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平成21年/2009年度
(平成22年/2010年5月18日決定発表/『小説新潮』平成22年/2010年7月号選評掲載)
選考委員  浅田次郎
男58歳
北村薫
男60歳
小池真理子
女57歳
重松清
男47歳
篠田節子
女54歳
選評総行数  222 189 241 228 225
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
貫井徳郎 『後悔と真実の色』
男42歳
50 78 61 26 61
道尾秀介 『光媒の花』
男34歳
45 66 39 47 37
本多孝好 『WILL』
男39歳
18 15 27 32 15
和田竜 『小太郎の左腕』
男40歳
19 13 21 28 44
海堂尊 『マドンナ・ヴェルデ』
男48歳
14 18 73 81 43
         
年齢の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『小説新潮』平成22年/2010年7月号
1行当たりの文字数:18字


選考委員
浅田次郎男58歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
道場破り 総行数222 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
貫井徳郎
男42歳
50 「読み進むほどに、いつもと同様いたく苛ついた。無駄な動きが多いのである。それも詳悉癖というより、無選別というたほうがよかろう。」「破綻とおぼしき二点を挙げておく。ひとつは女性像である。(引用者中略)女性の描き方については淡白にすぎる。」「もう一点は、主人公が突然浮浪者に身を堕とす不可解である。」「しかし、あれこれ言うたところで力作であることに疑いようはない。」
道尾秀介
男34歳
45 「これまでの作品よりもとりわけすぐれているとも思えぬ。しかし多作でありながら同じ水準を維持していること、すなわち実力である。」「正直のところ本作には、少なからず既視感を憶えた。小説家が最も戒むべき自己模倣の兆しを感じ、また古典名作の主題を想起させる殆さもあった。すなわち当人は知るや知らずや、現状における努力は大いなる壁に直面している。こうした場合にさし渡すべき梯子こそ、文学賞であって然るべきであろう。乗り越えた壁の向こうに、まったく新たなる地平を見る人だからである。」
本多孝好
男39歳
18 「小説はつとめて無駄を省かねばならぬ。文章についても筋書においても思想についても、積み重ねるのではなく省き続けるのである。そしてなおかつ、省き抜いた中からさらに主たるものと従たるものの選別をなし、全体の均衡を整える。本作はどうにも、そのあたりの按配が悪く、いわば華奢なわりには贅肉の多い体に見えた。」
和田竜
男40歳
19 「たとえば、登場人物の心情を( )で括って表わすというはまことに安直な方法で、これを多用するのは他に技がないと言うているも同じである。」「「守破離」という剣の訓えがある。まず師の技を守り、次に破り、そして離れるのである。この剣客は「司馬流」と「風太郎流」を修めているはずだが、すでに「守」の段階を過ぎ、今は「破」の壁に挑んでいるところと見た。」
海堂尊
男48歳
14 「ところどころに矛盾を感ずるのは、本作がシリーズものであるせいで、これはいかにも不利な条件と思えた。しかしその不利はさておくとしても、社会的な主題に比して人間の情愛がなおざりにされているきらいがあった。」
  「大きな想像の器を置き、揺るがぬように主題の芯棒を打ち、しかるのち技を駆使して物語を築き上げるという当たり前の手順を、どの作品もまっとうに踏んでいないように思えた。」
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他の選考委員
北村薫
小池真理子
重松清
篠田節子
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選考委員
北村薫男60歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
