第113回

第112回第114回

平成7年/1995年上半期 平成7年/1995年7月18日決定発表／『文藝春秋』平成7年/1995年9月号選評掲載

選考委員　 日野啓三 66歳 河野多恵子 69歳 黒井千次 63歳 三浦哲郎 64歳 大江健三郎 60歳 丸谷才一 69歳 大庭みな子 64歳 古井由吉 57歳 田久保英夫 67歳 選評総行数　 33 34 35 34 33 34 24 19 38 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 保坂和志　「この人の閾（いき）」 93枚 38歳 評 ◎ 33 ○ 17 ○ 17 △ 15 △ 13 △ 17 △ 8 △ 7 ■ 33 柳美里　「フルハウス」 118枚 27歳 評 ― 0 △ 7 ■ 5 ― 0 ■ 3 ― 0 □ 4 ― 0 △ 3 藤沢周　「外回り」 80枚 36歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ■ 3 ― 0 △ 2 ― 0 ― 0 車谷長吉　「漂流物」 57枚 50歳 評 ― 0 ■ 4 ■ 7 △ 14 △ 11 ■ 17 □ 4 ― 0 ■ 3 川上弘美　「婆」 51枚 37歳 評 ― 0 △ 6 ― 0 ― 0 △ 7 ― 0 △ 2 ― 0 ― 0 青来有一　「ジェロニモの十字架」 98枚 36歳 評 ― 0 ― 0 ■ 6 ■ 5 ■ 3 ― 0 □ 4 ◎ 12 △ 3                   年齢/枚数の説明   見方・注意点

日野啓三66歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題日常の光　総行数33　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 保坂和志 38歳 全 ◎ 33 「他の都合もあって合計四回読んだが、読む度に快かった。（引用者中略）いまこの頃、私が呼吸しているまわりの空気（あるいは気配）と、自然に馴染む。こういう作品は珍しい。」「バブルの崩壊、阪神大震災とオウム・サリン事件のあとに、われわれが気がついたのはとくに意味もないこの一日の静かな光ではないだろうか。」「その意味で、この小説は新しい文学のひとつの（唯一のではない）可能性をそっと差し出したものと思う。」 柳美里 27歳 全 ― 0   藤沢周 36歳 全 ― 0   車谷長吉 50歳 全 ― 0   川上弘美 37歳 全 ― 0   青来有一 36歳 全 ― 0	他の選考委員 河野多恵子 黒井千次 三浦哲郎 大江健三郎 丸谷才一 大庭みな子 古井由吉 田久保英夫

河野多恵子69歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題受賞作の新しさ　総行数34　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 保坂和志 38歳 全 ○ 17 「本当に新しい男女を活々と表現していた。」「二人（引用者注：〈ぼく〉と〈真紀さん〉）は互いに異性意識から全く解放されていて、そのために却って男が、女が、どこまでも自由に――つまり、豊かに、鋭く、描出されている。男女共学の収穫の達成を想わせる人たちの創造に成功した文学作品が、遂に出現したのである。」 柳美里 27歳 全 △ 7 「標題と内容の関係との意味のわからなさ、急所への力の入れ方の不適確さはありながらも、相当に描けている面があって、なかなかの小説の才能を想わせる。」 藤沢周 36歳 全 ― 0   車谷長吉 50歳 全 ■ 4 「車谷長吉さんは、人生に対する姿勢の上でのある種のスタイリストであるようだ。そのスタイリストぶりが、この作品では聊か強引に出すぎて、灰汁の浮んでいる印象を受けた。」 川上弘美 37歳 全 △ 6 「奇妙な作品だった。私は文学作品に話の筋は期待しない。作品によって様々だが、筋などではない何かに引っ張られたい。そういう引っ張ってゆく力が、この作品にはある。」 青来有一 36歳 全 ― 0

