第143回

第142回第144回

平成22年/2010年上半期 平成22年/2010年7月15日決定発表／『オール讀物』平成22年/2010年9月号選評掲載

選考委員　 浅田次郎 58歳 阿刀田高 75歳 北方謙三 62歳 林真理子 56歳 宮城谷昌光 65歳 宮部みゆき 49歳 渡辺淳一 76歳 選評総行数　 88 111 101 91 93 195 49 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 中島京子　『小さいおうち』 554枚 46歳 評 ◎ 25 □ 29 □ 22 ◎ 48 ■ 26 △ 16 ■ 7 乾ルカ　『あの日にかえりたい』 431枚 40歳 評 ■ 7 ■ 6 ■ 14 ● 5 ○ 25 ― 0 ― 0 冲方丁　『天地明察』 811枚 33歳 評 △ 11 △ 15 ■ 12 △ 13 ● 5 ○ 18 ■ 6 姫野カオルコ　『リアル・シンデレラ』 659枚 51歳 評 △ 13 ■ 14 △ 20 ■ 6 ■ 26 ◎ 120 ― 0 万城目学　『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』 319枚 34歳 評 ● 13 ● 8 ● 5 ■ 8 ■ 23 ― 0 ― 0 道尾秀介　『光媒の花』 412枚 35歳 評 ■ 19 □ 27 ◎ 5 ■ 11 ● 5 △ 59 ■ 4               年齢/枚数の説明   見方・注意点

浅田次郎58歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題才能と資質と　総行数88　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 中島京子 46歳 全 ◎ 25 「この作品に遍満する時代の空気は、丹念な取材と精密な考証がなければ表現不可能で、それをかくもみごとになしえたのは、やはり才能というより「（引用者注：書くことが）好きだから」という資質に拠ると思われる。次はどんな小説を書くのだろう、という読者の正当な期待に応えられる作家はあんがい少ないものだが、氏はそのうちのひとりにちがいないと信じて強く推した。」 乾ルカ 40歳 全 ■ 7 「職人の世界でいう、「筋がいい」という感じであろうか。ただし、まだそれ以上の評価を与えるには至らない。」 冲方丁 33歳 全 △ 11 「よほどのベテラン作家でも無理と思える素材に、果敢なる挑戦をしたという点に拍手を送りたい。」「この作品から得たさまざまの収穫を冷静に分析して、将来に役立てていただきたいものである。」 姫野カオルコ 51歳 全 △ 13 「姫野カオルコ氏は天才である。」「次なる一行が想像できず、しかし顧みればきちんと調和している。驚きの連続である。いわば凡俗の理解を超えているのだが、結果としての美しさ面白さは多くの読者を得て然りであろう。」 万城目学 34歳 全 ● 13 「擬人化という手法を用いるにあたっては、哲学なり社会風刺なりを相当の覚悟で表現しなければならぬ。ならぬ（原文傍点）というのは、文学の定石という意味である。定石を踏まぬ進歩はどの表現にもありえず、どれほど先鋭なアバン・ギャルドでも例外はない。」 道尾秀介 35歳 全 ■ 19 「技術的な完成度の高さは抜きん出ているのだが、それゆえに小ぢんまりとまとまってしまった感があり、これまでの氏の作品との比較が容易であった。過去の作品との優劣ではなく、過去の作品を想起したりそれらと比較されたりすること自体が、すでに創作者としては敗北している。」