波乱のない選考 総行数189 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
貫井徳郎
男42歳
78 「(引用者注:「光媒の花」とともに)上位と考えて選考会に臨んだ。」「まことに巧みに構築されたミステリである。」「第二・第三の犯行の相違点に代表されるような、様々な要素の持つ意味が、真実を見抜くことによって明瞭に浮かび上がって来る。このあたりの技は、まことに見事である。」
道尾秀介
男34歳
66 「(引用者注:「後悔と真実の色」とともに)上位と考えて選考会に臨んだ。」「読み始めてまず、第一話で、作者の力量を感じさせる。」「この作は、まことに《きれいに》まとまっている――ともいえる。有り体にいえば、賞を取りやすい作かも知れない。そのことについては、選考会で、氏には、きれいに小さくなるのではなく、もっと暴れ続けてほしいという声が出た。そのためにも、賞を取ってしまう方がよい、という意見だった。これを聞いて、さらに強く推す気になった。」
本多孝好
男39歳
15 「ほっと安心出来るものであることは確かだ。」「だが、ここでは、奇妙な出来事とその背景――の連続が、物語の素材となっている。その《素材》に納得出来なかった。発端は魅力的なのに、解き明かされたところで、無理が目だってしまう。」
和田竜
男40歳
13 「大胆に顔を出す作者の意見。おおらかともいえる展開。必殺の狙撃者や、忍法シリーズから出て来たような人物。(引用者中略)この大胆さが、賞にふさわしい小説的達成となっているかどうか。その点で、肯定的になれなかった。」
海堂尊
男48歳
18 「読み始めて、みどりの人物設定がまず印象深かった。(引用者中略)だが、物語の中では、《伸一郎さんがふつうの男性じゃないことは認めるわ。だけどあたしはふつうの女なの》という、伸一郎・理恵と対立する《ふつう》の側の見方を代表しているように思えた。その点には、やや違和感を覚えた。」
  「今回は、――たちまち決まった、という感じである。論戦に入るまでもなく、結果が目の前にあった。」「まず初めに評価の点数を入れた段階で、『後悔と真実の色』『光媒の花』の二作が同点で並んだ。他の三作との点差は歴然たるもので、しかも共に否定する票がない。そのことが、貫井、道尾両氏の力量を、如実に示していた。」
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他の選考委員
浅田次郎
小池真理子
重松清
篠田節子
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選考委員
小池真理子女57歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
ミントゼリーの小説 総行数241 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
貫井徳郎
男42歳
61 「私が何よりも秀逸だと評価したのは、同じ刑事部屋に属するライバル同士、西條と綿引の描き方にあった。」「その嫉妬の表現にはリアリティがあり、ありきたりな男の心理描写からも解き放たれていて、実に新鮮だった。」「ミステリーでありながら、ミステリーの枠にとどまり切れずに、作者の中にあふれ出してどうしようもなくなった何かが、今回の作品を生み落したのは間違いない。それこそが、作者の奥底からわきあがってきた小説の力なのだ。」
道尾秀介
男34歳
39 「どこといって強く指摘すべき弱点も見受けられず、完成度は高いのだが、他の選考委員同様、私も本作が図抜けている、というようには思えなかった。平均点の高い作品を連続して発表している、という、作家としての安定感を高く評価した上で、この作品が受賞作にふさわしいと判断するに至った。」「初期のころのような刺激的なトリック仕立ての作風のほうがよかったとは私は思わない。むしろ、一作一作、作者の成長にしたがって熟成されていく文体で丹念に描かれる世界のほうが、今後、道尾氏の真骨頂になっていくだろうと思われる。」
本多孝好
男39歳
27 「舞台をどれほど小さなもの、内向きの形に設定しても、作者に力さえあれば、深遠な世界を描いてみせることは可能である。」「だが、登場人物をありがちなヒューマニズムの持ち主ばかりにしてしまったため、描かれるせっかくの人生模様は陳腐なものにしかならなかった。」「爽やかで清潔感のある作風ばかりに固執せず、読者や担当編集者たちを裏切ってみせよう、というほどの心意気を胸に、何よりもミントゼリーの世界から脱することを試みてはいかがだろう。」
