第159回

第158回第160回

平成30年/2018年上半期 平成30年/2018年7月18日決定発表／『オール讀物』平成30年/2018年9月号選評掲載

選考委員　 北方謙三 70歳 宮城谷昌光 73歳 浅田次郎 66歳 桐野夏生 66歳 東野圭吾 60歳 林真理子 64歳 高村薫 65歳 宮部みゆき 57歳 伊集院静 68歳 選評総行数　 100 94 86 114 110 106 101 133 101 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 島本理生　『ファーストラヴ』 551枚 35歳 評 ◎ 18 □ 21 □ 13 △ 25 ○ 21 ■ 21 ● 17 △ 15 ◎ 43 上田早夕里　『破滅の王』 821枚 53歳 評 ■ 10 △ 16 ■ 17 △ 23 ● 25 ■ 16 ■ 20 ◎ 45 △ 22 木下昌輝　『宇喜多の楽土』 621枚 43歳 評 ■ 20 △ 26 ■ 7 ● 18 ● 13 ■ 11 ● 15 ■ 17 ● 7 窪美澄　『じっと手を見る』 424枚 52歳 評 ■ 12 ■ 10 ○ 26 △ 27 □ 15 ○ 25 ○ 15 △ 17 ■ 18 本城雅人　『傍流の記者』 500枚 53歳 評 ● 10 ● 13 ■ 10 △ 13 ■ 15 ■ 13 ■ 10 ■ 15 ● 12 湊かなえ　『未来』 752枚 45歳 評 ■ 17 ● 8 ■ 13 ● 8 ● 21 ■ 20 ● 12 ■ 24 ― 0                   年齢/枚数の説明   見方・注意点

北方謙三70歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題抑制と行間　総行数100　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 島本理生 35歳 全 ◎ 18 「抑制が利いて、行間が豊かだと感じた。」「闇を、ゆっくりとまさぐり、かき分け、気づくと、人の心の奥底に眠る、真実というものに手が届くかもしれない、という快感がある。」「私は、これに丸をつけた。」 上田早夕里 53歳 全 ■ 10 「労作と感じたが、底の知れない闇を描き出すことに成功した、とは思わなかった。」「重苦しさがのしかかってこないのは、人の存在感が希薄だからではないだろうか。」 木下昌輝 43歳 全 ■ 20 「殿様の甘い理想と、血で血を洗う時代の峻烈さが、うまく絡み合っている。理想の非現実性が扱われているが、それが切実なものとして迫ってこないのが、小説的欠点ではないだろうか。」「秀家の楽土は、流された島であろう。それが幕藩体制のなにを照らし出したのか、そんな物語を読んでみたかった。」 窪美澄 52歳 全 ■ 12 「最初の三作に、日常を非日常に変えるほどの熱量を感じ、後半ではその熱量が低下しているように感じた。恋愛の終りに日常が剥き出しになるのは、私の考える小説的醍醐味には欠けていた。」 本城雅人 53歳 全 ● 10 「どこを読んでも既視感に似たものに襲われる。描かれる事象は克明で、同期の登場人物たちの書き分けもきちんとしていて、全体としては隙のない世界が構築されながら、新鮮さに欠ける。」 湊かなえ 45歳 全 ■ 17 「深いところに手が届きかけた作品だ、と感じた。」「描写については、抑制に欠けていて、それが空疎なものに行き着くという結果を招いている。」   「候補作を積みあげ眺めていると、おかしな気分になることがある。読書の愉しみのために、これを読むのではない。あろうことか、最終的に順位付けまでしてしまうのだ。賞の選考とはそういうものだとわかっても、理不尽なことをしているという思いが、いつもつきまとってくる。」

他の選考委員 宮城谷昌光 浅田次郎 桐野夏生 東野圭吾 林真理子 高村薫 宮部みゆき 伊集院静

宮城谷昌光73歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題小説の風致　総行数94　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 島本理生 35歳 全 □ 21 「理不尽あるいは不条理とむきあう者は、その対峙する時間の経過のうちに、自身がかかえている理不尽、不条理の解明がなされるか、潜在的なそれらが浮上するというのが、小説の原理におけるふりあいというものである。この作品ではある程度それはなされているとはいえ、構成的明確さに欠ける。」「小説全体がもっている質感はかなり佳い。」 上田早夕里 53歳 全 △ 16 「私にとってインパクトはあった。」「ただし実録的要素のつよい作品は、文学的許容の外にあるため、そのあたりの事情に暗い私としては、肯定することをためらわざるをえなかった。だが、この作品には、強い意志の下に物語を邁進させてゆくという力がある。」 木下昌輝 43歳 全 △ 26 「読後感にはいくつか不満があった。小説内の事象が増大したものの立体化しなかったといううらみがある。また歴史小説としての風趣もけっして佳いとはいえない。」「とはいえ、この種の小説を書くために、どれほどむだなことを学ばなければならないかと想えば、作品を評する場合、かんたんに否とはいえない。私は真摯に努力する人の味方になりたい。」 窪美澄 52歳 全 ■ 10 「こういうおとなしい小説は、その底にとてもない勁さを秘めているものだが、理法を超えて読み手を瞠目させるほどのすごみは出現しなかった。」 本城雅人 53歳 全 ● 13 「音楽にたとえると、不協和音が多用されている楽曲である。それが新機軸として成功していただろうか。私は否だとおもう。」「小説の内的エネルギーを読者に伝えてゆく技法が熟していない。」 湊かなえ 45歳 全 ● 8 「湊かなえ氏の作品が最初に直木賞候補になったとき、この人には美質があると感じ、以来、氏の作品には同情的であるが、今回の作品は、端的にいえばモノローグにすぎず、なんら新味を感じなかった。」

