第30回

第29回第31回

昭和28年/1953年下半期 昭和29年/1954年1月22日決定発表／『文藝春秋』昭和29年/1954年3月号選評掲載

選考委員　 瀧井孝作 59歳 石川達三 48歳 丹羽文雄 49歳 佐藤春夫 61歳 宇野浩二 62歳 川端康成 54歳 岸田國士 63歳 舟橋聖一 49歳 坂口安吾 47歳 選評総行数　 50 34 25 44 54 41 28 31 8 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 庄野潤三　「流木」等 90枚 32歳 評 ○ 9 ■ 2 △ 6 ◎ 36 ■ 16 ■ 4 △ 9 □ 5 ■ 3 小島信夫　「吃音学院」 67枚 38歳 評 ■ 14 ■ 7 ■ 8 □ 21 △ 15 △ 4 △ 9 ― 0 ◎ 2 竹田敏行　「スピノザの石」 55枚 40歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ● 6 △ 3 ― 0 ― 0 ― 0 小山清　「をぢさんの話」 58枚 42歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ● 5 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 塙英夫　「すべて世はこともなし」 59枚 41歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ● 5 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 金達寿　「玄海灘」 720枚 34歳 評 △ 7 ― 0 ― 0 △ 2 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 広池秋子　「オンリー達」 54枚 34歳 評 ○ 14 ● 11 ◎ 11 □ 21 ■ 8 ■ 8 ■ 11 △ 3 ■ 3 森田雄蔵　「はがゆい男」 101枚 43歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ● 8 △ 3 ― 0 ― 0 ― 0 木野工　「粧われた心」 32枚 33歳 評 ― 0 △ 6 ― 0 ― 0 ● 4 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 富島健夫　「喪家の狗」 31枚 22歳 評 ― 0 ● 5 ― 0 ― 0 ● 3 △ 2 ― 0 ― 0 ― 0                   年齢/枚数の説明   見方・注意点

瀧井孝作59歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題三人三様　総行数50　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 庄野潤三 32歳 全 ○ 9 「失恋した青年がしまいに、睡り薬をのんで入水自殺して、流木のように岸に打上げられて、助かってけろっとした所もよい。」「前に『恋文』というのも佳かったが、この『流木』は、また充実味が出てきた。」「ともかくこの人は、文章がきれいでうまい。」 小島信夫 38歳 全 ■ 14 「諷刺小説か諧謔小説か、変ったもので。文体は横光利一の『機械』に似たところもあったが、『機械』よりも人間は描けているように見えた。しかし、人物がお化けのようで、面白い小説だが、お化けのような所は物足りなかった。」「とにかくこの人は、諧謔の面白いものを持っていると思った。」 竹田敏行 40歳 全 ― 0   小山清 42歳 全 ― 0   塙英夫 41歳 全 ― 0   金達寿 34歳 全 △ 7 「一番読みごたえがあった。これは朝鮮民族の抵抗精神、被征服民族の悲哀がテーマで、今の日本の有様にも暗示されるところがあり、立派な今日の小説だと思った。これは長編で筑摩書房から本になって出て、多く読まれて認められているようで、それで更に芥川賞にも及ぶまいと思った。」 広池秋子 34歳 全 ○ 14 「佳かった。」「ピチピチした生きのいい筆で光彩があった。」「作者が、オンリーの女性仲間に、あたたかい愛情があり、描写の一行一行も、たのしんで描いているようで、好かった。」「この作者は、下積みのみじめな女達をよく知っているようで、この方で特色もあり、尚、筆が伸びれば、林芙美子の跡継になるのではないか、と思ったりした。」 森田雄蔵 43歳 全 ― 0   木野工 33歳 全 ― 0   富島健夫 22歳 全 ― 0     「今回は、この三人（引用者注：広池秋子、庄野潤三、小島信夫）が問題になって、三人三様で、それぞれ捨てられず、委員が一致して一人を推すことも出来ないようで、（引用者中略）一遍に幾人もは工合がわるい気がして、今回は休み当選者なしと云うことで、三人とも見送ることになった。」

