第84回

第83回第85回

昭和55年/1980年下半期 昭和56年/1981年1月19日決定発表／『文藝春秋』昭和56年/1981年3月号選評掲載

選考委員　 吉行淳之介 56歳 大江健三郎 45歳 丸谷才一 55歳 遠藤周作 57歳 丹羽文雄 76歳 安岡章太郎 60歳 開高健 50歳 井上靖 73歳 瀧井孝作 86歳 中村光夫 69歳 選評総行数　 31 31 35 27 25 33 31 20 43 28 評 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 尾辻克彦　「父が消えた」 89枚 43歳 評 ○ 19 ○ 13 ○ 24 ○ 9 □ 4 △ 12 ■ 3 ◎ 11 ― 0 △ 13 高樹のぶ子　「その細き道」 133枚 34歳 評 △ 3 ― 0 ― 0 □ 8 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 嶋岡晨　「裏返しの夜空」 116枚 48歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 △ 12 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 土居良一　「島影」 102枚 25歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ○ 11 ― 0 木崎さと子　「裸足」 77枚 41歳 評 △ 3 △ 4 ― 0 △ 3 ◎ 21 ― 0 △ 5 ○ 8 ○ 32 △ 6 小沼燦　「人形」 107枚 56歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 丸元淑生　「遠い朝」 82枚 46歳 評 ■ 5 △ 7 ◎ 11 △ 8 ― 0 △ 9 ■ 6 ― 0 ― 0 △ 9 田中康夫　「なんとなく、クリスタル」 167枚 24歳 評 ― 0 ■ 7 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0           欠席     欠席   年齢/枚数の説明   見方・注意点

吉行淳之介56歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題感想　総行数31　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 尾辻克彦 43歳 全 ○ 19 「独特のスタイルを持っていることを認めざるを得ない作品である。軽快な筆致と、軽妙な会話によって、一行ごとにパチパチとエスプリの火花が散る。」「感性や感覚のかたまりが迫ってくるだけでなく、本人が意図していないかもしれない、あるいはそう言われるのが不本意かもしれない、「人間とはなにか」とか「人生とは」とかいう問いかけも迫ってくる。」 高樹のぶ子 34歳 全 △ 3 「良い資質が感じられた。期待できる。」 嶋岡晨 48歳 全 ― 0   土居良一 25歳 全 ― 0   木崎さと子 41歳 全 △ 3 「新鮮でユニークなところがあるが、材料と材料との間に、なにか頼りない稀薄なものがあるのが気にかかった。」 小沼燦 56歳 全 ― 0   丸元淑生 46歳 全 ■ 5 「せっかくの材料を作品化する方法に狂いが生じ、どん底状態の苦闘記になってしまった部分が多くなった。そして苦闘についての思い入れが、平凡なのである。」 田中康夫 24歳 全 ― 0

他の選考委員 大江健三郎 丸谷才一 遠藤周作 丹羽文雄 安岡章太郎 開高健 井上靖 瀧井孝作 中村光夫

大江健三郎45歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題独特さの種々相　総行数31　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 尾辻克彦 43歳 全 ○ 13 「次つぎに繰りだすイメージは、日常的なようで独特のものだ。」「在来の短篇の定型をいちいちひっくりかえす細部、構築するかわりに解体するような筋の運び。その尾辻氏の書き方は、短篇というジャンルの「異化」と呼びうるものだ。」「在来の短篇に見られぬ特質である。」 高樹のぶ子 34歳 全 ― 0   嶋岡晨 48歳 全 ― 0   土居良一 25歳 全 ― 0   木崎さと子 41歳 全 △ 4 「独特なフランス人をとらえてはいるのである。しかし作家としての実力は、むしろわが国のわが国びとを確実にとらえうることで示されよう。」 小沼燦 56歳 全 ― 0   丸元淑生 46歳 全 △ 7 「独特の経験に立つことでやはり並の作品ではない。しかしそれぞれのシーンのつくり方、その構成が、作家らしいたくらみのプラス・アルファを欠いている。」 田中康夫 24歳 全 ■ 7 「風俗をとらえて確かに新鮮だが、風俗のむこうにつきぬけての表現、つまりすぐさま古びるのではない文学の表現にはまだ遠いだろう。」「一般に軽薄さの面白さも否定しないけれど、文学の批評性とは、やはりもっとマシなものではないだろうか？」

