第67回

第66回第68回

昭和47年/1972年上半期 昭和47年/1972年7月19日決定発表／『オール讀物』昭和47年/1972年10月号選評掲載

選考委員　 司馬遼太郎 48歳 大佛次郎 74歳 石坂洋次郎 72歳 水上勉 53歳 川口松太郎 72歳 源氏鶏太 60歳 今日出海 68歳 柴田錬三郎 55歳 村上元三 62歳 松本清張 62歳 選評総行数　 64 50 52 33 45 47 46 49 52 55 評 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 綱淵謙錠　『斬（ざん）』 688枚 47歳 評 ◎ 35 ◎ 50 ○ 20 ○ 10 ◎ 13 △ 8 ◎ 9 □ 11 ○ 12 △ 15 井上ひさし　「手鎖心中」 111枚 37歳 評 ○ 24 ― 0 △ 6 ◎ 15 ● 12 △ 7 △ 18 □ 14 ○ 16 ◎ 28 筒井康隆　『家族八景』 348枚 37歳 評 △ 8 ― 0 ○ 22 ― 0 ■ 10 ○ 4 ― 0 ● 5 ● 9 ■ 12 阿部牧郎　「残酷な蜜月」 87枚 38歳 評 ― 0 ― 0 ○ 5 ― 0 ― 0 ◎ 5 ― 0 ― 0 ● 9 ― 0 加藤善也　「おきさ」 96枚 57歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ■ 4 ― 0 ○ 5 ― 0 ― 0 桂英澄　『寂光』 311枚 54歳 評 ― 0 ― 0 ■ 5 ○ 10 ○ 10 △ 6 ○ 13 ○ 9 △ 3 ― 0 難波利三　「地虫」 91枚 35歳 評 ― 0 ― 0 ◎ 9 △ 3 ― 0 ● 4 ― 0 ― 0 △ 8 ― 0 有明夏夫　「ＦＬ無宿のテーマ」 77枚 36歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ● 4 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 小山史夫　「中国語教えます」 135枚 55歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ● 4 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0                     年齢/枚数の説明   見方・注意点

司馬遼太郎48歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題三つの作品について　総行数64　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 綱淵謙錠 47歳 全 ◎ 35 「作品以前の創作態度の重厚さが、作品のなかにまで露わなほどに出ていて、読後いい作品に接したよろこびよりも、いまの世にこういう大真面目な創作態度をもつひとがいたのかという感動のほうが大きかった。」 井上ひさし 37歳 全 ○ 24 「うそのあざやかさには目をみはるおもいがした。作品そのものには多少の瑕瑾を指摘できるし、「斬」のように残るものではないであろう。しかしこれを書いた才腕の前には、たれもが叩頭せざるをえないのではないか。」 筒井康隆 37歳 全 △ 8 「家族という人間関係の機微を特殊な方法で描いた切れ味のいい作品だが、一般的に賞という、読んで骨身にこたえるような作品が気分として待たれがちなふんいきのなかにあっては、場ちがいであったかもしれない。」 阿部牧郎 38歳 全 ― 0   加藤善也 57歳 全 ― 0   桂英澄 54歳 全 ― 0   難波利三 35歳 全 ― 0   有明夏夫 36歳 全 ― 0   小山史夫 55歳 全 ― 0     「こんどは粒がそろっていた。」

他の選考委員 大佛次郎 石坂洋次郎 水上勉 川口松太郎 源氏鶏太 今日出海 柴田錬三郎 村上元三 松本清張

大佛次郎74歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題「斬」　総行数50　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 綱淵謙錠 47歳 全 ◎ 50 「稀れに見る優れた大作だと、敬意を覚えた。」「古代の流血劇ではなく、それから蝉脱したシェクスピアの作中の諸性格の重苦しい運命さえ感じさせる綿密で極めて自然な運びである。」 井上ひさし 37歳 全 ― 0   筒井康隆 37歳 全 ― 0   阿部牧郎 38歳 全 ― 0   加藤善也 57歳 全 ― 0   桂英澄 54歳 全 ― 0   難波利三 35歳 全 ― 0   有明夏夫 36歳 全 ― 0   小山史夫 55歳 全 ― 0	他の選考委員 司馬遼太郎 石坂洋次郎 水上勉 川口松太郎 源氏鶏太 今日出海 柴田錬三郎 村上元三 松本清張

