第92回

第91回第93回

昭和59年/1984年下半期 昭和60年/1985年1月17日決定発表／『オール讀物』昭和60年/1985年4月号選評掲載

選考委員　 山口瞳 58歳 池波正太郎 61歳 渡辺淳一 51歳 井上ひさし 50歳 源氏鶏太 72歳 水上勉 65歳 黒岩重吾 60歳 村上元三 74歳 五木寛之 52歳 選評総行数　 63 41 60 65 54 44 60 54 52 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 樋口修吉　『アバターの島』 416枚 46歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ● 5 ■ 9 ● 8 赤瀬川隼　「影のプレーヤー」 115枚 53歳 評 △ 8 ◎ 21 ● 9 ◎ 46 ■ 23 □ 19 ● 18 □ 7 △ 8 林真理子　『葡萄が目にしみる』 318枚 30歳 評 ■ 7 ― 0 △ 19 ― 0 ◎ 27 □ 30 □ 25 ■ 10 △ 17 北方謙三　『やがて冬が終れば』 425枚 37歳 評 ― 0 ― 0 ● 9 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ● 15 △ 9 津木林洋　「贋マリア伝」 130枚 33歳 評 ― 0 △ 11 ◎ 10 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ● 3 ― 0 落合恵子　「聖夜の賭」 78枚 40歳 評 ― 0 ― 0 ● 5 ― 0 ― 0 ― 0 ● 4 ● 4 ― 0 島田荘司　『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』 422枚 36歳 評 ◎ 48 ― 0 ● 8 △ 19 △ 7 ― 0 ― 0 ● 3 ― 0                   年齢/枚数の説明   見方・注意点

山口瞳58歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題だんぜん島田荘司　総行数63　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 樋口修吉 46歳 全 ― 0   赤瀬川隼 53歳 全 △ 8 「高度な野球小説であるが、直木賞受賞作としてのハナに乏しかった。これも残念。」 林真理子 30歳 全 ■ 7 「劣等感と自己愛の世界にとどまっているかぎり、少女小説と言われても仕方がないのではあるまいか。」 北方謙三 37歳 全 ― 0   津木林洋 33歳 全 ― 0   落合恵子 40歳 全 ― 0   島田荘司 36歳 全 ◎ 48 「「いつか機会があったら、もう一度読み返してみたい」という気持になったのは、島田荘司の「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」だけだった。」「小説は、わくわくしながら読む、知的昂奮に駆られるということがなければ存在価値がないが、その両方を満足させられた。」「いや、それよりも、島田さんの格調の高い文章に、ほとんど感動した。」「しかるに、選考委員会では、支持者は私一人で、少なからぬショックを受けた。」

他の選考委員 池波正太郎 渡辺淳一 井上ひさし 源氏鶏太 水上勉 黒岩重吾 村上元三 五木寛之

池波正太郎61歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題〔影のプレーヤー〕のみ　総行数41　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 樋口修吉 46歳 全 ― 0   赤瀬川隼 53歳 全 ◎ 21 「群を抜いており、私は、この一本にしぼって選考の席へ出た。」「百枚の枚数の中に過不足なく主人公の人生が描かれており、読後の爽快感は、まぎれもなく直木賞のものだし、これまでの、赤瀬川さんの候補作の中では、もっともよかったと私はおもう。」 林真理子 30歳 全 ― 0   北方謙三 37歳 全 ― 0   津木林洋 33歳 全 △ 11 「どうしても、男から見捨てられてしまうような語り手〔私〕が、それらしく、よく描けていて、その躰つきまでが脳裡に浮かぶほどだった」「利枝子という娘が〔私〕にとっては心をひかれる存在であっても、読者にとっては格別に魅力をおぼえぬ存在でしかないことが致命的だった。」 落合恵子 40歳 全 ― 0   島田荘司 36歳 全 ― 0     「今回は、大半が候補作として、ちからが弱かった。」「もっと、すぐれたものを書いたとき、候補にすべきだ。」

