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平成19年/2007年度
(平成20年/2008年5月15日決定発表/『小説新潮』平成20年/2008年7月号選評掲載)
選考委員  浅田次郎
男56歳
北村薫
男58歳
小池真理子
女55歳
重松清
男45歳
篠田節子
女52歳
選評総行数  211 203 241 214 208
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
今野敏 『果断―隠蔽捜査2』
男52歳
35 30 57 32 29
伊坂幸太郎 『ゴールデンスランバー』
男36歳
27 117 58 57 45
海堂尊 『ブラックペアン1988』
男46歳
50 38 21 39 63
北重人 『月芝居』
男60歳
36 6 18 33 20
道尾秀介 『ラットマン』
男32歳
25 15 35 44 36
         
年齢の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『小説新潮』平成20年/2008年7月号
1行当たりの文字数:19字


選考委員
浅田次郎男56歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
見果てぬ花 総行数211 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
今野敏
男52歳
35 「孤高の悲劇的人物というものは、見ようによっては喜劇の主人公となる。作者はその原理に則って、みずからをエリートと信ずるコメディアン像を徹底して彫り上げた。そのような理解の上に物語を読み進めてゆくと、一見俗事に落つるがごときラストシーンが、悲劇と喜劇、合理と不合理、その他相容れぬはずの世の諸相の奇跡的に調和した、名場面に思えるのである。」
伊坂幸太郎
男36歳
27 「堂々一千枚を費して、ひたすらRUNAWAY、ひたすらESCAPE。文学には不可欠の要素であると千年も信じ続けられてきた、主題性も思想も哲学も、くそくらえである。開いた口も塞がらず読み進むうち、いつしか私も主人公と一緒に逃げ回っていた。」「包み隠さず言うと、私は過去四年にわたり氏の作品に苦言を呈し続けてきたのであるが、もしや氏は千年の日本文学に苦言を呈しているのではあるまいかと思えば、議論はもはやこれまでである。」
海堂尊
男46歳
50 「現役の医師でもある作者が描き出す臨場感は、さすがに圧倒的である。それは手術室の場面ばかりではなく、思いがけぬ細部にも表現されている。」「叶うことならミステリー仕立てではなく、若い医学生の視点に立った医療の現実、あるいは彼の成長小説のようなものを読みたいと思った。」
北重人
男60歳
36 「江戸天保期の不動産と金融事情を描いて、まことに興味が尽きない。こうなるとマニアのひとりとしては、闘志をかき立てられて粗探しに走りたくなる。ところが刮目して読み進めども、なかなか瑕瑾が見つからぬ。」「大団円での活劇は今は懐かし東映時代劇の設定であるが、それは良しとしても綿密な時代考証とこの活劇の間には、やはり埋めきれぬ断層があると思った。」
道尾秀介
男32歳
25 「この作家の小説に接するのは初めてであるが、門外漢の私にも作者がかなり高いハードルに挑戦しているという気概が伝わる。何よりも文章が正確で、美しい描写をところどころにちりばめることも忘れていない。」「気にかかった点は人物造形である。これが現実なのかどうか、どうもバンドのメンバーが三十を過ぎた良識的な社会人とは思えない。」「ジャンルにかかわらず、小説である限り人間はきちんと書かねばなるまい。」
  「小説家は聖職であると私は信じている。」「遥かな言葉の聖火を引き継いだわれら小説家は、病や傷や飢渇をつかのま解き放つ聖職者でなければなるまい。すなわちその聖火を託する儀式が、文学賞である。」
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他の選考委員
北村薫
小池真理子
重松清
篠田節子
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選考委員
北村薫男58歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