他の選考委員 日野啓三 黒井千次 三浦哲郎 大江健三郎 丸谷才一 大庭みな子 古井由吉 田久保英夫

黒井千次63歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題貴重なる試み　総行数35　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 保坂和志 38歳 全 ○ 17 「他人の既成の家庭を覗き込むという形で書かれているために、語りのしなやかさと人物の主婦像とがくっきり浮かびあがり、三十八歳の女性の精神生活の姿が過不足なく出現した。」「女主人公の精神的な自立と自足とが、どこまで確かであるかは必ずしも定かではない。しかしもし危機が訪れるとしても、それがいかなる土壌の上に発生するかを確認しておく作業も等閑には出来まい。その意味でも、この一編は貴重な試みであると感じた。」 柳美里 27歳 全 ■ 5 「細部の繋がりが充分に働かず、所々に隙間のあいた作品に終っている。戯曲を舞台にのせる場合と違い、小説には演出家がいないのだから、作者はすべての面倒を末端までみる必要があったのではなかろうか。」 藤沢周 36歳 全 ― 0   車谷長吉 50歳 全 ■ 7 「筆力において他に擢んでている。終ったところから自分の人生をはじめるという男達の漂流感は伝わるが、ただ語り手と聞き手と作者の重なり具合が明らかな効果を生み出さず、構成上に難がある。」 川上弘美 37歳 全 ― 0   青来有一 36歳 全 ■ 6 「主人公が癌で声帯を失っているのに、その強いられた沈黙の苦しみが、説明はされていても描き出されてはいない点に大きな不満を覚えた。」

他の選考委員 日野啓三 河野多恵子 三浦哲郎 大江健三郎 丸谷才一 大庭みな子 古井由吉 田久保英夫

三浦哲郎64歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題感想　総行数34　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 保坂和志 38歳 全 △ 15 「正直いって、読後にいささかの物足りなさが残らぬでもなかった。なにも波瀾が欲しいのではない、どこかに、たった一つだけでも、読む者の心に文学的表現としての文章なり情感のひと搏ちがあれば、という気がしたのである。」 柳美里 27歳 全 ― 0   藤沢周 36歳 全 ― 0   車谷長吉 50歳 全 △ 14 「うまさという点では、（引用者中略）頭一つ抜け出ていた。さりげない随筆風な話題にはじまり、（引用者中略）人生というものの不条理さを濃く漂わせて語り終える巧みさには、感心した。けれども、書くことと違って、語りにはともすれば自己陶酔に陥りがちな危険がある。語っているうちに抑制を忘れ、舌がもつれたりする。」 川上弘美 37歳 全 ― 0   青来有一 36歳 全 ■ 5 「注目した。」「堅実な文章で書かれた力篇だが、主人公から声を奪った作者の意図が遂に理解できなかった。フィクションの使い方に誤りはなかったろうか。」

他の選考委員 日野啓三 河野多恵子 黒井千次 大江健三郎 丸谷才一 大庭みな子 古井由吉 田久保英夫

大江健三郎60歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題新しい生活者　総行数33　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 保坂和志 38歳 全 △ 13 「特質を認めながら、最初の投票でこの作品を受賞作におさなかったのには、理由があった。」「なにひとつ事件らしい事件が起こらぬ日常を語るのが保坂氏の作風だが、これから作家生活を続けてゆかれるには、やはり小説らしい物語をつくる能力が――あるいは、それを試みてみようとする意欲が――必要ではないだろうか。」 柳美里 27歳 全 ■ 3 「（引用者注：「外回り」と共に）素材を見出す才能を示しながら書き方がザッパクすぎる。」 藤沢周 36歳 全 ■ 3 「（引用者注：「フルハウス」と共に）素材を見出す才能を示しながら書き方がザッパクすぎる。」 車谷長吉 50歳 全 △ 11 「物語の作り方についてこれからむかいあわねばならぬ――受賞されなくても、この人はすでに独特の作家である――課題があると思う。意識的に社会からズレて生きるあり方を選びとっている男が、理由なく少年を殺す。その展開には説得力がない。ウソくさい。ところが、じつは殺さなかった、と語られる物語に置きかえてみると、小説はよりリアルになり、より底深くなるのではないか。」 川上弘美 37歳 全 △ 7 「（引用者注：「ジェロニモの十字架」と共に）まだ自分の個性の質と量について、よく見さだめられていない。」「決して気分的に流れないで表現する不思議なイメージ世界を、より堅固に、つまり、より散文的にとらえなおしてゆかれれば、新人らしい新人の登場にいたるかも知れないと思う。」 青来有一 36歳 全 ■ 3 「（引用者注：「婆」と共に）まだ自分の個性の質と量について、よく見さだめられていない。」

