第102回

第101回第103回

平成1年/1989年下半期 平成2年/1990年1月16日決定発表／『文藝春秋』平成2年/1990年3月号選評掲載

選考委員　 古井由吉 52歳 大庭みな子 59歳 日野啓三 60歳 三浦哲郎 58歳 河野多恵子 63歳 田久保英夫 61歳 吉行淳之介 65歳 黒井千次 57歳 水上勉 70歳 選評総行数　 33 26 39 32 32 36 33 35   評 評 評 評 評 評 評 評 選評なし 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 瀧澤美恵子　「ネコババのいる町で」 104枚 50歳 評 ○ 6 ○ 7 ◎ 26 ◎ 11 △ 7 □ 10 ○ 10 □ 7     大岡玲　「表層生活」 171枚 31歳 評 ■ 12 ○ 11 ○ 13 ・ 2 ◎ 13 ○ 14 △ 19 □ 7     長竹裕子　「植物工場」 50枚 (31歳) 評 ― 0 △ 6 ― 0 △ 3 ■ 5 △ 2 ― 0 ■ 3     多田尋子　「白蛇の家」 115枚 57歳 評 ■ 2 △ 2 ― 0 ■ 6 ― 0 ― 0 ― 0 ● 2     中村隆資　「流離譚」 105枚 38歳 評 ― 0 △ 1 ― 0 ■ 3 ― 0 ― 0 ― 0 ■ 4     荻野アンナ　「ドアを閉めるな」 139枚 33歳 評 ■ 15 △ 1 ― 0 ■ 6 ◎ 8 ○ 13 ■ 4 ◎ 17     小川洋子　「ダイヴィングプール」 89枚 27歳 評 ― 0 △ 1 ― 0 ■ 4 ■ 4 △ 2 ― 0 ■ 2                     欠席 年齢/枚数の説明   見方・注意点

古井由吉52歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題雑感　総行数33　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 瀧澤美恵子 50歳 全 ○ 6 「小説として勘所がおのずと良く押さえられたことが、（引用者中略）まず選者たちに平均的な支持を受けた理由だと思われる。私にとっても苦楽のアヤは歯切れよく読めた。この手柄が一度ぎりのものか、作者の言葉の年輪によるものか、後者だと私は確信するが、よくは分からない。」 大岡玲 31歳 全 ■ 12 「（引用者注：「ネコババのいる町で」の他の）もう一席を（引用者中略・注「ドアを閉めるな」と）争うかたちになった。」「シミュレーションによりかくも単刀に現実突入を計る「専門家」というのは、人物の設定としてそもそも無理なのではないか。仕舞いにマザー・コンプレクスの臭いだけが濃く残った。」 長竹裕子 (31歳) 全 ― 0   多田尋子 57歳 全 ■ 2 「モティーフの微妙さを推しはかると、作品の結構を整えることに急き過ぎたように思われた。」 中村隆資 38歳 全 ― 0   荻野アンナ 33歳 全 ■ 15 「（引用者注：「ネコババのいる町で」の他の）もう一席を（引用者中略・注「表層生活」と）争うかたちになった。」「私にとって読んでいてひどくわびしい小説だった。」「実際に選者の多くが作品の才を認めた。私の読み取ったかぎりでは、この才の正体は、表現が小児退行の難所にかかるたびに、自身を外へ振りぎみに、それ自体少々稚く、何といってもやはり甲高く舵を切る、そのハンドルさばきにあるように思われる。」 小川洋子 27歳 全 ― 0

