第24回

第23回第25回

昭和25年/1950年下半期 昭和26年/1951年2月13日決定発表／『文藝春秋』昭和26年/1951年4月号選評掲載

選考委員　 丹羽文雄 46歳 石川達三 45歳 岸田國士 60歳 瀧井孝作 56歳 宇野浩二 59歳 佐藤春夫 58歳 舟橋聖一 46歳 川端康成 51歳 坂口安吾 44歳 選評総行数　 44 31 42 55 57 33 25 16 14 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 伊賀山昌三　「最後の人」 61枚 47歳 評 ■ 5 △ 4 △ 7 △ 9 ■ 6 ― 0 △ 5 ― 0 △ 4 石川利光　「手の抄」等 78枚 37歳 評 □ 5 ■ 11 △ 3 ■ 10 ■ 5 ■ 11 ■ 11 ― 0 ― 0 野村尚吾　「遠き岬」 76枚 39歳 評 ■ 5 ― 0 ● 2 ● 2 ● 5 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 近藤啓太郎　「飛魚」 89枚 30歳 評 △ 3 ― 0 ■ 3 ◎ 15 ■ 7 ■ 7 ― 0 ― 0 ― 0 島村進　「源七履歴」 132枚 29歳 評 ● 2 ― 0 ■ 3 ● 2 ● 7 △ 11 ― 0 ― 0 ― 0 斎木寿夫　「女音」 95枚 41歳 評 ● 4 ● 5 ● 2 ● 2 ● 6 ― 0 △ 2 ― 0 ― 0 洲之内徹　「砂」 104枚 38歳 評 △ 8 □ 4 ■ 2 ■ 11 ■ 6 ● 2 ― 0 △ 2 ― 0 中村地平　「八年間」 117枚 43歳 評 ■ 3 ― 0 ■ 4 ― 0 ― 0 ■ 5 ● 4 ― 0 ― 0 高杉一郎　『極光のかげに』 563枚 42歳 評 ● 4 ― 0 △ 6 □ 7 △ 4 ■ 5 ― 0 ◎ 5 ― 0   欠席           欠席   年齢/枚数の説明   見方・注意点

丹羽文雄46歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題感想　総行数44　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 伊賀山昌三 47歳 全 ■ 5 「日記体であることが不満だった。小説にして作者が苦しむべきところを器用にボロを出さずにまとめている。それが日記という形式のせいだと思われて、残念であった。」 石川利光 37歳 全 □ 5 「「手の抄」「夜の貌」「冬の蝶」は三篇とも甲乙がない出来だった。強いて賞をやるならこの三篇だと思ったが、他の委員が他のをよんでいなかったのは残念である。」 野村尚吾 39歳 全 ■ 5 「前の候補作品の「白い面皮」の方がよかった。これもじっくりと描かれているが、暗すぎた。が、いつも信頼の出来る人だ。」 近藤啓太郎 30歳 全 △ 3 「或る部分のデッサンの確かさがうれしかった。作者をよく知っているだけに、うれしかった。女が描かれていないのが欠点だった。」 島村進 29歳 全 ● 2 「直木賞で問題にされるのが相応しい。」 斎木寿夫 41歳 全 ● 4 「「女音」「沙漠都市」は、才能の濫費。もっとひきしめてほしい。「女音」で狙っているものは判るが、筆を沈めてほしかった。興味の方が勝ちすぎる。いまこの人は危い処に立っている。」 洲之内徹 38歳 全 △ 8 「「砂」「掌の匂ひ」は、前の「棗の木の下」とはちがって、何か積極的になっていた。その方向が危険な気もするが、動き出した作者を私は期待している。これは戦争物で、いく度も書かれた材料であることが損をした。」 中村地平 43歳 全 ■ 3 「中村氏のものとしてもよいものではない。病気上りのせいか、気力にとぼしい。身辺雑記。」 高杉一郎 42歳 全 ● 4 「単行本でもあり、すでに有名であり、また一種の戦記物というので、初めから問題外にあった。芥川賞は新人に授賞すべきだと、佐藤春夫氏も強調した。」   「候補になるということは、もうそれだけでも精一杯の努力だということがよく判った。この人はもっと書けるのだ、次のを待とうということが、どんなに冷淡な言い方か、しみじみと私には反省させられた。」

