直木賞のすべて
第24回
山本周五郎賞
山本周五郎賞-選評の概要 トップページ
直木賞・芥川賞受賞作一覧
受賞作・候補作一覧
受賞作家の群像
候補作家の群像
選考委員の群像
小研究
大衆選考会
マップ

ページの最後へ
Last Update[H23]2011/6/25

24   一覧へ 23前の回へ 後の回へ25
平成22年/2010年度
(平成23年/2011年5月17日決定発表/『小説新潮』平成23年/2011年7月号選評掲載)
選考委員  浅田次郎
男59歳
北村薫
男61歳
小池真理子
女58歳
重松清
男48歳
篠田節子
女55歳
選評総行数  219 205 223 224 217
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
窪美澄 『ふがいない僕は空を見た』
女45歳
55 14 37 34 52
池井戸潤 『下町ロケット』
男47歳
33 16 21 57 47
米澤穂信 『折れた竜骨』
男33歳
16 7 17 36 39
樋口毅宏 『民宿雪国』
男39歳
13 99 81 25 30
辻村深月 『本日は大安なり』
女31歳
40 7 26 24 31
畠中恵 『ちょちょら』
女51歳
13 6 17 26 14
         
年齢の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『小説新潮』平成23年/2011年7月号
1行当たりの文字数:18字


選考委員
浅田次郎男59歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
文学という病気 総行数219 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
窪美澄
女45歳
55 「随所で山場を迎えても毅然として動じず、近視眼的な描写もなく、常に物語の全体像を見失っていない。この冷静さは何としたことであろうか。」「貧乏や飢渇や病が、正確に描き出されている。なるほど。麻薬的な快楽を患部の表層からていねいに剥離すれば、人間である限りいつの世にも変わらぬ病巣が、このように露出するのである。」
池井戸潤
男47歳
33 「この患者さん(引用者注:作者)には、善人と悪人をはなから規定する癖があって、それが世界観なのか小説観なのかはわからないけれども、要するに良く言えばわかりやすく、悪くいうなら単純に過ぎる。」「その反動的退行的作風が、町工場VS大企業という物語の構造にみごと嵌まった。ゆえに読者は、ほとんど手放しで感動し、啓発もされる。理屈はともかく結果からすれば、文学の使命を果たしたのである。」
米澤穂信
男33歳
16 「現実を忘れて、しばし別世界に旅するという小説の醍醐味を、これほど満たしてくれる作品はきょうび珍しい。あえて難を挙げるなら、思想性に欠ける点であろうか。ヨーロッパの文学はいかなるジャンルであれ、思想なくして成立しない。舞台をそこに据えたからには、思想や精神にまで踏みこんでほしかった。」
樋口毅宏
男39歳
13 「怖いもの知らずのストーリー展開と大胆かつ安直な比喩。しかしこの自由奔放さは、初診患者としてはむしろ小ぢんまりとまとまっているよりも好もしい。」「いろいろな企みはあるのだと思う。さればこそスマートにまとめ上げるのが小説というものである。」
辻村深月
女31歳
40 「トリッキーな小説ほどシンプルなスタイルでなければならない。すなわち、多視点の心理小説でありながら、トリッキーな構造を持つという矛盾を、この作品は当初から抱えている。」「もう一点。(引用者中略)物語に完全な結着を求める必要はない。(引用者中略)正しい経緯を誠実に精密に踏んでさえいれば、何を考えずとも自然な結末に至るものである。」
畠中恵
女51歳
13 「現代人の感覚を江戸時代に移植するという手法は、より広汎な読者を獲得するうえには有効で、私は必ずしも否定しない。しかし旧来の時代小説の読者を納得させるだけの魅力には、いまだ欠けている。必要なものは登場人物の個性、ことにその内面描写であろう。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
北村薫
小池真理子
重松清
篠田節子
  ページの先頭へ

