砂川文次（すなかわぶんじ）-芥川賞受賞作家｜芥川賞のすべて・のようなもの

芥川賞のすべて・のようなもの

第166回

＝受賞者＝
砂川文次

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Last Update●[R4]2022/4/20

	Sunakawa Bunji
	生没年月日【注】	平成2年/1990年☆月☆日～
	経歴	大阪府吹田市生まれ。神奈川大学卒。自衛官を経て、都内区役所に勤務。
	受賞歴・候補歴	第121回文學界新人賞（平成28年/2016年）「市街戦」 \|候補\| 第160回芥川賞（平成30年/2018年下期）「戦場のレビヤタン」 \|候補\| 第164回芥川賞（令和2年/2020年下期）「小隊」第166回芥川賞（令和3年/2021年下期）「ブラックボックス」
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第160回候補

「戦場(せんじょう)のレビヤタン」（『文學界』平成30年/2018年12月号）

媒体・作品情報

誌名	「文學界」
巻号	第72巻第12号別表記12月号
印刷/発行年月日	発売平成30年/2018年11月7日　発行平成30年/2018年12月1日
発行者等	編集人武藤旬　発行人大川繁樹　印刷人北島義斉　印刷所大日本印刷株式会社　ＤＴＰ制作株式会社ローヤル企画
発行所	株式会社文藝春秋（東京都）
総ページ数	328	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	27字 ×24行 ×2段
本文ページ	88～125 （計38頁）	測定枚数	116枚

書誌

平成31年/2019年1月・文藝春秋刊『戦場のレビヤタン』所収

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　砂川文次　28歳
選考委員		評価	行数	評言
高樹のぶ子	72歳	●	11	「現場のディテールがあるだけに、その中に在る死が観念的に空回りしている。観念ではない死を実感させるには、何か生の輝きが必要なのかも知れない。たとえば「ゲルニカ」の中の一輪の花。」
小川洋子	56歳	■	12	「最も印象的だったのは、恐怖のあまり鉄塔に魅入られた新入りが、戦車へ近づいてゆく場面だ。」「頭の中で出来事を組み立て直し、意味を見出そうとするのではなく、ただありのままを描写する、という緊張に耐えることが、言葉の威力を引き出すには必要だと思う。」
島田雅彦	57歳	●	13	「生の充実を求め、微温的な日本を脱するというかつてのバックパッカー、あるいは戦場カメラマンの苛立ちが反復されているような既視感を抱いてしまった。」
吉田修一	50歳	■	20	「この作者のデビュー作「市街戦」を文學界新人賞に推した一人なのだが、今作はいただけない。」「ある程度の体験や資料から一定のリアリティはあるものの、逆に（引用者注：デビュー作に比べて）小説的リアリティからは遠ざかってしまった。」
山田詠美	59歳	■	13	「石油精製施設周辺の埃っぽい感じがよく伝って来て上手い。でも、それは、小説の上手さとは別物のような気がする。ところどころに大仰な一文が見得を切るように表われる。」
奥泉光	62歳	■	12	「描かれる細部は、的確ではあるけれど、どこか既視感を免れず、展開される思弁は文学臭が強すぎて、リアルなものの手触りを削いでしまった感がある。」
宮本輝	71歳	△	11	「私は惹かれた。」「ただ読後の感想は、これまでの傭兵物と変わりがないというのが難で票は少なかった。」
川上弘美	60歳	■	13	「銃を持ち戦う、という営為の質感が、中途半端にしか表現されていないと感じたのですが、それはおそらく作者の「思い」が、少しばかり不用意に生の言葉で語られてしまったからなのではないでしょうか。」
堀江敏幸	55歳	■	10	「人はなにをしても悪魔を生み出すとの自省が、ときに訓辞のように響いて、冒頭に吹いていた、肌をかすめる乾いたあの風を減じていくのが惜しい。」
選評出典：『文藝春秋』平成31年/2019年3月号