他の選考委員 阿刀田高 北方謙三 林真理子 宮城谷昌光 宮部みゆき 渡辺淳一

阿刀田高75歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題小説力が弱い　総行数111　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 中島京子 46歳 全 □ 29 「（これについても、もっとイマジネーションに富んだ小説的結構に挑んでほしいと願わないでもないが）とにかく安定した筆力を感じた。」「つきづきしい、と見ることもできるだろう。とにかくよい小説の気配を感ずることができた。」 乾ルカ 40歳 全 ■ 6 「文章こそこなれているが、小説としての巧みさ、力強さ、オリジナリティなどなどにおいて不足があるように思った。」 冲方丁 33歳 全 △ 15 「ところどころ小説として納得のいかない細部もあって、――もう一作、見てみよう――」「ほかのテーマでどんなふうに書くのか、おおいに期待したい。直木賞の選考にはこういう視点があってよい、というのが私の立場である。」 姫野カオルコ 51歳 全 ■ 14 「今回の候補作の中で、一番秘めた力量を思った。ただし完成度に弱点が目立ち、取材ノート、あるいは小説を書く前の詳細な覚え書、そんな感触がないでもない。」 万城目学 34歳 全 ● 8 「少年少女向けの文学ではあるまいか。これが候補となったこと自体、この多才な作家にとってよいことであったかどうか、お気の毒のような気がしてならない。」 道尾秀介 35歳 全 □ 27 「レベルを超えているとは思うのだが、読み終えて感動が乏しい。（引用者中略）読み返してみたが、作者の企みはよくわかったもののやっぱり感動には結びつかない。」「ここにはつらい人生がいくつもちりばめられているけれど、それが小説を創るための設定という都合を大きく超えるものではなく、つらい人生への作者の思い入れがなぜか感じにくい。」「いったんは○印をつけながら戸惑った」   「迷いの多い選考会であった。候補作はそれぞれ一定の趣向を備えているが、既成の作家のルーティンを超えるものは見つけにくい。舌を巻く作品にめぐりあえない。」

他の選考委員 浅田次郎 北方謙三 林真理子 宮城谷昌光 宮部みゆき 渡辺淳一

北方謙三62歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題候補が六本必要だったのか　総行数101　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 中島京子 46歳 全 □ 22 「全体の完成度は高く、受賞作とするのに大きな異議はなかった。私がひっかかったのは、時子の板倉への手紙についての処理が、思わせぶりのままであることだった。作者はゴールのテープを切っているのに、私にはゴールの場所がわからず、疾走をやめたあとも、まだ歩き続けている、という落ちつきの悪さがあった。」 乾ルカ 40歳 全 ■ 14 「死や喪失感が、哀切なるものに集約され、重層性を欠いたのではないだろうか。私のファンタジーについての理解は浅いが、胸を抉るほどの鋭さがこの作品にはなく、それは単にジャンルの問題であるとは思えなかった。」 冲方丁 33歳 全 ■ 12 「饒舌な作品であった。ただ、算学の解説や説明の類いを省くと、小説の構造は意外にシンプルで骨太であり、贅肉をつけてしまった印象を拭い得ない。」「せっかくの力量が空転したという印象が、残念であった。」 姫野カオルコ 51歳 全 △ 20 「異才の作と呼ぶべきだろうか。」「倉島泉の放つある神聖さを帯びた光は、シンデレラから離れるというより、異次元のものに昇華された世界を、作りあげたように見える。シンデレラとはなんだったのかと、考えざるを得ない。タイトルさえ、作品と乖離しているように、思えてきてしまうのである。」 万城目学 34歳 全 ● 5 「この作者の次作に期待する、と述べるに留めておこうと私は思う。」 道尾秀介 35歳 全 ◎ 5 「道尾秀介の魂は、腐っていない。選評にはならないが、唯一丸をつけた作品に対して、私はそれだけを言っておこうと思う。」

他の選考委員 浅田次郎 阿刀田高 林真理子 宮城谷昌光 宮部みゆき 渡辺淳一

林真理子56歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題伸び盛りがずらり　総行数91　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 中島京子 46歳 全 ◎ 48 「（引用者注：候補作の中で）突出していた。」「細かい描写にも、実に注意がゆきとどいている。」「奥様に無私の心と憧れを持ち、家族のようでいて家族ではない。外国のようにきっぱりとした階級の理知も働かない。日本の女中という種族を、学芸員が理解出来ないラストは見事だ。」 乾ルカ 40歳 全 ● 5 「どの篇も同じ印象を持つ。表題作はロマンティックというよりも、幼ない印象を持った。」 冲方丁 33歳 全 △ 13 「若さが時々荒っぽさになったりする。冒頭、話があちこちに飛び、なかなか本題にいかないのもそのひとつ。が、私欲を越えた男たちが心をひとつにする、というテーマは、今の若い人たちがとても好むものだ。さわやかな余韻が心地よい。」 姫野カオルコ 51歳 全 ■ 6 「疑いもなく大変な才能の持ち主であるが、いかんせん今回は長過ぎた。聖と俗とがうまくからんでこないのが残念であった。」 万城目学 34歳 全 ■ 8 「これがどうして直木賞の候補になったのかよくわからない。大人に通じる寓意性がまるで伝わってこないのだ。」 道尾秀介 35歳 全 ■ 11 「小説の濃淡が納得出来ない。冒頭で殺人を犯した男が、小市民的な達観した世界をつくり上げる終わり方は、肩すかしをくらったような気分になる。」