他の選考委員 山口瞳 渡辺淳一 井上ひさし 源氏鶏太 水上勉 黒岩重吾 村上元三 五木寛之

渡辺淳一51歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題実感と頭と　総行数60　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 樋口修吉 46歳 全 ― 0   赤瀬川隼 53歳 全 ● 9 「頭で計算された小説である。むろん理が目立たぬよう巧みにおさえられてはいるが、思いつきで書く小説の弱さは否定しがたい。」 林真理子 30歳 全 △ 19 「この人のいいところは、よかれ悪しかれ、林真理子そのものが小説ににじんでいるところで、これだけ自分を素直に露出できるのは、作家としての貴重な資質に違いない。」「ただ惜しむらくは終章で、ここだけ突然、頭で書いた脆さが露呈した。」「惜しい一失であった。」 北方謙三 37歳 全 ● 9 「男にこだわるのはわかるが、ハードボイルド・スタイルでは、男のいい面しか書けないという歯痒さがつきまとう。」「中、短篇に絞ったほうが、独自のシャープな文体が生きるのではないか。」 津木林洋 33歳 全 ◎ 10 「一読作者は女性かと思うほど、一風変った女二人の生活がよく書けていた。とくにドラマらしいドラマがなくて地味だが、ディテールがたしかで、実感と頭でつくられた部分が違和感を与えない。」「わたしは感心した。」 落合恵子 40歳 全 ● 5 「後味は悪くないが、頭でつくりすぎ、人物が類型化しすぎている。男女の小説ではとくに理が勝ちすぎては興を殺ぐ。」 島田荘司 36歳 全 ● 8 「頭で書かれた小説の最たるものだが、荒唐無稽のお遊びとは知りながら、このペダンティックな冗長さは底が浅すぎる。これが直木賞候補では、作者に少し酷ではないか。」

他の選考委員 山口瞳 池波正太郎 井上ひさし 源氏鶏太 水上勉 黒岩重吾 村上元三 五木寛之

井上ひさし50歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数65　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 樋口修吉 46歳 全 ― 0   赤瀬川隼 53歳 全 ◎ 46 「審判たちはそのへんのスター選手など及びもつかない起伏に富んだ人生経験を持っているが、その人生経験がゲームの展開へ微妙な影を落すことを、作者はきびきびした文体でみごとに表現している。」「野球という国民的ゲームを新しい視座から見ようとする冒険がある。」「内容、型式、文体、三拍子そろった傑作である。」 林真理子 30歳 全 ― 0   北方謙三 37歳 全 ― 0   津木林洋 33歳 全 ― 0   落合恵子 40歳 全 ― 0   島田荘司 36歳 全 △ 19 「趣向のみごとさについてはぜひ一言しるしておかなければならない。」「大風呂敷もここまで大きくひろげることができれば立派な芸だ。ただし作品の末尾あたりで、島田漱石が史実にそむく行動をしてしまうのは惜しい。」

他の選考委員 山口瞳 池波正太郎 渡辺淳一 源氏鶏太 水上勉 黒岩重吾 村上元三 五木寛之

源氏鶏太72歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選考の経過　総行数54　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 樋口修吉 46歳 全 ― 0   赤瀬川隼 53歳 全 ■ 23 「読んでいて、実にたのしかった。」「この人は、すでに自分の文体を持っているように思われた。が、この作品で直木賞となると、さて、とためらわせられる。要するに、私に、花がこの作品から感じられなかったということであろうか。」 林真理子 30歳 全 ◎ 27 「初めから林真理子さん一人にしぼっていた」「従来のギラギラするような才能をぐっとおさえて、一人の女性が中学生、高校生、更に社会人になってからのことを、そのときどきの心理を過不足なく描いていて立派である。」 北方謙三 37歳 全 ― 0   津木林洋 33歳 全 ― 0   落合恵子 40歳 全 ― 0   島田荘司 36歳 全 △ 7 「得票がすくなかったにもかかわらず、山口委員の強硬な推挙があった」   「今回の選考委員会の経過は微妙なところで往復し、結局、授賞作なしということになった。」

他の選考委員 山口瞳 池波正太郎 渡辺淳一 井上ひさし 水上勉 黒岩重吾 村上元三 五木寛之

水上勉65歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題感想　総行数44　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 樋口修吉 46歳 全 ― 0   赤瀬川隼 53歳 全 □ 19 「野球に縁のない私などまでひきずってゆく話のはこびは堂に入っており、文章が大人で、わかりやすくて、てらいがない。」「さてこれが授賞作か、とつめられると、はねとばす力のようなものが少し足りない。」 林真理子 30歳 全 □ 30 「ブスであるために培う劣等感を、きめこまかい女の息づかいでよく描いている。だが、（引用者中略）あの結末では、作者の思い入れの深部もうまくつたわってこない。」「おそらくこれは作者の一回きりの大事な材料だろうが、授賞作として押し切る力と鮮度に欠けた。」 北方謙三 37歳 全 ― 0   津木林洋 33歳 全 ― 0   落合恵子 40歳 全 ― 0   島田荘司 36歳 全 ― 0     「二作授賞をという声に首をひねって、今回は無しに廻った」