樋口晴子という教師 総行数203 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
今野敏
男52歳
30 「何よりも、読ませる。中編かと思うような速さで読了した。そうさせる力がある。」「主人公竜崎の人物像が、滑稽さも含めて秀逸である。」「伊丹刑事部長の、水戸黄門の印籠としての役割も、型通りであっても運びがうまいから、素直に快い。」「伊坂作品と今野作品を合わせて受賞作とすることにより、現代の小説の幅と豊かさが浮かび上がると考え、この二作を推した。」
伊坂幸太郎
男36歳
117 「全てが、間違いようのない、伊坂的パステルで描かれている。」「大きく構え、細部への配慮も持っている話なのに、小説的リアリティを不思議にはずしてくる。」「典型的な成長小説である。(引用者中略)成長してどうなったかが、よく分からない成長小説である。その先を考えるのは、この作品の場合、最中の皮の外に餡を探すようなことなのだ。」「実は、そこにこそ伊坂作品らしさがあり、個性がある。特異な作家に、普通の物差しは当てられない。」「伊坂作品と今野作品を合わせて受賞作とすることにより、現代の小説の幅と豊かさが浮かび上がると考え、この二作を推した。」
海堂尊
男46歳
38 「医療現場を知り尽くした人でなければ書けない面白みがあった。その点では、まことに生き生きとしているのだが、物語を動かす渡海の恨みについては、もう少し、設定上の配慮が必要だったのではなかろうか。」「渡海の父はなぜ、真相を息子に伝えないのか。」「佐伯の真意を知らぬ時点で息子に憤懣を語ったにしろ、事情が分かれば《実はこうだった》と告げるはずではないか。」「これが、この本を動かしている大きなモーターのひとつなので、疑問を持った。」
北重人
男60歳
6 「前半には非常に引き付けられた。こういう観点、素材を使うのかと驚いた。」「期待しただけに、後半が月並みになってしまったところが、まことに残念だった。」
道尾秀介
男32歳
15 「冒頭と最後のエレベーターの話に象徴されるように、実に才気に富んでいる。」「ただ、《作る》ことに懸命になるあまり、それに物語的魔力を付け加える点では、これまでの作品中の優れたものに及ばなかった。これが《最高傑作》ではないぞといいたくなるのは、未来の作も考えてのことで、大きな期待の言葉と思ってほしい。」
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他の選考委員
浅田次郎
小池真理子
重松清
篠田節子
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選考委員
小池真理子女55歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
真の成熟 総行数241 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
今野敏
男52歳
57 「気取りのない文章は手慣れており、安心して読める。」「ただ、私にはいくつかの傷が目立った。」「漫然と会話が連なっていくばかりなのは、全編を通して、この作品の個性にもなっているが、それがたとえ、作者の意図したことだったとしても、キャリアを積んだ手練の作家が書くものとしては、もう少し配慮が必要ではないのか、と思った。」「しかし、そうだとしても、堂々たる趣、力強さがある作品であることは間違いない。」
伊坂幸太郎
男36歳
58 「作者が確実に、そして、遥かに、ハードルを高く設定し、スキルを磨いてみせたことに目を見張った。」「これまでの、面白く読めはするが、のどかな青春小説の枠を超えることができずにいたものが、一挙に殻を破って大人の読物になっている、という印象で、私は高く評価した。」「現代における、漠然とした友情やら愛やら信頼やらの感覚を正面から直球で描いて、かつ、易きに流されず、これほど小説的なすごみを見せることができるのは、やはり作者の揺るぎのない才能と言うべきだろう。」
海堂尊
男46歳
21 「登場人物が全員、芝居がかっていて、個性が希薄であり、平板な印象しか残らない。それはやはり、医師ではなく、小説家としての作者の手に握られたメスが、描こうとする世界の深部にしっかりと切り込んでいないせいだろうと思われた。」「せっかくのおもしろい題材を、作者が小手先で使いまわしている。」
北重人
男60歳
