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平成16年/2004年度
(平成17年/2005年5月17日決定発表/『小説新潮』平成17年/2005年7月号選評掲載)
選考委員  浅田次郎
男53歳
北村薫
男55歳
小池真理子
女52歳
重松清
男42歳
篠田節子
女49歳
選評総行数  162 180 198 216 216
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
荻原浩 『明日の記憶』
男48歳
40 28 56 44 57
垣根涼介 『君たちに明日はない』
男39歳
38 14 38 56 50
伊坂幸太郎 『チルドレン』
男33歳
15 27 26 37 23
三浦しをん 『私が語りはじめた彼は』
女28歳
18 40 32 35 21
島本理生 『ナラタージュ』
女21歳
40 63 46 37 53
         
年齢の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『小説新潮』平成17年/2005年7月号
1行当たりの文字数:19字


選考委員
浅田次郎男53歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
ふたつの「明日」 総行数162 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
荻原浩
男48歳
40 「病の症状のほかには脇目もふらぬこの小説は、ユニークにして勇敢な「病気小説の金字塔」とも言えよう。」「こうまでして病気を小説にするからには、一人称の主観を用いてシリアスに描かねばならぬ。しかし厄介なことには、その主観たる「私」が崩壊してゆく精神の病である。(引用者中略)そこで作者は、「備忘録」を思いついた。」「私がこの作品を推したのは、その出来栄えもさることながら、こうしたさまざまの困難に屈せず一巻を物にした意志力に敬意を抱いたからである。」
垣根涼介
男39歳
38 「私は(引用者中略)あろうことか「絶対バツ」の評価を与えた。」「どうしてもこの作家の饒舌で放埓な文章が、あるいは小説という太古から続く芸術に向き合う姿勢が、文学賞にふさわしいとは思えない。」「手のつけようもない悍馬ぶりからすると、思いもかけぬ明日があるような気がする。」
伊坂幸太郎
男33歳
15 「伊坂幸太郎氏の作品は何冊か読んでいるのだが、比較上たしかな進歩があるとは思えず、この「チルドレン」をあえて推すことはできなかった。」「おそらくこの作家は、現実に甘んじさえしなければいくらでも傑作が書けると思う。卓越した発想力があり、それを物語として練り固めていく実力も十分に持っているのだが、完結させようという意志をさほど感じない。」
三浦しをん
女28歳
18 「近視眼的、というのが包み隠さぬ読後感である。これを顕微鏡的と言い換えれば褒めたことになるのだが、細部に捉われる余り全体像を見失っているという気がした。むしろ連作とせずに、それぞれ独立した短篇として完成させたほうがよかったのではあるまいか。」
島本理生
女21歳
40 「小説の王道を歩んでいる。いや正しくは、小説の王道をまさに歩み始めた。」「これほど肉体の感覚を鮮かに文章化する技術を持った作家は珍しく、読みながら思わず溜息をつくことしきりであった。」「惜しむらくは、メロドラマふうの展開と速度である。」「小説的に退屈であったのはたしかである。」「それでも私は、この作品を高く評価した。理由はただひとつ、一個の男性読者として主人公に愛情を抱いたからである。」
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他の選考委員
北村薫
小池真理子
重松清
篠田節子
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選考委員
北村薫男55歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
職人芸と若さの魅力 総行数180 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
荻原浩
男48歳
28 「難しい素材だ。主人公がどうなって行くかは、読み始めた段階で想像がつく。展開が読めるというのは、小説にとって大きなハンデである筈だ。それなのに、むしろその予感によって読者を引き付け、読ませて行く手腕は見事だ。」「(引用者注:小説は)物語を通して、ひとつの症例を越えた人間存在の尊さや悲しみを語るものである。この作品は、そういう意味で小説としての豊かさを持っている。」
垣根涼介
男39歳
14 「リストラ請負業という職の、背中に負う怨念の重さは、時に言葉で語られる。しかし、さほど物語には反映されない。」「読んでいる間は、ほとんどそのことに気づかせさえもしない。そこにあるのは軽さではなく芸だろう。プロの技だ。この点につきる。」
