第161回

第160回第162回

平成31年・令和1年/2019年上半期 令和1年/2019年7月17日決定発表／『オール讀物』令和1年/2019年9・10月合併号選評掲載

選考委員　 高村薫 66歳 桐野夏生 67歳 宮城谷昌光 74歳 林真理子 65歳 浅田次郎 67歳 伊集院静 69歳 北方謙三 71歳 宮部みゆき 58歳 東野圭吾 61歳 選評総行数　 102 103 94 95 85 103 100 145 150 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 大島真寿美　『渦　妹背山婦女庭訓 魂結び』 620枚 56歳 評 ◎ 20 ○ 30 △ 15 △ 18 ■ 14 ○ 24 △ 26 ○ 33 △ 31 朝倉かすみ　『平場の月』 438枚 58歳 評 ■ 14 ○ 17 ■ 12 ◎ 30 ■ 12 △ 22 △ 20 △ 35 □ 31 窪美澄　『トリニティ』 855枚 53歳 評 ○ 15 △ 16 ■ 15 ● 9 ○ 20 △ 28 ○ 25 ■ 18 ○ 27 澤田瞳子　『落花』 690枚 41歳 評 ● 13 ■ 14 △ 18 ■ 7 △ 12 ― 0 ● 12 △ 20 ■ 18 原田マハ　『美しき愚かものたちのタブロー』 737枚 57歳 評 ● 14 ● 12 ○ 23 ■ 14 △ 16 ― 0 ■ 10 ■ 20 ● 15 柚木麻子　『マジカルグランマ』 548枚 37歳 評 ■ 9 △ 14 ■ 11 ◎ 15 △ 8 ― 0 ■ 12 ■ 18 ■ 17                   年齢/枚数の説明   見方・注意点

高村薫66歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数102　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 大島真寿美 56歳 全 ◎ 20 「作家と素材の幸運な出会いが生んだ傑作だと思う。浄瑠璃という素材が作者の言語感覚を刺激し、表現を引き出して、大阪弁の一人語りと浄瑠璃の台詞と道頓堀の賑わいの声などが渾然一体となった言語空間に結実しているのは、まさに創作の奇跡というものでもある。」 朝倉かすみ 58歳 全 ■ 14 「評者は、五十代にしてはあまりに身軽な主人公の男女が終始三十代にしか見えず、この平場は結局ファンタジーかと少々鼻白んだ。」 窪美澄 53歳 全 ○ 15 「高度成長期に訪れた「女の時代」を、行き届いた時代考証とともに群像劇にしていて、十分に面白い。」「もともと等身大の女性を描くことに長けている作者が、社会史的な視野を新たに獲得した意欲作だと思う。」 澤田瞳子 41歳 全 ● 13 「千年以上昔の平将門の騒乱を、またしても現代の筆致で血沸き肉躍る劇画に仕立てようとして破綻している。」 原田マハ 57歳 全 ● 14 「いささか未整理の表題と同じく、物語自体も焦点が定まっていない。」「主役の印象派の絵画についても、それに魅せられた人間たちについても、展覧会のパンフレットの解説の域を出ていない。」 柚木麻子 37歳 全 ■ 9 「この作者の持ち味である過激な物語が、ハリウッド風コメディのノリの良さにうまく変換され、読者を十分楽しませるが、残念ながら読後感は薄い。肩の力を抜きすぎである。」   「この三十年間、エンターテインメント小説の主流となってきたドラマ性のあるストーリーや大仕掛けのスペクタクルが、一つの区切りを迎えたのかもしれない――奇しくもそんな思いに駆られる令和初の選考会となった。」

他の選考委員 桐野夏生 宮城谷昌光 林真理子 浅田次郎 伊集院静 北方謙三 宮部みゆき 東野圭吾

桐野夏生67歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数103　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 大島真寿美 56歳 全 ○ 30 「浄瑠璃作者・近松半二の、浄瑠璃を中心に回る日々。軽妙な大阪弁で緩和されてはいるものの、その創作の様は息苦しいほどである。最後の「浄瑠璃腹がくちくなる」という台詞は、虚構にまみれることに倦んだ者の台詞として素晴らしかった。我々も、小説腹がくちくなる時がくるのだろうか。」 朝倉かすみ 58歳 全 ○ 17 「独特のリズムを持つ、切れのいい文章と、的確な描写。」「ドラマ性をわざと排除した構成も、恋人同士それぞれの遠慮と覚悟を象徴していて秀逸だったと思う。受賞を逃したのは、返す返すも残念だ。」 窪美澄 53歳 全 △ 16 「資料を駆使して三人の登場人物を書き分けていくと、どうしても年表風になって、虚構が帯びる熱量のようなものが希薄になりがちだ。時代の先端を駆け抜けていったはずの主人公たちに、今ひとつ幸福や華やぎが感じられないのは、そのせいかもしれない。」 澤田瞳子 41歳 全 ■ 14 「香取の海に浮かぶ傀儡女船などディテールも面白かった。だが、琵琶を求める千歳は、物語の展開に真に必要な人物だっただろうか。むしろ、平将門という魅力的な人物を、もっと読みたかったように思う。」 原田マハ 57歳 全 ● 12 「松方コレクションを作った松方幸次郎本人についてなのか、松方コレクションの辿った数奇な運命についてなのか、コレクションを取り戻す話なのか、何を目指しているのかが、よくわからなかった。」 柚木麻子 37歳 全 △ 14 「マジカルキャラクターとしての「老婆」を否定してみせる『マジカルグランマ』は、いかにも柚木麻子さんらしい切り口であると、好意的に読んだ。借金返済のために、自宅をホーンテッドマンションにしようという思い付きは愉快だが、明るく現実的なだけでは、まだまだマジカル度からは抜け切れていないように思われる。」