他の選考委員 石川達三 丹羽文雄 佐藤春夫 宇野浩二 川端康成 岸田國士 舟橋聖一 坂口安吾

石川達三48歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題私の見解　総行数34　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 庄野潤三 32歳 全 ■ 2 「好意のもてる素直な作品であるが、未熟さは否定し難い。主人公に同情しすぎているのではないかと思う。」 小島信夫 38歳 全 ■ 7 「この小説は先を急ぎ過ぎたような印象を受ける。もう少し長く、十分に書く必要があったようだ。この作者は技巧の多い人のように思うが、その得意とする技巧について、再考の余地がある。」 竹田敏行 40歳 全 ― 0   小山清 42歳 全 ― 0   塙英夫 41歳 全 ― 0   金達寿 34歳 全 ― 0   広池秋子 34歳 全 ● 11 「推す人もあったが、私は採れなかった。特異な題材は、その題材の力だけでも或る程度は読ませるが、一面から云うと、特異な題材であるだけに読者が納得し難いということもある。」「品が悪いという評があった。醜悪なものを描いて醜悪のままで終っているから、そういう評が出てくる」 森田雄蔵 43歳 全 ― 0   木野工 33歳 全 △ 6 「ほとんど問題にされなかったが、私はなかなか力のある作家だという気がしている。題材はいかにも古めかしく、作者の立場もその古さからあまり出てはいないが、主人公の女の捕え方、その描写力は間違っていない。」 富島健夫 22歳 全 ● 5 「最後の方にもそれ（引用者注：醜悪なものを描いて醜悪のままで終っている）と似たようなものがある。醜悪な題材を扱う場合に心しなければならないことだ。」   「今回ははじめから、当選作なしと私は思っていた。従って、どの一つをも推薦することができなかった。委員の諸氏にもそういう考えが強かったように思う。」

他の選考委員 瀧井孝作 丹羽文雄 佐藤春夫 宇野浩二 川端康成 岸田國士 舟橋聖一 坂口安吾

丹羽文雄49歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題読後感　総行数25　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 庄野潤三 32歳 全 △ 6 「身ぎれいな感じのする小説だが、男のあつかい方が甘かった。そのかわり相手の女性はたくみにとらえられていた。へたをすると中間小説にはしる危険があるという評もあったが、このひとのシンは強いのではないか。」「もう立派な作家である。」 小島信夫 38歳 全 ■ 8 「哀しさが感じられないのが致命傷であった。」「もっと厳粛な感じがあってもよいものだ。達者な作家だ。最後の二三行で私は哀しさを感じたが、ああいう風な面白さに書かれるのでなく、切実感がほしかった。」「もう立派な作家である。」 竹田敏行 40歳 全 ― 0   小山清 42歳 全 ― 0   塙英夫 41歳 全 ― 0   金達寿 34歳 全 ― 0   広池秋子 34歳 全 ◎ 11 「私は（引用者中略）推したが、小粒なのが気になった。」「女の哀しさや、いく人かの女をあざやかに書き分けている。」「長篇にするべき題材であった。これだけでは惜しいのだ。異常な題材によりかかっているという評もあったが、別の解釈もあるわけだ。戦後今日までああした女を書いた小説は、箒ではくほどある。しかしいまだかつて「オンリー達」ほどにスッキリと書かれたことはなかった。この小説を三人の委員が推した。」 森田雄蔵 43歳 全 ― 0   木野工 33歳 全 ― 0   富島健夫 22歳 全 ― 0     「今度はもしかしたら当選作がないのではないかという気が、候補作品を全部よんだときに感じた。案の定そうなった。」

他の選考委員 瀧井孝作 石川達三 佐藤春夫 宇野浩二 川端康成 岸田國士 舟橋聖一 坂口安吾

佐藤春夫61歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題自分は「流木」を好む　総行数44　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 庄野潤三 32歳 全 ◎ 36 「好みから云って自分は、庄野潤三のエッチングのような手法で描き出された明朗闊達な「流木」を好しとした。あまりに単純にすぎるかのようであるが、そこが作者のねらいなのであろう。」「特にあのなかの若いヘロインがいかにも現代の女性らしいのを好しと思う。尤もその反対に男の性格が少々ぼんやりしているのをこの作の欠点と思う。」 小島信夫 38歳 全 □ 21 「二篇（引用者注：「吃音学院」「オンリー達」）の長所を認めるに吝ではないが、また多少の不満もないではない。」「この際それぞれ自己の長短所を自覚して、奮起一番することを自分は期待するものである。」 竹田敏行 40歳 全 ― 0   小山清 42歳 全 ― 0   塙英夫 41歳 全 ― 0   金達寿 34歳 全 △ 2 「立派な作品であったが、長篇の既刊単行本というので芥川賞の対象ではなく自然失格となるとすれば、」 広池秋子 34歳 全 □ 21 「二篇（引用者注：「吃音学院」「オンリー達」）の長所を認めるに吝ではないが、また多少の不満もないではない。」「この際それぞれ自己の長短所を自覚して、奮起一番することを自分は期待するものである。」 森田雄蔵 43歳 全 ― 0   木野工 33歳 全 ― 0   富島健夫 22歳 全 ― 0     「三氏（引用者注：庄野潤三、小島信夫、広池秋子）の三篇のなかから優劣を決して唯一篇を採るのは難儀であった。（引用者中略）どの一篇を採ってみても従来の芥川賞作品の水準には達しているものと自分は思う。」

