選評の概要
123. 124. 125.126. 127. 128. 129. 130.
131. 132. 133. 134. 135.
136. 137. 138. 139. 140.
141. 142. 143. 144. 145.
146. 147. 148. 149. 150.
151. 152. 153. 154. 155.
156. 157. 158. 159. 160.
161. 162. 163. 164. 165.
166. 167. 168.
生没年月日【注】 | 昭和22年/1947年10月26日~ | |
在任期間 | 第123回~第168回(通算23年・46回) | |
在任年齢 | 52歳8ヶ月~75歳2ヶ月 | |
経歴 | 佐賀県唐津市生まれ。神奈川県川崎市出身。中央大学法学部卒。「明るい街へ」で作家デビュー後、純文学作品を発表。『弔鐘はるかなり』で初めてエンターテインメント作品を書き、人気作家に。 | |
受賞歴・候補歴 |
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処女作 | 「明るい街へ」(昭和45年/1970年) | |
直木賞候補歴 | 第89回候補 『檻』(昭和58年/1983年3月・集英社刊) 第90回候補 『友よ、静かに瞑れ』(昭和58年/1983年8月・角川書店刊) 第92回候補 『やがて冬が終れば』(昭和59年/1984年10月・文藝春秋刊) |
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サイト内リンク | ▼小研究-ミステリーと直木賞 |
下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。
選考委員 北方謙三 53歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
51歳 |
◎ | 23 | 「細かい欠点はいくつか指摘できるが、中年男の静かな情念を描いて、秀逸であった。過去の傷も、燃える思いも、晩年を迎えつつある人生の感慨も、静謐な日常の中に閉じこめるだけの抑制があり、恋愛小説としてひとつの境地を獲得したと感じた。」 | |
東野圭吾 | 43歳 |
◎ | 27 | 「藤田氏と並んで、私が密かに二作受賞を期して選考会に臨んだのが、東野氏の『片想い』である。」「派手な技巧の中に紛れて見えにくいが、「私は男ではない。女でもない。私は私である」という陸上選手の述懐など胸を打つものがあり、決して題材を軽く扱ったとは私は感じなかった。」「受賞に値する、と私は思った。」 |
選評出典:『オール讀物』平成13年/2001年9月号 |
選考委員 北方謙三 54歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
黒川博行 | 52歳 |
◎ | 22 | 「冒険小説として出色の出来であると感じた。国境が、やくざにとって追いこみのために突破すべき、強大な障壁だというところがよかった。」「この作品にある面白さは、小説本来の物語の面白さであった、と私は思う。」「決戦投票で、私は『国境』と『あかね空』に入れた。」 |
53歳 |
○ | 14 | 「懸命に、江戸という時代を自分の作品世界に生かそうとしていて、誠実さが胸を打った。」「好感の持てる作風で、小説の芯のようなものもしっかり感じられた。」「決戦投票で、私は『国境』と『あかね空』に入れた。」 | |
46歳 |
△ | 15 | 「女のたくましさ、切なさが、日常にすっと入りこんできた非日常を通して巧みに描かれ、都会的な風俗小説の佳品であった。二人の女の眼から見た男たちの姿が、どうも表層的である印象を拭いきれず、恋愛小説として読むにはわずかにそこが不満であった。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成14年/2002年3月号 |
選考委員 北方謙三 55歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
京極夏彦 | 39歳 |
◎ | 24 | 「私は丸をつけた。物語の厚味、漂う妖しさに魅かれたのである。」「間違いなく、小説の持つ本質のひとつがここにある、と思った。毒に満ちてはいても、結局は情愛の小説として私は読んだ。受賞作として推したいと考えていたが、孤立無援であった。」 |
角田光代 | 35歳 |
○ | 15 | 「現実に準拠したものではないが、小説的リアリティはある。微妙なところをうまく書いたと思った。」「最後に『マドンナ』と争った時は、こちらに固執した。」 |