他の選考委員 北方謙三 浅田次郎 桐野夏生 東野圭吾 林真理子 高村薫 宮部みゆき 伊集院静

浅田次郎66歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題清潔な苦労　総行数86　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 島本理生 35歳 全 □ 13 「受賞に異論はない。ページを繰るたびに、才能のしずくがこぼれ落ち、香気が立つような気がした。」「それでも本作を強く押せなかった理由は、構造上の疑問であった。このストーリーを一人称で支えるのはつらい。」 上田早夕里 53歳 全 ■ 17 「掛値なしの力作である。」「称賛は惜しまぬのだが、やはり小説としては大団円に至って、息が上がってしまった感があった。どれほど歴史を敬し畏れても、やはり嘘をつき続けてこその小説家であろう。」 木下昌輝 43歳 全 ■ 7 「どうして時代にそって書いてしまったのだろう。平穏な島暮らしをフレームとした懐旧譚ならば、けだし傑作になりえたろうにと悔やまれた。」 窪美澄 52歳 全 ○ 26 「まったくその表題通りに、働けど楽にならざる苦労を描いた佳品である。そのテーマのシンプルさゆえに小説のダイナミズムは欠くのだが、舞台設定が自然で登場人物もよく練られており、完成度はすこぶる高かった。」「おそらく作者には清貧の世界観があるのだろう。そうでなければ、理不尽な苦労をかくも清潔に描けるはずはない。」 本城雅人 53歳 全 ■ 10 「説明くさくなくてわかりやすい、センスのよさを感じた。しかし読み進むうちに、よその職場の愚痴を聞いているような気分になった。」 湊かなえ 45歳 全 ■ 13 「夥しい登場人物と劇的要素とを一巻の小説にみごと包みこんだ。しかし、いかんせん想像力が余りに豊かすぎて、本筋の推進力を欠くきらいがあった。」

他の選考委員 北方謙三 宮城谷昌光 桐野夏生 東野圭吾 林真理子 高村薫 宮部みゆき 伊集院静

桐野夏生66歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数114　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 島本理生 35歳 全 △ 25 「全体的に薄味な印象だ。」「いつも感じるのは、作者の心の裡にある、異性との間に生じる違和感やトラウマの存在である。（引用者中略）決して声高には言えない、そのヒリヒリした痛みと躊躇いは、若い女性の共感を呼ぶことだろう。」 上田早夕里 53歳 全 △ 23 「資料を駆使して物語に練り上げていく知性と筆力を感じた。が、気になるところが散見されたのも事実である。例えば、「灰塚」のベルリン行きは可能性の面からも、小説の完成度から見ても疑問だし、「株」に関する謎解きもドタバタに感じられる。」 木下昌輝 43歳 全 ● 18 「史実を忠実に追っているだけで、『宇喜多の捨て嫁』のように、自由闊達に想像され、動き回る人物がいないのが寂しい。」「これは余計なことだが、八丈島で暮らした秀家の人生を描いた方が面白かったのではないだろうか。」 窪美澄 52歳 全 △ 27 「達者な作品だと感心して読んだ。地方都市に生まれ育った若者たちの、どこにも行けない閉塞感。その諦めの有様がうまく書かれている。」「最近、よく見聞きする介護士の若者たちの起こす事件は、彼らの何かの噴出である。その噴出が感じられないだけに、物語を作っている感が否めなかった。」 本城雅人 53歳 全 △ 13 「狭い新聞記者業界内部の域を出ていないように感じられたものの、記者の人間関係の話は、確かに他に類を見ないから面白かった。それから、プロローグは要らないのではないか。」 湊かなえ 45歳 全 ● 8 「この作者の特徴かと思われるが、子供が見る悪い夢を一緒に見ているようなもどかしさと閉塞感がある。しかし、夢は夢である。「嫌な感じ」は、リアリティに裏付けられてこその感覚ではないかと思った。」