他の選考委員 瀧井孝作 石川達三 丹羽文雄 宇野浩二 川端康成 岸田國士 舟橋聖一 坂口安吾

宇野浩二62歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題銓衡苦難　総行数54　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 庄野潤三 32歳 全 ■ 16 「平凡な作品である、その上、女主人が書けていないのが欠点であるように、男主人公の愛慕も型どおりであるのが大欠点である。」「終りの行動など、わざと酷評すると、滑稽にさえ思われる。しかし、この作者が、平明な文章で平凡な小説を根気よく書きつづけてゆけば、この作者は、大根役者が名優になるように、すぐれた作家になるであろう、いや、なるにちがいない。」 小島信夫 38歳 全 △ 15 「今度の候補作品が一般に低調であった中では、（「中では、」である、）私には、まず、面白かった。」「これだけの面白い話が作れるのであるから、もっと手際よく書いてほしかった。大体この作者は、どの作品を読んでもそうであるが、わかりよく平明に書けば、小説が面白くなると思って、こういうわかりにくい書き方をするのであろうか。」 竹田敏行 40歳 全 ● 6 「三人の物ありげな人物を出して、いかにも物ありげに書いているが、結局、三人とも「株」に心を取られていた、というだけの物で、肝心の主人公の気もちは殆んど全くわからない、ナンセンスというべきか。」 小山清 42歳 全 ● 5 「又また、新聞屋の話であり、それだけに手に入ったものであるが、幾多の「新聞屋」物の中で、一番まずいのは、どういう訳か。ここらで「新聞屋」物と手を切られてはどうですか。」 塙英夫 41歳 全 ● 5 「これが『背教徒』の作者か、と、あきれる程の物で、作り話としても、下手である。」 金達寿 34歳 全 ― 0   広池秋子 34歳 全 ■ 8 「題材が変っているのが面白く、いろいろな女達もちょいと面白く書かれてはいるが、ごたごたしているのが欠点であり、私には、肝心のママさんが殆んど書かれていないのが、気に入らない。未だし（つまり、未熟）というところであろう。」 森田雄蔵 43歳 全 ● 8 「無邪気なところが取り得であるが、唯それだけの物で、シャレでなくはがゆい小説である。」 木野工 33歳 全 ● 4 「芸者の社会を書くのもよいが、全体が古めかしく、取り得なし。」 富島健夫 22歳 全 ● 3 「もっと勉強しなさい。」   「初めに云う、苦難をするのは銓衡委員であり、苦難をさせるのは候補作品である、と。」

他の選考委員 瀧井孝作 石川達三 丹羽文雄 佐藤春夫 川端康成 岸田國士 舟橋聖一 坂口安吾

川端康成54歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題該当作なし　総行数41　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 庄野潤三 32歳 全 ■ 4 「欠点が少く、流麗に感じられ、女子学生はおもしろいが、主人公の男の自省に不足があって、疑問を残し、作品の強くひびいて来ないうらみがないだろうか。」 小島信夫 38歳 全 △ 4 「最後に残された三篇（「流木」「吃音学院」「オンリー達」）では、（引用者中略）好意を持った。書く態度がよく、（引用者中略）今期の候補作中では、なにか新味があるように思えた。」 竹田敏行 40歳 全 △ 3 「今期の候補作中では、なにか新味があるように思えた。」 小山清 42歳 全 ― 0   塙英夫 41歳 全 ― 0   金達寿 34歳 全 ― 0   広池秋子 34歳 全 ■ 8 「戦後のこういう女を書いた作品としては、最も具体的に鮮明で注目される。しかし私には、題材のせいではなく、なにか少し品がよくないように思えた。一人一人の女たちの組み合わせ、出し入れもあざやかだが、なお工夫の余地は多く、これだけの材料でこれだけの作品は、勿体ないだろう。長いものに改作するとよい。 森田雄蔵 43歳 全 △ 3 「おだやかな作品である。事実が充満しているから、これも長いものに改作出来る。」 木野工 33歳 全 ― 0   富島健夫 22歳 全 △ 2 「作者が非常に年少なので、今後が期待される。」   「今期、私は徹頭徹尾、該当作品なしという意見であった。私としては異例である。」「従来三十回にわたる審査会に、私が該当作品なしと主張したのは、初めてのことかと思う。」「新人らしい清新の作風が感じられぬ」