他の選考委員 石川達三 岸田國士 瀧井孝作 宇野浩二 佐藤春夫 舟橋聖一 川端康成 坂口安吾

石川達三45歳×各候補作

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題お詫び　総行数31　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 伊賀山昌三 47歳 全 △ 4 「末尾にやや足りないものを私は感じはしたが、思考の幅がひろくて、これだけの素材を処理した手腕は相当なものだと思った。」 石川利光 37歳 全 ■ 11 「「手の抄」は技巧のこまかい、なかなか巧みな作品である。しかしこれだけではまだ足りない感じがあった。」「この作品の境地からもう一歩出て、もっと本格的に、人間とか社会とかいうものと取組んだ作品を見せてもらいたい。」 野村尚吾 39歳 全 ― 0   近藤啓太郎 30歳 全 ― 0   島村進 29歳 全 ― 0   斎木寿夫 41歳 全 ● 5 「何か非常に古い気がした。明治時代の小説みたいな気がした。それは多分、人間が描けていなくて、事件ばかりが多いことから来ているのだろう。」 洲之内徹 38歳 全 □ 4 「当選するかも知れぬと思っていた。「砂」にしても、この前の「棗の木の下」も、相当の力量を示している。ただ私としては戦争に取材したものしか読んでいないので其点に自信がなかった。」 中村地平 43歳 全 ― 0   高杉一郎 42歳 全 ― 0     「今回は甚だ不本意ながら事情があって委員会に出席することもできなかったし、候補にのぼった作品も四篇しか読むことができなかった。」

他の選考委員 丹羽文雄 岸田國士 瀧井孝作 宇野浩二 佐藤春夫 舟橋聖一 川端康成 坂口安吾

岸田國士60歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題遺憾の弁　総行数42　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 伊賀山昌三 47歳 全 △ 7 「日記の形式で、一人の時代的な意味をもった人物の典型がなかなか巧妙に捉えられ、とくに、その人物の批判を透して、作者の背骨というようなものがはっきり感じられる好もしい短篇である。」「内容手法ともに、もっと新味がほしい。」 石川利光 37歳 全 △ 3 「「手の抄」は、これだけでは、作者の手腕はわからないが、なかなか光った才能の萌芽は認められる。」 野村尚吾 39歳 全 ● 2 「人物の映像がぼやけていて、結局、作者のねらいと思われる叙情の効果が薄い。」 近藤啓太郎 30歳 全 ■ 3 「ところどころ、実に鮮明な描写力を示しているけれども、題材も文体も、やや通俗的すぎる。興味を追うことに重点がかかっているためであろう。」 島村進 29歳 全 ■ 3 「才筆には感心するが、これも興味のもち方が浅く、観察の面白さが意識的な軽口に化けてしまっている。」 斎木寿夫 41歳 全 ● 2 「しん（原文傍点）のない、甘ったれた作品という印象をうけた。」 洲之内徹 38歳 全 ■ 2 「正確にものを観ているけれども、なんとなく戦争を背景とする暴露記事の臭いがする。」 中村地平 43歳 全 ■ 4 「腰のすわった、見るものをちゃんと見ている、かなり成熟を思わせる作品であるが、どこか惰性的とも言いたい疲労感が全体を覆っていて、これだけをみると、あまり秀れた出来栄とは言えない。」 高杉一郎 42歳 全 △ 6 「厳密に言えば、これは創作ではなく記録であり、誠実さからいっても、感性の豊かさからいっても、文学的にみて相当高い水準のものだと思うが、既に衆目を浴びて世評の定まったものという意味をも含めて、一応、審査から除外するという結論に私も同意した。」   「今期は該当作品なし、という決定をみた経過については、私から特に説明する必要はないと思う。私もそれに異議はなかった。」