他の選考委員 大庭みな子 日野啓三 三浦哲郎 河野多恵子 田久保英夫 吉行淳之介 黒井千次

大庭みな子59歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題「ネコババのいる町」の「表層生活」　総行数26　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 瀧澤美恵子 50歳 全 ○ 7 「天性で書いている人のように思える。何らかの体験的なものの中で、言語の奥にあるものが大きくふくれて来て、この不可思議な味の作品になったものであろうか。」「（引用者注：「表層生活」と「ネコババのいる町で」の）二作と初めから思っていたような結果になったので、すっきりしている。」 大岡玲 31歳 全 ○ 11 「その力量は確かである。現代人が直面しないわけにはいかない人工頭脳に対する執着と挫折が作品化されている。」「（引用者注：「表層生活」と「ネコババのいる町で」の）二作と初めから思っていたような結果になったので、すっきりしている。」 長竹裕子 (31歳) 全 △ 6 「具象的な人のさまが詩的な形象に置き換えられている作品である。」「この人のものは今まで何作か読んだが、独特の静かにしみいる感性があり、あるとき、大きくゆらぎ出すものが期待される。」 多田尋子 57歳 全 △ 2 「多田さんの世界はすでに危げなく築かれていてなつかしい。」 中村隆資 38歳 全 △ 1 「突然変る用意のある人やもしれぬ。」 荻野アンナ 33歳 全 △ 1 「（引用者注：小川洋子と共に）才のある人たちだ。」 小川洋子 27歳 全 △ 1 「（引用者注：荻野アンナと共に）才のある人たちだ。」

他の選考委員 古井由吉 日野啓三 三浦哲郎 河野多恵子 田久保英夫 吉行淳之介 黒井千次

日野啓三60歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題異能と正統　総行数39　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 瀧澤美恵子 50歳 全 ◎ 26 「妙な味のあるふしぎな作品だ。」「私の勘によれば、この小説は作者の過去の体験そのものではない。」「多分この作品はすぐれた細部も含めて、あるときふっとその全体が宙に浮かび出して見えたにちがいない。無意識そのもの、洞察力と構成力を自然に生かすことのできるふしぎな才能のひとのように思われて、今後が楽しみである。」 大岡玲 31歳 全 ○ 13 「候補三度目で、本当に何が書きたいのか、私にはやっと見えてきた気がする。」「日常的現実のぎりぎりの果てに絶対的なものの感触を書こうとしているのだろう。」「「絶対の現実」を“聖なるもの”と言い替えても大きく誤りではあるまい。その意味でこの作者は一見新しい装いを凝らしているようで、本質はたいへん正統的な作家だと思う。」 長竹裕子 (31歳) 全 ― 0   多田尋子 57歳 全 ― 0   中村隆資 38歳 全 ― 0   荻野アンナ 33歳 全 ― 0   小川洋子 27歳 全 ― 0

他の選考委員 古井由吉 大庭みな子 三浦哲郎 河野多恵子 田久保英夫 吉行淳之介 黒井千次

三浦哲郎58歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題感想　総行数32　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 瀧澤美恵子 50歳 全 ◎ 11 「よかった。」「なによりも肩の力がすっかり抜けてのびのびと書けているところがいい。」「好ましい場面は随所にあるが、とりわけ、実の父親に会いにいくところがよかった。」「行間から、「サヨナラダケガ人生ダ」という、誰かの呟きがきこえてきて、それが読後の余韻になっている。小説というものはこうでなくてはいけない。私は躊躇なくこれを推した。」 大岡玲 31歳 全 ・ 2 「前回とおなじ理由（引用者注：すでに三島由紀夫賞の受賞者であること）で棄権した。」 長竹裕子 (31歳) 全 △ 3 「清潔で端正な文体に好感を持った。」 多田尋子 57歳 全 ■ 6 「今回も書かでものことが多すぎると思った。地味は結構だが、だからこそ作品の拵えに読む人を惹きつける工夫が必要なのである。」 中村隆資 38歳 全 ■ 3 「舌を巻くような達者な作品で面白く読んだが、この面白さは残念ながらこの賞の分野からはみ出している。」 荻野アンナ 33歳 全 ■ 6 「懸河の才筆だが、作者の関心の多彩さが却って作品全体の印象をいささか散漫なものにしているのが惜しまれる。」 小川洋子 27歳 全 ■ 4 「思春期の少女の矛盾に満ちた心理を丹念に描いて悪くなかったが、後半、作りすぎが目立って、不自然な結末になっている。」