伊坂幸太郎
男33歳
27 「作られたという感じ以上に、この作者が、この作品世界を語るには、こういう表現が必要なのだと納得させる。陣内の一風変わった人間像も面白い。ただ、謎の物語の形をとっているので、ミステリとしての詰めの甘さは気になった。」「謎と種明かしの形をとる物語の難しさを感じた。」
三浦しをん
女28歳
40 「書物を愛する三浦さんが、喜びを感じながら、これからの物語を作り上げて行こうという姿勢が、よく伝わって来る。」「全体として「作る」作業がうまく運んでいたかと問われれば肯定し難い。最も気になるのは、物語の要の位置にいる村川の像が、それぞれの語りを通して、焦点を合わせるように浮かんでは来ないことだ。」
島本理生
女21歳
63 「この作品を読み始め、引き込まれ、ふと我に返った時、「この作品には、比喩があったのかな」と思い、不思議な気持ちになった。見返すと、勿論ある。しかし、どれもが自然で巧んだところがない。」「生きた語り手が、目の前にいるような気にさせていた」「しかし今回は、候補作の一方に、読ませるということに関して職人芸を見せる作があった。」
  「一作となれば、『明日の記憶』を推し、『君たちに明日はない』も含めた二作受賞も可と考えていた。」
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他の選考委員
浅田次郎
小池真理子
重松清
篠田節子
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選考委員
小池真理子女52歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
重量級の安定感 総行数198 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
荻原浩
男48歳
56 「初めから、いともわかりやすい悲劇的メロドラマ性と、ありふれた感動を予感させてしまうのだが、物語の流れが見えていてもなお、この作品には図抜けた力を感じた。」「扱うテーマが放ち続ける湿度はきわめて高いはずなのに、骨太の構成がその、べたつきを感じさせない。」「正確さとリアリティは、決して小説の魅力の真髄ではない。(引用者中略)わかりやすいが故に難しいテーマを一人称一視点で書き切った荻原氏の力量をこそ、評価すべきと思う。」
垣根涼介
男39歳
38 「(引用者注:「明日の記憶」との)二作同時受賞になれば、と願いつつ、(引用者中略)推した。」「何よりも私がこの作品を高く評価したのは、怒りや絶望感、虚しさなど、現代人特有のマイナスの感覚をプラスのベクトルに向けて表現していこうとする作者の姿勢、まなざしの力強さに対してであった。」「表向き、これほど軽さを装っているにもかかわらず、描かれている世界は深い。作者の才能が、生半なものではない、という証左である。」
伊坂幸太郎
男33歳
26 「徹底してさわやかであり、氏の特質とも言えるこの雰囲気は、本作にも色濃く漂っている。」「どれも水準以上の仕上がりと言えるのだが、そつなく書かれている分だけ、印象が希薄になるのは否めなかった。」「今後、否応なしにはみ出していかざるを得ないものを作者が抱え持ち、そのことに混乱を覚えた時、初めて本当の意味での氏の作品ができあがる気がする。」
三浦しをん
女28歳
32 「一点、決定的な弱点があった。」「肝心の村川の素顔が最後まで見えてこない。」「あまりに姿が見えてこないので、この作品を連作にするための道具に使われたにすぎない架空の人物、という印象すら残る。」「光る描写、才気のあるペダンティックな文章力を随所に感じさせもするが、大仰な表現も多出する傾向にある。」
島本理生
女21歳
46 「もしも後半、200ページ目あたりからの部分のみ、候補作として読んでいたとしたら、間違いなく、私はこの作品を推していただろう、と思われる。」「前半は感心しない。ヒロインの女の子に魅力はあっても、彼女を囲む若者たちの人物造型がステレオタイプであった。」「作中、演劇というとても面白い素材を利用しながら、そのせっかくの仕掛けを使いこなせないままに終わってしまったのも残念であった。」
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浅田次郎
北村薫
重松清
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選考委員
重松清男42歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
苦渋の× 総行数216 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
荻原浩
男48歳
