第44回

第43回第45回

令和5年/2023年度 令和5年/2023年3月2日決定発表

選考委員　 朝井まかて 63歳 大沢在昌 66歳 京極夏彦 59歳 辻村深月 43歳 村山由佳 58歳 選評総行数　 92 67 110 89 86 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 蝉谷めぐ実　『おんなの女房』 30歳 評 ○ 23 □ 13 △ 21 □ 23 ◎ 17 安壇美緒　『ラブカは静かに弓を持つ』 36歳 評 ■ 17 △ 16 ○ 13 ◎ 15 ◎ 13 長浦京　『プリンシパル』 55歳 評 ■ 17 ◎ 8 ■ 17 ■ 13 ■ 16 凪良ゆう　『汝、星のごとく』 50歳 評 ■ 18 ■ 20 △ 15 ■ 18 ■ 13 夕木春央　『方舟』 (30歳) 評 ■ 17 ● 18 ■ 18 ◎ 22 ● 17           年齢の説明   見方・注意点

朝井まかて63歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

題新鮮で過激な傾き　総行数92　（1行=19字） 候補 評価 行数 評言 蝉谷めぐ実 30歳 全 ○ 23 「芸の道の妖しさ、凄まじさ、夫婦の恋のけなげさに胸が熱くなる。感情の描き方に独特のセンスがあり、響いてくるものの高低、うねりが大きい。」「登場人物が皆、傾（ルビ：かぶ）いている。みんな傾奇者。そこまで突っ切ったがゆえに小説は特殊な世界だけのものではなく、人間のある真理にまで達した。」 安壇美緒 36歳 全 ■ 17 「現代の法の論理や正論がいかに人間性と芸術を切り捨ててしまうかが巧みにスリリングに描かれていて、とても興味深く読んだ。」「惜しむらくは、主人公の樹の人物造形が舌足らずだ。老成した青年の魅力は感じたけれども薄い。」「そして樹は法廷に立つべきだった。三船の経験の伝聞だけでは弱い。」 長浦京 55歳 全 ■ 17 「説明が必要な戦前と敗戦直後、戦後の事情を巧く挿入し、読むリズムと心地よさを乱れさせない。」「ただ、中盤以降は想像を超えるものではなく、情景も浮かびにくくなる。同程度の重さの波が手を変え品を変え押し寄せるので、読み手はそのリズムに悪く慣れてしまうのだ。」 凪良ゆう 50歳 全 ■ 18 「ストーリー、文体も安定していて、暁海と櫂の恋の切なさに安心して没入できた。」「ただ、読むうち、キラキラし過ぎていると感じるようになった。なぜだろうと考えた。キラーコンテンツが多過ぎて、心情も丁寧に書き過ぎているのではないか。主人公のみならず周囲の人間も「正しいか・正しくないか」に繰り返し拘っているところも気になった。」 夕木春央 (30歳) 全 ■ 17 「古典的な密室ミステリーを、現代を舞台に展開する。この発想に虚を衝かれ、新鮮でもあった。瞠目したのは「殺人の動機」。」「最も気になったのは、終盤までが筋運びのみでシンプル過ぎること。」「めくらましのためにもあともう一層の語りを入れて文章の愉楽があればもっと充実したように思う。」

他の選考委員 大沢在昌 京極夏彦 辻村深月 村山由佳

大沢在昌66歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

題繚乱　総行数67　（1行=19字） 候補 評価 行数 評言 蝉谷めぐ実 30歳 全 □ 13 「文章がすばらしい。そのドライブ感はときに読者をおいてきぼりにしかねないほどの速度がありながら、華がある。ヒロインの苦悩、成長、そして覚悟が描かれ、終盤、夫の燕弥を追い詰める狂気にも説得力がある。」 安壇美緒 36歳 全 △ 16 「登場人物は、その誰もが人と深くかかわることを避ける。それゆえに物語は読む者の胸に大きな波を起こすことなく進む。安心して読めるのだ。」 長浦京 55歳 全 ◎ 8 「私は賞をさしあげたかった。虚実とりまぜた戦後の暗黒史をヒロインの一視点で描き切った筆力はみごとだった。最後、よってたかって刺されるその姿には、一視点ゆえに怪物化した己に気づかぬヒロインの悲しみがあった。」 凪良ゆう 50歳 全 ■ 20 「登場人物は、決して現実に抗うことをしない。弱い人間は弱く、愚かな人間は愚かなまま物語は進み、悲しくはあるが、ある種の諦念を抱かせるラストに落ちつく。過不足なく計算された筆運びだが、そこに物足りなさを感じた。」 夕木春央 (30歳) 全 ● 18 「私には評価できなかった。」「物語の中で何人、何十人殺そうと、問題ではない。が、動機にはいくらかの説得力が必要である。この作品にはそれがなかった。生き残りたいと考えるなら、犯人には殺人の前にできることがあった。脱出よりも犯人捜しに狂奔する登場人物すべてに、作者の都合が見えてしまい、物語に入りこめなかった。」   「候補作すべてにそれぞれ、受賞作に推したいという選考委員がいた。私の経験では初めてのことである。」

