直木賞のすべて
第26回
山本周五郎賞
山本周五郎賞-選評の概要 トップページ
直木賞・芥川賞受賞作一覧
受賞作・候補作一覧
受賞作家の群像
候補作家の群像
選考委員の群像
小研究
大衆選考会
マップ

ページの最後へ
Last Update[H25]2013/8/17

26   一覧へ 25前の回へ 後の回へ27
平成24年/2012年度
(平成25年/2013年5月16日決定発表/『小説新潮』平成25年/2013年7月号選評掲載)
選考委員  石田衣良
男53歳
角田光代
女46歳
佐々木譲
男63歳
白石一文
男54歳
唯川恵
女58歳
選評総行数  253 236 214 203 210
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
小野不由美 『残穢』
女52歳
69 78 44 43 46
山田宗樹 『百年法』
男47歳
40 40 63 47 37
湊かなえ 『母性』
女40歳
43 70 45 54 36
有川浩 『旅猫リポート』
女40歳
37 24 20 44 26
相場英雄 『血の轍』
男45歳
23 24 30 31 45
         
年齢の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『小説新潮』平成25年/2013年7月号
1行当たりの文字数:18字


選考委員
石田衣良男53歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
山本賞の○と● 総行数253 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
小野不由美
女52歳
69 「重ねてきたキャリアが違うせいか、初めて安心して読める文体に出会えたというのが、こちらの第一印象だ。」「小野さんの筆は高ぶることなく、昼食の献立でも語るように恐るべき怪異を描いていく。上品だなと思ったね。」「ひとつ残念なのは、「死に触れた人は穢れる」という公式を一方通行でなぞらえてしまうところかな。死の穢れへの忌避が生む差別が、この国の歴史には頑として存在して、今もそれで苦しむ人々がいる。そのあたりへの配慮があったら、さらによかったかもしれない。」
山田宗樹
男47歳
40 「物語のうねりが高くて、久しぶりにおおきな設定の小説を読んだ気がする。ほら、文学賞の候補作選びって、完成度を重視して描く世界を限定したものが強いだろ。」「ぼくには架空世界の強度が不足しているように思えた。(引用者中略)不老不死は地球という星や人類全体を激変させる壮大なテーマなのに、最後が「きみは国のためになにができるか」なんて狭い愛国心で終わるでしょう。あれはもったいなかったなあ。」
湊かなえ
女40歳
43 「湊さんが得意とする地方で暮らす偏屈な庶民のいやらしさ、卑小さはすごかったね。ぼくにはあいいうのは書けないので、素直に感服した。」「だけど小説の背骨になる母と娘の関係が弱かったんじゃないかな。(引用者中略)母性のとんでもない闇を見せられたという感覚は、ぼくもなかった。ぞっとするような具体的なエピソードが、ふたつみっつあるとぜんぜん評価は変わっていたかもしれない。」
有川浩
女40歳
37 「リズムのいい滑らかな文章が読みやすい。語りの強さがあるし、連作短篇のつなぎに無理がないから、自然にクライマックスまで運ばれてしまう。」「だけどさ、その流れのよさは作品世界の狭さによって保証されているよね。(引用者中略)恋愛もない、セックスもしない、仕事をしてる様子もない。両親は都合よく死んでいるし、ちょっと甘すぎて、大人の読者には厳しいんじゃないかな。」
相場英雄
男45歳
23 「警察小説というより、捜査技法小説という新機軸だった。」「だけど、後半になって宿敵であるふたりの警察官の対立動機がわかってくると、とたんに弱くなった。妻の浮気とか子どもの白血病なんてベタな設定はいらなかったんじゃないかな。」
  「今回は強く推すのではなく、強く引き戻す力の闘いだった。この作品は山本賞的ではないというマイナス点の綱引きだ。最後に残された小野不由美さんと湊かなえさんの両作品ともに、強硬に反対する意見があったもの。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
角田光代
佐々木譲
白石一文
唯川恵
  ページの先頭へ

