選評の概要
91. 92. 93. 94. 95.96. 97. 98. 99. 100.
101. 102. 103. 104. 105.
106. 107. 108. 109. 110.
111. 112. 113. 114. 115.
116. 117. 118. 119. 120.
121. 122. 123. 124. 125.
126. 127. 128.
生没年月日【注】 | 大正13年/1924年2月25日~平成15年/2003年3月7日 | |
在任期間 | 第91回~第128回(通算19年・38回) | |
在任年齢 | 60歳4ヶ月~78歳10ヶ月 | |
経歴 | 大阪府生まれ。同志社大学法学部卒。戦中は学徒出陣し、北満に勤務。日本勧業証券、業界新聞記者、キャバレー宣伝部員、水道産業新聞社編集長など、数々の職を経験。 | |
受賞歴・候補歴 |
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処女作 | 「北満病棟記」(『週刊朝日別冊』昭和24年/1949年9月記録文学特集号) | |
個人全集 | 『黒岩重吾全集』全30巻(昭和57年/1982年11月~昭和60年/1985年3月・中央公論社刊) | |
直木賞候補歴 | 第43回候補 『休日の断崖』(昭和35年/1960年5月・浪速書房刊) 第44回受賞 『背徳のメス』(昭和35年/1960年11月・中央公論社刊) |
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サイト内リンク | ▼直木賞受賞作全作読破への道Part5 ▼小研究-ミステリーと直木賞 |
下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。
選考委員 黒岩重吾 61歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
48歳 |
◎ | 31 | 「選考会が近づくにつれて「老梅」の香りが馥郁と匂い始め、念のために東京のホテルで今一度読み、男女のしがらみが放つ味のある香りに完全に酩酊してしまった。」「男女の愛憎を描きながら気品を感じさせてくれる作品など滅多にない。」「優れた授賞作として推した。」「「演歌の虫」の読後感は稀薄だ。主人公が浮かび上がって来ない。」 | |
宮脇俊三 | 58歳 |
◎ | 15 | 「色々な読み方が出来る優れた掌篇小説集である。自然の恐怖を描きながら緊張感を持たせるためには、その地の霊が呼び寄せたような登場人物が必要だ。氏は収録された十八話のうち、半分近く、それに成功している。大変な才能といわねばならない。」 |
「今回は前回に較べると読み応えのある作品が揃っていた。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』昭和60年/1985年10月号 |
選考委員 黒岩重吾 61歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
31歳 |
◎ | 19 | 「林真理子氏を推すべく選考会に出席した。」「これまでの少女趣味を脱した氏のしたたかな存在感が息づいている。ことに後者(引用者注:「京都まで」)は、主人公の相手役になる男性の描き方がたくみだ。」「氏のどの作品にも、林真理子独特の新しい存在感が胡座をかいている」「そこに私はただならぬ作家の資質を感じるのだ。雑事を排し、作家道に邁進されたい。」 | |
山崎光夫 | 38歳 |
○ | 12 | 「達者さには舌を巻いた。この才能は貴重である。優秀点をつけたのは私だけだったが、他の選考委員が否定した視点もよく分る。達者過ぎて筆が走り過ぎている。」 |
60歳 |
■ | 15 | 「ところどころヴィヴィッドな描写もあり好感を抱いたが、主人公秘密が明かされる部分で失望した。」「最後の簡単な説明だけでは、主人公の行動を理解することは不可能である。寧ろ魚河岸だけの物語にしたなら優れた作品になっていたような気がする。」 | |
選評出典:『オール讀物』昭和61年/1986年4月号 |
選考委員 黒岩重吾 62歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
55歳 |
◎ | 11 | 「味のある文章で青春の悩みと希望を見事に描き切り当時の風俗を彷彿とさせる。」「この小説の魅力はたんなる青春小説ではなくアメリカを遠い国とする「時代」が息づいているところにある。」 | |
早坂暁 | 57歳 |
◎ | 13 | 「今回の候補作の中で最も面白く読んだ。読み終ってほろりとさせるものがある。一見自叙伝風だが内容の拡がり方を見て半分はフィクションと視た。」「意外に点が入らなかったのは残念だ。」 |