他の選考委員 高村薫 宮城谷昌光 林真理子 浅田次郎 伊集院静 北方謙三 宮部みゆき 東野圭吾

宮城谷昌光74歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題新ジャンルの開拓　総行数94　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 大島真寿美 56歳 全 △ 15 「手練を想わせる語り口で、独特の世界を描いている。が、みかたをかえれば、この小説は独白がつづいているようなもので、巧い落語家の話をきいているようであった。近松半二は舞台と客席に対位法をもちこんだといわれており、それらしきしかけがこの小説にあったか、と問うているところである。」 朝倉かすみ 58歳 全 ■ 12 「読みはじめたとき、わかりにくい描写をするものだととまどった。」「平凡なのか非凡なのかわからない人生観につきあわされたあと、これが変形の恋愛小説であるとわかった。なにが新味であったのかわかりづらい小説である。」 窪美澄 53歳 全 ■ 15 「過去形と現在進行形が交差する構成ではあるが、文章がよいので、読みやすい。しかしながら、私はなぜか迫力不足を感じた。小説が計算されすぎていたせいかもしれない。」 澤田瞳子 41歳 全 △ 18 「氏の知識欲の旺盛さには感心させられるが、それが小説世界を濁らせる場合もあるので、秘すれば花、という書きかたも考えてもらいたい。が、歴史小説作家は死ぬまで学びつづけるものであり、それについてあえていう必要のない作家である、と私はみている。」 原田マハ 57歳 全 ○ 23 「松方コレクションがどのように買われ、どのように戦火をまぬかれ、どのようにフランスから寄贈返還されたかが明瞭に書かれている。創作の主旨が明確であり、筆致も落ち着いている。」「コレクションを守りぬいた日置釭三郎の陰の偉業を作者は顕彰したかったにちがいなく、それは成功しているとみた。」 柚木麻子 37歳 全 ■ 11 「小説全体が明るい色調を保っているので、深刻な場面でも陰翳がとぼしい。それが作者自身の人生観の反映であろうし、それをよしとする読者もすくなくあるまいが、私としては不満であった。」

他の選考委員 高村薫 桐野夏生 林真理子 浅田次郎 伊集院静 北方謙三 宮部みゆき 東野圭吾

林真理子65歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題楽しくかつ難しく　総行数95　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 大島真寿美 56歳 全 △ 18 「連作という形はこの作品に合っているのか疑問だ。短篇が完結することによって、小さなうねりがいったんおさまり、巨大なうねりとなってこないのである。また関西弁は芸道ものととても相性がいい。相性がよすぎてやや饒舌となっているのが気になったが、この体を揺らすような文体は大島さんのお手柄であろう。」 朝倉かすみ 58歳 全 ◎ 30 「（引用者注：「マジカルグランマ」と共に）二作を推そうと選考会にのぞんだ。」「不運のうちに生きてきた中年の男女が、少しずつ距離を縮めていく過程が、実にこまやかに描かれている。何よりも文体が素晴らしく、抑制がきいていながら不思議なリズムがかすかに聞こえてくる。」「しかし選考会では思いの外、票を集めることが出来ず非常に残念であった。」 窪美澄 53歳 全 ● 9 「モデルとなった女性たちや出版社を知っている者としては、「違うかな」という感想を持った。女性たちの描かれ方もステレオタイプで、当時のあのいきいきとした喧騒が描かれていない。」 澤田瞳子 41歳 全 ■ 7 「のびのびとした達者な筆致である。この時代の小説は珍しくひと息に読んだが、何かあるとその当事者が現れるという、都合のよさが気にかかる。」 原田マハ 57歳 全 ■ 14 「「惜しい」のひと言だ。」「これほど面白い材料を揃えながら、どうして小説全体がパワーを持たないのか。」 柚木麻子 37歳 全 ◎ 15 「（引用者注：「平場の月」と共に）二作を推そうと選考会にのぞんだ。」「この作者のいいところが全開となった。ストーリィーテラーとしての才能、ことにハリウッドを巻き込んでの「大風呂敷」には感嘆した。」   「今回の直木賞は、候補の作家が全員女性ということで話題をまいた。が、女性とひと括りにされても、どれも作風が全く違い、選考は楽しく、かつ難しかった。」