選考委員
北村薫男61歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
《満場一致》と《賛否両論》 総行数205 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
窪美澄
女45歳
14 「救いのない題材を扱っても不思議に清新である。登場人物が、借り物の知識の絵具で描かれていない。驚くべき力量だ。」「例えばまるで、それを使えば物語作りが出来るから――といったように、性犯罪を軽々しく扱う新人もいるなかで、田岡さんの造形などの人間を見る力は出色である。小説家が、ここにいる。」「受賞に異論のあろう筈がない。」
池井戸潤
男47歳
16 「いかにも出て来そうな登場人物が現れ、こうなるだろう方向に物語が進む――といった批判があるかも知れない。だが、その進み方、読ませる力に、紛れも無いプロの力量を感じる。」「人物像、展開なども含めて考えた時、王道を行って、大きな成果を見せた作と思う。」「《周五郎賞》的作ということでは『下町ロケット』かも知れない。」
米澤穂信
男33歳
7 「思想が欲しいという意見があったが、この物語に関しては《本格ミステリであること》が思想なのだ。そこにこの衣を着せ、各選考委員に好感を抱かせた手腕は並のものではない。ただ、突出した作のあった中では、一歩を譲らざるを得なかった。」
樋口毅宏
男39歳
99 「この作は他の五作と、全く違う物差しを必要とした。当たり前の小説ではない。」「真剣にやっていれば駄目なところを、わざとやっている。それが如実に分かる。小説は、虚構をまことに見せる。ところがここでは、のっけから《嘘ですよ、嘘ですよ》といっている。逆にいえば、この《小説らしからぬ手法》は、まさに《小説らしい》ものだ。」「遊戯性は小説の大事な要素のひとつであり、宝である。作者は、いわばその遊戯性という家を乗っ取り、取り囲む警官隊、やじ馬、そして見つめる者達の前で、まさに必死の演技をした。これだけの物語を遊び半分で書けるわけがない。作者の《覚悟》は明らかだ。」
辻村深月
女31歳
7 「著者のセンスの良さがよく出た快作。楽しく読ませる力量は非凡だ。だが、ストーリーのために無理をした面はあった。」
畠中恵
女51歳
6 「留守居役を主人公にしたところが新鮮だった。だが、主人公が《いい人》であることと、《この役職》の物語との折り合いが、必ずしもよくはなかったように思う。」
  「選考委員として有り難いのは、《どうしても、これを入れたい》という一作のある時だが、今回のようにレベルの高い作品が揃うのも嬉しい。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
浅田次郎
小池真理子
重松清
篠田節子
  ページの先頭へ

選考委員
小池真理子女58歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
真の才能 総行数223 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
窪美澄
女45歳
37 「(引用者注:「民宿雪国」と共に)二作を強く推すつもりで選考会に臨んだ。」「群を抜いている。図抜けた才能である。驚いた。」「どの章にも救いがたい陰惨さが漂う。現代社会の膿や垢を集めた、といった体をなしているのだが、完璧な文章力に引きずられ、読むほどに、作品宇宙がどんどん澄み渡っていくのが感じられた。」「衰弱の一途を辿るのではないか、と思われてきた文芸の世界が、窪氏の出現により、再び生命を吹きこまれ、勢いを増していくであろうことは間違いない。」
池井戸潤
男47歳
21 「前回の候補作よりも人物描写が丁寧になって、好感をもった。」「しかし、私は、主人公の佃という男の人物の描き方に単純な疑問をもった。(引用者中略)結局は一から十まで周囲に支えられながら、無邪気に悩み、無邪気に喜び、めでたくヒーローになることができた男、といった印象しか残らず、佃の個性に魅力が感じられなかった。」
米澤穂信
男33歳
17 「読みやすく、キレのいい文章は嫌味がなくて、極上の翻訳エンターテインメントのようでもあった。」「だが、あくまでも娯楽の域を出ていないように感じた。小説に求められる、何か強いものに欠けている。」
樋口毅宏
男39歳
81 「(引用者注:「ふがいない僕は空を見た」と共に)二作を強く推すつもりで選考会に臨んだ。」「この種の作品にありがちな、ある種の小賢しさ、作者の過剰な自意識、幼稚さは微塵も感じられない。このような大胆不敵な物語を大人の読物に仕上げた力は、心底、見事だと思った。」「取り上げた題材そのものに、作者の純粋な熱意がこめられている。超弩級に破天荒な物語にもかかわらず、絶えず漂ってくる清潔感は、そのあたりから生まれてくるものかもしれない。」
辻村深月
女31歳
26 「中盤までは前のめりになって読めた。だが、後半にさしかかるあたりから、あれよあれよ、という間に崩れ出し、止まらなくなってしまった。」「真空という少年に、大人の男たちが男女の事情を説明するあたりから、物語はいきおい、小説ではなく、漫画のような展開を見せていく。わかりやすい善意やヒューマニズム、家族礼賛、といったものが何のためらいもなく描かれてしまうと、作品の魅力は半減してしまう。」
畠中恵
女51歳
17 「欠点の多すぎる作品だった。」「様々な出来事が、いかにも面白おかしく語られていくが、だらだらと綴られていくだけ、という印象しか残らない。小説的なメリハリがなさすぎる。」
  「選考会ラストステージは、時間を忘れて熱く燃え上がった。小説というものについて、実作者同士がこれほど真摯に向き合い、語り合い、時間を忘れて議論し合ったという意味においても、忘れがたい選考会となったことを初めに記しておく。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
浅田次郎
北村薫
重松清
篠田節子
  ページの先頭へ

