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平成25年/2013年度
(平成26年/2014年5月15日決定発表/『小説新潮』平成26年/2014年7月号選評掲載)
選考委員  石田衣良
男54歳
角田光代
女47歳
佐々木譲
男64歳
白石一文
男55歳
唯川恵
女59歳
選評総行数  238 161 232 151 212
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
米澤穂信 『満願』
男36歳
24 40 57 35 39
木皿泉 『昨夜のカレー、明日のパン』
男女(62歳)(57歳)
28 25 34 84 43
中脇初枝 『わたしをみつけて』
女40歳
39 28 51 84 40
和田竜 『村上海賊の娘』
男44歳
44 27 48 84 45
伊吹有喜 『ミッドナイト・バス』
女45歳
28 34 27 84 41
         
年齢の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『小説新潮』平成26年/2014年7月号
1行当たりの文字数:18字


選考委員
石田衣良男54歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
山本賞と本の世界の行方 総行数238 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
米澤穂信
男36歳
24 「この作品には六本の短篇が収められている。ひとつとして似たような設定はないし、ていねいな取材を欠かしたものもない。一冊で長篇数本分のアイディアと設定を惜しみなく使用しているよ。書き手がまだ若いうちにしかできないタイプの、内容の濃い贅沢な短篇集だった。」「これはプロの作家の仕事で、しかも書くこと自体をみずから楽しむことで読者も楽しませるという、エンターテインメント小説の理想形となった。」
木皿泉
男女(62歳)(57歳)
28 「人生の機微がほのかに香る塩味の卵ボーロって感じだ。洗練度では候補作中随一じゃないかな。」「でも、義父とヒロインのテツコの同居生活は、消臭剤を撒きまくったみたいに性の匂いがかき消されていて、逆に気味悪いよ。」「奇妙でしゃれているだけでなく、もうすこし人物の厚みがあるとさらによかった。ぼくの好きなタイプの作品で、応援したけど今回は残念でした。」
中脇初枝
女40歳
39 「最低の自己評価しかできず、苦しみながら劣悪な職場でがんばる人の姿に涙を誘われるところが多い。」「気の毒な労働環境はわからないでもないけど、すこし甘くないかな。いい人はいつもいい人、悪い人は単純に悪い人。」「だいたい捨て子であることにコンプレックスをもつ人間が、あんなに「捨てられた」なんて連呼するかな。口が裂けても誰にも知られたくないと隠すのが普通だよ。」
和田竜
男44歳
44 「ストーリーはサブで、吸引力が最も強烈なアクションシーンを作品全体の背骨にする。スケール感をあげるために必要以上の大長篇に仕上げる。『パイレーツ・オブ・瀬戸内海』って感じの豪華大作だった。」「だから乗れる人と乗れない人にはっきりと分かれたんだな。」「後半の戦闘シーンはいくらなんでも長すぎないか。誰と誰がどこで闘っているのか、まるでわからなくなった。」
伊吹有喜
女45歳
28 「これだけの長篇なのに、発生するイベントがすくなすぎないか。山も谷も低いんだ。利一は若い頃の高倉健みたいに無口で不器用だし、若くて可憐な恋人は小料理屋の女将。あまりに類型で、ちょっとびっくりしたよ。」「小説としての誠実さと物語のうねりをどう両立させるか、それがつぎの課題になるかもしれない。」
  「文学賞はめでたいけれど、正直今のままで出版界はだいじょうぶなのかという気分はぬぐえないね。」「これだけ市場が縮み、出版社も作家もやせ細っている時期に、賞の選考とはいえ、文章力とかリアリティとか人物設定とかちまちま話していることのほうが、逆にリアリティがないよ。」
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他の選考委員
角田光代
佐々木譲
白石一文
唯川恵
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選考委員
角田光代女47歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
小説にしかできないこと 総行数161 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
