李琴峰（りことみ）-芥川賞受賞作家｜芥川賞のすべて・のようなもの

第165回

＝受賞者＝
石沢麻依
李　琴峰

Last Update●[R7]2025/6/24

	Ri Kotomi
	このページの情報は「直木賞のすべて」内の「大衆選考会-推薦候補作家の群像　李琴峰」と同じものです。
	生没年月日【注】	平成1年/1989年☆月☆日～
	受賞年齢	31歳
	経歴	台湾生まれ。台湾大学卒、早稲田大学大学院日本語教育研究科修士課程修了。平成29年/2017年「独舞」で第60回群像新人文学賞優秀作に選ばれる。
	受賞歴・候補歴	第60回群像新人文学賞［優秀作］（平成29年/2017年）「独舞」 \|候補\| 第161回芥川賞（平成31年・令和1年/2019年上期）「五つ数えれば三日月が」 \|候補\| 第41回野間文芸新人賞（令和1年/2019年）『五つ数えれば三日月が』第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞［文学部門］（令和2年/2020年度）『ポラリスが降り注ぐ夜』 \|候補\| 第34回三島由紀夫賞（令和2年/2020年度）「彼岸花が咲く島」第165回芥川賞（令和3年/2021年上期）「彼岸花が咲く島」
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第161回候補

「五(いつ)つ数(かぞ)えれば三日月(みかづき)が」（『文學界』令和1年/2019年6月号）

媒体・作品情報

誌名	「文學界」
巻号	第73巻第6号別表記6月号
印刷/発行年月日	発売令和1年/2019年5月7日　発行令和1年/2019年6月1日
発行者等	編集人武藤旬　発行人大川繁樹　印刷人北島義斉　印刷所大日本印刷株式会社　ＤＴＰ制作株式会社ローヤル企画
発行所	株式会社文藝春秋（東京都）
総ページ数	328	表記上の枚数	目次 100枚	基本の文字組（1ページ当り）	27字 ×24行 ×2段
本文ページ	80～111 （計32頁）	測定枚数	100枚

書誌

令和1年/2019年7月・文藝春秋刊『五つ数えれば三日月が』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　李琴峰　29歳
選考委員		評価	行数	評言
小川洋子	57歳	■	16	「ひたすら、恋愛小説として本作に没頭したかった。柱の多すぎる見通しの悪い部屋をさ迷うような、もどかしさを感じた。」
高樹のぶ子	73歳	○	14	「直球ド真ん中に投げ込まれた恋愛小説。」「この作品は、女性が女性に向ける恋情の哀しさを描いて、切なく真っ直ぐだ。恋情というのは強い。漢詩も良く効いている。」
奥泉光	63歳	■	12	「漢詩文をうまく使って、主人公の切ない恋情を中心に愛らしい作品に仕上げている。漢詩文に漂う清爽な言葉の表情が、地の文にも滲み出していれば、もっと高い評価が得られたのではないだろうか。」
山田詠美	60歳	△	17	「胸に秘めていた長年の想い人への抑えた気持が流れ出て止められなかったのか、あまりにも大仰な比喩が目立つ。」「もう少し油を差した言い回しで彼女を描写出来ていたら、主人公のせつない気持が自然と引き立っただろう。ラストでは、思わず応援したくなってしまった。」
島田雅彦	58歳	○	12	「私の今回の一押しだった。台湾人と日本人の女友達の再会と出会った頃の回想で構成される淡く、儚く、実らない同性愛的関係を、日本と台湾双方への愛着を絡めた佳作となっている。ただ、日本語を使い、台湾の食文化や名物を紹介するだけでは気の利いたガイドブックにとどまってしまう。」
川上弘美	61歳	△	16	「「実桜」の台湾での生活を、視点人物が聞いたとして書かれている部分が、結局は「実桜」自身を視点とする中途半端な声になってしまっているところのぶれがなければ、もっと積極的に推しました。」
宮本輝	72歳	■	14	「（引用者注：登場人物の日本人女性と台湾人女性の）ふたりのあいだにはほのかな同性愛の香りも漂い、その思いを漢詩に託して伝える場面には清潔な詩情すら漂っている。」「だが、わたしはそこだけしか心に残らなくて、いったいなにを書きたかった小説なのか理解できなかった。」
吉田修一	50歳	△	27	「なによりストレートの女性に対するレズビアンである台湾人の叶わぬ恋を描きながら、この恋が叶わぬ理由に「女性同士であるから」という言い訳やエクスキューズが一切なく、果敢に攻めていく主人公の潔さと勇気に感服した。」「本作にあるような淡い恋愛の風景でさえ、実は入国管理官（政治）のハンコ一つの上に成り立っているという恐ろしさまでを今後の作品で描き出せれば、この種の小説の嚆矢となるはずである。」
堀江敏幸	55歳	△	13	「台湾出身で東京の銀行に職を得た女性と、台湾人と結婚してその地にとどまった日本人女性。前者から後者への報われぬ想いが、地震の影響や文化と言語の相違、歴史的な問題を背景に押しやり、想いの芯だけを読後に残す。この芯は、とてもよいものだ。」
選評出典：『文藝春秋』令和1年/2019年9月号

