柚月裕子（ゆづきゆうこ）-直木賞候補作家

第154回

＝受賞者＝
青山文平

＝候補者＝
梶よう子
深緑野分
宮下奈都
柚月裕子

Last Update●[R6]2024/1/28

	Yuzuki Yuko
	生没年月日【注】	昭和43年/1968年☆月☆日～
	経歴	岩手県生まれ。山形でフリーライターとして働くかたわら、平成20年/2008年に「臨床真理士」（刊行時『臨床真理』に改題）で第7回『このミステリーがすごい！』大賞を受賞して作家デビュー。
	受賞歴・候補歴	山新文学賞［入選］（平成19年/2007年）「待ち人」やましん文芸年間賞［天賞］（平成20年/2008年）第7回『このミステリーがすごい！』大賞（平成20年/2008年）「臨床真理」 \|候補\| 第25回山本周五郎賞（平成23年/2011年度）『検事の本懐』第15回大藪春彦賞（平成24年/2012年度）『検事の本懐』 \|候補\| 第6回山田風太郎賞（平成27年/2015年）『孤狼の血』 \|候補\| 第154回直木賞（平成27年/2015年下期）『孤狼の血』 \|候補\| 第37回吉川英治文学新人賞（平成27年/2015年度）『孤狼の血』第69回日本推理作家協会賞［長編及び連作短編集部門］（平成28年/2016年）『孤狼の血』 \|候補\| 第8回山田風太郎賞（平成29年/2017年）『盤上の向日葵』 \|第2位\| 第15回2018年本屋大賞（平成30年/2018年）『盤上の向日葵』 \|候補\| 第33回山本周五郎賞（令和1年/2019年度）『暴虎の牙』 \|候補\| 第11回山田風太郎賞（令和2年/2020年）『暴虎の牙』 \|候補\| 第166回直木賞（令和3年/2021年下期）『ミカエルの鼓動』
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『検事(けんじ)の本懐(ほんかい)』（平成23年/2011年11月・宝島社刊）

書誌

平成24年/2012年11月・宝島社／宝島社文庫『このミス』大賞シリーズ『検事の本懐』〔加筆修正〕

平成30年/2018年7月・KADOKAWA／角川文庫『検事の本懐』

山本周五郎賞 第25回候補

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　柚月裕子　44歳
選考委員		評価	行数	評言
石田衣良	52歳	■	35	「佐方貞人という主人公の周囲で発生する事件とその解決は手堅いし、組織を描く筆も上々、きちんと定型の人情ものになっている。」「この作品に不満があるとすれば、やはり佐方のキャラクターだろう。（引用者中略）事件の本筋以外に遊びの部分がすくないので、どんな人物なのか今ひとつよくわからないのだ。」
角田光代	45歳	■	31	「巧い、というのがまず第一の感想なのだが、けれど、やはり小説の短さが気になった。描いているストーリーと、枚数が見合っていないように思えた。」「そしてこの作者の持つ「巧さ」が、早くも二話目あたりから、「破綻のなさ」に成り代わってしまった。」「佐方という男の魅力が今ひとつ伝わってこないのも残念だった。」
佐々木譲	62歳	●	30	「たとえば受賞作の『楽園のカンヴァス』と較べると、取材して書いた作品という印象は否めない。」「登場人物の造型も、少し古いという印象を受ける。類型とは言わないが、どこかで昭和の時代の警察もの、新聞記者もののテレビドラマを観ているような既視感があった。」
白石一文	53歳	■	43	「五本の短編はどれもよく書けている。」「商業性の高さを充分に感じさせる。ただ、問題はまさにそこにあるとも言える。」「もう彼女はこの種の小説を書きこなしていく自分流の公式を手に入れている。であるならば、どこかでたまにその公式から逸脱してほしい。」「こうなってほしいと読者が望む方向へ小説を持っていくのも大切だ。だが、一方で、常にそうした読者の予測を裏切り続けるのもまた小説の醍醐味だ。」
唯川恵	57歳	■	35	「巧い小説だと思った。」「力のある方であるのは間違いない。すでに多くの読者も掴んでいらっしゃる。ただ、このジャンルの小説は人気があり、映像化も多いので、どこかで読んだような、観たような、そんな既視感が拭えない。」
選評出典：『小説新潮』平成24年/2012年7月号