第164回候補

「小隊(しょうたい)」（『文學界』令和2年/2020年9月号）

媒体・作品情報

誌名	「文學界」
巻号	第74巻第9号別表記9月号
印刷/発行年月日	発売令和2年/2020年8月7日　発行令和2年/2020年9月1日
発行者等	編集人丹羽健介　発行人大川繁樹　印刷人北島義斉　印刷所大日本印刷株式会社　ＤＴＰ制作株式会社ローヤル企画
発行所	株式会社文藝春秋（東京都）
総ページ数	344	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	27字 ×25行 ×2段
本文ページ	48～107 （計60頁）	測定枚数	191枚

書誌

令和3年/2021年2月・文藝春秋刊『小隊』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　砂川文次　30歳
選考委員		評価	行数	評言
川上弘美	62歳	◎	37	「今回の作品の中でわたしにとって一番無謀なことに挑もうとしているのは、砂川文次さんでした。」「作者は、ただ描写しているのです。突然の理不尽がふりかかった時、人はどのように苦しみ怒り耐え放心しそれでも生きつづけるかを示すために。「新型コロナ禍」という言葉は影も出てこないこの小説を読みながら、わたしは「今この時」について何回連想させられ何回考えさせられたことでしょう。一番に推そうと思い、選考の場に臨みました。」
奥泉光	64歳	○	36	「自分が一番注目し、また推したい作品だった。」「政治状況がどうあろうが、戦争の意味がなんだろうが、戦う義務があるから戦うのだと思い定め――というほどの決意もないまま、演習の延長のような形で凄惨な戦いに突入する職業的兵士の姿は、われわれの日常に対する高い批評性を放つ。だが、自分が本作を推しきれなかったのは、戦闘場面や兵士の心理の描出に驚きが少なかったせいだ。」
松浦寿輝	66歳	△	19	「小隊長の主人公は、上には中隊や大隊をいただき、下には分隊を抱えて、命令を受け、かつみずからの責任で命令を発しなければならない。その難しい位置どりから生じる逡巡や葛藤にも生彩豊かな表現が与えられている。」「軍事ジャーゴンの与える「デペイズマン効果」は作者の計算の内だろう。」
島田雅彦	59歳	■	14	「訓練経験に根ざしたリアリティは見事だが、状況を把握しきれていない主人公と語り手が同じ地平にいるので、読者も戦闘ゲームのプレイヤーと同じ立場に置かれてしまう。もし作者がゾンビ物を書いたら、出色の出来になるのではないかと思った。」
小川洋子	58歳	■	11	「最初から最後まで揺るぎのない緊張感が張り巡らされている『小隊』には圧倒された。しかし途中から、その緊張が一本調子に感じられ、情景をイメージするのが難しくなった。」
山田詠美	61歳	●	14	「軍事系マニアでない読み手には、とてもつらい。」「冒頭に登場するグラマーでエッチなお姉さんを、もっと活躍させて欲しかったです。」
平野啓一郎	45歳	■	10	「「戦争の日常化」は夙に語られてきたが、それを日ロ間に設定するシミュレーションに、独自の視点を認め難いのは残念だった。」
堀江敏幸	57歳	■	16	「コロナ禍における情報疎外の中での律し方と生き延びるための方法を示唆する作品だ。」「主人公の怒りといらだちは伝わる。しかし飛び交う言葉の砲弾は、よい意味で、散文ではない方向を向いている印象を受けた。」
吉田修一	52歳	△	19	「△をつけた。こんなに楽しそうに自分が好きな世界だけを書いている小説を久しぶりに読んだ。戦闘の描写など、登場人物たちが真面目であればあるほどニヤニヤしてしまい、いやいや、そんな読み方しちゃいけないと自分を諫めた。」
選評出典：『文藝春秋』令和3年/2021年3月号

第166回受賞

「ブラックボックス」（『群像』令和3年/2021年8月号）

媒体・作品情報

誌名	「群像」別表記「GUNZOU」併記
巻号	第76巻第8号
作品名別表記	本文「black box」併記
印刷/発行年月日	発行令和3年/2021年8月1日　印刷令和3年/2021年7月7日　発売令和3年/2021年7月7日
発行者等	編集人戸井武史　発行人西川太基　印刷人麿秀晴　印刷所凸版印刷株式会社（東京都）
発行所	株式会社講談社（東京都）
総ページ数	580	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	26字 ×24行 ×2段
本文ページ	248～327 （計80頁）	測定枚数	240枚

