朝倉かすみ（あさくらかすみ）-直木賞候補作家

第161回

＝受賞者＝
大島真寿美

＝候補者＝
朝倉かすみ
窪　美澄
澤田瞳子
原田マハ
柚木麻子

Last Update●[R4]2022/1/6

	Asakura Kasumi
	生没年月日【注】	昭和35年/1960年～
	経歴	北海道小樽市生まれ。北海道武蔵女子短期大学教養学科卒。
	受賞歴・候補歴	第37回北海道新聞文学賞［創作・評論部門］（平成15年/2003年）「コマドリさんのこと」第72回小説現代新人賞（平成16年/2004年）「肝、焼ける」第30回吉川英治文学新人賞（平成20年/2008年度）『田村はまだか』 \|候補\| 第30回山本周五郎賞（平成28年/2016年度）『満潮』第32回山本周五郎賞（平成30年/2018年度）『平場の月』 \|候補\| 第161回直木賞（平成31年・令和1年/2019年上期）『平場の月』第4回北海道ゆかりの本大賞（令和1年/2019年）『平場の月』
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『田村(たむら)はまだか』（平成20年/2008年2月・光文社刊）

書誌

平成22年/2010年11月・光文社／光文社文庫『田村はまだか』

収録作品

「田村はまだか」「パンダ全速力」「グッナイ・ベイビー」「きみとぼくとかれの」「ミドリ同盟」「話は明日にしてくれないか」

吉川英治文学新人賞 第30回受賞

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　朝倉かすみ　48歳
選考委員		評価	行数	評言
浅田次郎	57歳	△	9	「来るべき人間がなかなか来ないという、ある不安定な時間に想像力を働かせた小説で、この設定ひとつにしてもまことセンスがよい。」「欲を言えば、田村は永遠に到着しないほうがむしろ小説の形を全うできたと思うのだが、さてどうだろう。」
伊集院静	59歳	○	15	「候補作の中で一番安堵して読むことができた。どこにでもあるようなちいさな存在である人の集まりに、誰でもが経験し、大切にしてきた記憶があり、その時間に奇妙なかがやきがある。それが人間、群像であるということを作者は心得ている。いや信じているのではなかろうか。」
大沢在昌	52歳	○	12	「実は作者は周到な仕掛けを、そのありがち（原文傍点）の中に潜ませている。また、この作品に単純な感動や癒しはなく、むしろ心の内側のヒダを爪でひっかいてくるような感触があり、それが不快ではない。作者独特の才能といえるだろう。」
高橋克彦	61歳	△	18	「（引用者注：『ジョーカー・ゲーム』と）同時受賞となったのは、たぶんすべての選考委員に私とおなじ気持ちがあったからではないかと思う。（引用者中略・注：短編は）おなじまな板にのせられれば豊饒な長編に見劣りしてしまうのも確かで、今回の結果はそういう思いの表われではなかろうか。」
宮部みゆき	48歳	□	15	「自分だったらどう書くかという議論にまで発展し、それだけ内圧の高い作品だったということです。」「実は私は『新世界より』を推したかったので、「田村を待たない（原文傍点）人物のベクトルが、どこか一ヵ所でいいから欲しかった」という嫁いじめみたいな発言をしたのですが、これは苦しいやりくり（原文傍点）でした。」「小説でないと書けないものを書いた素敵な小説です。」
選評出典：『小説現代』平成21年/2009年5月号

『満潮(まんちょう)』（平成28年/2016年12月・光文社刊）

書誌

令和1年/2019年7月・光文社／光文社文庫『満潮』

山本周五郎賞 第30回候補

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　朝倉かすみ　56歳
選考委員		評価	行数	評言
石田衣良	57歳	●	29	「ぼくは小道具やネーミングの選択にイマイチ乗れなかったな。そこは作家の腕の見せどころだよね。」「まあ、いつの時代の話かわからない感はあったね。バブル期なのかなと錯覚した。」「それとこのふたりのあいだに肉体関係があったのか、ラストに殺人があったのかも、ぼかして書かれていて、よくわからない。だいたいヒロインが空っぽすぎるよ。」
荻原浩	60歳	■	39	「繊細な文章が眉子さんの「痛さ」をうまく強調しているし、次々と変わる語り手が、眉子さんの歪んでいく過程をさりげなく明かしていく構成も面白いと思った、のだが。」「全編、ただ「痛い」のだ。痛すぎる。」「小説家としての能力が高い人だというのは読めばわかるけれど、この作品に関しては、いい素材を使い技巧も凝らした創作料理を立て続けに出されて、お茶漬けも食わせてくれ、と音をあげた、そんな感じだ。」
角田光代	50歳	■	31	「（引用者注：登場人物の眉子、茶谷、真壁直人）彼ら三者三様の過剰と欠損の入り交じる異様さが、この小説独特の牽引力となっている。」「引きずられていくのはじつに快感なのだが、しかし、三人は、本当には関わりを持たないまま終わってしまったような不思議な印象を抱いた。強力に引っ張られて連れてきてもらった場所がどこなのか、わからないのである。」
佐々木譲	67歳	■	54	「いったい具体的には何があったのか、それを知ろうと読者はページをめくることになる。それをさせる朝倉さんの技量は大変なものだが、ただ、けっきょく、何が、というか、なぜストーリーがそこに至ったのか、確信はできなままに物語は終わってしまった。」「物語の解釈を読者に委ねる終わり方は特別稀な手法ではないが、やはりやや手がかりが不足していたと感じる。」
唯川恵	62歳	■	28	「この文章は個人的にはとても好きで、はまると中毒になるような個性があった。」「他者の証言によって、ふたりの輪郭が少しずつ鮮明になってきたところで、当の本人たちが登場する。すると、逆に存在がぼやけてしまう。」「そして結末は、こうあって欲しくないと思うところに辿り着いてしまい、正直なところ、衝撃的というより残念感の方が強かった。」
選評出典：『小説新潮』平成29年/2017年7月号

