第170回

第169回第171回

令和5年/2023年下半期 令和6年/2024年1月17日決定発表／『オール讀物』令和6年/2024年3・4月合併号選評掲載

選考委員　 京極夏彦 60歳 浅田次郎 72歳 桐野夏生 72歳 高村薫 70歳 林真理子 69歳 三浦しをん 47歳 宮部みゆき 63歳 角田光代 56歳 選評総行数　 137 99 113 113 103 145 195 131 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 河﨑秋子　『ともぐい』 497枚 44歳 評 ○ 28 ○ 28 △ 27 △ 15 ◎ 36 □ 33 △ 17 □ 26 万城目学　『八月の御所グラウンド』 309枚 47歳 評 ○ 20 △ 18 △ 21 ○ 17 ◎ 22 ◎ 28 △ 20 △ 20 加藤シゲアキ　『なれのはて』 868枚 36歳 評 ■ 17 ● 10 ● 15 ● 10 ■ 11 ■ 24 ■ 27 ■ 15 嶋津輝　『襷がけの二人』 652枚 54歳 評 ■ 28 △ 22 ○ 19 ○ 22 △ 12 ◎ 24 △ 81 △ 25 宮内悠介　『ラウリ・クースクを探して』 329枚 44歳 評 ■ 28 ● 10 ■ 14 ■ 22 ■ 11 ■ 25 ◎ 28 ■ 25 村木嵐　『まいまいつぶろ』 556枚 56歳 評 ■ 24 ■ 11 ● 17 ● 17 ■ 7 ■ 14 ■ 25 ■ 10                 年齢/枚数の説明   見方・注意点

京極夏彦60歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数137　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 河﨑秋子 44歳 全 ○ 28 「著者は前近代／近代、自然／反自然を対立項として描くことをしない。それは個人の中で鬩ぎ合い浸食し合うものでしかなく、社会的な文脈の中で解釈されることはない。徹底している。」「人になった“熊”は人にならなかった“熊”に喰われるという、一種神話的な帰結も見事なものであり、極めて完成度が高い。」 万城目学 47歳 全 ○ 20 「結構性も整合性も、ストーリーすらも失効し、“ただ読むこと”だけが面白いという希有な仕上がりの小説となっている。小説を、小説という軛から解き放つことでより小説たらしめんとする著者の試みは、原初的（ルビ：プリミティブ）な読書の悦びを引き寄せてくれるものである。その手付きには羨望すら覚える。」 加藤シゲアキ 36歳 全 ■ 17 「陳腐だがエンターテインメント性の高いシークエンスを鏤めることで特異な地平を織り上げるという試みは十分評価できる。惜しむらくは映像的な数珠繋ぎ構造を採用したことと情報の濃淡が、細部の連続性を阻害している。」 嶋津輝 54歳 全 ■ 28 「戦争を分岐点とする主従逆転の構図や結果的に自立ではなく共棲を選択するに至る経緯などが細やかに、かつ巧みに描かれており、とても初の長編とは思えない。ただ主人公のコンプレックスを身体性に落とし込んだことで、そうした焦点がやや分散してしまった感があることは否めないように思う。」 宮内悠介 44歳 全 ■ 28 「国家／社会／歴史を、システム／プログラム／データに仮託して多重に描き出すというスタイルは、（引用者中略）実に卓越した発想だということが判る。ただ終盤に至り叙情的かつ懐古的な装いに纏められてしまうところが惜しい。投げ出してしまっても十分に成立する傑作であると思う。」 村木嵐 56歳 全 ■ 24 「史実に材を採った所謂歴史小説であるが、暗愚として評価される人物の再評価に軸を置いているため、史実の解釈にバイアスがかかってしまったように思う。」「描かれる主従関係は美しく感動的でもあるが、主従が抱えているだろう闇は駆逐されている。そこに踏み込むことはできなかっただろうか。」   「一七〇回は候補作のすべてが受賞してもおかしくない秀作揃いだったと思う。」