43歳 |
△ | 14 | 「千三百枚の長篇だが乱れが殆ど感じられないのには感心した。ただ人間描写が甘い。」「氏のこれからの課題は人間に対する凝視力を深めることにあるのではないか。今少し読後の感銘が欲しい。」 | |
選評出典:『オール讀物』昭和62年/1987年4月号 |
選考委員 黒岩重吾 63歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
54歳 |
◎ | 55 | 「「それぞれの終楽章」が抜群で、受賞作は阿部氏以外にないだろう、と感じた。」「贅肉が取れた文章で描かれた人間模様には今の氏の年齢でなければ凝視出来ない人生への慈愛が滲み出ている。」「旧友の死を作為的なストーリーで追わず、彼の性格を抉って小説に構築したこともこの作品の格調を高めた。」 | |
赤瀬川隼 | 56歳 |
○ | 31 | 「私は前二作(引用者注:「オールド・ルーキー」「梶川一行の犯罪」)に感銘を受けた。」「(引用者注:「オールド・ルーキー」の)テーマで受けた読後の爽快感は氏の才能の所産であろう。」「「梶川一行の犯罪」は、野球という夢を通して生きて行く男の影とロマンの一体化に魅力がある。」「受賞作の価値はあると今でも考えているが阿部氏との得点差が離れ過ぎていた。」 |
選評出典:『オール讀物』昭和63年/1988年4月号 |
選考委員 黒岩重吾 64歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
48歳 |
◎ | 39 | 「群を抜いており、」「(引用者注:「凍れる瞳」は)読後に北海道の雲が囁き合うような余韻が感じられたのは作者の人間への愛情のせいである。」「これだけストーリーがたくみだと、普通なら作為を感じるものだが、本作品にはそれがない。」「「端島の女」もなかなかの力作である。この小説の魅力はそこに育った土地と人間の関係が鎖を引きずるように重く描かれているところにある。」 | |
藤堂志津子 | 39歳 |
○ | 24 | 「受賞圏にあると考えて選考委員会に出席した。」「大人の童話として読むと不自然さが消えた。主人公の優しさの中に潜む女性のエゴや性愛描写、三角関係も納得出来る。」「ただ幾ら童話でも、二人の男性、唐沢と郁馬が同一人物に思えるのは本小説の欠点である。」 |
41歳 |
■ | 38 | 「私がこの小説に否定的だったのは小説が二つに割れ、後半が前半とは異質で崩れているからである。」「(引用者注:前半は)優れた描写が多く、恐竜の子、クーが最初に見た主人公の少年を母と思うあたりは感動的だ。」「フランスの特殊部隊の出現あたりからアクション小説になり、場所がら核実験が絡むだろうと予想していると案の定そうでがっかりした。後半は描写も前半の緻密さを失い、その落差は酷い。」 | |
選評出典:『オール讀物』昭和63年/1988年10月号 |
選考委員 黒岩重吾 64歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
古川薫 | 63歳 |
○ | 31 | 「比較的好感を持ち、今でも未練を抱いている」「私は面白く読んだ。面白さという点では随一だった。」「残念なのは漁業会社の出張所所長の勝呂の人物像が中途半端なことだ。(引用者中略)勝呂を書き込まないと、読者はこの面白い小説をもの足りない思いで読了せねばならない。好きな作品だけに惜しい。」 |
35歳 |
□ | 19 | 「全く欠点のない作品である。」「明治維新後の浮世絵界や風俗が破綻なく描かれている。」「受賞に異論はないが、私の読後感は優等生の模範答案を見せられた、といったところである。人間の臍には垢がついていることを認識した時、この作家は大きく飛躍するのではないか。」 | |
39歳 |
■ | 22 | 「私はこの作品は買わなかった。だが藤堂氏の才能を否定しているわけではない。」「私が今回の作品に酩酊出来なかったのは、人間の屑のような紀夫に雄が全く感じられなかったからである。」「もし紀夫に雄(女性を擲るという行為は雄とは関係がない)を感じることが出来たなら、この作品は凄いものになっていたような気がする。」 | |
「今回は受賞作も含め、標準に達した作品は多かったが、無我夢中で推したい作品は無かった。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成1年/1989年3月号 |
選考委員 黒岩重吾 65歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
41歳 |