他の選考委員 北方謙三 宮城谷昌光 浅田次郎 東野圭吾 林真理子 高村薫 宮部みゆき 伊集院静

東野圭吾60歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数110　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 島本理生 35歳 全 ○ 21 「主要登場人物の大方が深い精神的外傷を引きずっているというのは、ちょっとやりすぎではないか。ミステリ的には、警察ではどう供述したのか、犯行の再現はどう為されたのか、といったところを指摘したくなる」「しかし迦葉と我聞という兄弟の関係はよく描けているし、作者の都合で人物を動かしていない点に好感が持てたので、今回はこの作品を○とした。」 上田早夕里 53歳 全 ● 25 「読み始めて７３１部隊の話と気づき、わくわくした。（引用者中略）ところが読み進めるうちに失望が広がった。ごく狭い人間関係だけで展開するので、物語にスケールの大きさが感じられない。」「最も残念だったのは、細菌の恐ろしさがちっとも伝わってこないことだ。」 木下昌輝 43歳 全 ● 13 「前作に比べると全体的にインパクトに欠ける。主人公をはじめ、登場人物たちに魅力が乏しい。」「エピソードも小粒で、歴史的事実を超える面白さがない。」 窪美澄 52歳 全 □ 15 「つい最近まで父が介護施設に入っていたこともあり、親近感もあった。なぜこんな魅力のない人間にこんなに惹かれるのか、との疑問は愚問だと思わせる力が文章にあった。しかしこのクラスの作品は世に溢れているような気もする。特にこの小説が抜きん出ているようには感じなかったので△とさせていただいた。」 本城雅人 53歳 全 ■ 15 「エンタテイメント小説として立派な出来だと思うが、無難で地味という印象があるのは、核になる大きな事件がないからかもしれない。人物の描き分け方も物足りない。」「企業勤めを経験すれば、その業界の内幕ものを一つや二つは書ける。この作品が、そのレベルを超越しているかどうかは判断の難しいところだ。」 湊かなえ 45歳 全 ● 21 「いい歳をした男にとっては、小学生や中学生が未来の自分宛に書いた手紙を延々と読まされるというのは、やはりかなり忍耐のいることであった。構造上、必要な手続きであるにせよ、そこを何とかするのがプロではないか。」「内容は虐待のオンパレードであるが、今の時代、虐待の詳細を描くだけでは新しい小説とはいえないのでは。」

他の選考委員 北方謙三 宮城谷昌光 浅田次郎 桐野夏生 林真理子 高村薫 宮部みゆき 伊集院静

林真理子64歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題“面白い”の先にあるもの　総行数106　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 島本理生 35歳 全 ■ 21 「私は強く推すことが出来なかった。」「精神科医でもジャーナリストでもない臨床心理士が、判決の出ていない殺人事件について本を書こうとするのが不自然。」「「女子アナウンサーの試験を受けた日の殺人」というのがキーワードになっているが、（引用者中略）女子アナは自己肯定のカタマリのような職業。殺人者のキャラクターとまるで合っていないのである。」 上田早夕里 53歳 全 ■ 16 「二段組みの小説には非常に大切なことがある。「あまりの面白さに、ページをめくるのももどかしくなる」と思わせるほどのパワーが必要なのだ。上海、細菌部隊、スパイ、とこれだけの道具立てを用意されても、ほとんどわくわくしなかったのである。」 木下昌輝 43歳 全 ■ 11 「達者な書きっぷりと宇喜多への愛は、とうに当選圏内なのであるが、今回はあまり魅力を感じなかった。主人公の優しさが、次第に歯がゆいものとなっていくのである。」 窪美澄 52歳 全 ○ 25 「東京に近い地方の街で、介護士をしている女性とその恋人を描いたものだ。（引用者中略）絶望もしていなければ、この街を出て行こうという強い野心もない。ほどあいがまことによい書きっぷりで、読後感がとてもよかった。しかし不倫をする東京の男の独白はいらないと思う。」 本城雅人 53歳 全 ■ 13 「スクープをめぐっての、新聞社内の駆け引きが非常にスリリングなのであるが、「ひと昔前の話」という感はぬぐえない。新聞が最初にニュースを発するメディアだった頃の話だろうとつい思ってしまう。」 湊かなえ 45歳 全 ■ 20 「どうも評価出来なかった。出てくる大人にほとんどまともな人間はいない。子どもの多くは性的虐待に遭っている。放火も何度も起こり、派手な道具立てにリアリティが感じられない。」「面白いといえば非常に面白い。が、湊さんにはこの面白さの先にあるものをぜひつかんでほしいと願うのである。」   「今回は受賞作なしか、窪美澄さんの「じっと手を見る」にしようと選考会に臨んだ。」