和田竜
男40歳
21 「余計なものをすべて削ぎ落したリズミカルな文体と、簡素な文章の中にわきあがってくる瑞々しい描写力に目を惹かれた。」「私はこの作者は、非のうちどころのないエンタテインメント小説が書ける人だと思った。」「とはいえ、小説的な深まりは今ひとつである。面白く読んでしまえばそれで終わり、という、物語としての軽さと薄さがいささか気になる。」
海堂尊
男48歳
73 「私にとって、多くの不満が残される作品だった。」「何よりも強烈な違和感を抱いたのが、実の娘から、代理母になることを依頼された母親の描き方だった。」「医師でもある作者が、現代の医学的テーマを極限まで追いかけようとしたことは容易に想像できる。だが、そこに描かれた女性には残念ながら、命が吹き込まれないままに終わってしまった。」
  「刺激的な辛さ、苦みや酸味がまぶされた小説は敬遠され、読者が甘いミントゼリーのような爽やかな作品を求める傾向は、年々、さらに強まってきているように見受けられる。」「書くほう、読むほう共に、いずれはその、優しく爽やかなだけの世界に飽きがきてしまうのは必至だろう。小説はそれほど単純に書き上げられ、単純に読まれていくものではない。」
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他の選考委員
浅田次郎
北村薫
重松清
篠田節子
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選考委員
重松清男47歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
「留保付き」の苦しさ 総行数228 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
貫井徳郎
男42歳
26 「じつは最初の投票では△の評価だった。」「中盤で主人公・西條が職を失ってホームレスになる展開、そしてそんな彼を愛人の美叡が見つけだすくだりが性急に思えて、その違和感が最後までつづいてしまったのだ。」「男同士の嫉妬の心理や夫婦の齟齬など、やはり読みごたえや持ち重りが存分にある。それらを再確認したうえで、受賞には迷うことなく賛成した。」
道尾秀介
男34歳
47 「最初の投票から○を差し上げた。連作長編として闇から光へのグラデーションがみごとに描き出されていることに、まず拍手を贈りたい。」「氏は、ディテールを重ねて物語を密にすることよりも、余白を残すことを選んだ。それによって、苦い物語ではあっても風通しのよい軽みが生まれ、光の通り道も空いた。」「光を物語に射すことは、ひとは誰もが誰かとつながり合っているのだと確かめることでもある。道尾氏が示す希望は、そこにある。」
本多孝好
男39歳
32 「作家の持つ強みが逆に作品にとってのネックになってしまうことがありうるのだと、小説の難しさをいまさらながらに痛感させられた。」「「死」や「生」をめぐる主人公・森野の(そしておそらく作者自身の)真摯な姿勢は間違いなく胸を打つ。けれども、それを伝える言葉が整いすぎてはいないか。物語の結構が美しすぎないか。」
和田竜
男40歳
28 「当時の特異な価値観や美学に貫かれた本作は、そのことだけでも高く評価したい作品だった。」「だが、せっかくの武将たちの価値観や美学を読者に伝えるのがすべて説明調、しかも何度となく繰り返されるというのは、どうなのだろう。また、括弧で処理される心内語の多用も気になった。」
海堂尊
男48歳
81 「僕の評価は「留保付きの○」である。」「本作への課題はいくつかある。(引用者中略)ところが、その本作を海堂氏がこれまで精力的に発表してきた作品群の中に置いてみると、見え方が一変する。」「固定された主人公や舞台の物語を直線的に書き継いでいく「シリーズ」のレベルにとどまらず、各作品の相関に濃淡や遠近を柔軟に持たせ、本作と『ジーン・ワルツ』の関係のような語り直しも含む、たくらみに満ちた「サーガ」は、しかもきわめてアクチュアリティーに富み、問題意識も明確かつ刺激的である。」
