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平成9年/1997年度
(平成10年/1998年5月13日決定発表/『小説新潮』平成10年/1998年7月号選評掲載)
選考委員  阿刀田高
男63歳
井上ひさし
男63歳
逢坂剛
男54歳
長部日出雄
男63歳
山田太一
男63歳
選評総行数  175 205 189 159 161
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
梁石日 『血と骨』
男61歳
27 46 53 40 35
東郷隆 『そは何者』
男46歳
29 31 19 22 17
花村萬月 『鬱―うつ―』
男43歳
20 23 16 30 32
佐藤多佳子 『しゃべれども しゃべれども』
女35歳
28 39 44 21 21
重松清 『ナイフ』
男35歳
45 36 30 24 30
瀬名秀明 『BRAIN VALLEY』
男30歳
23 28 38 22 26
         
年齢の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『小説新潮』平成10年/1998年7月号
1行当たりの文字数:19字


選考委員
阿刀田高男63歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
総行数175 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
梁石日
男61歳
27 4.5点「主人公はとても好きになれない人物ですけど、こういう父親を書くことによって、(引用者中略)人間とは何かという問題を提示している、」「小説技法的には弱点がずいぶんあると思いますけれども、それを言う小説じゃないというのは、逢坂さんとまったく同意見です。」
東郷隆
男46歳
29 3.5点「ナゾ解きのような面白さがポイントになっているこういう作品を、短篇小説としてあんまり高く評価してはいけないかな、という気もしました。」「二つの点において疑念を抱きました。一つは、「あとがき」に書いていらっしゃることが小説の中で生きていない。」「もう一つは、時代考証が……何と言うか、ベタなんですね。」
花村萬月
男43歳
20 4点「この作家は、登場人物がこういう状況にあったならば、まずこのぐらいのことはあって当然という人物の内なる必然性においてセックスを書いているので、過激で露骨なものでも嫌らしくない。」「小説としての姿なんか無視しちゃって、きわめて饒舌に、とにかくこれだけは言いたいということを全部、それも抑制をなくしてお書きになっている。」「構造がまずいんじゃないでしょうか。」
佐藤多佳子
女35歳
28 4点「作品自体も質のいい小説ですが、評価を受ければ、さらにこの方はいろいろ挑戦をして、大きく伸びてくれる可能性を感じます。」「童話のもつ善意とか爽やかさ、軽さみたいなものがこの小説にあるけれども、大人の小説には、もう少し別なものも欲しいんだなというようなことも感じました。」
重松清
男35歳
45 3.5点「だんだん小説が小さくなってきているような気がしました。」「一番物足りないのは、こういう短篇集という方法ではなく、この短篇集で書いている全体を一つの坩堝の中で戦わせてほしかった。」「短篇にばらして一つ一つ書いちゃうと、小さな、広がりのない話になっていくと思うんですね。」「短篇として見た時に、終わりが非常に弱い作品がいくつかありますね。」
瀬名秀明
男30歳
23 3点「小説とはどういうものかということを、さらに真剣に考えていただきたい。」「人物の設定や、小説としての構成のバランスに、まだ不十分なところがあるなという気がいたしました。」「この作品は、九割方つくっといて、あと一割ぐらいはなんか別のところに預けているような感じがするんです。」
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他の選考委員
井上ひさし
逢坂剛
長部日出雄
山田太一
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選考委員
井上ひさし男63歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
総行数205 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
梁石日
男61歳
46 5点「欠点がめちゃくちゃに多い作品です。」「そういうたくさんの欠点をふっ飛ばす大きな力があります。主人公に人間の運命というものがくっきりと刻み込まれている。」「読む者をぐいぐいと引っ張っていく不思議な、しかし原初的な力があります。」「たとえ小説技法が下手でも、いい小説は成立するという真理が確立したような気がします。」
東郷隆
男46歳
31 3.5点「登場する作家たちの作品を徹底的に調べ上げて、それぞれの文章の呼吸をうつしながら、雰囲気を伝える技術には素晴しいものがあります。」「ただ、泉鏡花や永井荷風がむこう側、あやかしの世界につながる者だったというのには、疑問を持たざるを得ない。」「僕も「学生」というのは秀逸な作品だと思いました。各篇をこういう形で展開してほしかった。」