18 「これといった大きな欠点はないが、小説的な優雅な毒気が感じられないのは、作者の焦点がぼやけてしまったからではないか。男の悲哀や涸れない性への欲望を描こうとしつつ、悪との対決に枚数を費やし、せっかくの美しい、情緒ある仕掛けを、最後、ホラー映画ふうのドタバタ喜劇のごとくにしてしまったのはまことに残念であった。」
道尾秀介
男32歳
35 「主な登場人物たちは全員、三十代の社会人という設定で、著者と等身大と思われるのだが、私にはどうしても、十八、九の学生にしか感じられなかった。これはまさに(本当にまさに!)、致命的であった。」「この作者の衒いのない描写力、文章力には瞠目すべきものがある。」「なのにどうしても、私には、作者のまなざしの奥深くに潜んでいる幼さが透けて見えてしまう。」
  「今回の選考会で委員たちの意見が微妙に分かれ、時間を費やして討議されることになったのが、『果断 隠蔽捜査2』と『ゴールデンスランバー』の二作である。」「私にとって、二作受賞はそれぞれ異なる意味で、喜ばしい結果であった。」
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他の選考委員
浅田次郎
北村薫
重松清
篠田節子
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選考委員
重松清男45歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
作家のつくる「世界」 総行数214 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
今野敏
男52歳
32 「スピーディーな展開、合理主義に徹する主人公の造型、意外な脇役の活躍など、ツボを押さえた物語にするすると乗せられて、ページをめくる愉しみに耽った。しかも、今野さんは自らの「世界」の枠を決めつけない。もっと果敢である。円熟しつつ、開拓しつづける。」「それを存分に認め、今回の受賞にも賛成の一票を投じたうえで、「世界」を水平的に広げてきたベテラン作家に、今後は垂直的な開拓も大いに期待したい。情景の描き方に円熟の鍬をさらに加えていただいたら、その「世界」はどれほどの豊かな実りを読者に与えてくれるだろう。」
伊坂幸太郎
男36歳
57 「過去三回は愛読書を「受賞作」として推すことの難しさを痛感しどおしだったが、今回は迷いなく、積極的に推輓させていただいた。」「〈彼らが望むのは、真相を知ることではない。(略)ただ、このことを万人が納得する形で、収めることだけを考えている〉――作中のこの言葉は、伊坂さんの「世界」の成り立ち方にも通底するような気がしてならない。」「〈真相を知ること〉は叶わない。大がかりにケムに巻かれてしまうのだ。それでいいじゃないか、と作家が笑う声を、僕は勝手に聞き取っている。そこに伊坂さんを推した理由がある。」
海堂尊
男46歳
39 「海堂さんの作家としての大きな魅力の一つは、その確かな描写力である。」「『チーム・バチスタの栄光』を既読であることに担保された人物造型の粗さが目立ってしまった。それが残念でしかたない。シリーズの枠をはずして、たとえば大学病院の分科やガン告知など、本作でちらりと目配せした問題へと「世界」を広げ、深めていただいていれば……。」
北重人
男60歳
33 「物語の前半で感じたワクワクは「これからどうなっていくんだろう」というものだったが、後半では「やっぱりこう来たか」に変わってしまう。」「「世界」の持っている豊饒な可能性に後半の物語が釣り合っていない。たとえるなら、いくらでも自由な意匠の街並みがつくれるはずの土地に、規格品の建物を並べてしまった印象なのだ。」
道尾秀介
男32歳
44 「優れた青春小説の「青春の終わりのほろ苦さ」が優れたミステリーの「真実を知ったほろ苦さ」に重なり合う、物語の美しいフォルムに心惹かれた。」「謎解きこそを愉しめばいいのだという意見は承知しているが、そう割り切るには、幸か不幸か「青春の終わりのほろ苦さ」があまりにも魅力的すぎた。野際とひかりのドラマが謎解きだけに奉仕したのが惜しくてしょうがない。」
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他の選考委員
浅田次郎
北村薫
小池真理子
篠田節子
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選考委員
