芦沢央（あしざわよう）-直木賞候補作家

第164回

＝受賞者＝
西條奈加

Last Update●[R6]2024/1/28

	Ashizawa Yo
	生没年月日【注】	昭和59年/1984年～
	経歴	東京都生まれ。千葉大学文学部卒。出版社勤務を経て平成24年/2012年に「罪の余白」で野性時代フロンティア文学賞を受賞してデビュー。
	受賞歴・候補歴	第3回野性時代フロンティア文学賞（平成24年/2012年）「罪の余白」 \|候補\| 第68回日本推理作家協会賞［短編部門］（平成27年/2015年）「許されようとは思いません」 \|候補\| 第38回吉川英治文学新人賞（平成28年/2016年度）『許されようとは思いません』 \|候補\| 第71回日本推理作家協会賞［短編部門］（平成30年/2018年）「ただ、運が悪かっただけ」第7回静岡書店大賞［小説部門］（平成30年/2018年）『火のないところに煙は』 \|第9位\| 第16回2019年本屋大賞（平成31年/2019年）『火のないところに煙は』 \|候補\| 第72回日本推理作家協会賞［短編部門］（平成31年/2019年）「埋め合わせ」 \|候補\| 第32回山本周五郎賞（平成30年/2018年度）『火のないところに煙は』 \|候補\| 第164回直木賞（令和2年/2020年下期）『汚れた手をそこで拭かない』 \|候補\| 第42回吉川英治文学新人賞（令和2年/2020年度）『汚れた手をそこで拭かない』 \|候補\| 第76回日本推理作家協会賞［長編及び連作短編集部門］（令和4年/2022年）『夜の道標』
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『許(ゆる)されようとは思(おも)いません』（平成28年/2016年6月・新潮社刊）

書誌

令和1年/2019年6月・新潮社／新潮文庫『許されようとは思いません』

収録作品

「許されようとは思いません」「目撃者はいなかった」「ありがとう、ばあば」「姉のように」「絵の中の男」

吉川英治文学新人賞 第38回候補

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　芦沢央　33歳
選考委員		評価	行数	評言
伊集院静	67歳	△	5	「才能を随所に感じさせ、小説のセンスも良く、好きな作品だった。受賞作と比較すると短篇集という光の細かさが逆にマイナスになったのだろう。」
大沢在昌	60歳	■	12	「特に表題作に描かれた、人の心の綾にはどきりとさせられる。が、他の作品は作者の意図と後味の悪さだけが残った。なぜだろうと考え、それが文章の湿度のせいだと思いあたった。もし乾いた筆致でこれらの物語が描かれていたら、これほど後味は悪くなかったのではないか。」
恩田陸	52歳	△	11	「読み手の感情のコントロールがうまく、確信犯的な語りに力量を感じた。いわゆる「最後の一撃」ものを集めている短編集だが、どれもよく出来ている。ただ、作品集としてのまとまりは弱く、この器用さがこの先どの方向に行くのか読みきれなかった。」
京極夏彦	53歳	■	25	「作者がミステリとして作品を紡いだか否かは知る由もないが、周到に計算された小品はミステリ的な感興を充分に呼び込むだろう。惜しむらくは、その端正な作風そのものが構造自体を予測させてしまうという点である。こうした性質の短篇集は収録作のセレクトや収録順も含め、本としてのプレゼンテーションにも配慮する必要があるかもしれない。」
高橋克彦	69歳	―	0
選評出典：『小説現代』平成29年/2017年5月号