他の選考委員 北方謙三 宮城谷昌光 浅田次郎 桐野夏生 東野圭吾 高村薫 宮部みゆき 伊集院静

高村薫65歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数101　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 島本理生 35歳 全 ● 17 「「文章がいい」という声が多かった」「結局、最後に残るのは、現代の都市生活や働く女性の、ありがちな空気感だけなのだが、「文章がいい」本作の好感度の高さの正体は、この現実感の無さなのだろうか。」 上田早夕里 53歳 全 ■ 20 「いわゆる「筆力」は題材の咀嚼不足を補うほど万能ではないことの一例と言えるかもしれない。活劇の舞台である日中戦争当時の関東軍や特務機関についての理解の浅さは、たとえば映像ではカバーできても、文章ではそうは行かない。」 木下昌輝 43歳 全 ● 15 「外連味が身上の時代小説の小説作法と、華々しさに欠ける宇喜多秀家という題材のミスマッチが、小説の完成度の低さにつながったのかもしれない。」 窪美澄 52歳 全 ○ 15 「「文章がいい」。」「初回投票で最高点だったとおり、等身大の人間の身体と感情と生活が一つの小説空間をつくっており、読後感がよい。」 本城雅人 53歳 全 ■ 10 「エンターテインメントとして過不足はないが、新聞記者という、今日では少々手垢のついた題材が小説全体の印象を薄くした。」 湊かなえ 45歳 全 ● 12 「文章云々の以前に、いつもながら題材や物語の劇画的な極端さが際立っており、さながらトッピングの「全部乗せ」のようだった。もはやもとの料理が何だったのか分からないその過剰さは、小説がそもそも文章の術であることを超越した「湊かなえワールド」というほかない。」   「今回の選考会では、「文章がいい」「文章が粗い」といった言葉がしばしば聞かれた。小説の文章の良し悪しはたぶんに個人の好みにもとづく主観的な印象に過ぎないが、小説の文章が題材との相性や作品の完成度と不可分であるとすれば、文章の出来について言及するのは意味のないことではないだろう。」

他の選考委員 北方謙三 宮城谷昌光 浅田次郎 桐野夏生 東野圭吾 林真理子 宮部みゆき 伊集院静

宮部みゆき57歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題酷暑のなかでも　総行数133　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 島本理生 35歳 全 △ 15 「残念ながら私の感覚はこの『ファーストラヴ』という作品世界に合わなかったらしく、支持できなかったのですが、体温に近いような酷暑のなかで、この物語に浸っているときに覚えた冷ややかな恐怖と閉塞感、作中で暴かれてゆく秘事への嫌悪感には忘れがたいものがありました。」 上田早夕里 53歳 全 ◎ 45 「推しました。」「堅実で抑制的で、パンデミック・パニックＳＦや、反戦・反化学兵器をテーマにしたフィクションにありがちな感情的な描写やストーリー展開はありません。登場人物の陰影も淡く、ちょっと落ち着きすぎているのでは？　と思うほどに、じっくりゆっくりと物語が展開されていきます。（引用者中略）この禁欲的なスタンスが私には新鮮でしたし、学ぶべきところがたくさんあると思いました。」 木下昌輝 43歳 全 ■ 17 「『捨て嫁』（引用者注：以前候補になった『宇喜多の捨て嫁』）があまりに斬新で力強かったので、『楽土』は（技術的にはさらに成長しておられるのですが）、優等生的にまとまって見えてしまい、強く支持することができませんでした。」 窪美澄 52歳 全 △ 17 「この作品は、介護士ではなく、介護士の日奈と海斗をとりまく五人の男女の『ふぞろいの林檎たち』なのだなとわかると、そこからはぐいぐい引き込まれました。決選投票で敗れましたが、それは時の運で、受賞してもおかしくない作品だったと思います。」 本城雅人 53歳 全 ■ 15 「ラストに向かって収束してゆく長編としてのストーリー展開はこれで充分と思いますが、個々の短編にもう少しひねりや意外性がほしい。」 湊かなえ 45歳 全 ■ 24 「湊ワールドを愛好する読者（以前にも書きましたが私もその一人です）にはたまらない、湊シェフだけの味付けに満ちた力作です。ただ今回（引用者中略）章子という少女を囲む大人たちのあまりの情けなさに、読みながら悪酔いしてしまい、しかもそこから抜け出そうと章子が決断したところで物語が終わってしまうので、何だかダークなドラッグをキメっぱなしで置き去りにされたような気がしました。」

