河﨑秋子（かわさきあきこ）-直木賞受賞作家｜直木賞のすべて

直木賞のすべて

第170回

＝受賞者＝
河﨑秋子
万城目　学

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Last Update●[R6]2024/9/8

	Kawasaki Akiko
	生没年月日【注】	昭和54年/1979年☆月☆日～
	経歴	北海道別海町生まれ。北海学園大学経済学部卒。酪農従業員をしながら緬羊を飼育・出荷するかたわらで小説を書き、平成26年/2014年に「颶風の王」で三浦綾子文学賞を受賞。これが単行本化されてデビューする。
	受賞歴・候補歴	\|候補\| 第44回北海道新聞文学賞［創作・評論部門］（平成22年/2010年）「熊爪譚」第45回北海道新聞文学賞［創作・評論部門／佳作］（平成23年/2011年）「北夷風人」第46回北海道新聞文学賞［創作・評論部門］（平成24年/2012年）「東陬遺事」三浦綾子文学賞（平成26年/2014年）「颶風の王」第29回ＪＲＡ賞馬事文化賞（平成27年/2015年度）『颶風の王』第21回大藪春彦賞（平成30年/2018年度）『肉弾』 \|候補\| 第36回織田作之助賞（令和1年/2019年）『土に贖う』第39回新田次郎文学賞（令和2年/2020年）『土に贖う』 \|候補\| 第33回三島由紀夫賞（令和2年/2020年）『土に贖う』 \|候補\| 第11回山田風太郎賞（令和2年/2020年）『土に贖う』 \|候補\| 第167回直木賞（令和4年/2022年上期）『絞め殺しの樹』 \|候補\| 第39回織田作之助賞（令和4年/2022年）『絞め殺しの樹』第170回直木賞（令和5年/2023年下期）『ともぐい』
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第167回候補

『絞(し)め殺(ごろ)しの樹(き)』（令和3年/2021年12月・小学館刊）

媒体・作品情報

印刷/発行年月日	発行令和3年/2021年12月6日（初版第1刷）
発行者等	発行者石川和男　編集幾野克哉　ＤＴＰ株式会社昭和ブライト　印刷所萩原印刷株式会社　製本所株式会社若林製本工場
発行所	株式会社小学館（東京都）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	装画荻原美里　装幀岡本歌織（next door design）
総ページ数	430	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	44字 ×20行 ×1段
本文ページ	5～430 （計426頁）	測定枚数	836枚

書誌

初出『STORY BOX』令和1年/2019年5月号～令和2年/2020年4月号/単行本化にあたり大幅加筆・修正

令和6年/2024年4月・小学館／小学館文庫『絞め殺しの樹』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　河﨑秋子　42歳
選考委員		評価	行数	評言
浅田次郎	70歳	■	17	「すでに固有の文体が確立されており、かつ真摯な推敲がなされていた。ただし、真面目な作者ならではの実話取材なのであろうか、取捨を潔しとせぬ苦労譚の詳述がフィクション性を殆くした。」
北方謙三	74歳	●	21	「タイトルからして考えすぎだと感じた。主人公が、（引用者中略）結婚してから、物語は不意に色褪せ、輝きが失せてきたと感じた。人の描写が、一面的だったのかもしれない。苦労というものがただの苦労にすぎなかったら、暗さが覆い被さってきて、読む側に救いがないのだ。」
宮部みゆき	61歳	●	8	「北の大地に生きる女の辛苦の一代記という点で、どうしても桜木紫乃さんの傑作『ラブレス』と重なってしまい、別のアプローチがなかったかなあと、もどかしく思いました。」
三浦しをん	45歳	■	28	「次第に、「手に職もあるのに、どうしてこの環境から逃げようとしないんだろう」とイライラし、生まれた息子を意地悪な吉岡家へ養子に出すに至って、もはや主人公の忍耐強さと断れなさは害悪の域に突入しているのではと天を仰いだ。たぶん情報提示のタイミングが早すぎるのが、イライラを生ぜしめる一因だ。」「「この道を選択する以外に手段がなかったのだ」と読者が納得できるよう、周到に主人公を追いこんでほしかった。」
高村薫	69歳	○	26	「評者以外のほぼ全員が女主人公の意志の弱い生き方についていけない、という意見だった。しかしながら、戦前戦後の北海道には厳しい自然と生活に翻弄された弱い人びとが山ほどいただろうし、その一人一人のささやかな感情の歴史を掬い取るのが小説だとしたら、本作の主人公のような女性の造形も十分ありうるだろう。」「一部の登場人物の造形の不自然さや、物語の過剰さが後味の悪さとなっている点を除けば、評者は本作を存分に堪能した。」
林真理子	68歳	●	12	「私はもともとこういう女性の一代記が大好物だ。が、今回は苛立ちと疑問だらけであった。」「（引用者注：主人公の）価値観や人生観がころころと変わり、とても共感出来なかった。」
角田光代	55歳	●	20	「出てくる人々が、一貫してかわらない。性悪な人たちは性悪なまま、不幸な人は不幸なまま、弱い（とされる）人間は弱いまま。だれと出会っても何が起きてもかわることがない、その人物のありようの単純さが、壮大になるはずの物語をちいさなものにしてしまったように思う。」
伊集院静	72歳	―	0
桐野夏生	70歳	●	21	「主人公の主体性という意味で（引用者中略）物足りなかった。第一部の主人公・ミサエの欲のなさはいったいどうしたことだろう。」「まさしく「絞め殺」される運命を描きたかったのかもしれないが、としたら、絞め殺す側の感情の方を読んでみたい。あまりに理不尽で暴力的な虐待がどうして生まれるのか、傲りの生理を知りたいからである。」
選評出典：『オール讀物』令和4年/2022年9・10月合併号