他の選考委員 高村薫 桐野夏生 宮城谷昌光 浅田次郎 伊集院静 北方謙三 宮部みゆき 東野圭吾

浅田次郎67歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題甲乙つけがたく　総行数85　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 大島真寿美 56歳 全 ■ 14 「推せなかった理由は、ほとほと感心して読みながらも、あまりに大衆文学としての普遍性を欠くと考えたからである。」「いったいどれほどの読者の理解を得られるかと思えば、ためらいが先に立った。」 朝倉かすみ 58歳 全 ■ 12 「日本文学の王道を歩むような作品である。苦悩を抱えた日常を淡々と、一視点もしくは一人称で綴ってゆく。だが、こうした小説には「視点者の深い思慮」という条件がつく。そのあたり、どうも登場人物が物を考えていないように思えた。それが現実なのかもしれないが。」 窪美澄 53歳 全 ○ 20 「迷った末に私が推したものは窪美澄氏「トリニティ」である。」「作者の年齢からすると少し前の時代、私をはじめ選考委員の多くにとっては実体験した時代という設定は相当に難しいはずだが、細部までよく考証がなされていたと思う。そしていつものことながら、作者の紡ぐ苦労譚には説得力がある。フレームストーリーをもう少し生かして、バランスのいい構造になっていれば、と惜しまれた。」 澤田瞳子 41歳 全 △ 12 「壮大な小説を最後までぬかりなく書き切った。」「もっとも、新聞連載小説が直木賞の候補に上ることは稀で、作者はそれだけの力量を認められているのだが、一方では単行本化されてもその発表媒体が見えてしまっていた。」 原田マハ 57歳 全 △ 16 「これまで絵画をテーマにしてきた作品の中で、最も作者の手に合っているのではあるまいか。」「ただしフィクションとして読むには、その登場人物たちの描写に遠慮があり、生々しさを欠くように思えた。」 柚木麻子 37歳 全 △ 8 「実に面白く読んだ。たとえ文学賞の候補にならなくても、書店で買い求めて読む作家のひとりである。このすばらしい才能を、どのように制御し、かたちにするか。」   「どの作品が受賞してもおかしくはない、と思える難しい選考会であった。」

他の選考委員 高村薫 桐野夏生 宮城谷昌光 林真理子 伊集院静 北方謙三 宮部みゆき 東野圭吾

伊集院静69歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数103　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 大島真寿美 56歳 全 ○ 24 「文章も読み易く、関西弁の持つ独特の軽妙さ、頑固さ、卑らしさがよく伝わってきた。」「この作品で何より感心したのは、前半部のお末が語る言葉である。「あのな、阿呆ぼん、教えたろか。いったんおなごがその気になったら、誰でも色男になってしまうんやで」これがその辺りの新人には書けない。」 朝倉かすみ 58歳 全 △ 22 「まずタイトルがイイと思った。次に青砥と須藤の会話の妙に感心させられた。」「彼女の死が全編の中で重要な位置をしているのがわかり、そこに作者の意図があるのなら、小説の在り方として、仕掛けのようなものが感じられて、青砥と須藤の間で交わされる会話、行動に朴訥なものが失せる気がした。それでもなお才気は光った。」 窪美澄 53歳 全 △ 28 「前半部、素晴らしい展開、構成だと感心した。ただ読み進めているうちに、登場する人物がかつて実在した人ではと思うことがしばしばあった。」「六〇年安保の記述で登場人物が洩らした言葉に疑問を抱いた。作家それぞれの政治観、時代観があってしかるべきだが、三人の女性をここまで書き上げているのなら、その洩らした言葉に何らかのフォローがあってしかるべきではと思った。」 澤田瞳子 41歳 全 ― 0   原田マハ 57歳 全 ― 0   柚木麻子 37歳 全 ― 0     「今回のように候補作すべてが女性作家によるものとなってしまうと、男である私はいささか淋しい気がした。それでも候補作を読むと、それぞれ読みごたえのある作品だった。」

他の選考委員 高村薫 桐野夏生 宮城谷昌光 林真理子 浅田次郎 北方謙三 宮部みゆき 東野圭吾

北方謙三71歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題票が割れた　総行数100　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 大島真寿美 56歳 全 △ 26 「私はこの作品に、表現者たちの熱気の渦は強く感じた。ただそれは芸人たちの熱気のようであり、近松半二もその中に入っているのだった。」「文楽に詳しい読者の心を動かしても、私のように無知のまま読んだ人間を動かすだけの普遍性は持ち得ていなかったと思う。」 朝倉かすみ 58歳 全 △ 20 「精緻な作品で、細かい描写の中に立ちあがってくるイメージが、実に秀逸であった。」「一隅を見つめる視線を、愚直に貫いて欲しかった。平場とタイトルにまで出してあるが、病気、闘病、死は、平場ではないのである。」 窪美澄 53歳 全 ○ 25 「時代的には、私はぴったりとこの作品に重なってしまうのだが、特に違和感や共鳴というものはなかった。」「相当の力業だが、こんなふうにオーソドックスな手法で、正面から切りこんでくる小説が、私は好きである。決選投票では、この作品に票を投じた。」 澤田瞳子 41歳 全 ● 12 「主人公の造形に首を傾げた。寛朝の情念が、坂東の大地に食い入ることがない。ひたすら音を求め、それは言葉で説明されていくだけなのである。」 原田マハ 57歳 全 ■ 10 「松方幸次郎のディレッタントの部分が強く出すぎているのが、私には不満であった。」「コレクションを守り抜いた男の存在感が、私には印象的であった。」 柚木麻子 37歳 全 ■ 12 「悲惨なものもプラスに展開していくという、小説的快感とも呼ぶべきものがあった。ただ、これが痛快なものにまで高まることはなく、どこかで細部にこだわり、無駄なてらいが出たような気がした。」   「候補に結構な力作が並び、迷いに迷って評価に苦しむことがある。今回は、それに近かったという気がする。つまりは、豊作だったと言えるのかもしれない。」「（引用者注：「渦」「平場の月」「トリニティ」の）三作は同点で並び、しかも過半数の評点に達していなかった。」