選考委員
重松清男48歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
最も大きな○ 総行数224 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
窪美澄
女45歳
34 「作品と作者の美点はいくつもあるのだが、なにより惹かれたのは、どうしようもなさをそれぞれに抱えた登場人物一人ひとりへの作者のまなざしだった。救いはしない。かばうわけでもない。彼らや彼女たちを、ただ、認める。」「ただ生きて、ただここに在る――「ただ」の愚かしさと愛おしさとを作者は等分に見つめ、まるごと肯定する。その覚悟に満ちたまなざしの深さと強さに、それこそ、ただただ圧倒されたのである。」
池井戸潤
男47歳
57 「立場や役割による本作の人間関係の構図は、とてもしっかりしている。」「確かに人物像のぶれのなさは物語に安定感を与えてくれるし、うじうじした内面の葛藤ではなく、もっと大きな社会の矛盾や理不尽との対決を描くことこそが本作(と作者)の真骨頂だというのもわかっているつもりだ。それでもなお、もう少しだけ、人間の割り切れなさや矛盾に満ちたところを描いてほしかった。」
米澤穂信
男33歳
36 「本作でなによりも心惹かれたのは、異教徒や異民族、異言語、あるいは異形、異界といった「異」なるものの存在だった。」「そこがもっと掘り下げてあったなら、おそらく僕は教養のなさを恥じることを忘れ、ミステリーとも魔術とも呪いとも無縁に、もしかしたら舞台が中世ヨーロッパであることすらも捨て去って、本作を「異」を描いた優れた現代文学として称えただろう。」
樋口毅宏
男39歳
25 「異質なテキストが貼り合わされたコラージュの面白さはもとより、言葉と言葉がぶつかったときの軋み具合もまた、ケレン味たっぷりで魅力的だった。」「とにかく本作は「言葉で戦っている」という点では候補作中随一だったし、そんな不敵で不埒な言葉のつかい手たる作者は、じつは相当なたくらみを持った手練れなのではないかとも信じている。」
辻村深月
女31歳
24 「複数の話が同時進行するグランドホテル形式のキモは、それぞれの話がどう交錯し、クライマックスに向けて時間や空間がどう凝縮されていくかにあるのだと思う。その意味では、本作はやや交錯の度合いが浅かった。結果、一編ずつの物語が分断されるという、この形式が宿命的に孕む弱点のほうが際立ってしまったのではないか。」
畠中恵
女51歳
26 「新聞連載ゆえか、特に後半で同じような説明が繰り返されるのも、いかにももったいなかった。とてもなめらかに文章が運ばれているので最初のうちは意識しないですんでいるのだが、いったんそれが気になると、「説明・会話・説明・会話」の単調さがどうにも目立ってしまうのだ。」
  「美点を見つけきれずに説得力のないアラ探しばかりしてしまった数々の候補作と作者に、この場を借りてお詫び申し上げたい。また、たとえ褒めてもまったくの見当外れで、作者に鼻白む思いをさせてしまった、ということも少なからずあったに違いない。重ねてお詫びしておく。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
浅田次郎
北村薫
小池真理子
篠田節子
  ページの先頭へ