他の選考委員 瀧井孝作 石川達三 丹羽文雄 佐藤春夫 宇野浩二 岸田國士 舟橋聖一 坂口安吾

岸田國士63歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題もうひと息　総行数28　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 庄野潤三 32歳 全 △ 9 「最も推賞に値すると思った」「私のみるところその力量はゆうに芥川賞受賞の水準に達している。しかし、この流木一篇を特にこの有望作家の秀作と認めるわけにはゆかぬ。」「じっくりとすぐれた素材に挑み、もっと重量感のある傑作を早くみせてほしい。」 小島信夫 38歳 全 △ 9 「最も推賞に値すると思った」「なかなかしっかりした佳い作品である。私はこういうバランスのよくとれた才能を日本文学の将来のために、大切にしたく思う。」「ただ、この一作だけではまだすこし、先々の保証がつけにくい。」 竹田敏行 40歳 全 ― 0   小山清 42歳 全 ― 0   塙英夫 41歳 全 ― 0   金達寿 34歳 全 ― 0   広池秋子 34歳 全 ■ 11 「支持する声が二三あったけれども、私は賛成しかねた。」「なんのために、この作者は、こういう女たちの生活をこんなに好奇心をふくらませて書くのかがわかりかねた。」「こういうものしか書けぬようでは困る、と、ちょっと気になった。」 森田雄蔵 43歳 全 ― 0   木野工 33歳 全 ― 0   富島健夫 22歳 全 ― 0     「三作（「流木」「吃音学院」「オンリー達」）を、最後まで残すことには同意したが、いずれか一つを受賞作品とすることには躊躇した。」

他の選考委員 瀧井孝作 石川達三 丹羽文雄 佐藤春夫 宇野浩二 川端康成 舟橋聖一 坂口安吾

舟橋聖一49歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題銓衡と批評　総行数31　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 庄野潤三 32歳 全 □ 5 「最後の一行が、人を食っていて面白く、また、達意の文章も既に板についていると思った。「会話」という妙な作品が「参考作品」としてあげられていなかったから、僕は素直に「流木」を当選作とすべきであると主張したかも知れない。」 小島信夫 38歳 全 ― 0   竹田敏行 40歳 全 ― 0   小山清 42歳 全 ― 0   塙英夫 41歳 全 ― 0   金達寿 34歳 全 ― 0   広池秋子 34歳 全 △ 3 「材料が変っている点は、全委員をうなずかしめたが、品の悪いところがあると云うので、当選作とまでは行かなかった。」 森田雄蔵 43歳 全 ― 0   木野工 33歳 全 ― 0   富島健夫 22歳 全 ― 0     「「該当ナシ」という切札は、委員としては、出し易くて、あと味もサッパリしているが、正直なところ、非常に高いところから見て厳選すれば、いつだって「ナシ」である。」「委員としては、なるべく当選作を選び出すように苦心し、それでもないときに、「ナシ」を宣するようにしたいものである。」「尚、岸田國士氏が、この賞に戯曲の候補作品のないことを嘆じていられたが、僕も同感である。」

