選評の概要
150.151. 152. 153. 154. 155.
156. 157. 158. 159. 160.
161. 162. 163. 164. 165.
166. 167. 168. 169. 170.
171.
生没年月日【注】 | 昭和28年/1953年2月6日~ | |
在任期間 | 第150回~(通算11年・22回) | |
在任年齢 | 60歳10ヶ月~ | |
経歴 | 本名=林みどり。大阪府生まれ。国際基督教大学フランス文学専攻卒。 | |
受賞歴・候補歴 |
|
|
サブサイトリンク | ||
処女作 | 「黄金を抱いて翔べ」(『小説新潮』平成2年/1990年10月号) | |
直木賞候補歴 | 第109回受賞 『マークスの山』(平成5年/1993年3月・早川書房/ハヤカワ・ミステリワールド) |
|
サイト内リンク | ▼小研究-ミステリーと直木賞 ▼直木賞受賞作全作読破への道Part1 |
下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。
選考委員 高村薫 61歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
木下昌輝 | 40歳 |
◎ | 27 | 「戦国時代の下剋上を、観念ではなく、実体として描くことに成功した稀有な小説ではないかと思う。」「候補作五作のなかでもっとも迫力のある小説だったので、評者はこれを受賞作に推した。」「(引用者注:「鬼はもとより」と共に)時代小説に詳しい選考委員から、基礎知識の不足が厳しく指摘され、なるほど時代小説とはそういうものなのかと、評者のほうが勉強をさせていただく恰好になった。」 |
37歳 |
■ | 42 | 「(引用者注:「あなたの本当の人生は」と共に)小説の書き方がよく言えばおおらか、悪く言えば粗い点で共通していた。」「最後に自分は「そもそも男ですらないかもしれない」という暴露があって、小説の土台が根こそぎにされる。違和感の正体は視点の定まらなさだったわけだが、作者はなぜこんな自己言及をしたのか。」「あえて性別不詳の視点を取るならば、もっと違った世界が出現してこなければならないのだ。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成27年/2015年3月号 |
選考委員 高村薫 65歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
窪美澄 | 52歳 |
○ | 15 | 「「文章がいい」。」「初回投票で最高点だったとおり、等身大の人間の身体と感情と生活が一つの小説空間をつくっており、読後感がよい。」 |
35歳 |
● | 17 | 「「文章がいい」という声が多かった」「結局、最後に残るのは、現代の都市生活や働く女性の、ありがちな空気感だけなのだが、「文章がいい」本作の好感度の高さの正体は、この現実感の無さなのだろうか。」 | |
「今回の選考会では、「文章がいい」「文章が粗い」といった言葉がしばしば聞かれた。小説の文章の良し悪しはたぶんに個人の好みにもとづく主観的な印象に過ぎないが、小説の文章が題材との相性や作品の完成度と不可分であるとすれば、文章の出来について言及するのは意味のないことではないだろう。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成30年/2018年9月号 |
選考委員 高村薫 66歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
56歳 |
◎ | 20 | 「作家と素材の幸運な出会いが生んだ傑作だと思う。浄瑠璃という素材が作者の言語感覚を刺激し、表現を引き出して、大阪弁の一人語りと浄瑠璃の台詞と道頓堀の賑わいの声などが渾然一体となった言語空間に結実しているのは、まさに創作の奇跡というものでもある。」 | |
窪美澄 | 53歳 |
○ | 15 | 「高度成長期に訪れた「女の時代」を、行き届いた時代考証とともに群像劇にしていて、十分に面白い。」「もともと等身大の女性を描くことに長けている作者が、社会史的な視野を新たに獲得した意欲作だと思う。」 |
「この三十年間、エンターテインメント小説の主流となってきたドラマ性のあるストーリーや大仕掛けのスペクタクルが、一つの区切りを迎えたのかもしれない――奇しくもそんな思いに駆られる令和初の選考会となった。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』令和1年/2019年9・10月合併号 |
選考委員 高村薫 67歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
遠田潤子 | 54歳 |
○ | 19 | 「人がいくらか都合よく死に過ぎる点や、主人公の父母にリアリティがない点など、拙さはあるが、「夾竹桃」や「紅茶に浸したパンの耳」といった印象に残る比喩は、作者の人間観察眼の確かさの証であろう。どこにでもいそうな市井の人間が、小説のなかで無二の顔をもって立ち上がってくる――これが、詰まるところ人間を描くということである。」 |