他の選考委員 丹羽文雄 石川達三 瀧井孝作 宇野浩二 佐藤春夫 舟橋聖一 川端康成 坂口安吾

瀧井孝作56歳×各候補作

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題主張なしで　総行数55　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 伊賀山昌三 47歳 全 △ 9 「なかなかうまい小説で、日記の筆致がその年輩の人らしい教養と落着のうかがわれる文章で、これは大した手腕だと思いました。」「この人は、技法も、あの手この手を出す人のように思われて、尚もっと読んでみてからの方がよかろう、と考えられました。」 石川利光 37歳 全 ■ 10 「「手の抄」は、評判程には感心せず、これに比べて、文學界三月号の「冬の蝶」の方が、よいと考えました。」「小説風に作り上げる“花”はあっても、まだ“実”がすくないようで、私は何か物足りないのでした。」「「夜の貌」は、よいと云われて、銓衡会のすんだあと読んでみて、一寸まとめてはあるが、これが当選に価するとも思えませんでした。」 野村尚吾 39歳 全 ● 2 「まだまだと思いました。」 近藤啓太郎 30歳 全 ◎ 15 「候補に推しておきました。」「強い筆致で、漁村の風物が出ていて、朴訥な地方文学として、面白いかと思いました。かなり感心しました。」「ところが、銓衡会の席上で、丹羽君は「この人は今当選したら身の破滅になる、まだまだでしょう」と云って、抑えてしまい、私は、当人の事をよく心得た筈の丹羽君がそう云う以上は、わきから口出しするわけにいかないので、私は主張せずに沈黙してしまいました。」 島村進 29歳 全 ● 2 「まだまだと思いました。」 斎木寿夫 41歳 全 ● 2 「まだまだと思いました。」 洲之内徹 38歳 全 ■ 11 「「棗の木の下」という作よりは、「砂」の方が尚面白くて、この人の力量技倆の確かめられた気がしましたが、文學界三月号の「掌の匂ひ」と云うものをみて、なぜこんな愚作を発表したのか、流行のエロ小説にかぶれたか、これをみてすっかり厭になりました。」「それでこの人に付いても主張せずでした。愚作を出すとマイナスです。」 中村地平 43歳 全 ― 0   高杉一郎 42歳 全 □ 7 「新人の今年中での名作で、シベリヤの実状の写された、国際的の文学として飜訳されるとよいと思いました。これは、短篇でないから枠にはいらず、除外されたけれど、ほかに当選者がなければ、これを主張してもよかった、とあとで思いました。」

他の選考委員 丹羽文雄 石川達三 岸田國士 宇野浩二 佐藤春夫 舟橋聖一 川端康成 坂口安吾

宇野浩二59歳×各候補作

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題一そう奮励努力せよ　総行数57　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 伊賀山昌三 47歳 全 ■ 6 「新聞の三面記事（俗にトク種という記事）から思いついて書いたものらしいが、ところどころほんのちょっとうまいところがあるけれど、おわりの方で腕（つまり、才能）のないことを暴露した、未だし未だしである。」 石川利光 37歳 全 ■ 5 「『手の抄』は、才気のようなものはうかがわれるが、あまりに作り事めいている上に、こましゃくれている。」「こんな物を書いていては、延びないであろう。」 野村尚吾 39歳 全 ● 5 「女主人公の宗子だけの一人芝居で、その恋人も、親友のちか子も、概念的で、おわりの方のちか子の自殺の理由もあいまいである。この作者の作品としても、これはわるい方である。」 近藤啓太郎 30歳 全 ■ 7 「題材の変っているのと、書き方はふるいけれど、いわゆる写実にところどころ光ったところはあるが、出てくる人間がみな類型的であり、事件も、題材が変っているというだけで、ありふれている、やはり、未だし未だしである。」 島村進 29歳 全 ● 7 「一と口にいうと、ふざけた小説である。軽口小説である。軽口とは、口まめで、滑稽めく、という程の意味である。かりに、軽口でも、滑稽めいても、よいとしても、作者がふざけているのがよくない。」 斎木寿夫 41歳 全 ● 6 「はじめからしまいまでほとんど色事ずくめて、女主人公の規子ひとりが、いい気になって、力んでいるように、作者も、いい気になって、力んでいる。小説というものを、（人間というものを、）考えなおしてみた方がいい。」 洲之内徹 38歳 全 ■ 6 「腕にまかして書きまくったもので、やはり、ところどころちょいとうまいところがあるが、作者が、世古という主人公だけをよい子にした、一人よがりの小説で、その小説のなかのきわどい『色事』の場面などは、顔をそむけたくなる、作者の悪趣味である。」 中村地平 43歳 全 ― 0   高杉一郎 42歳 全 △ 4 「小説ではないから、はぶいて、」   「それぞれ、妙に、器用なところがあり、利口なところがある。が、残念なことに、みな、小器用であり、小利口である。いうまでもなく、小器用と小利口は、小説に、大禁物である。」