他の選考委員 瀧井孝作 石川達三 丹羽文雄 佐藤春夫 宇野浩二 川端康成 岸田國士 坂口安吾

坂口安吾47歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題感想　総行数8　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 庄野潤三 32歳 全 ■ 3 「この作では甘さが目立つようです。無理してツクリモノに仕上げているせいではありますまいか。私はむしろ参考作の「会話」をとります。」 小島信夫 38歳 全 ◎ 2 「ドモリを通して人間がよく書けているので秀作と思いました。」 竹田敏行 40歳 全 ― 0   小山清 42歳 全 ― 0   塙英夫 41歳 全 ― 0   金達寿 34歳 全 ― 0   広池秋子 34歳 全 ■ 3 「ママサンが書けていない。オンリー達へ向けられている折角の鋭い目も、ママサンの方に向うとグニャグニャで、これではよい小説にならない。」 森田雄蔵 43歳 全 ― 0   木野工 33歳 全 ― 0   富島健夫 22歳 全 ― 0	他の選考委員 瀧井孝作 石川達三 丹羽文雄 佐藤春夫 宇野浩二 川端康成 岸田國士 舟橋聖一

庄野潤三32歳×各選考委員　 「流木」等 短篇2篇 90枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 59歳 全 ○ 9 「失恋した青年がしまいに、睡り薬をのんで入水自殺して、流木のように岸に打上げられて、助かってけろっとした所もよい。」「前に『恋文』というのも佳かったが、この『流木』は、また充実味が出てきた。」「ともかくこの人は、文章がきれいでうまい。」 石川達三 48歳 全 ■ 2 「好意のもてる素直な作品であるが、未熟さは否定し難い。主人公に同情しすぎているのではないかと思う。」 丹羽文雄 49歳 全 △ 6 「身ぎれいな感じのする小説だが、男のあつかい方が甘かった。そのかわり相手の女性はたくみにとらえられていた。へたをすると中間小説にはしる危険があるという評もあったが、このひとのシンは強いのではないか。」「もう立派な作家である。」 佐藤春夫 61歳 全 ◎ 36 「好みから云って自分は、庄野潤三のエッチングのような手法で描き出された明朗闊達な「流木」を好しとした。あまりに単純にすぎるかのようであるが、そこが作者のねらいなのであろう。」「特にあのなかの若いヘロインがいかにも現代の女性らしいのを好しと思う。尤もその反対に男の性格が少々ぼんやりしているのをこの作の欠点と思う。」 宇野浩二 62歳 全 ■ 16 「平凡な作品である、その上、女主人が書けていないのが欠点であるように、男主人公の愛慕も型どおりであるのが大欠点である。」「終りの行動など、わざと酷評すると、滑稽にさえ思われる。しかし、この作者が、平明な文章で平凡な小説を根気よく書きつづけてゆけば、この作者は、大根役者が名優になるように、すぐれた作家になるであろう、いや、なるにちがいない。」 川端康成 54歳 全 ■ 4 「欠点が少く、流麗に感じられ、女子学生はおもしろいが、主人公の男の自省に不足があって、疑問を残し、作品の強くひびいて来ないうらみがないだろうか。」 岸田國士 63歳 全 △ 9 「最も推賞に値すると思った」「私のみるところその力量はゆうに芥川賞受賞の水準に達している。しかし、この流木一篇を特にこの有望作家の秀作と認めるわけにはゆかぬ。」「じっくりとすぐれた素材に挑み、もっと重量感のある傑作を早くみせてほしい。」 舟橋聖一 49歳 全 □ 5 「最後の一行が、人を食っていて面白く、また、達意の文章も既に板についていると思った。「会話」という妙な作品が「参考作品」としてあげられていなかったから、僕は素直に「流木」を当選作とすべきであると主張したかも知れない。」 坂口安吾 47歳 全 ■ 3 「この作では甘さが目立つようです。無理してツクリモノに仕上げているせいではありますまいか。私はむしろ参考作の「会話」をとります。」

他の候補作 小島信夫 「吃音学院」 竹田敏行 「スピノザの石」 小山清 「をぢさんの話」 塙英夫 「すべて世はこともなし」 金達寿 「玄海灘」 広池秋子 「オンリー達」 森田雄蔵 「はがゆい男」 木野工 「粧われた心」 富島健夫 「喪家の狗」