篠田節子女52歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
それぞれの可能性とそれぞれの味わい 総行数208 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
今野敏
男52歳
29 「主人公は、最前線には出られない管理職である。(引用者中略)安手のドラマのように、指揮命令系統を無視してアクションに走ることはなく、権限と職務分掌の範囲内で苦闘する様を描き成功させたところにベテラン作家の力量を感じる。ホワイトカラーの戦争ほど描きにくいものはない。」「後半、事件の真相が明らかになる部分が、会話と状況説明だけで語られることについては、物足りなさを感じた。」
伊坂幸太郎
男36歳
45 「今回は一千枚の書き下ろしということで、作者の意気込みと、多数の愛読者の応援、出版社側の期待を強く感じ、プレッシャーの中の選考となった。」「何か得体のしれない強大な悪意によって、理由もなく標的にされた主人公がひたすら逃走する不条理小説、と私は読んだ。」「完璧である。個人的には、この内容ならもっと先鋭的で抽象的な作りが好みだが、自分の小説的趣味を振りかざして、それなりの完成度を示した作品の受賞を妨げる理由はない。」
海堂尊
男46歳
63 「「高い技能を持つ限られた者にしかできない手術を、器具を用いることによって外科医ならだれでも執刀できるようにして、より多くの患者を救う」という高階の理想は、外科手術に限らず、技術と産業をめぐる普遍的な課題であり、同時に新たな問題を生んでいる大きなテーマでもある。」「こうしたテーマをストーリーとエピソードで語るのは想像する以上に難しい。それを成功させているだけでも高く評価したい。」「あえてミステリにこだわる必要はなく、ましてや以前に書いたヒット作の続編のような形では書かなかった方が、完成度が高まったように思われる。」
北重人
男60歳
20 「天保の改革の土地政策に着目した物語の前半は、単なるトリビアを越えた、まれに見る知的娯楽作品に仕上がっている。」「しかし黒幕が判明した後の展開は、通俗に過ぎる。」「題名に掲げた「月芝居」と、その舞台となる魅力的な仕掛け屋敷を、より効果的に使う手もあったのではないか。」
道尾秀介
男32歳
36 「陰惨な事件が題材となっているにもかかわらず、気持ちよく騙され、気持ち良く読み終わることのできた小説だ。」「違和感を覚えたのは、殺人事件を巡る登場人物の心の動きだ。二転三転するストーリーに、登場人物の心情がついていかない。」「とはいえトリックとストーリーが一人歩きして人間が描けていない作品ではない。三十代の青春小説として読めば、バンド仲間の姿は生き生きとして、好感が持てる。」
  「三時間を超える長時間の選考会となった。」「紛糾の末の二作受賞は、決して妥協の産物ではなく、時代の生み出す小説が生ものであって、決して硬直した基準と小説観では計れないということを証明するものだ。」
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他の選考委員
浅田次郎
北村薫
小池真理子
重松清
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受賞者・作品
今野敏男52歳×各選考委員 
『果断―隠蔽捜査2』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男56歳
35 「孤高の悲劇的人物というものは、見ようによっては喜劇の主人公となる。作者はその原理に則って、みずからをエリートと信ずるコメディアン像を徹底して彫り上げた。そのような理解の上に物語を読み進めてゆくと、一見俗事に落つるがごときラストシーンが、悲劇と喜劇、合理と不合理、その他相容れぬはずの世の諸相の奇跡的に調和した、名場面に思えるのである。」
北村薫
男58歳
30 「何よりも、読ませる。中編かと思うような速さで読了した。そうさせる力がある。」「主人公竜崎の人物像が、滑稽さも含めて秀逸である。」「伊丹刑事部長の、水戸黄門の印籠としての役割も、型通りであっても運びがうまいから、素直に快い。」「伊坂作品と今野作品を合わせて受賞作とすることにより、現代の小説の幅と豊かさが浮かび上がると考え、この二作を推した。」
小池真理子
女55歳