他の選考委員 浅田次郎 桐野夏生 高村薫 林真理子 三浦しをん 宮部みゆき 角田光代

浅田次郎72歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題天然の一部分として　総行数99　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 河﨑秋子 44歳 全 ○ 28 「前作「絞め殺しの樹」の欠点を完全に補って余りある作品であった。」「前作に比べて文章に無駄がなく、構成が均衡して苦労譚や謎解きに片寄らず、なおかつ主題が一貫していた。もっとも、この小説の主題の捉え方は人それぞれであろうが、私見では「天然の一部分として存在する人間」であった。」「俗世を厭う男も、俗世を捨てて男と生きようとする女も、またその男女の思いも寄らぬ結末も、悲劇というよりは自然の摂理として納得がゆく。」 万城目学 47歳 全 △ 18 「いつの時代のどこの国にも、必ずひとつの席が用意されている作家だと思う。」「「十二月の都大路上下る」と表題作の「八月の御所グラウンド」はどこかで話がつながると思いきや、他人のまま終わってしまう。それでもなぜか不満は残らず、これも作者の企みのうちかと思わせるのは、すでにベテランの芸域と言えよう。」 加藤シゲアキ 36歳 全 ● 10 「このごろよく見られるテレビドラマふうの作品である。こうした作風を頭から否定するわけではないが、登場人物が過多となって個性が不明瞭になる点は共通している。すなわち、「人間を書く」小説には不向きな手法である。」 嶋津輝 54歳 全 △ 22 「あわただしい現実を忘れて、つかの間の小説世界にひたることができる。しかしながらこの時代に近い家庭環境に生育した私から見ると、うまく書かれているところと得心できぬ部分が半ばした。近代を舞台とした小説の難しさである。」 宮内悠介 44歳 全 ● 10 「壮大な設定のわりには話が妙に小さく感じられた。登場人物の性格もたがいの関係も淡白なせいであろうか。」 村木嵐 56歳 全 ■ 11 「物語としての要領を得ず、徒らに紙数を費した感があった。同じ題材を用いた松本清張の短篇を作者はお読みであろうが、話はすでにそれで足りているのである。」

他の選考委員 京極夏彦 桐野夏生 高村薫 林真理子 三浦しをん 宮部みゆき 角田光代

桐野夏生72歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数113　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 河﨑秋子 44歳 全 △ 27 「生まれて生きて死ぬ。ヒトも熊も自然界の一部でしかないというシンプルさ。」「作者は北海道の厳しい自然を活写し、「熊爪」という熊に近いヒトを巧妙に造型した。前人未踏の山に分け入るような仕事である。」 万城目学 47歳 全 △ 21 「二作とも京都が舞台の、いい具合に肩から力が抜ける面白い読み物だ。」「表題作「八月の御所グラウンド」は、野球をテーマにした青春小説の趣がある。確かに、八月の暑いグラウンドでは、鮮やかな白昼夢が起きそうだ。だから、むしろリアルで、悲しく感じられた。」 加藤シゲアキ 36歳 全 ● 15 「大量の資料を駆使した力作であるし、文章も推敲を重ねた跡が窺える。が、残念なことに、構成を複雑にしたことで、それらが有機的に結びつかない。」「件の絵を持っていた吾妻の祖母の周辺から探すのが順当だと思いながら、違う方向に導かれるのは辛い。」 嶋津輝 54歳 全 ○ 19 「女が誰にも言えずに一人苦悩する姿を描いている点に深く共感する。」「市井の片隅に生きる女たちの世界を、女でしか書けない視点で描いた作者の勇気と筆力に感動した。」 宮内悠介 44歳 全 ■ 14 「穏やかな筆致とリアリティのあるディテールが、よくできた翻訳小説を読んでいるかのようで快い。」「エストニアがＩＴ大国になった背景など、もう少し説明があってもいいのではないか。また、イヴァンのコンペでの落選理由には、少し違和感を覚えた。」 村木嵐 56歳 全 ● 17 「「お幸」や「千瀬」がどのような経緯で家重と会えたのか、という点は忠光の性格を窺い知る絶好の出来事であるはずなのに、そのことを敢えて書かないのは不自然だし、省略のし過ぎに見えてしまう。」

他の選考委員 京極夏彦 浅田次郎 高村薫 林真理子 三浦しをん 宮部みゆき 角田光代

高村薫70歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数113　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 河﨑秋子 44歳 全 △ 15 「もとより主人公を人間と捉えていては読み通せない小説のため、人間が描けているか否かを問うても意味がない。」「その筆致に圧倒される反面、評者はこの作者の持ち味の、退廃的な無軌道ぶりがちょっと不得手ではある。」 万城目学 47歳 全 ○ 17 「ふつうに道端ですれ違う女子高生やさえない大学生が、そのまんまの言語感覚、身体感覚で登場し、いつの間にか読者の隣で喋っていたり、笑っていたり。気がつけば、幽霊までが当たり前の顔をして、一緒に草野球をしている。それがなんとも楽しく、理屈を全部放りだして、まさに小説が疾走しているのだが、これぞプロの技というものである。」 加藤シゲアキ 36歳 全 ● 10 「登場人物たちはどこまでもプロットのための道具であって顔がない。また、発達障害と天才的な画才を結びつける発想は前近代的なうえに、人間描写の手抜きであろう。」 嶋津輝 54歳 全 ○ 22 「主要人物の女性二人の姿が鮮明に浮かぶという点で、過不足のない小説の姿をしている。」「活き活きとした女性たちに比べて男性の登場人物たちがみな輪郭も個性もないのは、作者の眼中に初めから男性が入っていないということだろう。その意味で、女性たちだけで完結している世界はちょっと歪でもあり、その歪さが本作をまさに小説にしているのだと思う。」 宮内悠介 44歳 全 ■ 22 「いま一つ小説の引力を持ちえないのも、人間への小説的アプローチに難があるためだろう。ソ連崩壊前夜のエストニアの青春の淡いスケッチや、翻訳小説ふうの控えめな人物描写はそれなりに味があるが、歴史に名を残さなかった無名の人間に強い引力をもたせるのに、これが最適の手法だったとは言えまい。」 村木嵐 56歳 全 ● 17 「二人（引用者注：徳川家重と大岡忠光）を含め、家重の正妻やその侍女、さらには大岡忠相や田沼意次などの周辺人物もみなそれぞれ歴史上の役割を担っているにすぎず、生身の息遣いはない。男も女もおらず、武士すらいない、関係性だけで描かれる人物の平板さからは、小説の毒も凄みも生まれようがない。」   「直木賞の選考では必ず人間が描けているか否かが問われる。」「適切な人間描写があって初めて作品が成功していると言えることは論を待たない。」