55歳 |
● | 19 | 「人間を類型で簡潔に切り取るハードボイルドに、それ自体は小説的な言語化が難しい犬というモチーフを合わせて、大人の童話に仕立てたのであろう。」「しかし本作は、ハードボイルドとしても動物の物語としても終始平板で深みを欠き、評者には積極的に推すべき点が見当たらなかった。」 | |
「今回は、あらためて人間を描くことの位置づけや描き方について考えさせられる候補作が揃った。必ずしも人間を描かなければならないとは限らない小説において、人間の描き方が関心事になるのは、それだけオーソドックスな小説が多かったということである。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』令和2年/2020年9・10月合併号 |
選考委員 高村薫 67歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
坂上泉 | 30歳 |
◎ | 22 | 「候補六作のなかでは一番迫力があり、評者はその一点をもって本作を推した。」「若い作者がよく資料を咀嚼して描いていると感心する一方、皮膚感覚のレベルでやはり作り物感があるのも事実である。」 |
56歳 |
□ | 16 | 「まさに再生産の芸たる時代小説の秀作である。」「本作の登場人物にも暮らしの風景にも特段の新味はない。その一方で、定番ならではの落ち着きが味わい深い佇まいになっているのだが、それだけでは賞には届かない。「閨仏」のような粋な小技が、本作を逸品にしているのである。」 | |
「今回は初ノミネートの作家が揃い、選考する側にとっても新鮮な体験になった一方、令和のエンターテインメント小説たちの顔つきは想像以上にオーソドックスで、小説はいまや、模倣もしくは再生産の時代に入ったのかもしれないという思いを強くした。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』令和3年/2021年3・4月合併号 |
選考委員 高村薫 69歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
河﨑秋子 | 42歳 |
○ | 26 | 「評者以外のほぼ全員が女主人公の意志の弱い生き方についていけない、という意見だった。しかしながら、戦前戦後の北海道には厳しい自然と生活に翻弄された弱い人びとが山ほどいただろうし、その一人一人のささやかな感情の歴史を掬い取るのが小説だとしたら、本作の主人公のような女性の造形も十分ありうるだろう。」「一部の登場人物の造形の不自然さや、物語の過剰さが後味の悪さとなっている点を除けば、評者は本作を存分に堪能した。」 |
56歳 |
△ | 12 | 「作者はすでに十分な手練れであり、これまでの作品と比べて本作で特段何かが進化したというのではないが、描かれる日常はどれも粒がそろっており、そのぬるい毒と醒めた停滞は、現代を生きる大人の鑑賞に耐える。」 | |
「本賞にふさわしい小説の姿をどこに求めるかで選考委員の意見は分かれるのが常である。今回はとくに小説観の違いがはっきり出て、個人的には戸惑いも覚えることとなった。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』令和4年/2022年9・10月合併号 |
選考委員 高村薫 70歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
47歳 |
○ | 17 | 「ふつうに道端ですれ違う女子高生やさえない大学生が、そのまんまの言語感覚、身体感覚で登場し、いつの間にか読者の隣で喋っていたり、笑っていたり。気がつけば、幽霊までが当たり前の顔をして、一緒に草野球をしている。それがなんとも楽しく、理屈を全部放りだして、まさに小説が疾走しているのだが、これぞプロの技というものである。」 | |
嶋津輝 | 54歳 |
○ | 22 | 「主要人物の女性二人の姿が鮮明に浮かぶという点で、過不足のない小説の姿をしている。」「活き活きとした女性たちに比べて男性の登場人物たちがみな輪郭も個性もないのは、作者の眼中に初めから男性が入っていないということだろう。その意味で、女性たちだけで完結している世界はちょっと歪でもあり、その歪さが本作をまさに小説にしているのだと思う。」 |
44歳 |
△ | 15 | 「もとより主人公を人間と捉えていては読み通せない小説のため、人間が描けているか否かを問うても意味がない。」「その筆致に圧倒される反面、評者はこの作者の持ち味の、退廃的な無軌道ぶりがちょっと不得手ではある。」 | |
「直木賞の選考では必ず人間が描けているか否かが問われる。」「適切な人間描写があって初めて作品が成功していると言えることは論を待たない。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』令和6年/2024年3・4月合併号 |