他の選考委員 丹羽文雄 石川達三 岸田國士 瀧井孝作 佐藤春夫 舟橋聖一 川端康成 坂口安吾

佐藤春夫58歳×各候補作

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題寂しけれど無賞のほかなし　総行数33　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 伊賀山昌三 47歳 全 ― 0   石川利光 37歳 全 ■ 11 「（引用者注：「夜の貌」は）それほど我慢をしないでも通読出来る作品であった。」「殊に末段の夜の線路附近の描写やほんの二三行の間にたたきこんだ心理描写の鮮明さなど感心せぬでは無かったが同じ作者の「手の抄」ともいうものを見たら、「夜の貌」のはじめの方のだらしなさがこの作者の本音で末段の成功はまぐれ当りかと厭になった。」 野村尚吾 39歳 全 ― 0   近藤啓太郎 30歳 全 ■ 7 「それほど我慢をしないでも通読出来る作品であった。」「第一章の海上の描写が生きのいい好もしいものと見ていると第二章第三章になって女が出て来て作品はまるで打壊しになった。自然描写の名手が心理描写のデクの棒である。」 島村進 29歳 全 △ 11 「それほど我慢をしないでも通読出来る作品であった。」「少々大衆小説じみて作者がひとりで悦に入っているような達者な文章が気になるが達者は正しく達者、」「恐らく今日の委員はこれを認めまい。単に自分のもの好きなゲテ物好みと思われそうである。強いてこの作品を押し立てる程の熱意も湧かない。」 斎木寿夫 41歳 全 ― 0   洲之内徹 38歳 全 ● 2 「もし「砂」のようないやに深刻がった紙芝居が問題になったらおれは反対だ。」 中村地平 43歳 全 ■ 5 「もしすばらしいものなら敢て中村級も単行本も否まぬ気でいたのがやはり賛成出来ない。」 高杉一郎 42歳 全 ■ 5 「もしすばらしいものなら敢て中村級も単行本も否まぬ気でいたのがやはり賛成出来ない。」   「是非なくば今度は当選作品なしと肚を決めて会場に向う。」

他の選考委員 丹羽文雄 石川達三 岸田國士 瀧井孝作 宇野浩二 舟橋聖一 川端康成 坂口安吾

舟橋聖一46歳×各候補作

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題「夜の貌」其の他　総行数25　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 伊賀山昌三 47歳 全 △ 5 「この人の戯曲には、いいものがある。旧「劇作」の時代から、私は、愛読している。もう一息、粘ると、劇作家として成功するのではないか。その方が、伊賀山氏としては、本筋だろう。」 石川利光 37歳 全 ■ 11 「「手の抄」よりも、「夜の貌」の方が、まし（原文傍点）に思われた。然し、この作品も、最後へ来て、殊更に、あんな風に拵えたもののようだ。その点で、流行作家の投げやりな仕事ッぷりの悪い模倣――といっては、いいすぎなら、悪影響があるンではないか。」 野村尚吾 39歳 全 ― 0   近藤啓太郎 30歳 全 ― 0   島村進 29歳 全 ― 0   斎木寿夫 41歳 全 △ 2 「こんどのものの中では、力作だったが、まだ、荒削りで、授賞作までは行かない。」 洲之内徹 38歳 全 ― 0   中村地平 43歳 全 ● 4 「最初支持した宇野浩二氏までが、支持を中止したので、他の委員は、一人残らず、不賛成であった。今更ら、地平氏に芥川賞も不自然であるという意見で、私も同調した。」 高杉一郎 42歳 全 ― 0     「予選外で、一寸、目についたものは、吉田定一氏「どら息子」があった。」

他の選考委員 丹羽文雄 石川達三 岸田國士 瀧井孝作 宇野浩二 佐藤春夫 川端康成 坂口安吾

川端康成51歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題やむを得ず　総行数16　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 伊賀山昌三 47歳 全 ― 0   石川利光 37歳 全 ― 0   野村尚吾 39歳 全 ― 0   近藤啓太郎 30歳 全 ― 0   島村進 29歳 全 ― 0   斎木寿夫 41歳 全 ― 0   洲之内徹 38歳 全 △ 2 「（引用者注：候補作のうち）とにかく私の気持に突き刺さって来たのは洲之内徹氏の「砂」であろうか。」 中村地平 43歳 全 ― 0   高杉一郎 42歳 全 ◎ 5 「一票入れておいた。この作品には授賞したかった。他の候補作と差があり過ぎるほどだ。」   「半年間の新人のいい仕事を選び集めて、これらの候補作につきるとは思いたくない。」	他の選考委員 丹羽文雄 石川達三 岸田國士 瀧井孝作 宇野浩二 佐藤春夫 舟橋聖一 坂口安吾