米澤穂信
男36歳
40 「最初の「夜警」がまずすばらしい。」「(引用者注:収録六篇の)おそらくどれも、小説というかたちでしか作れない世界である。そのどこにも、大胆だったり繊細だったりする罠が仕掛けられていて、かならず毎回、思わぬところで驚かされる。」「「柘榴」もそうだし、表題作もそうなのだけれど、男女の、恋愛という言葉にはくくれないような、薄気味悪さも含めた機微があれば、もっと完璧に入りこめたのではないか、と思わずにはいられない。」
木皿泉
男女(62歳)(57歳)
25 「独特の軽妙さが魅力の小説である。」「しかし一方で、その軽やかさと妙味が、作者の都合ととらえることもできてしまう。また、人生は悪くない、世界は思っていたほどこわくない、というようなせりふが幾度か出てくるけれど、この小説のなかではやけに強く響くその言葉をくり返してしまうことで、語り口の軽妙さが徒になって、登場人物たちの人生も軽く思えてきてしまうのが残念に思った。」
中脇初枝
女40歳
28 「このような題材を小説で描くときに、正義が一種類になってしまうのが、とても危険だと思う。幼児虐待も、医療現場での誤った判断、看護師間の差別なども、絶対的にあってはならないことだ。その、絶対にあってはならないことを、あってはならないこととして書いた場合、小説が単一的になってしまうように思うのだ。」
和田竜
男44歳
27 「登場人物のキャラクターが鮮明で、ストーリーが実にシンプルである。こうなるだろうと予測したとおりに展開していっても、退屈させない勢いがある。」「けれども読み終えて思うのは、この小説は、小説でなくてもいいのではないか。映像にしたらさぞやおもしろいだろうとどうしても思ってしまうのだ。それがなぜなのか、神の視点で描かれながらもそれが徹底していない、という他の選考委員の言葉で、理解できた。」
伊吹有喜
女45歳
34 「仕事を辞めて帰ってきた長男と、インターネットで珍妙な仕事をはじめた長女の存在(引用者中略)この二人のありようが私には新鮮だった。」「ちらりとしか登場しない人たちのほうが印象的で、彼らのエピソードのほうが胸に残るのは、なんとももったいないようにも思う。」「新潟と東京という場所が出てくるが、その(景色ではなく)空気の違いなども、もっと感じられたらよかったとも思った。」
  「今回、どの作品も、みな書き手の個性がうまくあらわれた、魅力的な小説ばかりだった。だから選考するにあたって、どの作品がもっともすばらしいか、というよりは、どの作品がこの文学賞にふさわしいか、ということを考えねばならなかった。」
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他の選考委員
石田衣良
佐々木譲
白石一文
唯川恵
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選考委員
佐々木譲男64歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
プロのポートフォリオ『満願』 総行数232 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
米澤穂信
男36歳
57 「今回はほぼ満場一致で米澤穂信さんの『満願』が受賞と決まった。わたしもこの作品を一番に推した。」「一作ごとに異なった世界や題材を扱っているが、どの作品も語り口が巧みでクオリティが高く、きわめて安定感がある。米澤さん会心の、ポートフォリオ的作品集とも言えるのだろうか。」「いくつかの作品には、惜しいと唸ってしまった。どれも、構想段階でのあと少しの詰めで解決したことではないかと思うが。」
木皿泉
男女(62歳)(57歳)
34 「残念ながら本作は、各篇ごとの主人公は設定されるものの、とくに前半四作では視点がしばしば混乱する。前半四作については、かなり辛い点をつけつつ読み進めてしまった。」「一作目とラストとが、とくに響き合うようには対応していない。せっかくの面白い連作となっていながら、このエピソードで終わったことが、ちょっと不思議である。」
中脇初枝
女40歳
51 「『満願』に匹敵する作品として、わたしは本作も強く推そうと心に決めて選考会に臨んだ。」「冒頭の六行で瞬時にして読者をつかみ、クライマックスの手術室のサスペンスまで、読者を(いや、わたしを、と正直に書く)泣かせつつ引っ張る。」「施設や病院のディテールはリアルであるし、手術の場面の臨場感も圧倒的だった。けっして勉強や取材では書けない水準のものだと思ったのだが、著者は実体験を書いていたわけではないのだ。言うならば、プロの作家としての仕事が本作品だ。」
和田竜
男44歳