他の選考委員 吉行淳之介 丸谷才一 遠藤周作 丹羽文雄 安岡章太郎 開高健 井上靖 瀧井孝作 中村光夫

丸谷才一55歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題他愛もない話、実のある話　総行数35　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 尾辻克彦 43歳 全 ○ 24 「かなりの出来ばえのものである。話術はいよいよ巧みになり、感受性は相変らず新鮮である。それゆゑ尾辻氏の受賞にはいちおう異存がない。」「尾辻氏の作風は他愛もない話を書くところに一番の値打があつた。」「しかし今度の作品は、父の死といふ切実な題材を、もちろんずいぶんしやれた手つきで持ち込むことによつて、強引に芯を作つてゐる。」「この書き方では、易きについたといふ印象を受けるのである。」 高樹のぶ子 34歳 全 ― 0   嶋岡晨 48歳 全 ― 0   土居良一 25歳 全 ― 0   木崎さと子 41歳 全 ― 0   小沼燦 56歳 全 ― 0   丸元淑生 46歳 全 ◎ 11 「（引用者注：「父が消えた」の他に）わたしが推したもう一篇」「実を言ふと（引用者注：授賞作より）こちらのほうが上だと思つたが、賛同を得られなかつた。」「いはゆる滑稽小説にありがちな、おどけや誇張をしりぞけて書いてゐるところがおもしろい。殊にいいのは構成がしつかりしてゐること」 田中康夫 24歳 全 ― 0

他の選考委員 吉行淳之介 大江健三郎 遠藤周作 丹羽文雄 安岡章太郎 開高健 井上靖 瀧井孝作 中村光夫

遠藤周作57歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題氏だけのもの　総行数27　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 尾辻克彦 43歳 全 ○ 9 「（引用者注：候補作の中で）半馬身先にたっているというのが私の感じだった。」「今まで氏の候補作になったもののなかで一番いいと思う。この作品を私が奨したのはこの作品はやはり尾辻氏だけの文体と言葉と感覚とで書かれているからである。」「ただ今後、この作風だけでは行きづまるかもしれぬという一抹の不安がしないでもない。」 高樹のぶ子 34歳 全 □ 8 「（引用者注：「父が消えた」に次いで「遠い朝」「裸足」と）ほとんど同一線上にあるが、――私の気持では高樹さんがほんの少し先にいるように思われた」「私がかった「素直さ」を逆に物足りないと評価した銓衡委員はいたが…」 嶋岡晨 48歳 全 ― 0   土居良一 25歳 全 ― 0   木崎さと子 41歳 全 △ 3 「（引用者注：「父が消えた」に次いで「遠い朝」「その細き道」と）ほとんど同一線上にある」 小沼燦 56歳 全 ― 0   丸元淑生 46歳 全 △ 8 「（引用者注：「父が消えた」に次いで「その細き道」「裸足」と）ほとんど同一線上にある」「何とも言えぬ可笑しさを我々に与える点、感心したのだが、私には結末の部分がどうも理解できなかった。」「そのため、どうしても授賞作にすることができなかったのである。」 田中康夫 24歳 全 ― 0     「群をぬいて、これだと思わせる作品は今回も見つからなかった。」「今回は授賞作が出たけれど、正直いって「これぞ芥川賞」と言う気はあまりしない。」

他の選考委員 吉行淳之介 大江健三郎 丸谷才一 丹羽文雄 安岡章太郎 開高健 井上靖 瀧井孝作 中村光夫

丹羽文雄76歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題感想　総行数25　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 尾辻克彦 43歳 全 □ 4 「主張があれば喧嘩になるというこの作者らしい小味な気持のよい作品であった。」「そういう作品も大切にされてよい。」 高樹のぶ子 34歳 全 ― 0   嶋岡晨 48歳 全 ― 0   土居良一 25歳 全 ― 0   木崎さと子 41歳 全 ◎ 21 「高く買った。」「どっしりと腰のすわった、大人の小説であった。小説の構成などには神経質にならず、ごく自然に過去と現在をないまぜに描いている呼吸がひどく大人っぽい。その裏打ちとなっているのは、作者の年齢であり、体験であり、何よりも生活を感じさせることであった。」「木崎さんの才能は一応大人が安心して読めるだけのものを何か本質的に備えているようである。」 小沼燦 56歳 全 ― 0   丸元淑生 46歳 全 ― 0   田中康夫 24歳 全 ― 0	他の選考委員 吉行淳之介 大江健三郎 丸谷才一 遠藤周作 安岡章太郎 開高健 井上靖 瀧井孝作 中村光夫