坂口安吾44歳×各候補作

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題「最後の人」だけ　総行数14　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 伊賀山昌三 47歳 全 △ 4 「予選通過の作品らしいものは「最後の人」だけだろうと私は思った。この作品の文章には感心した。いかにも老人の文章をかきこなしている手腕凡庸ではない。だが作品として賞に値する名作とはいえない。」 石川利光 37歳 全 ― 0   野村尚吾 39歳 全 ― 0   近藤啓太郎 30歳 全 ― 0   島村進 29歳 全 ― 0   斎木寿夫 41歳 全 ― 0   洲之内徹 38歳 全 ― 0   中村地平 43歳 全 ― 0   高杉一郎 42歳 全 ― 0     「感銘をうける作品が殆どない。」「私は作者の未来に対してよりも作品に対して授賞すべきだと考えているから、今月は誰も推さなかった。」	他の選考委員 丹羽文雄 石川達三 岸田國士 瀧井孝作 宇野浩二 佐藤春夫 舟橋聖一 川端康成

伊賀山昌三47歳×各選考委員　 「最後の人」 短篇 61枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 46歳 全 ■ 5 「日記体であることが不満だった。小説にして作者が苦しむべきところを器用にボロを出さずにまとめている。それが日記という形式のせいだと思われて、残念であった。」 石川達三 45歳 全 △ 4 「末尾にやや足りないものを私は感じはしたが、思考の幅がひろくて、これだけの素材を処理した手腕は相当なものだと思った。」 岸田國士 60歳 全 △ 7 「日記の形式で、一人の時代的な意味をもった人物の典型がなかなか巧妙に捉えられ、とくに、その人物の批判を透して、作者の背骨というようなものがはっきり感じられる好もしい短篇である。」「内容手法ともに、もっと新味がほしい。」 瀧井孝作 56歳 全 △ 9 「なかなかうまい小説で、日記の筆致がその年輩の人らしい教養と落着のうかがわれる文章で、これは大した手腕だと思いました。」「この人は、技法も、あの手この手を出す人のように思われて、尚もっと読んでみてからの方がよかろう、と考えられました。」 宇野浩二 59歳 全 ■ 6 「新聞の三面記事（俗にトク種という記事）から思いついて書いたものらしいが、ところどころほんのちょっとうまいところがあるけれど、おわりの方で腕（つまり、才能）のないことを暴露した、未だし未だしである。」 佐藤春夫 58歳 全 ― 0   舟橋聖一 46歳 全 △ 5 「この人の戯曲には、いいものがある。旧「劇作」の時代から、私は、愛読している。もう一息、粘ると、劇作家として成功するのではないか。その方が、伊賀山氏としては、本筋だろう。」 川端康成 51歳 全 ― 0   坂口安吾 44歳 全 △ 4 「予選通過の作品らしいものは「最後の人」だけだろうと私は思った。この作品の文章には感心した。いかにも老人の文章をかきこなしている手腕凡庸ではない。だが作品として賞に値する名作とはいえない。」

他の候補作 石川利光 「手の抄」等 野村尚吾 「遠き岬」 近藤啓太郎 「飛魚」 島村進 「源七履歴」 斎木寿夫 「女音」 洲之内徹 「砂」 中村地平 「八年間」 高杉一郎 『極光のかげに』