第161回候補

『平場(ひらば)の月(つき)』（平成30年/2018年12月・光文社刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	カバールビ有り「ひらば」　奥付ルビ有り「ひらば」「つき」
印刷/発行年月日	発行平成30年/2018年12月20日（初版第1刷）
測定媒体発行年月日	発行令和1年/2019年5月30日（7刷）
発行者等	発行者鈴木広和　組版萩原印刷　印刷所堀内印刷　製本所フォーネット社
発行所	株式会社光文社（東京都）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	装幀泉沢光雄　装画田雜芳一
総ページ数	245	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	43字 ×19行 ×1段
本文ページ	5～245 （計241頁）	測定枚数	438枚

書誌

書下ろし

令和3年/2021年11月・光文社／光文社文庫『平場の月』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　朝倉かすみ　58歳
選考委員		評価	行数	評言
高村薫	66歳	■	14	「評者は、五十代にしてはあまりに身軽な主人公の男女が終始三十代にしか見えず、この平場は結局ファンタジーかと少々鼻白んだ。」
桐野夏生	67歳	○	17	「独特のリズムを持つ、切れのいい文章と、的確な描写。」「ドラマ性をわざと排除した構成も、恋人同士それぞれの遠慮と覚悟を象徴していて秀逸だったと思う。受賞を逃したのは、返す返すも残念だ。」
宮城谷昌光	74歳	■	12	「読みはじめたとき、わかりにくい描写をするものだととまどった。」「平凡なのか非凡なのかわからない人生観につきあわされたあと、これが変形の恋愛小説であるとわかった。なにが新味であったのかわかりづらい小説である。」
林真理子	65歳	◎	30	「（引用者注：「マジカルグランマ」と共に）二作を推そうと選考会にのぞんだ。」「不運のうちに生きてきた中年の男女が、少しずつ距離を縮めていく過程が、実にこまやかに描かれている。何よりも文体が素晴らしく、抑制がきいていながら不思議なリズムがかすかに聞こえてくる。」「しかし選考会では思いの外、票を集めることが出来ず非常に残念であった。」
浅田次郎	67歳	■	12	「日本文学の王道を歩むような作品である。苦悩を抱えた日常を淡々と、一視点もしくは一人称で綴ってゆく。だが、こうした小説には「視点者の深い思慮」という条件がつく。そのあたり、どうも登場人物が物を考えていないように思えた。それが現実なのかもしれないが。」
伊集院静	69歳	△	22	「まずタイトルがイイと思った。次に青砥と須藤の会話の妙に感心させられた。」「彼女の死が全編の中で重要な位置をしているのがわかり、そこに作者の意図があるのなら、小説の在り方として、仕掛けのようなものが感じられて、青砥と須藤の間で交わされる会話、行動に朴訥なものが失せる気がした。それでもなお才気は光った。」
北方謙三	71歳	△	20	「精緻な作品で、細かい描写の中に立ちあがってくるイメージが、実に秀逸であった。」「一隅を見つめる視線を、愚直に貫いて欲しかった。平場とタイトルにまで出してあるが、病気、闘病、死は、平場ではないのである。」
宮部みゆき	58歳	△	35	「ともかく小説が巧い、文章が巧い、会話が巧い。」「なのに一番に推せなかったのは、青砥と須藤それぞれの過去、少女期の須藤が青砥をふってしまった原因でもある彼女の両親の修羅場、何を知っても青砥のなかの須藤への想いが変わらないこと、それらの大切な要素に、どうにも既視感がつきまとって仕方なかったからです。ネットの家庭板の「まとめ」でよく見かけるお話だよなあと感じてしまいました。」「既視感を消してしまうほどの「朝倉節」が聞こえてこないのが残念だった」
東野圭吾	61歳	□	31	「小説自体を高く評価することに異論はないが、愛する人に甘えないというヒロインの選択を、「潔い」などと賞賛してはならないと強く思う。今この瞬間にも難病と闘っている人たちのためにも、このヒロインの選択は哀しい過ちであり、本来癌サバイバーは周囲に大いに甘えてよいのだ、ということを何らかの形で示してほしかった。」「（引用者注：「渦」「平場の月」「トリニティ」の3つのなかで）結局、どれが受賞すれば華やかか、直木賞がお祭りになりそうか、という文学性とは全く関係のない尺度で、（引用者中略）『平場の月』に△を付けた。」
選評出典：『オール讀物』令和1年/2019年9・10月合併号