57 「気取りのない文章は手慣れており、安心して読める。」「ただ、私にはいくつかの傷が目立った。」「漫然と会話が連なっていくばかりなのは、全編を通して、この作品の個性にもなっているが、それがたとえ、作者の意図したことだったとしても、キャリアを積んだ手練の作家が書くものとしては、もう少し配慮が必要ではないのか、と思った。」「しかし、そうだとしても、堂々たる趣、力強さがある作品であることは間違いない。」
重松清
男45歳
32 「スピーディーな展開、合理主義に徹する主人公の造型、意外な脇役の活躍など、ツボを押さえた物語にするすると乗せられて、ページをめくる愉しみに耽った。しかも、今野さんは自らの「世界」の枠を決めつけない。もっと果敢である。円熟しつつ、開拓しつづける。」「それを存分に認め、今回の受賞にも賛成の一票を投じたうえで、「世界」を水平的に広げてきたベテラン作家に、今後は垂直的な開拓も大いに期待したい。情景の描き方に円熟の鍬をさらに加えていただいたら、その「世界」はどれほどの豊かな実りを読者に与えてくれるだろう。」
篠田節子
女52歳
29 「主人公は、最前線には出られない管理職である。(引用者中略)安手のドラマのように、指揮命令系統を無視してアクションに走ることはなく、権限と職務分掌の範囲内で苦闘する様を描き成功させたところにベテラン作家の力量を感じる。ホワイトカラーの戦争ほど描きにくいものはない。」「後半、事件の真相が明らかになる部分が、会話と状況説明だけで語られることについては、物足りなさを感じた。」
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他の候補作
伊坂幸太郎
『ゴールデンスランバー』
海堂尊
『ブラックペアン1988』
北重人
『月芝居』
道尾秀介
『ラットマン』
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受賞者・作品
伊坂幸太郎男36歳×各選考委員 
『ゴールデンスランバー』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男56歳
27 「堂々一千枚を費して、ひたすらRUNAWAY、ひたすらESCAPE。文学には不可欠の要素であると千年も信じ続けられてきた、主題性も思想も哲学も、くそくらえである。開いた口も塞がらず読み進むうち、いつしか私も主人公と一緒に逃げ回っていた。」「包み隠さず言うと、私は過去四年にわたり氏の作品に苦言を呈し続けてきたのであるが、もしや氏は千年の日本文学に苦言を呈しているのではあるまいかと思えば、議論はもはやこれまでである。」
北村薫
男58歳
117 「全てが、間違いようのない、伊坂的パステルで描かれている。」「大きく構え、細部への配慮も持っている話なのに、小説的リアリティを不思議にはずしてくる。」「典型的な成長小説である。(引用者中略)成長してどうなったかが、よく分からない成長小説である。その先を考えるのは、この作品の場合、最中の皮の外に餡を探すようなことなのだ。」「実は、そこにこそ伊坂作品らしさがあり、個性がある。特異な作家に、普通の物差しは当てられない。」「伊坂作品と今野作品を合わせて受賞作とすることにより、現代の小説の幅と豊かさが浮かび上がると考え、この二作を推した。」
小池真理子
女55歳
58 「作者が確実に、そして、遥かに、ハードルを高く設定し、スキルを磨いてみせたことに目を見張った。」「これまでの、面白く読めはするが、のどかな青春小説の枠を超えることができずにいたものが、一挙に殻を破って大人の読物になっている、という印象で、私は高く評価した。」「現代における、漠然とした友情やら愛やら信頼やらの感覚を正面から直球で描いて、かつ、易きに流されず、これほど小説的なすごみを見せることができるのは、やはり作者の揺るぎのない才能と言うべきだろう。」
重松清
男45歳
57 「過去三回は愛読書を「受賞作」として推すことの難しさを痛感しどおしだったが、今回は迷いなく、積極的に推輓させていただいた。」「〈彼らが望むのは、真相を知ることではない。(略)ただ、このことを万人が納得する形で、収めることだけを考えている〉――作中のこの言葉は、伊坂さんの「世界」の成り立ち方にも通底するような気がしてならない。」「〈真相を知ること〉は叶わない。大がかりにケムに巻かれてしまうのだ。それでいいじゃないか、と作家が笑う声を、僕は勝手に聞き取っている。そこに伊坂さんを推した理由がある。」
篠田節子
女52歳