「今回の候補作の質が、いつもより劣ると私は思わなかった。むしろ粒が揃っているのではないか、という印象すら持っていた。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成15年/2003年3月号 |
選考委員 北方謙三 55歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
43歳 |
○ | 13 | 「現代と都会を舞台にした、ハックルベリー・フィンを読んでいるような印象であった。各作品の連環がやや欠けるということ以外、文句のつけようがない。」「石田、村山、真保の三氏に丸をつけて、私は選考会に臨んだ。」 | |
39歳 |
○ | 15 | 「ごく普通の、人としての営為にすぎないが、生きることの意味を読者に問いかけるところにまで昇華されている、と私は感じた。誠実な筆遣いも、選考委員の心を動かしたと思う。」「石田、村山、真保の三氏に丸をつけて、私は選考会に臨んだ。」 | |
真保裕一 | 42歳 |
○ | 28 | 「今回は、私は(引用者注:「手紙」よりも)真保氏の方を評価した。」「(引用者注:主人公の設定と生き方の)愚直さが、社会にとって、家族にとって、人間にとって、犯罪とはなんなのかと問いかける力になったと思う。テーマ性が強すぎるという意見もあるだろうが、犯罪とはなにかを問いかけるために書かれた小説があってもいい、と私は思った。」「石田、村山、真保の三氏に丸をつけて、私は選考会に臨んだ。」 |
選評出典:『オール讀物』平成15年/2003年9月号 |
選考委員 北方謙三 56歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
39歳 |
○ | 17 | 「音程がはずれそうではずれない、というような危うい文体が魅力だった。」「この独自の手法はすでに確立されていて、デリケートに描かれた日常から、不意に非日常が顔を出すさまは、圧巻ですらある。」 | |
40歳 |
○ | 15 | 「京極夏彦の世界を認めるか認めないかに尽きると思う。とうに受賞のラインはクリアしている作家という認識が、私にはあった。大多数の支持を得たのは、実力の然らしむるところである。」 | |
馳星周 | 38歳 |
○ | 24 | 「バブルという、現実に社会や人を狂わせた時代を、象徴的に描ききっていると思った。」「そこにある感傷や情感などは、しっかりと作品に内包されたままで、行間からすら立ちのぼってこない。ハードボイルドは、もともとそういうものであった。時代の狂気を背景にすることによって、ノワールとも呼ぶべき、新しいジャンルを主張できるものに仕上がっている。」 |
「今回の五作は、その持つ個性から作風まですべて異っていて、私は自分の好みがストレートに評価に繋がってしまうことを、警戒しながら読んだ。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成16年/2004年3月号 |
選考委員 北方謙三 57歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
古処誠二 | 34歳 |
◎ | 23 | 「志を持った作品だった。」「語学兵という設定が実に効果的で、戦闘を両方から描く方法として卓抜なものがあった。」「反戦の主張を感じさせるだけでなく、人間の哀切さまでよく出ていると思った。」「選考会には、『6ステイン』と『七月七日』に丸をつけて臨んだ。」 |
福井晴敏 | 36歳 |
◎ | 17 | 「行動の動機が、正義感や使命感ではなく、個人的な情動であることも、作品から人物を浮かびあがらせた。整合性に多少の問題があって、そこは残念であったが、長篇とはまた違う魅力を見せてくれたことは、評価に値すると思った。」「選考会には、『6ステイン』と『七月七日』に丸をつけて臨んだ。」 |
37歳 |
■ | 20 | 「力量を感じさせる作品だった。」「ただ、ここに描かれた孤独が、いじめから生み出され、そのいじめがどこか類型を越えていない、という思いにもつきまとわれた。」「男の描き方が、私には多少不満であった。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成17年/2005年3月号 |
選考委員 北方謙三 58歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
29歳 |
◎ | 32 | 「読んでいてひたすら面白いという、小説の本質のひとつを充分に持っている作品だった。」「主人公のトラウマの過剰さに、いくらかひっかかりを覚えた。」「読後感はいい。」「今回は、三浦氏が一番手で、次に伊坂氏と森氏が並ぶという評価で、選考会に臨んだ。」 | |