選考委員
角田光代女46歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
だます力、とりこまれる快楽 総行数236 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
小野不由美
女52歳
78 「第一級のホラー小説でありながら、こわがらせるだけにとどまっていない。ただ地面というだけではない、人の住む、暮らす場所としての「土地」と、元来日本人はどのようにつきあってきたのかということをしみじみと考えさせられる。」「読み終えて、私は茫漠とした場所に立たされたような心持ちだった。まさに、異界と現実との、中間のような場所である。」
山田宗樹
男47歳
40 「みごとにだまされた。この作者が仕掛けた世界にまんまとはまってしまった。気がつけば、不老不死の体を獲得した人々の生きる、近未来に、ごくごく自然に、読み手としてすんなりと入りこんでいた。」「けれど選考会の話し合いのなかで、上巻の重要なテーマ(人口増加)が、下巻ではまったく正反対になってしまっている、という指摘があり、それを聞き納得してしまったとき、緻密で強固だった世界がとうとう崩れてしまった。そこで納得できないほど、もっともっと強くだましてほしかった。」
湊かなえ
女40歳
70 「非常に強い牽引力がある。この作家の書く小説には、いつもかならずその力があって、弱まることがまったくない。」「母性というものはいったいなんであるのか。作者はこの小説を書くことで、その問いと真摯に向き合っている。あまりにも真摯に向き合ったせいで、語り手である母親「私」や、その娘の人物造形に、何かぶれがあるように感じられる。」「「私」や、その娘が、見えてこない。」
有川浩
女40歳
24 「構成が巧みで、終盤、読む人の多くが泣くと思う。私も泣いた。」「宮脇悟を含め、登場人物たちの人生や人とのかかわりようや、自身のありようがとてもシンプルだ。その点がもの足りない。」「作者の側の問題ではなくて、読み手の問題なのだと思う。シンプルだ、と思った時点で、だから私はこの小説世界に入りきることができなかったということになる。」
相場英雄
男45歳
24 「事件の核心へと迫る過程がスピード感、臨場感にあふれ、みごとである。」「「刑事VS公安」のやりとりや、事件の真相に迫る勢いに比べると、(ラストも含め)志水と兎沢の関係、兎沢とその妻の関係など、人の心理が絡むと小説が失速してしまうように思う。説得する力が弱まる。その都度、小説世界から醒めてしまう。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
石田衣良
佐々木譲
白石一文
唯川恵
  ページの先頭へ

選考委員
佐々木譲男63歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
またも激論の選考会 総行数214 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
小野不由美
女52歳
44 「たしかに怖い作品ではあるが、この怖さは、ある意味で社会科学的な恐怖である。」「舞台が九州に移ってからの展開には前半ほどの恐怖はなく、むしろ近代日本の社会が生んだ因果を読み解く面白さが続く。どんでん返しのような小説的結構はないが、先に書いたように社会科学的ホラーとして、かつフェイク・ドキュメンタリーとして楽しむことができた。」
山田宗樹
男47歳
63 「不老不死の実現の結果、人口の自然減がなくなり「生存制限法」という強制的自殺制度の厳格運用が始まろうとする。(引用者中略)しかしそのアイデアひとつで社会全体を描くには、途方もなく緻密な想像力が必要とされる。じっさい(引用者中略)時代相の描き分けが十分になされているとは言い難い。」「そもそもいくらパラレルワールドのこととはいえ、人類は果たしてこぞって不老不死を望み、そのためのウィルス接種を受けるだろうか。」「作品の人間観のこの根本のところがわたしには議論だった。」
湊かなえ
女40歳
45 「わたしが推したのは、湊かなえさん『母性』である。」「淡々と語られる祖母、母、娘へと連なる「女系家族」のありようと、同時に西日本の農村の旧家を舞台にした嫁と姑との古典的な関係それ自体が、興味深くサスペンスフルである。」「女性選考委員おふたりからは、この作品にこのタイトルがふさわしいかと疑義が出された。(引用者中略)そのように主張されると、男性選考委員としては、おふたりを説得するための言葉もややトーンダウンさせざるを得ない。」
有川浩
女40歳
20 「じつに爽やかな青春エンターテインメントとして読ませてもらった。」「後半の「叔母」との同居の部分には、抑制された恋愛小説の趣きを感じながら読んだ。」「けっして破綻や欠陥がある作品ではない。ただ、ほかの候補作もやはり力作揃いなので、そのぶん受賞作にという声が弱くなったのはやむを得ないところか。」
相場英雄
男45歳
30 「わたしも警察小説を多く書いてきたせいで点が辛くなったかもしれない。」「読後になんとはなしの既視感が生まれたことはしかたのないところだろう。」「「業界」の隠語、符牒の使い過ぎが逆に興を削ぐ。それは作品世界の「雰囲気」や情報性を表現しているというよりは、作品の容量を小さくする要素になっていると思う。」
  「最初の採点では、候補五作中、三作がまったく同じポイント。小野不由美さん『残穢』、湊かなえさん『母性』、山田宗樹さん『百年法』である。」「三作中のこちらを推す委員は、べつの委員たちが推す有力候補のもう一作をどうしても評価できない、という展開。議論はいささか、ネガティブな要素にも遠慮しないものとなった」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
石田衣良
角田光代
白石一文
唯川恵
  ページの先頭へ