他の選考委員 高村薫 桐野夏生 宮城谷昌光 林真理子 浅田次郎 伊集院静 宮部みゆき 東野圭吾

宮部みゆき58歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題慈愛に満ちた世界　総行数145　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 大島真寿美 56歳 全 ○ 33 「私は人形浄瑠璃はもとより歌舞伎にも疎い不勉強者なので、最初のうちは敷居が高く、おそるおそるという感じだったのですが、大島さんの筆による近松半二の明るい人柄に惹きつけられ、すぐに読むのが楽しくなりました。」「たとえば半二の師匠である吉田文三郎の晩節など悲しくやりきれないところもあるのですが、それが作品全体を暗くしていません。一行一行、隅々まで、大島さんの慈愛の光に照らされているからです。」 朝倉かすみ 58歳 全 △ 35 「ともかく小説が巧い、文章が巧い、会話が巧い。」「なのに一番に推せなかったのは、青砥と須藤それぞれの過去、少女期の須藤が青砥をふってしまった原因でもある彼女の両親の修羅場、何を知っても青砥のなかの須藤への想いが変わらないこと、それらの大切な要素に、どうにも既視感がつきまとって仕方なかったからです。ネットの家庭板の「まとめ」でよく見かけるお話だよなあと感じてしまいました。」「既視感を消してしまうほどの「朝倉節」が聞こえてこないのが残念だった」 窪美澄 53歳 全 ■ 18 「奈帆という、今現在を挫折しながら生きている女性を案内役にしたのは、読者がスムーズに過去に戻れるようにという計らいと思いますが、そのために全体が長くなり、語りが遠回しになってしまったかなと感じました。」 澤田瞳子 41歳 全 △ 20 「『落花』は確実に点数を得るだろう――と確信して選考会に臨みました。時代精神というものは、それを実現させようと立ち上がる「少しだけ早く目覚めてしまった個人」に対して、おそろしく非情であること。しかし夢破れた敗者にも、芸術だけは寄り添ってくれること。この二つのテーマに感動したからです。」 原田マハ 57歳 全 ■ 20 「松方幸次郎の半生を描いているこの作品の大きな構成の中で、誰にも知られぬままそれを戦禍から守り抜いた日置釭三郎とその妻のドラマを描いた後ろの百ページ余の部分が乖離しているように感じました。」 柚木麻子 37歳 全 ■ 18 「柚木さんは本当にサービス精神に富んでいて、次から次へと面白いアイデアを繰り出してくる作家です。この作品では、作中に個性的な人物や新鮮なアイデアを盛り込みすぎていて、結果的に主人公の正子さん＝マジカルグランマがあんまり目立たなくなってしまいました。」   「今回もまた候補作のレベルが高く、悩みました。」

他の選考委員 高村薫 桐野夏生 宮城谷昌光 林真理子 浅田次郎 伊集院静 北方謙三 東野圭吾

東野圭吾61歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数150　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 大島真寿美 56歳 全 △ 31 「物語を紡ぐ者として同意できる部分が多々あり、楽しめた。」「瞠目したのは大阪弁の達者さで、読んでいて全く違和感がなかった。」「扱っている題材が一般の人には馴染みのない世界だという理由と、自分が大阪出身だから読みやすかったのではないかという疑念から、（引用者注：「渦」「平場の月」「トリニティ」の3つのなかで）三番手とした。」 朝倉かすみ 58歳 全 □ 31 「小説自体を高く評価することに異論はないが、愛する人に甘えないというヒロインの選択を、「潔い」などと賞賛してはならないと強く思う。今この瞬間にも難病と闘っている人たちのためにも、このヒロインの選択は哀しい過ちであり、本来癌サバイバーは周囲に大いに甘えてよいのだ、ということを何らかの形で示してほしかった。」「（引用者注：「渦」「平場の月」「トリニティ」の3つのなかで）結局、どれが受賞すれば華やかか、直木賞がお祭りになりそうか、という文学性とは全く関係のない尺度で、（引用者中略）『平場の月』に△を付けた。」 窪美澄 53歳 全 ○ 27 「とにかく登場する女性たちの生き様がかっこよかった。男子の流行をリードしていた男性雑誌を、男女差別に耐えながら女性たちが支えていたという裏話も面白い。」「（引用者注：「渦」「平場の月」「トリニティ」の3つのなかで）結局、どれが受賞すれば華やかか、直木賞がお祭りになりそうか、という文学性とは全く関係のない尺度で、『トリニティ』に○を（引用者中略）付けた。」 澤田瞳子 41歳 全 ■ 18 「主人公としてこの人物を選んだことに同意できない。常に安全地帯に身を置き、誰からも攻撃されず、特に乗り越えるべき具体的な苦難もないとなれば、感情移入して緊迫感を味わうのは難しい。如意という女性や千歳の生き様のほうが、はるかにドラマチックではないか。」 原田マハ 57歳 全 ● 15 「どんなに断り書きがあろうとも、フィクションとして読むのは困難だった。」「実話部分を減らし、資料が少ない日置という人物に絞って書けば、違ったものになったのではないだろうか。」 柚木麻子 37歳 全 ■ 17 「柚木さんのこれまでの候補作と比べても、格段に面白く、出来がよかった。推せなかったのは、社会現象や群集心理のシミュレーションに同意できなかったからだ。」「リアリティ云々を吹っ飛ばす馬力がもう少しあればと思う。」   「今回はレベルが高かった。どれが受賞してもおかしくなかった。」「この委員に任期はないらしいのだが、思うところがあり、今回で退任させてもらうことになった。（引用者中略）明らかに自分よりも実力があると思える方々の作品を評価するのは、難しく、気恥ずかしいことでもあった。」