他の選考委員 山口瞳 池波正太郎 渡辺淳一 井上ひさし 源氏鶏太 黒岩重吾 村上元三 五木寛之

黒岩重吾60歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題妥当な授賞作なし　総行数60　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 樋口修吉 46歳 全 ● 5 「人間の匂いが稀薄である。作者は主人公を、余りにも恰好良く、都合良く動かし過ぎている。」 赤瀬川隼 53歳 全 ● 18 「野球に頼り過ぎているせいか、作者が気負っている割には感動を受けなかった。」「私が普遍性を感じない、と述べると水上委員が、普遍性はある、といわれた。私は帰宅して今一度読み返したが、矢張り普遍性は感じなかった。」 林真理子 30歳 全 □ 25 「他の委員の賛同を得たなら、授賞作としても良い、と思ったのは、林真理子氏の「葡萄が目にしみる」一作であった。」「比較的私が買ったのはこの小説に透明感を感じたからである。」「ただこの作品は林氏が絶えず描いている世界のもので新鮮さが薄い。登場人物もどこか少女小説的な稚さから抜け切っていない。」 北方謙三 37歳 全 ― 0   津木林洋 33歳 全 ― 0   落合恵子 40歳 全 ● 4 「登場人物が類型的で、古色蒼然とした小説になってしまった。」 島田荘司 36歳 全 ― 0     「直木賞は矢張り、その作家の代表作の一つでなければならない。残念だが今回の授賞作なしは妥当なところであろう。」

他の選考委員 山口瞳 池波正太郎 渡辺淳一 井上ひさし 源氏鶏太 水上勉 村上元三 五木寛之

村上元三74歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題残念ながら　総行数54　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 樋口修吉 46歳 全 ■ 9 「面白いという点では今回の作品のうち抜群だと思ったが、前半と後半とで分裂している。」 赤瀬川隼 53歳 全 □ 7 「読んでいるあいだも面白くて、読後感も爽やかなのに、さてこれを、と考えると、やはり物足りない。賞に価する一本筋の通った力強さに欠けている。」 林真理子 30歳 全 ■ 10 「わたしは物足りなかった。自伝を書こう、と作者が開き直ったのなら、まだ時期が早い。体験を扱うのは、よほどの用意が必要だと思ってほしい。かえって最後の第九章だけが、この作者らしくて、文章もいきいきしている。」 北方謙三 37歳 全 ● 15 「途中でじりじりしてきた。なぜ主人公が最後に人を刺さなければならないのか。」「この作者はハードボイルド派というレッテルを貼られ、自分から袋小路へ入っているように見える。」「いい作家だけに、気にかかる。」 津木林洋 33歳 全 ● 3 「利枝子という娘が、ちょっと面白いが、私が書けていない。」 落合恵子 40歳 全 ● 4 「いつものことで、この作者は小器用に材料を扱い、そのために軽くなっている。」 島田荘司 36歳 全 ● 3 「才能を買うが、思いつきだけに終っている。」   「今回は残念ながら、直木賞に推したいと思う作品がなかった。」