第154回候補

『孤狼(ころう)の血(ち)』（平成27年/2015年8月・KADOKAWA刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	表紙・背ルビ有り「ころう」　奥付ルビ有り「ころう」「ち」
印刷/発行年月日	発行平成27年/2015年8月27日（初版）
測定媒体発行年月日	発行平成27年/2015年11月20日（4版）
発行者等	発行者郡司聡　印刷所大日本印刷株式会社　製本所本間製本株式会社
発行所	株式会社KADOKAWA（東京都）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	装画曄田依子　装丁坂詰佳苗
総ページ数	411	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	42字 ×19行 ×1段
本文ページ	7～411 （計405頁）	測定枚数	731枚

書誌

初出『小説野性時代』平成26年/2014年3月号～平成27年/2015年2月号

平成29年/2017年8月・KADOKAWA／角川文庫『孤狼の血』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　柚月裕子　47歳
選考委員		評価	行数	評言
林真理子	61歳	■	14	「やはりこの疑問は残る。「どうしてこれほど古いやくざの物語を描くのか」」「また中年刑事と新人刑事との、これほどの濃厚な関係が一ヶ月でつくれるものなのかという思いもある。」
北方謙三	68歳	■	19	「ハードボイルドふうであるが、行間から立ちあがってくるものを、私は感じとることができなかった。章の最初につけられた日誌、最後の年表のようなものなど、細かいところまできちんとしなければならないという、作者の真面目さが感じられたが、理屈を突き抜けた迫力を獲得できなかったのも、そのためかと私は考えた。」
浅田次郎	64歳	■	10	「よく言えばオーソドックスな、悪く言うならオリジナリティを欠く作品である。この「よくも悪しくも当たり前」という按配は、一定数の読者を獲得するうえですこぶる有効なのだが、作者はまさかそれをめざす段階ではない。」
宮部みゆき	55歳	■	30	「新進気鋭の実力派の映像作家が、もしも今『仁義なき戦い』をリメイクしようと思い立ったら、あの傑作から何を引き、何を足すべきかを悩むはずです。」「舞台を昭和六十三年（ざっと二十八年前）に据えるのは、「何も足さず何も引かない」選択をしたことだと、私は思います。それはそれで敬意を覚える思い切りですが、結果的に『孤狼の血』は何となくアナクロで、既視感の多い作品になってしまいました。」
伊集院静	65歳	■	4	「意欲作であるが、もう少し人間の機微を捉えなくてはと思った。」
高村薫	62歳	●	16	「豊富な取材にもかかわらず、やくざと刑事の関係にはもう一段の奥深さがあることに思いが至っていないのは、書き手が身体で対象を捉えていないためだろう。」
桐野夏生	64歳	■	9	「地の文章はうまい。しかし、台詞で状況説明をしているのが安易に思えた。」「登場人物も既視感があって、新鮮味が感じられなかった。」
宮城谷昌光	70歳	●	23	「テーマがあいまいで、全体をまわしてゆく軸がぶれている。」「重要人物の死は、物語を切断すると同時に、質のちがう継続を生じさせる。音楽でいう転調である。そのあたりの意識も作者には稀薄であったようで、浸潤性のとぼしい作品となった。」
東野圭吾	57歳	■	22	「ヤクザよりも狡猾で暴力的な刑事、というのはマル暴刑事のイメージそのもの。もう少し意外性のある個性を加味してほしかった。ストーリーにも、やや無理が目立つ。死体の処分で、船があるのに海に捨てずに無人島に埋めるという行為は、愚かすぎないか。警察の不祥事をまとめたノートが存在するというのも安易。」
選評出典：『オール讀物』平成28年/2016年3月号