石川利光37歳×各選考委員　 「手の抄」等 短篇2篇 78枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 46歳 全 □ 5 「「手の抄」「夜の貌」「冬の蝶」は三篇とも甲乙がない出来だった。強いて賞をやるならこの三篇だと思ったが、他の委員が他のをよんでいなかったのは残念である。」 石川達三 45歳 全 ■ 11 「「手の抄」は技巧のこまかい、なかなか巧みな作品である。しかしこれだけではまだ足りない感じがあった。」「この作品の境地からもう一歩出て、もっと本格的に、人間とか社会とかいうものと取組んだ作品を見せてもらいたい。」 岸田國士 60歳 全 △ 3 「「手の抄」は、これだけでは、作者の手腕はわからないが、なかなか光った才能の萌芽は認められる。」 瀧井孝作 56歳 全 ■ 10 「「手の抄」は、評判程には感心せず、これに比べて、文學界三月号の「冬の蝶」の方が、よいと考えました。」「小説風に作り上げる“花”はあっても、まだ“実”がすくないようで、私は何か物足りないのでした。」「「夜の貌」は、よいと云われて、銓衡会のすんだあと読んでみて、一寸まとめてはあるが、これが当選に価するとも思えませんでした。」 宇野浩二 59歳 全 ■ 5 「『手の抄』は、才気のようなものはうかがわれるが、あまりに作り事めいている上に、こましゃくれている。」「こんな物を書いていては、延びないであろう。」 佐藤春夫 58歳 全 ■ 11 「（引用者注：「夜の貌」は）それほど我慢をしないでも通読出来る作品であった。」「殊に末段の夜の線路附近の描写やほんの二三行の間にたたきこんだ心理描写の鮮明さなど感心せぬでは無かったが同じ作者の「手の抄」ともいうものを見たら、「夜の貌」のはじめの方のだらしなさがこの作者の本音で末段の成功はまぐれ当りかと厭になった。」 舟橋聖一 46歳 全 ■ 11 「「手の抄」よりも、「夜の貌」の方が、まし（原文傍点）に思われた。然し、この作品も、最後へ来て、殊更に、あんな風に拵えたもののようだ。その点で、流行作家の投げやりな仕事ッぷりの悪い模倣――といっては、いいすぎなら、悪影響があるンではないか。」 川端康成 51歳 全 ― 0   坂口安吾 44歳 全 ― 0

他の候補作 伊賀山昌三 「最後の人」 野村尚吾 「遠き岬」 近藤啓太郎 「飛魚」 島村進 「源七履歴」 斎木寿夫 「女音」 洲之内徹 「砂」 中村地平 「八年間」 高杉一郎 『極光のかげに』

野村尚吾39歳×各選考委員　 「遠き岬」 短篇 76枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 46歳 全 ■ 5 「前の候補作品の「白い面皮」の方がよかった。これもじっくりと描かれているが、暗すぎた。が、いつも信頼の出来る人だ。」 石川達三 45歳 全 ― 0   岸田國士 60歳 全 ● 2 「人物の映像がぼやけていて、結局、作者のねらいと思われる叙情の効果が薄い。」 瀧井孝作 56歳 全 ● 2 「まだまだと思いました。」 宇野浩二 59歳 全 ● 5 「女主人公の宗子だけの一人芝居で、その恋人も、親友のちか子も、概念的で、おわりの方のちか子の自殺の理由もあいまいである。この作者の作品としても、これはわるい方である。」 佐藤春夫 58歳 全 ― 0   舟橋聖一 46歳 全 ― 0   川端康成 51歳 全 ― 0   坂口安吾 44歳 全 ― 0	他の候補作 伊賀山昌三 「最後の人」 石川利光 「手の抄」等 近藤啓太郎 「飛魚」 島村進 「源七履歴」 斎木寿夫 「女音」 洲之内徹 「砂」 中村地平 「八年間」 高杉一郎 『極光のかげに』

近藤啓太郎30歳×各選考委員　 「飛魚」 短篇 89枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 46歳 全 △ 3 「或る部分のデッサンの確かさがうれしかった。作者をよく知っているだけに、うれしかった。女が描かれていないのが欠点だった。」 石川達三 45歳 全 ― 0   岸田國士 60歳 全 ■ 3 「ところどころ、実に鮮明な描写力を示しているけれども、題材も文体も、やや通俗的すぎる。興味を追うことに重点がかかっているためであろう。」 瀧井孝作 56歳 全 ◎ 15 「候補に推しておきました。」「強い筆致で、漁村の風物が出ていて、朴訥な地方文学として、面白いかと思いました。かなり感心しました。」「ところが、銓衡会の席上で、丹羽君は「この人は今当選したら身の破滅になる、まだまだでしょう」と云って、抑えてしまい、私は、当人の事をよく心得た筈の丹羽君がそう云う以上は、わきから口出しするわけにいかないので、私は主張せずに沈黙してしまいました。」 宇野浩二 59歳 全 ■ 7 「題材の変っているのと、書き方はふるいけれど、いわゆる写実にところどころ光ったところはあるが、出てくる人間がみな類型的であり、事件も、題材が変っているというだけで、ありふれている、やはり、未だし未だしである。」 佐藤春夫 58歳 全 ■ 7 「それほど我慢をしないでも通読出来る作品であった。」「第一章の海上の描写が生きのいい好もしいものと見ていると第二章第三章になって女が出て来て作品はまるで打壊しになった。自然描写の名手が心理描写のデクの棒である。」 舟橋聖一 46歳 全 ― 0   川端康成 51歳 全 ― 0   坂口安吾 44歳 全 ― 0