他の選考委員 浅田次郎 阿刀田高 北方謙三 宮城谷昌光 宮部みゆき 渡辺淳一

宮城谷昌光65歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題小説の工夫　総行数93　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 中島京子 46歳 全 ■ 26 「（引用者注：「リアル・シンデレラ」とともに）過去を描写する上で、作者以外に作中に話者を立てたという点で、構成は似ている。（引用者中略）私の印象ではただ単にリアリティが遠ざかっただけで、予想もしなかった大きな何かを与えられたとはおもわれなかった。」「小説世界にある人と物を、読む側に立って、手で触れたという実感がなかった。」 乾ルカ 40歳 全 ○ 25 「注目した」「この作品には、過去と現在、生と死が織り込まれており、いわばモザイクのような形式になっている。しかしきれいに混乱は避けられており、それだけでも氏の才能が尋常ではないとわかる。」 冲方丁 33歳 全 ● 5 「明かるすぎるといってよい作品である。しかし陰翳が足りない。」 姫野カオルコ 51歳 全 ■ 26 「（引用者注：「小さいおうち」とともに）過去を描写する上で、作者以外に作中に話者を立てたという点で、構成は似ている。（引用者中略）私の印象ではただ単にリアリティが遠ざかっただけで、予想もしなかった大きな何かを与えられたとはおもわれなかった。」「小説世界にある人と物を、読む側に立って、手で触れたという実感がなかった。」 万城目学 34歳 全 ■ 23 「ひと工夫はある。（引用者中略）ただしこの工夫に進展性はなく、とくにそのことが人間界へ照射されないことに不満がある。」 道尾秀介 35歳 全 ● 5 「作品内を照らす光源の光量が足りない。」   「各候補作品から、小説の工夫というものが強く感じられた。これは、それぞれの作者が従来の小説のありかたに疑念をもち、新しい小説の方向性を探ろうとしているあかしであろう。」

他の選考委員 浅田次郎 阿刀田高 北方謙三 林真理子 宮部みゆき 渡辺淳一

宮部みゆき49歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題聖人の足跡　総行数195　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 中島京子 46歳 全 △ 16 「冒頭の手記を見た瞬間に、どんな仕掛けがほどこされているのだろうとワクワクしました。（引用者中略）この設定ならもっといろいろなことができるのに、もったいない――と考えてしまうのは、私がジャンル作家である所以で、評者としては困った性癖でしょう。」 乾ルカ 40歳 全 ― 0   冲方丁 33歳 全 ○ 18 「（引用者注：「リアル・シンデレラ」とともに）丸をつけて、選考会に臨みました。」 姫野カオルコ 51歳 全 ◎ 120 「（引用者注：「天地明察」とともに）丸をつけて、選考会に臨みました。」「私はキリスト教の「聖人伝」として読みました。倉島泉という黒い子羊が聖人になるまでの物語です。」「読後、自分のなかに溜まっていた自分ではどうすることもできない澱が、いくばくかでもこの作品によって浄化された気がして、静かに涙しました。姫野さん、支持しきれなくてごめんなさい。でも、この小説を書いてくれてありがとう。本を閉じたとき、多くの読者がそう呟くに違いない秀作です。」 万城目学 34歳 全 ― 0   道尾秀介 35歳 全 △ 59 「道尾さんの右肩上がりの成長ぶりは驚異的であり、素晴らしいことです。ただ初期からの読者として、また同じミステリー分野の書き手の一人として、一抹の寂しさはぬぐえません。」「この感情故に、昨今の私は道尾作品の小さな綻びの部分に引っかかり、些末なところで足踏みをして、自分自身も苛立ちつつ、評価しきれず終わることを繰り返しています。」

