深緑野分（ふかみどりのわき）-直木賞候補作家

第154回

＝受賞者＝
青山文平

＝候補者＝
梶よう子
深緑野分
宮下奈都
柚月裕子

Last Update●[R4]2022/12/16

	Fukamidori Nowaki
	生没年月日【注】	昭和58年/1983年☆月☆日～
	経歴	神奈川県厚木市生まれ。海老名高等学校卒。平成22年/2010年に「オーブランの少女」で第7回ミステリーズ！新人賞に佳作入選、作家デビューする。
	受賞歴・候補歴	第7回ミステリーズ！新人賞［佳作］（平成22年/2010年）「オーブランの少女」 \|候補\| 第154回直木賞（平成27年/2015年下期）『戦場のコックたち』 \|候補\| 第18回大藪春彦賞（平成27年/2015年度）『戦場のコックたち』 \|第7位\| 第13回2016年本屋大賞（平成28年/2016年）『戦場のコックたち』 \|候補\| 第69回日本推理作家協会賞［長編及び連作短編集部門］（平成28年/2016年）『戦場のコックたち』第66回神奈川文化賞未来賞［文学］（平成29年/2017年） \|候補\| 第160回直木賞（平成30年/2018年下期）『ベルリンは晴れているか』 \|候補\| 第21回大藪春彦賞（平成30年/2018年度）『ベルリンは晴れているか』第9回Twitter文学賞（平成31年/2019年）『ベルリンは晴れているか』 \|第3位\| 第16回2019年本屋大賞（平成31年/2019年）『ベルリンは晴れているか』 \|候補\| 第72回日本推理作家協会賞［長編及び連作短編集部門］（平成31年/2019年）『ベルリンは晴れているか』 \|第10位\| 第18回2021年本屋大賞（令和3年/2021年）『この本を盗む者は』 \|候補\| 第167回直木賞（令和4年/2022年上期）『スタッフロール』
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第154回候補

『戦場(せんじょう)のコックたち』（平成27年/2015年8月・東京創元社刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	表紙・背「Armed with Skillets」併記
印刷/発行年月日	発行平成27年/2015年8月28日（初版）
測定媒体発行年月日	発行平成27年/2015年12月11日（4版）
発行者等	発行者長谷川晋一　印刷理想社　製本加藤製本　ＤＴＰキャップス
発行所	株式会社東京創元社（東京都）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	Illustration 民野宏之　Book Design 藤田知子
総ページ数	349	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	24字 ×21行 ×2段
本文ページ	7～345 （計339頁）	測定枚数	849枚

書誌

書下ろし

令和1年/2019年8月・東京創元社／創元推理文庫『戦場のコックたち』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　深緑野分　32歳
選考委員		評価	行数	評言
林真理子	61歳	■	21	「「どうしてアメリカ軍の兵士の物語を書かなければならないのか」」「現代の日本人がいくら勉強してそれを書いたとしても、根底にあるものはやはり借りものであり、本当のことを描ききっていないと思う」「最後のトリックもいささかちゃちである。」
北方謙三	68歳	■	18	「謎解きふうのものが入ってくるところは首を傾げたが、コックを扱ったのは秀抜なセンスを感じさせる。ただ、なにかが足りない。戦争を描く必然性というと堅苦しくなるが、読みながら、私は常にそれを感じ続けた。」
浅田次郎	64歳	△	15	「第二次大戦下の欧州戦線を舞台とした全くの虚構を、これほどまで読みやすく、かつ面白く描き切るというのはまさに非凡の才である。」「ただし、この種の小説には必要不可欠な、戦争観や哲学性には不足しているとも思え、あえて強く推す根拠を見出せなかった。」
宮部みゆき	55歳	■	43	「ノルマンディ上陸作戦を振り出しにヨーロッパ戦線をゆく連合軍の若い料理兵の物語に遠慮を感じてしまったのは、何のことはない、私自身が〈太平洋戦争と青春〉をどのように書くかという問いに、作家としてまったく回答を用意していなかった、その問いに向き合う覚悟もなかったから、ただそれだけです。」「ただ私はミステリー作家ですので、この作品の核である〈戦場下の日常の謎ミステリー〉部分がいささか弱い――残念ながら、作者が意図したであろうほどには物語を豊かにしていないという点で、支持することができませんでした。」
伊集院静	65歳	◎	35	「（引用者注：「羊と鋼の森」と共に）私が推した作品」「選考委員から、日本人の若い作家が、なぜ第二次大戦のアメリカ兵士を描いたのかと日本人の戦争観に話がおよんだ。若い人に限らず人の戦争観の論議は、私にはナンセンスに思えた。よく見た戦争映画を下に書き上げたのではという評もあったが、これからの若い作家が映像を見て感動し、それが作品の想起になるのは自然なことで、映像を見ての感情が、作品の軸になった方が斬新なものを生むのではないか。」
高村薫	62歳	●	18	「多くの映画や記録映像のある第二次大戦のヨーロッパ戦線の、しかもアメリカ軍の兵士たちを、日本人が日本語で描くことの是非以前に、戦場にも兵士たちにも身体性を感じられない。端的に、コックを描きながら料理の匂いがないのである。」
桐野夏生	64歳	◎	30	「私は本作品を推した。」「主人公の小さな世界から始まって、次第に戦争の中に突き進み、その恐ろしくグロテスクな面を浮き彫りにしていく構成もよい。」「第二次大戦のアメリカ兵に材を取っているが、どの時代のどんな人物を題材にしようが、文学は自由だ。問題は描かれるテーマにあって、この自由さを失っては小説は消滅する。」「敢えて苦言を呈すれば、ストーリー中のミステリー風味には、興を殺がれた。」
宮城谷昌光	70歳	●	38	「（引用者注：「ヨイ豊」と共に）いえることは、構成力の弱さである。この構成力は細部の表現に微妙につながっていて、そこがおろそかになっているがゆえに、大きく展開できなかったといえる。」「こざかしいことをいうようであるが、（引用者中略）知っていることではなく、知らないことを書いてもらいたい。」
東野圭吾	57歳	■	29	「日本人の若い女性がこれを書いたのはすごいことだと思う。たぶん才能豊かな人なのだろう。だがそれを考慮に入れるべきではないというのが私の意見だ。もし作者名が伏せられ、翻訳物だと聞かされて読んでいたなら、「あまり出来のよくないミステリだな」と思ったのではないだろうか。仮にこの作品が英訳されたとして、自信を持って欧米人に奨められるかと自問し、それはないと思った。」
選評出典：『オール讀物』平成28年/2016年3月号