他の候補作 伊賀山昌三 「最後の人」 石川利光 「手の抄」等 野村尚吾 「遠き岬」 島村進 「源七履歴」 斎木寿夫 「女音」 洲之内徹 「砂」 中村地平 「八年間」 高杉一郎 『極光のかげに』

島村進29歳×各選考委員　 「源七履歴」 短篇 132枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 46歳 全 ● 2 「直木賞で問題にされるのが相応しい。」 石川達三 45歳 全 ― 0   岸田國士 60歳 全 ■ 3 「才筆には感心するが、これも興味のもち方が浅く、観察の面白さが意識的な軽口に化けてしまっている。」 瀧井孝作 56歳 全 ● 2 「まだまだと思いました。」 宇野浩二 59歳 全 ● 7 「一と口にいうと、ふざけた小説である。軽口小説である。軽口とは、口まめで、滑稽めく、という程の意味である。かりに、軽口でも、滑稽めいても、よいとしても、作者がふざけているのがよくない。」 佐藤春夫 58歳 全 △ 11 「それほど我慢をしないでも通読出来る作品であった。」「少々大衆小説じみて作者がひとりで悦に入っているような達者な文章が気になるが達者は正しく達者、」「恐らく今日の委員はこれを認めまい。単に自分のもの好きなゲテ物好みと思われそうである。強いてこの作品を押し立てる程の熱意も湧かない。」 舟橋聖一 46歳 全 ― 0   川端康成 51歳 全 ― 0   坂口安吾 44歳 全 ― 0

他の候補作 伊賀山昌三 「最後の人」 石川利光 「手の抄」等 野村尚吾 「遠き岬」 近藤啓太郎 「飛魚」 斎木寿夫 「女音」 洲之内徹 「砂」 中村地平 「八年間」 高杉一郎 『極光のかげに』

斎木寿夫41歳×各選考委員　 「女音」 短篇 95枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 46歳 全 ● 4 「「女音」「沙漠都市」は、才能の濫費。もっとひきしめてほしい。「女音」で狙っているものは判るが、筆を沈めてほしかった。興味の方が勝ちすぎる。いまこの人は危い処に立っている。」 石川達三 45歳 全 ● 5 「何か非常に古い気がした。明治時代の小説みたいな気がした。それは多分、人間が描けていなくて、事件ばかりが多いことから来ているのだろう。」 岸田國士 60歳 全 ● 2 「しん（原文傍点）のない、甘ったれた作品という印象をうけた。」 瀧井孝作 56歳 全 ● 2 「まだまだと思いました。」 宇野浩二 59歳 全 ● 6 「はじめからしまいまでほとんど色事ずくめて、女主人公の規子ひとりが、いい気になって、力んでいるように、作者も、いい気になって、力んでいる。小説というものを、（人間というものを、）考えなおしてみた方がいい。」 佐藤春夫 58歳 全 ― 0   舟橋聖一 46歳 全 △ 2 「こんどのものの中では、力作だったが、まだ、荒削りで、授賞作までは行かない。」 川端康成 51歳 全 ― 0   坂口安吾 44歳 全 ― 0

他の候補作 伊賀山昌三 「最後の人」 石川利光 「手の抄」等 野村尚吾 「遠き岬」 近藤啓太郎 「飛魚」 島村進 「源七履歴」 洲之内徹 「砂」 中村地平 「八年間」 高杉一郎 『極光のかげに』