他の選考委員 朝井まかて 京極夏彦 辻村深月 村山由佳

京極夏彦59歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

題選評　総行数110　（1行=19字） 候補 評価 行数 評言 蝉谷めぐ実 30歳 全 △ 21 「特筆すべきは作者が読者に一切の忖度をしていないと思われる点だろう。設定説明――作中で使われる言葉や文化習俗などの解説は、ほぼなされない。（引用者中略）興味のない読者、予備知識を持たない読者には伝わり難いスタイルともなる。」「本作は技巧ではなく、熱量のようなものでその障害を打ち破っている。素材に対する偏愛と、その筆力が（たぶん）作者の意図していない構造を醸成している。」 安壇美緒 36歳 全 ○ 13 「濃（ルビ：こまや）かに描かれる若者の繊細な真情と登場人物たちの関係性こそが本作を傑作たらしめている。可読性も高く、瑕疵もない。レイヤーを単層化したことで、“今読まれる小説”の形になっていると思う。」 長浦京 55歳 全 ■ 17 「史実と、史実を元にした虚構との作中バランスは最適とは言い難いかもしれない。時代が近いこともありモデルもほぼ特定出来てしまう。リアリティを保証するために選び取られた手法が、不要な構造を形成してしまう恰好になっている。」 凪良ゆう 50歳 全 △ 15 「狭い閉鎖社会と都会の対比をはじめステレオタイプな処理も散見するが、それはレイヤーを単層化したためで、意図的なものだろう。届く者には確実に届く巧緻な設計であると思う。“今読まれる小説”としては過不足のない出来栄えだろう。ただ、そうした解り易さは往々にして物語を寓話化してしまう。」 夕木春央 (30歳) 全 ■ 18 「ミステリとしての骨格を残し、多くを切り捨てている。」「ミステリという枠組みは、そうと看破された段階でミステリ的結構を強く求められるものでもある。周到な書き振りはそれを裏切るものではないが、周到であるが故に結末が読めてしまうという弊害もある。」   「小説は単純な構造体ではない。構造は幾重にも階層をなしてあるものだし、書き手の意図と無関係に醸成される階層も多くある。その中から似た構造同じ構造を見出すことは不可能ではない。しかし、今回に関しては難しかった。候補作はいずれもレイヤーの数が極めて少ないのである。これは決して悪いことではない。作者は不必要なレイヤーを意図的に削除しているのだ。」

他の選考委員 朝井まかて 大沢在昌 辻村深月 村山由佳

辻村深月43歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

題選評　総行数89　（1行=19字） 候補 評価 行数 評言 蝉谷めぐ実 30歳 全 □ 23 「文章、文体にこちらを物語世界へ心地よく運んでいくリズムと艶っぽさがあり、「未知」のはずの世界が気づくとすぐ傍らにあるように迫ってくる。」「読者に近いまっすぐな語り手だと思っていた志乃がラスト、誰よりも役者の世界を体現する「おんなの女房」になる様に鳥肌が立ち、これを描く著者はなんと恐ろしい人だろうかと圧倒された。」 安壇美緒 36歳 全 ◎ 15 「（引用者注：「方舟」と共に）特に推した。」「音楽教室を巡る著作権の問題という、現在進行形で語られる題材をこんなにも鮮やかにエンターテインメントの小説の中で描き切った著者の度胸と技量に脱帽する思いだ。」 長浦京 55歳 全 ■ 13 「主人公綾女が憑りつかれている亡霊が可視化される描写には、小説としてゾクッとするような奥行きを感じた。ただ、クライマックスにあたる場面の連続で、それは多くの読者を楽しませる要素だと理解しつつも、展開に伴う描写がやや似た感情の繰り返しに見えてしまった。」 凪良ゆう 50歳 全 ■ 18 「細部のエピソードや表現に光るものが多く、物語運びも非常に巧み。しかし、後半の展開が、登場人物たちが選び取った結果ではなく、著者がそこに向けて走り出した枠組みありきのもののように私には読めてしまった。」「この小説の場合には当初に定めた運命を逸脱して広がる「その先」があったのではないかという思いが最後、拭えなかった。」 夕木春央 (30歳) 全 ◎ 22 「（引用者注：「ラプカは静かに弓を持つ」と共に）特に推した。」「私が最も感動したのは、この小説が動機を軽んじた者が負けるミステリであった点だ。生身の人間ドラマや人間関係と切り離した先に冷徹なまでに真相を求める本格ミステリの世界に、人の心を見誤る危うさを示すラストが新しく、読んでいて嬉しくなってしまった。」