第154回推薦候補

大衆選考会での推薦

推薦者	推薦日	推薦文
だんじろー	平成27年/2015年12月8日	こういう作品が、しれっと受賞してくれると嬉しいんだけど。
なっく	平成28年/2016年1月3日	日常の謎、と帯にあるが、その日常は戦場での日常。その部分をおろそかにすることなく、登場人物も魅力的に書き、かつラストで泣かせるという、素晴らしい作品です。

文量
長篇
章立て
「プロローグ」「第一章　ノルマンディー降下作戦」「第二章　軍隊は胃袋で行進する」「第三章　ミソサザイと鷲」「第四章　幽霊たち」「第五章　戦いの終わり」「エピローグ」
時代設定	場所設定
1942年～1945年～1989年	アメリカ～フランス～イギリス～オランダ～ベルギー～ドイツ
登場人物
●僕（語り手、ティモシー・コール、ルイジアナ出身の合衆国陸軍Ｇ中隊管理部付きコック） ●エドワード・グリーンバーグ（僕の同僚、通称〈メガネ〉） ●ディエゴ・オルテガ（同、プエルトリコ系） ●スパーク（衛生兵） ●ライナス・ヴァレンタイン（機関銃兵） ●ワインバーガー（通信兵、作家志望） ●フィリップ・ダンヒル（Ｇ中隊に転属してきた負傷兵） ●ミハイロフ（副中隊長、中尉） ●ダニロ・アンドリッチ（教授、研究開発局少佐） ●テレーズ・ジャクスン（婦人飛行部隊の副操縦士）

第160回候補

『ベルリンは晴(は)れているか』（平成30年/2018年9月・筑摩書房刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	奥付ルビ有り「は」
印刷/発行年月日	発行平成30年/2018年9月25日（初版第1刷）
発行者等	発行者喜入冬子　印刷・製本中央精版印刷株式会社
発行所	株式会社筑摩書房（東京都）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	イラストレーション小山義人　ブックデザイン鈴木成一デザイン室
総ページ数	475	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	43字 ×20行 ×1段
本文ページ	9～469 （計461頁）	測定枚数	899枚