他の選考委員 北方謙三 宮城谷昌光 浅田次郎 桐野夏生 東野圭吾 林真理子 高村薫 伊集院静

伊集院静68歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題“生きる哀しみ”　総行数101　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 島本理生 35歳 全 ◎ 43 「作品のテーマ、構成、展開、登場人物それぞれの存在感、そして何よりこの作家だけが持つ、どのセンテンスからも伝わって来る叙情の込もった文章が、今回の候補作の中で群を抜いていた。とくに本作で感心したのは主人公・真壁由紀から感じられた、内面に潜む、戸惑い、不安の表現であった。」 上田早夕里 53歳 全 △ 22 「物語を押し進める力量、才能は候補作の中で目を見張るものがあった。」「ただクライマックスの構成、展開がいささか急ぎ過ぎていた。惜しい作品だった。あと一点気になったのは中国での大戦の実感がこの程度のおさめ方で果たしていいのかということである。」 木下昌輝 43歳 全 ● 7 「この時代の小説の総論を読まされている気がして、以前のような氏だけが持つ破天荒な歴史観が影をひそめているように思えた。」 窪美澄 52歳 全 ■ 18 「今回の候補作の中でおそらく一番の支持を受けるだろうと思った」「特に「よるべのみず」は読後に苦くて酸っぱい感情が湧き、ひさしぶりにこころを動かされた。ただ私には大半の小品が、小説というよりルポを読まされているように思えて推すことができなかった。」 本城雅人 53歳 全 ● 12 「新聞記者がどんなふうに生き、どんな考え方をしているのかが見え辛かった。内情に通じていた作家の捉え方としては甘いのではないかと思った。」 湊かなえ 45歳 全 ― 0

他の選考委員 北方謙三 宮城谷昌光 浅田次郎 桐野夏生 東野圭吾 林真理子 高村薫 宮部みゆき

島本理生35歳×各選考委員　 『ファーストラヴ』 長篇 551枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 北方謙三 70歳 全 ◎ 18 「抑制が利いて、行間が豊かだと感じた。」「闇を、ゆっくりとまさぐり、かき分け、気づくと、人の心の奥底に眠る、真実というものに手が届くかもしれない、という快感がある。」「私は、これに丸をつけた。」 宮城谷昌光 73歳 全 □ 21 「理不尽あるいは不条理とむきあう者は、その対峙する時間の経過のうちに、自身がかかえている理不尽、不条理の解明がなされるか、潜在的なそれらが浮上するというのが、小説の原理におけるふりあいというものである。この作品ではある程度それはなされているとはいえ、構成的明確さに欠ける。」「小説全体がもっている質感はかなり佳い。」 浅田次郎 66歳 全 □ 13 「受賞に異論はない。ページを繰るたびに、才能のしずくがこぼれ落ち、香気が立つような気がした。」「それでも本作を強く押せなかった理由は、構造上の疑問であった。このストーリーを一人称で支えるのはつらい。」 桐野夏生 66歳 全 △ 25 「全体的に薄味な印象だ。」「いつも感じるのは、作者の心の裡にある、異性との間に生じる違和感やトラウマの存在である。（引用者中略）決して声高には言えない、そのヒリヒリした痛みと躊躇いは、若い女性の共感を呼ぶことだろう。」 東野圭吾 60歳 全 ○ 21 「主要登場人物の大方が深い精神的外傷を引きずっているというのは、ちょっとやりすぎではないか。ミステリ的には、警察ではどう供述したのか、犯行の再現はどう為されたのか、といったところを指摘したくなる」「しかし迦葉と我聞という兄弟の関係はよく描けているし、作者の都合で人物を動かしていない点に好感が持てたので、今回はこの作品を○とした。」 林真理子 64歳 全 ■ 21 「私は強く推すことが出来なかった。」「精神科医でもジャーナリストでもない臨床心理士が、判決の出ていない殺人事件について本を書こうとするのが不自然。」「「女子アナウンサーの試験を受けた日の殺人」というのがキーワードになっているが、（引用者中略）女子アナは自己肯定のカタマリのような職業。殺人者のキャラクターとまるで合っていないのである。」 高村薫 65歳 全 ● 17 「「文章がいい」という声が多かった」「結局、最後に残るのは、現代の都市生活や働く女性の、ありがちな空気感だけなのだが、「文章がいい」本作の好感度の高さの正体は、この現実感の無さなのだろうか。」 宮部みゆき 57歳 全 △ 15 「残念ながら私の感覚はこの『ファーストラヴ』という作品世界に合わなかったらしく、支持できなかったのですが、体温に近いような酷暑のなかで、この物語に浸っているときに覚えた冷ややかな恐怖と閉塞感、作中で暴かれてゆく秘事への嫌悪感には忘れがたいものがありました。」 伊集院静 68歳 全 ◎ 43 「作品のテーマ、構成、展開、登場人物それぞれの存在感、そして何よりこの作家だけが持つ、どのセンテンスからも伝わって来る叙情の込もった文章が、今回の候補作の中で群を抜いていた。とくに本作で感心したのは主人公・真壁由紀から感じられた、内面に潜む、戸惑い、不安の表現であった。」