他の選考委員 日野啓三 河野多恵子 黒井千次 三浦哲郎 丸谷才一 大庭みな子 古井由吉 田久保英夫

丸谷才一69歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題二人の新人　総行数34　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 保坂和志 38歳 全 △ 17 「文章が明快でいいし、作風が素直でそのくせ意外にたちが悪い。」「しかし人生そのものはこんな調子だとしても、小説のなかの人生としてはこれでは退屈なのぢやないか。小説のなかに生の人生を切り取つて貼付けたとて、それが小説家の手柄なのかしら。」「保坂さんはずいぶん苦労してゐるやうだが、実はもう一工夫なければならない。」 柳美里 27歳 全 ― 0   藤沢周 36歳 全 ― 0   車谷長吉 50歳 全 ■ 17 「いちおう上手に書けてゐる。」「しかし読後の印象は空虚だつた。まづ、筋の中心部にある子供殺しがリアリティがない。」「語り手と聞き手は実は同じ人物で、差異も対立もない。この短篇小説は全体がモノローグであり、モノフォニックである。それゆゑ世界は立体的でなく、人生は貧しい。かういふ現実に対してならば、人間は容易に虚無的になることができるし、あるいはさうなるしかない。しかしそのとき小説は限りなく痩せてゆくのである。」 川上弘美 37歳 全 ― 0   青来有一 36歳 全 ― 0

他の選考委員 日野啓三 河野多恵子 黒井千次 三浦哲郎 大江健三郎 大庭みな子 古井由吉 田久保英夫

大庭みな子64歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題動くものの中で　総行数24　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 保坂和志 38歳 全 △ 8 「よく見知っているなつかしい世界のように思っていただけに、もの足りない淡さがあった。しかしこの優しさ、快さは、不快にぎすぎすしたものに疲れている読者を魅きつける。」 柳美里 27歳 全 □ 4 「（引用者注：「ジェロニモの十字架」「漂流物」と共に）心にかかってはいた」「ぶつかり合う若い生命力が伝わってくるのは「フルハウス」だった」 藤沢周 36歳 全 △ 2 「意外に（引用者注：川上弘美と）同質の自在なものを持っているのかもしれない。」 車谷長吉 50歳 全 □ 4 「（引用者注：「ジェロニモの十字架」「フルハウス」と共に）心にかかってはいた」「技のある点では「漂流物」（引用者中略）だった」 川上弘美 37歳 全 △ 2 「意外に（引用者注：藤沢周と）同質の自在なものを持っているのかもしれない。」 青来有一 36歳 全 □ 4 「（引用者注：「漂流物」「フルハウス」と共に）心にかかってはいた」「文学を志す者として大きな問題を抱えているのは「ジェロニモの十字架」だろう」   「積極的に推せる一作がないということで、困っていた。」「全体として水準は低くないのに、作品の背後にある大きさ、強さの手ざわりが不確かなのは気になる。」

他の選考委員 日野啓三 河野多恵子 黒井千次 三浦哲郎 大江健三郎 丸谷才一 古井由吉 田久保英夫

古井由吉57歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題終息なのか先触れなのか　総行数19　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 保坂和志 38歳 全 △ 7 「今の世の神経の屈曲が行き着いたひとつの末のような、妙にやわらいだ表現の巧みさを見せた。」「三年後に、これを読んだら、どうだろうか。前提からして受け容れられなくなっている、おそれもある。」 柳美里 27歳 全 ― 0   藤沢周 36歳 全 ― 0   車谷長吉 50歳 全 ― 0   川上弘美 37歳 全 ― 0   青来有一 36歳 全 ◎ 12 「私は推した。虚構の立て方に間違いがあった。ルール違反に近いものを犯したとも言える。」「「僕が声を失ったこと」を冒頭から打ち出したほうが、むしろ虚構の筋は守られたのかもしれない。しかし、卑劣と尊厳がひとつの病いであるような、人格は描かれた。これも惨憺たる宗教的人格と言わなくてはならない。それだけの説得力は作品にある。貴重なことだ。」	他の選考委員 日野啓三 河野多恵子 黒井千次 三浦哲郎 大江健三郎 丸谷才一 大庭みな子 田久保英夫