48 「候補作中、もっとも読み進めるのに苦労したのが本作である。」「よく言えば自由奔放な本作の叙述の形式にはついになじめなかった。」「実作者としての感覚で言えば、この物語はいまの半分の文章量で語り得たはずである。本作はスラップスティック歴史コメディの小説部分と、薀蓄や解説部分とのバランスが悪すぎる。」
伊吹有喜
女45歳
27 「減点するところの少ない作品ではあるが、勝手なことを言うなら、もっと小説的な誇張があってもよかったろうか。飛び抜けて魅力的なキャラクターがいるか、あるいは強烈な印象を与える「課題とその克服」があるとよかったのかもしれない。減点部分は少ないけれども、何が何でもここが好きなので推したい、という部分も薄めの作品であったことが惜しまれる。」
  「選考委員たち、みな小説が大好きなので、わたしはこの選考会に出るのを今年は心待ちにしていた。たとえ激論のときでさえ、いまの委員たちと小説を語る時間は楽しいのだ。」
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他の選考委員
石田衣良
角田光代
白石一文
唯川恵
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選考委員
白石一文男55歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
プロ作家の力量 総行数151 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
米澤穂信
男36歳
35 「勢い込んで議論を始めてみると、第一回目の投票から私が「この一作」と決めて臨んだ米澤穂信氏の『満願』が他の候補作を圧倒する高得点を挙げ、その時点でほぼ受賞確定の状況になってしまった。」「各々趣向を凝らした六編で構成された短編集に、第一話「夜警」を読了した最初から私はすっかり魅了されてしまった。」「候補作中、唯一、プロ作家の力量を存分に感じさせてくれる作品であった。」
木皿泉
男女(62歳)(57歳)
84 「(引用者注:「わたしをみつけて」「村上海賊の娘」「ミッドナイト・バス」と共に)まだまだ小説の手ごわさ、困難さには手が届いていないという印象が強かった。」「こう書いたら、きっとこう伝わる――という言葉選びだけで何かを書こうとしているのではないかという不安がどの作品からも抜けなかった。」「本来、表現不可能と思われるものを無理にでも表現しようと努力し、そうやって努力して紡ぎ出されたあくまで不全な文章をどうにかして読者の側が読み取ろうと努力する――そうした作家と読者の交渉事を省いてしまうと、小説はどこまでもありきたりで通俗的な読み物に落ちていく。」
中脇初枝
女40歳
84 「(引用者注:「昨夜のカレー、明日のパン」「村上海賊の娘」「ミッドナイト・バス」と共に)まだまだ小説の手ごわさ、困難さには手が届いていないという印象が強かった。」「こう書いたら、きっとこう伝わる――という言葉選びだけで何かを書こうとしているのではないかという不安がどの作品からも抜けなかった。」「本来、表現不可能と思われるものを無理にでも表現しようと努力し、そうやって努力して紡ぎ出されたあくまで不全な文章をどうにかして読者の側が読み取ろうと努力する――そうした作家と読者の交渉事を省いてしまうと、小説はどこまでもありきたりで通俗的な読み物に落ちていく。」
和田竜
男44歳
84 「(引用者注:「昨夜のカレー、明日のパン」「わたしをみつけて」「ミッドナイト・バス」と共に)まだまだ小説の手ごわさ、困難さには手が届いていないという印象が強かった。」「こう書いたら、きっとこう伝わる――という言葉選びだけで何かを書こうとしているのではないかという不安がどの作品からも抜けなかった。」「本来、表現不可能と思われるものを無理にでも表現しようと努力し、そうやって努力して紡ぎ出されたあくまで不全な文章をどうにかして読者の側が読み取ろうと努力する――そうした作家と読者の交渉事を省いてしまうと、小説はどこまでもありきたりで通俗的な読み物に落ちていく。」
伊吹有喜
女45歳
84 「(引用者注:「昨夜のカレー、明日のパン」「わたしをみつけて」「村上海賊の娘」と共に)まだまだ小説の手ごわさ、困難さには手が届いていないという印象が強かった。」「こう書いたら、きっとこう伝わる――という言葉選びだけで何かを書こうとしているのではないかという不安がどの作品からも抜けなかった。」「本来、表現不可能と思われるものを無理にでも表現しようと努力し、そうやって努力して紡ぎ出されたあくまで不全な文章をどうにかして読者の側が読み取ろうと努力する――そうした作家と読者の交渉事を省いてしまうと、小説はどこまでもありきたりで通俗的な読み物に落ちていく。」