安岡章太郎60歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題常識的なるもの　総行数33　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 尾辻克彦 43歳 全 △ 12 「当選したのは、私の予想したとほりであつた。尾辻氏の作品のなかでも、これは最も常識的で、かつ安心して読めたからだ。」「皮膚感覚だけではとらへ切れない「父」が登場するため、ともかく骨格が出来てきた。だから、その「父」が消えてしまつて、最後の墓場の場面なんかになると、常識的といふより描写が平板になつて、いささか退屈させられることにもなるわけだ。」 高樹のぶ子 34歳 全 ― 0   嶋岡晨 48歳 全 △ 12 「尾辻氏の作品とはおよそ対蹠的に、構成力もなく、文章も絵金の芝居絵のごとくドロドロ、ギトギトしてゐて、まつたく安心して読めない作品であるが、我慢して読み通してしまふと、「父が消えた」にはない重量感がのこる。」 土居良一 25歳 全 ― 0   木崎さと子 41歳 全 ― 0   小沼燦 56歳 全 ― 0   丸元淑生 46歳 全 △ 9 「前回の作品にくらべると、短篇小説としてはよほどまとまつたものになつてゐる。面白さといふ点では「父が消えた」に遜色はないものと思はれる。」「ただ、これを賞に推すには、どうも主人公の性格――といふより作者自身――に甘いところがあり、もう一本、客観性の筋金が入つてくれないと弱いのである。」 田中康夫 24歳 全 ― 0

他の選考委員 吉行淳之介 大江健三郎 丸谷才一 遠藤周作 丹羽文雄 開高健 井上靖 瀧井孝作 中村光夫

開高健50歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題差は極微である　総行数31　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 尾辻克彦 43歳 全 ■ 3 「５点　最終的にはこの人の作品が入選したのだが、残念ながら私は支持することができない。書くことが何もない。」 高樹のぶ子 34歳 全 ― 0   嶋岡晨 48歳 全 ― 0   土居良一 25歳 全 ― 0   木崎さと子 41歳 全 △ 5 「４点　作品中に何であれあざやかに見えるものがあるということでは全候補作中、この一作だけ。フランス人のアル中の白子の廃人の顔が鮮明に輝いている。」 小沼燦 56歳 全 ― 0   丸元淑生 46歳 全 ■ 6 「４点　この人は辛酸をかいくぐっているのでタフで腕力のある作風だが、いつも詰メがきかないので惜敗する。」「そろそろ最後の一歩で何事かを追いぬかないことには流産癖が第二の天性となる恐れがある。」 田中康夫 24歳 全 ― 0     「候補作の八品を味わってみたのだが、苔の生えた舌にピンとひびく一言半句は今回も得られなかった。素直なのは作文だし、ヒネたのは凡庸である。」「授賞作と次作の差は得点を別として審査員諸氏の口調と横顔にあるものから感じられるところでは僅差である。」

他の選考委員 吉行淳之介 大江健三郎 丸谷才一 遠藤周作 丹羽文雄 安岡章太郎 井上靖 瀧井孝作 中村光夫

井上靖73歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選後に　総行数20　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 尾辻克彦 43歳 全 ◎ 11 「（引用者注：「裸足」と共に）光っていた。」「何よりも作者の資質と才能を感じる。それも派手な眼につくものではないが、作者の身についている危気のないもの、信用していいものである。」「当選作としては軽いという批評もあるかも知れないが、その軽さがいいという見方もあるだろう。いずれにしても、これだけの資質なら、資質だけを推してもいいだろうと思う。」 高樹のぶ子 34歳 全 ― 0   嶋岡晨 48歳 全 ― 0   土居良一 25歳 全 ― 0   木崎さと子 41歳 全 ○ 8 「（引用者注：「父が消えた」と共に）光っていた。」「材料も面白いし、取り扱っている主題も面白いが、結局は書き切れず、ものあり気に終ってしまったのは惜しいと思う。しかし、それにも拘らず、ある新しさは感じられる。」 小沼燦 56歳 全 ― 0   丸元淑生 46歳 全 ― 0   田中康夫 24歳 全 ― 0