田久保英夫67歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題少数意見　総行数38　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 保坂和志 38歳 全 ■ 33 「（引用者注：私たちは）小説を読む時、日常の舞台をステップにして、それを一瞬でも超える歓びや充足感を味わいたい、と願う。（引用者中略）私はそうした感覚を味わえなかった。」「ここで終始くり返される会話は、あまりに日常的で散漫すぎる。」「この（引用者注：登場人物の）女性の微妙な識閾を表わそう、という意図はわかるが、それがさまざまなお喋りの見解を通して出てくるところに、問題がある。これらの知的見解は、すべて正反対の意見も可能なのだ。」 柳美里 27歳 全 △ 3 「（引用者注：「ジェロニモの十字架」と共に）注目した。しかし、いずれもつめが荒い。」 藤沢周 36歳 全 ― 0   車谷長吉 50歳 全 ■ 3 「作家として醸成しつつある重みを感じたが、生の素材と子供殺しの接合に、無理が見えた。」 川上弘美 37歳 全 ― 0   青来有一 36歳 全 △ 3 「（引用者注：「フルハウス」と共に）注目した。しかし、いずれもつめが荒い。」

他の選考委員 日野啓三 河野多恵子 黒井千次 三浦哲郎 大江健三郎 丸谷才一 大庭みな子 古井由吉

保坂和志38歳×各選考委員　 「この人の閾（いき）」 短篇 93枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 日野啓三 66歳 全 ◎ 33 「他の都合もあって合計四回読んだが、読む度に快かった。（引用者中略）いまこの頃、私が呼吸しているまわりの空気（あるいは気配）と、自然に馴染む。こういう作品は珍しい。」「バブルの崩壊、阪神大震災とオウム・サリン事件のあとに、われわれが気がついたのはとくに意味もないこの一日の静かな光ではないだろうか。」「その意味で、この小説は新しい文学のひとつの（唯一のではない）可能性をそっと差し出したものと思う。」 河野多恵子 69歳 全 ○ 17 「本当に新しい男女を活々と表現していた。」「二人（引用者注：〈ぼく〉と〈真紀さん〉）は互いに異性意識から全く解放されていて、そのために却って男が、女が、どこまでも自由に――つまり、豊かに、鋭く、描出されている。男女共学の収穫の達成を想わせる人たちの創造に成功した文学作品が、遂に出現したのである。」 黒井千次 63歳 全 ○ 17 「他人の既成の家庭を覗き込むという形で書かれているために、語りのしなやかさと人物の主婦像とがくっきり浮かびあがり、三十八歳の女性の精神生活の姿が過不足なく出現した。」「女主人公の精神的な自立と自足とが、どこまで確かであるかは必ずしも定かではない。しかしもし危機が訪れるとしても、それがいかなる土壌の上に発生するかを確認しておく作業も等閑には出来まい。その意味でも、この一編は貴重な試みであると感じた。」 三浦哲郎 64歳 全 △ 15 「正直いって、読後にいささかの物足りなさが残らぬでもなかった。なにも波瀾が欲しいのではない、どこかに、たった一つだけでも、読む者の心に文学的表現としての文章なり情感のひと搏ちがあれば、という気がしたのである。」 大江健三郎 60歳 全 △ 13 「特質を認めながら、最初の投票でこの作品を受賞作におさなかったのには、理由があった。」「なにひとつ事件らしい事件が起こらぬ日常を語るのが保坂氏の作風だが、これから作家生活を続けてゆかれるには、やはり小説らしい物語をつくる能力が――あるいは、それを試みてみようとする意欲が――必要ではないだろうか。」 丸谷才一 69歳 全 △ 17 「文章が明快でいいし、作風が素直でそのくせ意外にたちが悪い。」「しかし人生そのものはこんな調子だとしても、小説のなかの人生としてはこれでは退屈なのぢやないか。小説のなかに生の人生を切り取つて貼付けたとて、それが小説家の手柄なのかしら。」「保坂さんはずいぶん苦労してゐるやうだが、実はもう一工夫なければならない。」 大庭みな子 64歳 全 △ 8 「よく見知っているなつかしい世界のように思っていただけに、もの足りない淡さがあった。しかしこの優しさ、快さは、不快にぎすぎすしたものに疲れている読者を魅きつける。」 古井由吉 57歳 全 △ 7 「今の世の神経の屈曲が行き着いたひとつの末のような、妙にやわらいだ表現の巧みさを見せた。」「三年後に、これを読んだら、どうだろうか。前提からして受け容れられなくなっている、おそれもある。」 田久保英夫 67歳 全 ■ 33 「（引用者注：私たちは）小説を読む時、日常の舞台をステップにして、それを一瞬でも超える歓びや充足感を味わいたい、と願う。（引用者中略）私はそうした感覚を味わえなかった。」「ここで終始くり返される会話は、あまりに日常的で散漫すぎる。」「この（引用者注：登場人物の）女性の微妙な識閾を表わそう、という意図はわかるが、それがさまざまなお喋りの見解を通して出てくるところに、問題がある。これらの知的見解は、すべて正反対の意見も可能なのだ。」