38歳 |
○ | 23 | 「一冊の中で作者の進歩を読みとれるという、文学賞の選考では稀有の、読書の醍醐味を味わわせてくれた。長篇の題材ではないか、と私はいくつかの作品について感じたが、切り方の手法で瑕疵にまではいたっていなかった。」「今回は、三浦氏が一番手で、次に伊坂氏と森氏が並ぶという評価で、選考会に臨んだ。」 | |
伊坂幸太郎 | 35歳 |
○ | 23 | 「いい青春小説としてできあがっている、と感じた。」「四年という歳月が流れているにしては、という指摘があったが、人生の季節のひとつを描いたのだということで、私はいいと思った。作者の資質の、幅を感じさせてくれた作品であったと思う。」「今回は、三浦氏が一番手で、次に伊坂氏と森氏が並ぶという評価で、選考会に臨んだ。」 |
選評出典:『オール讀物』平成18年/2006年9月号 |
選考委員 北方謙三 59歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
北村薫 | 57歳 |
◎ | 22 | 「読んでいてしみじみいい小説だと感じられる作品だった。淡々として平明でありながら、人生の真実に手が届き、私をして生きることの意味を問い直させる、深い読後感があった。」「登場人物の心理にこそ無限の拡がりがある。そういうものを、大きな小説というのではないだろうか。私は、評価した。」 |
三崎亜記 | 36歳 |
◎ | 24 | 「私は自分の喪失感と重ね合わせて読み、充分な読後感を得た。」「想像力のスケールは大きく、それに力負けしない筆力も持っている。抽象性が寓意性を帯びるところまで昇華されているこの世界は、評価に値すると私は思った。」 |
「今回の候補作が、特に水準が低いとは、私には感じられなかった。むしろ、読みごたえのある作品が多かった、という気がする。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成19年/2007年3月号 |
選考委員 北方謙三 59歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
53歳 |
○ | 11 | 「重量感のある作品であった。物語を牽引する葛城の謎が、わかってしまえば仇討だったというところに、若干の構造的な問題を感じたが、力量に疑いを抱かせるものではなく、順当な受賞であったと思う。」 | |
北村薫 | 57歳 |
○ | 13 | 「私にとっては心地よいバラードだった。文章を平明に書くということは、派手な技巧を駆使するより、ずっと難しいことだ、と私は思う。」「丸をつけて選考に望み、決選投票では圧倒的な支持の受賞作に次いだので、なんとか二作受賞をと模索したが、わずかに届かなかった。」 |
「今回の選考は、ベテランと新鋭の作品をどう読み較べるか、ということと同時に、ファンタジー的要素をどう解釈し、受け入れればいいのか、というのが私にとってのテーマであった。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成19年/2007年9月号 |
選考委員 北方謙三 60歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
36歳 |
○ | 26 | 「血の持つ毒と蜜を描きこんで、存在の意味を問いかけるというような、難しく言えばそういう論評になってしまう作品であった。」「随所に、描写の未熟さや、整合性の欠如を感じさせた。しかし血というものを通して、物語の本質に触れているというのは私の確かな印象で、その資質は買うべきだろうと思った。」「例外的に、『悪果』、『警官の血』、『私の男』、の三作に丸をつけて(引用者注:選考会に)臨んだ。」 | |
黒川博行 | 58歳 |
○ | 18 | 「崩れていく男の人生を描いたものとして読んだ。」「捜査の方法、手続、書類の作り方など、稠密という印象すらある描写が、警察の人間関係と組織を浮かびあがらせ、読みごたえのある作品となっていた。」「例外的に、『悪果』、『警官の血』、『私の男』、の三作に丸をつけて(引用者注:選考会に)臨んだ。」 |
佐々木譲 | 57歳 |
○ | 17 | 「一代目の不審死がミステリー仕立てになっていて、縦糸として牽引力を持っていた。時代背景の描写が、濃厚な生活感の描写とともにあり、力量の確かさを感じさせる。三代という発想のダイナミズムも、物語に少なからず強靭さを与えていると思った。」「例外的に、『悪果』、『警官の血』、『私の男』、の三作に丸をつけて(引用者注:選考会に)臨んだ。」 |
選評出典:『オール讀物』平成20年/2008年3月号 |