他の選考委員 山口瞳 池波正太郎 渡辺淳一 井上ひさし 源氏鶏太 水上勉 黒岩重吾 五木寛之

五木寛之52歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題理不尽な作業　総行数52　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 樋口修吉 46歳 全 ● 8 「今様「めりけん・じゃっぷ」ものとして独自の魅力はあるが、作者が面白がっているほど読者には興味の持てない部分が多く、もう少し自分の書くものを突き放して眺める必要がありそうな気がした。」 赤瀬川隼 53歳 全 △ 8 「まるで意見が対立し、結局、一作を選ぶところまではいかなかった。」 林真理子 30歳 全 △ 17 「今回の作品は、好感の持てる物語りに仕上っている分だけ、ギラリとした迫力に欠ける。」「私は最初、北方、林の両氏の受賞を提案したが、合わせて一本というのは失礼かもしれないと考えなおし、受賞作なしに賛成した。」 北方謙三 37歳 全 △ 9 「この作家の力量の半分しか出ていないように思う。」「私は最初、北方、林の両氏の受賞を提案したが、合わせて一本というのは失礼かもしれないと考えなおし、受賞作なしに賛成した。」 津木林洋 33歳 全 ― 0   落合恵子 40歳 全 ― 0   島田荘司 36歳 全 ― 0     「或る選者が積極的に推す作品が、他の委員から全く黙殺されたり、正反対の評価がくだされたりする場に立ち合っていると、小説の値打ちなんて結局は好みの問題にすぎないような気もしてくるのだ。」「他人の書くものに点数をつけるという作業の理不尽さを痛感させられた一夜だった。」

他の選考委員 山口瞳 池波正太郎 渡辺淳一 井上ひさし 源氏鶏太 水上勉 黒岩重吾 村上元三

樋口修吉46歳×各選考委員　 『アバターの島』 長篇 416枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 山口瞳 58歳 全 ― 0   池波正太郎 61歳 全 ― 0   渡辺淳一 51歳 全 ― 0   井上ひさし 50歳 全 ― 0   源氏鶏太 72歳 全 ― 0   水上勉 65歳 全 ― 0   黒岩重吾 60歳 全 ● 5 「人間の匂いが稀薄である。作者は主人公を、余りにも恰好良く、都合良く動かし過ぎている。」 村上元三 74歳 全 ■ 9 「面白いという点では今回の作品のうち抜群だと思ったが、前半と後半とで分裂している。」 五木寛之 52歳 全 ● 8 「今様「めりけん・じゃっぷ」ものとして独自の魅力はあるが、作者が面白がっているほど読者には興味の持てない部分が多く、もう少し自分の書くものを突き放して眺める必要がありそうな気がした。」	他の候補作 赤瀬川隼 「影のプレーヤー」 林真理子 『葡萄が目にしみる』 北方謙三 『やがて冬が終れば』 津木林洋 「贋マリア伝」 落合恵子 「聖夜の賭」 島田荘司 『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』

赤瀬川隼53歳×各選考委員　 「影のプレーヤー」 短篇 115枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 山口瞳 58歳 全 △ 8 「高度な野球小説であるが、直木賞受賞作としてのハナに乏しかった。これも残念。」 池波正太郎 61歳 全 ◎ 21 「群を抜いており、私は、この一本にしぼって選考の席へ出た。」「百枚の枚数の中に過不足なく主人公の人生が描かれており、読後の爽快感は、まぎれもなく直木賞のものだし、これまでの、赤瀬川さんの候補作の中では、もっともよかったと私はおもう。」 渡辺淳一 51歳 全 ● 9 「頭で計算された小説である。むろん理が目立たぬよう巧みにおさえられてはいるが、思いつきで書く小説の弱さは否定しがたい。」 井上ひさし 50歳 全 ◎ 46 「審判たちはそのへんのスター選手など及びもつかない起伏に富んだ人生経験を持っているが、その人生経験がゲームの展開へ微妙な影を落すことを、作者はきびきびした文体でみごとに表現している。」「野球という国民的ゲームを新しい視座から見ようとする冒険がある。」「内容、型式、文体、三拍子そろった傑作である。」 源氏鶏太 72歳 全 ■ 23 「読んでいて、実にたのしかった。」「この人は、すでに自分の文体を持っているように思われた。が、この作品で直木賞となると、さて、とためらわせられる。要するに、私に、花がこの作品から感じられなかったということであろうか。」 水上勉 65歳 全 □ 19 「野球に縁のない私などまでひきずってゆく話のはこびは堂に入っており、文章が大人で、わかりやすくて、てらいがない。」「さてこれが授賞作か、とつめられると、はねとばす力のようなものが少し足りない。」 黒岩重吾 60歳 全 ● 18 「野球に頼り過ぎているせいか、作者が気負っている割には感動を受けなかった。」「私が普遍性を感じない、と述べると水上委員が、普遍性はある、といわれた。私は帰宅して今一度読み返したが、矢張り普遍性は感じなかった。」 村上元三 74歳 全 □ 7 「読んでいるあいだも面白くて、読後感も爽やかなのに、さてこれを、と考えると、やはり物足りない。賞に価する一本筋の通った力強さに欠けている。」 五木寛之 52歳 全 △ 8 「まるで意見が対立し、結局、一作を選ぶところまではいかなかった。」