選考委員
篠田節子女55歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
天賦の才 総行数217 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
窪美澄
女45歳
52 「選考委員として様々な作品に接した八年間に、訓練や経験では習得不可能な小説家としての天賦の才が確かにあるのではないか、と感じる作品に出会うことが、幾度もあった。」「第一章を読み始めたときに感じたものも、人の心の有り様を捕らえる感覚と、それを小説として表現するに当たっての恐るべき才気だった。」「この十年、大きな潮流を作ってきた女手による小説(女性作家の書く小説という意味ではない)に、新たな頂点が加わったことに心からの拍手を送りたい。」
池井戸潤
男47歳
47 「絵空事でない、圧倒的リーダビリティには感服した。」「小説ではロケットを町工場の社長の「夢」に置き直し、経営者って何? 働くってどんなこと? さらには作者は直接書いてはいないが、資本主義って何なのさ、という問いかけまでがなされる。恋愛や性や小市民的営みや、それに伴う喜びや悲しみ苦しみをテーマに据え、人間を書くことこそが小説という考え方の中で、こうしたテーマを堂々と掲げること自体が、挑戦的だ。」
米澤穂信
男33歳
39 「候補作中、最も魅力的な小説世界を見せてくれた。」「ロマンあふれる壮大な物語のはずが、領主殺人の犯人捜しと「実は探偵が犯人でした」の何ともちまちました展開と解決に収縮してしまった」「題材からして、背後に思想的、神学的、歴史的な論争があってしかるべきだがそれが一切描かれない。」「キリスト教にもイスラムにも精神の根を持たない日本人作家だからこそ見えるものがあるはずで、変な遠慮や劣等感から深入りを避け、娯楽に徹しなければならない理由は一つもない。」
樋口毅宏
男39歳
30 「深刻で重いテーマを扱った既存の小説の欺瞞をつき、もっともらしい評論を笑い飛ばす反文学的、ネオ・ダダ的意図の下に書かれた作品として読めば納得がいく。しかし創作したデータ原稿を羅列して、一つの意図を持った作品に仕上げるとするなら、手記の部分は語り手ごとにまったく違う文体を駆使する技術が必要であろう。」
辻村深月
女31歳
31 「あざやかなミステリ的手腕を見せてくれる一方、解決されすぎてリアリティーには欠ける。幸せそうな未来を暗示する表現があるだけで、ある程度の読解力があれば、読み終えて十分に幸せな気分になれるものだ。」「なお、四つの話が連作短編ではなく、同時進行しているのに、それぞれのケースが無関係なのは、どうにももったいない。」
畠中恵
女51歳
14 「金と恩と利害を巡る人物の複雑な動きに妙味があり、後半の総抜けにおける「囚人のジレンマ」めいた展開もおもしろい。だからこそ終始一貫、知的な駆け引きで話を進めて欲しかった。肝心なときに殴り合いでカタをつけるのはいかがなものか。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
浅田次郎
北村薫
小池真理子
重松清
  ページの先頭へ


受賞者・作品
窪美澄女45歳×各選考委員 
『ふがいない僕は空を見た』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男59歳
55 「随所で山場を迎えても毅然として動じず、近視眼的な描写もなく、常に物語の全体像を見失っていない。この冷静さは何としたことであろうか。」「貧乏や飢渇や病が、正確に描き出されている。なるほど。麻薬的な快楽を患部の表層からていねいに剥離すれば、人間である限りいつの世にも変わらぬ病巣が、このように露出するのである。」
北村薫
男61歳
14 「救いのない題材を扱っても不思議に清新である。登場人物が、借り物の知識の絵具で描かれていない。驚くべき力量だ。」「例えばまるで、それを使えば物語作りが出来るから――といったように、性犯罪を軽々しく扱う新人もいるなかで、田岡さんの造形などの人間を見る力は出色である。小説家が、ここにいる。」「受賞に異論のあろう筈がない。」
小池真理子
女58歳
37 「(引用者注:「民宿雪国」と共に)二作を強く推すつもりで選考会に臨んだ。」「群を抜いている。図抜けた才能である。驚いた。」「どの章にも救いがたい陰惨さが漂う。現代社会の膿や垢を集めた、といった体をなしているのだが、完璧な文章力に引きずられ、読むほどに、作品宇宙がどんどん澄み渡っていくのが感じられた。」「衰弱の一途を辿るのではないか、と思われてきた文芸の世界が、窪氏の出現により、再び生命を吹きこまれ、勢いを増していくであろうことは間違いない。」
重松清
男48歳
34 「作品と作者の美点はいくつもあるのだが、なにより惹かれたのは、どうしようもなさをそれぞれに抱えた登場人物一人ひとりへの作者のまなざしだった。救いはしない。かばうわけでもない。彼らや彼女たちを、ただ、認める。」「ただ生きて、ただここに在る――「ただ」の愚かしさと愛おしさとを作者は等分に見つめ、まるごと肯定する。その覚悟に満ちたまなざしの深さと強さに、それこそ、ただただ圧倒されたのである。」
篠田節子
女55歳
52 「選考委員として様々な作品に接した八年間に、訓練や経験では習得不可能な小説家としての天賦の才が確かにあるのではないか、と感じる作品に出会うことが、幾度もあった。」「第一章を読み始めたときに感じたものも、人の心の有り様を捕らえる感覚と、それを小説として表現するに当たっての恐るべき才気だった。」「この十年、大きな潮流を作ってきた女手による小説(女性作家の書く小説という意味ではない)に、新たな頂点が加わったことに心からの拍手を送りたい。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
池井戸潤
『下町ロケット』
米澤穂信
『折れた竜骨』
樋口毅宏
『民宿雪国』
辻村深月
『本日は大安なり』
畠中恵
『ちょちょら』
  ページの先頭へ