吉川英治文学新人賞 第37回候補

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　柚月裕子　47歳
選考委員		評価	行数	評言
伊集院静	66歳	●	5	「私にはどこかで見たような構成に思われ、人物の描写が荒削りに感じた。」
大沢在昌	59歳	●	7	「一読、困ってしまった」「登場人物全員、刑事もやくざも小料理屋の女将も、誰ひとり意外な言動がない。すべて役柄でしかないのだ。」「これはまだ、上手にできた「悪徳刑事」という塗り絵でしかない。」
恩田陸	51歳	□	10	「肚の据わった堂々たる描きっぷりがたのもしく、ラストシーンにも興奮した。この作品も推したかったけれど、他の選考委員の意見もごもっともと思ったので、残念ながら受賞しないことに反対はしなかった。」
京極夏彦	52歳	―	0
高橋克彦	68歳	―	0
選評出典：『小説現代』平成28年/2016年5月号

文量
長篇
章立て
「プロローグ」「一章」～「十三章」「エピローグ」
時代設定	場所設定
昭和63年～［同時代］	広島県呉原市～広島市～鳥取
登場人物
●日岡秀一（呉原東署捜査二課の新任課員） ●大上章吾（呉原東署暴力団係の班長、日岡の直属の上司） ●晶子（「小料理や　志乃」の女将） ●尾谷憲次（尾谷組組長、服役中） ●一之瀬守孝（尾谷組若頭） ●瀧井銀次（仁正会幹事長、瀧井組組長） ●五十子正平（仁正会副会長、五十子会会長） ●高坂隆文（安芸新聞記者）

『暴虎(ぼうこ)の牙(きば)』（令和2年/2020年3月・KADOKAWA刊）

書誌

令和5年/2023年1月・KADOKAWA／角川文庫『暴虎の牙』(上)(下)

山本周五郎賞 第33回候補

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　柚月裕子　52歳
選考委員		評価	行数	評言
伊坂幸太郎	49歳	■	18	「一作目や二作目に比べて、この作品は新規のアイディアがあまり感じられず、過去を舞台にした任侠物という形式があるために自由が利かない部分はあるとは思うのですが、それにしても、もっと見たことのないシーンや新鮮な会話、はっとする展開など、今の時代に描き直すからこその再解釈があるべきなのではないか、と思わずにはいられませんでした。」
江國香織	56歳	■	29	「安定した文章力に支えられ、三部作の三作目だけを読んでも、小説世界に無理なくひきこまれました。」「やくざと刑事の話であると同時に青春小説としても読め、近過去の時代小説でもあって、どの側面から読んでも無難に上手い。でも、私にはその無難がちょっと物足りなかったです。ある意味で常軌を逸脱した人々の話のはずなのに、読んでいて安心できすぎるというか、不穏じゃないというか――。」
荻原浩	64歳	△	33	「本作はヤクザ物の王道だ。時代は暴対法施行前の昭和、なにより舞台は、ほかでもない広島。」「広島弁（一部呉弁）が効いている。」「が、王道の設定であるがゆえに、せりふやエピソードが時として紋切り型に思えてしまう。ヤクザ物の様式美に則っているとも言えなくはないが、登場人物の言動がしばしば想像の範囲内であったりするのだ。」
今野敏	64歳	■	29	「残念なことに、シリーズものの弱点が見られた。物語の途中で、重要な登場人物である大上が死に、突然、日岡が主役級で登場する。私は、過去の二作品も読んでいるから、その事情はよく理解していたが、この作品だけを読んだ読者は困惑するに違いない。」「迫力のある作品ではあるが、全体に濃淡がなく平坦な印象がある。もしかしたら、書き過ぎなのかもしれない。さらに、ラストシーンが、これだけのボリュームを費やした物語に釣り合わない感がある。」
三浦しをん	43歳	△	32	「本作から読んだひとには、ガミさんの魅力や、ヤクザの人間関係と組織関係が伝わりにくいかもしれないとも思う」「本作では、暴対法施行後の世界との対比が描かれ、「三作目は、こう来たか！」と作者の発想の妙を堪能した。自動的に、なぜ本シリーズが昭和の終わりごろから語りはじめられているのかについても、納得がいった。」
選評出典：『小説新潮』令和2年/2020年11月号