44 「×をつけた。この×は「△に及ばない」という意味ではない。」「物語の内容は文句なしに○だった。」「どうしても一点、気になるところがあった。記憶を喪い、言葉を奪われつつある主人公は、しかし、物語の語り手として、最後まで明晰な語り口と豊かな語彙を保っているのだ。」「本作の場合は「どう語るか」が作品のモチーフに直接つながるのだから、『アルジャーノンに花束を』の二番煎じになることなく、しかしその地平にまで挑んでもらいたかった」
垣根涼介
男39歳
56 「○をつけた唯一の作品である。」「会社とのつながりを断ち切られるリストラが、逆に自分にとっての大切なつながりをあらためて思いださせるという構図じたいは、簡単に「ありがち」の物語に陥りかねないのだが、作者は、題材に最も似つかわしくない軽いタッチで最後まで描きとおすことで、深刻さに甘えてしまう愚を避けた。そこに僕は、物語や人物に対する作者の距離のとり方のしなやかさとしたたかさを感じる。」
伊坂幸太郎
男33歳
37 「作者の興味のベクトルの変化が連作長編の枠をはみ出してしまったように、僕には思えた。」「陣内くんを中心とする若者たちの造型は前半の謎解きにはぴったりでも、後半の、少々ベタな家族の物語にかかわるには、奥行きがやや足りないように思えるのだ。」「あまりに整いすぎた物語の結構は、作者の意図にかかわらず「計算」を感じさせてしまう。」
三浦しをん
女28歳
35 「小説を「つくる」作者の強い意志を感じた。」「残念ながら、僕には〈先生〉のくっきりとした像を見ることができなかった。」「特に冒頭の「結晶」の章に顕著な大仰な言い回しは、どうなのだろう。」「「結晶」の「文学臭」が後半の伸びやかさをも減じてしまった気がして、ああ、もったいない、と読後に嘆じたのである。」
島本理生
女21歳
37 「まだ若い作者の繊細な描写や文章表現に幾度となく舌を巻きながらも、僕にはこの物語が回想形式でなければならなかった理由が最後まで読み取れなかった」「〈私〉は過去の物語の中で、まるで生きることと語ることが同時におこなわれているように、不安定に揺れ動く。じつを言えば、僕が感じた本作の最大の魅力はそんな〈私〉の揺れ動くさまのせつなさで、だとすれば、作者はなぜリアルタイムの物語として描かなかったのだろう……。」
  「この賞の取り決めでは、候補作に○△×の三段階の評価をつけて選考会に臨むことになっている。」「力作に×をつけざるをえないときには、なんとも苦い思いがしてしまう。」
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他の選考委員
浅田次郎
北村薫
小池真理子
篠田節子
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選考委員
篠田節子女49歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
プロの仕事 総行数216 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
荻原浩
男48歳
57 「作者の姿勢、題材の選び方、テーマ等に、非常に好感を持てる作品だ。ただし好感と高評価は違う。」「唯一の弱点があるとするなら、それは作者のこの問題に対する捉え方が、極めて良識的(常識的ではなく)であることだろう。」「多くの視聴者と患者とその家族に対し、細心の配慮を持って作られるテレビドキュメンタリーと同レベルの突っ込み方でいいのだろうか。」「当然、「性」と「死」へお荻原浩ならではのアプローチがあっていいのではないか。」
垣根涼介
男39歳
50 「大人の楽しめる小説として、文句のつけようのないプロの仕事を見せてくれた。」「一つは言葉選びの適確さだ。」「汚れ仕事の最前線に立つ社員の話を、何とも前向きな物語に仕立て上げるということ自体が、作家として体力のいる事である。読者からは、不謹慎、現実の深刻さを認識していない、という非難も飛んでくるだろうに、いい度胸をしている。」「決して心理的、情緒的なものをストーリーの推進部分に使って逃げを打つということをしていない。」
伊坂幸太郎
男33歳
23 「独特のセンスが光る作品だった。」「半端なキャラクター造形や社会的視点を持ち込んで、アクロバティックな論理展開の面白さを削いでしまったのが残念だ。」「記号的で、役割重視の登場人物で十分なのではないか。すべての小説に対して、「魅力的な主人公」「リアルな人物造形」を求める方が誤りであり、作家がそうした風潮に迎合する必要などどこにもないと私は思う。」
三浦しをん
女28歳
21 「主人公、村川先生から距離のある、間接的にしか彼を知らない青年たちの物語が面白い。」「話のサイズに比して、表現もテーマも大仰なのではないかという気がした。」「「愛」「理解」という言葉が、観念的に使われているが、むしろこの作者の持ち味は美意識にある。不道徳の美学をきちんと描ける希有な作家であるような気がする。」
島本理生
女21歳