石坂洋次郎72歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題新しい分野　総行数52　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 綱淵謙錠 47歳 全 ○ 20 「時勢の進展と共に、罪人の首を斬る自分の家業に自信を喪失していく主人公の心理は、小説の中でも新しい分野のものだと思った。」 井上ひさし 37歳 全 △ 6 「私は江戸末期の戯作及び戯作者に興味をもたないので、達者に書いてあるが強くは推せなかった。」 筒井康隆 37歳 全 ○ 22 「八景とも暗すぎるというので落ちてしまった。」「老人の私は、今夜の選者は九人だが、テレパスの七瀬（女主人公）が住みこんで「家族九景」を描いたら、明るい作品が出来るだろうかと、意地わるな空想をチラと走らせたりした。」 阿部牧郎 38歳 全 ○ 5 「下読みしながら、私は面白いと思った作品にマルじるしをつけていったが、（引用者中略）「残酷な蜜月」（引用者中略）などがそれだった。」 加藤善也 57歳 全 ― 0   桂英澄 54歳 全 ■ 5 「けれんのないいい作品だと思ったが、万骨塔を建立する主人公の描き方が地味すぎて少し物足りなかった。」 難波利三 35歳 全 ◎ 9 「いいと思ったが、大佛さんと私が最後まで推薦しただけで、途中で脱落してしまった。」 有明夏夫 36歳 全 ― 0   小山史夫 55歳 全 ― 0

他の選考委員 司馬遼太郎 大佛次郎 水上勉 川口松太郎 源氏鶏太 今日出海 柴田錬三郎 村上元三 松本清張

水上勉53歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題井上、綱淵、桂の快作　総行数33　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 綱淵謙錠 47歳 全 ○ 10 「めぐりあった題材を丹念にしあげて、その重厚さは候補作中で群をぬいたが、たとえば、素伝の心理の書き込みに不足している点が私に不満であった、だが、これとて堂々と受賞していい面目である。」 井上ひさし 37歳 全 ◎ 15 「「自分のことば」をもっている。」「軽妙にしてずっしりと重い。おそらく日本文壇は、何年ぶりかで、個性ゆたかな作家を得たといえる。」 筒井康隆 37歳 全 ― 0   阿部牧郎 38歳 全 ― 0   加藤善也 57歳 全 ― 0   桂英澄 54歳 全 ○ 10 「抑制のきいた文体で、歴史の隅に生きた人間に静かな光りをあたえ、その作家的態度に魅かれた。」「私には、忘れがたい作品の一つとなった。」 難波利三 35歳 全 △ 3 「好感のもてる世界だったが、以上三作（引用者注：「手鎖心中」「斬」「寂光」）に比して弱かった。） 有明夏夫 36歳 全 ― 0   小山史夫 55歳 全 ― 0     「今回は久しぶりに佳作群にめぐりあった感がふかい。」

他の選考委員 司馬遼太郎 大佛次郎 石坂洋次郎 川口松太郎 源氏鶏太 今日出海 柴田錬三郎 村上元三 松本清張

川口松太郎72歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題本格的伝記小説　総行数45　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 綱淵謙錠 47歳 全 ◎ 13 「いい作品だと思った。」「今まで誰も扱った事のない罪人の首を斬る瞬間のなまなましさがよく描けている。（引用者中略）その意味でもエポックな作品であった。」 井上ひさし 37歳 全 ● 12 「同君の作品の一つの頂点ではあるが、肝心なものが足らなかった。」「江戸時代の滑稽本なら大傑作だろうが現代の諷刺小説としては物足らなさを感じる。然し井上君の才能は認める。」 筒井康隆 37歳 全 ■ 10 「筒井君は既に作家として一家を成しているがまだ決定打が出ていない。水準に達してはいるが一頭地を抜いた作品が出ない。」「今一息の努力を待つ。」 阿部牧郎 38歳 全 ― 0   加藤善也 57歳 全 ― 0   桂英澄 54歳 全 ○ 10 「無駄は多いが維新史の陰に生きた一老人の生涯を誇張なくほどよい感傷的筆法で主人公への愛情がよく出ていた。」「無駄が傷になって推薦作に至らなかったのは残念だ。」 難波利三 35歳 全 ― 0   有明夏夫 36歳 全 ― 0   小山史夫 55歳 全 ― 0