第166回候補

『ミカエルの鼓動(こどう)』（令和3年/2021年10月・文藝春秋刊）

媒体・作品情報

作品名別表記	裏表紙「The Justice of St.Michael」　奥付ルビ有り「こどう」
印刷/発行年月日	発行令和3年/2021年10月10日（第1刷）
発行者等	発行者大川繁樹　印刷所凸版印刷　製本所大口製本　組版ＬＵＳＨ
発行所	株式会社文藝春秋（東京都）			形態	四六判　上製
装幀/装画等	装画日置由美子　装丁関口聖司
総ページ数	467	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	43字 ×20行 ×1段
本文ページ	5～467 （計463頁）	測定枚数	882枚

書誌

初出『週刊文春』令和2年/2020年1月2日・9日六十周年記念新年特大号～令和3年/2021年1月28日号/単行本化に当たり加筆修正

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　柚月裕子　53歳
選考委員		評価	行数	評言
浅田次郎	70歳	■	9	「資料調べと取材の労を惜しまなかった力作と知れる。だが、いさかか肝心のストーリーが知識に埋没する気味があった。」
桐野夏生	70歳	●	14	「問題は、主人公に魅力が感じられず、共感できないことだ。素っ気ないと思うほど簡潔な地の文と、ややぶっきらぼうな台詞がこの主人公の魅力を減じているのかもしれない。そのため、主人公の真摯な思いがあまり伝わってこない。」
宮部みゆき	61歳	■	20	「もっと西條先生に味方してあげられるストーリーがほしかった！　というのは野次馬な感想に過ぎますが、「医療分野のＡＩ活用の未来」という大きなテーマは、人気の医療テレビドラマを連想させてしまうような人間模様がなくても、充分に読み応えがあったはずだと思います。」
林真理子	67歳	●	10	「どうも共感出来なかった。ロボットは所詮ツールに過ぎない。自分で開発したわけでもないのに、主人公の医師はなぜこれほど執着するのか、最後までわからなかった。」
角田光代	54歳	■	22	「医師の西條、ジャーナリストの黒沢など人物造形が類型的で、反対に、西條の妻、妻の母などはどういう人物なのかわからない。」「ラストに西條が見る世界の真理に私は胸打たれたのだが、この境地にたどり着くのに必要な道のりが存分に描かれていないようにも思う。」
三浦しをん	45歳	●	26	「後半になるにつれ矛盾や綻びが目立つ。病院内の権力闘争がうまく効いていないし、真木はべつにミカエルを用いた手術に反対しているわけではない。」「つまり、ストーリーを駆動させる対立軸の設定が弱い。」
北方謙三	74歳	■	22	「新しい医療技術を扱いながら、ストーリーが類型であった。」「俗物は俗物のまま、真実を摑み取らせる度胸があれば、類型をどこかで突き破ったかもしれない。正義だとか理想だとかに近づいた時、人物描写は危険性を帯びるのである。」
伊集院静	71歳	●	3	「構成と人物像の作りに破綻があった。」
高村薫	68歳	●	12	「エンターテインメントの定型に安住し過ぎたストーリーは、途中で先の展開が読めてしまう拙さだった。本賞では、もう少し精緻な構成が求められると思う。」
選評出典：『オール讀物』令和4年/2022年3・4月合併号

文量
長篇
章立て
「プロローグ」「第一章」～「第九章」「エピローグ」
時代設定	場所設定
［同時代］	北海道～広島
登場人物
●西條泰己（北海道中央大学〈北中大〉病院の循環器外科医、医療用ロボット〈ミカエル〉手術の第一人者） ●真木一義（元・東京心臓センター勤務の心臓外科医） ●曾我部一夫（北中大病院の病院長） ●雨宮香澄（同病院の経営戦略担当病院長補佐、元ベンチャーキャピタル勤務） ●美咲（西條の妻） ●黒沢巧（フリーライター） ●白石航（先天性心疾患の手術歴がある患者、12歳） ●布施寿利（広島総生大学病院の心臓外科医） ●駒田繁彦（支笏湖畔診療所の医師）