書誌

令和4年/2022年1月・講談社刊『ブラックボックス』

『文藝春秋』令和4年/2022年3月号

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　砂川文次　31歳
選考委員		評価	行数	評言
小川洋子	59歳	○	37	「ものを運ぶだけの日常も、恋人との関係も、刑務所での毎日も、隔てなく客観的に描写している。安っぽい感傷が入り込む余地はない。だからこそ、サクマを取り囲む壁の冷ややかさが、生々しく伝わってくる。」「今回、工夫を凝らし、策を練った候補作が目立った中で、最も真正面から文学にぶつかっていった作品が受賞となった。文学的な挑戦は、目新しさの中にあるとは限らない。」
島田雅彦	60歳	△	19	「この作品はメッセンジャーとしての日常を描く前半と刑務所で懲役刑に服す後半から構成される。両者の間には因果や必然性が欠落しているのだが、現在巷で流行る理不尽極まる突発的犯罪の背後に見え隠れするものを確実に捉えている。」
吉田修一	53歳	◎	36	「Uber Eatsの配達員を一昔前の新聞配達員に重ね合わせれば、中上健次の『十九歳の地図』の系譜と言えなくもなく、もちろん本家が持つ言語の暴力性には大きく及ばないながらも、ここには、新宿通り、外堀通り……、都心の大通りや路地裏に吐き捨てられ、踏みつけられて、乾いて、雨に流されていった都市の言葉たちが満ちている。」「ここには圧倒的な実感がある。もしもこの実感を古臭さと呼ぶのなら、私は胸を張ってこの古臭さを買いたいと思う。」
山田詠美	62歳	○	9	「「青春の殺人者」的要素を持った小説は、いつの時代でも生まれ続ける。なかなか来ない刑期満了の人生の息苦しさを描いたこの作品に最終的に○を付けた。」
奥泉光	65歳	△	10	「方法の冒険はなく、小説的企みも薄く、退屈さは否めなかったが、しかしそれでもなお、ここには何かしら「切実なもの」があると感じさせるだけの迫力があった。」
川上弘美	63歳	◎	53	「（引用者注：「我が友、スミス」と共に）○をつけました。」「わたしはとても胸苦しく読みました。」「胸苦しいのは、その文章の表現する意味が胸苦しいからではなく、たとえば若冲の絵を見ている時に胸苦しさを感じるのにも似た理由に因るものなのだと思うのです。過剰に細密なものを見たとき、わたしたちは讃嘆すると同時に、苦しくもなるのではないでしょうか。」
平野啓一郎	46歳	□	16	「著者のマニアックなまでに平板な詳述法が、ギグワーカーとしての主人公の人生を効果的に表現しており、しかもその日常が、服役後も奇妙に連続している点に注目した。」「スタイル自体は、些か手堅過ぎるが、本作の受賞に私も賛成した。」
松浦寿輝	67歳	△	39	「自転車事故も暴行事件も鮮やかな迫真感とともに描出され、意味する言葉と意味されるアクションが間然するところなく合致しつつ、滑らかな律動で回っていく。」「しかし、その滑らかさは自然主義リアリズムの古めかしさと裏おもてで、そこから現代のプロレタリア文学かという感想も浮かぶ。」「わたしは前作「小隊」の、軍事ジャーゴンをしこたま詰めこんだ文章が醸し出す強烈な「異化効果」のほうを高く買う。」
堀江敏幸	58歳	△	20	「焦り、怒り、説明不可能な心の暴発。それらを言葉で再生するのは、町の倉庫やオフィスのような中の見えない暗箱ではなく、刑務所内での閉居罰によって生まれた明るい空洞だ。それが従来作の混濁をなくす正の力になった。しかし、小さなねじ山の距離を揃えない前作の、負の力に満ちた行文も忘れがたい。」
選評出典：『文藝春秋』令和4年/2022年3月号

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