他の候補作 樋口修吉 『アバターの島』 林真理子 『葡萄が目にしみる』 北方謙三 『やがて冬が終れば』 津木林洋 「贋マリア伝」 落合恵子 「聖夜の賭」 島田荘司 『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』

林真理子30歳×各選考委員　 『葡萄が目にしみる』 長篇 318枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 山口瞳 58歳 全 ■ 7 「劣等感と自己愛の世界にとどまっているかぎり、少女小説と言われても仕方がないのではあるまいか。」 池波正太郎 61歳 全 ― 0   渡辺淳一 51歳 全 △ 19 「この人のいいところは、よかれ悪しかれ、林真理子そのものが小説ににじんでいるところで、これだけ自分を素直に露出できるのは、作家としての貴重な資質に違いない。」「ただ惜しむらくは終章で、ここだけ突然、頭で書いた脆さが露呈した。」「惜しい一失であった。」 井上ひさし 50歳 全 ― 0   源氏鶏太 72歳 全 ◎ 27 「初めから林真理子さん一人にしぼっていた」「従来のギラギラするような才能をぐっとおさえて、一人の女性が中学生、高校生、更に社会人になってからのことを、そのときどきの心理を過不足なく描いていて立派である。」 水上勉 65歳 全 □ 30 「ブスであるために培う劣等感を、きめこまかい女の息づかいでよく描いている。だが、（引用者中略）あの結末では、作者の思い入れの深部もうまくつたわってこない。」「おそらくこれは作者の一回きりの大事な材料だろうが、授賞作として押し切る力と鮮度に欠けた。」 黒岩重吾 60歳 全 □ 25 「他の委員の賛同を得たなら、授賞作としても良い、と思ったのは、林真理子氏の「葡萄が目にしみる」一作であった。」「比較的私が買ったのはこの小説に透明感を感じたからである。」「ただこの作品は林氏が絶えず描いている世界のもので新鮮さが薄い。登場人物もどこか少女小説的な稚さから抜け切っていない。」 村上元三 74歳 全 ■ 10 「わたしは物足りなかった。自伝を書こう、と作者が開き直ったのなら、まだ時期が早い。体験を扱うのは、よほどの用意が必要だと思ってほしい。かえって最後の第九章だけが、この作者らしくて、文章もいきいきしている。」 五木寛之 52歳 全 △ 17 「今回の作品は、好感の持てる物語りに仕上っている分だけ、ギラリとした迫力に欠ける。」「私は最初、北方、林の両氏の受賞を提案したが、合わせて一本というのは失礼かもしれないと考えなおし、受賞作なしに賛成した。」

他の候補作 樋口修吉 『アバターの島』 赤瀬川隼 「影のプレーヤー」 北方謙三 『やがて冬が終れば』 津木林洋 「贋マリア伝」 落合恵子 「聖夜の賭」 島田荘司 『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』

北方謙三37歳×各選考委員　 『やがて冬が終れば』 長篇 425枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 山口瞳 58歳 全 ― 0   池波正太郎 61歳 全 ― 0   渡辺淳一 51歳 全 ● 9 「男にこだわるのはわかるが、ハードボイルド・スタイルでは、男のいい面しか書けないという歯痒さがつきまとう。」「中、短篇に絞ったほうが、独自のシャープな文体が生きるのではないか。」 井上ひさし 50歳 全 ― 0   源氏鶏太 72歳 全 ― 0   水上勉 65歳 全 ― 0   黒岩重吾 60歳 全 ― 0   村上元三 74歳 全 ● 15 「途中でじりじりしてきた。なぜ主人公が最後に人を刺さなければならないのか。」「この作者はハードボイルド派というレッテルを貼られ、自分から袋小路へ入っているように見える。」「いい作家だけに、気にかかる。」 五木寛之 52歳 全 △ 9 「この作家の力量の半分しか出ていないように思う。」「私は最初、北方、林の両氏の受賞を提案したが、合わせて一本というのは失礼かもしれないと考えなおし、受賞作なしに賛成した。」

他の候補作 樋口修吉 『アバターの島』 赤瀬川隼 「影のプレーヤー」 林真理子 『葡萄が目にしみる』 津木林洋 「贋マリア伝」 落合恵子 「聖夜の賭」 島田荘司 『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』