他の候補作 柳美里 「フルハウス」 藤沢周 「外回り」 車谷長吉 「漂流物」 川上弘美 「婆」 青来有一 「ジェロニモの十字架」

柳美里27歳×各選考委員　 「フルハウス」 短篇 118枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 日野啓三 66歳 全 ― 0   河野多恵子 69歳 全 △ 7 「標題と内容の関係との意味のわからなさ、急所への力の入れ方の不適確さはありながらも、相当に描けている面があって、なかなかの小説の才能を想わせる。」 黒井千次 63歳 全 ■ 5 「細部の繋がりが充分に働かず、所々に隙間のあいた作品に終っている。戯曲を舞台にのせる場合と違い、小説には演出家がいないのだから、作者はすべての面倒を末端までみる必要があったのではなかろうか。」 三浦哲郎 64歳 全 ― 0   大江健三郎 60歳 全 ■ 3 「（引用者注：「外回り」と共に）素材を見出す才能を示しながら書き方がザッパクすぎる。」 丸谷才一 69歳 全 ― 0   大庭みな子 64歳 全 □ 4 「（引用者注：「ジェロニモの十字架」「漂流物」と共に）心にかかってはいた」「ぶつかり合う若い生命力が伝わってくるのは「フルハウス」だった」 古井由吉 57歳 全 ― 0   田久保英夫 67歳 全 △ 3 「（引用者注：「ジェロニモの十字架」と共に）注目した。しかし、いずれもつめが荒い。」

他の候補作 保坂和志 「この人の閾（いき）」 藤沢周 「外回り」 車谷長吉 「漂流物」 川上弘美 「婆」 青来有一 「ジェロニモの十字架」

藤沢周36歳×各選考委員　 「外回り」 短篇 80枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 日野啓三 66歳 全 ― 0   河野多恵子 69歳 全 ― 0   黒井千次 63歳 全 ― 0   三浦哲郎 64歳 全 ― 0   大江健三郎 60歳 全 ■ 3 「（引用者注：「フルハウス」と共に）素材を見出す才能を示しながら書き方がザッパクすぎる。」 丸谷才一 69歳 全 ― 0   大庭みな子 64歳 全 △ 2 「意外に（引用者注：川上弘美と）同質の自在なものを持っているのかもしれない。」 古井由吉 57歳 全 ― 0   田久保英夫 67歳 全 ― 0	他の候補作 保坂和志 「この人の閾（いき）」 柳美里 「フルハウス」 車谷長吉 「漂流物」 川上弘美 「婆」 青来有一 「ジェロニモの十字架」

車谷長吉50歳×各選考委員　 「漂流物」 短篇 57枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 日野啓三 66歳 全 ― 0   河野多恵子 69歳 全 ■ 4 「車谷長吉さんは、人生に対する姿勢の上でのある種のスタイリストであるようだ。そのスタイリストぶりが、この作品では聊か強引に出すぎて、灰汁の浮んでいる印象を受けた。」 黒井千次 63歳 全 ■ 7 「筆力において他に擢んでている。終ったところから自分の人生をはじめるという男達の漂流感は伝わるが、ただ語り手と聞き手と作者の重なり具合が明らかな効果を生み出さず、構成上に難がある。」 三浦哲郎 64歳 全 △ 14 「うまさという点では、（引用者中略）頭一つ抜け出ていた。さりげない随筆風な話題にはじまり、（引用者中略）人生というものの不条理さを濃く漂わせて語り終える巧みさには、感心した。けれども、書くことと違って、語りにはともすれば自己陶酔に陥りがちな危険がある。語っているうちに抑制を忘れ、舌がもつれたりする。」 大江健三郎 60歳 全 △ 11 「物語の作り方についてこれからむかいあわねばならぬ――受賞されなくても、この人はすでに独特の作家である――課題があると思う。意識的に社会からズレて生きるあり方を選びとっている男が、理由なく少年を殺す。その展開には説得力がない。ウソくさい。ところが、じつは殺さなかった、と語られる物語に置きかえてみると、小説はよりリアルになり、より底深くなるのではないか。」 丸谷才一 69歳 全 ■ 17 「いちおう上手に書けてゐる。」「しかし読後の印象は空虚だつた。まづ、筋の中心部にある子供殺しがリアリティがない。」「語り手と聞き手は実は同じ人物で、差異も対立もない。この短篇小説は全体がモノローグであり、モノフォニックである。それゆゑ世界は立体的でなく、人生は貧しい。かういふ現実に対してならば、人間は容易に虚無的になることができるし、あるいはさうなるしかない。しかしそのとき小説は限りなく痩せてゆくのである。」 大庭みな子 64歳 全 □ 4 「（引用者注：「ジェロニモの十字架」「フルハウス」と共に）心にかかってはいた」「技のある点では「漂流物」（引用者中略）だった」 古井由吉 57歳 全 ― 0   田久保英夫 67歳 全 ■ 3 「作家として醸成しつつある重みを感じたが、生の素材と子供殺しの接合に、無理が見えた。」