他の選考委員 高村薫 桐野夏生 宮城谷昌光 林真理子 浅田次郎 伊集院静 北方謙三 宮部みゆき

大島真寿美56歳×各選考委員　 『渦　妹背山婦女庭訓 魂結び』 長篇 620枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 高村薫 66歳 全 ◎ 20 「作家と素材の幸運な出会いが生んだ傑作だと思う。浄瑠璃という素材が作者の言語感覚を刺激し、表現を引き出して、大阪弁の一人語りと浄瑠璃の台詞と道頓堀の賑わいの声などが渾然一体となった言語空間に結実しているのは、まさに創作の奇跡というものでもある。」 桐野夏生 67歳 全 ○ 30 「浄瑠璃作者・近松半二の、浄瑠璃を中心に回る日々。軽妙な大阪弁で緩和されてはいるものの、その創作の様は息苦しいほどである。最後の「浄瑠璃腹がくちくなる」という台詞は、虚構にまみれることに倦んだ者の台詞として素晴らしかった。我々も、小説腹がくちくなる時がくるのだろうか。」 宮城谷昌光 74歳 全 △ 15 「手練を想わせる語り口で、独特の世界を描いている。が、みかたをかえれば、この小説は独白がつづいているようなもので、巧い落語家の話をきいているようであった。近松半二は舞台と客席に対位法をもちこんだといわれており、それらしきしかけがこの小説にあったか、と問うているところである。」 林真理子 65歳 全 △ 18 「連作という形はこの作品に合っているのか疑問だ。短篇が完結することによって、小さなうねりがいったんおさまり、巨大なうねりとなってこないのである。また関西弁は芸道ものととても相性がいい。相性がよすぎてやや饒舌となっているのが気になったが、この体を揺らすような文体は大島さんのお手柄であろう。」 浅田次郎 67歳 全 ■ 14 「推せなかった理由は、ほとほと感心して読みながらも、あまりに大衆文学としての普遍性を欠くと考えたからである。」「いったいどれほどの読者の理解を得られるかと思えば、ためらいが先に立った。」 伊集院静 69歳 全 ○ 24 「文章も読み易く、関西弁の持つ独特の軽妙さ、頑固さ、卑らしさがよく伝わってきた。」「この作品で何より感心したのは、前半部のお末が語る言葉である。「あのな、阿呆ぼん、教えたろか。いったんおなごがその気になったら、誰でも色男になってしまうんやで」これがその辺りの新人には書けない。」 北方謙三 71歳 全 △ 26 「私はこの作品に、表現者たちの熱気の渦は強く感じた。ただそれは芸人たちの熱気のようであり、近松半二もその中に入っているのだった。」「文楽に詳しい読者の心を動かしても、私のように無知のまま読んだ人間を動かすだけの普遍性は持ち得ていなかったと思う。」 宮部みゆき 58歳 全 ○ 33 「私は人形浄瑠璃はもとより歌舞伎にも疎い不勉強者なので、最初のうちは敷居が高く、おそるおそるという感じだったのですが、大島さんの筆による近松半二の明るい人柄に惹きつけられ、すぐに読むのが楽しくなりました。」「たとえば半二の師匠である吉田文三郎の晩節など悲しくやりきれないところもあるのですが、それが作品全体を暗くしていません。一行一行、隅々まで、大島さんの慈愛の光に照らされているからです。」 東野圭吾 61歳 全 △ 31 「物語を紡ぐ者として同意できる部分が多々あり、楽しめた。」「瞠目したのは大阪弁の達者さで、読んでいて全く違和感がなかった。」「扱っている題材が一般の人には馴染みのない世界だという理由と、自分が大阪出身だから読みやすかったのではないかという疑念から、（引用者注：「渦」「平場の月」「トリニティ」の3つのなかで）三番手とした。」