花村萬月
男43歳
23 4点「キリスト教をちらつかせながら話を進めていくのですが、どうしてキリスト教なのか私にはよくわからなかった。」「作法にとらわれずに、めちゃくちゃやってみようという意欲を買って、三点に一点を足しました。」「書いていくうちに設計がかわって、最後で結論を出しそこなっているところなぞは、私のような旧人から見ると微笑ましい。」
佐藤多佳子
女35歳
39 3.5点「すべて予定調和の見本のような感じを持ちました。」「全体に作者の都合のよいような危機が多いですね。作者の計算が見えすぎるのではないでしょうか。」「ただ一人、それを乱したのが、湯河原太一という毒舌家の野球解説者で、私にはたいへん新鮮だった」「言葉についての突き詰め方がゆるい。」
重松清
男35歳
36 4点「主題が統一されていて、しっかりしたいい文章ですが、ちょっと人工的に小説をこしらえるところが、それが好きな読者にはいいでしょうが、私にはちょっとクサイという感じがしました。作品の中で完全に扱いきれない仕掛けをちらつかせるところも疑問です。」
瀬名秀明
男30歳
28 3.5点「失礼なことを言いますが、下手な小説です。ものすごいテーマが続々出てくるのですが、それがどうも一つにまとまらない。」「テーマに細部が負けている。」「大テーマをまとめるために、結局は民俗学へ戻ってみたり、なにもかも竜頭蛇尾に終わっているような気がします。」
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他の選考委員
阿刀田高
逢坂剛
長部日出雄
山田太一
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選考委員
逢坂剛男54歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
総行数189 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
梁石日
男61歳
53 4点「どういう観点から分析し評価するかで、点数が変わってくるだろうと思うんです。」「全然退屈させない、これほどの力と、エネルギーを感じさせる作品というのは、そうはないわけですね。」「一番生々しく書けているお父さんが、小説的な人物として昇華しきれていないところに、不満が残ります。」「この作品を書いたあとどういう方向へ進むのか、見えにくいという不安もあります。」
東郷隆
男46歳
19 4点「手練の作品集、と感じました。」「構成を変えていろいろと飽きさせない工夫がなされているんですが、続けて読むと、同工異曲の感が免れず、くたびれてくるというところがあります。」「「伊豆の踊子」を、のちの踊子の視点から書いた「学生」というのが、この中の白眉ですね。」「二作(引用者注:「学生」「疽」)以外は印象が薄くて、面白さのヘソになるものが明確に伝わってこない。」
花村萬月
男43歳
16 3.5点「「鬱」はエンターテインメントではないんですね。自分の文学的要請を満足させるもので、多くの読者に、一字一句まで楽しんで満足してほしい、というふうには書かれていない。(引用者中略)純文学的な手法、といってもいいかもしれません。」「ちょっと目指す方向が違ってきたのかな、という感じがします。」
佐藤多佳子
女35歳
44 4.5点「この小説は、非常に清々しい作品なんですね。」「文章が洒落ていてうまい。」「登場人物の書き分けの見事さも、全候補作の中で一番だろうと思います。ただし、この人に悪人が書けるかどうか、私はちょっと不安があったんで、本当は五点をつけてもよかったんですけれども……。」
重松清
男35歳
30 4点「「ビタースィート・ホーム」以外の四編は、同工異曲ですね。いじめを、子供側からするとゲームだと規定して、それをルールのようにしてどの話も進めていくのは、見方が狭いんじゃないかと思います。」「四つも五つも分けて書いてしまったところに、この作品集のインパクトの弱さを感じました。」「読後感をよくするためか、かえって蛇足が多い。」
瀬名秀明
男30歳
38 3点「この結論を得るのに、巻末の膨大な参考文献と、これだけの原稿の量が必要だったとは、とても私には思えません。」「期待しているぶん、あえて厳しいことをいいますけれども、これは情報はあるけれども、人間のない小説ですね。」「学術論文としては、また別の読み方ができるのかもしれませんが、小説としては残念ながら買えない。」
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他の選考委員
阿刀田高
井上ひさし
長部日出雄
山田太一
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選考委員
長部日出雄男63歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