45 「今回は一千枚の書き下ろしということで、作者の意気込みと、多数の愛読者の応援、出版社側の期待を強く感じ、プレッシャーの中の選考となった。」「何か得体のしれない強大な悪意によって、理由もなく標的にされた主人公がひたすら逃走する不条理小説、と私は読んだ。」「完璧である。個人的には、この内容ならもっと先鋭的で抽象的な作りが好みだが、自分の小説的趣味を振りかざして、それなりの完成度を示した作品の受賞を妨げる理由はない。」
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他の候補作
今野敏
『果断―隠蔽捜査2』
海堂尊
『ブラックペアン1988』
北重人
『月芝居』
道尾秀介
『ラットマン』
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候補者・作品
海堂尊男46歳×各選考委員 
『ブラックペアン1988』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男56歳
50 「現役の医師でもある作者が描き出す臨場感は、さすがに圧倒的である。それは手術室の場面ばかりではなく、思いがけぬ細部にも表現されている。」「叶うことならミステリー仕立てではなく、若い医学生の視点に立った医療の現実、あるいは彼の成長小説のようなものを読みたいと思った。」
北村薫
男58歳
38 「医療現場を知り尽くした人でなければ書けない面白みがあった。その点では、まことに生き生きとしているのだが、物語を動かす渡海の恨みについては、もう少し、設定上の配慮が必要だったのではなかろうか。」「渡海の父はなぜ、真相を息子に伝えないのか。」「佐伯の真意を知らぬ時点で息子に憤懣を語ったにしろ、事情が分かれば《実はこうだった》と告げるはずではないか。」「これが、この本を動かしている大きなモーターのひとつなので、疑問を持った。」
小池真理子
女55歳
21 「登場人物が全員、芝居がかっていて、個性が希薄であり、平板な印象しか残らない。それはやはり、医師ではなく、小説家としての作者の手に握られたメスが、描こうとする世界の深部にしっかりと切り込んでいないせいだろうと思われた。」「せっかくのおもしろい題材を、作者が小手先で使いまわしている。」
重松清
男45歳
39 「海堂さんの作家としての大きな魅力の一つは、その確かな描写力である。」「『チーム・バチスタの栄光』を既読であることに担保された人物造型の粗さが目立ってしまった。それが残念でしかたない。シリーズの枠をはずして、たとえば大学病院の分科やガン告知など、本作でちらりと目配せした問題へと「世界」を広げ、深めていただいていれば……。」
篠田節子
女52歳
63 「「高い技能を持つ限られた者にしかできない手術を、器具を用いることによって外科医ならだれでも執刀できるようにして、より多くの患者を救う」という高階の理想は、外科手術に限らず、技術と産業をめぐる普遍的な課題であり、同時に新たな問題を生んでいる大きなテーマでもある。」「こうしたテーマをストーリーとエピソードで語るのは想像する以上に難しい。それを成功させているだけでも高く評価したい。」「あえてミステリにこだわる必要はなく、ましてや以前に書いたヒット作の続編のような形では書かなかった方が、完成度が高まったように思われる。」
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他の候補作
今野敏
『果断―隠蔽捜査2』
伊坂幸太郎
『ゴールデンスランバー』
北重人
『月芝居』
道尾秀介
『ラットマン』
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候補者・作品
北重人男60歳×各選考委員 
『月芝居』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男56歳
36 「江戸天保期の不動産と金融事情を描いて、まことに興味が尽きない。こうなるとマニアのひとりとしては、闘志をかき立てられて粗探しに走りたくなる。ところが刮目して読み進めども、なかなか瑕瑾が見つからぬ。」「大団円での活劇は今は懐かし東映時代劇の設定であるが、それは良しとしても綿密な時代考証とこの活劇の間には、やはり埋めきれぬ断層があると思った。」
北村薫
男58歳