他の候補作 保坂和志 「この人の閾（いき）」 柳美里 「フルハウス」 藤沢周 「外回り」 川上弘美 「婆」 青来有一 「ジェロニモの十字架」

川上弘美37歳×各選考委員　 「婆」 短篇 51枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 日野啓三 66歳 全 ― 0   河野多恵子 69歳 全 △ 6 「奇妙な作品だった。私は文学作品に話の筋は期待しない。作品によって様々だが、筋などではない何かに引っ張られたい。そういう引っ張ってゆく力が、この作品にはある。」 黒井千次 63歳 全 ― 0   三浦哲郎 64歳 全 ― 0   大江健三郎 60歳 全 △ 7 「（引用者注：「ジェロニモの十字架」と共に）まだ自分の個性の質と量について、よく見さだめられていない。」「決して気分的に流れないで表現する不思議なイメージ世界を、より堅固に、つまり、より散文的にとらえなおしてゆかれれば、新人らしい新人の登場にいたるかも知れないと思う。」 丸谷才一 69歳 全 ― 0   大庭みな子 64歳 全 △ 2 「意外に（引用者注：藤沢周と）同質の自在なものを持っているのかもしれない。」 古井由吉 57歳 全 ― 0   田久保英夫 67歳 全 ― 0

他の候補作 保坂和志 「この人の閾（いき）」 柳美里 「フルハウス」 藤沢周 「外回り」 車谷長吉 「漂流物」 青来有一 「ジェロニモの十字架」

青来有一36歳×各選考委員　 「ジェロニモの十字架」 短篇 98枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 日野啓三 66歳 全 ― 0   河野多恵子 69歳 全 ― 0   黒井千次 63歳 全 ■ 6 「主人公が癌で声帯を失っているのに、その強いられた沈黙の苦しみが、説明はされていても描き出されてはいない点に大きな不満を覚えた。」 三浦哲郎 64歳 全 ■ 5 「注目した。」「堅実な文章で書かれた力篇だが、主人公から声を奪った作者の意図が遂に理解できなかった。フィクションの使い方に誤りはなかったろうか。」 大江健三郎 60歳 全 ■ 3 「（引用者注：「婆」と共に）まだ自分の個性の質と量について、よく見さだめられていない。」 丸谷才一 69歳 全 ― 0   大庭みな子 64歳 全 □ 4 「（引用者注：「漂流物」「フルハウス」と共に）心にかかってはいた」「文学を志す者として大きな問題を抱えているのは「ジェロニモの十字架」だろう」 古井由吉 57歳 全 ◎ 12 「私は推した。虚構の立て方に間違いがあった。ルール違反に近いものを犯したとも言える。」「「僕が声を失ったこと」を冒頭から打ち出したほうが、むしろ虚構の筋は守られたのかもしれない。しかし、卑劣と尊厳がひとつの病いであるような、人格は描かれた。これも惨憺たる宗教的人格と言わなくてはならない。それだけの説得力は作品にある。貴重なことだ。」 田久保英夫 67歳 全 △ 3 「（引用者注：「フルハウス」と共に）注目した。しかし、いずれもつめが荒い。」

他の候補作 保坂和志 「この人の閾（いき）」 柳美里 「フルハウス」 藤沢周 「外回り」 車谷長吉 「漂流物」 川上弘美 「婆」