第43回

第42回第44回

令和3年/2021年度 令和4年/2022年3月2日決定発表

選考委員　 伊集院静 72歳 大沢在昌 65歳 恩田陸 57歳 京極夏彦 58歳 辻村深月 42歳 選評総行数　 63 59 69 107 85 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 一穂ミチ　『スモールワールズ』 43歳 評 ◎ 18 ○ 9 □ 12 ○ 16 □ 17 小田雅久仁　『残月記』 47歳 評 ◎ 18 △ 11 ◎ 16 ○ 18 □ 12 浅倉秋成　『六人の噓つきな大学生』 32歳 評 ● 6 ■ 12 ◎ 11 △ 19 ◎ 22 五十嵐律人　『原因において自由な物語』 (32歳) 評 ● 5 ● 10 ● 13 ■ 19 ● 13 葉真中顕　『灼熱』 46歳 評 ■ 10 ■ 13 ● 13 ■ 19 ■ 15           年齢の説明   見方・注意点

伊集院静72歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

題選評　総行数63　（1行=19字） 候補 評価 行数 評言 一穂ミチ 43歳 全 ◎ 18 「著者のさまざまな資質が、各々の作品の中にいろんな表情となってあらわれていた。」「近頃、短編連作と称する新人の作品が多く、私はそのやり方に疑問を抱き、力量不足が作品を曖昧にしていると感じることもあったが、『スモールワールズ』は一編一編に感動があった。これほどの力量と才能があるなら、授賞にかなうと思った。」 小田雅久仁 47歳 全 ◎ 18 「文章にまず好印象を抱いた。“企み”が微塵も感じられなかった。文章、文節の中に企みを感じないことはなかなかあるものではない。素のままで成立している。」「佳い作品は、その読後感に読み手が覚醒したままなかなか現実に戻れない点があるが、この作家と作品は、そういうあやういものを内含している。」「新人賞にかなう作品だと確信し、（引用者注：「スモールワールズ」と共に）これも推すことにした。」 浅倉秋成 32歳 全 ● 6 「安定した文章と構成だったが、私には、テクニックに走る以上に、この小説を書く強い思いのようなものが見えなかった。」 五十嵐律人 (32歳) 全 ● 5 「タイトルでつまずいてしまった。新しいことと解り難いことは違う気がした。」 葉真中顕 46歳 全 ■ 10 「新人の持つ何にでも挑戦しようとする気概が感じられ、圧倒される力強さがあった。」「残念ながら作家の個性というものが感じられなかった。新人に望み過ぎかもしれぬが、そこが不満に思えたのはなぜだろうか？」   「この文学新人賞の選考委員を長く務めさせて貰っているのは、新人賞の候補に上がってくる作品には、思わぬ発見があるからだ。」「作家の斬新さは勿論、作品のテーマにも発見がある。」

他の選考委員 大沢在昌 恩田陸 京極夏彦 辻村深月

大沢在昌65歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

題大活躍を期待　総行数59　（1行=19字） 候補 評価 行数 評言 一穂ミチ 43歳 全 ○ 9 「「魔王の帰還」にやられた。」「作者はもはや百戦錬磨の手練れである。」「収録作すべてが佳品というわけではないが、その実力のほどは充分に伝わってくる。」 小田雅久仁 47歳 全 △ 11 「（引用者注：収録の三編の）どれもが一本の長篇になりうる濃さをもっていた。作者の筆力に疑いはない。が、それゆえに作者の体力に、一抹の不安を覚えている。」「受賞を機に、長いものをどんどん書いていただきたい。」 浅倉秋成 32歳 全 ■ 12 「文章は読みやすく複数の登場人物の描き分けにも成功していて、作者の実力を感じた。」「が、最初に“犯人”が絞られた時点で、物語が失速するのを私は感じた。それは作者がもうひと捻りしてやろうと息を整えたのが見えた瞬間だったかもしれない。」 五十嵐律人 (32歳) 全 ● 10 「作者の意図が強くですぎていたように思う。」「登場人物すべてが理屈っぽく、会話であっても互いにいいたいことを述べているだけで、コミュニケーションになっていない。そのため物語を読み進めることに困難を覚えた。」 葉真中顕 46歳 全 ■ 13 「壮大な舞台と痛ましい歴史が描かれている一方で、物語がうねらない。」「思うに作者は背景を描くことに気持を割きすぎたのではないか。ステージの中央に立つ人間のドラマが妙にちまちまとして見えてしまったのは私だけだろうか。」   「勢いのある方の候補作がそろった年だった。」