  「いままでも何度か「シリーズ」「サーガ」の作品が候補に挙げられていた。(引用者中略)そういった作品横断的な試みと、あくまでも「候補作」を月旦することが前提の文学賞とは、どういう関係を結ぶべきなのか。その問いは、候補作の選出基準にもかかわるかもしれない。(引用者中略)来年の選考会まで、もう少しじっくりと考えてみたい。」
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他の選考委員
浅田次郎
北村薫
小池真理子
篠田節子
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選考委員
篠田節子女54歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
選考の難しさと一読者としての期待 総行数225 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
貫井徳郎
男42歳
61 「作者の熱意と真摯さがひしひしと伝わってくる力作だった。」「事件の発生から解決にいたるプロット同様、主人公と彼を取り巻く人間関係も、私はリアルな人間ドラマというより、丹念に作り込まれた、古典的な英雄譚として読んだ。」「欲を言えば、ここに登場する妻と恋人については、「亭主に浮気されて当然の女房」と「都合の良い女」ではなく、もう少し濃厚な存在感が欲しかった。」
道尾秀介
男34歳
37 「どちらかというと、私は主人公の視点によって外側からのみ語られる、当人の心理描写なしの人物造形に魅力を感じるが、それは読者にあるていどの読解力をも要求することでもあり、書き手にとっては、なかなか頭の痛い問題でもある。」「いずれにせよ、道尾氏は毎回、味わいの異なる作品で、間違いなく一定以上の水準をクリアしてくる作家でもあり、鋭く透明な感性と安定した筆力を積極的に評価したい。」
本多孝好
男39歳
15 「スタイリッシュで小技の効いたハートウォーミングストーリーで、多くの若い読者から好感を持って受け入れられるというのがよくわかる。一方で、時代を反映しているのか、すべての話がご近所、家族、幼なじみの関係から始まり、そこに収束する。世界の小ささと内向き志向に、私自身はいささかの息苦しさを覚えた。」
和田竜
男40歳
44 「私はこの作品に高得点をつけながら、受賞に反対するという矛盾した態度を取った。」「読み物としての魅力を過剰なほどに備えながら、小説としての品位をあらゆる点で欠いている。」「禁じ手だらけの作品を、時代小説の権威を唸らせる小説に作り直すことなど、この作家の力量をもってすれば、おそらくたやすいことだろう。しかしそのとき作品からは格調と引き替えに活力が失われる。『小太郎の左腕』については、受賞を逃したのではなく、作品が賞を蹴飛ばしたのだ、と私は思う。」
海堂尊
男48歳
43 「作品中の母子関係も、成績優秀な娘と専業主婦の母親の間に頻繁に見うけられる、理不尽ながらもリアルな姿であると私は感じた。」「期待して読み進んだが、物語の終結部の安直な解決と四人一度に産気づく類の大団円は、せっかくの大きな深遠なテーマを台無しにしてしまった。」
  「一斉に書評が載って祭り上げられ、右へならえとばかりにネットではやされ、次々に賞の候補となる作家がいる一方で、質の高い作品を送り出しているにもかかわらず、なぜか注目されず、書評に取り上げられることがなく、新刊が出たことにさえ気づかれないという、不運な書き手もいる。」「候補の選定にあたり、一つ二つはこうした作家の作品を(以下原文傍点)他の賞に先んじて(以上原文傍点)選考の場に掬い上げ、話題の作家と同じ土俵に乗せて競わせるというのも出版社の見識ではなかろうか。」
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他の選考委員
浅田次郎
北村薫
小池真理子
重松清
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受賞者・作品
貫井徳郎男42歳×各選考委員 
『後悔と真実の色』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男58歳