総行数159 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
梁石日
男61歳
40 5点「日本語でこれほど強烈極まりない人間像が描かれたのは初めてじゃないでしょうか。」「私もこの主人公は神話的人物、神話的原型であると思いました。」「日本語で書かれた世界文学の誕生と言ってもいいんじゃないでしょうか。」
東郷隆
男46歳
22 3.5点「全体に知識と考証と幻想のアラベスクという印象を受けました。読者としては、次から次へと出てくる知的な装飾に気をとられて、小説の核心の面白さのところになかなか入り込めない。理知の働きによる考証と、意識化の古層に潜む人間の原初的な感情に訴える怪談とはあまり相性がよくないんじゃないでしょうか。」
花村萬月
男43歳
30 3.5点「小説について語られる小説というメタフィクションで、なかなか意欲的なわけですけれども、どうも観念が先行しているんですね。」「他者というものがまるっきり出てこない。(引用者中略)つまり、ここには一人の人間しか出てこないんですね。」「この人の筆にはなかなかの腕力がありまして、この作風に他者が登場してきた時には、どうなるだろうかという期待をもたせるんです。」
佐藤多佳子
女35歳
21 4点「世間的にはうまくいかない登場人物の、それぞれの個性と魅力がちゃんと書き分けられている。これは高く評価していいことだろうと思います。」「僕はこの作品は成功作だと思いました。古風な人間と、古風な恋愛というものを書いて、それが新鮮に感じられるというところがこの作品の一番いいところだと思います。」
重松清
男35歳
24 4.5点「僕は「見張り塔からずっと」をあまり評価してなくて、今度はほんとに感心しました。(引用者中略)自分の鑑賞眼のなさを恥じたくらい。」「現代の重要で深刻なテーマを描きながら、しかも重苦しくならない。そしてラストにかすかな希望の曙光を感じさせる。それが偽善的でも公式的でもない。」「実に斬新で軽快で、洗練された社会派が登場したと思って、この作品集は高く評価したいと思います。」
瀬名秀明
男30歳
22 4.5点「知識と情報が氾濫していて、小説的な境地の中になかなか入り込めない。」「この人は、やっぱり可能性があると思うんですね。後半にあらわれてきた、この作者がもともと持っている筆力と可能性と、壮大な実験をした意図を買って、上巻では難行苦行でしたが、将来への期待を込めて四・五としたいと思います。」
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他の選考委員
阿刀田高
井上ひさし
逢坂剛
山田太一
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選考委員
山田太一男63歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
総行数161 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
梁石日
男61歳
35 4.5点「フィクションの面白さと、作者らしい人物の幼年期の日常の思い出などが盛り込まれて未整理という印象があり、(引用者中略)小説でなくノンフィクションで書かれたほうがよかったんじゃないかなと思いました。」「北朝鮮を最後に信じて行くところなんか悲しくて、とてもいいし、凄い作品だとは思います。」「これだけの素材をガンと出されれば、たいていの小説はふっ飛んでしまう。」
東郷隆
男46歳
17 3.5点「これは一種の薀蓄ものですね。薀蓄を楽しむ人にはひとつひとつ思いあたって楽しいとおもいます。」「僕は東郷さんの、こういうパロディー風ではないものを読みたいと願いました。」
花村萬月
男43歳
32 3.5点「花村さんはエンターテインメントの賞で批評されることは不本意なんじゃないでしょうか。」「未整理の青臭さ、恥ずかしさ、ナイーブさ、不自由さに、若い頃の文学青年のリアリティを感じはしましたが、どうも素材を読まされているという印象です。」「この作品についてはどうも狙いが分かりませんし、共感もできませんでした。」
佐藤多佳子
女35歳
21 4点「いろいろな事が大して深刻でもなく解決していってしまう。一年間の物語として、ちょっと曲がないような気がしました。」「どうもみんなほどほどに終わってしまう。それなりに楽しく読んだんですけれども、こういうレースの中で戦うには、インパクトが弱いと思いました。」
重松清
男35歳
30 5点「小説としては、私は今度の候補作中ベストだと思いました。」「本来どれも非常に陰気な話で、それを、これだけあれこれ工夫して面白く読ませています。多少頑固なところや小説的な仕掛けのあざとさがあっても、許されると思いました。」
瀬名秀明
男30歳
26 4.5点「非常に知的で壮大なテーマを持つ物語で、着想はとても楽しみました。」「最後に神が出現するあたりになって、どれもがいわば脳の中の幻覚であるというふうになってくると、どうも説得され難い。」「わりあい深度のない単調な人物しかいない。」「小説としての面白さということになると、残念ながら疑問が大きく残りました。」
