砂原浩太朗（すなはらこうたろう）-直木賞候補作家｜直木賞のすべて

直木賞のすべて

第165回

＝受賞者＝
佐藤　究
澤田瞳子

＝候補者＝
一穂ミチ
呉　勝浩
砂原浩太朗

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Last Update●[R6]2024/1/28

	Sunahara Kotaro
	生没年月日【注】	昭和44年/1969年～
	経歴	兵庫県出身。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経て、フリーのライター・校正者。平成28年/2016年に「いのちがけ」で第2回「決戦！小説大賞」を受賞。
	受賞歴・候補歴	第2回決戦！小説大賞（平成28年/2016年）「いのちがけ」 \|候補\| 第34回山本周五郎賞（令和2年/2020年度）『高瀬庄左衛門御留書』 \|候補\| 第165回直木賞（令和3年/2021年上期）『高瀬庄左衛門御留書』第9回野村胡堂文学賞（令和3年/2021年度）『高瀬庄左衛門御留書』第11回本屋が選ぶ時代小説大賞（令和3年/2021年）『高瀬庄左衛門御留書』第15回舟橋聖一文学賞（令和3年/2021年）『高瀬庄左衛門御留書』第35回山本周五郎賞（令和3年/2021年度）『黛家の兄弟』 \|候補\| 第13回山田風太郎賞（令和4年/2022年）『黛家の兄弟』 \|候補\| 第28回中山義秀文学賞（令和4年/2022年）『黛家の兄弟』
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第165回候補

『高瀬(たかせ)庄左衛門(しょうざえもん)御留書(おとどめがき)』（令和3年/2021年1月・講談社刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	カバー・目次・奥付ルビ有り「たかせしょうざえもんおとどめがき」
印刷/発行年月日	発行令和3年/2021年1月18日（第1刷）
発行者等	発行者渡瀬昌彦　本文データ制作講談社デジタル製作　印刷所豊国印刷株式会社　製本所株式会社若林製本工場
発行所	株式会社講談社（東京都）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	装幀芦澤泰偉　装画大竹彩奈
総ページ数	335	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	43字 ×18行 ×1段
本文ページ	5～335 （計331頁）	測定枚数	573枚

書誌

初出『小説現代』平成30年/2018年8月号「おくれ毛」＋他の章は書き下ろし

令和5年/2023年6月・講談社／講談社文庫『高瀬庄左衛門御留書』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　砂原浩太朗　52歳
選考委員		評価	行数	評言
林真理子	67歳	■	7	「抑制のきいた文章に魅了された。」「が、既視感から免れることは出来なかった。」
北方謙三	73歳	■	25	「暗く湿ったどうにもならない深い部分の情念に、手が届いたかもしれない。そのはじめの感じが、すぐに表層的な物語に後退した。」「この作品の肝が、嫁、舅の関係だと考えると、二人の描き方はいかにも安直である。暗く背徳的で、孤立した思いの部分まで、登場人物ではなく作者が踏みこめていないのだ。」
角田光代	54歳	■	14	「一揆が起き、幼なじみとの斬り合いも描かれるが、小説は一貫して静謐なままだ。それはこの小説、この作者の魅力だと思う。けれど同時に、登場人物とストーリーを、作者があまりにもコントロールしすぎているゆえのしずけさとも思えた。」
高村薫	68歳	■	17	「既視感の強い時代小説の定型であり、読者は安心して物語に身を委ねられるが、伏線や謎の回収が遅すぎ、終盤でまとめて明らかになるころには謎としての力を失っている。」
三浦しをん	44歳	■	23	「魅力ある登場人物が多いこと、ご飯がおいしそうなこと、暮らしに困窮する人々の存在にきちんと触れられていることに好感を持った。ただ、庄左衛門と嫁の志穂のあいだに恋愛感情が発生するのが、どうしても引っかかる。」「志穂が自立した意思を持つ生き生きとした女性として描かれているからなおさら、惜しいと思った。」
浅田次郎	69歳	●	16	「新しい時代小説を提示する気概が欲しかった。」
桐野夏生	69歳	■	27	「最初は、描写の丁寧さと繊細さに驚いた。」「このトーンでゆくのかと思ったが、中盤から崩れる」「主人公の性格がよくわからなくなるところが多々あった」「主人公の小物ぶりは、人物造型として考えてあったのだろうか。とすれば、嫁の志穂が惹かれる理由がわからない。」
伊集院静	71歳	△	26	「一読して、どこかで読んだ気がするという印象を受けることに私はいささか驚いた。」「私は、既視感ということについて、それが作家にとって初期のことであれば間々許されようと考える立場である。」そういうことを越えて、老いた侍の、苦悩と人間の情念とが、よく描けていると感心した。」
宮部みゆき	60歳	―	0
選評出典：『オール讀物』令和3年/2021年9・10月合併号