他の候補作 上田早夕里 『破滅の王』 木下昌輝 『宇喜多の楽土』 窪美澄 『じっと手を見る』 本城雅人 『傍流の記者』 湊かなえ 『未来』

上田早夕里53歳×各選考委員　 『破滅の王』 長篇 821枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 北方謙三 70歳 全 ■ 10 「労作と感じたが、底の知れない闇を描き出すことに成功した、とは思わなかった。」「重苦しさがのしかかってこないのは、人の存在感が希薄だからではないだろうか。」 宮城谷昌光 73歳 全 △ 16 「私にとってインパクトはあった。」「ただし実録的要素のつよい作品は、文学的許容の外にあるため、そのあたりの事情に暗い私としては、肯定することをためらわざるをえなかった。だが、この作品には、強い意志の下に物語を邁進させてゆくという力がある。」 浅田次郎 66歳 全 ■ 17 「掛値なしの力作である。」「称賛は惜しまぬのだが、やはり小説としては大団円に至って、息が上がってしまった感があった。どれほど歴史を敬し畏れても、やはり嘘をつき続けてこその小説家であろう。」 桐野夏生 66歳 全 △ 23 「資料を駆使して物語に練り上げていく知性と筆力を感じた。が、気になるところが散見されたのも事実である。例えば、「灰塚」のベルリン行きは可能性の面からも、小説の完成度から見ても疑問だし、「株」に関する謎解きもドタバタに感じられる。」 東野圭吾 60歳 全 ● 25 「読み始めて７３１部隊の話と気づき、わくわくした。（引用者中略）ところが読み進めるうちに失望が広がった。ごく狭い人間関係だけで展開するので、物語にスケールの大きさが感じられない。」「最も残念だったのは、細菌の恐ろしさがちっとも伝わってこないことだ。」 林真理子 64歳 全 ■ 16 「二段組みの小説には非常に大切なことがある。「あまりの面白さに、ページをめくるのももどかしくなる」と思わせるほどのパワーが必要なのだ。上海、細菌部隊、スパイ、とこれだけの道具立てを用意されても、ほとんどわくわくしなかったのである。」 高村薫 65歳 全 ■ 20 「いわゆる「筆力」は題材の咀嚼不足を補うほど万能ではないことの一例と言えるかもしれない。活劇の舞台である日中戦争当時の関東軍や特務機関についての理解の浅さは、たとえば映像ではカバーできても、文章ではそうは行かない。」 宮部みゆき 57歳 全 ◎ 45 「推しました。」「堅実で抑制的で、パンデミック・パニックＳＦや、反戦・反化学兵器をテーマにしたフィクションにありがちな感情的な描写やストーリー展開はありません。登場人物の陰影も淡く、ちょっと落ち着きすぎているのでは？　と思うほどに、じっくりゆっくりと物語が展開されていきます。（引用者中略）この禁欲的なスタンスが私には新鮮でしたし、学ぶべきところがたくさんあると思いました。」 伊集院静 68歳 全 △ 22 「物語を押し進める力量、才能は候補作の中で目を見張るものがあった。」「ただクライマックスの構成、展開がいささか急ぎ過ぎていた。惜しい作品だった。あと一点気になったのは中国での大戦の実感がこの程度のおさめ方で果たしていいのかということである。」

他の候補作 島本理生 『ファーストラヴ』 木下昌輝 『宇喜多の楽土』 窪美澄 『じっと手を見る』 本城雅人 『傍流の記者』 湊かなえ 『未来』

木下昌輝43歳×各選考委員　 『宇喜多の楽土』 長篇 621枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 北方謙三 70歳 全 ■ 20 「殿様の甘い理想と、血で血を洗う時代の峻烈さが、うまく絡み合っている。理想の非現実性が扱われているが、それが切実なものとして迫ってこないのが、小説的欠点ではないだろうか。」「秀家の楽土は、流された島であろう。それが幕藩体制のなにを照らし出したのか、そんな物語を読んでみたかった。」 宮城谷昌光 73歳 全 △ 26 「読後感にはいくつか不満があった。小説内の事象が増大したものの立体化しなかったといううらみがある。また歴史小説としての風趣もけっして佳いとはいえない。」「とはいえ、この種の小説を書くために、どれほどむだなことを学ばなければならないかと想えば、作品を評する場合、かんたんに否とはいえない。私は真摯に努力する人の味方になりたい。」 浅田次郎 66歳 全 ■ 7 「どうして時代にそって書いてしまったのだろう。平穏な島暮らしをフレームとした懐旧譚ならば、けだし傑作になりえたろうにと悔やまれた。」 桐野夏生 66歳 全 ● 18 「史実を忠実に追っているだけで、『宇喜多の捨て嫁』のように、自由闊達に想像され、動き回る人物がいないのが寂しい。」「これは余計なことだが、八丈島で暮らした秀家の人生を描いた方が面白かったのではないだろうか。」 東野圭吾 60歳 全 ● 13 「前作に比べると全体的にインパクトに欠ける。主人公をはじめ、登場人物たちに魅力が乏しい。」「エピソードも小粒で、歴史的事実を超える面白さがない。」 林真理子 64歳 全 ■ 11 「達者な書きっぷりと宇喜多への愛は、とうに当選圏内なのであるが、今回はあまり魅力を感じなかった。主人公の優しさが、次第に歯がゆいものとなっていくのである。」 高村薫 65歳 全 ● 15 「外連味が身上の時代小説の小説作法と、華々しさに欠ける宇喜多秀家という題材のミスマッチが、小説の完成度の低さにつながったのかもしれない。」 宮部みゆき 57歳 全 ■ 17 「『捨て嫁』（引用者注：以前候補になった『宇喜多の捨て嫁』）があまりに斬新で力強かったので、『楽土』は（技術的にはさらに成長しておられるのですが）、優等生的にまとまって見えてしまい、強く支持することができませんでした。」 伊集院静 68歳 全 ● 7 「この時代の小説の総論を読まされている気がして、以前のような氏だけが持つ破天荒な歴史観が影をひそめているように思えた。」