候補者・作品
池井戸潤男47歳×各選考委員 
『下町ロケット』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男59歳
33 「この患者さん(引用者注:作者)には、善人と悪人をはなから規定する癖があって、それが世界観なのか小説観なのかはわからないけれども、要するに良く言えばわかりやすく、悪くいうなら単純に過ぎる。」「その反動的退行的作風が、町工場VS大企業という物語の構造にみごと嵌まった。ゆえに読者は、ほとんど手放しで感動し、啓発もされる。理屈はともかく結果からすれば、文学の使命を果たしたのである。」
北村薫
男61歳
16 「いかにも出て来そうな登場人物が現れ、こうなるだろう方向に物語が進む――といった批判があるかも知れない。だが、その進み方、読ませる力に、紛れも無いプロの力量を感じる。」「人物像、展開なども含めて考えた時、王道を行って、大きな成果を見せた作と思う。」「《周五郎賞》的作ということでは『下町ロケット』かも知れない。」
小池真理子
女58歳
21 「前回の候補作よりも人物描写が丁寧になって、好感をもった。」「しかし、私は、主人公の佃という男の人物の描き方に単純な疑問をもった。(引用者中略)結局は一から十まで周囲に支えられながら、無邪気に悩み、無邪気に喜び、めでたくヒーローになることができた男、といった印象しか残らず、佃の個性に魅力が感じられなかった。」
重松清
男48歳
57 「立場や役割による本作の人間関係の構図は、とてもしっかりしている。」「確かに人物像のぶれのなさは物語に安定感を与えてくれるし、うじうじした内面の葛藤ではなく、もっと大きな社会の矛盾や理不尽との対決を描くことこそが本作(と作者)の真骨頂だというのもわかっているつもりだ。それでもなお、もう少しだけ、人間の割り切れなさや矛盾に満ちたところを描いてほしかった。」
篠田節子
女55歳
47 「絵空事でない、圧倒的リーダビリティには感服した。」「小説ではロケットを町工場の社長の「夢」に置き直し、経営者って何? 働くってどんなこと? さらには作者は直接書いてはいないが、資本主義って何なのさ、という問いかけまでがなされる。恋愛や性や小市民的営みや、それに伴う喜びや悲しみ苦しみをテーマに据え、人間を書くことこそが小説という考え方の中で、こうしたテーマを堂々と掲げること自体が、挑戦的だ。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
窪美澄
『ふがいない僕は空を見た』
米澤穂信
『折れた竜骨』
樋口毅宏
『民宿雪国』
辻村深月
『本日は大安なり』
畠中恵
『ちょちょら』
  ページの先頭へ