選考委員 北方謙三 60歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
47歳 |
○ | 23 | 「いつ崩れるかわからない切羽へ、なかなかいかないという、もどかしさがつきまとった。」「しかし切羽を、情況的なものでなく心理的なものだと考えると、世界は俄然色彩を帯びてくる。」「三作(引用者注:「切羽へ」「のぼうの城」「千両花嫁」)の決戦では、迷わず『切羽へ』と『のぼうの城』に票を投じた。」 | |
和田竜 | 38歳 |
○ | 26 | 「ちょっと芝居がかってはいるが、関東武士の奮戦記である忍城戦を、人間臭い物語に仕立てあげていて、読後感がよかった。」「三作(引用者注:「切羽へ」「のぼうの城」「千両花嫁」)の決戦では、迷わず『切羽へ』と『のぼうの城』に票を投じた。」 |
「今回の候補作は、粒が揃っている、という印象だった。ただ、大きく弾けたものがなく、小粒だという気もしないわけではなかった。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成20年/2008年9月号 |
選考委員 北方謙三 61歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
59歳 |
◎ | 18 | 「すべてがやわらかいのではなく、登場人物の視線がやわらかいのであり、その背後にある作者の眼は、むしろ冷徹と言ってもよく、上流階級の虚飾のあやうさが、時代相の緊迫と巧みに重ね合わされている、と感じた。練達の筆である。」「丸をつけて、選考に臨んだ。」 | |
道尾秀介 | 34歳 |
◎ | 15 | 「この作家独得のひねりが、生きていたと思う。長篇では、私はどうしてもあざといと感じてきたが、短篇ではそれが切れ味となっていて、読んでいて快感さえ感じた。短篇の要諦をしっかり掴んでいて、同時に継続力のある資質も感じさせる。」「私は、丸をつけて選考に臨んだ。」 |
「さまざまな傾向の、候補作が並んだ。小説が活発化しているのかどうかは、いまのところわからないが、私は好意的に対した。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成21年/2009年9月号 |
選考委員 北方謙三 62歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
59歳 |
○ | 22 | 「大長篇の力作の多い作家だが、切り口だけを見せる短篇では、人生の真実をさりげなく読者に投げかけてくる。私にあったのは、力作長篇での受賞でなくていいのか、というわずかなためらいだったが、この作品が賞に縁があったのだ、と思うことにした。」 | |
51歳 |
○ | 23 | 「完成度にも、不足はあるまい。表題作の方がおおむね評価されたが、結婚と恋愛がなにかを考えさせる『かけがえのない人へ』の中に漂う、妙ないとおしさと、結末の寂寞感も、恋愛小説の苦い味があって、私は好きであった。」 | |
道尾秀介 | 34歳 |
○ | 29 | 「力量は充分であるが、描写が稠密で、読みながら私は、息苦しさを感じ、簡潔を求めた。」「この作家はこの作品で、テーマ性をしっかりと持った、というところを私は評価した。」「二度目の投票に残すことを主張したが、孤立無援で果せなかった。」 |
「いつも一作に絞りこもうという思いは持っているが、受賞の二作は、優劣というより、較べられない作品だった、と思っている。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成22年/2010年3月号 |
選考委員 北方謙三 63歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
48歳 |
○ | 25 | 「エンターテインメントの王道は、一歩間違えれば通俗に落ちかねず、また企業小説ふうなところが、いかにもこの作者の類型と見なされる危険にもあえて挑み、見事に危惧をクリアして、さわやかな世界を築きあげている。」「十数年にわたる努力の積み重ねが、このような普遍性を獲得させ、いま花開きはじめたと言っていいであろう。」「私は迷った末、『下町ロケット』と『アンダスタンド・メイビー』に丸をつけて臨んだ。」 | |
島本理生 | 28歳 |
○ | 35 | 「トラウマの中に、人間の存在に対するひたむきな問いかけがあり、それが観念ではなく描写という段階の表現に達しているところに、この作家の非凡さを感じた。」「ただ主人公の自殺未遂のあとの病院の描写や、宗教についての書きようなど、どこか安直さがあった。」「これを直木賞としてどう評価するかについては、私は最後まで迷った。」「私は迷った末、『下町ロケット』と『アンダスタンド・メイビー』に丸をつけて臨んだ。」 |