文量
長篇
章立て
「第一部」【「第一章　捻じ花」「第二章　蔓梅凝き」「第三章　山葡萄」】「第二部」【「第一章　無花果」「第二章　菩提樹」】
時代設定	場所設定
昭和10年～昭和60年頃	北海道
登場人物
●橋宮ミサエ（根室・吉岡家の下働き、のち開拓保健婦） ●吉岡雄介（ミサエの実子、生後まもなく吉岡家の養子となる） ●大婆様（吉岡家の長老） ●光太郎（大婆様の孫） ●タカ乃（光太郎の妻） ●一郎（光太郎の長男、雄介の養父） ●小山田武臣（富山の薬屋） ●木田浩司（銀行員、ミサエの結婚相手） ●道子（ミサエの娘） ●小山田俊之（武臣の息子） ●ハナ（一郎の妻、雄介の養母）

第170回受賞

『ともぐい』（令和5年/2023年11月・新潮社刊）

媒体・作品情報

印刷/発行年月日	発行令和5年/2023年11月20日
発行者等	発行者佐藤隆信　印刷所錦明印刷株式会社　製本所加藤製本株式会社
発行所	株式会社新潮社（東京都）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	装画丹野杏香　装幀新潮社装幀室
総ページ数	295	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	42字 ×18行 ×1段
本文ページ	5～295 （計291頁）	測定枚数	497枚

書誌

初出『小説新潮』令和4年/2022年8月号～令和5年/2023年7月号/単行本化にあたり加筆修正

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　河﨑秋子　44歳
選考委員		評価	行数	評言
京極夏彦	60歳	○	28	「著者は前近代／近代、自然／反自然を対立項として描くことをしない。それは個人の中で鬩ぎ合い浸食し合うものでしかなく、社会的な文脈の中で解釈されることはない。徹底している。」「人になった“熊”は人にならなかった“熊”に喰われるという、一種神話的な帰結も見事なものであり、極めて完成度が高い。」
浅田次郎	72歳	○	28	「前作「絞め殺しの樹」の欠点を完全に補って余りある作品であった。」「前作に比べて文章に無駄がなく、構成が均衡して苦労譚や謎解きに片寄らず、なおかつ主題が一貫していた。もっとも、この小説の主題の捉え方は人それぞれであろうが、私見では「天然の一部分として存在する人間」であった。」「俗世を厭う男も、俗世を捨てて男と生きようとする女も、またその男女の思いも寄らぬ結末も、悲劇というよりは自然の摂理として納得がゆく。」
桐野夏生	72歳	△	27	「生まれて生きて死ぬ。ヒトも熊も自然界の一部でしかないというシンプルさ。」「作者は北海道の厳しい自然を活写し、「熊爪」という熊に近いヒトを巧妙に造型した。前人未踏の山に分け入るような仕事である。」
高村薫	70歳	△	15	「もとより主人公を人間と捉えていては読み通せない小説のため、人間が描けているか否かを問うても意味がない。」「その筆致に圧倒される反面、評者はこの作者の持ち味の、退廃的な無軌道ぶりがちょっと不得手ではある。」
林真理子	69歳	◎	36	「圧倒され、まずこの作品をと強く推した。」「厳寒の大地に、一人で生きてきた男、どんな猛獣にも勝ち抜いてきた男が、女にやすやすと殺されてしまう。」「彼女は異空間から紛れた“近代”で、男はそれゆえに殺害されたのだと私は解釈した。が、他の選考委員から、男こそ熊そのもので、女は自分の子を守る牝熊なのだと聞いてなるほどと思った。素晴らしい文学作品がそうであるように、「ともぐい」はさまざまな読み方が出来るのである。」
三浦しをん	47歳	□	33	「（引用者注：「八月の御所グラウンド」「襷がけの二人」に次いで）次点としたのは、「良輔、ふじ乃、八郎の描かれかたが類型的すぎるのではないか」ということと、「陽子がなぜ熊爪を殺すのか、わけがわからない」ということが理由だ。」「だが選考会で、「熊爪も陽子も、熊なのだ」という解釈が提示され、自身の読みの至らなさを恥じた。」「本作の独自性、強靭な表現力には、全面的に感嘆しつつひれ伏すほかなく、受賞に心から賛同した。」
宮部みゆき	63歳	△	17	「（引用者注：「八月の御所グラウンド」と共に）形も色合いも食感も味わいもまったく異なる二種類のお菓子のようでした。（引用者中略）遠くかけ離れた二作でありながら、点数に大きな差はありませんでしたし、選考委員がみんなで熱っぽく、楽しく議論した二作でしたから、同時受賞は正しい結果だったと思います。」
角田光代	56歳	□	26	「熊爪のような、常識を持たず、言葉を用いず思考する人間を、言葉で描くのはむずかしいと思うのだが、作者はみごとにそれをやってのけた。」「陽子が熊爪を殺す理由がわからないという点で私はマルではなくサンカクの評価をつけたが、陽子もまた人ではなく、獣として、人となった熊爪を始末する必要があったという複数の選考委員の説明で、深く納得した。」
選評出典：『オール讀物』令和6年/2024年3・4月合併号

文量

長篇

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