50 「読み進むほどに、いつもと同様いたく苛ついた。無駄な動きが多いのである。それも詳悉癖というより、無選別というたほうがよかろう。」「破綻とおぼしき二点を挙げておく。ひとつは女性像である。(引用者中略)女性の描き方については淡白にすぎる。」「もう一点は、主人公が突然浮浪者に身を堕とす不可解である。」「しかし、あれこれ言うたところで力作であることに疑いようはない。」
北村薫
男60歳
78 「(引用者注:「光媒の花」とともに)上位と考えて選考会に臨んだ。」「まことに巧みに構築されたミステリである。」「第二・第三の犯行の相違点に代表されるような、様々な要素の持つ意味が、真実を見抜くことによって明瞭に浮かび上がって来る。このあたりの技は、まことに見事である。」
小池真理子
女57歳
61 「私が何よりも秀逸だと評価したのは、同じ刑事部屋に属するライバル同士、西條と綿引の描き方にあった。」「その嫉妬の表現にはリアリティがあり、ありきたりな男の心理描写からも解き放たれていて、実に新鮮だった。」「ミステリーでありながら、ミステリーの枠にとどまり切れずに、作者の中にあふれ出してどうしようもなくなった何かが、今回の作品を生み落したのは間違いない。それこそが、作者の奥底からわきあがってきた小説の力なのだ。」
重松清
男47歳
26 「じつは最初の投票では△の評価だった。」「中盤で主人公・西條が職を失ってホームレスになる展開、そしてそんな彼を愛人の美叡が見つけだすくだりが性急に思えて、その違和感が最後までつづいてしまったのだ。」「男同士の嫉妬の心理や夫婦の齟齬など、やはり読みごたえや持ち重りが存分にある。それらを再確認したうえで、受賞には迷うことなく賛成した。」
篠田節子
女54歳
61 「作者の熱意と真摯さがひしひしと伝わってくる力作だった。」「事件の発生から解決にいたるプロット同様、主人公と彼を取り巻く人間関係も、私はリアルな人間ドラマというより、丹念に作り込まれた、古典的な英雄譚として読んだ。」「欲を言えば、ここに登場する妻と恋人については、「亭主に浮気されて当然の女房」と「都合の良い女」ではなく、もう少し濃厚な存在感が欲しかった。」
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他の候補作
道尾秀介
『光媒の花』
本多孝好
『WILL』
和田竜
『小太郎の左腕』
海堂尊
『マドンナ・ヴェルデ』
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受賞者・作品
道尾秀介男34歳×各選考委員 
『光媒の花』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男58歳
45 「これまでの作品よりもとりわけすぐれているとも思えぬ。しかし多作でありながら同じ水準を維持していること、すなわち実力である。」「正直のところ本作には、少なからず既視感を憶えた。小説家が最も戒むべき自己模倣の兆しを感じ、また古典名作の主題を想起させる殆さもあった。すなわち当人は知るや知らずや、現状における努力は大いなる壁に直面している。こうした場合にさし渡すべき梯子こそ、文学賞であって然るべきであろう。乗り越えた壁の向こうに、まったく新たなる地平を見る人だからである。」
北村薫
男60歳
66 「(引用者注:「後悔と真実の色」とともに)上位と考えて選考会に臨んだ。」「読み始めてまず、第一話で、作者の力量を感じさせる。」「この作は、まことに《きれいに》まとまっている――ともいえる。有り体にいえば、賞を取りやすい作かも知れない。そのことについては、選考会で、氏には、きれいに小さくなるのではなく、もっと暴れ続けてほしいという声が出た。そのためにも、賞を取ってしまう方がよい、という意見だった。これを聞いて、さらに強く推す気になった。」
小池真理子
女57歳
39 「どこといって強く指摘すべき弱点も見受けられず、完成度は高いのだが、他の選考委員同様、私も本作が図抜けている、というようには思えなかった。平均点の高い作品を連続して発表している、という、作家としての安定感を高く評価した上で、この作品が受賞作にふさわしいと判断するに至った。」「初期のころのような刺激的なトリック仕立ての作風のほうがよかったとは私は思わない。むしろ、一作一作、作者の成長にしたがって熟成されていく文体で丹念に描かれる世界のほうが、今後、道尾氏の真骨頂になっていくだろうと思われる。」
重松清
男47歳