他の選考委員 京極夏彦 浅田次郎 桐野夏生 林真理子 三浦しをん 宮部みゆき 角田光代

林真理子69歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題さまざまな解釈　総行数103　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 河﨑秋子 44歳 全 ◎ 36 「圧倒され、まずこの作品をと強く推した。」「厳寒の大地に、一人で生きてきた男、どんな猛獣にも勝ち抜いてきた男が、女にやすやすと殺されてしまう。」「彼女は異空間から紛れた“近代”で、男はそれゆえに殺害されたのだと私は解釈した。が、他の選考委員から、男こそ熊そのもので、女は自分の子を守る牝熊なのだと聞いてなるほどと思った。素晴らしい文学作品がそうであるように、「ともぐい」はさまざまな読み方が出来るのである。」 万城目学 47歳 全 ◎ 22 「（引用者注：「ともぐい」と共に）強く推した」「最初は学生たちの青春小説だと思いきや、途中から違う様相を見せる。（引用者中略）日常の中に、ふわりとさりげなく非日常を入れていく技は、ベテランならではの技だとうなった。」「しかし冒頭の短篇は不要だったと思う。」 加藤シゲアキ 36歳 全 ■ 11 「わずかな間に腕を上げられたなと思う。」「しかし物語のはじまり、たった一枚の絵に、どうしてこれほど惹きつけられていくのかが最後まで納得できなかった。」 嶋津輝 54歳 全 △ 12 「女性二人がかもし出すなんともいえないユーモアが、この作品の魅力であるが、やはりいろいろな解釈が出来る。女中と奥さんという格差が、たやすく入れ替わるものだというテーマの他に、女性器のルッキズムという全く新しい主題も込められていた。」 宮内悠介 44歳 全 ■ 11 「着眼と構成に感心したが、淡々としすぎてはいないだろうか。偉人になることなく終わった三人の人生を書きたかったのだろうが、やや物足りなさが残った。」 村木嵐 56歳 全 ■ 7 「とても面白く読んだが、感動が後半にいくほど薄れてしまったという気がする。クライマックスが少し、ずれたのではないか。」   「今回の直木賞候補作は粒揃いであった。新鮮な魅力を持つ力作が多く、読んでいて非常に楽しかった。」

他の選考委員 京極夏彦 浅田次郎 桐野夏生 高村薫 三浦しをん 宮部みゆき 角田光代

三浦しをん47歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数145　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 河﨑秋子 44歳 全 □ 33 「（引用者注：「八月の御所グラウンド」「襷がけの二人」に次いで）次点としたのは、「良輔、ふじ乃、八郎の描かれかたが類型的すぎるのではないか」ということと、「陽子がなぜ熊爪を殺すのか、わけがわからない」ということが理由だ。」「だが選考会で、「熊爪も陽子も、熊なのだ」という解釈が提示され、自身の読みの至らなさを恥じた。」「本作の独自性、強靭な表現力には、全面的に感嘆しつつひれ伏すほかなく、受賞に心から賛同した。」 万城目学 47歳 全 ◎ 28 「（引用者注：「襷がけの二人」と共に）推した。」「自由すぎる小説だ。」「登場人物たちの眼差しが過去へと向けられる瞬間、小説の力によって、私も幽霊（らしき存在）の声と思いをまざまざと聞いた気がした。独特の飄々としたユーモアに満ちた本作だが、いまの時代について、実は極めて自覚的に、真剣に考え抜いて書かれた小説なのではないかと感じる。」 加藤シゲアキ 36歳 全 ■ 24 「一枚の絵にまつわる謎を追う展開で、とてもおもしろく、ぐいぐい読み進めた。」「気になったのは、「プロットどおりに話が展開している感じがする」という点だ。謎が解明されていく過程が順調すぎるし、登場人物たちの心情、言動に思いがけない飛翔や余白があまりない気がする。」 嶋津輝 54歳 全 ◎ 24 「（引用者注：「八月の御所グラウンド」と共に）推した。」「市井に生きる女性の生活と人生に焦点を当てながら、説得力をもって時代のうねりを描くという試みが成功している。独特の肌ざわりと余韻が残るのは、この作者にしか書けない、ちょっと変わった着眼点が随所にあるからだろう。」 宮内悠介 44歳 全 ■ 25 「読みながらどうしても、「書き手が途中まで正体を明かさず、いつの時点でだれに取材して得た情報をもとに書いたのか曖昧なまま進む伝記」ってあるかなと引っかかった（「＊」がヒントになってはいるが）。」「メタ構造がうまく機能しきっていないように思えた」 村木嵐 56歳 全 ■ 14 「九代将軍徳川家重と大岡忠光の、主従関係を超えて至った境地に涙した。」「ただ、ストーリーがやや盛りあがりに欠ける印象があり、惜しいと感じた。」