他の選考委員 古井由吉 大庭みな子 日野啓三 河野多恵子 田久保英夫 吉行淳之介 黒井千次

河野多恵子63歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題大岡氏と荻野氏　総行数32　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 瀧澤美恵子 50歳 全 △ 7 「女の一生もの、人生派ものになりかねない素材を扱いながら、一向にそうならず、人生と人間のおもしろさを描き出したことは一応評価する。しかし、そのおもしろさが、この作品を超えて読者に働きかけるまでには到っていない。」 大岡玲 31歳 全 ◎ 13 「私は（引用者中略）推した。」「又しても導入部の拙さや無意味な補強の部分があるなど欠点はある。しかし、作者が前人未踏の分野に挑んでいることは確かである。」「大岡氏の登場には、文学的にも社会的にも、一九八〇年代に対する鮮やかな反措定の観がある。」 長竹裕子 (31歳) 全 ■ 5 「作中の先端技術による植物が、虚構を混えてあろうとなかろうと見事に描かれ、人物の表現もそうであればと惜しまれた。」 多田尋子 57歳 全 ― 0   中村隆資 38歳 全 ― 0   荻野アンナ 33歳 全 ◎ 8 「私は（引用者中略）推した。」「前回の時から一段と成長している。」「留学時代が、未来を含む主人公の人生の紛れもない一時期として伝わってくる。過去が現在にあり、確かに未来へ転じてゆきそうな手応えと光りが全編に満ちており、標題の〈ドアを開（原文ママ）めるな〉も絶妙！」 小川洋子 27歳 全 ■ 4 「エキセントリックな部分の扱いが破綻している。」   「今回の候補作の水準は非常に高かった。」

他の選考委員 古井由吉 大庭みな子 日野啓三 三浦哲郎 田久保英夫 吉行淳之介 黒井千次

田久保英夫61歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題質が揃う　総行数36　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 瀧澤美恵子 50歳 全 □ 10 「軽やかで抑えた筆が血縁や人間のかかわりの陰影を捉えている。もう一歩内へ踏みこめば、その造型が毀れかねない手前で、支えているのが巧い。またこの自然な巧さが、今後の不安でもある。」 大岡玲 31歳 全 ○ 14 「私は（引用者中略）結局大岡氏と荻野さんの作品に絞った。」「コンピューターやサブリミナルテープを通して、徹底した知能犯的な意識で、裏側から人間支配を企む男を、その観察者・同伴者の友人の眼で追っている。」「これは現代生活に潜む切実な主題でもあって、それに執拗にとりくむ力業に、私は注目した。」 長竹裕子 (31歳) 全 △ 2 「とくに（引用者中略）期待したい。」 多田尋子 57歳 全 ― 0   中村隆資 38歳 全 ― 0   荻野アンナ 33歳 全 ○ 13 「私は（引用者中略）結局大岡氏と荻野さんの作品に絞った。」「かなりの才筆だが、何よりこの作品の魅力は、フランス人の男と旅行する情景のような女性らしい濃い感覚と、果敢な言葉の駆動力だろう。」 小川洋子 27歳 全 △ 2 「とくに（引用者中略）期待したい。」   「今回の候補作は、全体に質が揃っていた。」

他の選考委員 古井由吉 大庭みな子 日野啓三 三浦哲郎 河野多恵子 吉行淳之介 黒井千次

吉行淳之介65歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題受賞の二作　総行数33　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 瀧澤美恵子 50歳 全 ○ 10 「稀薄なかんじがつづいているうちに、頭の中に文章も中身もしだいに積みかさなって、濃くなってきた。」「劇的なはなしを無造作のように書いてあるところもあったりして、それぞれユニークに適切に処理されている。これは、半ば無意識の計算だろうとおもう。」「この作品は資質がよく生かされて、感心した。」 大岡玲 31歳 全 △ 19 「作者の想像力が旺盛すぎてディテールが氾濫し、単純なはずのテーマが混乱しかかる。」「（引用者注：主人公の）次のステップへの移行の具合を、文中に散見する「女性への恐怖」や「女性を支配しているつもりが支配されている」というようなことを頭に入れて見てゆくと、作品全体がほぐれてきた。」「いずれにせよ、若々しく力に溢れたこの作家の受賞を喜びたい。」 長竹裕子 (31歳) 全 ― 0   多田尋子 57歳 全 ― 0   中村隆資 38歳 全 ― 0   荻野アンナ 33歳 全 ■ 4 「文章の彫りが深く、そして才筆である。才気十分で、ときには、それがこちらに窮屈な気分を起させる。」 小川洋子 27歳 全 ― 0