選考委員
白石一文男54歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
プロの眼が優った結果 総行数203 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
小野不由美
女52歳
43 「私はこの作品を推さなかったが、他委員は消極的な賛成も含めて全員が肯定的だった。」「私が辛口になったのは、この作品がすでにある怪談、怪異譚の域をいまひとつ出ていない気がしたからだ。」「おおもとで設定されたはずの、なぜ怪異は残り、伝染するのか、さらには人はどうしてこうした恐怖に魅せられるのかという疑問に作者はほとんど答えていない。」
山田宗樹
男47歳
47 「一番おもしろく読んだ」「各委員からは設定された統治機構や経済システムへの疑問、最終的に不老化を破綻させる事象が何の根拠もなく、いわば作者の都合で持ち出されている点など鋭く指摘され、こちらは防戦一方になってしまったが、とはいえ、登場する官僚たち、百年法にあらがう「拒否者」の世界などはたいそうよく描けている。」
湊かなえ
女40歳
54 「母性という大きなテーマもそれなりに浮き彫りになっているが、何と言ってもこの作者の物語を仕組んでいくうまさというか、その巧みなずるさのようなものに私は感心した。」「母性を描くという視点では、たしかに甘さや足りなさもあるだろうし、引用されているリルケの詩が余計だとの指摘もその通りだ。だが、そうした欠点を補って余りある筆力を私はこの作者に感じた。」
有川浩
女40歳
44 「冒頭の設定からすでにして、きっと最後には大泣きさせられるのだろうと予想し、実際、最終章では涙、ただ涙となった。」「ただ、いかんせん文章や設定、物語の進め方が読みやすい。読みやすいというより読みやす過ぎると言うべきだろうか。この小説は、それこそ小学生から中・高校生、大学生、新社会人くらいまでを対象としている気がする。」
相場英雄
男45歳
31 「緻密な取材に基づいて刑事、公安両部門の内実が詳細に描き出されている。そのあたりを読むだけでも十分にたのしめるし、ことに公安の捜査手法のすさまじさには一度ならず度肝を抜かれた。」「この小説の課題は、物語を引っ張る二人のライバル刑事のそもそもの確執に多少無理がある点だ。一人は刑事部に、一人は公安部へとたもとを分かつのだが、その原因となった事件が私にはいまひとつ納得がいかなかった。」
  「今回は最初の投票で見事に票が割れた。『残穢』、『百年法』、『母性』の三作品が同点で横一線に並んだのだ。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
石田衣良
角田光代
佐々木譲
唯川恵
  ページの先頭へ

選考委員
唯川恵女58歳×各候補作  年齢の説明
見方・注意点
選考の難しさ 総行数210 (1行=18字)
候補 評価 行数 評言
小野不由美
女52歳
46 「メタフィクションという手法を使われたのは非常に効果的だったと思う。小説的企みを排除したことで、現実味が深まり、いっそう恐怖が色濃くなった。」「実は今、この本を手元に置いておくことすら怖い。どうしたらいいものかと悩んでいる。もちろん、これは最上の褒め言葉である。」
山田宗樹
男47歳
37 「確かに、矛盾や疑問、ご都合主義なところがないとは言えないかもしれない。」「けれども、私は些細な瑕疵に思えた。この世界はこうなのだ、という、作者の逞しい開き直りがあって、私は安心して身を委ねられた。」「私は一票を投じたが、残念ながら、他の選考委員の賛同を得ることはできなかった。」
湊かなえ
女40歳
36 「読み進めてゆくと、予想する展開はことごとく覆され、これは狂気なのか正気なのか、意識的なのか無意識なのか、混乱し、気がつくと、すっかり湊さんの世界に引き込まれていた。」「「自分はきちんと母に愛されているか」「自分はきちんと娘を愛せているか」。作者に訴えたい強い思いがあるのが伝わって来る。けれども、その強い思いに引っ張られて、読ませるという面が少々弱くなってしまったようにも思う。」
有川浩
女40歳
26 「文章は読みやすく、ストーリーの流れは鮮やかで、ツボもきちんと押さえている。最後は泣ける。私も泣いた。」「それでも、どこかで期待をはずす作品を読んでみたい気持ちがある。素直な感動はあるが、物足りなさも残る。既成作家のひねくれた感覚かもしれないが、毒や棘がほしいところだ。」
相場英雄
男45歳
45 「資料の読み込みの深さと、知識と経験が存分に発揮された作品である。」「そこは興味惹かれる部分ではあるのだが、逆にそれが裏目に出て、肝心の人物が浮かび上がって来ないというまどろっこしさもあった。」「兎沢と志水はそれぞれに悲劇を背負っていて、そこが大きなポイントでもあるのだが、私にはその理由がどうしても納得できなかった。」
  「ジャンルも個性も違う作品から、一作品を選ぶ難しさを改めて痛感した。小説とは何なのか、そんなシンプルな問いを自分に何度も投げかけなければならなかった。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
石田衣良
角田光代
佐々木譲
白石一文
  ページの先頭へ