他の選考委員 吉行淳之介 大江健三郎 丸谷才一 遠藤周作 丹羽文雄 安岡章太郎 開高健 瀧井孝作 中村光夫

瀧井孝作86歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題「島影」「裸足」　総行数43　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 尾辻克彦 43歳 全 ― 0   高樹のぶ子 34歳 全 ― 0   嶋岡晨 48歳 全 ― 0   土居良一 25歳 全 ○ 11 「祥三の目に映ったいろいろの事柄が、実にハッキリとまたスッキリと描かれて、私はうまいものだと感心した。」「略歴をみてもよい作家が生れたものだと思った。」 木崎さと子 41歳 全 ○ 32 「自殺教唆、自殺幇助のようなところも天衣無縫のような筆とみたい。終いの方の総選挙の投票場で、最高裁判事を審査する場面（引用者中略）もうまい。」 小沼燦 56歳 全 ― 0   丸元淑生 46歳 全 ― 0   田中康夫 24歳 全 ― 0	他の選考委員 吉行淳之介 大江健三郎 丸谷才一 遠藤周作 丹羽文雄 安岡章太郎 開高健 井上靖 中村光夫

中村光夫69歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題佳作三篇　総行数28　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 尾辻克彦 43歳 全 △ 13 「むろん氏がここで開拓した軽味とユーモアは独自のもので、都会的で繊細な感受性が生かされてゐますが、結局精巧な細工物といふ感じで、他の二作（引用者注：「裸足」「遠い朝」）とくらべて、技巧的には格段にすぐれてゐても、芸術作品として傑出してゐるとは云へないと思ひます。」 高樹のぶ子 34歳 全 ― 0   嶋岡晨 48歳 全 ― 0   土居良一 25歳 全 ― 0   木崎さと子 41歳 全 △ 6 「短篇としてまとまりが悪いのに、読後の印象がはつきりして、作者の才能を感じさせます。ことに彼女がフランスで愛した白子でアルコール中毒の青年はよく描けてゐます。」 小沼燦 56歳 全 ― 0   丸元淑生 46歳 全 △ 9 「書店の倒産に、経営者のなめる苦労話がもとになつた小説ですが、（引用者中略）その苦しみから造られた二人の横紙破りの人物が現代風の喜劇を演ずるやうになると、前半の濃すぎる現実性が却つて邪魔になつてしまひます。」 田中康夫 24歳 全 ― 0