他の候補作 島本理生 『ファーストラヴ』 上田早夕里 『破滅の王』 窪美澄 『じっと手を見る』 本城雅人 『傍流の記者』 湊かなえ 『未来』

窪美澄52歳×各選考委員　 『じっと手を見る』 連作長篇 424枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 北方謙三 70歳 全 ■ 12 「最初の三作に、日常を非日常に変えるほどの熱量を感じ、後半ではその熱量が低下しているように感じた。恋愛の終りに日常が剥き出しになるのは、私の考える小説的醍醐味には欠けていた。」 宮城谷昌光 73歳 全 ■ 10 「こういうおとなしい小説は、その底にとてもない勁さを秘めているものだが、理法を超えて読み手を瞠目させるほどのすごみは出現しなかった。」 浅田次郎 66歳 全 ○ 26 「まったくその表題通りに、働けど楽にならざる苦労を描いた佳品である。そのテーマのシンプルさゆえに小説のダイナミズムは欠くのだが、舞台設定が自然で登場人物もよく練られており、完成度はすこぶる高かった。」「おそらく作者には清貧の世界観があるのだろう。そうでなければ、理不尽な苦労をかくも清潔に描けるはずはない。」 桐野夏生 66歳 全 △ 27 「達者な作品だと感心して読んだ。地方都市に生まれ育った若者たちの、どこにも行けない閉塞感。その諦めの有様がうまく書かれている。」「最近、よく見聞きする介護士の若者たちの起こす事件は、彼らの何かの噴出である。その噴出が感じられないだけに、物語を作っている感が否めなかった。」 東野圭吾 60歳 全 □ 15 「つい最近まで父が介護施設に入っていたこともあり、親近感もあった。なぜこんな魅力のない人間にこんなに惹かれるのか、との疑問は愚問だと思わせる力が文章にあった。しかしこのクラスの作品は世に溢れているような気もする。特にこの小説が抜きん出ているようには感じなかったので△とさせていただいた。」 林真理子 64歳 全 ○ 25 「東京に近い地方の街で、介護士をしている女性とその恋人を描いたものだ。（引用者中略）絶望もしていなければ、この街を出て行こうという強い野心もない。ほどあいがまことによい書きっぷりで、読後感がとてもよかった。しかし不倫をする東京の男の独白はいらないと思う。」 高村薫 65歳 全 ○ 15 「「文章がいい」。」「初回投票で最高点だったとおり、等身大の人間の身体と感情と生活が一つの小説空間をつくっており、読後感がよい。」 宮部みゆき 57歳 全 △ 17 「この作品は、介護士ではなく、介護士の日奈と海斗をとりまく五人の男女の『ふぞろいの林檎たち』なのだなとわかると、そこからはぐいぐい引き込まれました。決選投票で敗れましたが、それは時の運で、受賞してもおかしくない作品だったと思います。」 伊集院静 68歳 全 ■ 18 「今回の候補作の中でおそらく一番の支持を受けるだろうと思った」「特に「よるべのみず」は読後に苦くて酸っぱい感情が湧き、ひさしぶりにこころを動かされた。ただ私には大半の小品が、小説というよりルポを読まされているように思えて推すことができなかった。」