他の選考委員 京極夏彦 浅田次郎 桐野夏生 高村薫 林真理子 宮部みゆき 角田光代

宮部みゆき63歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題白熱の三時間越え　総行数195　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 河﨑秋子 44歳 全 △ 17 「（引用者注：「八月の御所グラウンド」と共に）形も色合いも食感も味わいもまったく異なる二種類のお菓子のようでした。（引用者中略）遠くかけ離れた二作でありながら、点数に大きな差はありませんでしたし、選考委員がみんなで熱っぽく、楽しく議論した二作でしたから、同時受賞は正しい結果だったと思います。」 万城目学 47歳 全 △ 20 「（引用者注：「ともぐい」と共に）形も色合いも食感も味わいもまったく異なる二種類のお菓子のようでした。（引用者中略）遠くかけ離れた二作でありながら、点数に大きな差はありませんでしたし、選考委員がみんなで熱っぽく、楽しく議論した二作でしたから、同時受賞は正しい結果だったと思います。」 加藤シゲアキ 36歳 全 ■ 27 「驚きました。思いっきり直球のミステリーだったからです。」「読者をもてなすための要素が盛りだくさん過ぎて、物語が進むほどにページが重たくなってゆくのが残念だったのですが、こういう大盤振る舞いは創作筋力の強い若者の特権で、懐かしいような甘やかな気分にもなりました。」 嶋津輝 54歳 全 △ 81 「嶋津さんのことをもう少しよく知るために、デビュー短編集『駐車場のねこ』を読んでみました。すると、嶋津さんが作家として（少なくとも今現在）こだわりと興味を持っているのは、男女を問わない人間の身体性だと理解することができました。」「正直、男性読者には勧めにくいタイプのお話なので、老若男女に読んでもらいたい直木賞には向いていない（だから落ちたのではなく、合わなかったのだと思ってください）作品でしたが、『八月の御所グラウンド』と決選投票になるくらい、評価は高かった。」 宮内悠介 44歳 全 ◎ 28 「一番に推しました。」「私は毎度、宮内作品を評する自分の語彙の乏しさに地団駄を踏みたくなります。」「見るからに労作、というページ数を費やさずに、軽やかに優しく読む者の世界を広げ得る、宮内さんの筆力にはいつも感嘆するばかりです。」 村木嵐 56歳 全 ■ 25 「ページを繰りながら何度か泣かされてしまい、「やられたぁ」と心地よく本を閉じました。惜しまれるのは、家重が将軍になるまでの前半はぐいぐい読ませるのに、将軍になってからの後半は急に失速し、作者も次の展開に迷っているような節が見受けられたことです。」   「今回はこの六作を候補作としてお預かりした時点で、「大変な選考になるなあ」と覚悟していました。予想通り久々の三時間越えの議論となり、帰宅したらふらふらでした。」

他の選考委員 京極夏彦 浅田次郎 桐野夏生 高村薫 林真理子 三浦しをん 角田光代

角田光代56歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数131　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 河﨑秋子 44歳 全 □ 26 「熊爪のような、常識を持たず、言葉を用いず思考する人間を、言葉で描くのはむずかしいと思うのだが、作者はみごとにそれをやってのけた。」「陽子が熊爪を殺す理由がわからないという点で私はマルではなくサンカクの評価をつけたが、陽子もまた人ではなく、獣として、人となった熊爪を始末する必要があったという複数の選考委員の説明で、深く納得した。」 万城目学 47歳 全 △ 20 「死者が登場するという設定は新しくないし、読んでいても驚かないが、その驚きのなさが何より魅力的な小説である。具合のいい力の抜き加減が、京都ならそういうことがありそうだと思わせる現実味を作っている。」 加藤シゲアキ 36歳 全 ■ 15 「資料を読みこみ、咀嚼し、大きなテーマに挑んだ力作だと思う。けれども、猪俣兼通、傑、勇たち一族の確執や、兼通と八重の関係など、すさまじい結末を迎えるわりには、それぞれの感情が説明されすぎていて、それが彼らの心のありようを単純化し、表層的なものにしてしまったように思う。」 嶋津輝 54歳 全 △ 25 「なんとも妙味のある小説だった。」「千代ののほほんとした性格が、彼女自身を守りもするし他者を傷つけもする、そのさりげない描きかたも巧い。」「主だった千代がのちには使用人に、使用人だった初衣が主となることで、私たちの役割や立場などさしたる意味がないのではないかと思わせる説得力がある。」 宮内悠介 44歳 全 ■ 25 「じつに引きこまれて読んだ。」「こんなにおもしろい小説なのだから私はもっと読みたかった。紡績工場で働くラウリがライライ先生の誘いに乗るまでは描かれているが、その後があまりに性急すぎ、ラウリのさがし手の正体もあまり気にならなくなってしまい、さらには三人の再会もあっけなさ過ぎるように私には思えてしまった。」 村木嵐 56歳 全 ■ 10 「家重と忠光の人となり、その関係のうつくしさうるわしさに私は幾度も心揺さぶられたが、では家重は、忠光は、いったいどういう人だったのかという点がわからない。そのうつくしくうるわしい関係以外の部分も読みたかった。」   「今回の小説はどれも読み応えがあり、読み手としてはうれしかったが委員としてはつらかった。」