他の候補作 朝倉かすみ 『平場の月』 窪美澄 『トリニティ』 澤田瞳子 『落花』 原田マハ 『美しき愚かものたちのタブロー』 柚木麻子 『マジカルグランマ』

朝倉かすみ58歳×各選考委員　 『平場の月』 長篇 438枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 高村薫 66歳 全 ■ 14 「評者は、五十代にしてはあまりに身軽な主人公の男女が終始三十代にしか見えず、この平場は結局ファンタジーかと少々鼻白んだ。」 桐野夏生 67歳 全 ○ 17 「独特のリズムを持つ、切れのいい文章と、的確な描写。」「ドラマ性をわざと排除した構成も、恋人同士それぞれの遠慮と覚悟を象徴していて秀逸だったと思う。受賞を逃したのは、返す返すも残念だ。」 宮城谷昌光 74歳 全 ■ 12 「読みはじめたとき、わかりにくい描写をするものだととまどった。」「平凡なのか非凡なのかわからない人生観につきあわされたあと、これが変形の恋愛小説であるとわかった。なにが新味であったのかわかりづらい小説である。」 林真理子 65歳 全 ◎ 30 「（引用者注：「マジカルグランマ」と共に）二作を推そうと選考会にのぞんだ。」「不運のうちに生きてきた中年の男女が、少しずつ距離を縮めていく過程が、実にこまやかに描かれている。何よりも文体が素晴らしく、抑制がきいていながら不思議なリズムがかすかに聞こえてくる。」「しかし選考会では思いの外、票を集めることが出来ず非常に残念であった。」 浅田次郎 67歳 全 ■ 12 「日本文学の王道を歩むような作品である。苦悩を抱えた日常を淡々と、一視点もしくは一人称で綴ってゆく。だが、こうした小説には「視点者の深い思慮」という条件がつく。そのあたり、どうも登場人物が物を考えていないように思えた。それが現実なのかもしれないが。」 伊集院静 69歳 全 △ 22 「まずタイトルがイイと思った。次に青砥と須藤の会話の妙に感心させられた。」「彼女の死が全編の中で重要な位置をしているのがわかり、そこに作者の意図があるのなら、小説の在り方として、仕掛けのようなものが感じられて、青砥と須藤の間で交わされる会話、行動に朴訥なものが失せる気がした。それでもなお才気は光った。」 北方謙三 71歳 全 △ 20 「精緻な作品で、細かい描写の中に立ちあがってくるイメージが、実に秀逸であった。」「一隅を見つめる視線を、愚直に貫いて欲しかった。平場とタイトルにまで出してあるが、病気、闘病、死は、平場ではないのである。」 宮部みゆき 58歳 全 △ 35 「ともかく小説が巧い、文章が巧い、会話が巧い。」「なのに一番に推せなかったのは、青砥と須藤それぞれの過去、少女期の須藤が青砥をふってしまった原因でもある彼女の両親の修羅場、何を知っても青砥のなかの須藤への想いが変わらないこと、それらの大切な要素に、どうにも既視感がつきまとって仕方なかったからです。ネットの家庭板の「まとめ」でよく見かけるお話だよなあと感じてしまいました。」「既視感を消してしまうほどの「朝倉節」が聞こえてこないのが残念だった」 東野圭吾 61歳 全 □ 31 「小説自体を高く評価することに異論はないが、愛する人に甘えないというヒロインの選択を、「潔い」などと賞賛してはならないと強く思う。今この瞬間にも難病と闘っている人たちのためにも、このヒロインの選択は哀しい過ちであり、本来癌サバイバーは周囲に大いに甘えてよいのだ、ということを何らかの形で示してほしかった。」「（引用者注：「渦」「平場の月」「トリニティ」の3つのなかで）結局、どれが受賞すれば華やかか、直木賞がお祭りになりそうか、という文学性とは全く関係のない尺度で、（引用者中略）『平場の月』に△を付けた。」

他の候補作 大島真寿美 『渦　妹背山婦女庭訓 魂結び』 窪美澄 『トリニティ』 澤田瞳子 『落花』 原田マハ 『美しき愚かものたちのタブロー』 柚木麻子 『マジカルグランマ』