他の選考委員 朝井まかて 大沢在昌 京極夏彦 村山由佳

村山由佳58歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

題文章と腕力　総行数86　（1行=19字） 候補 評価 行数 評言 蝉谷めぐ実 30歳 全 ◎ 17 「最初の投票から頭ひとつ抜きん出ていた。」「歌舞伎や江戸文化に明るくない読者をも引きずり込む腕力たるや新人離れしており、それでいて初々しいのがズルい。軽やかにも読めるけれども、人が生きてゆくことの哀しさと痛み、芸事に潜む狂気に至るまできちんと目配りされているところも素晴らしい。」 安壇美緒 36歳 全 ◎ 13 「受賞作（引用者注：「おんなの女房」）と並んで推した。」「饒舌な文章ではないのに豊かなものが伝わってくるのは、書きたい世界とテーマに対し、必要充分な描写と構成を考え尽くした成果だ。人間関係や主人公の葛藤が希薄で物足りないとの意見もあり、確かに否定はできないが、その空気感も含めて〈今〉であるとも感じた。」 長浦京 55歳 全 ■ 16 「文章のほとんどが描写ではなく説明であり、さらにその文中にも語句の解説が随所に挿入された結果、全編通して書き手の気配が消えてくれなかった。凄惨な場面もヒロインの苦悩も、どこか絵空事に感じられたのはそのせいだろう。」 凪良ゆう 50歳 全 ■ 13 「交互に語る二人の物語も切なく、ある意味すでに完成された世界と言えるのかもしれない。ただ、途中から懸命に説き伏せられている気がしてくるのは、心情描写が書き込まれ過ぎているせいだろう。」 夕木春央 (30歳) 全 ● 17 「語り手となる〈僕〉と最後に明かされる犯人との関係性が、もう少し深く切なく描かれていたならと思わずにいられない。殺す側、殺される側、探偵役、誰にも心を添わせることができないまま〈意外な結末〉だけが一人歩きしてしまった感があった。」   「昔々この賞にノミネートされ、逃したことがある。胃の腑がねじ切れるほど悔しかった。しばらくはひどく落ち込み、半ば無理やり闘志をかき立て、燃やし、おかげで今がある。」

他の選考委員 朝井まかて 大沢在昌 京極夏彦 辻村深月

蝉谷めぐ実30歳×各選考委員　 『おんなの女房』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 朝井まかて 63歳 全 ○ 23 「芸の道の妖しさ、凄まじさ、夫婦の恋のけなげさに胸が熱くなる。感情の描き方に独特のセンスがあり、響いてくるものの高低、うねりが大きい。」「登場人物が皆、傾（ルビ：かぶ）いている。みんな傾奇者。そこまで突っ切ったがゆえに小説は特殊な世界だけのものではなく、人間のある真理にまで達した。」 大沢在昌 66歳 全 □ 13 「文章がすばらしい。そのドライブ感はときに読者をおいてきぼりにしかねないほどの速度がありながら、華がある。ヒロインの苦悩、成長、そして覚悟が描かれ、終盤、夫の燕弥を追い詰める狂気にも説得力がある。」 京極夏彦 59歳 全 △ 21 「特筆すべきは作者が読者に一切の忖度をしていないと思われる点だろう。設定説明――作中で使われる言葉や文化習俗などの解説は、ほぼなされない。（引用者中略）興味のない読者、予備知識を持たない読者には伝わり難いスタイルともなる。」「本作は技巧ではなく、熱量のようなものでその障害を打ち破っている。素材に対する偏愛と、その筆力が（たぶん）作者の意図していない構造を醸成している。」 辻村深月 43歳 全 □ 23 「文章、文体にこちらを物語世界へ心地よく運んでいくリズムと艶っぽさがあり、「未知」のはずの世界が気づくとすぐ傍らにあるように迫ってくる。」「読者に近いまっすぐな語り手だと思っていた志乃がラスト、誰よりも役者の世界を体現する「おんなの女房」になる様に鳥肌が立ち、これを描く著者はなんと恐ろしい人だろうかと圧倒された。」 村山由佳 58歳 全 ◎ 17 「最初の投票から頭ひとつ抜きん出ていた。」「歌舞伎や江戸文化に明るくない読者をも引きずり込む腕力たるや新人離れしており、それでいて初々しいのがズルい。軽やかにも読めるけれども、人が生きてゆくことの哀しさと痛み、芸事に潜む狂気に至るまできちんと目配りされているところも素晴らしい。」