他の選考委員 吉行淳之介 大江健三郎 丸谷才一 遠藤周作 丹羽文雄 安岡章太郎 開高健 井上靖 瀧井孝作

尾辻克彦43歳×各選考委員　 「父が消えた」 短篇 89枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 吉行淳之介 56歳 全 ○ 19 「独特のスタイルを持っていることを認めざるを得ない作品である。軽快な筆致と、軽妙な会話によって、一行ごとにパチパチとエスプリの火花が散る。」「感性や感覚のかたまりが迫ってくるだけでなく、本人が意図していないかもしれない、あるいはそう言われるのが不本意かもしれない、「人間とはなにか」とか「人生とは」とかいう問いかけも迫ってくる。」 大江健三郎 45歳 全 ○ 13 「次つぎに繰りだすイメージは、日常的なようで独特のものだ。」「在来の短篇の定型をいちいちひっくりかえす細部、構築するかわりに解体するような筋の運び。その尾辻氏の書き方は、短篇というジャンルの「異化」と呼びうるものだ。」「在来の短篇に見られぬ特質である。」 丸谷才一 55歳 全 ○ 24 「かなりの出来ばえのものである。話術はいよいよ巧みになり、感受性は相変らず新鮮である。それゆゑ尾辻氏の受賞にはいちおう異存がない。」「尾辻氏の作風は他愛もない話を書くところに一番の値打があつた。」「しかし今度の作品は、父の死といふ切実な題材を、もちろんずいぶんしやれた手つきで持ち込むことによつて、強引に芯を作つてゐる。」「この書き方では、易きについたといふ印象を受けるのである。」 遠藤周作 57歳 全 ○ 9 「（引用者注：候補作の中で）半馬身先にたっているというのが私の感じだった。」「今まで氏の候補作になったもののなかで一番いいと思う。この作品を私が奨したのはこの作品はやはり尾辻氏だけの文体と言葉と感覚とで書かれているからである。」「ただ今後、この作風だけでは行きづまるかもしれぬという一抹の不安がしないでもない。」 丹羽文雄 76歳 全 □ 4 「主張があれば喧嘩になるというこの作者らしい小味な気持のよい作品であった。」「そういう作品も大切にされてよい。」 安岡章太郎 60歳 全 △ 12 「当選したのは、私の予想したとほりであつた。尾辻氏の作品のなかでも、これは最も常識的で、かつ安心して読めたからだ。」「皮膚感覚だけではとらへ切れない「父」が登場するため、ともかく骨格が出来てきた。だから、その「父」が消えてしまつて、最後の墓場の場面なんかになると、常識的といふより描写が平板になつて、いささか退屈させられることにもなるわけだ。」 開高健 50歳 全 ■ 3 「５点　最終的にはこの人の作品が入選したのだが、残念ながら私は支持することができない。書くことが何もない。」 井上靖 73歳 全 ◎ 11 「（引用者注：「裸足」と共に）光っていた。」「何よりも作者の資質と才能を感じる。それも派手な眼につくものではないが、作者の身についている危気のないもの、信用していいものである。」「当選作としては軽いという批評もあるかも知れないが、その軽さがいいという見方もあるだろう。いずれにしても、これだけの資質なら、資質だけを推してもいいだろうと思う。」 瀧井孝作 86歳 全 ― 0   中村光夫 69歳 全 △ 13 「むろん氏がここで開拓した軽味とユーモアは独自のもので、都会的で繊細な感受性が生かされてゐますが、結局精巧な細工物といふ感じで、他の二作（引用者注：「裸足」「遠い朝」）とくらべて、技巧的には格段にすぐれてゐても、芸術作品として傑出してゐるとは云へないと思ひます。」

他の候補作 高樹のぶ子 「その細き道」 嶋岡晨 「裏返しの夜空」 土居良一 「島影」 木崎さと子 「裸足」 小沼燦 「人形」 丸元淑生 「遠い朝」 田中康夫 「なんとなく、クリスタル」

高樹のぶ子34歳×各選考委員　 「その細き道」 短篇 133枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 吉行淳之介 56歳 全 △ 3 「良い資質が感じられた。期待できる。」 大江健三郎 45歳 全 ― 0   丸谷才一 55歳 全 ― 0   遠藤周作 57歳 全 □ 8 「（引用者注：「父が消えた」に次いで「遠い朝」「裸足」と）ほとんど同一線上にあるが、――私の気持では高樹さんがほんの少し先にいるように思われた」「私がかった「素直さ」を逆に物足りないと評価した銓衡委員はいたが…」 丹羽文雄 76歳 全 ― 0   安岡章太郎 60歳 全 ― 0   開高健 50歳 全 ― 0   井上靖 73歳 全 ― 0   瀧井孝作 86歳 全 ― 0   中村光夫 69歳 全 ― 0	他の候補作 尾辻克彦 「父が消えた」 嶋岡晨 「裏返しの夜空」 土居良一 「島影」 木崎さと子 「裸足」 小沼燦 「人形」 丸元淑生 「遠い朝」 田中康夫 「なんとなく、クリスタル」

嶋岡晨48歳×各選考委員　 「裏返しの夜空」 短篇 116枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 吉行淳之介 56歳 全 ― 0   大江健三郎 45歳 全 ― 0   丸谷才一 55歳 全 ― 0   遠藤周作 57歳 全 ― 0   丹羽文雄 76歳 全 ― 0   安岡章太郎 60歳 全 △ 12 「尾辻氏の作品とはおよそ対蹠的に、構成力もなく、文章も絵金の芝居絵のごとくドロドロ、ギトギトしてゐて、まつたく安心して読めない作品であるが、我慢して読み通してしまふと、「父が消えた」にはない重量感がのこる。」 開高健 50歳 全 ― 0   井上靖 73歳 全 ― 0   瀧井孝作 86歳 全 ― 0   中村光夫 69歳 全 ― 0	他の候補作 尾辻克彦 「父が消えた」 高樹のぶ子 「その細き道」 土居良一 「島影」 木崎さと子 「裸足」 小沼燦 「人形」 丸元淑生 「遠い朝」 田中康夫 「なんとなく、クリスタル」