他の選考委員 浅田次郎 阿刀田高 北方謙三 林真理子 宮城谷昌光 渡辺淳一

渡辺淳一76歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題受賞作なしか　総行数49　（1行=12字） 候補 評価 行数 評言 中島京子 46歳 全 ■ 7 「昭和モダンの家庭的な雰囲気はある程度書けてはいるが、肝心のノートに秘められていた恋愛事件がこの程度では、うっちゃりをくらった感じで軽すぎる。」 乾ルカ 40歳 全 ― 0   冲方丁 33歳 全 ■ 6 「候補作のなかで、やや興味をそそられたといえば、「天地明察」の視点のユニークさと構成の奔放さだが、やはり頭でつくりだした域を出ていない。」 姫野カオルコ 51歳 全 ― 0   万城目学 34歳 全 ― 0   道尾秀介 35歳 全 ■ 4 「幻想的なタッチはユニークだが、独りよがりで甘すぎる。」   「今回の六本の候補作は、いずれも軽くて甘くて、とくに惹きつけられるものはなかった。」「作家たるもの、もう少し異様なまでの愛欲にまみれるとか、それなりの特殊な体験にどっぷりつかり、そこからたしかなリアリティーをえぐりだして書くものだが、その前段階の過程が軽すぎるというか、無さすぎるのではないか。」「わたしは受賞作なしを主張した。」「もしかすると、候補作を選び出してくる過程で、常に六、七作出さねばならないといった考えにしばられ、読み手の問題も含めて、甘くなりすぎているのではないか。」

他の選考委員 浅田次郎 阿刀田高 北方謙三 林真理子 宮城谷昌光 宮部みゆき

中島京子46歳×各選考委員　 『小さいおうち』 長篇 554枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 浅田次郎 58歳 全 ◎ 25 「この作品に遍満する時代の空気は、丹念な取材と精密な考証がなければ表現不可能で、それをかくもみごとになしえたのは、やはり才能というより「（引用者注：書くことが）好きだから」という資質に拠ると思われる。次はどんな小説を書くのだろう、という読者の正当な期待に応えられる作家はあんがい少ないものだが、氏はそのうちのひとりにちがいないと信じて強く推した。」 阿刀田高 75歳 全 □ 29 「（これについても、もっとイマジネーションに富んだ小説的結構に挑んでほしいと願わないでもないが）とにかく安定した筆力を感じた。」「つきづきしい、と見ることもできるだろう。とにかくよい小説の気配を感ずることができた。」 北方謙三 62歳 全 □ 22 「全体の完成度は高く、受賞作とするのに大きな異議はなかった。私がひっかかったのは、時子の板倉への手紙についての処理が、思わせぶりのままであることだった。作者はゴールのテープを切っているのに、私にはゴールの場所がわからず、疾走をやめたあとも、まだ歩き続けている、という落ちつきの悪さがあった。」 林真理子 56歳 全 ◎ 48 「（引用者注：候補作の中で）突出していた。」「細かい描写にも、実に注意がゆきとどいている。」「奥様に無私の心と憧れを持ち、家族のようでいて家族ではない。外国のようにきっぱりとした階級の理知も働かない。日本の女中という種族を、学芸員が理解出来ないラストは見事だ。」 宮城谷昌光 65歳 全 ■ 26 「（引用者注：「リアル・シンデレラ」とともに）過去を描写する上で、作者以外に作中に話者を立てたという点で、構成は似ている。（引用者中略）私の印象ではただ単にリアリティが遠ざかっただけで、予想もしなかった大きな何かを与えられたとはおもわれなかった。」「小説世界にある人と物を、読む側に立って、手で触れたという実感がなかった。」 宮部みゆき 49歳 全 △ 16 「冒頭の手記を見た瞬間に、どんな仕掛けがほどこされているのだろうとワクワクしました。（引用者中略）この設定ならもっといろいろなことができるのに、もったいない――と考えてしまうのは、私がジャンル作家である所以で、評者としては困った性癖でしょう。」 渡辺淳一 76歳 全 ■ 7 「昭和モダンの家庭的な雰囲気はある程度書けてはいるが、肝心のノートに秘められていた恋愛事件がこの程度では、うっちゃりをくらった感じで軽すぎる。」

他の候補作 乾ルカ 『あの日にかえりたい』 冲方丁 『天地明察』 姫野カオルコ 『リアル・シンデレラ』 万城目学 『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』 道尾秀介 『光媒の花』

乾ルカ40歳×各選考委員　 『あの日にかえりたい』 短篇集6篇 431枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 浅田次郎 58歳 全 ■ 7 「職人の世界でいう、「筋がいい」という感じであろうか。ただし、まだそれ以上の評価を与えるには至らない。」 阿刀田高 75歳 全 ■ 6 「文章こそこなれているが、小説としての巧みさ、力強さ、オリジナリティなどなどにおいて不足があるように思った。」 北方謙三 62歳 全 ■ 14 「死や喪失感が、哀切なるものに集約され、重層性を欠いたのではないだろうか。私のファンタジーについての理解は浅いが、胸を抉るほどの鋭さがこの作品にはなく、それは単にジャンルの問題であるとは思えなかった。」 林真理子 56歳 全 ● 5 「どの篇も同じ印象を持つ。表題作はロマンティックというよりも、幼ない印象を持った。」 宮城谷昌光 65歳 全 ○ 25 「注目した」「この作品には、過去と現在、生と死が織り込まれており、いわばモザイクのような形式になっている。しかしきれいに混乱は避けられており、それだけでも氏の才能が尋常ではないとわかる。」 宮部みゆき 49歳 全 ― 0   渡辺淳一 76歳 全 ― 0