53 「あまりの視野狭窄ぶりと、内輪話の世界に辟易としながら読んだ」「しかしそれはあくまで個人的趣味の範疇の話だ。小説的な質の高さを感じさせる部分がいくつかあったために、私は受賞作「明日の記憶」と同点をつけた。」「視野狭窄と内輪話は、主人公の視点であり、作者の焦点は、主人公とその周辺の人間に正確に合っており、その二つの視点が物語に立体感を生み出し、効果を上げている。」「都合の良い設定と物語展開が多すぎ、作品から普遍性と緊張感を奪っている。」
  「ネット上に流れる感想文ではないのだから当然のことだが、ついつい個人的な小説観が顔を出し、共感を覚えたものに甘い配点となりがちになる。それを戒めながらの作業となった。」
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他の選考委員
浅田次郎
北村薫
小池真理子
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受賞者・作品
荻原浩男48歳×各選考委員 
『明日の記憶』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男53歳
40 「病の症状のほかには脇目もふらぬこの小説は、ユニークにして勇敢な「病気小説の金字塔」とも言えよう。」「こうまでして病気を小説にするからには、一人称の主観を用いてシリアスに描かねばならぬ。しかし厄介なことには、その主観たる「私」が崩壊してゆく精神の病である。(引用者中略)そこで作者は、「備忘録」を思いついた。」「私がこの作品を推したのは、その出来栄えもさることながら、こうしたさまざまの困難に屈せず一巻を物にした意志力に敬意を抱いたからである。」
北村薫
男55歳
28 「難しい素材だ。主人公がどうなって行くかは、読み始めた段階で想像がつく。展開が読めるというのは、小説にとって大きなハンデである筈だ。それなのに、むしろその予感によって読者を引き付け、読ませて行く手腕は見事だ。」「(引用者注:小説は)物語を通して、ひとつの症例を越えた人間存在の尊さや悲しみを語るものである。この作品は、そういう意味で小説としての豊かさを持っている。」
小池真理子
女52歳
56 「初めから、いともわかりやすい悲劇的メロドラマ性と、ありふれた感動を予感させてしまうのだが、物語の流れが見えていてもなお、この作品には図抜けた力を感じた。」「扱うテーマが放ち続ける湿度はきわめて高いはずなのに、骨太の構成がその、べたつきを感じさせない。」「正確さとリアリティは、決して小説の魅力の真髄ではない。(引用者中略)わかりやすいが故に難しいテーマを一人称一視点で書き切った荻原氏の力量をこそ、評価すべきと思う。」
重松清
男42歳
44 「×をつけた。この×は「△に及ばない」という意味ではない。」「物語の内容は文句なしに○だった。」「どうしても一点、気になるところがあった。記憶を喪い、言葉を奪われつつある主人公は、しかし、物語の語り手として、最後まで明晰な語り口と豊かな語彙を保っているのだ。」「本作の場合は「どう語るか」が作品のモチーフに直接つながるのだから、『アルジャーノンに花束を』の二番煎じになることなく、しかしその地平にまで挑んでもらいたかった」
篠田節子
女49歳
57 「作者の姿勢、題材の選び方、テーマ等に、非常に好感を持てる作品だ。ただし好感と高評価は違う。」「唯一の弱点があるとするなら、それは作者のこの問題に対する捉え方が、極めて良識的(常識的ではなく)であることだろう。」「多くの視聴者と患者とその家族に対し、細心の配慮を持って作られるテレビドキュメンタリーと同レベルの突っ込み方でいいのだろうか。」「当然、「性」と「死」へお荻原浩ならではのアプローチがあっていいのではないか。」
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他の候補作
垣根涼介
『君たちに明日はない』
伊坂幸太郎
『チルドレン』
三浦しをん
『私が語りはじめた彼は』
島本理生
『ナラタージュ』
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受賞者・作品
垣根涼介男39歳×各選考委員 
『君たちに明日はない』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男53歳
38 「私は(引用者中略)あろうことか「絶対バツ」の評価を与えた。」「どうしてもこの作家の饒舌で放埓な文章が、あるいは小説という太古から続く芸術に向き合う姿勢が、文学賞にふさわしいとは思えない。」「手のつけようもない悍馬ぶりからすると、思いもかけぬ明日があるような気がする。」
北村薫
男55歳
14 「リストラ請負業という職の、背中に負う怨念の重さは、時に言葉で語られる。しかし、さほど物語には反映されない。」「読んでいる間は、ほとんどそのことに気づかせさえもしない。そこにあるのは軽さではなく芸だろう。プロの技だ。この点につきる。」
小池真理子
女52歳