他の選考委員 京極夏彦 浅田次郎 桐野夏生 高村薫 林真理子 三浦しをん 宮部みゆき

河﨑秋子44歳×各選考委員　 『ともぐい』 長篇 497枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 京極夏彦 60歳 全 ○ 28 「著者は前近代／近代、自然／反自然を対立項として描くことをしない。それは個人の中で鬩ぎ合い浸食し合うものでしかなく、社会的な文脈の中で解釈されることはない。徹底している。」「人になった“熊”は人にならなかった“熊”に喰われるという、一種神話的な帰結も見事なものであり、極めて完成度が高い。」 浅田次郎 72歳 全 ○ 28 「前作「絞め殺しの樹」の欠点を完全に補って余りある作品であった。」「前作に比べて文章に無駄がなく、構成が均衡して苦労譚や謎解きに片寄らず、なおかつ主題が一貫していた。もっとも、この小説の主題の捉え方は人それぞれであろうが、私見では「天然の一部分として存在する人間」であった。」「俗世を厭う男も、俗世を捨てて男と生きようとする女も、またその男女の思いも寄らぬ結末も、悲劇というよりは自然の摂理として納得がゆく。」 桐野夏生 72歳 全 △ 27 「生まれて生きて死ぬ。ヒトも熊も自然界の一部でしかないというシンプルさ。」「作者は北海道の厳しい自然を活写し、「熊爪」という熊に近いヒトを巧妙に造型した。前人未踏の山に分け入るような仕事である。」 高村薫 70歳 全 △ 15 「もとより主人公を人間と捉えていては読み通せない小説のため、人間が描けているか否かを問うても意味がない。」「その筆致に圧倒される反面、評者はこの作者の持ち味の、退廃的な無軌道ぶりがちょっと不得手ではある。」 林真理子 69歳 全 ◎ 36 「圧倒され、まずこの作品をと強く推した。」「厳寒の大地に、一人で生きてきた男、どんな猛獣にも勝ち抜いてきた男が、女にやすやすと殺されてしまう。」「彼女は異空間から紛れた“近代”で、男はそれゆえに殺害されたのだと私は解釈した。が、他の選考委員から、男こそ熊そのもので、女は自分の子を守る牝熊なのだと聞いてなるほどと思った。素晴らしい文学作品がそうであるように、「ともぐい」はさまざまな読み方が出来るのである。」 三浦しをん 47歳 全 □ 33 「（引用者注：「八月の御所グラウンド」「襷がけの二人」に次いで）次点としたのは、「良輔、ふじ乃、八郎の描かれかたが類型的すぎるのではないか」ということと、「陽子がなぜ熊爪を殺すのか、わけがわからない」ということが理由だ。」「だが選考会で、「熊爪も陽子も、熊なのだ」という解釈が提示され、自身の読みの至らなさを恥じた。」「本作の独自性、強靭な表現力には、全面的に感嘆しつつひれ伏すほかなく、受賞に心から賛同した。」 宮部みゆき 63歳 全 △ 17 「（引用者注：「八月の御所グラウンド」と共に）形も色合いも食感も味わいもまったく異なる二種類のお菓子のようでした。（引用者中略）遠くかけ離れた二作でありながら、点数に大きな差はありませんでしたし、選考委員がみんなで熱っぽく、楽しく議論した二作でしたから、同時受賞は正しい結果だったと思います。」 角田光代 56歳 全 □ 26 「熊爪のような、常識を持たず、言葉を用いず思考する人間を、言葉で描くのはむずかしいと思うのだが、作者はみごとにそれをやってのけた。」「陽子が熊爪を殺す理由がわからないという点で私はマルではなくサンカクの評価をつけたが、陽子もまた人ではなく、獣として、人となった熊爪を始末する必要があったという複数の選考委員の説明で、深く納得した。」

他の候補作 万城目学 『八月の御所グラウンド』 加藤シゲアキ 『なれのはて』 嶋津輝 『襷がけの二人』 宮内悠介 『ラウリ・クースクを探して』 村木嵐 『まいまいつぶろ』

