大騒ぎなのに、ホームレスの犠牲者は一顧だにされず、犯人の疎外者としての論理性は貧弱で苦悩もついぞ語られることなく、最後までゴミ扱いされてしまったのは、少くとも小説的ではなかった。」
北方謙三	74歳	●	32	「刑事とのやり取りは、緊迫感があり、引きこまれるが、取調室の外になると、散漫だと感じる部分も少なくなかった。結局、緊迫感に急き立てられながら、読了していた。」「テーマ性も強いのだろうが、私はそれを読みとることができない。面白いだけのエンターテインメントだと、微妙に私の小説観とずれ、そういう私が選考委員をしているのは申し訳なく、この作者の不運なのかもしれない。」
宮部みゆき	61歳	■	20	「このページ数だったら、容疑者スズキタゴサクと、彼と対決する刑事一、二名で、取調室から出ない密室ドラマにする手もあったのではないでしょうか。逆に、全ての爆発による被害を克明に描き、大群衆劇に仕立てて、このページ数の上下二巻を読ませてほしかったという気もします。」
三浦しをん	45歳	◎	26	「（引用者注：「女人入眼」と共に）推した。」「取調室で展開される青臭い会話劇を楽しめるかどうかが読者の評価の分かれ目かなと感じたが、私はこういう青臭さがきらいではないので、ぐいぐい拝読した。」「どんでん返しや、タゴサクが出す爆弾にまつわるヒントと解答も、すごくよく練られていて、一級のエンタメ小説として堪能できる。」
高村薫	69歳	●	19	「小説全体があまりに未整理で、最初から最後までスズキタゴサクの冗長なお喋り以外に立ち上がってくる世界がないのは、落丁かと思ったほどだった。ひょっとしたら作者は、タゴサクの造形でエネルギーの八割を使い果たしたか。」
林真理子	68歳	■	12	「ひと息に読んだが、最後に徒労感がわいた。タゴサクが真犯人でなかったことがわかってからだ。彼はあきらかに主犯としての威厳と貫禄と魅力を持って登場していたからだ。それが裏切られ残念である。」
角田光代	55歳	○	48	「すぐれた小説だと思った」「終盤では、悪に引きずられながらも踏みとどまるぎりぎりの善が描かれている。それは悪の対極にある善ではない。悪にかぎりなく近いところで踏みとどまる善だ。その点がすごい作品だと思ったが、犯人と対峙する刑事が大勢登場し、彼らの内面が描かれることで、緊迫を欠いたという声もあり、残念なことに受賞には至らなかった。」
伊集院静	72歳	■	16	「これまで氏が描いて来られた作品とはガラリと様相が変わっていることがよくわかる意欲作であった。」「この作品には、人間の中に宿る悪を捉えようとする作家の覚悟が感じられた。作品の後半で、作家のその意欲がカラ回りをしたのではと思った。」
桐野夏生	70歳	■	20	「スズキタゴサクという人物の魅力に尽きる。」「しかし、尋問する刑事が交代したあたりから、トーンダウンする。」「主人公をうまく練り上げる相手が不在になると、主人公は途端に輝かなくなる。（引用者中略）前半部分と後半部分の落差が激しい。」
選評出典：『オール讀物』令和4年/2022年9・10月合併号

文量
長篇
章立て
「第一部」～「第三部」
時代設定	場所設定
［同時代］	東京
登場人物
●スズキタゴサク（警察の取調室で爆発を予言する男） ●清宮輝次（警視庁捜査一課特殊班捜査係の刑事） ●類家（清宮の部下） ●等々力功（野方警察署の刑事） ●伊勢勇気（同巡査） ●鶴久忠尚（同刑事課長） ●倖田沙良（沼袋交番勤務の巡査） ●長谷部有孔（野方警察署にいた元刑事） ●石川明日香（長谷部の別れた妻） ●辰馬（長谷部の息子）