「直木賞がなにを求めるのかと、考えさせられる選考会だった。小説という意味では、およそ制限がないほど対象は広いと私は思うが、ある種の文学性が弱く作用してしまうことが、ないとは言えないという気もする。すぐれた小説を選びたい、と痛切に思う。小説においてすぐれたものについて、私は今後も考え続けていこうと思う。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成23年/2011年9月号 |
選考委員 北方謙三 64歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
桜木紫乃 | 46歳 |
○ | 48 | 「物語はともかく、イメージが理不尽に走り続けるということはない。つまり、見慣れた日常性の中にあるのだ。そこに不意に、非日常のイメージが立ちあがるので、ありきたりの論評に危険を感じてしまう。」「夾雑物も多い小説だが、私は痛みに似た感覚に襲われ続けていた。日常性と非日常性が意図的に遣い分けられているのか、という問いは無意味で、これは資質であろう。」 |
60歳 |
□ | 19 | 「順当な受賞である。この作家の作品は、無駄のなさと端正さが、いつも強く印象に残ってきた。今回は、ある境地というものを感じさせる作品であった。」「境地というものは、進化するものだろう。賞の呪縛が解けたいま、この作家がどういう変容を遂げるかは、見ものである。」 | |
「六本の候補作の中で、二本(引用者注:『夢違』と『ラブレス』)がいつまでも私の心に残り、ぞくりとする皮膚感覚と、微妙な不協和音を伝えてきて、最後まで評価に迷った。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成24年/2012年3月号 |
選考委員 北方謙三 64歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
朝井リョウ | 23歳 |
◎ | 54 | 「なにより群像小説のようでありながら、ひとりひとりの孤独が鮮やかである。孤独の中で、なんとか生きることの意味を見つけようともがく姿が、瞬間、光を帯びる。」「いまを描いた青春小説として秀抜であり、時が経てば古くなる風俗的な部分をものともせず、若さの哀しみを描ききったところを、私は認めたい。この作品に大きな丸をつけて選考会に臨んだが、孤立無援であり、力が及ばなかった。」 |
32歳 |
□ | 17 | 「内むきの小説である。地方都市の、どこにでもいそうな男と女。その狭さゆえか鬱陶しさがつきまとうが、読み進めると、作品の底から別の広さがたちあがってくる。人の心の拡がりである。」「正直、私の好みの作品ではないが、人の普遍性に到達した世界が、私に受賞を同意させた。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成24年/2012年9月号 |
選考委員 北方謙三 65歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
48歳 |
◎ | 28 | 「オーソドックスな作品である。それは古さに繋がると言えば言えるが、すぐれた小説は、古ささえも新しいというのが、私の持論である。」「微妙だが確かにあると感じられる闇が発する光を、ほのかなイメージとして描きあげた力量を、私は評価する。」「私が最も力を入れて推した一作であるが、受賞の力量は、すでに前作で充分に示していたとも思う。」 | |
伊東潤 | 53歳 |
◎ | 18 | 「作者がひと皮剥けたな、と感じさせる作品だった。対象にむかった時の、腰の据え方が実にどっしりとしている。」「私は特に、人間の力ではどうにもならない、海の描写が秀逸であると思った。潮流や風、雨や波の描写は、眼に見えるような迫力がある。私は積極的に推したが、わずかに届かず、次作を期待するということになった。三回目の候補だが、一作一作力をつけ、あと一歩というところまで来ていると思う。」 |
「五本が短篇連作で、一本が長篇だった。短篇の醍醐味を、存分に愉しめる選考となった。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成25年/2013年9月号 |
選考委員 北方謙三 66歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
65歳 |
◎ | 17 | 「文句がつけようもないほど、スピード感があって面白い。」「普通会話体が多い小説はダレてくるが、この作品では会話体が描写になっていて、そのあたりも独得の技である。私は『国境』のころからこだわっていたので、受賞作となった時、安堵で大きく息を吐いた。」 | |