他の選考委員 伊集院静 恩田陸 京極夏彦 辻村深月

恩田陸57歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

題選評　総行数69　（1行=19字） 候補 評価 行数 評言 一穂ミチ 43歳 全 □ 12 「とにかくものすごくうまくて、よい小説を読む時に感じる読者のツボをしっかり押してくれる。しかし、私は前回読んだ時にも感じたのだが、どうしてもこの人のこの作品は「様子見」でまだまだ本領を発揮していないのではないか、余力をわざと残しているのではないか、と思ってしまうのである。」「授賞には反対しなかった。」 小田雅久仁 47歳 全 ◎ 16 「（引用者注：「六人の嘘つきな大学生」と共に）推すつもりで選考会に臨んだ。」「同じ「月」をテーマにしていても、テイストがそれぞれ異なるので、今ひとつ統一感に欠けるところがあって、一冊の本としてはもったいなかった気がする。特に、「残月記」は長編でもよかっただろうし、これが長編であったらもっと完成度の高い傑作になっていたのではないか。」 浅倉秋成 32歳 全 ◎ 11 「（引用者注：「残月記」と共に）推すつもりで選考会に臨んだ。」「面白い。なんといっても、このしたたかかつ皮肉な語りっぷりが頼もしい。ただ、描写できる世代とタイプがまだ限定されているところが、「抜けた」感じがしなかった原因かと思われる。」 五十嵐律人 (32歳) 全 ● 13 「（引用者注：他の候補作と読み比べると）エンターテインメントとしてはその小粒さが露呈されてしまった。しかも、「物語ることの効能」をテーマとすることは、作家としてやりたいテーマであるのは分かるけれど、エンターテインメントの受賞作としては、いわば内輪ネタにあたるため抵抗があった。」 葉真中顕 46歳 全 ● 13 「（引用者注：他の候補作に比べて）まだ著者が自分の表現を持てていない、と感じてしまった。」「調べたことを小説に落とし込むことに精一杯で、タイトルであるブラジルの大地たる「灼熱」をちっとも感じられない。」   「今回の候補作五作のうち、『灼熱』以外は前に一度読んでいたのだが、どれも才能と実力は間違いないものの、頭ひとつ抜けたものがないなあというのが率直な感想」

他の選考委員 伊集院静 大沢在昌 京極夏彦 辻村深月

京極夏彦58歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

題選評　総行数107　（1行=19字） 候補 評価 行数 評言 一穂ミチ 43歳 全 ○ 16 「何気ない日常の断面こそが特異なものとして切り出されて行く。言葉で纏めることの出来ない感性を表現する装置として小説が利用されており、それはリアルさを喚起させる技法として有効である。些か器用過ぎるきらいがある程、巧いと思う。」 小田雅久仁 47歳 全 ○ 18 「作者の言葉選びのセンス、比喩の巧みさは群を抜いている。リアルを描くだにフィクショナルな感興を呼び込むその筆致は、奇抜な設定を採用せずとも十分に幻想小説として成立するものだろう。表題作に関しては寧ろ異世界描写は不要であったかもしれないとさえ思う。」 浅倉秋成 32歳 全 △ 19 「ミステリーとして読み解く限り瑕疵は殆どないだろう。読者の認識を覆す手付きも堂に入っている。予想される反復がマイナスに作用しないのは、謎解きによって屹立するのがリアルな就活生の姿だからだろう。敢えて述べるなら、そのリアルさと器の構築性の高さのギャップから、出来過ぎた話と感じる読者はいるかもしれない。」 五十嵐律人 (32歳) 全 ■ 19 「一部が作中作（としても読める）というミステリー的構成は、必ずしも本作の魅力に貢献してはいないように思える。」「現実に向き合う作者の真摯な姿勢と、作中で齎される茫漠とした解決の間に乖離が生じているように読めてしまう。巧いだけに残念である。」 葉真中顕 46歳 全 ■ 19 「第二次大戦後のブラジル移民間に於ける戦勝派／認識派問題を取り上げた労作である。」「作者はそれを“事件”として扱うことをせず、歴史として克明に描いている。」「しかし視点人物二名の成長と葛藤というパーソナルな視座の物語も同時に綴られるため、若干の混乱は否めない。」「果たしてこの壮大な物語に“赦し”は必要だったのだろうか。考えさせられる。」   「今回は、いずれも得難い読書体験をさせて戴いた。」「どの候補作が受賞作となっていても個人的には納得出来たと思う。」