47 「最初の投票から○を差し上げた。連作長編として闇から光へのグラデーションがみごとに描き出されていることに、まず拍手を贈りたい。」「氏は、ディテールを重ねて物語を密にすることよりも、余白を残すことを選んだ。それによって、苦い物語ではあっても風通しのよい軽みが生まれ、光の通り道も空いた。」「光を物語に射すことは、ひとは誰もが誰かとつながり合っているのだと確かめることでもある。道尾氏が示す希望は、そこにある。」
篠田節子
女54歳
37 「どちらかというと、私は主人公の視点によって外側からのみ語られる、当人の心理描写なしの人物造形に魅力を感じるが、それは読者にあるていどの読解力をも要求することでもあり、書き手にとっては、なかなか頭の痛い問題でもある。」「いずれにせよ、道尾氏は毎回、味わいの異なる作品で、間違いなく一定以上の水準をクリアしてくる作家でもあり、鋭く透明な感性と安定した筆力を積極的に評価したい。」
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他の候補作
貫井徳郎
『後悔と真実の色』
本多孝好
『WILL』
和田竜
『小太郎の左腕』
海堂尊
『マドンナ・ヴェルデ』
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候補者・作品
本多孝好男39歳×各選考委員 
『WILL』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男58歳
18 「小説はつとめて無駄を省かねばならぬ。文章についても筋書においても思想についても、積み重ねるのではなく省き続けるのである。そしてなおかつ、省き抜いた中からさらに主たるものと従たるものの選別をなし、全体の均衡を整える。本作はどうにも、そのあたりの按配が悪く、いわば華奢なわりには贅肉の多い体に見えた。」
北村薫
男60歳
15 「ほっと安心出来るものであることは確かだ。」「だが、ここでは、奇妙な出来事とその背景――の連続が、物語の素材となっている。その《素材》に納得出来なかった。発端は魅力的なのに、解き明かされたところで、無理が目だってしまう。」
小池真理子
女57歳
27 「舞台をどれほど小さなもの、内向きの形に設定しても、作者に力さえあれば、深遠な世界を描いてみせることは可能である。」「だが、登場人物をありがちなヒューマニズムの持ち主ばかりにしてしまったため、描かれるせっかくの人生模様は陳腐なものにしかならなかった。」「爽やかで清潔感のある作風ばかりに固執せず、読者や担当編集者たちを裏切ってみせよう、というほどの心意気を胸に、何よりもミントゼリーの世界から脱することを試みてはいかがだろう。」
重松清
男47歳
32 「作家の持つ強みが逆に作品にとってのネックになってしまうことがありうるのだと、小説の難しさをいまさらながらに痛感させられた。」「「死」や「生」をめぐる主人公・森野の(そしておそらく作者自身の)真摯な姿勢は間違いなく胸を打つ。けれども、それを伝える言葉が整いすぎてはいないか。物語の結構が美しすぎないか。」
篠田節子
女54歳
15 「スタイリッシュで小技の効いたハートウォーミングストーリーで、多くの若い読者から好感を持って受け入れられるというのがよくわかる。一方で、時代を反映しているのか、すべての話がご近所、家族、幼なじみの関係から始まり、そこに収束する。世界の小ささと内向き志向に、私自身はいささかの息苦しさを覚えた。」
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他の候補作
貫井徳郎
『後悔と真実の色』
道尾秀介
『光媒の花』
和田竜
『小太郎の左腕』
海堂尊
『マドンナ・ヴェルデ』
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候補者・作品
和田竜男40歳×各選考委員 
『小太郎の左腕』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男58歳
19 「たとえば、登場人物の心情を( )で括って表わすというはまことに安直な方法で、これを多用するのは他に技がないと言うているも同じである。」「「守破離」という剣の訓えがある。まず師の技を守り、次に破り、そして離れるのである。この剣客は「司馬流」と「風太郎流」を修めているはずだが、すでに「守」の段階を過ぎ、今は「破」の壁に挑んでいるところと見た。」