他の選考委員 司馬遼太郎 大佛次郎 石坂洋次郎 水上勉 源氏鶏太 今日出海 柴田錬三郎 村上元三 松本清張

源氏鶏太60歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題惜しい「残酷な蜜月」　総行数47　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 綱淵謙錠 47歳 全 △ 8 「重厚な力作であった。」「ただ私にはいちばん凄い筈の最後の自分の弟を斬るところに嘘が感じられた。」 井上ひさし 37歳 全 △ 7 「面白いがもっと面白くなっていい作品という気がした。」「栄次郎の人間がうまく出ていない。いつもの軽妙さが欲しかった。」 筒井康隆 37歳 全 ○ 4 「テレパスを通じて人間の醜悪な面がよく現われていた。「亡母渇仰」と「日曜画家」には感心した。」 阿部牧郎 38歳 全 ◎ 5 「高く評価して出席したのだが大方の賛同を得られなくて残念であった。これはちゃんとした小説だし、殊に最後が印象的であった。」 加藤善也 57歳 全 ■ 4 「読んでいて仄仄と愉しい小説であったが、しかし、どこか古風であったことが難であろうか。」 桂英澄 54歳 全 △ 6 「誠実に生きた一人の人間の生涯を誠実に描いた作品であった。」「もっと荒荒しいパンチがあったらと思った。」 難波利三 35歳 全 ● 4 「終りになるほど面白くなっていくのだが、よくある話という気持から抜け切れなかった。」 有明夏夫 36歳 全 ● 4 「たしかにある種の可能性を感じさせるが、こういう描き方には類型があって損をしている。ヘソが欲しかった。」 小山史夫 55歳 全 ● 4 「なかなか軽妙で、このテーマはいいのだが、しかし、その面白さは中途半端に終っている。」

他の選考委員 司馬遼太郎 大佛次郎 石坂洋次郎 水上勉 川口松太郎 今日出海 柴田錬三郎 村上元三 松本清張

今日出海68歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題当選二作について　総行数46　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 綱淵謙錠 47歳 全 ◎ 9 「作品の質量ともにいかにも受賞作品の貫禄を備えて、堂々としていた。」 井上ひさし 37歳 全 △ 18 「井上氏は作品の重量などにはおよそ関心を払っていない作家らしい。それよりもむしろ軽さの中にエスプリの浸透を考えている側の人のようだ。」「軽妙な戯曲を既にいくらも発表し、定評のあることを知らされた。」「恐らく近く作者は直木賞作家として活躍を期待される人の一人になることだろう。」 筒井康隆 37歳 全 ― 0   阿部牧郎 38歳 全 ― 0   加藤善也 57歳 全 ― 0   桂英澄 54歳 全 ○ 13 「落着いたいい作品だった。小説的な起伏に稍々乏しいが、それだけに作者の仮構もなく、淡々と語って、主人公の老境への静けさが滲み出てもいた。」 難波利三 35歳 全 ― 0   有明夏夫 36歳 全 ― 0   小山史夫 55歳 全 ― 0     「他の候補作品は「斬」に比べて見劣りするかというと必ずしもそうとは云えぬので、その中からもう一篇採るかというと甲論乙駁になった。それほどどれも接近して、なかなかの佳作ぞろいだった。」

