西條奈加（さいじょうなか）-直木賞受賞作家

第164回

＝受賞者＝
西條奈加

Last Update●[R6]2024/1/28

	Saijo Naka
	生没年月日【注】	昭和39年/1964年～
	経歴	北海道生まれ。都内英語専門学校卒。平成17年/2005年、第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞して作家デビュー。
	受賞歴・候補歴	第17回日本ファンタジーノベル大賞（平成17年/2005年）「金春屋ゴメス」第18回中山義秀文学賞（平成24年/2012年）『涅槃の雪』第36回吉川英治文学新人賞（平成26年/2014年度）『まるまるの毬』 \|候補\| 本屋が選ぶ時代小説大賞2015（平成27年/2015年）『六花落々』 \|候補\| 第5回歴史時代作家クラブ賞［作品賞］（平成28年/2016年）『ごんたくれ』 \|候補\| 第8回本屋が選ぶ時代小説大賞（平成30年/2018年）『無暁の鈴』第164回直木賞（令和2年/2020年下期）『心淋し川』
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『まるまるの毬(いが)』（平成26年/2014年6月・講談社刊）

書誌

平成29年/2017年6月・講談社／講談社文庫『まるまるの毬』

収録作品の書誌

カスドース

初出『小説現代』平成22年/2010年3月号

若みどり

初出『小説現代』平成22年/2010年8月号

まるまるの毬

初出『小説現代』平成23年/2011年2月号

大鶉

初出『小説現代』平成23年/2011年6月号

梅枝

初出『小説現代』平成24年/2012年1月号

松の風

初出『小説現代』平成24年/2012年10月号

南天月

初出『小説現代』平成25年/2013年2月号

吉川英治文学新人賞 第36回受賞

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　西條奈加　50歳
選考委員		評価	行数	評言
伊集院静	65歳	○	24	「作者が現代物から時代物、シリアスな物語からファンタジーあふれる物語まで、題材を含めて、惜しまず執筆をなさって来た、作者の創作の姿勢の結晶の作品ではないかと感じた。」「この作品には、気の利いた会話がいくつもさりげなく入っている。これは作者の才能である。」「最後の将軍の御落胤は、私は愛嬌だ、と目をつぶった。」
大沢在昌	58歳	△	16	「軽やかですいすいと読め、読後感は心地よい。私が気になったのは、菓子作りを愛する登場人物がこれほどいるのに、その菓子の味、舌ざわりが意外に伝わってこない点だ。」「「南星屋」の主人の出自も、確かに物語らしくはあるのだが、大胆すぎてこちらが不安を感じてしまった。」
恩田陸	50歳	○	10	「（引用者注：候補作のなかで）いちばん気持ちよく読者として楽しめた」「安心感、安定感、キャラクターへの共感、すべてバランスが取れていて、なみなみならぬうまさを感じた。」
京極夏彦	51歳	○	14	「読む者に依っては地味な印象さえ持つことだろう。だが、設定を含め、実はかなり派手な要素ばかりで成り立っている。」「作品の佇まいに相応しくない過剰さや暗部は、悉く日常の些細な機微に仮託され、言外に語られるのである。巧みである。」「こうした在り方こそ小説の「作り物」としての醍醐味であると感じた。」
高橋克彦	67歳	○	23	「蓋を開けてみたらほとんどの委員の最高点が西條さんの『まるまるの毬』に与えられていた。」「『まるまるの毬』が圧倒的と考えて選考会に臨んだ委員は恐らく少なかったはずだ。割れると覚悟していた上でのこの明らかな結果にだれもが驚いたのだ。」「確固たる世界と人間が描かれている。読んでいてとても心地よい。なにより揺るぎない人間の心の温かさに、生きることの嬉しさを教えられる。」
選評出典：『小説現代』平成27年/2015年5月号

文量
連作短篇集〔7篇〕
時代設定	場所設定
江戸後期	江戸
登場人物
●治兵衛（麹町の菓子店「南星屋」主人、幼名・岡本小平治） ●お永（治兵衛のひとり娘） ●お君（治兵衛の孫娘） ●石海（相典寺の住職、治兵衛の弟、幼名・五郎） ●河路金吾（平戸藩松浦家の家臣） ●矢萩広嗣（松浦家の江戸家老） ●修蔵（左官職人、お永の離縁した元亭主） ●岡本慶栄（治兵衛の甥、岡本家の現当主） ●柑子屋為右衛門（麹町にある大店の菓子店）

カスドース

章立て

なし

若みどり

章立て

なし

登場人物

●稲川翠之介（御先手同心の子、「南星屋」弟子志願者）

まるまるの毬

章立て

なし

大鶉

章立て

なし

梅枝

章立て

なし

松の風

章立て

なし

南天月

章立て

なし

登場人物

●芳子（治兵衛の兄嫁、慶栄の母親）

第164回受賞

『心淋(うらさび)し川(がわ)』（令和2年/2020年9月・集英社刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	カバー・背「うらさびしがわ」併記　扉・奥付ルビ有り「うらさび」「がわ」
印刷/発行年月日	発行令和2年/2020年9月10日（第1刷）
発行者等	発行者徳永真　印刷所凸版印刷株式会社　製本所加藤製本株式会社
発行所	株式会社集英社（東京都）			形態	四六判　並製
装幀/装画等	装画木内達朗　装丁鈴木久美
総ページ数	238	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	43字 ×18行 ×1段
本文ページ	5～242 （計238頁）	測定枚数	403枚