他の選考委員 古井由吉 大庭みな子 日野啓三 三浦哲郎 河野多恵子 田久保英夫 黒井千次

黒井千次57歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題僅差の印象　総行数35　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 瀧澤美恵子 50歳 全 □ 7 「穏やかな筆致が人間の温もりと小説の面白さを浮かび上らせる作品だった。眼の前にあるものを自然に受け入れる成熟した視線に好感を覚える。」「三作（引用者注：「ドアを閉めるな」「ネコババのいる町で」「表層生活」）は僅差で並び、どれが受賞してもおかしくはなかったと思う。」 大岡玲 31歳 全 □ 7 「作者が一貫して現代そのものに取り組もうとする姿勢を支持したい。“計算機”と呼ばれる人物が必ずしも十全には理解出来なかった面もあるけれど、この主題にこだわり、更に危険な賭けを続行するよう願っている。」「三作（引用者注：「ドアを閉めるな」「ネコババのいる町で」「表層生活」）は僅差で並び、どれが受賞してもおかしくはなかったと思う。」 長竹裕子 (31歳) 全 ■ 3 「奇妙な植物に比して人間の影が薄く、意図が展開しきれていない。」 多田尋子 57歳 全 ● 2 「あまりに静かで平板に過ぎた。」 中村隆資 38歳 全 ■ 4 「話の面白さは抜群だが、この才能が果して芥川賞に適したものであるか否か、一作では判断がつけられなかった。」 荻野アンナ 33歳 全 ◎ 17 「注目した。」「速度のある知的文体は力強く（時にはやや空転もするが）、去り行く若き日々ともう若くはない現在の日常とに立つ主人公のコントラストが鮮やかである。終始この作品を推したが、残った三編を二編に絞りこむ段階で多数の支持を得られず、残念だった。」「三作（引用者注：「ドアを閉めるな」「ネコババのいる町で」「表層生活」）は僅差で並び、どれが受賞してもおかしくはなかったと思う。」 小川洋子 27歳 全 ■ 2 「特異な家庭環境に興味がある。もっとそこに集中出来なかったか。」   「全般にレベルの高かった」