他の選考委員 司馬遼太郎 大佛次郎 石坂洋次郎 水上勉 川口松太郎 源氏鶏太 柴田錬三郎 村上元三 松本清張

柴田錬三郎55歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題力作ぞろい　総行数49　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 綱淵謙錠 47歳 全 □ 11 「べつに、私には異論はなかった。」「全力投球の力作」「欠点はある。（引用者中略）肝心の悪女素伝のおそろしさが、全く描けていない」 井上ひさし 37歳 全 □ 14 「べつに、私には異論はなかった。」「才華のほどを充分に発揮していた。」「欠点はある。（引用者中略）江戸爛熟期の風俗の調べがゆきとどかず、挿入の小唄が大正製であったりする不備があった。」 筒井康隆 37歳 全 ● 5 「すでに才人としてきこえているこの作家のものとしては、出来ばえに計算ちがいがあって、損をした。」 阿部牧郎 38歳 全 ― 0   加藤善也 57歳 全 ○ 5 「かなり高く評価する。これには、一人の東京の下町女がよく描かれている。」 桂英澄 54歳 全 ○ 9 「充分に、直木賞にあたいする力作である。」「幕末から明治にかけての変革期を生き抜いた一人の人物を、これだけ必死に描いた力作は、そうざらに見当るものではない。」 難波利三 35歳 全 ― 0   有明夏夫 36歳 全 ― 0   小山史夫 55歳 全 ― 0     「今回は、力作ぞろいであったことを、みとめる。」「私は、べつに、直木賞が、一期二人までの当選に限定する必要はなく、時としては、三人同時に出現してもいい、という気持がある。」

他の選考委員 司馬遼太郎 大佛次郎 石坂洋次郎 水上勉 川口松太郎 源氏鶏太 今日出海 村上元三 松本清張

村上元三62歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題対照的な二人　総行数52　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 綱淵謙錠 47歳 全 ○ 12 「こつこつと資料を漁った上でないと作品の書けない人だろうが、この「斬」は、資料が作品の中で消化し切れていない。しかし、こういう型の直木賞作家を得たのは、久しぶりのことであった。」 井上ひさし 37歳 全 ○ 16 「「手鎖心中」の才気が、本当に腰のすわったものになってくれればうれしいが、どうか落語の「酢豆腐」の若旦那のようにならないでほしい。」「直木賞に価する作品だし、作者は自信を持ってもらいたい。」 筒井康隆 37歳 全 ● 9 「いつものこの作家の軽快な筆致や才気が見られず、八つの話とも後味が悪い。」 阿部牧郎 38歳 全 ● 9 「「蛸と精鋭」を書いたあたりの面白さが、すっかり失われている。低俗にという意味ではなく、小説の面白さというものを、考え直してほしい。」 加藤善也 57歳 全 ― 0   桂英澄 54歳 全 △ 3 「才能は認めるが、この一作だけでは不安なので、次作を期待したい。」 難波利三 35歳 全 △ 8 「大阪のこういう題材は書きやすいのかも知れない。この作家が、器用さを抜けて、早く本物になってくれることを望みたい。」 有明夏夫 36歳 全 ― 0   小山史夫 55歳 全 ― 0

他の選考委員 司馬遼太郎 大佛次郎 石坂洋次郎 水上勉 川口松太郎 源氏鶏太 今日出海 柴田錬三郎 松本清張

松本清張62歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題大型作家の可能性　総行数55　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 綱淵謙錠 47歳 全 △ 15 「私はもう一回見送ってあとを待ちたかった。」「資料と小説的な描写とがどうもしっくり融合していない。」「資料に対するもう一つの追及と発見をも望みたい。」 井上ひさし 37歳 全 ◎ 28 「第一に推したのは、井上ひさし氏のこれまでの仕事を瞥見して、将来発展の可能性を大いに持ったからである。」「ふざけた小説だとみるのは皮相で、作者は戯作者の中に入って現代の「寛政」を見ている。」「大型作家になる可能性（これは可能性）は十分にある。」 筒井康隆 37歳 全 ■ 12 「家政婦の霊感と各家庭の描き方とがいささかちぐはぐな感じである。」「筆が少々リアリスティックで几帳面にすぎたと思う。私には前回の候補作で、未整理の面が多かったが、「アフリカの爆弾」の傾向にこの作家の本領があるように思う。」 阿部牧郎 38歳 全 ― 0   加藤善也 57歳 全 ― 0   桂英澄 54歳 全 ― 0   難波利三 35歳 全 ― 0   有明夏夫 36歳 全 ― 0   小山史夫 55歳 全 ― 0