『火(ひ)のないところに煙(けむり)は』（平成30年/2018年6月・新潮社刊）

書誌

令和3年/2021年7月・新潮社／新潮文庫『火のないところに煙は』

山本周五郎賞 第32回候補

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　芦沢央　35歳
選考委員		評価	行数	評言
石田衣良	59歳	△	25	「この作品を候補にあげた予選委員の見識を感じるね。実話と創作ぎりぎりのトワイライトゾーンを突いてくる実話怪談は、読者の支持に比してなかなか文学的な評価がむずかしかった。ぼくは新しい時代のフォークロアとして、もっと注目されていいと思っていたんだけど。」「この作品は怖さの質がちょっとミステリー寄りだったと思うな。恐怖が上手に整理されすぎ、理解しやすかった。おかげでインパクトが弱くなったというかね。」
荻原浩	62歳	■	43	「伏線がうまいこと回収されて腑に落ちるラストより、途中までの素朴な怪異や人間そのものの不気味さのほうがゾクッとする。」「単なる実話怪談の一歩先を行くぞ、という心意気は買うが、ここまで、どんでん返さなくても良かったんじゃないだろうか。シンプルですぱっと怖い、短篇サイズの掌篇もあって良かったと思うのだが。」
角田光代	52歳	■	38	「第一話のインパクトが強いからかもしれないけれど、第二話以降の怪異的なこわさが少々薄れてしまって、かわりに、突然自宅までやってくる中年女性とか、やけになれなれしい隣人とか、一瞬だけ豹変を見せるおだやかな夫とか、現実の登場人物のほうが格段にこわく思えてくる。」「たぶん、現実世界の人物描写のリアリティがすぐれているせいで、怪異というフィクションのリアリティが負けてしまったのではないか。」
佐々木譲	69歳	●	36	「わたしのようなこうしたホラー作品のプロパーではない読者は、「探偵役」あるいは「解説者」が怪異現象を解釈し、因果関係を説明したりほのめかしたりしても、まだまだ合理性のある解釈は可能なのではないか、とどうしても考えてしまう。」「エピソードの多くに理屈で反応してしまい、さほど恐さを感じることもなく本作品集を読み終えてしまった。」
唯川恵	64歳	■	42	「手練れの書き手であることが十分に伝わって来る。」「ただ残念なのは、平たく言わせてもらえば、あまり怖さが感じられなかったことだ。言い換えれば、人間の方が（たとえ憑かれているにしても）よほど怖い。」「次から次と起こる怪奇現象や、関わった多くの人の理不尽な死も、頭では理解できるのだが、理屈抜きで肌を粟立たせるような恐怖には至らなかった。」
選評出典：『小説新潮』令和1年/2019年7月号

第164回候補

『汚(よご)れた手(て)をそこで拭(ふ)かない』（令和2年/2020年9月・文藝春秋刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	奥付ルビ有り「よご」「て」「ふ」
印刷/発行年月日	発行令和2年/2020年9月25日（第1刷）
発行者等	発行者大川繁樹　印刷所凸版印刷　製本所加藤製本　ＤＴＰ組版萩原印刷
発行所	株式会社文藝春秋（東京都）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	装画 Q-TA　装丁大久保明子
総ページ数	233	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	43字 ×18行 ×1段
本文ページ	5～237 （計233頁）	測定枚数	394枚