他の選考委員 古井由吉 大庭みな子 日野啓三 三浦哲郎 河野多恵子 田久保英夫 吉行淳之介

瀧澤美恵子50歳×各選考委員　 「ネコババのいる町で」 短篇 104枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 古井由吉 52歳 全 ○ 6 「小説として勘所がおのずと良く押さえられたことが、（引用者中略）まず選者たちに平均的な支持を受けた理由だと思われる。私にとっても苦楽のアヤは歯切れよく読めた。この手柄が一度ぎりのものか、作者の言葉の年輪によるものか、後者だと私は確信するが、よくは分からない。」 大庭みな子 59歳 全 ○ 7 「天性で書いている人のように思える。何らかの体験的なものの中で、言語の奥にあるものが大きくふくれて来て、この不可思議な味の作品になったものであろうか。」「（引用者注：「表層生活」と「ネコババのいる町で」の）二作と初めから思っていたような結果になったので、すっきりしている。」 日野啓三 60歳 全 ◎ 26 「妙な味のあるふしぎな作品だ。」「私の勘によれば、この小説は作者の過去の体験そのものではない。」「多分この作品はすぐれた細部も含めて、あるときふっとその全体が宙に浮かび出して見えたにちがいない。無意識そのもの、洞察力と構成力を自然に生かすことのできるふしぎな才能のひとのように思われて、今後が楽しみである。」 三浦哲郎 58歳 全 ◎ 11 「よかった。」「なによりも肩の力がすっかり抜けてのびのびと書けているところがいい。」「好ましい場面は随所にあるが、とりわけ、実の父親に会いにいくところがよかった。」「行間から、「サヨナラダケガ人生ダ」という、誰かの呟きがきこえてきて、それが読後の余韻になっている。小説というものはこうでなくてはいけない。私は躊躇なくこれを推した。」 河野多恵子 63歳 全 △ 7 「女の一生もの、人生派ものになりかねない素材を扱いながら、一向にそうならず、人生と人間のおもしろさを描き出したことは一応評価する。しかし、そのおもしろさが、この作品を超えて読者に働きかけるまでには到っていない。」 田久保英夫 61歳 全 □ 10 「軽やかで抑えた筆が血縁や人間のかかわりの陰影を捉えている。もう一歩内へ踏みこめば、その造型が毀れかねない手前で、支えているのが巧い。またこの自然な巧さが、今後の不安でもある。」 吉行淳之介 65歳 全 ○ 10 「稀薄なかんじがつづいているうちに、頭の中に文章も中身もしだいに積みかさなって、濃くなってきた。」「劇的なはなしを無造作のように書いてあるところもあったりして、それぞれユニークに適切に処理されている。これは、半ば無意識の計算だろうとおもう。」「この作品は資質がよく生かされて、感心した。」 黒井千次 57歳 全 □ 7 「穏やかな筆致が人間の温もりと小説の面白さを浮かび上らせる作品だった。眼の前にあるものを自然に受け入れる成熟した視線に好感を覚える。」「三作（引用者注：「ドアを閉めるな」「ネコババのいる町で」「表層生活」）は僅差で並び、どれが受賞してもおかしくはなかったと思う。」

他の候補作 大岡玲 「表層生活」 長竹裕子 「植物工場」 多田尋子 「白蛇の家」 中村隆資 「流離譚」 荻野アンナ 「ドアを閉めるな」 小川洋子 「ダイヴィングプール」

大岡玲31歳×各選考委員　 「表層生活」 中篇 171枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 古井由吉 52歳 全 ■ 12 「（引用者注：「ネコババのいる町で」の他の）もう一席を（引用者中略・注「ドアを閉めるな」と）争うかたちになった。」「シミュレーションによりかくも単刀に現実突入を計る「専門家」というのは、人物の設定としてそもそも無理なのではないか。仕舞いにマザー・コンプレクスの臭いだけが濃く残った。」 大庭みな子 59歳 全 ○ 11 「その力量は確かである。現代人が直面しないわけにはいかない人工頭脳に対する執着と挫折が作品化されている。」「（引用者注：「表層生活」と「ネコババのいる町で」の）二作と初めから思っていたような結果になったので、すっきりしている。」 日野啓三 60歳 全 ○ 13 「候補三度目で、本当に何が書きたいのか、私にはやっと見えてきた気がする。」「日常的現実のぎりぎりの果てに絶対的なものの感触を書こうとしているのだろう。」「「絶対の現実」を“聖なるもの”と言い替えても大きく誤りではあるまい。その意味でこの作者は一見新しい装いを凝らしているようで、本質はたいへん正統的な作家だと思う。」 三浦哲郎 58歳 全 ・ 2 「前回とおなじ理由（引用者注：すでに三島由紀夫賞の受賞者であること）で棄権した。」 河野多恵子 63歳 全 ◎ 13 「私は（引用者中略）推した。」「又しても導入部の拙さや無意味な補強の部分があるなど欠点はある。しかし、作者が前人未踏の分野に挑んでいることは確かである。」「大岡氏の登場には、文学的にも社会的にも、一九八〇年代に対する鮮やかな反措定の観がある。」 田久保英夫 61歳 全 ○ 14 「私は（引用者中略）結局大岡氏と荻野さんの作品に絞った。」「コンピューターやサブリミナルテープを通して、徹底した知能犯的な意識で、裏側から人間支配を企む男を、その観察者・同伴者の友人の眼で追っている。」「これは現代生活に潜む切実な主題でもあって、それに執拗にとりくむ力業に、私は注目した。」 吉行淳之介 65歳 全 △ 19 「作者の想像力が旺盛すぎてディテールが氾濫し、単純なはずのテーマが混乱しかかる。」「（引用者注：主人公の）次のステップへの移行の具合を、文中に散見する「女性への恐怖」や「女性を支配しているつもりが支配されている」というようなことを頭に入れて見てゆくと、作品全体がほぐれてきた。」「いずれにせよ、若々しく力に溢れたこの作家の受賞を喜びたい。」 黒井千次 57歳 全 □ 7 「作者が一貫して現代そのものに取り組もうとする姿勢を支持したい。“計算機”と呼ばれる人物が必ずしも十全には理解出来なかった面もあるけれど、この主題にこだわり、更に危険な賭けを続行するよう願っている。」「三作（引用者注：「ドアを閉めるな」「ネコババのいる町で」「表層生活」）は僅差で並び、どれが受賞してもおかしくはなかったと思う。」