他の選考委員 司馬遼太郎 大佛次郎 石坂洋次郎 水上勉 川口松太郎 源氏鶏太 今日出海 柴田錬三郎 村上元三

綱淵謙錠47歳×各選考委員　 『斬（ざん）』 長篇 688枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 司馬遼太郎 48歳 全 ◎ 35 「作品以前の創作態度の重厚さが、作品のなかにまで露わなほどに出ていて、読後いい作品に接したよろこびよりも、いまの世にこういう大真面目な創作態度をもつひとがいたのかという感動のほうが大きかった。」 大佛次郎 74歳 全 ◎ 50 「稀れに見る優れた大作だと、敬意を覚えた。」「古代の流血劇ではなく、それから蝉脱したシェクスピアの作中の諸性格の重苦しい運命さえ感じさせる綿密で極めて自然な運びである。」 石坂洋次郎 72歳 全 ○ 20 「時勢の進展と共に、罪人の首を斬る自分の家業に自信を喪失していく主人公の心理は、小説の中でも新しい分野のものだと思った。」 水上勉 53歳 全 ○ 10 「めぐりあった題材を丹念にしあげて、その重厚さは候補作中で群をぬいたが、たとえば、素伝の心理の書き込みに不足している点が私に不満であった、だが、これとて堂々と受賞していい面目である。」 川口松太郎 72歳 全 ◎ 13 「いい作品だと思った。」「今まで誰も扱った事のない罪人の首を斬る瞬間のなまなましさがよく描けている。（引用者中略）その意味でもエポックな作品であった。」 源氏鶏太 60歳 全 △ 8 「重厚な力作であった。」「ただ私にはいちばん凄い筈の最後の自分の弟を斬るところに嘘が感じられた。」 今日出海 68歳 全 ◎ 9 「作品の質量ともにいかにも受賞作品の貫禄を備えて、堂々としていた。」 柴田錬三郎 55歳 全 □ 11 「べつに、私には異論はなかった。」「全力投球の力作」「欠点はある。（引用者中略）肝心の悪女素伝のおそろしさが、全く描けていない」 村上元三 62歳 全 ○ 12 「こつこつと資料を漁った上でないと作品の書けない人だろうが、この「斬」は、資料が作品の中で消化し切れていない。しかし、こういう型の直木賞作家を得たのは、久しぶりのことであった。」 松本清張 62歳 全 △ 15 「私はもう一回見送ってあとを待ちたかった。」「資料と小説的な描写とがどうもしっくり融合していない。」「資料に対するもう一つの追及と発見をも望みたい。」

他の候補作 井上ひさし 「手鎖心中」 筒井康隆 『家族八景』 阿部牧郎 「残酷な蜜月」 加藤善也 「おきさ」 桂英澄 『寂光』 難波利三 「地虫」 有明夏夫 「ＦＬ無宿のテーマ」 小山史夫 「中国語教えます」