38 「(引用者注:「明日の記憶」との)二作同時受賞になれば、と願いつつ、(引用者中略)推した。」「何よりも私がこの作品を高く評価したのは、怒りや絶望感、虚しさなど、現代人特有のマイナスの感覚をプラスのベクトルに向けて表現していこうとする作者の姿勢、まなざしの力強さに対してであった。」「表向き、これほど軽さを装っているにもかかわらず、描かれている世界は深い。作者の才能が、生半なものではない、という証左である。」
重松清
男42歳
56 「○をつけた唯一の作品である。」「会社とのつながりを断ち切られるリストラが、逆に自分にとっての大切なつながりをあらためて思いださせるという構図じたいは、簡単に「ありがち」の物語に陥りかねないのだが、作者は、題材に最も似つかわしくない軽いタッチで最後まで描きとおすことで、深刻さに甘えてしまう愚を避けた。そこに僕は、物語や人物に対する作者の距離のとり方のしなやかさとしたたかさを感じる。」
篠田節子
女49歳
50 「大人の楽しめる小説として、文句のつけようのないプロの仕事を見せてくれた。」「一つは言葉選びの適確さだ。」「汚れ仕事の最前線に立つ社員の話を、何とも前向きな物語に仕立て上げるということ自体が、作家として体力のいる事である。読者からは、不謹慎、現実の深刻さを認識していない、という非難も飛んでくるだろうに、いい度胸をしている。」「決して心理的、情緒的なものをストーリーの推進部分に使って逃げを打つということをしていない。」
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他の候補作
荻原浩
『明日の記憶』
伊坂幸太郎
『チルドレン』
三浦しをん
『私が語りはじめた彼は』
島本理生
『ナラタージュ』
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候補者・作品
伊坂幸太郎男33歳×各選考委員 
『チルドレン』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男53歳
15 「伊坂幸太郎氏の作品は何冊か読んでいるのだが、比較上たしかな進歩があるとは思えず、この「チルドレン」をあえて推すことはできなかった。」「おそらくこの作家は、現実に甘んじさえしなければいくらでも傑作が書けると思う。卓越した発想力があり、それを物語として練り固めていく実力も十分に持っているのだが、完結させようという意志をさほど感じない。」
北村薫
男55歳
27 「作られたという感じ以上に、この作者が、この作品世界を語るには、こういう表現が必要なのだと納得させる。陣内の一風変わった人間像も面白い。ただ、謎の物語の形をとっているので、ミステリとしての詰めの甘さは気になった。」「謎と種明かしの形をとる物語の難しさを感じた。」
小池真理子
女52歳
26 「徹底してさわやかであり、氏の特質とも言えるこの雰囲気は、本作にも色濃く漂っている。」「どれも水準以上の仕上がりと言えるのだが、そつなく書かれている分だけ、印象が希薄になるのは否めなかった。」「今後、否応なしにはみ出していかざるを得ないものを作者が抱え持ち、そのことに混乱を覚えた時、初めて本当の意味での氏の作品ができあがる気がする。」
重松清
男42歳
37 「作者の興味のベクトルの変化が連作長編の枠をはみ出してしまったように、僕には思えた。」「陣内くんを中心とする若者たちの造型は前半の謎解きにはぴったりでも、後半の、少々ベタな家族の物語にかかわるには、奥行きがやや足りないように思えるのだ。」「あまりに整いすぎた物語の結構は、作者の意図にかかわらず「計算」を感じさせてしまう。」
篠田節子
女49歳
23 「独特のセンスが光る作品だった。」「半端なキャラクター造形や社会的視点を持ち込んで、アクロバティックな論理展開の面白さを削いでしまったのが残念だ。」「記号的で、役割重視の登場人物で十分なのではないか。すべての小説に対して、「魅力的な主人公」「リアルな人物造形」を求める方が誤りであり、作家がそうした風潮に迎合する必要などどこにもないと私は思う。」
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他の候補作
荻原浩
『明日の記憶』
垣根涼介
『君たちに明日はない』
三浦しをん
『私が語りはじめた彼は』
島本理生
『ナラタージュ』
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候補者・作品
三浦しをん女28歳×各選考委員 
『私が語りはじめた彼は』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男53歳
18 「近視眼的、というのが包み隠さぬ読後感である。これを顕微鏡的と言い換えれば褒めたことになるのだが、細部に捉われる余り全体像を見失っているという気がした。むしろ連作とせずに、それぞれ独立した短篇として完成させたほうがよかったのではあるまいか。」
北村薫
男55歳