他の候補作 中島京子 『小さいおうち』 冲方丁 『天地明察』 姫野カオルコ 『リアル・シンデレラ』 万城目学 『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』 道尾秀介 『光媒の花』

冲方丁33歳×各選考委員　 『天地明察』 長篇 811枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 浅田次郎 58歳 全 △ 11 「よほどのベテラン作家でも無理と思える素材に、果敢なる挑戦をしたという点に拍手を送りたい。」「この作品から得たさまざまの収穫を冷静に分析して、将来に役立てていただきたいものである。」 阿刀田高 75歳 全 △ 15 「ところどころ小説として納得のいかない細部もあって、――もう一作、見てみよう――」「ほかのテーマでどんなふうに書くのか、おおいに期待したい。直木賞の選考にはこういう視点があってよい、というのが私の立場である。」 北方謙三 62歳 全 ■ 12 「饒舌な作品であった。ただ、算学の解説や説明の類いを省くと、小説の構造は意外にシンプルで骨太であり、贅肉をつけてしまった印象を拭い得ない。」「せっかくの力量が空転したという印象が、残念であった。」 林真理子 56歳 全 △ 13 「若さが時々荒っぽさになったりする。冒頭、話があちこちに飛び、なかなか本題にいかないのもそのひとつ。が、私欲を越えた男たちが心をひとつにする、というテーマは、今の若い人たちがとても好むものだ。さわやかな余韻が心地よい。」 宮城谷昌光 65歳 全 ● 5 「明かるすぎるといってよい作品である。しかし陰翳が足りない。」 宮部みゆき 49歳 全 ○ 18 「（引用者注：「リアル・シンデレラ」とともに）丸をつけて、選考会に臨みました。」 渡辺淳一 76歳 全 ■ 6 「候補作のなかで、やや興味をそそられたといえば、「天地明察」の視点のユニークさと構成の奔放さだが、やはり頭でつくりだした域を出ていない。」

他の候補作 中島京子 『小さいおうち』 乾ルカ 『あの日にかえりたい』 姫野カオルコ 『リアル・シンデレラ』 万城目学 『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』 道尾秀介 『光媒の花』

姫野カオルコ51歳×各選考委員　 『リアル・シンデレラ』 長篇 659枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 浅田次郎 58歳 全 △ 13 「姫野カオルコ氏は天才である。」「次なる一行が想像できず、しかし顧みればきちんと調和している。驚きの連続である。いわば凡俗の理解を超えているのだが、結果としての美しさ面白さは多くの読者を得て然りであろう。」 阿刀田高 75歳 全 ■ 14 「今回の候補作の中で、一番秘めた力量を思った。ただし完成度に弱点が目立ち、取材ノート、あるいは小説を書く前の詳細な覚え書、そんな感触がないでもない。」 北方謙三 62歳 全 △ 20 「異才の作と呼ぶべきだろうか。」「倉島泉の放つある神聖さを帯びた光は、シンデレラから離れるというより、異次元のものに昇華された世界を、作りあげたように見える。シンデレラとはなんだったのかと、考えざるを得ない。タイトルさえ、作品と乖離しているように、思えてきてしまうのである。」 林真理子 56歳 全 ■ 6 「疑いもなく大変な才能の持ち主であるが、いかんせん今回は長過ぎた。聖と俗とがうまくからんでこないのが残念であった。」 宮城谷昌光 65歳 全 ■ 26 「（引用者注：「小さいおうち」とともに）過去を描写する上で、作者以外に作中に話者を立てたという点で、構成は似ている。（引用者中略）私の印象ではただ単にリアリティが遠ざかっただけで、予想もしなかった大きな何かを与えられたとはおもわれなかった。」「小説世界にある人と物を、読む側に立って、手で触れたという実感がなかった。」 宮部みゆき 49歳 全 ◎ 120 「（引用者注：「天地明察」とともに）丸をつけて、選考会に臨みました。」「私はキリスト教の「聖人伝」として読みました。倉島泉という黒い子羊が聖人になるまでの物語です。」「読後、自分のなかに溜まっていた自分ではどうすることもできない澱が、いくばくかでもこの作品によって浄化された気がして、静かに涙しました。姫野さん、支持しきれなくてごめんなさい。でも、この小説を書いてくれてありがとう。本を閉じたとき、多くの読者がそう呟くに違いない秀作です。」 渡辺淳一 76歳 全 ― 0