千早茜 | 34歳 |
○ | 14 | 「「私」やハセオの、ほかの異性関係は、情事であって恋愛ではない。二人とも、汚れても、決してほんとうには汚れないなにかを、大事に守っているのではないのか。そう読めば、現代に成立し得た、稀な純愛小説である。評価は、丸であった。」 |
選評出典:『オール讀物』平成26年/2014年9月号 |
選考委員 北方謙三 67歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
46歳 |
◎ | 18 | 「近年では突出した青春小説として仕上がっていた。」「暑さが、食物の匂いが、ドブの臭さが、街の埃っぽさが、行間から立ちのぼってくる。混沌であるが、そこから青春の情念を真珠のひと粒のようにつまみ出した。この若い才能が次に問われるのは、これを超えてみろ、超えられるか、ということである。」 | |
馳星周 | 50歳 |
◎ | 25 | 「作者の新境地であると私は感じた。」「一見、野放図な内容に、小説としてのリアリティを持たせるという、技法としては難しいものに挑戦し、それは成功していると感じた。自分が作りあげたものから離れるという意欲を含め、私は丸をつけて選考会に臨んだ。孤立無援であったが、新しい試みであることを考えると、それもいっそ清々しい。」 |
「強力な候補作が、いくつか並んだ。久しぶりであり、スリリングであった。選考を離れて、いい思いをした、という気分もある。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成27年/2015年9月号 |
選考委員 北方謙三 68歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
67歳 |
◎ | 15 | 「いくらかペダンチックなものを感じさせるが、短篇として切り口が鮮やかで、描かれた心情には無理がない。のびやかである。女の描き方などいささかこわいが、しかし響いてくるものはある。小説はこれでいいのだ、という気がした。(引用者注:「羊と鋼の森」と共に)これも推そう、と私は思った。」 | |
宮下奈都 | 49歳 |
◎ | 22 | 「主人公がはじめて調律というものを見て、引きこまれていくところから、私は予期していない世界に入りこんだ。調律という行為も、表現だと思えたのだ。」「静かな中に緊迫感が漂い、行間からさまざまなものが溢れ出してくる。」「これは推したい、と私は思った。」 |
「候補作が届くと、ちょっとだけ読む順番を考える。」「順番がなにかを左右することはないが、これを推すというものに、できるだけ早く出会いたい、という気分はたえずある。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成28年/2016年3月号 |
選考委員 北方謙三 71歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
41歳 |
○ | 25 | 「驚くほど丁寧な取材である。」「復帰前の沖縄の街や基地の姿が、ストーリーとは別に浮かびあがってきて、印象的であった。私は、この作品を青春小説の側面からも読めると思った。」「かつて日本ではなかった日本が、抱かざるを得なかった情念のありようは、錯綜した複雑なもので、過剰なほどに人間的で哀しい。その哀しみが、南国の花のように鮮やかであった。」 | |
今村翔吾 | 34歳 |
○ | 21 | 「単純な構造である。権力と反権力。結局はそういうことだが、反権力が、権力によって、人ではないものに仕立てあげられている。」「時代を通して、この国の闇の声として聞えては消されてきたものを、物語として書こうとした志を、私は評価する。大方の賛同は得られなかった。」 |
「自分の選考について言うのあが、微妙に不公平なものがつきまとっているような気がする。好みがあるし、時の勢いのようなものもあるし、体調がなにか左右しているような感じさえする。そういうものも含めて、運という言葉を遣うのだろうか。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成31年/2019年3・4月合併号 |
選考委員 北方謙三 71歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
窪美澄 | 53歳 |
○ | 25 | 「時代的には、私はぴったりとこの作品に重なってしまうのだが、特に違和感や共鳴というものはなかった。」「相当の力業だが、こんなふうにオーソドックスな手法で、正面から切りこんでくる小説が、私は好きである。決選投票では、この作品に票を投じた。」 |