受賞者・作品
小野不由美女52歳×各選考委員 
『残穢』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男53歳
69 「重ねてきたキャリアが違うせいか、初めて安心して読める文体に出会えたというのが、こちらの第一印象だ。」「小野さんの筆は高ぶることなく、昼食の献立でも語るように恐るべき怪異を描いていく。上品だなと思ったね。」「ひとつ残念なのは、「死に触れた人は穢れる」という公式を一方通行でなぞらえてしまうところかな。死の穢れへの忌避が生む差別が、この国の歴史には頑として存在して、今もそれで苦しむ人々がいる。そのあたりへの配慮があったら、さらによかったかもしれない。」
角田光代
女46歳
78 「第一級のホラー小説でありながら、こわがらせるだけにとどまっていない。ただ地面というだけではない、人の住む、暮らす場所としての「土地」と、元来日本人はどのようにつきあってきたのかということをしみじみと考えさせられる。」「読み終えて、私は茫漠とした場所に立たされたような心持ちだった。まさに、異界と現実との、中間のような場所である。」
佐々木譲
男63歳
44 「たしかに怖い作品ではあるが、この怖さは、ある意味で社会科学的な恐怖である。」「舞台が九州に移ってからの展開には前半ほどの恐怖はなく、むしろ近代日本の社会が生んだ因果を読み解く面白さが続く。どんでん返しのような小説的結構はないが、先に書いたように社会科学的ホラーとして、かつフェイク・ドキュメンタリーとして楽しむことができた。」
白石一文
男54歳
43 「私はこの作品を推さなかったが、他委員は消極的な賛成も含めて全員が肯定的だった。」「私が辛口になったのは、この作品がすでにある怪談、怪異譚の域をいまひとつ出ていない気がしたからだ。」「おおもとで設定されたはずの、なぜ怪異は残り、伝染するのか、さらには人はどうしてこうした恐怖に魅せられるのかという疑問に作者はほとんど答えていない。」
唯川恵
女58歳
46 「メタフィクションという手法を使われたのは非常に効果的だったと思う。小説的企みを排除したことで、現実味が深まり、いっそう恐怖が色濃くなった。」「実は今、この本を手元に置いておくことすら怖い。どうしたらいいものかと悩んでいる。もちろん、これは最上の褒め言葉である。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
山田宗樹
『百年法』
湊かなえ
『母性』
有川浩
『旅猫リポート』
相場英雄
『血の轍』
  ページの先頭へ