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他の選考委員
阿刀田高
井上ひさし
逢坂剛
長部日出雄
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受賞者・作品
梁石日男61歳×各選考委員 
『血と骨』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
阿刀田高
男63歳
27 4.5点「主人公はとても好きになれない人物ですけど、こういう父親を書くことによって、(引用者中略)人間とは何かという問題を提示している、」「小説技法的には弱点がずいぶんあると思いますけれども、それを言う小説じゃないというのは、逢坂さんとまったく同意見です。」
井上ひさし
男63歳
46 5点「欠点がめちゃくちゃに多い作品です。」「そういうたくさんの欠点をふっ飛ばす大きな力があります。主人公に人間の運命というものがくっきりと刻み込まれている。」「読む者をぐいぐいと引っ張っていく不思議な、しかし原初的な力があります。」「たとえ小説技法が下手でも、いい小説は成立するという真理が確立したような気がします。」
逢坂剛
男54歳
53 4点「どういう観点から分析し評価するかで、点数が変わってくるだろうと思うんです。」「全然退屈させない、これほどの力と、エネルギーを感じさせる作品というのは、そうはないわけですね。」「一番生々しく書けているお父さんが、小説的な人物として昇華しきれていないところに、不満が残ります。」「この作品を書いたあとどういう方向へ進むのか、見えにくいという不安もあります。」
長部日出雄
男63歳
40 5点「日本語でこれほど強烈極まりない人間像が描かれたのは初めてじゃないでしょうか。」「私もこの主人公は神話的人物、神話的原型であると思いました。」「日本語で書かれた世界文学の誕生と言ってもいいんじゃないでしょうか。」
山田太一
男63歳
35 4.5点「フィクションの面白さと、作者らしい人物の幼年期の日常の思い出などが盛り込まれて未整理という印象があり、(引用者中略)小説でなくノンフィクションで書かれたほうがよかったんじゃないかなと思いました。」「北朝鮮を最後に信じて行くところなんか悲しくて、とてもいいし、凄い作品だとは思います。」「これだけの素材をガンと出されれば、たいていの小説はふっ飛んでしまう。」
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他の候補作
東郷隆
『そは何者』
花村萬月
『鬱―うつ―』
佐藤多佳子
『しゃべれども しゃべれども』
重松清
『ナイフ』
瀬名秀明
『BRAIN VALLEY』
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候補者・作品
東郷隆男46歳×各選考委員 
『そは何者』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
阿刀田高
男63歳
29 3.5点「ナゾ解きのような面白さがポイントになっているこういう作品を、短篇小説としてあんまり高く評価してはいけないかな、という気もしました。」「二つの点において疑念を抱きました。一つは、「あとがき」に書いていらっしゃることが小説の中で生きていない。」「もう一つは、時代考証が……何と言うか、ベタなんですね。」
井上ひさし
男63歳
31 3.5点「登場する作家たちの作品を徹底的に調べ上げて、それぞれの文章の呼吸をうつしながら、雰囲気を伝える技術には素晴しいものがあります。」「ただ、泉鏡花や永井荷風がむこう側、あやかしの世界につながる者だったというのには、疑問を持たざるを得ない。」「僕も「学生」というのは秀逸な作品だと思いました。各篇をこういう形で展開してほしかった。」
逢坂剛
男54歳
19 4点「手練の作品集、と感じました。」「構成を変えていろいろと飽きさせない工夫がなされているんですが、続けて読むと、同工異曲の感が免れず、くたびれてくるというところがあります。」「「伊豆の踊子」を、のちの踊子の視点から書いた「学生」というのが、この中の白眉ですね。」「二作(引用者注:「学生」「疽」)以外は印象が薄くて、面白さのヘソになるものが明確に伝わってこない。」
長部日出雄
男63歳
22 3.5点「全体に知識と考証と幻想のアラベスクという印象を受けました。読者としては、次から次へと出てくる知的な装飾に気をとられて、小説の核心の面白さのところになかなか入り込めない。理知の働きによる考証と、意識化の古層に潜む人間の原初的な感情に訴える怪談とはあまり相性がよくないんじゃないでしょうか。」
山田太一
男63歳
17 3.5点「これは一種の薀蓄ものですね。薀蓄を楽しむ人にはひとつひとつ思いあたって楽しいとおもいます。」「僕は東郷さんの、こういうパロディー風ではないものを読みたいと願いました。」
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他の候補作
梁石日
『血と骨』
花村萬月
『鬱―うつ―』
佐藤多佳子
『しゃべれども しゃべれども』
重松清