山本周五郎賞 第34回候補

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　砂原浩太朗　51歳
選考委員		評価	行数	評言
伊坂幸太郎	49歳	△	30	「ストーリー的にも、前半の庄左衛門の周辺の出来事が、過去のエピソードを説明しつつ、後半のエンターテインメント的展開にも活きてきて非常によくできていますし、ぐっと来る場面も多く、「うまいなあ」と何度も思いました。」「今回、受賞作とはなりませんでしたが、この作家が今後書く時代小説は、時代小説ファンのみならずエンターテインメント小説全般の読者にとっても大事なものになるような予感を覚えます。」
江國香織	57歳	△	27	「文句なくいい小説でした。」「事件とのんびりした日々のバランスが絶妙で、上手いなあとうなりました。」「主人公の、世のなかとの距離のとり方が読んでいて心地よく、作品にとって効果的でもあって、小説に自由さと奥行きを与えていた。」「ただ、本来美点であるはずのひっそりしたところとあぶなげのなさが、他作品との比較においてはやや不利に働いてしまった。」
荻原浩	64歳	■	39	「昔の言葉を駆使して、時には古い言い回しを巧みに利用して、情景も人々の心情も美しく切なく綴っていく。素朴だからこそ響く言葉を随所にちりばめる。」「贅沢を言えば、凄いものを読んだという驚きやワクワクがもう少しあれば、とは思った。」「この小説にも決闘シーンや脱出劇などはあるのだが、わりとお行儀がいい。全体の印象は江戸時代を舞台にしたサラリーマン小説という感じ。」
今野敏	65歳	□	26	「抜群の安定感を持った小説だ。時代小説らしい言葉づかいで、その語彙に舌を巻いた。」「布石、伏線がすべて回収されている。その構成も見事だ。」「ただ、少々話ができすぎというか、作り過ぎの傾向があるかもしれない。しかし、それも時代小説なら許されるという気がする。」「（引用者注：受賞作の）『テスカトリポカ』がなければ、受賞作に推せたかもしれない。」
三浦しをん	44歳	△	50	「静かにつづられる庄左衛門の日常に存在する、ほのかなユーモアや心理の綾がたしかに感じられ、神山藩で暮らしてみたいなと思った。」「現代の感覚に照らしあわせつつ、時代小説で女性をどう描くかは、塩梅がむずかしいことだろうと推測する。（引用者中略）「なんで？」と一番引っかかったのは、庄左衛門と志穂の関係だ。」「そこまでおじさん（庄左衛門）を甘やかすことはない。再婚せず絵で身を立てたいと願う志穂を私は渾身で応援したし、絵を描くことを通して互いを理解しあうからこそ、二人の関係は貴く得がたいのだ。」
選評出典：『小説新潮』令和3年/2021年7月号