他の候補作 島本理生 『ファーストラヴ』 上田早夕里 『破滅の王』 木下昌輝 『宇喜多の楽土』 本城雅人 『傍流の記者』 湊かなえ 『未来』

本城雅人53歳×各選考委員　 『傍流の記者』 連作長篇 500枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 北方謙三 70歳 全 ● 10 「どこを読んでも既視感に似たものに襲われる。描かれる事象は克明で、同期の登場人物たちの書き分けもきちんとしていて、全体としては隙のない世界が構築されながら、新鮮さに欠ける。」 宮城谷昌光 73歳 全 ● 13 「音楽にたとえると、不協和音が多用されている楽曲である。それが新機軸として成功していただろうか。私は否だとおもう。」「小説の内的エネルギーを読者に伝えてゆく技法が熟していない。」 浅田次郎 66歳 全 ■ 10 「説明くさくなくてわかりやすい、センスのよさを感じた。しかし読み進むうちに、よその職場の愚痴を聞いているような気分になった。」 桐野夏生 66歳 全 △ 13 「狭い新聞記者業界内部の域を出ていないように感じられたものの、記者の人間関係の話は、確かに他に類を見ないから面白かった。それから、プロローグは要らないのではないか。」 東野圭吾 60歳 全 ■ 15 「エンタテイメント小説として立派な出来だと思うが、無難で地味という印象があるのは、核になる大きな事件がないからかもしれない。人物の描き分け方も物足りない。」「企業勤めを経験すれば、その業界の内幕ものを一つや二つは書ける。この作品が、そのレベルを超越しているかどうかは判断の難しいところだ。」 林真理子 64歳 全 ■ 13 「スクープをめぐっての、新聞社内の駆け引きが非常にスリリングなのであるが、「ひと昔前の話」という感はぬぐえない。新聞が最初にニュースを発するメディアだった頃の話だろうとつい思ってしまう。」 高村薫 65歳 全 ■ 10 「エンターテインメントとして過不足はないが、新聞記者という、今日では少々手垢のついた題材が小説全体の印象を薄くした。」 宮部みゆき 57歳 全 ■ 15 「ラストに向かって収束してゆく長編としてのストーリー展開はこれで充分と思いますが、個々の短編にもう少しひねりや意外性がほしい。」 伊集院静 68歳 全 ● 12 「新聞記者がどんなふうに生き、どんな考え方をしているのかが見え辛かった。内情に通じていた作家の捉え方としては甘いのではないかと思った。」

他の候補作 島本理生 『ファーストラヴ』 上田早夕里 『破滅の王』 木下昌輝 『宇喜多の楽土』 窪美澄 『じっと手を見る』 湊かなえ 『未来』

湊かなえ45歳×各選考委員　 『未来』 長篇 752枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 北方謙三 70歳 全 ■ 17 「深いところに手が届きかけた作品だ、と感じた。」「描写については、抑制に欠けていて、それが空疎なものに行き着くという結果を招いている。」 宮城谷昌光 73歳 全 ● 8 「湊かなえ氏の作品が最初に直木賞候補になったとき、この人には美質があると感じ、以来、氏の作品には同情的であるが、今回の作品は、端的にいえばモノローグにすぎず、なんら新味を感じなかった。」 浅田次郎 66歳 全 ■ 13 「夥しい登場人物と劇的要素とを一巻の小説にみごと包みこんだ。しかし、いかんせん想像力が余りに豊かすぎて、本筋の推進力を欠くきらいがあった。」 桐野夏生 66歳 全 ● 8 「この作者の特徴かと思われるが、子供が見る悪い夢を一緒に見ているようなもどかしさと閉塞感がある。しかし、夢は夢である。「嫌な感じ」は、リアリティに裏付けられてこその感覚ではないかと思った。」 東野圭吾 60歳 全 ● 21 「いい歳をした男にとっては、小学生や中学生が未来の自分宛に書いた手紙を延々と読まされるというのは、やはりかなり忍耐のいることであった。構造上、必要な手続きであるにせよ、そこを何とかするのがプロではないか。」「内容は虐待のオンパレードであるが、今の時代、虐待の詳細を描くだけでは新しい小説とはいえないのでは。」 林真理子 64歳 全 ■ 20 「どうも評価出来なかった。出てくる大人にほとんどまともな人間はいない。子どもの多くは性的虐待に遭っている。放火も何度も起こり、派手な道具立てにリアリティが感じられない。」「面白いといえば非常に面白い。が、湊さんにはこの面白さの先にあるものをぜひつかんでほしいと願うのである。」 高村薫 65歳 全 ● 12 「文章云々の以前に、いつもながら題材や物語の劇画的な極端さが際立っており、さながらトッピングの「全部乗せ」のようだった。もはやもとの料理が何だったのか分からないその過剰さは、小説がそもそも文章の術であることを超越した「湊かなえワールド」というほかない。」 宮部みゆき 57歳 全 ■ 24 「湊ワールドを愛好する読者（以前にも書きましたが私もその一人です）にはたまらない、湊シェフだけの味付けに満ちた力作です。ただ今回（引用者中略）章子という少女を囲む大人たちのあまりの情けなさに、読みながら悪酔いしてしまい、しかもそこから抜け出そうと章子が決断したところで物語が終わってしまうので、何だかダークなドラッグをキメっぱなしで置き去りにされたような気がしました。」 伊集院静 68歳 全 ― 0

他の候補作 島本理生 『ファーストラヴ』 上田早夕里 『破滅の王』 木下昌輝 『宇喜多の楽土』 窪美澄 『じっと手を見る』 本城雅人 『傍流の記者』