6 「前半には非常に引き付けられた。こういう観点、素材を使うのかと驚いた。」「期待しただけに、後半が月並みになってしまったところが、まことに残念だった。」
小池真理子
女55歳
18 「これといった大きな欠点はないが、小説的な優雅な毒気が感じられないのは、作者の焦点がぼやけてしまったからではないか。男の悲哀や涸れない性への欲望を描こうとしつつ、悪との対決に枚数を費やし、せっかくの美しい、情緒ある仕掛けを、最後、ホラー映画ふうのドタバタ喜劇のごとくにしてしまったのはまことに残念であった。」
重松清
男45歳
33 「物語の前半で感じたワクワクは「これからどうなっていくんだろう」というものだったが、後半では「やっぱりこう来たか」に変わってしまう。」「「世界」の持っている豊饒な可能性に後半の物語が釣り合っていない。たとえるなら、いくらでも自由な意匠の街並みがつくれるはずの土地に、規格品の建物を並べてしまった印象なのだ。」
篠田節子
女52歳
20 「天保の改革の土地政策に着目した物語の前半は、単なるトリビアを越えた、まれに見る知的娯楽作品に仕上がっている。」「しかし黒幕が判明した後の展開は、通俗に過ぎる。」「題名に掲げた「月芝居」と、その舞台となる魅力的な仕掛け屋敷を、より効果的に使う手もあったのではないか。」
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他の候補作
今野敏
『果断―隠蔽捜査2』
伊坂幸太郎
『ゴールデンスランバー』
海堂尊
『ブラックペアン1988』
道尾秀介
『ラットマン』
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候補者・作品
道尾秀介男32歳×各選考委員 
『ラットマン』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男56歳
25 「この作家の小説に接するのは初めてであるが、門外漢の私にも作者がかなり高いハードルに挑戦しているという気概が伝わる。何よりも文章が正確で、美しい描写をところどころにちりばめることも忘れていない。」「気にかかった点は人物造形である。これが現実なのかどうか、どうもバンドのメンバーが三十を過ぎた良識的な社会人とは思えない。」「ジャンルにかかわらず、小説である限り人間はきちんと書かねばなるまい。」
北村薫
男58歳
15 「冒頭と最後のエレベーターの話に象徴されるように、実に才気に富んでいる。」「ただ、《作る》ことに懸命になるあまり、それに物語的魔力を付け加える点では、これまでの作品中の優れたものに及ばなかった。これが《最高傑作》ではないぞといいたくなるのは、未来の作も考えてのことで、大きな期待の言葉と思ってほしい。」
小池真理子
女55歳
35 「主な登場人物たちは全員、三十代の社会人という設定で、著者と等身大と思われるのだが、私にはどうしても、十八、九の学生にしか感じられなかった。これはまさに(本当にまさに!)、致命的であった。」「この作者の衒いのない描写力、文章力には瞠目すべきものがある。」「なのにどうしても、私には、作者のまなざしの奥深くに潜んでいる幼さが透けて見えてしまう。」
重松清
男45歳
44 「優れた青春小説の「青春の終わりのほろ苦さ」が優れたミステリーの「真実を知ったほろ苦さ」に重なり合う、物語の美しいフォルムに心惹かれた。」「謎解きこそを愉しめばいいのだという意見は承知しているが、そう割り切るには、幸か不幸か「青春の終わりのほろ苦さ」があまりにも魅力的すぎた。野際とひかりのドラマが謎解きだけに奉仕したのが惜しくてしょうがない。」
篠田節子
女52歳
36 「陰惨な事件が題材となっているにもかかわらず、気持ちよく騙され、気持ち良く読み終わることのできた小説だ。」「違和感を覚えたのは、殺人事件を巡る登場人物の心の動きだ。二転三転するストーリーに、登場人物の心情がついていかない。」「とはいえトリックとストーリーが一人歩きして人間が描けていない作品ではない。三十代の青春小説として読めば、バンド仲間の姿は生き生きとして、好感が持てる。」
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他の候補作
今野敏
『果断―隠蔽捜査2』
伊坂幸太郎
『ゴールデンスランバー』
海堂尊
『ブラックペアン1988』
北重人
『月芝居』
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