洲之内徹38歳×各選考委員　 「砂」 短篇 104枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 46歳 全 △ 8 「「砂」「掌の匂ひ」は、前の「棗の木の下」とはちがって、何か積極的になっていた。その方向が危険な気もするが、動き出した作者を私は期待している。これは戦争物で、いく度も書かれた材料であることが損をした。」 石川達三 45歳 全 □ 4 「当選するかも知れぬと思っていた。「砂」にしても、この前の「棗の木の下」も、相当の力量を示している。ただ私としては戦争に取材したものしか読んでいないので其点に自信がなかった。」 岸田國士 60歳 全 ■ 2 「正確にものを観ているけれども、なんとなく戦争を背景とする暴露記事の臭いがする。」 瀧井孝作 56歳 全 ■ 11 「「棗の木の下」という作よりは、「砂」の方が尚面白くて、この人の力量技倆の確かめられた気がしましたが、文學界三月号の「掌の匂ひ」と云うものをみて、なぜこんな愚作を発表したのか、流行のエロ小説にかぶれたか、これをみてすっかり厭になりました。」「それでこの人に付いても主張せずでした。愚作を出すとマイナスです。」 宇野浩二 59歳 全 ■ 6 「腕にまかして書きまくったもので、やはり、ところどころちょいとうまいところがあるが、作者が、世古という主人公だけをよい子にした、一人よがりの小説で、その小説のなかのきわどい『色事』の場面などは、顔をそむけたくなる、作者の悪趣味である。」 佐藤春夫 58歳 全 ● 2 「もし「砂」のようないやに深刻がった紙芝居が問題になったらおれは反対だ。」 舟橋聖一 46歳 全 ― 0   川端康成 51歳 全 △ 2 「（引用者注：候補作のうち）とにかく私の気持に突き刺さって来たのは洲之内徹氏の「砂」であろうか。」 坂口安吾 44歳 全 ― 0

他の候補作 伊賀山昌三 「最後の人」 石川利光 「手の抄」等 野村尚吾 「遠き岬」 近藤啓太郎 「飛魚」 島村進 「源七履歴」 斎木寿夫 「女音」 中村地平 「八年間」 高杉一郎 『極光のかげに』

中村地平43歳×各選考委員　 「八年間」 短篇 117枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 46歳 全 ■ 3 「中村氏のものとしてもよいものではない。病気上りのせいか、気力にとぼしい。身辺雑記。」 石川達三 45歳 全 ― 0   岸田國士 60歳 全 ■ 4 「腰のすわった、見るものをちゃんと見ている、かなり成熟を思わせる作品であるが、どこか惰性的とも言いたい疲労感が全体を覆っていて、これだけをみると、あまり秀れた出来栄とは言えない。」 瀧井孝作 56歳 全 ― 0   宇野浩二 59歳 全 ― 0   佐藤春夫 58歳 全 ■ 5 「もしすばらしいものなら敢て中村級も単行本も否まぬ気でいたのがやはり賛成出来ない。」 舟橋聖一 46歳 全 ● 4 「最初支持した宇野浩二氏までが、支持を中止したので、他の委員は、一人残らず、不賛成であった。今更ら、地平氏に芥川賞も不自然であるという意見で、私も同調した。」 川端康成 51歳 全 ― 0   坂口安吾 44歳 全 ― 0

他の候補作 伊賀山昌三 「最後の人」 石川利光 「手の抄」等 野村尚吾 「遠き岬」 近藤啓太郎 「飛魚」 島村進 「源七履歴」 斎木寿夫 「女音」 洲之内徹 「砂」 高杉一郎 『極光のかげに』

高杉一郎42歳×各選考委員　 『極光のかげに』 長篇 563枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 46歳 全 ● 4 「単行本でもあり、すでに有名であり、また一種の戦記物というので、初めから問題外にあった。芥川賞は新人に授賞すべきだと、佐藤春夫氏も強調した。」 石川達三 45歳 全 ― 0   岸田國士 60歳 全 △ 6 「厳密に言えば、これは創作ではなく記録であり、誠実さからいっても、感性の豊かさからいっても、文学的にみて相当高い水準のものだと思うが、既に衆目を浴びて世評の定まったものという意味をも含めて、一応、審査から除外するという結論に私も同意した。」 瀧井孝作 56歳 全 □ 7 「新人の今年中での名作で、シベリヤの実状の写された、国際的の文学として飜訳されるとよいと思いました。これは、短篇でないから枠にはいらず、除外されたけれど、ほかに当選者がなければ、これを主張してもよかった、とあとで思いました。」 宇野浩二 59歳 全 △ 4 「小説ではないから、はぶいて、」 佐藤春夫 58歳 全 ■ 5 「もしすばらしいものなら敢て中村級も単行本も否まぬ気でいたのがやはり賛成出来ない。」 舟橋聖一 46歳 全 ― 0   川端康成 51歳 全 ◎ 5 「一票入れておいた。この作品には授賞したかった。他の候補作と差があり過ぎるほどだ。」 坂口安吾 44歳 全 ― 0

他の候補作 伊賀山昌三 「最後の人」 石川利光 「手の抄」等 野村尚吾 「遠き岬」 近藤啓太郎 「飛魚」 島村進 「源七履歴」 斎木寿夫 「女音」 洲之内徹 「砂」 中村地平 「八年間」