候補者・作品
山田宗樹男47歳×各選考委員 
『百年法』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男53歳
40 「物語のうねりが高くて、久しぶりにおおきな設定の小説を読んだ気がする。ほら、文学賞の候補作選びって、完成度を重視して描く世界を限定したものが強いだろ。」「ぼくには架空世界の強度が不足しているように思えた。(引用者中略)不老不死は地球という星や人類全体を激変させる壮大なテーマなのに、最後が「きみは国のためになにができるか」なんて狭い愛国心で終わるでしょう。あれはもったいなかったなあ。」
角田光代
女46歳
40 「みごとにだまされた。この作者が仕掛けた世界にまんまとはまってしまった。気がつけば、不老不死の体を獲得した人々の生きる、近未来に、ごくごく自然に、読み手としてすんなりと入りこんでいた。」「けれど選考会の話し合いのなかで、上巻の重要なテーマ(人口増加)が、下巻ではまったく正反対になってしまっている、という指摘があり、それを聞き納得してしまったとき、緻密で強固だった世界がとうとう崩れてしまった。そこで納得できないほど、もっともっと強くだましてほしかった。」
佐々木譲
男63歳
63 「不老不死の実現の結果、人口の自然減がなくなり「生存制限法」という強制的自殺制度の厳格運用が始まろうとする。(引用者中略)しかしそのアイデアひとつで社会全体を描くには、途方もなく緻密な想像力が必要とされる。じっさい(引用者中略)時代相の描き分けが十分になされているとは言い難い。」「そもそもいくらパラレルワールドのこととはいえ、人類は果たしてこぞって不老不死を望み、そのためのウィルス接種を受けるだろうか。」「作品の人間観のこの根本のところがわたしには議論だった。」
白石一文
男54歳
47 「一番おもしろく読んだ」「各委員からは設定された統治機構や経済システムへの疑問、最終的に不老化を破綻させる事象が何の根拠もなく、いわば作者の都合で持ち出されている点など鋭く指摘され、こちらは防戦一方になってしまったが、とはいえ、登場する官僚たち、百年法にあらがう「拒否者」の世界などはたいそうよく描けている。」
唯川恵
女58歳
37 「確かに、矛盾や疑問、ご都合主義なところがないとは言えないかもしれない。」「けれども、私は些細な瑕疵に思えた。この世界はこうなのだ、という、作者の逞しい開き直りがあって、私は安心して身を委ねられた。」「私は一票を投じたが、残念ながら、他の選考委員の賛同を得ることはできなかった。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
小野不由美
『残穢』
湊かなえ
『母性』
有川浩
『旅猫リポート』
相場英雄
『血の轍』
  ページの先頭へ

候補者・作品
湊かなえ女40歳×各選考委員 
『母性』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男53歳
43 「湊さんが得意とする地方で暮らす偏屈な庶民のいやらしさ、卑小さはすごかったね。ぼくにはあいいうのは書けないので、素直に感服した。」「だけど小説の背骨になる母と娘の関係が弱かったんじゃないかな。(引用者中略)母性のとんでもない闇を見せられたという感覚は、ぼくもなかった。ぞっとするような具体的なエピソードが、ふたつみっつあるとぜんぜん評価は変わっていたかもしれない。」
角田光代
女46歳
70 「非常に強い牽引力がある。この作家の書く小説には、いつもかならずその力があって、弱まることがまったくない。」「母性というものはいったいなんであるのか。作者はこの小説を書くことで、その問いと真摯に向き合っている。あまりにも真摯に向き合ったせいで、語り手である母親「私」や、その娘の人物造形に、何かぶれがあるように感じられる。」「「私」や、その娘が、見えてこない。」
佐々木譲
男63歳
45 「わたしが推したのは、湊かなえさん『母性』である。」「淡々と語られる祖母、母、娘へと連なる「女系家族」のありようと、同時に西日本の農村の旧家を舞台にした嫁と姑との古典的な関係それ自体が、興味深くサスペンスフルである。」「女性選考委員おふたりからは、この作品にこのタイトルがふさわしいかと疑義が出された。(引用者中略)そのように主張されると、男性選考委員としては、おふたりを説得するための言葉もややトーンダウンさせざるを得ない。」
白石一文
男54歳
54 「母性という大きなテーマもそれなりに浮き彫りになっているが、何と言ってもこの作者の物語を仕組んでいくうまさというか、その巧みなずるさのようなものに私は感心した。」「母性を描くという視点では、たしかに甘さや足りなさもあるだろうし、引用されているリルケの詩が余計だとの指摘もその通りだ。だが、そうした欠点を補って余りある筆力を私はこの作者に感じた。」
唯川恵
女58歳
36 「読み進めてゆくと、予想する展開はことごとく覆され、これは狂気なのか正気なのか、意識的なのか無意識なのか、混乱し、気がつくと、すっかり湊さんの世界に引き込まれていた。」「「自分はきちんと母に愛されているか」「自分はきちんと娘を愛せているか」。作者に訴えたい強い思いがあるのが伝わって来る。けれども、その強い思いに引っ張られて、読ませるという面が少々弱くなってしまったようにも思う。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
小野不由美
『残穢』
山田宗樹
『百年法』
有川浩
『旅猫リポート』
相場英雄
『血の轍』
  ページの先頭へ