56歳 |
△ | 26 | 「私はこの作品に、表現者たちの熱気の渦は強く感じた。ただそれは芸人たちの熱気のようであり、近松半二もその中に入っているのだった。」「文楽に詳しい読者の心を動かしても、私のように無知のまま読んだ人間を動かすだけの普遍性は持ち得ていなかったと思う。」 | |
「候補に結構な力作が並び、迷いに迷って評価に苦しむことがある。今回は、それに近かったという気がする。つまりは、豊作だったと言えるのかもしれない。」「(引用者注:「渦」「平場の月」「トリニティ」の)三作は同点で並び、しかも過半数の評点に達していなかった。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』令和1年/2019年9・10月合併号 |
選考委員 北方謙三 72歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
湊かなえ | 46歳 |
◎ | 17 | 「この作者の、これまでの描写の過剰さが消えていて、小説としては整ったものになっていた。」「物語の中から自然に人の姿が浮かびあがってきて、快く読めた。筆致は熟達の域で、新鮮さには欠けても、しっかりしたイメージが立ちあがってくる。私はこの作品を推したが、孤立無援であった。」 |
41歳 |
△ | 23 | 「描かれた時間が長きにわたり、そのため散漫さと緊密さがともにある、という印象を持ってしまった。」「少数民族の絶望的な悲劇の歴史は、実は資料の外にあるのかもしれない、と私は思った。あるいは、資料の行間に。そこを抉り出して欲しかった、という思いも読後に残った。」「全面的な支持をすることはできなかったが、作品全体が放つ熱気は相当なもので、それには圧倒された。」 | |
「候補作が、すっかり様変りした、という印象があった。私はちょっと戸惑ったが、新鮮な刺激もあったような気がする。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』令和2年/2020年3・4月合併号 |
選考委員 北方謙三 72歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
55歳 |
◎ | 21 | 「論評を拒否するのではなく、不要にして存在している、と私に感じさせた。犬が書かせたのではないか、という気さえする。この作家の力量はすでに確立されたものであり、どこを取っても欠点など見つかりはしないのである。読んでいて、快感にふるえるような小説であった。」「やっと受賞作家に加わってくれて、心底ほっとしたというのが、私の本音である。」 | |
今村翔吾 | 36歳 |
◎ | 22 | 「ひとりの男の評価を変えるということではなく、生き方を描いていて、違う人間が生まれ出てきた、と私は感じた。物語を読む醍醐味が、たっぷりとあった。」「こんな書き手が出現し、大きくなりつつあるという感慨は深かった。私は二作受賞を主張した。」「わずかに及ばなかった心残りは、いまも胸から消えない。」 |
「候補作を前にすると、本の数だけの強烈な顔があり、圧倒される。これを較べるのかと思うと怖気をふるい、それが選考なのだと開き直る。そのくり返しである。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』令和2年/2020年9・10月合併号 |
選考委員 北方謙三 73歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
56歳 |
◎ | 18 | 「随一の完成度の高さを見せた。」「江戸長屋の、人情がこまめに交錯する日々が描かれているのかと思うと、もうひとつ別の構造が、みっちりとした描写の裏側に隠されている。茂十と楡爺の関係は、生きることの意味さえも、私に問いかけてきた。」「候補作中、私にとっての第一位は、『心淋し川』で不動だった。」 | |
加藤シゲアキ | 33歳 |
○ | 40 | 「描写のメリハリをつける訓練はすべきであろう。それに耐えて読み進めると、次第に登場人物が存在感を持ちはじめる。」「青春の姿を剥き出しにすることで、作者は物語の真実のどこかに触れた。私は、この一点を評価した。」「(引用者注:「心淋し川」と共に)二作受賞とならないものかと主張した。」 |
「今回の候補作は、小さく粒が揃っているという前評判のようなものがあったが、書かれている場が小さいのは、それはそれでいいと私は思う。どれだけ拡げたところで、地球である。人の心の中にこそ、無限の拡がりがあるはずなのだ。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』令和3年/2021年3・4月合併号 |