小島信夫38歳×各選考委員　 「吃音学院」 短篇 67枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 59歳 全 ■ 14 「諷刺小説か諧謔小説か、変ったもので。文体は横光利一の『機械』に似たところもあったが、『機械』よりも人間は描けているように見えた。しかし、人物がお化けのようで、面白い小説だが、お化けのような所は物足りなかった。」「とにかくこの人は、諧謔の面白いものを持っていると思った。」 石川達三 48歳 全 ■ 7 「この小説は先を急ぎ過ぎたような印象を受ける。もう少し長く、十分に書く必要があったようだ。この作者は技巧の多い人のように思うが、その得意とする技巧について、再考の余地がある。」 丹羽文雄 49歳 全 ■ 8 「哀しさが感じられないのが致命傷であった。」「もっと厳粛な感じがあってもよいものだ。達者な作家だ。最後の二三行で私は哀しさを感じたが、ああいう風な面白さに書かれるのでなく、切実感がほしかった。」「もう立派な作家である。」 佐藤春夫 61歳 全 □ 21 「二篇（引用者注：「吃音学院」「オンリー達」）の長所を認めるに吝ではないが、また多少の不満もないではない。」「この際それぞれ自己の長短所を自覚して、奮起一番することを自分は期待するものである。」 宇野浩二 62歳 全 △ 15 「今度の候補作品が一般に低調であった中では、（「中では、」である、）私には、まず、面白かった。」「これだけの面白い話が作れるのであるから、もっと手際よく書いてほしかった。大体この作者は、どの作品を読んでもそうであるが、わかりよく平明に書けば、小説が面白くなると思って、こういうわかりにくい書き方をするのであろうか。」 川端康成 54歳 全 △ 4 「最後に残された三篇（「流木」「吃音学院」「オンリー達」）では、（引用者中略）好意を持った。書く態度がよく、（引用者中略）今期の候補作中では、なにか新味があるように思えた。」 岸田國士 63歳 全 △ 9 「最も推賞に値すると思った」「なかなかしっかりした佳い作品である。私はこういうバランスのよくとれた才能を日本文学の将来のために、大切にしたく思う。」「ただ、この一作だけではまだすこし、先々の保証がつけにくい。」 舟橋聖一 49歳 全 ― 0   坂口安吾 47歳 全 ◎ 2 「ドモリを通して人間がよく書けているので秀作と思いました。」

他の候補作 庄野潤三 「流木」等 竹田敏行 「スピノザの石」 小山清 「をぢさんの話」 塙英夫 「すべて世はこともなし」 金達寿 「玄海灘」 広池秋子 「オンリー達」 森田雄蔵 「はがゆい男」 木野工 「粧われた心」 富島健夫 「喪家の狗」

竹田敏行40歳×各選考委員　 「スピノザの石」 短篇 55枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 59歳 全 ― 0   石川達三 48歳 全 ― 0   丹羽文雄 49歳 全 ― 0   佐藤春夫 61歳 全 ― 0   宇野浩二 62歳 全 ● 6 「三人の物ありげな人物を出して、いかにも物ありげに書いているが、結局、三人とも「株」に心を取られていた、というだけの物で、肝心の主人公の気もちは殆んど全くわからない、ナンセンスというべきか。」 川端康成 54歳 全 △ 3 「今期の候補作中では、なにか新味があるように思えた。」 岸田國士 63歳 全 ― 0   舟橋聖一 49歳 全 ― 0   坂口安吾 47歳 全 ― 0	他の候補作 庄野潤三 「流木」等 小島信夫 「吃音学院」 小山清 「をぢさんの話」 塙英夫 「すべて世はこともなし」 金達寿 「玄海灘」 広池秋子 「オンリー達」 森田雄蔵 「はがゆい男」 木野工 「粧われた心」 富島健夫 「喪家の狗」

小山清42歳×各選考委員　 「をぢさんの話」 短篇 58枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 59歳 全 ― 0   石川達三 48歳 全 ― 0   丹羽文雄 49歳 全 ― 0   佐藤春夫 61歳 全 ― 0   宇野浩二 62歳 全 ● 5 「又また、新聞屋の話であり、それだけに手に入ったものであるが、幾多の「新聞屋」物の中で、一番まずいのは、どういう訳か。ここらで「新聞屋」物と手を切られてはどうですか。」 川端康成 54歳 全 ― 0   岸田國士 63歳 全 ― 0   舟橋聖一 49歳 全 ― 0   坂口安吾 47歳 全 ― 0	他の候補作 庄野潤三 「流木」等 小島信夫 「吃音学院」 竹田敏行 「スピノザの石」 塙英夫 「すべて世はこともなし」 金達寿 「玄海灘」 広池秋子 「オンリー達」 森田雄蔵 「はがゆい男」 木野工 「粧われた心」 富島健夫 「喪家の狗」