候補者・作品
米澤穂信男33歳×各選考委員 
『折れた竜骨』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男59歳
16 「現実を忘れて、しばし別世界に旅するという小説の醍醐味を、これほど満たしてくれる作品はきょうび珍しい。あえて難を挙げるなら、思想性に欠ける点であろうか。ヨーロッパの文学はいかなるジャンルであれ、思想なくして成立しない。舞台をそこに据えたからには、思想や精神にまで踏みこんでほしかった。」
北村薫
男61歳
7 「思想が欲しいという意見があったが、この物語に関しては《本格ミステリであること》が思想なのだ。そこにこの衣を着せ、各選考委員に好感を抱かせた手腕は並のものではない。ただ、突出した作のあった中では、一歩を譲らざるを得なかった。」
小池真理子
女58歳
17 「読みやすく、キレのいい文章は嫌味がなくて、極上の翻訳エンターテインメントのようでもあった。」「だが、あくまでも娯楽の域を出ていないように感じた。小説に求められる、何か強いものに欠けている。」
重松清
男48歳
36 「本作でなによりも心惹かれたのは、異教徒や異民族、異言語、あるいは異形、異界といった「異」なるものの存在だった。」「そこがもっと掘り下げてあったなら、おそらく僕は教養のなさを恥じることを忘れ、ミステリーとも魔術とも呪いとも無縁に、もしかしたら舞台が中世ヨーロッパであることすらも捨て去って、本作を「異」を描いた優れた現代文学として称えただろう。」
篠田節子
女55歳
39 「候補作中、最も魅力的な小説世界を見せてくれた。」「ロマンあふれる壮大な物語のはずが、領主殺人の犯人捜しと「実は探偵が犯人でした」の何ともちまちました展開と解決に収縮してしまった」「題材からして、背後に思想的、神学的、歴史的な論争があってしかるべきだがそれが一切描かれない。」「キリスト教にもイスラムにも精神の根を持たない日本人作家だからこそ見えるものがあるはずで、変な遠慮や劣等感から深入りを避け、娯楽に徹しなければならない理由は一つもない。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
窪美澄
『ふがいない僕は空を見た』
池井戸潤
『下町ロケット』
樋口毅宏
『民宿雪国』
辻村深月
『本日は大安なり』
畠中恵
『ちょちょら』
  ページの先頭へ

候補者・作品
樋口毅宏男39歳×各選考委員 
『民宿雪国』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男59歳
13 「怖いもの知らずのストーリー展開と大胆かつ安直な比喩。しかしこの自由奔放さは、初診患者としてはむしろ小ぢんまりとまとまっているよりも好もしい。」「いろいろな企みはあるのだと思う。さればこそスマートにまとめ上げるのが小説というものである。」
北村薫
男61歳
99 「この作は他の五作と、全く違う物差しを必要とした。当たり前の小説ではない。」「真剣にやっていれば駄目なところを、わざとやっている。それが如実に分かる。小説は、虚構をまことに見せる。ところがここでは、のっけから《嘘ですよ、嘘ですよ》といっている。逆にいえば、この《小説らしからぬ手法》は、まさに《小説らしい》ものだ。」「遊戯性は小説の大事な要素のひとつであり、宝である。作者は、いわばその遊戯性という家を乗っ取り、取り囲む警官隊、やじ馬、そして見つめる者達の前で、まさに必死の演技をした。これだけの物語を遊び半分で書けるわけがない。作者の《覚悟》は明らかだ。」
小池真理子
女58歳
81 「(引用者注:「ふがいない僕は空を見た」と共に)二作を強く推すつもりで選考会に臨んだ。」「この種の作品にありがちな、ある種の小賢しさ、作者の過剰な自意識、幼稚さは微塵も感じられない。このような大胆不敵な物語を大人の読物に仕上げた力は、心底、見事だと思った。」「取り上げた題材そのものに、作者の純粋な熱意がこめられている。超弩級に破天荒な物語にもかかわらず、絶えず漂ってくる清潔感は、そのあたりから生まれてくるものかもしれない。」
重松清
男48歳
25 「異質なテキストが貼り合わされたコラージュの面白さはもとより、言葉と言葉がぶつかったときの軋み具合もまた、ケレン味たっぷりで魅力的だった。」「とにかく本作は「言葉で戦っている」という点では候補作中随一だったし、そんな不敵で不埒な言葉のつかい手たる作者は、じつは相当なたくらみを持った手練れなのではないかとも信じている。」
篠田節子
女55歳
30 「深刻で重いテーマを扱った既存の小説の欺瞞をつき、もっともらしい評論を笑い飛ばす反文学的、ネオ・ダダ的意図の下に書かれた作品として読めば納得がいく。しかし創作したデータ原稿を羅列して、一つの意図を持った作品に仕上げるとするなら、手記の部分は語り手ごとにまったく違う文体を駆使する技術が必要であろう。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
窪美澄
『ふがいない僕は空を見た』
池井戸潤
『下町ロケット』
米澤穂信
『折れた竜骨』
辻村深月
『本日は大安なり』
畠中恵
『ちょちょら』
  ページの先頭へ