窪美澄53歳×各選考委員　 『トリニティ』 長篇 855枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 高村薫 66歳 全 ○ 15 「高度成長期に訪れた「女の時代」を、行き届いた時代考証とともに群像劇にしていて、十分に面白い。」「もともと等身大の女性を描くことに長けている作者が、社会史的な視野を新たに獲得した意欲作だと思う。」 桐野夏生 67歳 全 △ 16 「資料を駆使して三人の登場人物を書き分けていくと、どうしても年表風になって、虚構が帯びる熱量のようなものが希薄になりがちだ。時代の先端を駆け抜けていったはずの主人公たちに、今ひとつ幸福や華やぎが感じられないのは、そのせいかもしれない。」 宮城谷昌光 74歳 全 ■ 15 「過去形と現在進行形が交差する構成ではあるが、文章がよいので、読みやすい。しかしながら、私はなぜか迫力不足を感じた。小説が計算されすぎていたせいかもしれない。」 林真理子 65歳 全 ● 9 「モデルとなった女性たちや出版社を知っている者としては、「違うかな」という感想を持った。女性たちの描かれ方もステレオタイプで、当時のあのいきいきとした喧騒が描かれていない。」 浅田次郎 67歳 全 ○ 20 「迷った末に私が推したものは窪美澄氏「トリニティ」である。」「作者の年齢からすると少し前の時代、私をはじめ選考委員の多くにとっては実体験した時代という設定は相当に難しいはずだが、細部までよく考証がなされていたと思う。そしていつものことながら、作者の紡ぐ苦労譚には説得力がある。フレームストーリーをもう少し生かして、バランスのいい構造になっていれば、と惜しまれた。」 伊集院静 69歳 全 △ 28 「前半部、素晴らしい展開、構成だと感心した。ただ読み進めているうちに、登場する人物がかつて実在した人ではと思うことがしばしばあった。」「六〇年安保の記述で登場人物が洩らした言葉に疑問を抱いた。作家それぞれの政治観、時代観があってしかるべきだが、三人の女性をここまで書き上げているのなら、その洩らした言葉に何らかのフォローがあってしかるべきではと思った。」 北方謙三 71歳 全 ○ 25 「時代的には、私はぴったりとこの作品に重なってしまうのだが、特に違和感や共鳴というものはなかった。」「相当の力業だが、こんなふうにオーソドックスな手法で、正面から切りこんでくる小説が、私は好きである。決選投票では、この作品に票を投じた。」 宮部みゆき 58歳 全 ■ 18 「奈帆という、今現在を挫折しながら生きている女性を案内役にしたのは、読者がスムーズに過去に戻れるようにという計らいと思いますが、そのために全体が長くなり、語りが遠回しになってしまったかなと感じました。」 東野圭吾 61歳 全 ○ 27 「とにかく登場する女性たちの生き様がかっこよかった。男子の流行をリードしていた男性雑誌を、男女差別に耐えながら女性たちが支えていたという裏話も面白い。」「（引用者注：「渦」「平場の月」「トリニティ」の3つのなかで）結局、どれが受賞すれば華やかか、直木賞がお祭りになりそうか、という文学性とは全く関係のない尺度で、『トリニティ』に○を（引用者中略）付けた。」

他の候補作 大島真寿美 『渦　妹背山婦女庭訓 魂結び』 朝倉かすみ 『平場の月』 澤田瞳子 『落花』 原田マハ 『美しき愚かものたちのタブロー』 柚木麻子 『マジカルグランマ』

澤田瞳子41歳×各選考委員　 『落花』 長篇 690枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 高村薫 66歳 全 ● 13 「千年以上昔の平将門の騒乱を、またしても現代の筆致で血沸き肉躍る劇画に仕立てようとして破綻している。」 桐野夏生 67歳 全 ■ 14 「香取の海に浮かぶ傀儡女船などディテールも面白かった。だが、琵琶を求める千歳は、物語の展開に真に必要な人物だっただろうか。むしろ、平将門という魅力的な人物を、もっと読みたかったように思う。」 宮城谷昌光 74歳 全 △ 18 「氏の知識欲の旺盛さには感心させられるが、それが小説世界を濁らせる場合もあるので、秘すれば花、という書きかたも考えてもらいたい。が、歴史小説作家は死ぬまで学びつづけるものであり、それについてあえていう必要のない作家である、と私はみている。」 林真理子 65歳 全 ■ 7 「のびのびとした達者な筆致である。この時代の小説は珍しくひと息に読んだが、何かあるとその当事者が現れるという、都合のよさが気にかかる。」 浅田次郎 67歳 全 △ 12 「壮大な小説を最後までぬかりなく書き切った。」「もっとも、新聞連載小説が直木賞の候補に上ることは稀で、作者はそれだけの力量を認められているのだが、一方では単行本化されてもその発表媒体が見えてしまっていた。」 伊集院静 69歳 全 ― 0   北方謙三 71歳 全 ● 12 「主人公の造形に首を傾げた。寛朝の情念が、坂東の大地に食い入ることがない。ひたすら音を求め、それは言葉で説明されていくだけなのである。」 宮部みゆき 58歳 全 △ 20 「『落花』は確実に点数を得るだろう――と確信して選考会に臨みました。時代精神というものは、それを実現させようと立ち上がる「少しだけ早く目覚めてしまった個人」に対して、おそろしく非情であること。しかし夢破れた敗者にも、芸術だけは寄り添ってくれること。この二つのテーマに感動したからです。」 東野圭吾 61歳 全 ■ 18 「主人公としてこの人物を選んだことに同意できない。常に安全地帯に身を置き、誰からも攻撃されず、特に乗り越えるべき具体的な苦難もないとなれば、感情移入して緊迫感を味わうのは難しい。如意という女性や千歳の生き様のほうが、はるかにドラマチックではないか。」

他の候補作 大島真寿美 『渦　妹背山婦女庭訓 魂結び』 朝倉かすみ 『平場の月』 窪美澄 『トリニティ』 原田マハ 『美しき愚かものたちのタブロー』 柚木麻子 『マジカルグランマ』