塙英夫41歳×各選考委員　 「すべて世はこともなし」 短篇 59枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 59歳 全 ― 0   石川達三 48歳 全 ― 0   丹羽文雄 49歳 全 ― 0   佐藤春夫 61歳 全 ― 0   宇野浩二 62歳 全 ● 5 「これが『背教徒』の作者か、と、あきれる程の物で、作り話としても、下手である。」 川端康成 54歳 全 ― 0   岸田國士 63歳 全 ― 0   舟橋聖一 49歳 全 ― 0   坂口安吾 47歳 全 ― 0	他の候補作 庄野潤三 「流木」等 小島信夫 「吃音学院」 竹田敏行 「スピノザの石」 小山清 「をぢさんの話」 金達寿 「玄海灘」 広池秋子 「オンリー達」 森田雄蔵 「はがゆい男」 木野工 「粧われた心」 富島健夫 「喪家の狗」

金達寿34歳×各選考委員　 「玄海灘」 長篇 720枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 59歳 全 △ 7 「一番読みごたえがあった。これは朝鮮民族の抵抗精神、被征服民族の悲哀がテーマで、今の日本の有様にも暗示されるところがあり、立派な今日の小説だと思った。これは長編で筑摩書房から本になって出て、多く読まれて認められているようで、それで更に芥川賞にも及ぶまいと思った。」 石川達三 48歳 全 ― 0   丹羽文雄 49歳 全 ― 0   佐藤春夫 61歳 全 △ 2 「立派な作品であったが、長篇の既刊単行本というので芥川賞の対象ではなく自然失格となるとすれば、」 宇野浩二 62歳 全 ― 0   川端康成 54歳 全 ― 0   岸田國士 63歳 全 ― 0   舟橋聖一 49歳 全 ― 0   坂口安吾 47歳 全 ― 0	他の候補作 庄野潤三 「流木」等 小島信夫 「吃音学院」 竹田敏行 「スピノザの石」 小山清 「をぢさんの話」 塙英夫 「すべて世はこともなし」 広池秋子 「オンリー達」 森田雄蔵 「はがゆい男」 木野工 「粧われた心」 富島健夫 「喪家の狗」

広池秋子34歳×各選考委員　 「オンリー達」 短篇 54枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 59歳 全 ○ 14 「佳かった。」「ピチピチした生きのいい筆で光彩があった。」「作者が、オンリーの女性仲間に、あたたかい愛情があり、描写の一行一行も、たのしんで描いているようで、好かった。」「この作者は、下積みのみじめな女達をよく知っているようで、この方で特色もあり、尚、筆が伸びれば、林芙美子の跡継になるのではないか、と思ったりした。」 石川達三 48歳 全 ● 11 「推す人もあったが、私は採れなかった。特異な題材は、その題材の力だけでも或る程度は読ませるが、一面から云うと、特異な題材であるだけに読者が納得し難いということもある。」「品が悪いという評があった。醜悪なものを描いて醜悪のままで終っているから、そういう評が出てくる」 丹羽文雄 49歳 全 ◎ 11 「私は（引用者中略）推したが、小粒なのが気になった。」「女の哀しさや、いく人かの女をあざやかに書き分けている。」「長篇にするべき題材であった。これだけでは惜しいのだ。異常な題材によりかかっているという評もあったが、別の解釈もあるわけだ。戦後今日までああした女を書いた小説は、箒ではくほどある。しかしいまだかつて「オンリー達」ほどにスッキリと書かれたことはなかった。この小説を三人の委員が推した。」 佐藤春夫 61歳 全 □ 21 「二篇（引用者注：「吃音学院」「オンリー達」）の長所を認めるに吝ではないが、また多少の不満もないではない。」「この際それぞれ自己の長短所を自覚して、奮起一番することを自分は期待するものである。」 宇野浩二 62歳 全 ■ 8 「題材が変っているのが面白く、いろいろな女達もちょいと面白く書かれてはいるが、ごたごたしているのが欠点であり、私には、肝心のママさんが殆んど書かれていないのが、気に入らない。未だし（つまり、未熟）というところであろう。」 川端康成 54歳 全 ■ 8 「戦後のこういう女を書いた作品としては、最も具体的に鮮明で注目される。しかし私には、題材のせいではなく、なにか少し品がよくないように思えた。一人一人の女たちの組み合わせ、出し入れもあざやかだが、なお工夫の余地は多く、これだけの材料でこれだけの作品は、勿体ないだろう。長いものに改作するとよい。 岸田國士 63歳 全 ■ 11 「支持する声が二三あったけれども、私は賛成しかねた。」「なんのために、この作者は、こういう女たちの生活をこんなに好奇心をふくらませて書くのかがわかりかねた。」「こういうものしか書けぬようでは困る、と、ちょっと気になった。」 舟橋聖一 49歳 全 △ 3 「材料が変っている点は、全委員をうなずかしめたが、品の悪いところがあると云うので、当選作とまでは行かなかった。」 坂口安吾 47歳 全 ■ 3 「ママサンが書けていない。オンリー達へ向けられている折角の鋭い目も、ママサンの方に向うとグニャグニャで、これではよい小説にならない。」