『ナイフ』
瀬名秀明
『BRAIN VALLEY』
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候補者・作品
花村萬月男43歳×各選考委員 
『鬱―うつ―』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
阿刀田高
男63歳
20 4点「この作家は、登場人物がこういう状況にあったならば、まずこのぐらいのことはあって当然という人物の内なる必然性においてセックスを書いているので、過激で露骨なものでも嫌らしくない。」「小説としての姿なんか無視しちゃって、きわめて饒舌に、とにかくこれだけは言いたいということを全部、それも抑制をなくしてお書きになっている。」「構造がまずいんじゃないでしょうか。」
井上ひさし
男63歳
23 4点「キリスト教をちらつかせながら話を進めていくのですが、どうしてキリスト教なのか私にはよくわからなかった。」「作法にとらわれずに、めちゃくちゃやってみようという意欲を買って、三点に一点を足しました。」「書いていくうちに設計がかわって、最後で結論を出しそこなっているところなぞは、私のような旧人から見ると微笑ましい。」
逢坂剛
男54歳
16 3.5点「「鬱」はエンターテインメントではないんですね。自分の文学的要請を満足させるもので、多くの読者に、一字一句まで楽しんで満足してほしい、というふうには書かれていない。(引用者中略)純文学的な手法、といってもいいかもしれません。」「ちょっと目指す方向が違ってきたのかな、という感じがします。」
長部日出雄
男63歳
30 3.5点「小説について語られる小説というメタフィクションで、なかなか意欲的なわけですけれども、どうも観念が先行しているんですね。」「他者というものがまるっきり出てこない。(引用者中略)つまり、ここには一人の人間しか出てこないんですね。」「この人の筆にはなかなかの腕力がありまして、この作風に他者が登場してきた時には、どうなるだろうかという期待をもたせるんです。」
山田太一
男63歳
32 3.5点「花村さんはエンターテインメントの賞で批評されることは不本意なんじゃないでしょうか。」「未整理の青臭さ、恥ずかしさ、ナイーブさ、不自由さに、若い頃の文学青年のリアリティを感じはしましたが、どうも素材を読まされているという印象です。」「この作品についてはどうも狙いが分かりませんし、共感もできませんでした。」
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他の候補作
梁石日
『血と骨』
東郷隆
『そは何者』
佐藤多佳子
『しゃべれども しゃべれども』
重松清
『ナイフ』
瀬名秀明
『BRAIN VALLEY』
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候補者・作品
佐藤多佳子女35歳×各選考委員 
『しゃべれども しゃべれども』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
阿刀田高
男63歳
28 4点「作品自体も質のいい小説ですが、評価を受ければ、さらにこの方はいろいろ挑戦をして、大きく伸びてくれる可能性を感じます。」「童話のもつ善意とか爽やかさ、軽さみたいなものがこの小説にあるけれども、大人の小説には、もう少し別なものも欲しいんだなというようなことも感じました。」
井上ひさし
男63歳
39 3.5点「すべて予定調和の見本のような感じを持ちました。」「全体に作者の都合のよいような危機が多いですね。作者の計算が見えすぎるのではないでしょうか。」「ただ一人、それを乱したのが、湯河原太一という毒舌家の野球解説者で、私にはたいへん新鮮だった」「言葉についての突き詰め方がゆるい。」
逢坂剛
男54歳
44 4.5点「この小説は、非常に清々しい作品なんですね。」「文章が洒落ていてうまい。」「登場人物の書き分けの見事さも、全候補作の中で一番だろうと思います。ただし、この人に悪人が書けるかどうか、私はちょっと不安があったんで、本当は五点をつけてもよかったんですけれども……。」
長部日出雄
男63歳
21 4点「世間的にはうまくいかない登場人物の、それぞれの個性と魅力がちゃんと書き分けられている。これは高く評価していいことだろうと思います。」「僕はこの作品は成功作だと思いました。古風な人間と、古風な恋愛というものを書いて、それが新鮮に感じられるというところがこの作品の一番いいところだと思います。」
山田太一
男63歳
21 4点「いろいろな事が大して深刻でもなく解決していってしまう。一年間の物語として、ちょっと曲がないような気がしました。」「どうもみんなほどほどに終わってしまう。それなりに楽しく読んだんですけれども、こういうレースの中で戦うには、インパクトが弱いと思いました。」
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他の候補作
梁石日
『血と骨』
東郷隆
『そは何者』
花村萬月
『鬱―うつ―』
重松清
『ナイフ』
瀬名秀明
『BRAIN VALLEY』