◎ | 41 | 「一番高く評価した」「この種の少年は一見書き易いようだが、最も書き難く、筆に対する抑制力が備わっていないと、変にべとつき、中途半端な少年像になる危険性を抱いている。」「作者のこの見事なコントロールは、総ての登場人物に行き届き、読んでいて不安感が全くない。」 | |
40歳 |
○ | 23 | 「受賞圏にあると考え、選考会に出席した。」「浩という人間の屑の存在感が自然でリアリティがあるのも、作者が主人公の女性の心理のひだを書き込んでいるせいである。」「ただ読み終って、この種の小説にしては躍動感がないのが気になったが、受賞を否定するほどのものではない。」 | |
隆慶一郎 | 65歳 |
○ | 13 | 「受賞圏にあると考え、選考会に出席した。」「これまでの作者の諸作品にない燻し銀に似た艶がある。」「吸い込んだもろもろの血を滲ませた古刀を見たような気がした。」「すぐれた佳作である。」 |
古川薫 | 64歳 |
○ | 15 | 「受賞圏にあると考え、選考会に出席した。」「作者の感性の若さに感嘆した。小説もなかなか面白い。」「意外に点が入らなかったが、描写が単調に過ぎたことも一因かもしれない。」 |
「今回は優れた作品が多く、候補作を読むのが愉しかった。そのかわり他の回なら当然受賞している作品も、受賞を逸する、ということにもなる。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成1年/1989年9月号 |
選考委員 黒岩重吾 66歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
65歳 |
◎ | 38 | 「私が最も惹かれたのは、古川薫氏の「漂泊者のアリア」である。」「藤原義江を描く作者の眼光は鋭く、また慈愛に満ちている。」「淡々と描きながらも、主人公の人生が重くのしかかって来るのは、作者の才能に年輪が加わったせいではないか。」 | |
東郷隆 | 39歳 |
○ | 23 | 「票が入れば、受賞作として良い、と考えていたが、余り票が入らなかった。」「私は「水阿弥陀仏」を実に面白く読んだ。この面白さは理屈抜きだが、結構、足利義尚を通し権力をからかい、憐れんでいる。」「この一作なら良いが、「放屁権介」「人造記」となると作品の濃度が落ちて来る。」 |
「今回の候補作は充実していた。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成3年/1991年3月号 |
選考委員 黒岩重吾 67歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
高橋義夫 | 45歳 |
◎ | 39 | 「最も惹かれた。」「人間模様が鮮やかに迫って来るのも、作者の慈愛の眼が総てに行き届いているからである。」「票が集まりながら受賞を逸したのは、優等生的な作品と評価されたせいである。」「だが現在、これだけの筆力で寒村僻地を描ける作家は少ない。」 |
46歳 |
△ | 50 | 「前作に較べると人物に躍動感がある。」「春秋時代を小説に仕上げた腕力は見事だが、私は作者が男女の関係や、小説を構築する上で大事なディテールについて、どのように考えているのだろうか、と疑問を抱いた。」 | |
41歳 |
● | 22 | 「作家志望なら一度は書いてみたい、と望むテーマである。それだけにこの種の小説には、衝撃また感動が伴わなければ意味がない、と私は考えている。本小説にはそれがない。」「登場人物に悩みもなければ、作者が何かを訴えようとする意欲も感じられない。」「読んでいるうちに一人の若者のコピーが踊っているような空しさを覚えた。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成3年/1991年9月号 |
選考委員 黒岩重吾 68歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
42歳 |
◎ | 50 | 「単なる安堵感以上のものがあった。暑い季節なのに、花の香をそれとなく含んだ春の微風に頬をくすぐられたような、甘い爽やかさを感じたのかもしれない。」「どうもこの作者は、小説の人間像から垢や脂をたくみに拭い去り、人生に慈愛の眼を注ぎながら描く、独得の才能を持っているらしい。」「私が最も惹かれたのは「夕空晴れて」と「切子皿」だが、惜しい、と感じたのは「菓子の家」である。」 | |
中村彰彦 | 43歳 |
○ | 25 | 「面白く読んだ。私が四篇のうち最も魅力を感じたのは「龍ノ口の美少年」である。(引用者中略)他の作品と違い、資料に振り廻されていない。」「主人公である美少年が、情を移しかけている〓(引用者注:禾+最)所元常を殺す場面も、短い描写の中に、男色家である武将の最期が鮮明に描かれ、興趣をそそった。」 |
選評出典:『オール讀物』平成4年/1992年9月号 |