他の選考委員 伊集院静 大沢在昌 恩田陸 辻村深月

辻村深月42歳×各候補作

年齢の説明 見方・注意点

題選評　総行数85　（1行=19字） 候補 評価 行数 評言 一穂ミチ 43歳 全 □ 17 「（引用者注：収録作の）どれもが背伸びして書かれたものではなく、著者自身の中にすでにある世界や言葉であると信じられる。主人公たちの営みが、愛おしいだけでなく、残酷さを備えている点にも魅力を感じた。」「誰かの個人的であるはずの小さな物語から大きな視野を獲得するというのは、私たちがなぜ小説を読むのか、という普遍的な問いかけに対する答えそのものだ。」 小田雅久仁 47歳 全 □ 12 「なんといっても比喩表現が素晴らしい。「月」を共通のモチーフとして、ひんやりとした日常の隙間に迷い込む物語は、皆、誰しも一度は覚えがあるような不安や恐怖から始まっている。しかし、この著者が書くことで、既存の物語にあるような既視感がどんどん消失していき、「新しい物語」として生まれ直していると感じた。」 浅倉秋成 32歳 全 ◎ 22 「強く推した。」「人の人に対する感情や、物事に対する思いは、一つのベクトルだけに向かないこと、人物のどの面をどう捉えるかも、すべては読者である「わたし」の主観でしかないことを、抜群のリーダビリティを伴いながら突きつけてくる。それは今を生きる多くの人たちにとっての救いになると感じる。」「“続きが気になる”ミステリとして引き込まれて読んだ先にこの読後の救いがあることが、私には何より響いた。」 五十嵐律人 (32歳) 全 ● 13 「展開や設定が、あまりにも誰かが頭の中で考えた通りに進みすぎていると感じた。物語が自由であることを謳う作品だが、人は決して想像通りには動かない存在である、という点を著者が信じられなければ、物語はどうしても小さく、不自由になる。しかし、この著者の場合には、私たちの思う常識的な「自由」を飛び越えてほしいとも感じてしまう。」 葉真中顕 46歳 全 ■ 15 「最後に描かれた「赦し」が、直接的な会話として書かれている点が私には残念だった。」「ここまで描かれてきた登場人物たちには、会話や言葉以外でそれ（引用者注：「赦し」）を示す奥行きがすでにあったはず。わがままな読者の希望で恐縮だが、それこそを最後に見せてほしかった。」   「今回から選考委員を務めることになり、候補作を読んで、この中から一作、もしくは二作しか受賞作としてはいけないのか、と非常に悩ましかった。それほど、どの作品にも、著者の“願い”のようなものが見え、書き手としてその気持ちが痛いほどわかるのだ。」

他の選考委員 伊集院静 大沢在昌 恩田陸 京極夏彦

一穂ミチ43歳×各選考委員　 『スモールワールズ』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 伊集院静 72歳 全 ◎ 18 「著者のさまざまな資質が、各々の作品の中にいろんな表情となってあらわれていた。」「近頃、短編連作と称する新人の作品が多く、私はそのやり方に疑問を抱き、力量不足が作品を曖昧にしていると感じることもあったが、『スモールワールズ』は一編一編に感動があった。これほどの力量と才能があるなら、授賞にかなうと思った。」 大沢在昌 65歳 全 ○ 9 「「魔王の帰還」にやられた。」「作者はもはや百戦錬磨の手練れである。」「収録作すべてが佳品というわけではないが、その実力のほどは充分に伝わってくる。」 恩田陸 57歳 全 □ 12 「とにかくものすごくうまくて、よい小説を読む時に感じる読者のツボをしっかり押してくれる。しかし、私は前回読んだ時にも感じたのだが、どうしてもこの人のこの作品は「様子見」でまだまだ本領を発揮していないのではないか、余力をわざと残しているのではないか、と思ってしまうのである。」「授賞には反対しなかった。」 京極夏彦 58歳 全 ○ 16 「何気ない日常の断面こそが特異なものとして切り出されて行く。言葉で纏めることの出来ない感性を表現する装置として小説が利用されており、それはリアルさを喚起させる技法として有効である。些か器用過ぎるきらいがある程、巧いと思う。」 辻村深月 42歳 全 □ 17 「（引用者注：収録作の）どれもが背伸びして書かれたものではなく、著者自身の中にすでにある世界や言葉であると信じられる。主人公たちの営みが、愛おしいだけでなく、残酷さを備えている点にも魅力を感じた。」「誰かの個人的であるはずの小さな物語から大きな視野を獲得するというのは、私たちがなぜ小説を読むのか、という普遍的な問いかけに対する答えそのものだ。」