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他の選考委員
石田衣良
角田光代
佐々木譲
唯川恵
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選考委員
唯川恵女59歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
納得の受賞作 総行数212 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
米澤穂信
男36歳
39 「選考に参加するようになって三回目となるが、受賞作として初めてほぼ満場一致で決まった」「ミステリー小説は時折、構成に引き摺られて人間が書けていない、などと評されることもあるが、本書はその辺りも細やかな配慮がなされている。」「確かに、気になるところがないわけではない。設定と詰めに甘さが残る、との指摘もあった。」「個人的にひとつ挙げるとしたら、傍点は不要ではないか、ということだろうか。」「だからと言って、欠点というほどの瑕疵ではない。まさに、プロとしての才能がいかんなく発揮された作品である。」
木皿泉
男女(62歳)(57歳)
43 「一章の語り手であるテツコは二十八歳で、七年前に夫を亡くしてからも、気象予報士の義父と暮らしている。ふたりは同居人とし快適な関係を築いていて、そこに性の匂いはまったくない。」「このふたりの関係性は、他の登場人物すべてに重なる。」「この小説はこれでよいのだと思う。」「そうは言うものの、胸に残るもどかしさは何なのか、改めて考えてみた。もしかしたら、この小説が極めて映像的であったからかもしれない。」
中脇初枝
女40歳
40 「私は、この作品に対して、日記を読んでいるような感覚を持った。だからかもしれない。読み進めてゆくに従って、もやもやした感情が頭をもたげて来た。日記だから好きなことが書ける。日記ならば自分をとことん可哀想がれる。引っ掛かったのはそこだった。」「書き手として適度な距離感を持ち、冷静な目線があれば、更に、主人公の思いを伝えられたように思う。そういう意味で、残念ながら、この作品は小説としてまだ熟していない気がした。」
和田竜
男44歳
45 「何より、キャラクターの在り方に度肝を抜かれた。今までのヒロイン・ヒーローとはまったく毛色が違っている。それぞれ欲望丸出しで、豪快で、破天荒で、愛嬌があり、魅力的だ。」「ただ、そんな魅力的なキャラクターではあるが、人物を思い浮かべようとすると、どうにも生身の人間ではなくなってしまう。」「本書は、すでに多くの読者の心を掴んでいる。役割は十分に果たしている。それは誰もが納得し、認めていて、証明されている。それでいいではないか、最後はそんな思いに至った。」
伊吹有喜
女45歳
41 「文章は著者ならではの艶やかさがあり、会話のセンスもいい。」「特に魅力的なのは、主人公の子供たちだ。(引用者中略)ところが、大人たちが登場すると、とたんに淀んだ気配に包まれてしまう。」「もし、彼らをもう少し魅力的に描けることができたなら、きっと印象は変わっていたに違いない。」
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他の選考委員
石田衣良
角田光代
佐々木譲
白石一文
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受賞者・作品
米澤穂信男36歳×各選考委員 
『満願』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男54歳
24 「この作品には六本の短篇が収められている。ひとつとして似たような設定はないし、ていねいな取材を欠かしたものもない。一冊で長篇数本分のアイディアと設定を惜しみなく使用しているよ。書き手がまだ若いうちにしかできないタイプの、内容の濃い贅沢な短篇集だった。」「これはプロの作家の仕事で、しかも書くこと自体をみずから楽しむことで読者も楽しませるという、エンターテインメント小説の理想形となった。」
角田光代
女47歳
40 「最初の「夜警」がまずすばらしい。」「(引用者注:収録六篇の)おそらくどれも、小説というかたちでしか作れない世界である。そのどこにも、大胆だったり繊細だったりする罠が仕掛けられていて、かならず毎回、思わぬところで驚かされる。」「「柘榴」もそうだし、表題作もそうなのだけれど、男女の、恋愛という言葉にはくくれないような、薄気味悪さも含めた機微があれば、もっと完璧に入りこめたのではないか、と思わずにはいられない。」
佐々木譲
男64歳