選考委員 黒岩重吾 69歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
40歳 |
◎ | 39 | 「突出しており、」「(引用者注:殺人犯と看護婦の)二人の関係には呻きがあり毒が滲み出ている。」「心象風景の中の山が迫って来るせいかもしれないが、生臭く俗な人間に対する小説の勝利といって良いであろう。」「これを推理小説として読むと欠点は多い。(引用者中略)それにも拘らず私が本小説に魅了されたのは、毒気が欠点を麻痺させたからである。」 | |
今井泉 | 58歳 |
○ | 30 | 「表題作が優れている。」「(引用者注:樺太から北海道に向かう)その間の人間と海との闘いには、息を呑むほどの迫真力がある。」「「道連れ」「島模様」も佳作だが、票が集まらなかったのは、人間でいえば臍が隠れていたせいかもしれない。受賞に価する作品だったが残念である。」 |
55歳 |
△ | 18 | 「総ての短篇が旨く纏められていて愉しみながら読むことが出来た。ただ、登場人物が作者の設定通りに動いているような気がする。その中でも余り作為を感じなかったのは「恋忘れ草」である。」「男性を視る女主人公の眼に、ベテランホステスに似たしたたかさを感じた。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成5年/1993年9月号 |
選考委員 黒岩重吾 70歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
45歳 |
◎ | 18 | 「受賞圏に入ると感じた。」「松江豊寿の人間像が、爽やかな魅力を放っている。」「戊辰戦争や斗南での飢餓が主人公の反軍的な行動の裏打となっており、良い資料を選び出すのも、作者の眼力であることを示している。」 | |
久世光彦 | 59歳 |
◎ | 31 | 「受賞圏に入ると感じた。」「私は酔った。ただこの作品の評価は酔うか酔わないかによって分かれる。」「平林初之輔まで登場させた作者の該博な知識には驚かされた。ただこの作品は私のように酔わないと夾雑物が喉につかえるかもしれない。」「私は推したが、受賞に到らなかった理由も何となく分るような気がする。」 |
44歳 |
□ | 34 | 「受賞圏に入ると感じた。」「“夏の終りの風”と“帰郷”がとくに優れていた。」「ただ右の二作品以外の作品は、既成作家の手の内のものという感がしないでもない。その点やや物足りなかったが、作者の才能は間違いないと思い受賞に賛成した。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成6年/1994年9月号 |
選考委員 黒岩重吾 70歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
志水辰夫 | 58歳 |
◎ | 32 | 「受賞に価する作品だと今でも私は信じている。」「大人の童話として読むと、黄ばんだ葉からしたたり落ちる雫を味わったようなまろやかな滋味を感じる。私の好みとしては「嘘」を最も推したい。(引用者中略)嘘が救いになっているところに本作品の味がある。」 |
坂東眞砂子 | 36歳 |
○ | 36 | 「受賞に価する作品だと今でも私は信じている。」「珊瑚に憑かれた若い漁師達をあこぎな商売人以上に醜く描いており、海の小説に新境地を開いた。大勢の登場人物も類型的ではなく一人一人の躍動感が伝わって来る。」「ただ作者は、登場人物の総てに平等に力を注いだ結果、読者は読み進めるうちに、息切れして来る。」「筆力が空転したのが惜しい。」 |
選評出典:『オール讀物』平成7年/1995年3月号 |
選考委員 黒岩重吾 74歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
38歳 |
◎ | 23 | 「最終投票において満票となった。大抵の場合、一、二票欠けるから、今回は珍しい受賞といえよう。」「作者は、現代の病弊を徹底的に取材し、小説的に構築する手腕に優れている。」「ただ気になるのは、作者の人間に対するこだわり方である。奥深いところまで届いていない。それにも拘らず満票となったのは、作者の小説に対する執念の成果であろう。」 | |
服部まゆみ | 50歳 |
◎ | 35 | 「大人のメルヘンとして惹かれた。誘拐犯がレイアを返すまでの、日常生活の無気味さには、息を呑むほどの緊迫感が漂っている。」「この作品のラストはそれなりに余韻を残しているが、一人二役の作家が、何故少女レイアとして育てた「僕」を誘拐したのかがどうしても納得できなかった。それにも拘らずこの作品をも推したのは、作者の才能に香気を感じたせいである。」 |
選評出典:『オール讀物』平成11年/1999年3月号 |