候補者・作品
有川浩女40歳×各選考委員 
『旅猫リポート』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男53歳
37 「リズムのいい滑らかな文章が読みやすい。語りの強さがあるし、連作短篇のつなぎに無理がないから、自然にクライマックスまで運ばれてしまう。」「だけどさ、その流れのよさは作品世界の狭さによって保証されているよね。(引用者中略)恋愛もない、セックスもしない、仕事をしてる様子もない。両親は都合よく死んでいるし、ちょっと甘すぎて、大人の読者には厳しいんじゃないかな。」
角田光代
女46歳
24 「構成が巧みで、終盤、読む人の多くが泣くと思う。私も泣いた。」「宮脇悟を含め、登場人物たちの人生や人とのかかわりようや、自身のありようがとてもシンプルだ。その点がもの足りない。」「作者の側の問題ではなくて、読み手の問題なのだと思う。シンプルだ、と思った時点で、だから私はこの小説世界に入りきることができなかったということになる。」
佐々木譲
男63歳
20 「じつに爽やかな青春エンターテインメントとして読ませてもらった。」「後半の「叔母」との同居の部分には、抑制された恋愛小説の趣きを感じながら読んだ。」「けっして破綻や欠陥がある作品ではない。ただ、ほかの候補作もやはり力作揃いなので、そのぶん受賞作にという声が弱くなったのはやむを得ないところか。」
白石一文
男54歳
44 「冒頭の設定からすでにして、きっと最後には大泣きさせられるのだろうと予想し、実際、最終章では涙、ただ涙となった。」「ただ、いかんせん文章や設定、物語の進め方が読みやすい。読みやすいというより読みやす過ぎると言うべきだろうか。この小説は、それこそ小学生から中・高校生、大学生、新社会人くらいまでを対象としている気がする。」
唯川恵
女58歳
26 「文章は読みやすく、ストーリーの流れは鮮やかで、ツボもきちんと押さえている。最後は泣ける。私も泣いた。」「それでも、どこかで期待をはずす作品を読んでみたい気持ちがある。素直な感動はあるが、物足りなさも残る。既成作家のひねくれた感覚かもしれないが、毒や棘がほしいところだ。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
小野不由美
『残穢』
山田宗樹
『百年法』
湊かなえ
『母性』
相場英雄
『血の轍』
  ページの先頭へ

候補者・作品
相場英雄男45歳×各選考委員 
『血の轍』
年齢の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石田衣良
男53歳
23 「警察小説というより、捜査技法小説という新機軸だった。」「だけど、後半になって宿敵であるふたりの警察官の対立動機がわかってくると、とたんに弱くなった。妻の浮気とか子どもの白血病なんてベタな設定はいらなかったんじゃないかな。」
角田光代
女46歳
24 「事件の核心へと迫る過程がスピード感、臨場感にあふれ、みごとである。」「「刑事VS公安」のやりとりや、事件の真相に迫る勢いに比べると、(ラストも含め)志水と兎沢の関係、兎沢とその妻の関係など、人の心理が絡むと小説が失速してしまうように思う。説得する力が弱まる。その都度、小説世界から醒めてしまう。」
佐々木譲
男63歳
30 「わたしも警察小説を多く書いてきたせいで点が辛くなったかもしれない。」「読後になんとはなしの既視感が生まれたことはしかたのないところだろう。」「「業界」の隠語、符牒の使い過ぎが逆に興を削ぐ。それは作品世界の「雰囲気」や情報性を表現しているというよりは、作品の容量を小さくする要素になっていると思う。」
白石一文
男54歳
31 「緻密な取材に基づいて刑事、公安両部門の内実が詳細に描き出されている。そのあたりを読むだけでも十分にたのしめるし、ことに公安の捜査手法のすさまじさには一度ならず度肝を抜かれた。」「この小説の課題は、物語を引っ張る二人のライバル刑事のそもそもの確執に多少無理がある点だ。一人は刑事部に、一人は公安部へとたもとを分かつのだが、その原因となった事件が私にはいまひとつ納得がいかなかった。」
唯川恵
女58歳
45 「資料の読み込みの深さと、知識と経験が存分に発揮された作品である。」「そこは興味惹かれる部分ではあるのだが、逆にそれが裏目に出て、肝心の人物が浮かび上がって来ないというまどろっこしさもあった。」「兎沢と志水はそれぞれに悲劇を背負っていて、そこが大きなポイントでもあるのだが、私にはその理由がどうしても納得できなかった。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
小野不由美
『残穢』
山田宗樹
『百年法』
湊かなえ
『母性』
有川浩
『旅猫リポート』
  ページの先頭へ



ページの先頭へ

トップページ直木賞・芥川賞受賞作一覧受賞作・候補作一覧受賞作家の群像候補作家の群像
選考委員の群像小研究大衆選考会マップ