他の候補作 中島京子 『小さいおうち』 乾ルカ 『あの日にかえりたい』 冲方丁 『天地明察』 万城目学 『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』 道尾秀介 『光媒の花』

万城目学34歳×各選考委員　 『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』 長篇 319枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 浅田次郎 58歳 全 ● 13 「擬人化という手法を用いるにあたっては、哲学なり社会風刺なりを相当の覚悟で表現しなければならぬ。ならぬ（原文傍点）というのは、文学の定石という意味である。定石を踏まぬ進歩はどの表現にもありえず、どれほど先鋭なアバン・ギャルドでも例外はない。」 阿刀田高 75歳 全 ● 8 「少年少女向けの文学ではあるまいか。これが候補となったこと自体、この多才な作家にとってよいことであったかどうか、お気の毒のような気がしてならない。」 北方謙三 62歳 全 ● 5 「この作者の次作に期待する、と述べるに留めておこうと私は思う。」 林真理子 56歳 全 ■ 8 「これがどうして直木賞の候補になったのかよくわからない。大人に通じる寓意性がまるで伝わってこないのだ。」 宮城谷昌光 65歳 全 ■ 23 「ひと工夫はある。（引用者中略）ただしこの工夫に進展性はなく、とくにそのことが人間界へ照射されないことに不満がある。」 宮部みゆき 49歳 全 ― 0   渡辺淳一 76歳 全 ― 0

他の候補作 中島京子 『小さいおうち』 乾ルカ 『あの日にかえりたい』 冲方丁 『天地明察』 姫野カオルコ 『リアル・シンデレラ』 道尾秀介 『光媒の花』

道尾秀介35歳×各選考委員　 『光媒の花』 連作長篇 412枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 浅田次郎 58歳 全 ■ 19 「技術的な完成度の高さは抜きん出ているのだが、それゆえに小ぢんまりとまとまってしまった感があり、これまでの氏の作品との比較が容易であった。過去の作品との優劣ではなく、過去の作品を想起したりそれらと比較されたりすること自体が、すでに創作者としては敗北している。」 阿刀田高 75歳 全 □ 27 「レベルを超えているとは思うのだが、読み終えて感動が乏しい。（引用者中略）読み返してみたが、作者の企みはよくわかったもののやっぱり感動には結びつかない。」「ここにはつらい人生がいくつもちりばめられているけれど、それが小説を創るための設定という都合を大きく超えるものではなく、つらい人生への作者の思い入れがなぜか感じにくい。」「いったんは○印をつけながら戸惑った」 北方謙三 62歳 全 ◎ 5 「道尾秀介の魂は、腐っていない。選評にはならないが、唯一丸をつけた作品に対して、私はそれだけを言っておこうと思う。」 林真理子 56歳 全 ■ 11 「小説の濃淡が納得出来ない。冒頭で殺人を犯した男が、小市民的な達観した世界をつくり上げる終わり方は、肩すかしをくらったような気分になる。」 宮城谷昌光 65歳 全 ● 5 「作品内を照らす光源の光量が足りない。」 宮部みゆき 49歳 全 △ 59 「道尾さんの右肩上がりの成長ぶりは驚異的であり、素晴らしいことです。ただ初期からの読者として、また同じミステリー分野の書き手の一人として、一抹の寂しさはぬぐえません。」「この感情故に、昨今の私は道尾作品の小さな綻びの部分に引っかかり、些末なところで足踏みをして、自分自身も苛立ちつつ、評価しきれず終わることを繰り返しています。」 渡辺淳一 76歳 全 ■ 4 「幻想的なタッチはユニークだが、独りよがりで甘すぎる。」

他の候補作 中島京子 『小さいおうち』 乾ルカ 『あの日にかえりたい』 冲方丁 『天地明察』 姫野カオルコ 『リアル・シンデレラ』 万城目学 『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』