他の候補作 安壇美緒 『ラブカは静かに弓を持つ』 長浦京 『プリンシパル』 凪良ゆう 『汝、星のごとく』 夕木春央 『方舟』

安壇美緒36歳×各選考委員　 『ラブカは静かに弓を持つ』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 朝井まかて 63歳 全 ■ 17 「現代の法の論理や正論がいかに人間性と芸術を切り捨ててしまうかが巧みにスリリングに描かれていて、とても興味深く読んだ。」「惜しむらくは、主人公の樹の人物造形が舌足らずだ。老成した青年の魅力は感じたけれども薄い。」「そして樹は法廷に立つべきだった。三船の経験の伝聞だけでは弱い。」 大沢在昌 66歳 全 △ 16 「登場人物は、その誰もが人と深くかかわることを避ける。それゆえに物語は読む者の胸に大きな波を起こすことなく進む。安心して読めるのだ。」 京極夏彦 59歳 全 ○ 13 「濃（ルビ：こまや）かに描かれる若者の繊細な真情と登場人物たちの関係性こそが本作を傑作たらしめている。可読性も高く、瑕疵もない。レイヤーを単層化したことで、“今読まれる小説”の形になっていると思う。」 辻村深月 43歳 全 ◎ 15 「（引用者注：「方舟」と共に）特に推した。」「音楽教室を巡る著作権の問題という、現在進行形で語られる題材をこんなにも鮮やかにエンターテインメントの小説の中で描き切った著者の度胸と技量に脱帽する思いだ。」 村山由佳 58歳 全 ◎ 13 「受賞作（引用者注：「おんなの女房」）と並んで推した。」「饒舌な文章ではないのに豊かなものが伝わってくるのは、書きたい世界とテーマに対し、必要充分な描写と構成を考え尽くした成果だ。人間関係や主人公の葛藤が希薄で物足りないとの意見もあり、確かに否定はできないが、その空気感も含めて〈今〉であるとも感じた。」

他の候補作 蝉谷めぐ実 『おんなの女房』 長浦京 『プリンシパル』 凪良ゆう 『汝、星のごとく』 夕木春央 『方舟』

長浦京55歳×各選考委員　 『プリンシパル』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 朝井まかて 63歳 全 ■ 17 「説明が必要な戦前と敗戦直後、戦後の事情を巧く挿入し、読むリズムと心地よさを乱れさせない。」「ただ、中盤以降は想像を超えるものではなく、情景も浮かびにくくなる。同程度の重さの波が手を変え品を変え押し寄せるので、読み手はそのリズムに悪く慣れてしまうのだ。」 大沢在昌 66歳 全 ◎ 8 「私は賞をさしあげたかった。虚実とりまぜた戦後の暗黒史をヒロインの一視点で描き切った筆力はみごとだった。最後、よってたかって刺されるその姿には、一視点ゆえに怪物化した己に気づかぬヒロインの悲しみがあった。」 京極夏彦 59歳 全 ■ 17 「史実と、史実を元にした虚構との作中バランスは最適とは言い難いかもしれない。時代が近いこともありモデルもほぼ特定出来てしまう。リアリティを保証するために選び取られた手法が、不要な構造を形成してしまう恰好になっている。」 辻村深月 43歳 全 ■ 13 「主人公綾女が憑りつかれている亡霊が可視化される描写には、小説としてゾクッとするような奥行きを感じた。ただ、クライマックスにあたる場面の連続で、それは多くの読者を楽しませる要素だと理解しつつも、展開に伴う描写がやや似た感情の繰り返しに見えてしまった。」 村山由佳 58歳 全 ■ 16 「文章のほとんどが描写ではなく説明であり、さらにその文中にも語句の解説が随所に挿入された結果、全編通して書き手の気配が消えてくれなかった。凄惨な場面もヒロインの苦悩も、どこか絵空事に感じられたのはそのせいだろう。」