他の候補作 瀧澤美恵子 「ネコババのいる町で」 長竹裕子 「植物工場」 多田尋子 「白蛇の家」 中村隆資 「流離譚」 荻野アンナ 「ドアを閉めるな」 小川洋子 「ダイヴィングプール」

長竹裕子(31歳)×各選考委員　 「植物工場」 短篇 50枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 古井由吉 52歳 全 ― 0   大庭みな子 59歳 全 △ 6 「具象的な人のさまが詩的な形象に置き換えられている作品である。」「この人のものは今まで何作か読んだが、独特の静かにしみいる感性があり、あるとき、大きくゆらぎ出すものが期待される。」 日野啓三 60歳 全 ― 0   三浦哲郎 58歳 全 △ 3 「清潔で端正な文体に好感を持った。」 河野多恵子 63歳 全 ■ 5 「作中の先端技術による植物が、虚構を混えてあろうとなかろうと見事に描かれ、人物の表現もそうであればと惜しまれた。」 田久保英夫 61歳 全 △ 2 「とくに（引用者中略）期待したい。」 吉行淳之介 65歳 全 ― 0   黒井千次 57歳 全 ■ 3 「奇妙な植物に比して人間の影が薄く、意図が展開しきれていない。」	他の候補作 瀧澤美恵子 「ネコババのいる町で」 大岡玲 「表層生活」 多田尋子 「白蛇の家」 中村隆資 「流離譚」 荻野アンナ 「ドアを閉めるな」 小川洋子 「ダイヴィングプール」

多田尋子57歳×各選考委員　 「白蛇の家」 短篇 115枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 古井由吉 52歳 全 ■ 2 「モティーフの微妙さを推しはかると、作品の結構を整えることに急き過ぎたように思われた。」 大庭みな子 59歳 全 △ 2 「多田さんの世界はすでに危げなく築かれていてなつかしい。」 日野啓三 60歳 全 ― 0   三浦哲郎 58歳 全 ■ 6 「今回も書かでものことが多すぎると思った。地味は結構だが、だからこそ作品の拵えに読む人を惹きつける工夫が必要なのである。」 河野多恵子 63歳 全 ― 0   田久保英夫 61歳 全 ― 0   吉行淳之介 65歳 全 ― 0   黒井千次 57歳 全 ● 2 「あまりに静かで平板に過ぎた。」	他の候補作 瀧澤美恵子 「ネコババのいる町で」 大岡玲 「表層生活」 長竹裕子 「植物工場」 中村隆資 「流離譚」 荻野アンナ 「ドアを閉めるな」 小川洋子 「ダイヴィングプール」

中村隆資38歳×各選考委員　 「流離譚」 短篇 105枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 古井由吉 52歳 全 ― 0   大庭みな子 59歳 全 △ 1 「突然変る用意のある人やもしれぬ。」 日野啓三 60歳 全 ― 0   三浦哲郎 58歳 全 ■ 3 「舌を巻くような達者な作品で面白く読んだが、この面白さは残念ながらこの賞の分野からはみ出している。」 河野多恵子 63歳 全 ― 0   田久保英夫 61歳 全 ― 0   吉行淳之介 65歳 全 ― 0   黒井千次 57歳 全 ■ 4 「話の面白さは抜群だが、この才能が果して芥川賞に適したものであるか否か、一作では判断がつけられなかった。」	他の候補作 瀧澤美恵子 「ネコババのいる町で」 大岡玲 「表層生活」 長竹裕子 「植物工場」 多田尋子 「白蛇の家」 荻野アンナ 「ドアを閉めるな」 小川洋子 「ダイヴィングプール」