57 「今回はほぼ満場一致で米澤穂信さんの『満願』が受賞と決まった。わたしもこの作品を一番に推した。」「一作ごとに異なった世界や題材を扱っているが、どの作品も語り口が巧みでクオリティが高く、きわめて安定感がある。米澤さん会心の、ポートフォリオ的作品集とも言えるのだろうか。」「いくつかの作品には、惜しいと唸ってしまった。どれも、構想段階でのあと少しの詰めで解決したことではないかと思うが。」
白石一文
男55歳
35 「勢い込んで議論を始めてみると、第一回目の投票から私が「この一作」と決めて臨んだ米澤穂信氏の『満願』が他の候補作を圧倒する高得点を挙げ、その時点でほぼ受賞確定の状況になってしまった。」「各々趣向を凝らした六編で構成された短編集に、第一話「夜警」を読了した最初から私はすっかり魅了されてしまった。」「候補作中、唯一、プロ作家の力量を存分に感じさせてくれる作品であった。」
唯川恵
女59歳
39 「選考に参加するようになって三回目となるが、受賞作として初めてほぼ満場一致で決まった」「ミステリー小説は時折、構成に引き摺られて人間が書けていない、などと評されることもあるが、本書はその辺りも細やかな配慮がなされている。」「確かに、気になるところがないわけではない。設定と詰めに甘さが残る、との指摘もあった。」「個人的にひとつ挙げるとしたら、傍点は不要ではないか、ということだろうか。」「だからと言って、欠点というほどの瑕疵ではない。まさに、プロとしての才能がいかんなく発揮された作品である。」
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他の候補作
木皿泉
『昨夜のカレー、明日のパン』
中脇初枝
『わたしをみつけて』
和田竜
『村上海賊の娘』
伊吹有喜
『ミッドナイト・バス』
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候補者・作品
木皿泉男女(62歳)(57歳)×各選考委員 
『昨夜のカレー、明日のパン』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男54歳
28 「人生の機微がほのかに香る塩味の卵ボーロって感じだ。洗練度では候補作中随一じゃないかな。」「でも、義父とヒロインのテツコの同居生活は、消臭剤を撒きまくったみたいに性の匂いがかき消されていて、逆に気味悪いよ。」「奇妙でしゃれているだけでなく、もうすこし人物の厚みがあるとさらによかった。ぼくの好きなタイプの作品で、応援したけど今回は残念でした。」
角田光代
女47歳
25 「独特の軽妙さが魅力の小説である。」「しかし一方で、その軽やかさと妙味が、作者の都合ととらえることもできてしまう。また、人生は悪くない、世界は思っていたほどこわくない、というようなせりふが幾度か出てくるけれど、この小説のなかではやけに強く響くその言葉をくり返してしまうことで、語り口の軽妙さが徒になって、登場人物たちの人生も軽く思えてきてしまうのが残念に思った。」
佐々木譲
男64歳
34 「残念ながら本作は、各篇ごとの主人公は設定されるものの、とくに前半四作では視点がしばしば混乱する。前半四作については、かなり辛い点をつけつつ読み進めてしまった。」「一作目とラストとが、とくに響き合うようには対応していない。せっかくの面白い連作となっていながら、このエピソードで終わったことが、ちょっと不思議である。」
白石一文
男55歳
84 「(引用者注:「わたしをみつけて」「村上海賊の娘」「ミッドナイト・バス」と共に)まだまだ小説の手ごわさ、困難さには手が届いていないという印象が強かった。」「こう書いたら、きっとこう伝わる――という言葉選びだけで何かを書こうとしているのではないかという不安がどの作品からも抜けなかった。」「本来、表現不可能と思われるものを無理にでも表現しようと努力し、そうやって努力して紡ぎ出されたあくまで不全な文章をどうにかして読者の側が読み取ろうと努力する――そうした作家と読者の交渉事を省いてしまうと、小説はどこまでもありきたりで通俗的な読み物に落ちていく。」
唯川恵
女59歳
43 「一章の語り手であるテツコは二十八歳で、七年前に夫を亡くしてからも、気象予報士の義父と暮らしている。ふたりは同居人とし快適な関係を築いていて、そこに性の匂いはまったくない。」「このふたりの関係性は、他の登場人物すべてに重なる。」「この小説はこれでよいのだと思う。」「そうは言うものの、胸に残るもどかしさは何なのか、改めて考えてみた。もしかしたら、この小説が極めて映像的であったからかもしれない。」
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他の候補作