他の候補作 庄野潤三 「流木」等 小島信夫 「吃音学院」 竹田敏行 「スピノザの石」 小山清 「をぢさんの話」 塙英夫 「すべて世はこともなし」 金達寿 「玄海灘」 森田雄蔵 「はがゆい男」 木野工 「粧われた心」 富島健夫 「喪家の狗」

森田雄蔵43歳×各選考委員　 「はがゆい男」 短篇 101枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 59歳 全 ― 0   石川達三 48歳 全 ― 0   丹羽文雄 49歳 全 ― 0   佐藤春夫 61歳 全 ― 0   宇野浩二 62歳 全 ● 8 「無邪気なところが取り得であるが、唯それだけの物で、シャレでなくはがゆい小説である。」 川端康成 54歳 全 △ 3 「おだやかな作品である。事実が充満しているから、これも長いものに改作出来る。」 岸田國士 63歳 全 ― 0   舟橋聖一 49歳 全 ― 0   坂口安吾 47歳 全 ― 0	他の候補作 庄野潤三 「流木」等 小島信夫 「吃音学院」 竹田敏行 「スピノザの石」 小山清 「をぢさんの話」 塙英夫 「すべて世はこともなし」 金達寿 「玄海灘」 広池秋子 「オンリー達」 木野工 「粧われた心」 富島健夫 「喪家の狗」

木野工33歳×各選考委員　 「粧われた心」 短篇 32枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 59歳 全 ― 0   石川達三 48歳 全 △ 6 「ほとんど問題にされなかったが、私はなかなか力のある作家だという気がしている。題材はいかにも古めかしく、作者の立場もその古さからあまり出てはいないが、主人公の女の捕え方、その描写力は間違っていない。」 丹羽文雄 49歳 全 ― 0   佐藤春夫 61歳 全 ― 0   宇野浩二 62歳 全 ● 4 「芸者の社会を書くのもよいが、全体が古めかしく、取り得なし。」 川端康成 54歳 全 ― 0   岸田國士 63歳 全 ― 0   舟橋聖一 49歳 全 ― 0   坂口安吾 47歳 全 ― 0	他の候補作 庄野潤三 「流木」等 小島信夫 「吃音学院」 竹田敏行 「スピノザの石」 小山清 「をぢさんの話」 塙英夫 「すべて世はこともなし」 金達寿 「玄海灘」 広池秋子 「オンリー達」 森田雄蔵 「はがゆい男」 富島健夫 「喪家の狗」

富島健夫22歳×各選考委員　 「喪家の狗」 短篇 31枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 59歳 全 ― 0   石川達三 48歳 全 ● 5 「最後の方にもそれ（引用者注：醜悪なものを描いて醜悪のままで終っている）と似たようなものがある。醜悪な題材を扱う場合に心しなければならないことだ。」 丹羽文雄 49歳 全 ― 0   佐藤春夫 61歳 全 ― 0   宇野浩二 62歳 全 ● 3 「もっと勉強しなさい。」 川端康成 54歳 全 △ 2 「作者が非常に年少なので、今後が期待される。」 岸田國士 63歳 全 ― 0   舟橋聖一 49歳 全 ― 0   坂口安吾 47歳 全 ― 0	他の候補作 庄野潤三 「流木」等 小島信夫 「吃音学院」 竹田敏行 「スピノザの石」 小山清 「をぢさんの話」 塙英夫 「すべて世はこともなし」 金達寿 「玄海灘」 広池秋子 「オンリー達」 森田雄蔵 「はがゆい男」 木野工 「粧われた心」