井上ひさし37歳×各選考委員　 「手鎖心中」 短篇 111枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 司馬遼太郎 48歳 全 ○ 24 「うそのあざやかさには目をみはるおもいがした。作品そのものには多少の瑕瑾を指摘できるし、「斬」のように残るものではないであろう。しかしこれを書いた才腕の前には、たれもが叩頭せざるをえないのではないか。」 大佛次郎 74歳 全 ― 0   石坂洋次郎 72歳 全 △ 6 「私は江戸末期の戯作及び戯作者に興味をもたないので、達者に書いてあるが強くは推せなかった。」 水上勉 53歳 全 ◎ 15 「「自分のことば」をもっている。」「軽妙にしてずっしりと重い。おそらく日本文壇は、何年ぶりかで、個性ゆたかな作家を得たといえる。」 川口松太郎 72歳 全 ● 12 「同君の作品の一つの頂点ではあるが、肝心なものが足らなかった。」「江戸時代の滑稽本なら大傑作だろうが現代の諷刺小説としては物足らなさを感じる。然し井上君の才能は認める。」 源氏鶏太 60歳 全 △ 7 「面白いがもっと面白くなっていい作品という気がした。」「栄次郎の人間がうまく出ていない。いつもの軽妙さが欲しかった。」 今日出海 68歳 全 △ 18 「井上氏は作品の重量などにはおよそ関心を払っていない作家らしい。それよりもむしろ軽さの中にエスプリの浸透を考えている側の人のようだ。」「軽妙な戯曲を既にいくらも発表し、定評のあることを知らされた。」「恐らく近く作者は直木賞作家として活躍を期待される人の一人になることだろう。」 柴田錬三郎 55歳 全 □ 14 「べつに、私には異論はなかった。」「才華のほどを充分に発揮していた。」「欠点はある。（引用者中略）江戸爛熟期の風俗の調べがゆきとどかず、挿入の小唄が大正製であったりする不備があった。」 村上元三 62歳 全 ○ 16 「「手鎖心中」の才気が、本当に腰のすわったものになってくれればうれしいが、どうか落語の「酢豆腐」の若旦那のようにならないでほしい。」「直木賞に価する作品だし、作者は自信を持ってもらいたい。」 松本清張 62歳 全 ◎ 28 「第一に推したのは、井上ひさし氏のこれまでの仕事を瞥見して、将来発展の可能性を大いに持ったからである。」「ふざけた小説だとみるのは皮相で、作者は戯作者の中に入って現代の「寛政」を見ている。」「大型作家になる可能性（これは可能性）は十分にある。」

他の候補作 綱淵謙錠 『斬（ざん）』 筒井康隆 『家族八景』 阿部牧郎 「残酷な蜜月」 加藤善也 「おきさ」 桂英澄 『寂光』 難波利三 「地虫」 有明夏夫 「ＦＬ無宿のテーマ」 小山史夫 「中国語教えます」

筒井康隆37歳×各選考委員　 『家族八景』 連作長篇 348枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 司馬遼太郎 48歳 全 △ 8 「家族という人間関係の機微を特殊な方法で描いた切れ味のいい作品だが、一般的に賞という、読んで骨身にこたえるような作品が気分として待たれがちなふんいきのなかにあっては、場ちがいであったかもしれない。」 大佛次郎 74歳 全 ― 0   石坂洋次郎 72歳 全 ○ 22 「八景とも暗すぎるというので落ちてしまった。」「老人の私は、今夜の選者は九人だが、テレパスの七瀬（女主人公）が住みこんで「家族九景」を描いたら、明るい作品が出来るだろうかと、意地わるな空想をチラと走らせたりした。」 水上勉 53歳 全 ― 0   川口松太郎 72歳 全 ■ 10 「筒井君は既に作家として一家を成しているがまだ決定打が出ていない。水準に達してはいるが一頭地を抜いた作品が出ない。」「今一息の努力を待つ。」 源氏鶏太 60歳 全 ○ 4 「テレパスを通じて人間の醜悪な面がよく現われていた。「亡母渇仰」と「日曜画家」には感心した。」 今日出海 68歳 全 ― 0   柴田錬三郎 55歳 全 ● 5 「すでに才人としてきこえているこの作家のものとしては、出来ばえに計算ちがいがあって、損をした。」 村上元三 62歳 全 ● 9 「いつものこの作家の軽快な筆致や才気が見られず、八つの話とも後味が悪い。」 松本清張 62歳 全 ■ 12 「家政婦の霊感と各家庭の描き方とがいささかちぐはぐな感じである。」「筆が少々リアリスティックで几帳面にすぎたと思う。私には前回の候補作で、未整理の面が多かったが、「アフリカの爆弾」の傾向にこの作家の本領があるように思う。」