候補者・作品
辻村深月女31歳×各選考委員 
『本日は大安なり』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男59歳
40 「トリッキーな小説ほどシンプルなスタイルでなければならない。すなわち、多視点の心理小説でありながら、トリッキーな構造を持つという矛盾を、この作品は当初から抱えている。」「もう一点。(引用者中略)物語に完全な結着を求める必要はない。(引用者中略)正しい経緯を誠実に精密に踏んでさえいれば、何を考えずとも自然な結末に至るものである。」
北村薫
男61歳
7 「著者のセンスの良さがよく出た快作。楽しく読ませる力量は非凡だ。だが、ストーリーのために無理をした面はあった。」
小池真理子
女58歳
26 「中盤までは前のめりになって読めた。だが、後半にさしかかるあたりから、あれよあれよ、という間に崩れ出し、止まらなくなってしまった。」「真空という少年に、大人の男たちが男女の事情を説明するあたりから、物語はいきおい、小説ではなく、漫画のような展開を見せていく。わかりやすい善意やヒューマニズム、家族礼賛、といったものが何のためらいもなく描かれてしまうと、作品の魅力は半減してしまう。」
重松清
男48歳
24 「複数の話が同時進行するグランドホテル形式のキモは、それぞれの話がどう交錯し、クライマックスに向けて時間や空間がどう凝縮されていくかにあるのだと思う。その意味では、本作はやや交錯の度合いが浅かった。結果、一編ずつの物語が分断されるという、この形式が宿命的に孕む弱点のほうが際立ってしまったのではないか。」
篠田節子
女55歳
31 「あざやかなミステリ的手腕を見せてくれる一方、解決されすぎてリアリティーには欠ける。幸せそうな未来を暗示する表現があるだけで、ある程度の読解力があれば、読み終えて十分に幸せな気分になれるものだ。」「なお、四つの話が連作短編ではなく、同時進行しているのに、それぞれのケースが無関係なのは、どうにももったいない。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
窪美澄
『ふがいない僕は空を見た』
池井戸潤
『下町ロケット』
米澤穂信
『折れた竜骨』
樋口毅宏
『民宿雪国』
畠中恵
『ちょちょら』
  ページの先頭へ

候補者・作品
畠中恵女51歳×各選考委員 
『ちょちょら』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男59歳
13 「現代人の感覚を江戸時代に移植するという手法は、より広汎な読者を獲得するうえには有効で、私は必ずしも否定しない。しかし旧来の時代小説の読者を納得させるだけの魅力には、いまだ欠けている。必要なものは登場人物の個性、ことにその内面描写であろう。」
北村薫
男61歳
6 「留守居役を主人公にしたところが新鮮だった。だが、主人公が《いい人》であることと、《この役職》の物語との折り合いが、必ずしもよくはなかったように思う。」
小池真理子
女58歳
17 「欠点の多すぎる作品だった。」「様々な出来事が、いかにも面白おかしく語られていくが、だらだらと綴られていくだけ、という印象しか残らない。小説的なメリハリがなさすぎる。」
重松清
男48歳
26 「新聞連載ゆえか、特に後半で同じような説明が繰り返されるのも、いかにももったいなかった。とてもなめらかに文章が運ばれているので最初のうちは意識しないですんでいるのだが、いったんそれが気になると、「説明・会話・説明・会話」の単調さがどうにも目立ってしまうのだ。」
篠田節子
女55歳
14 「金と恩と利害を巡る人物の複雑な動きに妙味があり、後半の総抜けにおける「囚人のジレンマ」めいた展開もおもしろい。だからこそ終始一貫、知的な駆け引きで話を進めて欲しかった。肝心なときに殴り合いでカタをつけるのはいかがなものか。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
窪美澄
『ふがいない僕は空を見た』
池井戸潤
『下町ロケット』
米澤穂信
『折れた竜骨』
樋口毅宏
『民宿雪国』
辻村深月
『本日は大安なり』
  ページの先頭へ



ページの先頭へ

トップページ直木賞・芥川賞受賞作一覧受賞作・候補作一覧受賞作家の群像候補作家の群像
選考委員の群像小研究大衆選考会マップ