他の候補作 小田雅久仁 『残月記』 浅倉秋成 『六人の噓つきな大学生』 五十嵐律人 『原因において自由な物語』 葉真中顕 『灼熱』

小田雅久仁47歳×各選考委員　 『残月記』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 伊集院静 72歳 全 ◎ 18 「文章にまず好印象を抱いた。“企み”が微塵も感じられなかった。文章、文節の中に企みを感じないことはなかなかあるものではない。素のままで成立している。」「佳い作品は、その読後感に読み手が覚醒したままなかなか現実に戻れない点があるが、この作家と作品は、そういうあやういものを内含している。」「新人賞にかなう作品だと確信し、（引用者注：「スモールワールズ」と共に）これも推すことにした。」 大沢在昌 65歳 全 △ 11 「（引用者注：収録の三編の）どれもが一本の長篇になりうる濃さをもっていた。作者の筆力に疑いはない。が、それゆえに作者の体力に、一抹の不安を覚えている。」「受賞を機に、長いものをどんどん書いていただきたい。」 恩田陸 57歳 全 ◎ 16 「（引用者注：「六人の嘘つきな大学生」と共に）推すつもりで選考会に臨んだ。」「同じ「月」をテーマにしていても、テイストがそれぞれ異なるので、今ひとつ統一感に欠けるところがあって、一冊の本としてはもったいなかった気がする。特に、「残月記」は長編でもよかっただろうし、これが長編であったらもっと完成度の高い傑作になっていたのではないか。」 京極夏彦 58歳 全 ○ 18 「作者の言葉選びのセンス、比喩の巧みさは群を抜いている。リアルを描くだにフィクショナルな感興を呼び込むその筆致は、奇抜な設定を採用せずとも十分に幻想小説として成立するものだろう。表題作に関しては寧ろ異世界描写は不要であったかもしれないとさえ思う。」 辻村深月 42歳 全 □ 12 「なんといっても比喩表現が素晴らしい。「月」を共通のモチーフとして、ひんやりとした日常の隙間に迷い込む物語は、皆、誰しも一度は覚えがあるような不安や恐怖から始まっている。しかし、この著者が書くことで、既存の物語にあるような既視感がどんどん消失していき、「新しい物語」として生まれ直していると感じた。」

他の候補作 一穂ミチ 『スモールワールズ』 浅倉秋成 『六人の噓つきな大学生』 五十嵐律人 『原因において自由な物語』 葉真中顕 『灼熱』

浅倉秋成32歳×各選考委員　 『六人の噓つきな大学生』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 伊集院静 72歳 全 ● 6 「安定した文章と構成だったが、私には、テクニックに走る以上に、この小説を書く強い思いのようなものが見えなかった。」 大沢在昌 65歳 全 ■ 12 「文章は読みやすく複数の登場人物の描き分けにも成功していて、作者の実力を感じた。」「が、最初に“犯人”が絞られた時点で、物語が失速するのを私は感じた。それは作者がもうひと捻りしてやろうと息を整えたのが見えた瞬間だったかもしれない。」 恩田陸 57歳 全 ◎ 11 「（引用者注：「残月記」と共に）推すつもりで選考会に臨んだ。」「面白い。なんといっても、このしたたかかつ皮肉な語りっぷりが頼もしい。ただ、描写できる世代とタイプがまだ限定されているところが、「抜けた」感じがしなかった原因かと思われる。」 京極夏彦 58歳 全 △ 19 「ミステリーとして読み解く限り瑕疵は殆どないだろう。読者の認識を覆す手付きも堂に入っている。予想される反復がマイナスに作用しないのは、謎解きによって屹立するのがリアルな就活生の姿だからだろう。敢えて述べるなら、そのリアルさと器の構築性の高さのギャップから、出来過ぎた話と感じる読者はいるかもしれない。」 辻村深月 42歳 全 ◎ 22 「強く推した。」「人の人に対する感情や、物事に対する思いは、一つのベクトルだけに向かないこと、人物のどの面をどう捉えるかも、すべては読者である「わたし」の主観でしかないことを、抜群のリーダビリティを伴いながら突きつけてくる。それは今を生きる多くの人たちにとっての救いになると感じる。」「“続きが気になる”ミステリとして引き込まれて読んだ先にこの読後の救いがあることが、私には何より響いた。」