他の候補作 綱淵謙錠 『斬（ざん）』 井上ひさし 「手鎖心中」 阿部牧郎 「残酷な蜜月」 加藤善也 「おきさ」 桂英澄 『寂光』 難波利三 「地虫」 有明夏夫 「ＦＬ無宿のテーマ」 小山史夫 「中国語教えます」

阿部牧郎38歳×各選考委員　 「残酷な蜜月」 短篇 87枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 司馬遼太郎 48歳 全 ― 0   大佛次郎 74歳 全 ― 0   石坂洋次郎 72歳 全 ○ 5 「下読みしながら、私は面白いと思った作品にマルじるしをつけていったが、（引用者中略）「残酷な蜜月」（引用者中略）などがそれだった。」 水上勉 53歳 全 ― 0   川口松太郎 72歳 全 ― 0   源氏鶏太 60歳 全 ◎ 5 「高く評価して出席したのだが大方の賛同を得られなくて残念であった。これはちゃんとした小説だし、殊に最後が印象的であった。」 今日出海 68歳 全 ― 0   柴田錬三郎 55歳 全 ― 0   村上元三 62歳 全 ● 9 「「蛸と精鋭」を書いたあたりの面白さが、すっかり失われている。低俗にという意味ではなく、小説の面白さというものを、考え直してほしい。」 松本清張 62歳 全 ― 0	他の候補作 綱淵謙錠 『斬（ざん）』 井上ひさし 「手鎖心中」 筒井康隆 『家族八景』 加藤善也 「おきさ」 桂英澄 『寂光』 難波利三 「地虫」 有明夏夫 「ＦＬ無宿のテーマ」 小山史夫 「中国語教えます」

加藤善也57歳×各選考委員　 「おきさ」 短篇 96枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 司馬遼太郎 48歳 全 ― 0   大佛次郎 74歳 全 ― 0   石坂洋次郎 72歳 全 ― 0   水上勉 53歳 全 ― 0   川口松太郎 72歳 全 ― 0   源氏鶏太 60歳 全 ■ 4 「読んでいて仄仄と愉しい小説であったが、しかし、どこか古風であったことが難であろうか。」 今日出海 68歳 全 ― 0   柴田錬三郎 55歳 全 ○ 5 「かなり高く評価する。これには、一人の東京の下町女がよく描かれている。」 村上元三 62歳 全 ― 0   松本清張 62歳 全 ― 0	他の候補作 綱淵謙錠 『斬（ざん）』 井上ひさし 「手鎖心中」 筒井康隆 『家族八景』 阿部牧郎 「残酷な蜜月」 桂英澄 『寂光』 難波利三 「地虫」 有明夏夫 「ＦＬ無宿のテーマ」 小山史夫 「中国語教えます」

桂英澄54歳×各選考委員　 『寂光』 長篇 311枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 司馬遼太郎 48歳 全 ― 0   大佛次郎 74歳 全 ― 0   石坂洋次郎 72歳 全 ■ 5 「けれんのないいい作品だと思ったが、万骨塔を建立する主人公の描き方が地味すぎて少し物足りなかった。」 水上勉 53歳 全 ○ 10 「抑制のきいた文体で、歴史の隅に生きた人間に静かな光りをあたえ、その作家的態度に魅かれた。」「私には、忘れがたい作品の一つとなった。」 川口松太郎 72歳 全 ○ 10 「無駄は多いが維新史の陰に生きた一老人の生涯を誇張なくほどよい感傷的筆法で主人公への愛情がよく出ていた。」「無駄が傷になって推薦作に至らなかったのは残念だ。」 源氏鶏太 60歳 全 △ 6 「誠実に生きた一人の人間の生涯を誠実に描いた作品であった。」「もっと荒荒しいパンチがあったらと思った。」 今日出海 68歳 全 ○ 13 「落着いたいい作品だった。小説的な起伏に稍々乏しいが、それだけに作者の仮構もなく、淡々と語って、主人公の老境への静けさが滲み出てもいた。」 柴田錬三郎 55歳 全 ○ 9 「充分に、直木賞にあたいする力作である。」「幕末から明治にかけての変革期を生き抜いた一人の人物を、これだけ必死に描いた力作は、そうざらに見当るものではない。」 村上元三 62歳 全 △ 3 「才能は認めるが、この一作だけでは不安なので、次作を期待したい。」 松本清張 62歳 全 ― 0