他の候補作 蝉谷めぐ実 『おんなの女房』 安壇美緒 『ラブカは静かに弓を持つ』 凪良ゆう 『汝、星のごとく』 夕木春央 『方舟』

凪良ゆう50歳×各選考委員　 『汝、星のごとく』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 朝井まかて 63歳 全 ■ 18 「ストーリー、文体も安定していて、暁海と櫂の恋の切なさに安心して没入できた。」「ただ、読むうち、キラキラし過ぎていると感じるようになった。なぜだろうと考えた。キラーコンテンツが多過ぎて、心情も丁寧に書き過ぎているのではないか。主人公のみならず周囲の人間も「正しいか・正しくないか」に繰り返し拘っているところも気になった。」 大沢在昌 66歳 全 ■ 20 「登場人物は、決して現実に抗うことをしない。弱い人間は弱く、愚かな人間は愚かなまま物語は進み、悲しくはあるが、ある種の諦念を抱かせるラストに落ちつく。過不足なく計算された筆運びだが、そこに物足りなさを感じた。」 京極夏彦 59歳 全 △ 15 「狭い閉鎖社会と都会の対比をはじめステレオタイプな処理も散見するが、それはレイヤーを単層化したためで、意図的なものだろう。届く者には確実に届く巧緻な設計であると思う。“今読まれる小説”としては過不足のない出来栄えだろう。ただ、そうした解り易さは往々にして物語を寓話化してしまう。」 辻村深月 43歳 全 ■ 18 「細部のエピソードや表現に光るものが多く、物語運びも非常に巧み。しかし、後半の展開が、登場人物たちが選び取った結果ではなく、著者がそこに向けて走り出した枠組みありきのもののように私には読めてしまった。」「この小説の場合には当初に定めた運命を逸脱して広がる「その先」があったのではないかという思いが最後、拭えなかった。」 村山由佳 58歳 全 ■ 13 「交互に語る二人の物語も切なく、ある意味すでに完成された世界と言えるのかもしれない。ただ、途中から懸命に説き伏せられている気がしてくるのは、心情描写が書き込まれ過ぎているせいだろう。」

他の候補作 蝉谷めぐ実 『おんなの女房』 安壇美緒 『ラブカは静かに弓を持つ』 長浦京 『プリンシパル』 夕木春央 『方舟』

夕木春央(30歳)×各選考委員　 『方舟』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 朝井まかて 63歳 全 ■ 17 「古典的な密室ミステリーを、現代を舞台に展開する。この発想に虚を衝かれ、新鮮でもあった。瞠目したのは「殺人の動機」。」「最も気になったのは、終盤までが筋運びのみでシンプル過ぎること。」「めくらましのためにもあともう一層の語りを入れて文章の愉楽があればもっと充実したように思う。」 大沢在昌 66歳 全 ● 18 「私には評価できなかった。」「物語の中で何人、何十人殺そうと、問題ではない。が、動機にはいくらかの説得力が必要である。この作品にはそれがなかった。生き残りたいと考えるなら、犯人には殺人の前にできることがあった。脱出よりも犯人捜しに狂奔する登場人物すべてに、作者の都合が見えてしまい、物語に入りこめなかった。」 京極夏彦 59歳 全 ■ 18 「ミステリとしての骨格を残し、多くを切り捨てている。」「ミステリという枠組みは、そうと看破された段階でミステリ的結構を強く求められるものでもある。周到な書き振りはそれを裏切るものではないが、周到であるが故に結末が読めてしまうという弊害もある。」 辻村深月 43歳 全 ◎ 22 「（引用者注：「ラプカは静かに弓を持つ」と共に）特に推した。」「私が最も感動したのは、この小説が動機を軽んじた者が負けるミステリであった点だ。生身の人間ドラマや人間関係と切り離した先に冷徹なまでに真相を求める本格ミステリの世界に、人の心を見誤る危うさを示すラストが新しく、読んでいて嬉しくなってしまった。」 村山由佳 58歳 全 ● 17 「語り手となる〈僕〉と最後に明かされる犯人との関係性が、もう少し深く切なく描かれていたならと思わずにいられない。殺す側、殺される側、探偵役、誰にも心を添わせることができないまま〈意外な結末〉だけが一人歩きしてしまった感があった。」

他の候補作 蝉谷めぐ実 『おんなの女房』 安壇美緒 『ラブカは静かに弓を持つ』 長浦京 『プリンシパル』 凪良ゆう 『汝、星のごとく』