他の候補作 一穂ミチ 『スモールワールズ』 小田雅久仁 『残月記』 五十嵐律人 『原因において自由な物語』 葉真中顕 『灼熱』

五十嵐律人(32歳)×各選考委員　 『原因において自由な物語』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 伊集院静 72歳 全 ● 5 「タイトルでつまずいてしまった。新しいことと解り難いことは違う気がした。」 大沢在昌 65歳 全 ● 10 「作者の意図が強くですぎていたように思う。」「登場人物すべてが理屈っぽく、会話であっても互いにいいたいことを述べているだけで、コミュニケーションになっていない。そのため物語を読み進めることに困難を覚えた。」 恩田陸 57歳 全 ● 13 「（引用者注：他の候補作と読み比べると）エンターテインメントとしてはその小粒さが露呈されてしまった。しかも、「物語ることの効能」をテーマとすることは、作家としてやりたいテーマであるのは分かるけれど、エンターテインメントの受賞作としては、いわば内輪ネタにあたるため抵抗があった。」 京極夏彦 58歳 全 ■ 19 「一部が作中作（としても読める）というミステリー的構成は、必ずしも本作の魅力に貢献してはいないように思える。」「現実に向き合う作者の真摯な姿勢と、作中で齎される茫漠とした解決の間に乖離が生じているように読めてしまう。巧いだけに残念である。」 辻村深月 42歳 全 ● 13 「展開や設定が、あまりにも誰かが頭の中で考えた通りに進みすぎていると感じた。物語が自由であることを謳う作品だが、人は決して想像通りには動かない存在である、という点を著者が信じられなければ、物語はどうしても小さく、不自由になる。しかし、この著者の場合には、私たちの思う常識的な「自由」を飛び越えてほしいとも感じてしまう。」

他の候補作 一穂ミチ 『スモールワールズ』 小田雅久仁 『残月記』 浅倉秋成 『六人の噓つきな大学生』 葉真中顕 『灼熱』

葉真中顕46歳×各選考委員　 『灼熱』

年齢の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 伊集院静 72歳 全 ■ 10 「新人の持つ何にでも挑戦しようとする気概が感じられ、圧倒される力強さがあった。」「残念ながら作家の個性というものが感じられなかった。新人に望み過ぎかもしれぬが、そこが不満に思えたのはなぜだろうか？」 大沢在昌 65歳 全 ■ 13 「壮大な舞台と痛ましい歴史が描かれている一方で、物語がうねらない。」「思うに作者は背景を描くことに気持を割きすぎたのではないか。ステージの中央に立つ人間のドラマが妙にちまちまとして見えてしまったのは私だけだろうか。」 恩田陸 57歳 全 ● 13 「（引用者注：他の候補作に比べて）まだ著者が自分の表現を持てていない、と感じてしまった。」「調べたことを小説に落とし込むことに精一杯で、タイトルであるブラジルの大地たる「灼熱」をちっとも感じられない。」 京極夏彦 58歳 全 ■ 19 「第二次大戦後のブラジル移民間に於ける戦勝派／認識派問題を取り上げた労作である。」「作者はそれを“事件”として扱うことをせず、歴史として克明に描いている。」「しかし視点人物二名の成長と葛藤というパーソナルな視座の物語も同時に綴られるため、若干の混乱は否めない。」「果たしてこの壮大な物語に“赦し”は必要だったのだろうか。考えさせられる。」 辻村深月 42歳 全 ■ 15 「最後に描かれた「赦し」が、直接的な会話として書かれている点が私には残念だった。」「ここまで描かれてきた登場人物たちには、会話や言葉以外でそれ（引用者注：「赦し」）を示す奥行きがすでにあったはず。わがままな読者の希望で恐縮だが、それこそを最後に見せてほしかった。」

他の候補作 一穂ミチ 『スモールワールズ』 小田雅久仁 『残月記』 浅倉秋成 『六人の噓つきな大学生』 五十嵐律人 『原因において自由な物語』