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候補者・作品
重松清男35歳×各選考委員 
『ナイフ』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
阿刀田高
男63歳
45 3.5点「だんだん小説が小さくなってきているような気がしました。」「一番物足りないのは、こういう短篇集という方法ではなく、この短篇集で書いている全体を一つの坩堝の中で戦わせてほしかった。」「短篇にばらして一つ一つ書いちゃうと、小さな、広がりのない話になっていくと思うんですね。」「短篇として見た時に、終わりが非常に弱い作品がいくつかありますね。」
井上ひさし
男63歳
36 4点「主題が統一されていて、しっかりしたいい文章ですが、ちょっと人工的に小説をこしらえるところが、それが好きな読者にはいいでしょうが、私にはちょっとクサイという感じがしました。作品の中で完全に扱いきれない仕掛けをちらつかせるところも疑問です。」
逢坂剛
男54歳
30 4点「「ビタースィート・ホーム」以外の四編は、同工異曲ですね。いじめを、子供側からするとゲームだと規定して、それをルールのようにしてどの話も進めていくのは、見方が狭いんじゃないかと思います。」「四つも五つも分けて書いてしまったところに、この作品集のインパクトの弱さを感じました。」「読後感をよくするためか、かえって蛇足が多い。」
長部日出雄
男63歳
24 4.5点「僕は「見張り塔からずっと」をあまり評価してなくて、今度はほんとに感心しました。(引用者中略)自分の鑑賞眼のなさを恥じたくらい。」「現代の重要で深刻なテーマを描きながら、しかも重苦しくならない。そしてラストにかすかな希望の曙光を感じさせる。それが偽善的でも公式的でもない。」「実に斬新で軽快で、洗練された社会派が登場したと思って、この作品集は高く評価したいと思います。」
山田太一
男63歳
30 5点「小説としては、私は今度の候補作中ベストだと思いました。」「本来どれも非常に陰気な話で、それを、これだけあれこれ工夫して面白く読ませています。多少頑固なところや小説的な仕掛けのあざとさがあっても、許されると思いました。」
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他の候補作
梁石日
『血と骨』
東郷隆
『そは何者』
花村萬月
『鬱―うつ―』
佐藤多佳子
『しゃべれども しゃべれども』
瀬名秀明
『BRAIN VALLEY』
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候補者・作品
瀬名秀明男30歳×各選考委員 
『BRAIN VALLEY』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
阿刀田高
男63歳
23 3点「小説とはどういうものかということを、さらに真剣に考えていただきたい。」「人物の設定や、小説としての構成のバランスに、まだ不十分なところがあるなという気がいたしました。」「この作品は、九割方つくっといて、あと一割ぐらいはなんか別のところに預けているような感じがするんです。」
井上ひさし
男63歳
28 3.5点「失礼なことを言いますが、下手な小説です。ものすごいテーマが続々出てくるのですが、それがどうも一つにまとまらない。」「テーマに細部が負けている。」「大テーマをまとめるために、結局は民俗学へ戻ってみたり、なにもかも竜頭蛇尾に終わっているような気がします。」
逢坂剛
男54歳
38 3点「この結論を得るのに、巻末の膨大な参考文献と、これだけの原稿の量が必要だったとは、とても私には思えません。」「期待しているぶん、あえて厳しいことをいいますけれども、これは情報はあるけれども、人間のない小説ですね。」「学術論文としては、また別の読み方ができるのかもしれませんが、小説としては残念ながら買えない。」
長部日出雄
男63歳
22 4.5点「知識と情報が氾濫していて、小説的な境地の中になかなか入り込めない。」「この人は、やっぱり可能性があると思うんですね。後半にあらわれてきた、この作者がもともと持っている筆力と可能性と、壮大な実験をした意図を買って、上巻では難行苦行でしたが、将来への期待を込めて四・五としたいと思います。」
山田太一
男63歳
26 4.5点「非常に知的で壮大なテーマを持つ物語で、着想はとても楽しみました。」「最後に神が出現するあたりになって、どれもがいわば脳の中の幻覚であるというふうになってくると、どうも説得され難い。」「わりあい深度のない単調な人物しかいない。」「小説としての面白さということになると、残念ながら疑問が大きく残りました。」
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他の候補作
梁石日
『血と骨』
東郷隆
『そは何者』
花村萬月
『鬱―うつ―』
佐藤多佳子
『しゃべれども しゃべれども』
重松清
『ナイフ』
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