40 「書物を愛する三浦さんが、喜びを感じながら、これからの物語を作り上げて行こうという姿勢が、よく伝わって来る。」「全体として「作る」作業がうまく運んでいたかと問われれば肯定し難い。最も気になるのは、物語の要の位置にいる村川の像が、それぞれの語りを通して、焦点を合わせるように浮かんでは来ないことだ。」
小池真理子
女52歳
32 「一点、決定的な弱点があった。」「肝心の村川の素顔が最後まで見えてこない。」「あまりに姿が見えてこないので、この作品を連作にするための道具に使われたにすぎない架空の人物、という印象すら残る。」「光る描写、才気のあるペダンティックな文章力を随所に感じさせもするが、大仰な表現も多出する傾向にある。」
重松清
男42歳
35 「小説を「つくる」作者の強い意志を感じた。」「残念ながら、僕には〈先生〉のくっきりとした像を見ることができなかった。」「特に冒頭の「結晶」の章に顕著な大仰な言い回しは、どうなのだろう。」「「結晶」の「文学臭」が後半の伸びやかさをも減じてしまった気がして、ああ、もったいない、と読後に嘆じたのである。」
篠田節子
女49歳
21 「主人公、村川先生から距離のある、間接的にしか彼を知らない青年たちの物語が面白い。」「話のサイズに比して、表現もテーマも大仰なのではないかという気がした。」「「愛」「理解」という言葉が、観念的に使われているが、むしろこの作者の持ち味は美意識にある。不道徳の美学をきちんと描ける希有な作家であるような気がする。」
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他の候補作
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『明日の記憶』
垣根涼介
『君たちに明日はない』
伊坂幸太郎
『チルドレン』
島本理生
『ナラタージュ』
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候補者・作品
島本理生女21歳×各選考委員 
『ナラタージュ』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男53歳
40 「小説の王道を歩んでいる。いや正しくは、小説の王道をまさに歩み始めた。」「これほど肉体の感覚を鮮かに文章化する技術を持った作家は珍しく、読みながら思わず溜息をつくことしきりであった。」「惜しむらくは、メロドラマふうの展開と速度である。」「小説的に退屈であったのはたしかである。」「それでも私は、この作品を高く評価した。理由はただひとつ、一個の男性読者として主人公に愛情を抱いたからである。」
北村薫
男55歳
63 「この作品を読み始め、引き込まれ、ふと我に返った時、「この作品には、比喩があったのかな」と思い、不思議な気持ちになった。見返すと、勿論ある。しかし、どれもが自然で巧んだところがない。」「生きた語り手が、目の前にいるような気にさせていた」「しかし今回は、候補作の一方に、読ませるということに関して職人芸を見せる作があった。」
小池真理子
女52歳
46 「もしも後半、200ページ目あたりからの部分のみ、候補作として読んでいたとしたら、間違いなく、私はこの作品を推していただろう、と思われる。」「前半は感心しない。ヒロインの女の子に魅力はあっても、彼女を囲む若者たちの人物造型がステレオタイプであった。」「作中、演劇というとても面白い素材を利用しながら、そのせっかくの仕掛けを使いこなせないままに終わってしまったのも残念であった。」
重松清
男42歳
37 「まだ若い作者の繊細な描写や文章表現に幾度となく舌を巻きながらも、僕にはこの物語が回想形式でなければならなかった理由が最後まで読み取れなかった」「〈私〉は過去の物語の中で、まるで生きることと語ることが同時におこなわれているように、不安定に揺れ動く。じつを言えば、僕が感じた本作の最大の魅力はそんな〈私〉の揺れ動くさまのせつなさで、だとすれば、作者はなぜリアルタイムの物語として描かなかったのだろう……。」
篠田節子
女49歳
53 「あまりの視野狭窄ぶりと、内輪話の世界に辟易としながら読んだ」「しかしそれはあくまで個人的趣味の範疇の話だ。小説的な質の高さを感じさせる部分がいくつかあったために、私は受賞作「明日の記憶」と同点をつけた。」「視野狭窄と内輪話は、主人公の視点であり、作者の焦点は、主人公とその周辺の人間に正確に合っており、その二つの視点が物語に立体感を生み出し、効果を上げている。」「都合の良い設定と物語展開が多すぎ、作品から普遍性と緊張感を奪っている。」
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他の候補作
荻原浩
『明日の記憶』
垣根涼介
『君たちに明日はない』
伊坂幸太郎
『チルドレン』
三浦しをん
『私が語りはじめた彼は』
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