米澤穂信
『満願』
中脇初枝
『わたしをみつけて』
和田竜
『村上海賊の娘』
伊吹有喜
『ミッドナイト・バス』
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候補者・作品
中脇初枝女40歳×各選考委員 
『わたしをみつけて』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男54歳
39 「最低の自己評価しかできず、苦しみながら劣悪な職場でがんばる人の姿に涙を誘われるところが多い。」「気の毒な労働環境はわからないでもないけど、すこし甘くないかな。いい人はいつもいい人、悪い人は単純に悪い人。」「だいたい捨て子であることにコンプレックスをもつ人間が、あんなに「捨てられた」なんて連呼するかな。口が裂けても誰にも知られたくないと隠すのが普通だよ。」
角田光代
女47歳
28 「このような題材を小説で描くときに、正義が一種類になってしまうのが、とても危険だと思う。幼児虐待も、医療現場での誤った判断、看護師間の差別なども、絶対的にあってはならないことだ。その、絶対にあってはならないことを、あってはならないこととして書いた場合、小説が単一的になってしまうように思うのだ。」
佐々木譲
男64歳
51 「『満願』に匹敵する作品として、わたしは本作も強く推そうと心に決めて選考会に臨んだ。」「冒頭の六行で瞬時にして読者をつかみ、クライマックスの手術室のサスペンスまで、読者を(いや、わたしを、と正直に書く)泣かせつつ引っ張る。」「施設や病院のディテールはリアルであるし、手術の場面の臨場感も圧倒的だった。けっして勉強や取材では書けない水準のものだと思ったのだが、著者は実体験を書いていたわけではないのだ。言うならば、プロの作家としての仕事が本作品だ。」
白石一文
男55歳
84 「(引用者注:「昨夜のカレー、明日のパン」「村上海賊の娘」「ミッドナイト・バス」と共に)まだまだ小説の手ごわさ、困難さには手が届いていないという印象が強かった。」「こう書いたら、きっとこう伝わる――という言葉選びだけで何かを書こうとしているのではないかという不安がどの作品からも抜けなかった。」「本来、表現不可能と思われるものを無理にでも表現しようと努力し、そうやって努力して紡ぎ出されたあくまで不全な文章をどうにかして読者の側が読み取ろうと努力する――そうした作家と読者の交渉事を省いてしまうと、小説はどこまでもありきたりで通俗的な読み物に落ちていく。」
唯川恵
女59歳
40 「私は、この作品に対して、日記を読んでいるような感覚を持った。だからかもしれない。読み進めてゆくに従って、もやもやした感情が頭をもたげて来た。日記だから好きなことが書ける。日記ならば自分をとことん可哀想がれる。引っ掛かったのはそこだった。」「書き手として適度な距離感を持ち、冷静な目線があれば、更に、主人公の思いを伝えられたように思う。そういう意味で、残念ながら、この作品は小説としてまだ熟していない気がした。」
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他の候補作
米澤穂信
『満願』
木皿泉
『昨夜のカレー、明日のパン』
和田竜
『村上海賊の娘』
伊吹有喜
『ミッドナイト・バス』
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候補者・作品
和田竜男44歳×各選考委員 
『村上海賊の娘』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男54歳
44 「ストーリーはサブで、吸引力が最も強烈なアクションシーンを作品全体の背骨にする。スケール感をあげるために必要以上の大長篇に仕上げる。『パイレーツ・オブ・瀬戸内海』って感じの豪華大作だった。」「だから乗れる人と乗れない人にはっきりと分かれたんだな。」「後半の戦闘シーンはいくらなんでも長すぎないか。誰と誰がどこで闘っているのか、まるでわからなくなった。」
角田光代
女47歳
27 「登場人物のキャラクターが鮮明で、ストーリーが実にシンプルである。こうなるだろうと予測したとおりに展開していっても、退屈させない勢いがある。」「けれども読み終えて思うのは、この小説は、小説でなくてもいいのではないか。映像にしたらさぞやおもしろいだろうとどうしても思ってしまうのだ。それがなぜなのか、神の視点で描かれながらもそれが徹底していない、という他の選考委員の言葉で、理解できた。」
佐々木譲
男64歳