万城目学47歳×各選考委員　 『八月の御所グラウンド』 中篇集2篇 309枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 京極夏彦 60歳 全 ○ 20 「結構性も整合性も、ストーリーすらも失効し、“ただ読むこと”だけが面白いという希有な仕上がりの小説となっている。小説を、小説という軛から解き放つことでより小説たらしめんとする著者の試みは、原初的（ルビ：プリミティブ）な読書の悦びを引き寄せてくれるものである。その手付きには羨望すら覚える。」 浅田次郎 72歳 全 △ 18 「いつの時代のどこの国にも、必ずひとつの席が用意されている作家だと思う。」「「十二月の都大路上下る」と表題作の「八月の御所グラウンド」はどこかで話がつながると思いきや、他人のまま終わってしまう。それでもなぜか不満は残らず、これも作者の企みのうちかと思わせるのは、すでにベテランの芸域と言えよう。」 桐野夏生 72歳 全 △ 21 「二作とも京都が舞台の、いい具合に肩から力が抜ける面白い読み物だ。」「表題作「八月の御所グラウンド」は、野球をテーマにした青春小説の趣がある。確かに、八月の暑いグラウンドでは、鮮やかな白昼夢が起きそうだ。だから、むしろリアルで、悲しく感じられた。」 高村薫 70歳 全 ○ 17 「ふつうに道端ですれ違う女子高生やさえない大学生が、そのまんまの言語感覚、身体感覚で登場し、いつの間にか読者の隣で喋っていたり、笑っていたり。気がつけば、幽霊までが当たり前の顔をして、一緒に草野球をしている。それがなんとも楽しく、理屈を全部放りだして、まさに小説が疾走しているのだが、これぞプロの技というものである。」 林真理子 69歳 全 ◎ 22 「（引用者注：「ともぐい」と共に）強く推した」「最初は学生たちの青春小説だと思いきや、途中から違う様相を見せる。（引用者中略）日常の中に、ふわりとさりげなく非日常を入れていく技は、ベテランならではの技だとうなった。」「しかし冒頭の短篇は不要だったと思う。」 三浦しをん 47歳 全 ◎ 28 「（引用者注：「襷がけの二人」と共に）推した。」「自由すぎる小説だ。」「登場人物たちの眼差しが過去へと向けられる瞬間、小説の力によって、私も幽霊（らしき存在）の声と思いをまざまざと聞いた気がした。独特の飄々としたユーモアに満ちた本作だが、いまの時代について、実は極めて自覚的に、真剣に考え抜いて書かれた小説なのではないかと感じる。」 宮部みゆき 63歳 全 △ 20 「（引用者注：「ともぐい」と共に）形も色合いも食感も味わいもまったく異なる二種類のお菓子のようでした。（引用者中略）遠くかけ離れた二作でありながら、点数に大きな差はありませんでしたし、選考委員がみんなで熱っぽく、楽しく議論した二作でしたから、同時受賞は正しい結果だったと思います。」 角田光代 56歳 全 △ 20 「死者が登場するという設定は新しくないし、読んでいても驚かないが、その驚きのなさが何より魅力的な小説である。具合のいい力の抜き加減が、京都ならそういうことがありそうだと思わせる現実味を作っている。」

他の候補作 河﨑秋子 『ともぐい』 加藤シゲアキ 『なれのはて』 嶋津輝 『襷がけの二人』 宮内悠介 『ラウリ・クースクを探して』 村木嵐 『まいまいつぶろ』

加藤シゲアキ36歳×各選考委員　 『なれのはて』 長篇 868枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 京極夏彦 60歳 全 ■ 17 「陳腐だがエンターテインメント性の高いシークエンスを鏤めることで特異な地平を織り上げるという試みは十分評価できる。惜しむらくは映像的な数珠繋ぎ構造を採用したことと情報の濃淡が、細部の連続性を阻害している。」 浅田次郎 72歳 全 ● 10 「このごろよく見られるテレビドラマふうの作品である。こうした作風を頭から否定するわけではないが、登場人物が過多となって個性が不明瞭になる点は共通している。すなわち、「人間を書く」小説には不向きな手法である。」 桐野夏生 72歳 全 ● 15 「大量の資料を駆使した力作であるし、文章も推敲を重ねた跡が窺える。が、残念なことに、構成を複雑にしたことで、それらが有機的に結びつかない。」「件の絵を持っていた吾妻の祖母の周辺から探すのが順当だと思いながら、違う方向に導かれるのは辛い。」 高村薫 70歳 全 ● 10 「登場人物たちはどこまでもプロットのための道具であって顔がない。また、発達障害と天才的な画才を結びつける発想は前近代的なうえに、人間描写の手抜きであろう。」 林真理子 69歳 全 ■ 11 「わずかな間に腕を上げられたなと思う。」「しかし物語のはじまり、たった一枚の絵に、どうしてこれほど惹きつけられていくのかが最後まで納得できなかった。」 三浦しをん 47歳 全 ■ 24 「一枚の絵にまつわる謎を追う展開で、とてもおもしろく、ぐいぐい読み進めた。」「気になったのは、「プロットどおりに話が展開している感じがする」という点だ。謎が解明されていく過程が順調すぎるし、登場人物たちの心情、言動に思いがけない飛翔や余白があまりない気がする。」 宮部みゆき 63歳 全 ■ 27 「驚きました。思いっきり直球のミステリーだったからです。」「読者をもてなすための要素が盛りだくさん過ぎて、物語が進むほどにページが重たくなってゆくのが残念だったのですが、こういう大盤振る舞いは創作筋力の強い若者の特権で、懐かしいような甘やかな気分にもなりました。」 角田光代 56歳 全 ■ 15 「資料を読みこみ、咀嚼し、大きなテーマに挑んだ力作だと思う。けれども、猪俣兼通、傑、勇たち一族の確執や、兼通と八重の関係など、すさまじい結末を迎えるわりには、それぞれの感情が説明されすぎていて、それが彼らの心のありようを単純化し、表層的なものにしてしまったように思う。」