土居良一25歳×各選考委員　 「島影」 短篇 102枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 吉行淳之介 56歳 全 ― 0   大江健三郎 45歳 全 ― 0   丸谷才一 55歳 全 ― 0   遠藤周作 57歳 全 ― 0   丹羽文雄 76歳 全 ― 0   安岡章太郎 60歳 全 ― 0   開高健 50歳 全 ― 0   井上靖 73歳 全 ― 0   瀧井孝作 86歳 全 ○ 11 「祥三の目に映ったいろいろの事柄が、実にハッキリとまたスッキリと描かれて、私はうまいものだと感心した。」「略歴をみてもよい作家が生れたものだと思った。」 中村光夫 69歳 全 ― 0	他の候補作 尾辻克彦 「父が消えた」 高樹のぶ子 「その細き道」 嶋岡晨 「裏返しの夜空」 木崎さと子 「裸足」 小沼燦 「人形」 丸元淑生 「遠い朝」 田中康夫 「なんとなく、クリスタル」

木崎さと子41歳×各選考委員　 「裸足」 短篇 77枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 吉行淳之介 56歳 全 △ 3 「新鮮でユニークなところがあるが、材料と材料との間に、なにか頼りない稀薄なものがあるのが気にかかった。」 大江健三郎 45歳 全 △ 4 「独特なフランス人をとらえてはいるのである。しかし作家としての実力は、むしろわが国のわが国びとを確実にとらえうることで示されよう。」 丸谷才一 55歳 全 ― 0   遠藤周作 57歳 全 △ 3 「（引用者注：「父が消えた」に次いで「遠い朝」「その細き道」と）ほとんど同一線上にある」 丹羽文雄 76歳 全 ◎ 21 「高く買った。」「どっしりと腰のすわった、大人の小説であった。小説の構成などには神経質にならず、ごく自然に過去と現在をないまぜに描いている呼吸がひどく大人っぽい。その裏打ちとなっているのは、作者の年齢であり、体験であり、何よりも生活を感じさせることであった。」「木崎さんの才能は一応大人が安心して読めるだけのものを何か本質的に備えているようである。」 安岡章太郎 60歳 全 ― 0   開高健 50歳 全 △ 5 「４点　作品中に何であれあざやかに見えるものがあるということでは全候補作中、この一作だけ。フランス人のアル中の白子の廃人の顔が鮮明に輝いている。」 井上靖 73歳 全 ○ 8 「（引用者注：「父が消えた」と共に）光っていた。」「材料も面白いし、取り扱っている主題も面白いが、結局は書き切れず、ものあり気に終ってしまったのは惜しいと思う。しかし、それにも拘らず、ある新しさは感じられる。」 瀧井孝作 86歳 全 ○ 32 「自殺教唆、自殺幇助のようなところも天衣無縫のような筆とみたい。終いの方の総選挙の投票場で、最高裁判事を審査する場面（引用者中略）もうまい。」 中村光夫 69歳 全 △ 6 「短篇としてまとまりが悪いのに、読後の印象がはつきりして、作者の才能を感じさせます。ことに彼女がフランスで愛した白子でアルコール中毒の青年はよく描けてゐます。」

他の候補作 尾辻克彦 「父が消えた」 高樹のぶ子 「その細き道」 嶋岡晨 「裏返しの夜空」 土居良一 「島影」 小沼燦 「人形」 丸元淑生 「遠い朝」 田中康夫 「なんとなく、クリスタル」