『ポラリスが降(ふ)り注(そそ)ぐ夜(よる)』（令和2年/2020年2月・筑摩書房刊）

書誌

令和4年/2022年6月・筑摩書房／ちくま文庫『ポラリスが降り注ぐ夜』

第163回推薦候補

大衆選考会での推薦

推薦者	推薦日	推薦文
808	令和2年/2020年6月14日	昨年の第161回芥川賞では「五つ数えれば三日月が」が候補になっていた作家さんの連作短編集です。社会の線引きを切実に越えて行こうとする様子がとても素晴らしい作品です。

第165回受賞

「彼岸花(ひがんばな)が咲(さ)く島(しま)」（『文學界』令和3年/2021年3月号）

媒体・作品情報

誌名	「文學界」
巻号	第75巻第3号別表記3月号
印刷/発行年月日	発売令和3年/2021年2月5日　発行令和3年/2021年3月1日
発行者等	編集人丹羽健介　発行人大川繁樹　印刷人北島義斉　印刷所大日本印刷株式会社　ＤＴＰ制作株式会社ローヤル企画
発行所	株式会社文藝春秋（東京都）
総ページ数	328	表記上の枚数	表紙・目次 260枚	基本の文字組（1ページ当り）	27字 ×24行 ×2段
本文ページ	9～93 （計85頁）	測定枚数	266枚

書誌

令和3年/2021年7月・文藝春秋刊『彼岸花が咲く島』

『文藝春秋』令和3年/2021年9月号

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　李琴峰　31歳
選考委員		評価	行数	評言
松浦寿輝	67歳	○	40	「（引用者注：「貝に続く場所にて」と共に）小説という器を使って何ごとか冒険を試みようとしていると感じられた」「「日本」とその外部、文化の「女性性」をめぐって、これほどの「小説的思考」が凝らされたことの意義は大きい。小説によってしか考えられないことを考えようとしているこの新人が内に秘めているポテンシャルの射程は、信じるに足りるものと思われた。」
島田雅彦	60歳	○	21	「少女に作者が自己投影しているならば、隠れ私小説と見做すのが妥当だろう。ただ、この理想郷がいかにして可能となったか、一切、言及されていないのは、煩雑で、心折れる闘争からも逃れたかったからかもしれない。そうした欠点を抱えながらも、自己表出の新機軸を打ち出した点を評価した。」
吉田修一	52歳	◎	50	「この作品を受賞作として推したのは、この作者が作中で未来の可能性について語る時の力強さ、そして可能性という言葉に対する無防備なまでの信頼感が、いつの頃からか曇った目でしか未来を見なくなっていた私の心に、まっすぐに突き刺さってきたからだ。」「一見乱暴に掻き集められたような作中のエピソードの一つ一つは、実はこの作者がこれまでの人生をかけて自身のテーマであるセクシャルマイノリティーやフェミニズムを描くために地道に集めてきたものである。決して場当たり的なものではなく、作者の信念に裏打ちされている。」
小川洋子	59歳	○	22	「さまざまな方向から読み解いてゆけるタイプの小説だが、最も心打たれたのは、島の若者三人の、実に生き生きとした関係だった。」「私は本作を、性の揺らぎの中で怯える若者たちの青春小説として読んだ。それで十分、賞に値すると思った。」
平野啓一郎	46歳	■	14	「作者のバックグラウンドにある歴史的・政治的な緊張が反映された野心作だが、寓話性とリアリズムとのバランスに難があり、（引用者中略）何よりも、大ノロによって語られる秘史があまりに大味で、政治を描きつつ、政治的に最も困難な問題について書かれていない点が残念だった。」
山田詠美	62歳	■	28	「〈男がいつでも好きな時に女を殴ったり、犯したり、殺したりできるんだ。オカスってどういう意味かって？　そりゃ、無理やり子供を生ませるっちゅう意味さ。〉」「……ふう。もしもそこに真実が含まれていたとしても、私は、そう出来なかった男を捜し出して描くことが小説の仕事だと思っている。そして、こういう重要な一文の主語が「男」という普通名詞であってはならない。」
奥泉光	65歳	△	21	「戦争や排外主義を乗り越えた女性原理に基づく社会の提示は、いまなにより求められるべき思想の水脈につながっている。であるだけに、この「理想社会」がいかに可能なのかという、なにより知りたいところが、あまりにも素朴な神話ふうかたりで処理されてしまったのは残念だ。」
川上弘美	63歳	△	15	「なんといっても、〈ニホン語〉の造形がすばらしかった。」「作者が自身の内をしっかりと見つめなければできなかった造形でしょう。ただ、島と外部との関係を説明する時に使われた「声」は、作者だけの声ではなかったのではないか。惜しかったです。」
堀江敏幸	57歳	○	15	「クレオール的なニホン語と、歴史伝承のための女語が混在する《島》。舞台設定の批評性が、少年少女の牧歌的な空気と溶け合っている。」「《島》の現在と未来に「外」から来た者が参加しようとする覚悟は、書き手だけのものではない。」
選評出典：『文藝春秋』令和3年/2021年9月号