書誌

書下ろし

令和4年/2022年3月・筑摩書房／ちくま文庫『ベルリンは晴れているか』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　深緑野分　35歳
選考委員		評価	行数	評言
伊集院静	68歳	△	23	「よく取材をされ、取材の整理が感心するほどできていた。」「選考会では、果して日本人に、あの時代のドイツが理解できるのか、と疑問を発言したが、後日しばらく考えた時、小説は理解ではなく幻想をいかに現実もどきにするかだと考えをあらためた。短慮をお詫びしたい。」
宮部みゆき	58歳	△	35	「歴史小説としてはよく調べて書いたなあと感じ入っただけですが、ミステリーの仕掛けには本当にびっくりしたのです。」「結末を知ってから読み返すと、作者がどれだけ周到に伏線を張り、真相を気取られないよう慎重に、丁寧に、主人公たちの苦難の二日間を描いていたのかわかって、また驚きました。」「強いてミステリー的な難点を言うなら、クリストフの動機がよく見えないというところでしょうか。」
林真理子	64歳	◎	36	「（引用者注：「宝島」と共に）二作受賞を推そうと選考会に臨んだ。」「私は以前の候補作「戦場のコックたち」について、「どうして他国の人を書かなくてはならないのか、という疑問が最後まで残る」と感想を持った。が、今回はその異和感がなかった。それは深緑さんが「戦後」という普遍的なものを見事に描いたからだ。」「ミステリーの部分は不要だという意見があったが、私もそう思う。」
桐野夏生	67歳	■	32	「力作である。問題は、作者の企図が読者に伝わりにくいということにあろうか。」「本書のテーマは、「物語」という自由な世界への激しい希求である。封じられたからこそ、切実な願いは心を打つ。だが、メインストーリーの賑々しさがそれを阻んだのは残念だ。」
浅田次郎	67歳	◎	28	「私は迷わず（引用者中略）推した。」「人物描写がていねいで、風景もまるで細密画を見るようである。」「これだけ密度の濃い小説は今日稀である。」「あえて難を言うなら、以前の候補作と同様にミステリーの結構を持ちこんだことで、本来堂々たる人間劇となるはずの作品を、かえって小さくしてしまったきらいがあった。小説すなわちミステリーとするのは錯誤である。」
宮城谷昌光	73歳	■	9	「構成にひねりが加えられている。それが成功していれば、不満を述べなくてすむが、私は成功していないとみた。」
東野圭吾	60歳	■	25	「「幕間」のエピソードの臨場感、緊迫感に引き込まれた。残念ながらミステリ仕掛けの部分が大きく足を引っ張った。主人公をはじめ、登場人物たちの行動に無理が多く、作者の都合で動かされているとしか思えない。」「毒物に関する仕掛けもおかしい。真相がこうなら、歯ブラシの出番はない。」
高村薫	65歳	■	27	「この作者の、第二次大戦時のヨーロッパの風土への関心には少女の憧れに近いものを感じるが、この種のマニアックさは、オタクが市民権を得た現代ではとくに珍しくもない。作者にとって小説は、大好きな世界を再現する器であり、収集した情報を巧みに駆使して器を満たしてゆく技量もある。そうして一見ヨーロッパ映画のような仕上がりの世界が立ち上がるのだが、そこにはつねに自己満足と紙一重の危うさがひそんでいる。」
北方謙三	71歳	■	15	「わずか二日ぐらいにこれだけのことをやるのか、とちょっと忙しく感じる作品だった。ベルリンの描写と、物語の結構が浮かびあがらせる人物に、どこか乖離も感じた。」「ミステリー仕立てにもなっていたが、結末を私の感性は素直に受けとめきれず、全体として推すのはためらった。」
選評出典：『オール讀物』平成31年/2019年3・4月合併号

第160回推薦候補

大衆選考会での推薦

推薦者	推薦日	推薦文
いしかりの星	平成30年/2018年12月8日	前候補作「戦場のコックたち」に対して「なぜアメリカ軍の兵士の物語を書かなければならないのか」と批判した選考委員がいましたが、それは間違っていると思います。創作というのは時空を超えて創られていくものではないでしょうか。戦争の愚かさ、残酷さを考えるためにもぜひ読んでほしいと思います。

文量
長篇
章立て
「I」「幕間I」「II」「幕間II」「III」「幕間III」「IV」「幕間IV」「V」「幕間V」
時代設定	場所設定
1945年～1928年	ドイツ
登場人物
●私（アウグステ・ニッケル、アメリカ軍の兵員食堂で働く少女） ●ファイビッシュ・カフカ（泥棒、元俳優） ●ユーリイ・ヴァシーリエヴィチ・ドブリギン（NKVD（内務人民委員部）大尉） ●アナトーリー・ダニーロヴィチ・ベスパールイ（NKVD下級軍曹） ●クリストフ・ローレンツ（不審死した音楽家） ●エーリヒ・フォルスト（クリストフの妻の甥） ●ホルン（元英語教師）