48 「候補作中、もっとも読み進めるのに苦労したのが本作である。」「よく言えば自由奔放な本作の叙述の形式にはついになじめなかった。」「実作者としての感覚で言えば、この物語はいまの半分の文章量で語り得たはずである。本作はスラップスティック歴史コメディの小説部分と、薀蓄や解説部分とのバランスが悪すぎる。」
白石一文
男55歳
84 「(引用者注:「昨夜のカレー、明日のパン」「わたしをみつけて」「ミッドナイト・バス」と共に)まだまだ小説の手ごわさ、困難さには手が届いていないという印象が強かった。」「こう書いたら、きっとこう伝わる――という言葉選びだけで何かを書こうとしているのではないかという不安がどの作品からも抜けなかった。」「本来、表現不可能と思われるものを無理にでも表現しようと努力し、そうやって努力して紡ぎ出されたあくまで不全な文章をどうにかして読者の側が読み取ろうと努力する――そうした作家と読者の交渉事を省いてしまうと、小説はどこまでもありきたりで通俗的な読み物に落ちていく。」
唯川恵
女59歳
45 「何より、キャラクターの在り方に度肝を抜かれた。今までのヒロイン・ヒーローとはまったく毛色が違っている。それぞれ欲望丸出しで、豪快で、破天荒で、愛嬌があり、魅力的だ。」「ただ、そんな魅力的なキャラクターではあるが、人物を思い浮かべようとすると、どうにも生身の人間ではなくなってしまう。」「本書は、すでに多くの読者の心を掴んでいる。役割は十分に果たしている。それは誰もが納得し、認めていて、証明されている。それでいいではないか、最後はそんな思いに至った。」
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他の候補作
米澤穂信
『満願』
木皿泉
『昨夜のカレー、明日のパン』
中脇初枝
『わたしをみつけて』
伊吹有喜
『ミッドナイト・バス』
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候補者・作品
伊吹有喜女45歳×各選考委員 
『ミッドナイト・バス』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男54歳
28 「これだけの長篇なのに、発生するイベントがすくなすぎないか。山も谷も低いんだ。利一は若い頃の高倉健みたいに無口で不器用だし、若くて可憐な恋人は小料理屋の女将。あまりに類型で、ちょっとびっくりしたよ。」「小説としての誠実さと物語のうねりをどう両立させるか、それがつぎの課題になるかもしれない。」
角田光代
女47歳
34 「仕事を辞めて帰ってきた長男と、インターネットで珍妙な仕事をはじめた長女の存在(引用者中略)この二人のありようが私には新鮮だった。」「ちらりとしか登場しない人たちのほうが印象的で、彼らのエピソードのほうが胸に残るのは、なんとももったいないようにも思う。」「新潟と東京という場所が出てくるが、その(景色ではなく)空気の違いなども、もっと感じられたらよかったとも思った。」
佐々木譲
男64歳
27 「減点するところの少ない作品ではあるが、勝手なことを言うなら、もっと小説的な誇張があってもよかったろうか。飛び抜けて魅力的なキャラクターがいるか、あるいは強烈な印象を与える「課題とその克服」があるとよかったのかもしれない。減点部分は少ないけれども、何が何でもここが好きなので推したい、という部分も薄めの作品であったことが惜しまれる。」
白石一文
男55歳
84 「(引用者注:「昨夜のカレー、明日のパン」「わたしをみつけて」「村上海賊の娘」と共に)まだまだ小説の手ごわさ、困難さには手が届いていないという印象が強かった。」「こう書いたら、きっとこう伝わる――という言葉選びだけで何かを書こうとしているのではないかという不安がどの作品からも抜けなかった。」「本来、表現不可能と思われるものを無理にでも表現しようと努力し、そうやって努力して紡ぎ出されたあくまで不全な文章をどうにかして読者の側が読み取ろうと努力する――そうした作家と読者の交渉事を省いてしまうと、小説はどこまでもありきたりで通俗的な読み物に落ちていく。」
唯川恵
女59歳
41 「文章は著者ならではの艶やかさがあり、会話のセンスもいい。」「特に魅力的なのは、主人公の子供たちだ。(引用者中略)ところが、大人たちが登場すると、とたんに淀んだ気配に包まれてしまう。」「もし、彼らをもう少し魅力的に描けることができたなら、きっと印象は変わっていたに違いない。」
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他の候補作
米澤穂信
『満願』
木皿泉
『昨夜のカレー、明日のパン』
中脇初枝
『わたしをみつけて』
和田竜
『村上海賊の娘』
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