原田マハ57歳×各選考委員　 『美しき愚かものたちのタブロー』 長篇 737枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 高村薫 66歳 全 ● 14 「いささか未整理の表題と同じく、物語自体も焦点が定まっていない。」「主役の印象派の絵画についても、それに魅せられた人間たちについても、展覧会のパンフレットの解説の域を出ていない。」 桐野夏生 67歳 全 ● 12 「松方コレクションを作った松方幸次郎本人についてなのか、松方コレクションの辿った数奇な運命についてなのか、コレクションを取り戻す話なのか、何を目指しているのかが、よくわからなかった。」 宮城谷昌光 74歳 全 ○ 23 「松方コレクションがどのように買われ、どのように戦火をまぬかれ、どのようにフランスから寄贈返還されたかが明瞭に書かれている。創作の主旨が明確であり、筆致も落ち着いている。」「コレクションを守りぬいた日置釭三郎の陰の偉業を作者は顕彰したかったにちがいなく、それは成功しているとみた。」 林真理子 65歳 全 ■ 14 「「惜しい」のひと言だ。」「これほど面白い材料を揃えながら、どうして小説全体がパワーを持たないのか。」 浅田次郎 67歳 全 △ 16 「これまで絵画をテーマにしてきた作品の中で、最も作者の手に合っているのではあるまいか。」「ただしフィクションとして読むには、その登場人物たちの描写に遠慮があり、生々しさを欠くように思えた。」 伊集院静 69歳 全 ― 0   北方謙三 71歳 全 ■ 10 「松方幸次郎のディレッタントの部分が強く出すぎているのが、私には不満であった。」「コレクションを守り抜いた男の存在感が、私には印象的であった。」 宮部みゆき 58歳 全 ■ 20 「松方幸次郎の半生を描いているこの作品の大きな構成の中で、誰にも知られぬままそれを戦禍から守り抜いた日置釭三郎とその妻のドラマを描いた後ろの百ページ余の部分が乖離しているように感じました。」 東野圭吾 61歳 全 ● 15 「どんなに断り書きがあろうとも、フィクションとして読むのは困難だった。」「実話部分を減らし、資料が少ない日置という人物に絞って書けば、違ったものになったのではないだろうか。」

他の候補作 大島真寿美 『渦　妹背山婦女庭訓 魂結び』 朝倉かすみ 『平場の月』 窪美澄 『トリニティ』 澤田瞳子 『落花』 柚木麻子 『マジカルグランマ』

柚木麻子37歳×各選考委員　 『マジカルグランマ』 長篇 548枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 高村薫 66歳 全 ■ 9 「この作者の持ち味である過激な物語が、ハリウッド風コメディのノリの良さにうまく変換され、読者を十分楽しませるが、残念ながら読後感は薄い。肩の力を抜きすぎである。」 桐野夏生 67歳 全 △ 14 「マジカルキャラクターとしての「老婆」を否定してみせる『マジカルグランマ』は、いかにも柚木麻子さんらしい切り口であると、好意的に読んだ。借金返済のために、自宅をホーンテッドマンションにしようという思い付きは愉快だが、明るく現実的なだけでは、まだまだマジカル度からは抜け切れていないように思われる。」 宮城谷昌光 74歳 全 ■ 11 「小説全体が明るい色調を保っているので、深刻な場面でも陰翳がとぼしい。それが作者自身の人生観の反映であろうし、それをよしとする読者もすくなくあるまいが、私としては不満であった。」 林真理子 65歳 全 ◎ 15 「（引用者注：「平場の月」と共に）二作を推そうと選考会にのぞんだ。」「この作者のいいところが全開となった。ストーリィーテラーとしての才能、ことにハリウッドを巻き込んでの「大風呂敷」には感嘆した。」 浅田次郎 67歳 全 △ 8 「実に面白く読んだ。たとえ文学賞の候補にならなくても、書店で買い求めて読む作家のひとりである。このすばらしい才能を、どのように制御し、かたちにするか。」 伊集院静 69歳 全 ― 0   北方謙三 71歳 全 ■ 12 「悲惨なものもプラスに展開していくという、小説的快感とも呼ぶべきものがあった。ただ、これが痛快なものにまで高まることはなく、どこかで細部にこだわり、無駄なてらいが出たような気がした。」 宮部みゆき 58歳 全 ■ 18 「柚木さんは本当にサービス精神に富んでいて、次から次へと面白いアイデアを繰り出してくる作家です。この作品では、作中に個性的な人物や新鮮なアイデアを盛り込みすぎていて、結果的に主人公の正子さん＝マジカルグランマがあんまり目立たなくなってしまいました。」 東野圭吾 61歳 全 ■ 17 「柚木さんのこれまでの候補作と比べても、格段に面白く、出来がよかった。推せなかったのは、社会現象や群集心理のシミュレーションに同意できなかったからだ。」「リアリティ云々を吹っ飛ばす馬力がもう少しあればと思う。」

他の候補作 大島真寿美 『渦　妹背山婦女庭訓 魂結び』 朝倉かすみ 『平場の月』 窪美澄 『トリニティ』 澤田瞳子 『落花』 原田マハ 『美しき愚かものたちのタブロー』