津木林洋33歳×各選考委員　 「贋マリア伝」 短篇 130枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 山口瞳 58歳 全 ― 0   池波正太郎 61歳 全 △ 11 「どうしても、男から見捨てられてしまうような語り手〔私〕が、それらしく、よく描けていて、その躰つきまでが脳裡に浮かぶほどだった」「利枝子という娘が〔私〕にとっては心をひかれる存在であっても、読者にとっては格別に魅力をおぼえぬ存在でしかないことが致命的だった。」 渡辺淳一 51歳 全 ◎ 10 「一読作者は女性かと思うほど、一風変った女二人の生活がよく書けていた。とくにドラマらしいドラマがなくて地味だが、ディテールがたしかで、実感と頭でつくられた部分が違和感を与えない。」「わたしは感心した。」 井上ひさし 50歳 全 ― 0   源氏鶏太 72歳 全 ― 0   水上勉 65歳 全 ― 0   黒岩重吾 60歳 全 ― 0   村上元三 74歳 全 ● 3 「利枝子という娘が、ちょっと面白いが、私が書けていない。」 五木寛之 52歳 全 ― 0

他の候補作 樋口修吉 『アバターの島』 赤瀬川隼 「影のプレーヤー」 林真理子 『葡萄が目にしみる』 北方謙三 『やがて冬が終れば』 落合恵子 「聖夜の賭」 島田荘司 『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』

落合恵子40歳×各選考委員　 「聖夜の賭」 短篇 78枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 山口瞳 58歳 全 ― 0   池波正太郎 61歳 全 ― 0   渡辺淳一 51歳 全 ● 5 「後味は悪くないが、頭でつくりすぎ、人物が類型化しすぎている。男女の小説ではとくに理が勝ちすぎては興を殺ぐ。」 井上ひさし 50歳 全 ― 0   源氏鶏太 72歳 全 ― 0   水上勉 65歳 全 ― 0   黒岩重吾 60歳 全 ● 4 「登場人物が類型的で、古色蒼然とした小説になってしまった。」 村上元三 74歳 全 ● 4 「いつものことで、この作者は小器用に材料を扱い、そのために軽くなっている。」 五木寛之 52歳 全 ― 0	他の候補作 樋口修吉 『アバターの島』 赤瀬川隼 「影のプレーヤー」 林真理子 『葡萄が目にしみる』 北方謙三 『やがて冬が終れば』 津木林洋 「贋マリア伝」 島田荘司 『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』

島田荘司36歳×各選考委員　 『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』 長篇 422枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 山口瞳 58歳 全 ◎ 48 「「いつか機会があったら、もう一度読み返してみたい」という気持になったのは、島田荘司の「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」だけだった。」「小説は、わくわくしながら読む、知的昂奮に駆られるということがなければ存在価値がないが、その両方を満足させられた。」「いや、それよりも、島田さんの格調の高い文章に、ほとんど感動した。」「しかるに、選考委員会では、支持者は私一人で、少なからぬショックを受けた。」 池波正太郎 61歳 全 ― 0   渡辺淳一 51歳 全 ● 8 「頭で書かれた小説の最たるものだが、荒唐無稽のお遊びとは知りながら、このペダンティックな冗長さは底が浅すぎる。これが直木賞候補では、作者に少し酷ではないか。」 井上ひさし 50歳 全 △ 19 「趣向のみごとさについてはぜひ一言しるしておかなければならない。」「大風呂敷もここまで大きくひろげることができれば立派な芸だ。ただし作品の末尾あたりで、島田漱石が史実にそむく行動をしてしまうのは惜しい。」 源氏鶏太 72歳 全 △ 7 「得票がすくなかったにもかかわらず、山口委員の強硬な推挙があった」 水上勉 65歳 全 ― 0   黒岩重吾 60歳 全 ― 0   村上元三 74歳 全 ● 3 「才能を買うが、思いつきだけに終っている。」 五木寛之 52歳 全 ― 0

他の候補作 樋口修吉 『アバターの島』 赤瀬川隼 「影のプレーヤー」 林真理子 『葡萄が目にしみる』 北方謙三 『やがて冬が終れば』 津木林洋 「贋マリア伝」 落合恵子 「聖夜の賭」