第167回候補

『スタッフロール』（令和4年/2022年4月・文藝春秋刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	カバー「Staffroll」併記
印刷/発行年月日	発行令和4年/2022年4月14日（第1刷）
発行者等	発行者大川繫樹　印刷大日本印刷　製本大日本印刷　組版萩原印刷
発行所	株式会社文藝春秋（東京都）			形態	四六判　並製
装幀/装画等	装画 MQ(DELICIOUS COMPANY)　装丁番洋樹　本文イラスト上楽藍
総ページ数	469	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	43字 ×20行 ×1段
本文ページ	3～468 （計466頁）	測定枚数	891枚

書誌

初出『別冊文藝春秋』平成28年/2016年9月号～平成31年/2019年3月号/単行本化にあたり加筆

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　深緑野分　38歳
選考委員		評価	行数	評言
浅田次郎	70歳	■	16	「深緑野分氏は、誰にも真似のできぬ、また誰にも似ていない小説をめざしている志の高い人であろう。しかし本作はその志に反して、なぜかこのごろの小説の典型と思えた。長篇全体を俯瞰する構成力を欠き、不要部分を削らずにむしろ重ねる気味があって紙数を費した。」
北方謙三	74歳	■	27	「映画の現場や特殊造型などについて、私はかなり関心を持った時期があって、描かれている細部が無理なく入ってきた。しかし部分によっては、専門的すぎるかもしれない、とも思った。」「スタッフロールとは、エンドロールのスタッフの部分なのだろうが、（引用者中略）そこに載るか載らないかが、人生の問題になるというのは、平凡な映画ファンにとってはどこかリアリティを欠いてもいる。」
宮部みゆき	61歳	△	10	「いつもながらの誠実で精力的な取材ぶりに頭が下がりました。ヴィヴが日本人の若い女性だったら、もっと肩入れして読んじゃったのになあ……というのは欲張りすぎる注文でしょうか。」
三浦しをん	45歳	■	40	「作者の映画への愛とリスペクト、取材力のすごさも伝わってきて、敬服した。ただ、ちょっとドラマが盛りあがりきらない感があって、惜しいと思った。」「主人公が葛藤するポイントをどこに置くかが、やや弱いというか不鮮明なため、「特殊造形からＣＧへの変化」というストーリー展開と、登場人物の心情のうねりとが、微妙に合致していないように感じられたのかもしれない。」
高村薫	69歳	■	14	「誰よりも作者自身がハリウッドに耽溺しているのが、いつもながら微笑ましいような、白けるような、だった。マニアックもここまで来ると脱帽だが、興味のない世界に共感するのはやはり難しい。」
林真理子	68歳	■	18	「前作、前々作のように、「どうして日本人が、外国人になって小説を描かなくてはいけないのか」という疑問が今回は全くわかなかった。が、前半に比べて、後半はやや退屈である。ＣＧ用語や最新のテクノロジーがよく咀嚼されていない気がした。」
角田光代	55歳	■	42	「登場人物たちは魅力的だし、マチルダとヴィヴィアンの対比もきいていると思う。しかしマチルダが「何に」絶望して映画制作の現場を去ったのか、第二部を読み進むうちわからなくなってくる。」「登場人物たちが求める幸福とはなんなのだろう。ストーリーと、登場人物たちの内面や感情が、途中から乖離してしまったように思う。」
伊集院静	72歳	―	0
桐野夏生	70歳	■	30	「相変わらず資料の咀嚼ぶりがうまいと感心しながら読んだ。情景が目に浮かぶようである。しかし、不満もなくはない。」「マチルダがなぜ姿を消したのか、そして、その間何をしていたのか、明確な答えは出ていない。後半部分のＣＧの技術的なことは、よく調べておられると思うが、読み手には少々退屈である。」
選評出典：『オール讀物』令和4年/2022年9・10月合併号

文量
長篇
章立て
「Part of Matilda」【「第1章　映画に夢を見るな」「第2章　ヴェンゴスとリーヴ」「第3章　CG」「第4章　あの死の真相は」「第5章　怪物"X"」】「Part of Vivienne」【「第1章　名もなき創作者たち」「第2章　『レジェンド・オブ・ストレンジャー』」「第3章　屋根裏にて」「第4章　伝説の造形師」「第5章　マッド・サイエンティスト」「第6章　モーリーンという人」「第7章　スタッフロール」】
時代設定	場所設定
1948年～1986年、2017年	アメリカ～イギリス
登場人物
●マチルダ・セジウィック（特殊造形師、メイキャップ・アーティスト） ●ヴィヴィアン・メリル（アニメーター） ●ロナルド（ハリウッドの脚本家） ●アンブロシオス・ヴェンゴス（特殊造型師、マチルダの師） ●チャールズ・リーヴ（合成背景画家、のちリンクス社社長） ●モーリーン・ナイトリー（ユタ大学の院生、のちレクタングル社を創業） ●アンヘル・ポサダ（映画監督）