荻野アンナ33歳×各選考委員　 「ドアを閉めるな」 短篇 139枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 古井由吉 52歳 全 ■ 15 「（引用者注：「ネコババのいる町で」の他の）もう一席を（引用者中略・注「表層生活」と）争うかたちになった。」「私にとって読んでいてひどくわびしい小説だった。」「実際に選者の多くが作品の才を認めた。私の読み取ったかぎりでは、この才の正体は、表現が小児退行の難所にかかるたびに、自身を外へ振りぎみに、それ自体少々稚く、何といってもやはり甲高く舵を切る、そのハンドルさばきにあるように思われる。」 大庭みな子 59歳 全 △ 1 「（引用者注：小川洋子と共に）才のある人たちだ。」 日野啓三 60歳 全 ― 0   三浦哲郎 58歳 全 ■ 6 「懸河の才筆だが、作者の関心の多彩さが却って作品全体の印象をいささか散漫なものにしているのが惜しまれる。」 河野多恵子 63歳 全 ◎ 8 「私は（引用者中略）推した。」「前回の時から一段と成長している。」「留学時代が、未来を含む主人公の人生の紛れもない一時期として伝わってくる。過去が現在にあり、確かに未来へ転じてゆきそうな手応えと光りが全編に満ちており、標題の〈ドアを開（原文ママ）めるな〉も絶妙！」 田久保英夫 61歳 全 ○ 13 「私は（引用者中略）結局大岡氏と荻野さんの作品に絞った。」「かなりの才筆だが、何よりこの作品の魅力は、フランス人の男と旅行する情景のような女性らしい濃い感覚と、果敢な言葉の駆動力だろう。」 吉行淳之介 65歳 全 ■ 4 「文章の彫りが深く、そして才筆である。才気十分で、ときには、それがこちらに窮屈な気分を起させる。」 黒井千次 57歳 全 ◎ 17 「注目した。」「速度のある知的文体は力強く（時にはやや空転もするが）、去り行く若き日々ともう若くはない現在の日常とに立つ主人公のコントラストが鮮やかである。終始この作品を推したが、残った三編を二編に絞りこむ段階で多数の支持を得られず、残念だった。」「三作（引用者注：「ドアを閉めるな」「ネコババのいる町で」「表層生活」）は僅差で並び、どれが受賞してもおかしくはなかったと思う。」

他の候補作 瀧澤美恵子 「ネコババのいる町で」 大岡玲 「表層生活」 長竹裕子 「植物工場」 多田尋子 「白蛇の家」 中村隆資 「流離譚」 小川洋子 「ダイヴィングプール」

小川洋子27歳×各選考委員　 「ダイヴィングプール」 短篇 89枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 古井由吉 52歳 全 ― 0   大庭みな子 59歳 全 △ 1 「（引用者注：荻野アンナと共に）才のある人たちだ。」 日野啓三 60歳 全 ― 0   三浦哲郎 58歳 全 ■ 4 「思春期の少女の矛盾に満ちた心理を丹念に描いて悪くなかったが、後半、作りすぎが目立って、不自然な結末になっている。」 河野多恵子 63歳 全 ■ 4 「エキセントリックな部分の扱いが破綻している。」 田久保英夫 61歳 全 △ 2 「とくに（引用者中略）期待したい。」 吉行淳之介 65歳 全 ― 0   黒井千次 57歳 全 ■ 2 「特異な家庭環境に興味がある。もっとそこに集中出来なかったか。」	他の候補作 瀧澤美恵子 「ネコババのいる町で」 大岡玲 「表層生活」 長竹裕子 「植物工場」 多田尋子 「白蛇の家」 中村隆資 「流離譚」 荻野アンナ 「ドアを閉めるな」