他の候補作 河﨑秋子 『ともぐい』 万城目学 『八月の御所グラウンド』 嶋津輝 『襷がけの二人』 宮内悠介 『ラウリ・クースクを探して』 村木嵐 『まいまいつぶろ』

嶋津輝54歳×各選考委員　 『襷がけの二人』 長篇 652枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 京極夏彦 60歳 全 ■ 28 「戦争を分岐点とする主従逆転の構図や結果的に自立ではなく共棲を選択するに至る経緯などが細やかに、かつ巧みに描かれており、とても初の長編とは思えない。ただ主人公のコンプレックスを身体性に落とし込んだことで、そうした焦点がやや分散してしまった感があることは否めないように思う。」 浅田次郎 72歳 全 △ 22 「あわただしい現実を忘れて、つかの間の小説世界にひたることができる。しかしながらこの時代に近い家庭環境に生育した私から見ると、うまく書かれているところと得心できぬ部分が半ばした。近代を舞台とした小説の難しさである。」 桐野夏生 72歳 全 ○ 19 「女が誰にも言えずに一人苦悩する姿を描いている点に深く共感する。」「市井の片隅に生きる女たちの世界を、女でしか書けない視点で描いた作者の勇気と筆力に感動した。」 高村薫 70歳 全 ○ 22 「主要人物の女性二人の姿が鮮明に浮かぶという点で、過不足のない小説の姿をしている。」「活き活きとした女性たちに比べて男性の登場人物たちがみな輪郭も個性もないのは、作者の眼中に初めから男性が入っていないということだろう。その意味で、女性たちだけで完結している世界はちょっと歪でもあり、その歪さが本作をまさに小説にしているのだと思う。」 林真理子 69歳 全 △ 12 「女性二人がかもし出すなんともいえないユーモアが、この作品の魅力であるが、やはりいろいろな解釈が出来る。女中と奥さんという格差が、たやすく入れ替わるものだというテーマの他に、女性器のルッキズムという全く新しい主題も込められていた。」 三浦しをん 47歳 全 ◎ 24 「（引用者注：「八月の御所グラウンド」と共に）推した。」「市井に生きる女性の生活と人生に焦点を当てながら、説得力をもって時代のうねりを描くという試みが成功している。独特の肌ざわりと余韻が残るのは、この作者にしか書けない、ちょっと変わった着眼点が随所にあるからだろう。」 宮部みゆき 63歳 全 △ 81 「嶋津さんのことをもう少しよく知るために、デビュー短編集『駐車場のねこ』を読んでみました。すると、嶋津さんが作家として（少なくとも今現在）こだわりと興味を持っているのは、男女を問わない人間の身体性だと理解することができました。」「正直、男性読者には勧めにくいタイプのお話なので、老若男女に読んでもらいたい直木賞には向いていない（だから落ちたのではなく、合わなかったのだと思ってください）作品でしたが、『八月の御所グラウンド』と決選投票になるくらい、評価は高かった。」 角田光代 56歳 全 △ 25 「なんとも妙味のある小説だった。」「千代ののほほんとした性格が、彼女自身を守りもするし他者を傷つけもする、そのさりげない描きかたも巧い。」「主だった千代がのちには使用人に、使用人だった初衣が主となることで、私たちの役割や立場などさしたる意味がないのではないかと思わせる説得力がある。」

他の候補作 河﨑秋子 『ともぐい』 万城目学 『八月の御所グラウンド』 加藤シゲアキ 『なれのはて』 宮内悠介 『ラウリ・クースクを探して』 村木嵐 『まいまいつぶろ』