山本周五郎賞 第32回受賞

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　朝倉かすみ　58歳
選考委員		評価	行数	評言
石田衣良	59歳	○	45	「これこそデフレ下の恋愛そのものじゃないかな。主人公が軽自動車（タント！）に乗ってるラブストーリーは初めて読んだ。」「明日に希望はなく、金もなく、五十を過ぎてユニクロばかり着ていても、恋はできる。今の時代への、ものすごくポジティブなメッセージを感じたよ。」「ぼくは古典的な難病もの恋愛小説に、デフレ時代の設定を上手に織りこんだうえで、主人公・青砥に寄せた口語体に近い新しい文体をつくりだしたことが、朝倉さんの勝因だったと思う。」
荻原浩	62歳	◎	35	「文体がいい。とくにセリフ。各章の見出し（原文ルビ：タイトル）に、須藤の物語中のセリフをそのまま使っているのもいい感じだ。」「けっして美しい話ではなく、作者も美しく描こうとはしていない。それなのに美しい。恋愛ってそういうもんだよな（美しい誤解なんていう、ひねくれ汚れた気持ちではなく、素直に）、そう思わせてくれる。」「文章力、物語る力、隅々に感じる作品への気合の入り具合、どれもが○。」
角田光代	52歳	○	44	「文章のうまさに幾度もうならされた。（引用者中略）ひたすらに文章がみごとである。」「恋愛と死別という題材はじつにたくさん小説に用いられていて、そのことをもちろん熟知しているはずの作者がこの題材を選んだのは、きっと強い理由があってのことなのだろう。」「でも、ではなぜ、作者はあえてこの題材に挑んだのかがちょっとわからなかった。そのために、このみごとな小説が、そのみごとさを超えて迫ってこずに、ラストのシーンで急に小説が遠のいてしまったように感じられた。」
佐々木譲	69歳	◎	56	「なにより時代を正面から見据えようとする志の高い小説として、まず語りたくなる。」「お洒落な恋愛小説よりもはるかに志と腕が問われる回答を、朝倉さんはわたしたちに提示してくれた。」「取り上げた題材の同時代性と、ストーリーテリングの巧みさ、そして文章の魅力、レトリックの豊かさに脱帽した。地名や固有名詞が頻出するけれども、バブル期の風俗小説のそれと違って、その暗喩性、象徴性が主題に呼応し、じつに効果的である。」
唯川恵	64歳	◎	37	「最初からこの作品を推そうと決めて、選考会に臨んだ。」「須藤は死ぬ。それは冒頭で明かされている。始めは気になったが、読み進めてゆくうちに納得した。物語は主人公の青砥の視点で進められるが、結末を知る読み手は、逆に須藤を通して青砥を見つめることになる。だから後半、須藤の一挙手一投足にどれほど意味が込められているのかを知ることができるのだ。」「出だしが少しわかりにくいのと、エピソードの繰り返しが気になったが、瑕疵となるほどではなく、一回目の投票で選考委員の意見が一致し、受賞は呆気ないほどあっさり決まった。」
選評出典：『小説新潮』令和1年/2019年7月号

第161回推薦候補

大衆選考会での推薦

推薦者	推薦日	推薦文
にいこ	令和1年/2019年6月24日	これしかない！！
木の芽	令和1年/2019年7月2日	文が美しいです。
百獣の王子	令和1年/2019年7月9日	素晴らしい、大人の綺麗な恋！
yta	令和1年/2019年7月12日	久し振りに本を読んで泣いた

文量
長篇
章立て
一「夢みたいなことをね。ちょっと」二「ちょうどよくしあわせなんだ」三「話しておきたい相手として、青砥はもってこいだ」四「青砥はさ、なんでわたしを『おまえ』って言うの？」五「痛恨だなぁ」六「日本一気の毒なヤツを見るような目で見るなよ」七「それ言っちゃあかんやつ」八「青砥、意外としつこいな」九「合わせる顔がないんだよ」
時代設定	場所設定
同時代	埼玉～東京
登場人物
●青砥健将（印刷会社勤務、50歳） ●須藤葉子（中央病院の売店勤務、青砥の昔の同窓生） ●安西知恵（旧姓・橋本、青砥の勤める印刷会社パートタイマー、同窓生） ●ウミちゃん（中央病院の売店勤務、同窓生） ●ヤッソさん（青砥の勤める印刷会社の派遣、60代独身） ●みっちゃん（須藤の妹）