北村薫
男60歳
13 「大胆に顔を出す作者の意見。おおらかともいえる展開。必殺の狙撃者や、忍法シリーズから出て来たような人物。(引用者中略)この大胆さが、賞にふさわしい小説的達成となっているかどうか。その点で、肯定的になれなかった。」
小池真理子
女57歳
21 「余計なものをすべて削ぎ落したリズミカルな文体と、簡素な文章の中にわきあがってくる瑞々しい描写力に目を惹かれた。」「私はこの作者は、非のうちどころのないエンタテインメント小説が書ける人だと思った。」「とはいえ、小説的な深まりは今ひとつである。面白く読んでしまえばそれで終わり、という、物語としての軽さと薄さがいささか気になる。」
重松清
男47歳
28 「当時の特異な価値観や美学に貫かれた本作は、そのことだけでも高く評価したい作品だった。」「だが、せっかくの武将たちの価値観や美学を読者に伝えるのがすべて説明調、しかも何度となく繰り返されるというのは、どうなのだろう。また、括弧で処理される心内語の多用も気になった。」
篠田節子
女54歳
44 「私はこの作品に高得点をつけながら、受賞に反対するという矛盾した態度を取った。」「読み物としての魅力を過剰なほどに備えながら、小説としての品位をあらゆる点で欠いている。」「禁じ手だらけの作品を、時代小説の権威を唸らせる小説に作り直すことなど、この作家の力量をもってすれば、おそらくたやすいことだろう。しかしそのとき作品からは格調と引き替えに活力が失われる。『小太郎の左腕』については、受賞を逃したのではなく、作品が賞を蹴飛ばしたのだ、と私は思う。」
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他の候補作
貫井徳郎
『後悔と真実の色』
道尾秀介
『光媒の花』
本多孝好
『WILL』
海堂尊
『マドンナ・ヴェルデ』
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候補者・作品
海堂尊男48歳×各選考委員 
『マドンナ・ヴェルデ』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男58歳
14 「ところどころに矛盾を感ずるのは、本作がシリーズものであるせいで、これはいかにも不利な条件と思えた。しかしその不利はさておくとしても、社会的な主題に比して人間の情愛がなおざりにされているきらいがあった。」
北村薫
男60歳
18 「読み始めて、みどりの人物設定がまず印象深かった。(引用者中略)だが、物語の中では、《伸一郎さんがふつうの男性じゃないことは認めるわ。だけどあたしはふつうの女なの》という、伸一郎・理恵と対立する《ふつう》の側の見方を代表しているように思えた。その点には、やや違和感を覚えた。」
小池真理子
女57歳
73 「私にとって、多くの不満が残される作品だった。」「何よりも強烈な違和感を抱いたのが、実の娘から、代理母になることを依頼された母親の描き方だった。」「医師でもある作者が、現代の医学的テーマを極限まで追いかけようとしたことは容易に想像できる。だが、そこに描かれた女性には残念ながら、命が吹き込まれないままに終わってしまった。」
重松清
男47歳
81 「僕の評価は「留保付きの○」である。」「本作への課題はいくつかある。(引用者中略)ところが、その本作を海堂氏がこれまで精力的に発表してきた作品群の中に置いてみると、見え方が一変する。」「固定された主人公や舞台の物語を直線的に書き継いでいく「シリーズ」のレベルにとどまらず、各作品の相関に濃淡や遠近を柔軟に持たせ、本作と『ジーン・ワルツ』の関係のような語り直しも含む、たくらみに満ちた「サーガ」は、しかもきわめてアクチュアリティーに富み、問題意識も明確かつ刺激的である。」
篠田節子
女54歳
43 「作品中の母子関係も、成績優秀な娘と専業主婦の母親の間に頻繁に見うけられる、理不尽ながらもリアルな姿であると私は感じた。」「期待して読み進んだが、物語の終結部の安直な解決と四人一度に産気づく類の大団円は、せっかくの大きな深遠なテーマを台無しにしてしまった。」
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