書誌

令和5年/2023年9月・集英社／集英社文庫『心淋し川』

収録作品の書誌

心淋し川

初出『小説すばる』平成30年/2018年7月号

閨仏

初出『小説すばる』平成30年/2018年10月号

はじめましょ

初出『小説すばる』平成31年/2019年1月号

冬虫夏草

初出『小説すばる』平成31年/2019年4月号

明けぬ里

初出『小説すばる』令和1年/2019年7月号

灰の男

初出『小説すばる』令和1年/2019年10月号、11月号

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　西條奈加　56歳
選考委員		評価	行数	評言
北方謙三	73歳	◎	18	「随一の完成度の高さを見せた。」「江戸長屋の、人情がこまめに交錯する日々が描かれているのかと思うと、もうひとつ別の構造が、みっちりとした描写の裏側に隠されている。茂十と楡爺の関係は、生きることの意味さえも、私に問いかけてきた。」「候補作中、私にとっての第一位は、『心淋し川』で不動だった。」
宮部みゆき	60歳	◎	37	「私は安心して推すことができましたが、この物静かな連作短編集の凄さは、六編の短編一つ一つの「凄い点」に違いがあることです。」「「閨仏」はもうアイデア勝負の一発ネタ。同時に、この話を下品に落とさず、何とも微笑ましいエピソードに丸めてしまう素直な文章力。これは技術だけでなく、作者の人柄の力でもあるでしょう。」「（引用者注：「オルタネート」と共に）票を投じました。」
林真理子	66歳	◎	23	「際立った力量を見せた」「構成・会話の妙、人物描写のうまさなど、どれをとっても合格点だ。時代小説に必要な情味に溢れているし、最後の章での意外な展開も面白い。」「私はこの作品だけが直木賞にふさわしく、プロの技だと思った」「決選投票では「心淋し川」圧勝であった。」
角田光代	53歳	○	29	「候補作のなかでもっとも完成度の高い連作短編集である。」「小説は徹底してちいさきもの、持たざるものに寄り添いつつ、ただの人情話には終始していない。短い枚数ながら物語は二転三転し、けれどかならず、だれしもがささやかな自分の居場所を見つける。」「悲しみと情けなさとが詰まった生のいとしさを、この作品は静かな筆致で描いている。」
桐野夏生	69歳	△	15	「圧倒的な安定感がある。」「「閨仏」のようなすっとぼけた話も書けるのだから、作者はなかなか強かである。連作短編集かと思ったら、ストーリー仕立てでオチがついていた。この作品は、多くの人に愛されることだろう。」
浅田次郎	69歳	□	12	「巧みな筋書のうちに人生の悲哀がよく描かれており、しっとりと落ちついた時代小説の情感も豊かだった。」「いかにも王道を歩む作風ではあるが、それゆえに小さくまとまってほしくはないとも思う。むろん受賞に異存はない。」
高村薫	67歳	□	16	「まさに再生産の芸たる時代小説の秀作である。」「本作の登場人物にも暮らしの風景にも特段の新味はない。その一方で、定番ならではの落ち着きが味わい深い佇まいになっているのだが、それだけでは賞には届かない。「閨仏」のような粋な小技が、本作を逸品にしているのである。」
三浦しをん	44歳	□	20	「一番には推さなかったのは、手堅いつくりであるがゆえにやや地味で、時代小説としての新味に欠けるかなと思ったためだ。」「新味の点でも「閨仏」のおかしさ、切なさは斬新以外のなにものでもないと言え、すべての話が収斂していく「灰の男」とともに極上の短編であるのはまちがいなく、決選投票の結果に心から賛同した。」
伊集院静	70歳	△	31	「読んでいて、これほど作者の世界にやわらかく入り込める作品はそうそうあるまい。読み手がそう感じるのは作者の並々ならぬ力量と、経験から来るものだろう。」「作品中で私は“閨仏”と“灰の男”が好きだった。」
選評出典：『オール讀物』令和3年/2021年3・4月合併号

文量
連作短篇集〔6篇〕
時代設定	場所設定
江戸	江戸・千駄木町など

心淋し川

章立て

なし

登場人物

●ちほ（針仕事で家計を助ける娘、次女）
●元吉（見習い中の紋上絵師）
●荻蔵（ちほの父親、風呂屋の釜焚き）

閨仏

章立て

なし

登場人物

●りき（〈六兵衛長屋〉の住人）
●大隅屋六兵衛（青物卸の旦那）
●郷介（仏師）

はじめましょ

章立て

なし

登場人物

●与吾蔵（料理人、飯屋〈四文屋〉の主）
●稲次（〈四文屋〉先代、与吾蔵の修業時代の兄弟子）
●おるい（与吾蔵の昔の女）

冬虫夏草

章立て

なし

登場人物

●吉（元・薬種問屋〈高鶴屋〉の女将）
●富士之助（吉の息子、身障者）
●江季（油問屋〈山崎屋〉次女、富士之助に嫁入り）

明けぬ里

章立て

なし

登場人物

●よう（元・根津遊郭の妓、源氏名〈葛葉〉）
●明里（根津遊郭一の美貌と謳われた妓）
●桐八（ようの夫、瓦笥職人）

灰の男

章立て

なし

登場人物

●茂十（心町の差配、本名・久米茂左衛門、元・諸色掛り）
●楡爺（根津権現の裏門外に現れる物乞い）
●修之進（茂十の息子、諸色掛り見習い）