文量
長篇
章立て
「一年目」【「おくれ毛」「刃」「遠方より来たる」「雪うさぎ」「夏の日に」】「二年目」【「嵐」「遠い焔」「罪と罠」「花うつろい」「落日」】
時代設定	場所設定
［江戸］	神山藩（架空）
登場人物
●高瀬庄左衛門（神山藩の郡方づとめ、旧名〈原田壮平〉） ●啓一郎（庄左衛門の息子、郡方づとめ） ●志穂（啓一郎の妻、勘定方下役・秋本家の娘） ●立花弦之助（目付役・立花監物の弟、藩校・日修館の助教） ●鏑木修理（側用人） ●芳乃（影山道場主・哲斎の娘） ●碓井慎造（庄左衛門の昔の道場仲間） ●半次（夜鳴き蕎麦屋のあるじ）

『黛家(まゆずみけ)の兄弟(きょうだい)』（令和4年/2022年1月・講談社刊）

書誌

令和5年/2023年12月・講談社／講談社文庫『黛家の兄弟』

山本周五郎賞 第35回受賞

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　砂原浩太朗　52歳
選考委員		評価	行数	評言
伊坂幸太郎	50歳	△	26	「小説のたたずまいとしては派手さはありませんが、ストーリーはサービス精神に溢れていますし、このシリーズが読者にとっては大切なものになるのではないか、と前作で感じた思いを今回、さらに強くしました。」「今回の受賞で、ご自分の小説作法を信じ、書き進めていってもらえると嬉しいです。とはいえ、無責任な読者の我儘としましては、従来の時代小説の枠組みから外れた、仰天するような作品をいつか書いてもらえたら、という気持ちもあります。」
江國香織	58歳	○	49	「端正な文章と上品さはそのままに、エンターテインメント性が前回の候補作から激しくアップしていて、豊かな読書体験をさせてもらえた。なにしろ、途中でびっくり、リーガル・サスペンスの側面もあるのだ。」「一人の人間にとっての命の軽さ（価値においてでは無論なく、いろいろな理由でいまよりもあっけなく潰えがちだったであろう命と、それが必然的に生んだはずの時間や外の世界への感覚）が、虫や鳥や花や空と響き合って小説を構成している。」
荻原浩	65歳	△	35	「文章のたたずまいがいい。情景描写もせりふも、凛として美しい。」「ただ、これも前回にも感じたことだが、江戸時代を描くというお約束に忠実すぎるように思えた。当時の人にだって、身分や家柄や性別や長幼で物事が決められてしまうことに、葛藤や反発があったはずで（たとえば、この小説であれば、新三郎の友だったのに家来になってしまった由利圭蔵の心情にいちばん共感できた）、家老の息子の主人公には見えていない周囲の人々の屈折なんかも、もっと砂原節で読んでみたかった。ないものねだりですけれど。」
今野敏	66歳	◎	37	「私は完全に脱帽だった。この作品を推そうと心に決めて選考会に臨んだ。」「花鳥風月をちりばめた、鮮やかな文体。その描写が物語の流れをまったく削いでいない。説明せずに読者にわからせるという技術が卓越している。特に会話が見事だ。」「全体として、凛とした武家のたたずまいを感じ、読後感も実にすがすがしい。ああ、いい小説を読んだなと、しばらく幸福感が続いた。」
三浦しをん	45歳	□	60	「受賞に全面的に賛同した。」「とにかく文章が端整で時代小説の醍醐味がてんこ盛り。」「どうして一番には推さなかったかというと、女性の描きかたに少々引っかかりを覚えたからだ。たとえば、主人公の妻・りくは、女中だったすぎが、かつて栄之丞（りくの片思い相手、主人公の兄）とつきあっていたことを知っているのだろうか？　知らない（気づいていない）とすれば、りくはかなりぼんやりした女だなと思うし、そんなりくと何食わぬ顔で親しくしてるすぎは、相当やな女だと思う。」
選評出典：『小説新潮』令和4年/2022年7月号

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