他の候補作 綱淵謙錠 『斬（ざん）』 井上ひさし 「手鎖心中」 筒井康隆 『家族八景』 阿部牧郎 「残酷な蜜月」 加藤善也 「おきさ」 難波利三 「地虫」 有明夏夫 「ＦＬ無宿のテーマ」 小山史夫 「中国語教えます」

難波利三35歳×各選考委員　 「地虫」 短篇 91枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 司馬遼太郎 48歳 全 ― 0   大佛次郎 74歳 全 ― 0   石坂洋次郎 72歳 全 ◎ 9 「いいと思ったが、大佛さんと私が最後まで推薦しただけで、途中で脱落してしまった。」 水上勉 53歳 全 △ 3 「好感のもてる世界だったが、以上三作（引用者注：「手鎖心中」「斬」「寂光」）に比して弱かった。） 川口松太郎 72歳 全 ― 0   源氏鶏太 60歳 全 ● 4 「終りになるほど面白くなっていくのだが、よくある話という気持から抜け切れなかった。」 今日出海 68歳 全 ― 0   柴田錬三郎 55歳 全 ― 0   村上元三 62歳 全 △ 8 「大阪のこういう題材は書きやすいのかも知れない。この作家が、器用さを抜けて、早く本物になってくれることを望みたい。」 松本清張 62歳 全 ― 0	他の候補作 綱淵謙錠 『斬（ざん）』 井上ひさし 「手鎖心中」 筒井康隆 『家族八景』 阿部牧郎 「残酷な蜜月」 加藤善也 「おきさ」 桂英澄 『寂光』 有明夏夫 「ＦＬ無宿のテーマ」 小山史夫 「中国語教えます」

有明夏夫36歳×各選考委員　 「ＦＬ無宿のテーマ」 短篇 77枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 司馬遼太郎 48歳 全 ― 0   大佛次郎 74歳 全 ― 0   石坂洋次郎 72歳 全 ― 0   水上勉 53歳 全 ― 0   川口松太郎 72歳 全 ― 0   源氏鶏太 60歳 全 ● 4 「たしかにある種の可能性を感じさせるが、こういう描き方には類型があって損をしている。ヘソが欲しかった。」 今日出海 68歳 全 ― 0   柴田錬三郎 55歳 全 ― 0   村上元三 62歳 全 ― 0   松本清張 62歳 全 ― 0	他の候補作 綱淵謙錠 『斬（ざん）』 井上ひさし 「手鎖心中」 筒井康隆 『家族八景』 阿部牧郎 「残酷な蜜月」 加藤善也 「おきさ」 桂英澄 『寂光』 難波利三 「地虫」 小山史夫 「中国語教えます」

小山史夫55歳×各選考委員　 「中国語教えます」 短篇 135枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 司馬遼太郎 48歳 全 ― 0   大佛次郎 74歳 全 ― 0   石坂洋次郎 72歳 全 ― 0   水上勉 53歳 全 ― 0   川口松太郎 72歳 全 ― 0   源氏鶏太 60歳 全 ● 4 「なかなか軽妙で、このテーマはいいのだが、しかし、その面白さは中途半端に終っている。」 今日出海 68歳 全 ― 0   柴田錬三郎 55歳 全 ― 0   村上元三 62歳 全 ― 0   松本清張 62歳 全 ― 0	他の候補作 綱淵謙錠 『斬（ざん）』 井上ひさし 「手鎖心中」 筒井康隆 『家族八景』 阿部牧郎 「残酷な蜜月」 加藤善也 「おきさ」 桂英澄 『寂光』 難波利三 「地虫」 有明夏夫 「ＦＬ無宿のテーマ」