小沼燦56歳×各選考委員　 「人形」 短篇 107枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 吉行淳之介 56歳 全 ― 0   大江健三郎 45歳 全 ― 0   丸谷才一 55歳 全 ― 0   遠藤周作 57歳 全 ― 0   丹羽文雄 76歳 全 ― 0   安岡章太郎 60歳 全 ― 0   開高健 50歳 全 ― 0   井上靖 73歳 全 ― 0   瀧井孝作 86歳 全 ― 0   中村光夫 69歳 全 ― 0	他の候補作 尾辻克彦 「父が消えた」 高樹のぶ子 「その細き道」 嶋岡晨 「裏返しの夜空」 土居良一 「島影」 木崎さと子 「裸足」 丸元淑生 「遠い朝」 田中康夫 「なんとなく、クリスタル」

丸元淑生46歳×各選考委員　 「遠い朝」 短篇 82枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 吉行淳之介 56歳 全 ■ 5 「せっかくの材料を作品化する方法に狂いが生じ、どん底状態の苦闘記になってしまった部分が多くなった。そして苦闘についての思い入れが、平凡なのである。」 大江健三郎 45歳 全 △ 7 「独特の経験に立つことでやはり並の作品ではない。しかしそれぞれのシーンのつくり方、その構成が、作家らしいたくらみのプラス・アルファを欠いている。」 丸谷才一 55歳 全 ◎ 11 「（引用者注：「父が消えた」の他に）わたしが推したもう一篇」「実を言ふと（引用者注：授賞作より）こちらのほうが上だと思つたが、賛同を得られなかつた。」「いはゆる滑稽小説にありがちな、おどけや誇張をしりぞけて書いてゐるところがおもしろい。殊にいいのは構成がしつかりしてゐること」 遠藤周作 57歳 全 △ 8 「（引用者注：「父が消えた」に次いで「その細き道」「裸足」と）ほとんど同一線上にある」「何とも言えぬ可笑しさを我々に与える点、感心したのだが、私には結末の部分がどうも理解できなかった。」「そのため、どうしても授賞作にすることができなかったのである。」 丹羽文雄 76歳 全 ― 0   安岡章太郎 60歳 全 △ 9 「前回の作品にくらべると、短篇小説としてはよほどまとまつたものになつてゐる。面白さといふ点では「父が消えた」に遜色はないものと思はれる。」「ただ、これを賞に推すには、どうも主人公の性格――といふより作者自身――に甘いところがあり、もう一本、客観性の筋金が入つてくれないと弱いのである。」 開高健 50歳 全 ■ 6 「４点　この人は辛酸をかいくぐっているのでタフで腕力のある作風だが、いつも詰メがきかないので惜敗する。」「そろそろ最後の一歩で何事かを追いぬかないことには流産癖が第二の天性となる恐れがある。」 井上靖 73歳 全 ― 0   瀧井孝作 86歳 全 ― 0   中村光夫 69歳 全 △ 9 「書店の倒産に、経営者のなめる苦労話がもとになつた小説ですが、（引用者中略）その苦しみから造られた二人の横紙破りの人物が現代風の喜劇を演ずるやうになると、前半の濃すぎる現実性が却つて邪魔になつてしまひます。」

他の候補作 尾辻克彦 「父が消えた」 高樹のぶ子 「その細き道」 嶋岡晨 「裏返しの夜空」 土居良一 「島影」 木崎さと子 「裸足」 小沼燦 「人形」 田中康夫 「なんとなく、クリスタル」

田中康夫24歳×各選考委員　 「なんとなく、クリスタル」 中篇 167枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 吉行淳之介 56歳 全 ― 0   大江健三郎 45歳 全 ■ 7 「風俗をとらえて確かに新鮮だが、風俗のむこうにつきぬけての表現、つまりすぐさま古びるのではない文学の表現にはまだ遠いだろう。」「一般に軽薄さの面白さも否定しないけれど、文学の批評性とは、やはりもっとマシなものではないだろうか？」 丸谷才一 55歳 全 ― 0   遠藤周作 57歳 全 ― 0   丹羽文雄 76歳 全 ― 0   安岡章太郎 60歳 全 ― 0   開高健 50歳 全 ― 0   井上靖 73歳 全 ― 0   瀧井孝作 86歳 全 ― 0   中村光夫 69歳 全 ― 0	他の候補作 尾辻克彦 「父が消えた」 高樹のぶ子 「その細き道」 嶋岡晨 「裏返しの夜空」 土居良一 「島影」 木崎さと子 「裸足」 小沼燦 「人形」 丸元淑生 「遠い朝」