宮内悠介44歳×各選考委員　 『ラウリ・クースクを探して』 長篇 329枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 京極夏彦 60歳 全 ■ 28 「国家／社会／歴史を、システム／プログラム／データに仮託して多重に描き出すというスタイルは、（引用者中略）実に卓越した発想だということが判る。ただ終盤に至り叙情的かつ懐古的な装いに纏められてしまうところが惜しい。投げ出してしまっても十分に成立する傑作であると思う。」 浅田次郎 72歳 全 ● 10 「壮大な設定のわりには話が妙に小さく感じられた。登場人物の性格もたがいの関係も淡白なせいであろうか。」 桐野夏生 72歳 全 ■ 14 「穏やかな筆致とリアリティのあるディテールが、よくできた翻訳小説を読んでいるかのようで快い。」「エストニアがＩＴ大国になった背景など、もう少し説明があってもいいのではないか。また、イヴァンのコンペでの落選理由には、少し違和感を覚えた。」 高村薫 70歳 全 ■ 22 「いま一つ小説の引力を持ちえないのも、人間への小説的アプローチに難があるためだろう。ソ連崩壊前夜のエストニアの青春の淡いスケッチや、翻訳小説ふうの控えめな人物描写はそれなりに味があるが、歴史に名を残さなかった無名の人間に強い引力をもたせるのに、これが最適の手法だったとは言えまい。」 林真理子 69歳 全 ■ 11 「着眼と構成に感心したが、淡々としすぎてはいないだろうか。偉人になることなく終わった三人の人生を書きたかったのだろうが、やや物足りなさが残った。」 三浦しをん 47歳 全 ■ 25 「読みながらどうしても、「書き手が途中まで正体を明かさず、いつの時点でだれに取材して得た情報をもとに書いたのか曖昧なまま進む伝記」ってあるかなと引っかかった（「＊」がヒントになってはいるが）。」「メタ構造がうまく機能しきっていないように思えた」 宮部みゆき 63歳 全 ◎ 28 「一番に推しました。」「私は毎度、宮内作品を評する自分の語彙の乏しさに地団駄を踏みたくなります。」「見るからに労作、というページ数を費やさずに、軽やかに優しく読む者の世界を広げ得る、宮内さんの筆力にはいつも感嘆するばかりです。」 角田光代 56歳 全 ■ 25 「じつに引きこまれて読んだ。」「こんなにおもしろい小説なのだから私はもっと読みたかった。紡績工場で働くラウリがライライ先生の誘いに乗るまでは描かれているが、その後があまりに性急すぎ、ラウリのさがし手の正体もあまり気にならなくなってしまい、さらには三人の再会もあっけなさ過ぎるように私には思えてしまった。」

他の候補作 河﨑秋子 『ともぐい』 万城目学 『八月の御所グラウンド』 加藤シゲアキ 『なれのはて』 嶋津輝 『襷がけの二人』 村木嵐 『まいまいつぶろ』

村木嵐56歳×各選考委員　 『まいまいつぶろ』 長篇 556枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 京極夏彦 60歳 全 ■ 24 「史実に材を採った所謂歴史小説であるが、暗愚として評価される人物の再評価に軸を置いているため、史実の解釈にバイアスがかかってしまったように思う。」「描かれる主従関係は美しく感動的でもあるが、主従が抱えているだろう闇は駆逐されている。そこに踏み込むことはできなかっただろうか。」 浅田次郎 72歳 全 ■ 11 「物語としての要領を得ず、徒らに紙数を費した感があった。同じ題材を用いた松本清張の短篇を作者はお読みであろうが、話はすでにそれで足りているのである。」 桐野夏生 72歳 全 ● 17 「「お幸」や「千瀬」がどのような経緯で家重と会えたのか、という点は忠光の性格を窺い知る絶好の出来事であるはずなのに、そのことを敢えて書かないのは不自然だし、省略のし過ぎに見えてしまう。」 高村薫 70歳 全 ● 17 「二人（引用者注：徳川家重と大岡忠光）を含め、家重の正妻やその侍女、さらには大岡忠相や田沼意次などの周辺人物もみなそれぞれ歴史上の役割を担っているにすぎず、生身の息遣いはない。男も女もおらず、武士すらいない、関係性だけで描かれる人物の平板さからは、小説の毒も凄みも生まれようがない。」 林真理子 69歳 全 ■ 7 「とても面白く読んだが、感動が後半にいくほど薄れてしまったという気がする。クライマックスが少し、ずれたのではないか。」 三浦しをん 47歳 全 ■ 14 「九代将軍徳川家重と大岡忠光の、主従関係を超えて至った境地に涙した。」「ただ、ストーリーがやや盛りあがりに欠ける印象があり、惜しいと感じた。」 宮部みゆき 63歳 全 ■ 25 「ページを繰りながら何度か泣かされてしまい、「やられたぁ」と心地よく本を閉じました。惜しまれるのは、家重が将軍になるまでの前半はぐいぐい読ませるのに、将軍になってからの後半は急に失速し、作者も次の展開に迷っているような節が見受けられたことです。」 角田光代 56歳 全 ■ 10 「家重と忠光の人となり、その関係のうつくしさうるわしさに私は幾度も心揺さぶられたが、では家重は、忠光は、いったいどういう人だったのかという点がわからない。そのうつくしくうるわしい関係以外の部分も読みたかった。」

他の候補作 河﨑秋子 『ともぐい』 万城目学 『八月の御所グラウンド』 加藤シゲアキ 『なれのはて』 嶋津輝 『襷がけの二人』 宮内悠介 『ラウリ・クースクを探して』