書誌

令和5年/2023年11月・文藝春秋／文春文庫『汚れた手をそこで拭かない』

収録作品の書誌

ただ、運が悪かっただけ

初出『オール讀物』平成29年/2017年11月号

埋め合わせ

初出『オール讀物』平成30年/2018年7月号

忘却

書下ろし

お蔵入り

初出『オール讀物』令和2年/2020年7月号

ミモザ

初出『オール讀物』令和2年/2020年8月号

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　芦沢央　36歳
選考委員		評価	行数	評言
北方謙三	73歳	■	13	「人間描写より、ミステリー的なアイデアを先行させた作品だと思う。人が平板であり、立ちあがってこないのだ。」
宮部みゆき	60歳	―	0
林真理子	66歳	●	12	「最後のストーリーは全く納得いかなかった。現在関係があるならともかく、金を貸したばかりに反対に脅迫される。料理研究家として、マスコミで売れっ子になった女性は、もっとのぶとい神経を持っているはずである。」
角田光代	53歳	■	15	「読んでいて、描かれた人に出会ったり、描かれたできごとを見てしまった印象があまりなく、さまざまなアイディアの妙ばかりが印象に残るのは残念だった。」
桐野夏生	69歳	■	18	「誰の手がどうして汚れているのか、そして、その手をどこで拭いてはいけないと誰が言っているのか。この素朴な疑問に、ここに収められた作品が答えを出してくれないのが気になった。しかし、「忘却」をはじめとして、どの着想もユニークであることは間違いない。」
浅田次郎	69歳	■	18	「まばゆいほどのアイデアに満ちた作品である。おそらくこの作家の上には、四六時中天恵が降り落ちているのであろう。しかし本作を見る限り、そうしたアイデアの集積としか思えなかった。」
高村薫	67歳	●	12	「謎解きありきの趣向が勝ちすぎ、登場人物がみな手品のカードのように顔がない。ミステリーの出来よりも、短編小説の勝負どころはまず、「味わい」である。」
三浦しをん	44歳	■	16	「ミステリとしては謎解きがやや小粒な印象を否めず、登場人物やストーリーの深みや驚きという点では、各話に必ず絡む謎解きに紙幅を取られるがゆえに、やや掘り下げきれていない気がして、バランスがちょっと惜しいと感じた。」
伊集院静	70歳	―	0
選評出典：『オール讀物』令和3年/2021年3・4月合併号

吉川英治文学新人賞 第42回候補

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　芦沢央　37歳
選考委員		評価	行数	評言
伊集院静	71歳	―	0
大沢在昌	64歳	●	6	「作者の意図が透けすぎている作品が目立った。」「文体がかもしだす雰囲気を除くと、物語に驚きがあるとは思えない。」
恩田陸	56歳	■	8	「芦沢さんのように、平均点の高い、きちんとした商品としてのエンターテインメントを書ける人を推したい気持ちはずっと持っているのだが、今回の候補作が小粒な短編集だったことは、他がすべて長編だったこともあり、不利だったのではないかと思う。」
京極夏彦	57歳	■	18	「ミステリ的な装いを捨て、エキセントリックな事件（ルビ：イベント）を廃し、それでいて“日常の謎”に落とし込むこともせずにミステリを構成する手腕は実に見事なものである。」「ただし、ミステリとしての精度を上げるために捨てられたレイヤーは多い。」「問題なのは捨てられたいくつかのレイヤーのアウトラインがミステリを構成するのに必要不可欠なパーツとして残ってしまっているところだろう。その結果、意図的に捨てられたはずのレイヤーが、単に欠けたレイヤーとして読み取れてしまう。」
重松清	57歳	■	11	「評者は味わい方を間違えてしまったかもしれない。」「謎解きの魅力は認めつつも、「老いそのもの、孤独それじたいを、もっと深く掘っていただきたかった」という不満が生じてしまった」
選評出典：『小説現代』令和3年/2021年5・6月合併号

文量

短篇集〔5篇〕

ただ、運が悪かっただけ
章立て
なし
時代設定	場所設定
［同時代］～数十年前	ある街
登場人物
●私（語り手、十和子、56歳の末期癌患者） ●夫（建具職人、元〈光村工務店〉見習い） ●中西茂蔵（光村工務店の客）

埋め合わせ
章立て
なし
時代設定	場所設定
［同時代］	ある街
登場人物
●千葉秀則（小学校五年担当教師） ●五木田（男性教諭、秀則と同い年）

忘却
章立て
なし
時代設定	場所設定
［同時代］	ある街
登場人物
●武雄（元・バス運転手） ●妻（武雄と二人暮らしの妻） ●笹井三男（武雄夫婦の住むアパートの隣人）

お蔵入り
章立て
なし
時代設定	場所設定
［同時代］	ある田舎町
登場人物
●大崎祐也（36歳の無名映画監督） ●小島郁人（国民的アイドルグループ「ミニッツ５」メンバー） ●岸野紀之（ベテラン俳優） ●日野さくら（高校三年生、旅館アルバイト）

ミモザ
章立て
なし
時代設定	場所設定
［同時代］	ある街
登場人物
●私（荒井美紀子、本姓・市川、料理研究家） ●瀬部庸平（元・出版社勤務、美紀子のかつての不倫相手）